戦うサンタ、オンステージ!

    作者:空白革命

    ●戦うミニスカサンタ、サン・クロース爆誕!
     暗闇に、スポットライトがひとつだけ下りた。
    「わかってあげたい、あなたの孤独。暖めたげたい、あなたの心――」
     雪結晶を巨大化したようなタンバリンを両手に握り、顔の前でクロスさせる。
     翼のように広げ、少女はぱちんとウィンクした。
     無数のスポットライトが七色に降り注ぎ、ラメラメの紙吹雪が吹き上がり、少女はお立ち台の上でタンバリンを振り鳴らした。
    「現代のサンタ、サン・クロース……2014年12月、ついに爆誕!」
    「「ッシャオラーァ!!」」
     下ではトナカイめいたスーツを着た男たちが拳を突き上げて熱狂している。
     当然スポットライトも紙吹雪も彼らの仕掛けである。
     彼らはお立ち台を御輿のように担ぎ上げ、サン・クロースことサンちゃんをわっしょいわっしょいし始めた。
    「さあ皆、今から町をパレードよ! サンタなんて居ないって言い出すしたり顔の大人たちをぎゃふんと言わせてやるんだから!」
    「「まかせてサンちゃん!」」
    「お菓子やおもちゃをまき散らして、子供たちをハッピーにちゃいましょ! 地域経済なんて知らんぷり、交通規則もガン無視よ!」
    「「オッケーサンちゃん!」」
    「さあいくわよみんな!」
     露出度多めのサンタコス。ファーつきのミニスカを閃かせ、サン・クロースは遠き未来を指さした。
    「「レッツ・パーリナーイッ!」」
     

    「サンタクロースの起源は一説によると貧しい家に金貨を置いていった男からとされている。要するに施しの精神を持った人間そのものをサンタクロースと定義できる……とはいえ、そんな人間自体が現代じゃ随分少なくなったもんだ。誰も彼もが『楽して得取れ』を地で行くようになり、ソリや飛行トナカイを持たないまでも定義上のサンタすら見なくなってしまった。そんな社会を憂い、一人の少女が闇落ちしてしまったようだ」
     なんでかしらんがサンタコスで、大爆寺・ニトロ(高校生エクスブレイン・dn0028)は教卓に座っていた。
    「まあいかんせん俺らのような未成年者のやることだ。詰めが甘いっつーか、うっかり闇堕ちしすぎて歯止めが利かなくなってきてんのが唯一にして最大の問題なんだよなあ」
     
     サン・クロース。
     めぐまれない人々に幸福をとばかりに、テンション高めで闇堕ちしたはいいものの、信者(ファン)は増えるわ規模は拡大するわで歯止めが利かなくなり、彼女自身も半分くらいダークネス化し始めている。
     彼女たちが公道に飛び出して強制パレードを開催してしまうまえに立ち塞がり、これを撃破するのが我らの役目である。
    「幸せのためとはいえちょっぴり間違えた。ならその間違いを正してやるのが、同じ志を持つ奴の役目だ。やろうぜ、皆!」


    参加者
    メリーベル・ケルン(プディングメドヒェン・d01925)
    モーリス・ペラダン(夕闇の奇術師・d03894)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    難駄波・ナナコ(クイーンオブバナナ・d23823)
    高坂・透(だいたい寝てる・d24957)

    ■リプレイ

    ●常識? ああ、生姜と一緒に煮ると美味しいよね。
     急にサービスシーンを提供するようでおもばゆいが、突きだした腰に連動して翻るファーつきのミニスカートを想像して欲しい。
     ついでに頭の動きといっしょに倒れるファーつきの三角帽子、胸のとこだけ空いたタートルネックセーター。揺れるプリン。
     あと平たい胸。
    「……あれ?」
     今からギャル雑誌の表紙を飾ろうかというポーズをキメにキメていたメリーベル・ケルン(プディングメドヒェン・d01925)は虚空を見上げて首を傾げた。
    「なぜかしら、中途半端にはやりに乗ろうとして振り落とされたような気配がするわ!」
    「変に胸だけ開けるからです。三ヶ月後には忘れられてそうなものを……」
     同じ格好で片手を腰に、片手を頭の後ろにやる志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)。
    「でもっ、こうなったらやけです!」
    「…………」
     光の無い目で振り返るメリーベル。
    「だいじょうぶ。ボクも着てきたから」
     と言って、アスティミロディア・メリオネリアニムス(たべられません・d19928)が下からにゅっと出てきた。
     トナカイの角がついていた。
     ペンギンのフードの上についていた。ついでにファーつき。
     もうトナカイなんだかペンギンなんだかサンタなんだかなんなんんだか。
    「しゃーねーなーあ! こうなったらお色気総本家のナナコさんが人肌脱ごうじゃ無いのよ!」
     難駄波・ナナコ(クイーンオブバナナ・d23823)が上からクレーンつり下げされてきた。
     黄色い寝袋にびっしり収まっていた。顔まで収まっていた。かろうじて頂点に星がついていた。
    「クリスマスバナナよ!」
    「お色気総本家とはいったい」
    「露出度が零をきってませんか」
    「みのむしみたい」
    「みにょむしゆーなー! あっ出れない! 誰かー、ちょっ、だれかー!」

     背景でばたばたしてる黄色いみにょみゅしを無視して、モーリス・ペラダン(夕闇の奇術師・d03894)はマイクのスイッチを入れた。
    「突如町中に現われたミニスカサンタ! その蛮行を止めるべくプリンとバナナ、そして南国のサンタが立ち上がった! 私が、私たちがサンタクロースだ! 第三次サンタ大戦が勃発しマース! ……バロリ、あとの説明お願いシマス」
    「――!?」
     急な無茶降りにビクッとするバロリ(ビハインド)。
     コンビニのチキンをバケツからもぐもぐしていた高坂・透(だいたい寝てる・d24957)が横からすっと入り込む。
    「いやほんと困るよね。あんなパレードなんてされちゃったらサンタを信じて止まないメイがあらぬ誤解をうけちゃうじゃないか。毎年妹のサンタになってる僕の努力をね、ちょっとは考えて欲しいよね! つまり本物のサンタっていうのはサンタであろうとする心が――」
    「せっ!」
     透の脇腹に中指一本拳を突き入れて押しのける十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)。
     カメラと照明の位置を確認すると、前髪をふぁさぁっとかきあげつつ見えないサングラスをすちゃあっと外した。
    「サンちゃん……いいカリスマだ。こいつは、プロヂュースするしかないな! この敏腕プロデューサーTENGAが!」
    「びぃんわぁんだぁ……?」
     後ろでやたらうぃんうぃん動き回る棒状の物体にちくわを差し込むという奇行を続けていたナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)が血走った目で振り返った。
    「スカウトマンは私なんだよ。なに仕事うばってくれちゃってるんだい、ええ? 刺すかい? ちくわ刺すかい?」
    「なんだと所構わずちくわをねじ込みやがってこの……!」
     天牙とナハトムさんがギリギリと(ちくわを)もみ合っていると、奇っ怪な集団が彼らの前で停止した。
     サングラスをかけたトナカイスーツのおっさんが交通整理用の棒を振りながら近づいてくる。
    「おい君たち、パレードの邪魔になるから端によっていなさい」
    「それにしても奇っ怪な集団だなあ。だめだよクリスマスだからって羽目を外し過ぎちゃあ」
    「おまいう」
    「現われましたねサン・クロースとその一味。ここから先は……行かせません!」
     もみ合いを始めた天牙たちを無視し、藍がパレードの前に立ち塞がる。
     停止した集団の頂点。神輿の上で仁王立ちしたミニスカサンタことサン・クロースは、どっしり腕組みをして笑った。
    「今は私たちの季節なのよ。もう誰にも止められはしないわ! さあトナカイーズ、ゴゥ!」
    「「L・O・V・E! サーンーちゃん!」」

    ●バトル? ああ木彫りの熊が咥えてるやつね。
     しましまのステッキを手に飛びかかってくるトナカイーズ。
     対して藍はカウンター気味のアッパーカットで相手を浮かせると、流れるようなパンチラッシュを浴びせ、ラストは硬い棒をフルスイングして相手を画面はじまでかっ飛ばした。
    「人々の幸せを、はき違えてはいけません!」
     コマンドで言うと8PからのP連打からの4Pである。この後すかさず挑発ボタンを入れるのが通。
     藍はびしりとサンちゃんを指さすと、説得のテーマを後ろで流しながら言った。
    「子供たちをハッピーにしたいなら、こんな方法は間違っているんです。なぜなら……って、あの……」
     おそるおそる後ろを向くと、モーリスがラジカセ片手に人工雪を撒いていた。っていうか説得のテーマ流していた。
    「あ、気にしないでいいデスヨ。戦闘ならほら、バロリがちゃんと」
     ふと見ると、バナナ寝袋に詰め込まれたバロリがせーのでトナカイーズにぶん投げられていた。
     うわーといってドミノ倒し担っていくトナカイーズ。
    「一般のトナカイさんたちは……ホラ」
     よそを指さすモーリス。
     メリーベルが銀のトレーを片手に限りなくセクシーに近いポーズをとっていた(ラブフェロモンを使用しています。嘘じゃありません。これが嘘をついている目に見えますか?)。
     半球形の蓋を開くと、おっきなプリンが顔を出した。
    「さあみんな、争いはやめてプリンを食べましょう!」
    「わーいプリンだー!」
    「プリンだいすきー!」
     そこへ両手首をクロスさせながらミサイルみたく降ってくるナナコ(ラブフェロモンを使用してるって言ってんだろ! いいかげんにしろ!)。
    「うりゃー! プリンなんてほっときな! みんなー、バナナよー! バナナは一年中食べられる神のフルーツなのよー!」
    「わーいバナナだー!」
    「バナナはおやつに入りますかー!?」
    「おやつではないがシード枠には入る」
    「すげえや!」
     でもってそこへ自転車で突入してくるハナトムジーク。
    「くりすますなら……ちくわだよ?」
     ずしゃーっとドリフトブレーキかけつつ、両腕をクロス。
     トナカイーズのつのにはちくわがまんべんなく刺さり、太すぎて無理そうだったやつに関しては乳首に刺して置いた。
    「なんで乳首にちくわが!?」
    「どうやって指してんだこれ!?」
    「冷凍バナナを使えばどこにだって刺さるんだよぉー!」
     凍ったバナナをヌンチャクみたいに振り回しながら飛び込んでくる天牙。
     ニヤリとと笑ってナハトムさんのほうを振り返った。
    「どうだ? 南国とバナナとちくわを融合させた全く新しい攻撃法だ。俺のプロデュースにかかれば……フッ」
    「くっ、君というやつは、私のちくわを……世の中にはやっていいことと悪いことがある!」
    「来いよナハトム! ちくわなんか捨ててかかってこい! それても恐いのか?」
    「き、きみなんか恐くない! ヤロゥブックラッシャー!」
     冷凍バナナを両手で握って襲いかかるナハトム。
     そんな光景の中で、あすてぃみろでぃあめりおねりあむにむにさんはひとりクラウチングスタートの姿勢をとっていた。
     かっと顔を上げる。
     同じく顔を上げる霊犬アヴィルネティオ。
     視界に入るプリン、バナナ、ちくわ。
    「おんゆあまーく、れでぃ……ごぅ!」
     あすてぃみろでぃあめろめろにむすさんはお腹んとこでついーっと滑ると、謎のジグザグ軌道で道中にあったプリンやバナナ、ちくわやバロリを食いちぎった。
    「バロリィィィィィィィィィィィ!」
    「まちがえた……」
     そんな光景を目撃したサンちゃんはというと……。
    「ラブフェロモンが使えるのはあなたたちだけじゃないわ。これを見てみなさい!」
     雪結晶型のタンバリンを掲げると、スポットライトが彼女に集中した。
    「サン・フラッシュ!」
    「「L・O・V・E! サーンーちゃん!」」
     いえーいと言って飛び上がるトナカイーズ。そして灼滅者たち。
     看板を掲げた透がメガホンを振りながら叫んだ。
    「はーい押さないでー、押さないでくださーい。整理券をもってる方はこっちでーす。それ以外の方は並ばないでくださーい」
    「もうもの売るってレベルじゃねえぞ!」
    「ロープから出ないでくださーい」
     とかいいながらトナカイーズの乳首に刺さったちくわへ更にバナナを差し込む暴挙に出る透。
    「こうなったらパーティーよ! どっちがみんなを楽しませるか勝負するんだから!」
    「望むところじゃオラー!」
     シャンメリーを開け始めるサンちゃん。
     ケーキを切り始めるハナトムさん。
     バケツのチキンをむさぼり食うあすてぃみろでぃあくりおねあにむすさん。
     クラッカーをまとめて鳴らしまくるメリーベル。
     バナナを一本ずつ丁寧にむくナナコ。
     鼻眼鏡でギターをかき鳴らすプロデューサーTENGA。
     『はいバロリが出マス!』のマジックを披露するモーリス。
     皆で円陣を組んでかんぱーいする透。
     ローストチキンを切り分け、みんなの更に盛り分ける藍……おっと。
    「今、戦闘中ですよね?」

    ●シリアスってアレでしょ、トルコ料理の香辛料でしょ?
     ゴザの上に正座した藍がシャンメリーとチキンを手に説教していた。
    「だいたい子供をハッピーにしたいのか大人の男性を誘惑したいのかどちらなんですか。憂いの心から行動を起こしたことについては方向性はさておき褒めてあげますけど、はた迷惑な行動は私たちが矯正していきますからね。これ以上被害が拡大する前に学園に連れ帰っておしおきするんですからそのつもりで――」
    「そうデスそうデス、アナタは全然サンタクロースのことを分かっていまセン。どんなサンタが……あっ、妖○ウォッチあるじゃないデスカ! ヤッター!」
     その横でサンタ袋からおもちゃをパクっていくモーリス。
    「ちょ! モーリスさんなにオモチャ盗んでるんですか! やめてください! やめなさいったら!」
    「ちがうのデス! サンタと怪盗はおなじもので」
    「バロリさん連れて行って! この人連れて行ってください! もしくは通報して下さい!」
    「ヤメテ! クリスマスをくさい飯で過ごすのだけはヤメテ!」
     そのまた横では、ナハトムジークと天牙がちくわで決闘していた。
     なんかちくわからブォンって青と緑の光セイバーが伸びて口でブォンブォンいいながら斬り合っていた。
    「サンちゃんに先に目をつけたのは私だ! それを横取りするとは業界人の風上にも置けない!」
    「お前がスカウトしたってちくわ指すだけだろうが! 俺だったら百倍売れさせるね! 次のハーフタレント枠を取れるね!」
    「ちくわのなにがわるい!」
     そのまた横では透がポテチ食いながら携帯写真を見せびらかす遊びをしていた。
     後ろのほうで白衣をかぶったなの(ナノナノ)がぶっ倒れたトナカイーズを看病している。
    「これ僕の妹ー」
    「やーだかーわーいーいー」
    「でーしょー」
    「じゃあこれうちのネコー」
    「かーわいー」
    「でーしょー」
    「あ、ちくわきれちゃったちくわちくわっと……」
     ビニール袋を開いて見ると、ちくわがない。
    「あれ?」
    「クリスマスにちくわなんか食ってるのはどこのどいつだぁい……」
     身体の半分をバナナに浸食されたナナコがカッと振り返った。
    「あたいだよ!」
    「古っ!」
    「今の子しらんよそれ!」
    「ええい五月蠅い! ちくわは悪。フォースでいうとダークのほう! かのフェレット野郎がちくわの穴にバナナをねじ込んだ罪……末代まで許すまじ! ちくわの穴にバナナをさす奴ぁ一族郎党皆殺しじゃぁー!」
    「殿中ー! 殿中でござるー!」
     実際ソレをやっていた透にバナナナイフ(発音しずらい)を振りかざすナナコ。それを羽交い締めにするメリーベル。
    「とりっくおあとりーと!」
     その間をきりもみ回転しながら突っ切り、ちくわとばななとポテチをかっさらっていくあすてぃみろう゛ぃーなすねりあにむすさん。そして犬。
     食料を全て両手に抱えてうずくまると、こっちをうーうー威嚇しながらがつがつ喰っていた。
     この場のすべては彼女の食料である。バナナもプリンもちくわもなのも。
    「なのおぉおおおおおおおおお!」
     かえせーといって乱闘にはしる透くんを背に、メリーベルはあらためてサンちゃんに向き直った。
    「さて、そろそろ尺も限界だし……しゃきーん」
     こほんと咳払いして蟷螂拳の構えをとる。
    「サンちゃんには見知らぬ誰かのために尽くす姿勢は立派だと褒めた上で、そのために無関係の人達に迷惑をかけるのは本末転倒だし、貴女が目にもの見せようとしている心の貧しい人たちにもサンタが必要だということを熱く語るわ!」
    「じゃあこっちも、しゅおーん」
     虎拳の構えをとるサンちゃん。
    「私はあなたの台詞に感銘を受けて心を入れ替えつつも最終的に激しいバトルを展開したのち敗北してシャクることにするわ!」
    「よろしくね!」
    「こちらこそね!」
    「では見合って見合ってー……」
    「「ファイッ!」」

     十数分後。
     見事にヤられて見事にシャクったサンちゃんは、そのままトナカイーズにわっしょいされながら帰って行く。
     きゅっと腰をひねって振り返ると、サンちゃんはばちんとウィンクした。
    「私の名前はサン・クロース! 年がら年中クリスマス、無敵のミニスカサンタよ! でも真面目な依頼は勘弁ね!」

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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