それは御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)が夜の街を歩いていた時のこと。
「ふう……今日も寒いな」
夜の街には電気の明かりが灯り、暗さを和らげてくれるものの、寒さを紛らわせてくれることはない。ふと横を見ると、仕事帰りと思われるサラリーマンがおでんの屋台で一杯飲もうとしているところだった。こんな寒い日にはおでんがぴったりだ、そう思っていると、さっきのサラリーマンが悲鳴を上げて飛び出してきた。
「どうしました!?」
「喰われる、喰われるっ!」
そして屋台に視線を向けると、おでんの屋台は天嶺の前で大きな口を開いた。
「あれから私はサラリーマンを引っ張って逃げました。あの時私が通りかかっていなければ、サラリーマンの男性は屋台に食べられていたでしょう」
天嶺が当時の状況を語ると、続いて冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が説明を始める。
「仕事帰りのサラリーマンを食べるおでん屋台、という都市伝説のようです。この都市伝説を出現させたうえで倒してください」
この都市伝説は夜に現れ、寒そうにしているサラリーマンを標的とするらしい。スーツを着て寒そうにしていれば勝手に出てくるようだ。
「いざとなったらヒビワレさんがスーツを着るので、そこは安心してください」
「勝手に決めるなオイ」
天下井・響我(クラックサウンド・dn0142)が一応ツッコむが、蕗子は素知らぬ顔で説明を続ける。
「おでんを入れるところが人を食べる口になっているようですね。灼滅者にとっても脅威になるので注意してください」
おでん屋台は敵を吸い込んで食べるほか、アツアツの具を飛ばして攻撃する。非常に熱い上にサイキックとしての攻撃力がある。
「ただし、具は上手く口でキャッチすることでダメージを回避できます。口の中は熱いですが、狙っていってもいいと思います」
そこで蕗子は湯呑を茶を飲み一息ついた。
「皆さんなら大丈夫だと思いますが、油断はしないでください。……それでは」
参加者 | |
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御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919) |
森本・煉夜(斜光の運び手・d02292) |
黒崎・白(黒白の花・d11436) |
八重沢・桜(百桜繚乱・d17551) |
天里・寵(超新星・d17789) |
六条・深々見(螺旋意識・d21623) |
押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336) |
暮菜・緋鳥(まだまだ雛鳥・d31589) |
●寒い夜にはおでんだよね
「きょうはさむいなー」
「こういう日はやっぱりアレだよな。それにしてもさむっ」
都市伝説をおびき出すため、森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)と響我がスーツを着用し、夜の街を練り歩く。ひゅうっと風が吹く度、寒さで体が縮む。
『森本くんが囮になってくれるけど、折角だからヒビワ……天下井くんもスーツスーツ! 寒そうにしなきゃだから夏用の薄手のスーツとかいいんじゃないかな!』
本当は囮は1人でも良かったのだが、六条・深々見(螺旋意識・d21623)がこう言ったため響我もスーツを着ることに。蕗子も深々見の提案に同調したため、響我のスーツだけ夏用である。
「はー、もうおでんの季節なんですねえ」
そして、天里・寵(超新星・d17789)たちが物陰に隠れながらその様子を観察し、都市伝説を待ちうける。
「あー、なかなか結構似合ってんじゃないですか?」
確かにスーツは似合っているかもしれないが、煉夜はどこか秘密組織のエージェントのようであり、響我はなんかホストっぽい。
「サラリーマンさんのおでん煮……とっても、おいしくなさそ……」
「何か言いました?」
「いえ、何でもないのですっ。これ以上、被害がでないように、止めないとですね……!」
サラリーマンがおでんになったところを想像し、げんなりしてしまう八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)。そんな悲劇を、現実にするわけにはいかない。おでんは美味しいものでなくてはいけないのだ。
「うー、すごく寒いっす」
暮菜・緋鳥(まだまだ雛鳥・d31589)は寒冷適応を使用しているため、一応寒さは平気なのだが、もう見ているだけで寒くなりそうな夜だった。物陰に身を隠し、煉夜と響我を見守る。
「あ、あんなところにおでんのやたいが」
「おー、いいねー」
しばらくすると、煉夜と響我の前に怪しげなおでんの屋台が現れた。もしかすると本物の屋台かもしれないので、小芝居を挟みつつ近づいてみる。なぜか棒読みする煉夜。大根役者……おでんだけに。
そしてのれんをくぐると――。
ブオオオオッ!
「くっ!」
まるで巨大な掃除機のように、煉夜を吸い込もうと風を吹かせる。煉夜は咄嗟に横に跳んで転がり、難を逃れた。
「今度は灼滅します!」
都市伝説の出現を確認した御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)が飛び出し、殺界形成を発動。おでん屋台の都市伝説を見つけた者の責任として、きっちり倒しておきたい。続いて深々見もサウンドシャッターを展開し、これで戦いの準備が整った。
●恐怖の熱々おでん
「冬のおでんはなんかほっとする物っすねえ……。そのほっとする場所をホラーな場所に変えようとする都市伝説は成敗するっス!」
おでんの屋台を目掛け、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)が突進。纏ったオーラを両の拳に集め、体重を乗せた高速の突っ張りを連続で叩き込む。垂れ耳の霊犬、円も口に咥えた刀を振るって追撃した。
「おでんが人を食べるなんておこがましいんですよ。消えてください」
寒くなると美味しくなるものだが、おでんが人を食べる下剋上は認めない。黒崎・白(黒白の花・d11436)が地を蹴り、流星となって空中から降り落ちる。エアシューズが屋台を捉え傷を刻むと、ライドキャライバーも突撃。体当たりの衝撃が屋台を軋ませる。
「見える、見えるぞ……俺にもおでんが見える……!」
煉夜が瞳にバベルの鎖を集中させ、敵の行動予測能力を引き上げる。これでおでんの具が飛んできても確実に捉えることができる……気がする。その時、おでん屋台の鍋から何かが飛び出した。
(「――タマゴ!」)
丸々として薄く色味づいたそれを、煉夜は大きく口を開けて迎え撃つ。高速で飛来するタマゴを、煉夜は見事口で受け止めた。
「――!」
当然、熱い。舌や口を焼かんとする熱さに、思わず涙腺が刺激される。しかし森本・煉夜は無言で咀嚼し、熱々のタマゴを見事食べきった。
「螺旋を描き敵を貫け……!」
天嶺は槍に回転を加え、屋台を一突き。屋台は反撃にと、またおでんの具を射出した。
「食べ物を攻撃に使うな!」
都市伝説を非難しつつ、鍋を使っておでんの具を受け止めようと試みる天嶺。
「ぐはっ!」
しかしちくわは鍋底を貫通し、天嶺の胸を強打した。やはり殲術道具以外でサイキックを受けるのは無理があったというべきだろう。
「わたし、糸こんにゃくが食べたいのです……!」
桜が挙手してリクエストを飛ばすと、その言葉が届いたのか、糸こんにゃくが発射された。関西風か関東風か、少し楽しみにしながら口でキャッチする。
「ん~~~!」
まあ当然、熱い。タマゴほどではないかもしれないが、やっぱり熱い。
「屋台さん、お水ください……。酔っ払いさん用に、お水もありますよね……?」
涙目になりながらも糸こんにゃくを食べ終え、水を要求する桜。ちなみに味は熱くてわからなかった。
「あなたはおでん屋台界の下っ端なのですね……」
一向に水を寄越さない屋台を、桜が挑発。
「そうそう、やればでき――っておつゆじゃないですか!」
そうして屋台から飛んできたのは、グラス一杯に注がれた熱々のつゆだった。
「僕、おでんなら糸こんにゃくが好きなんですよねー」
チラッ。
寵がさりげなく、いや露骨に桜と同じ糸こんにゃくをリクエスト。すると間もなくおでんの具が射出される。
「いやー、悪いですねえ。じゃ、遠慮な――んんんっ!?」
しかし代わりに口に飛び込んできたのは熱々タマゴ。舌を焼くような熱さに、思わず身悶える。
「なんでこっちはタマゴなんだよオラァ!」
豹変したように怒りを表し、DCPキャノンをぶちかます寵だった。
●熱々おでんの猛襲
温かい日本の料理の代表格、おでん。大人になるとさらに恋しさが増すとか父が言っていた。
「ちょっと気になるっす……」
でも子どもだって恋しいものは恋しい。仲間が熱々おでんに苦しめられる中、それでもハリマは不思議と味が気になってしまう。そんなハリマの目に飛び込んできたのは関西ではおなじみの牛すじ。
「はっ!」
反射的に口でキャッチ。熱いことは間違いなかったが、味がよく染みて美味しかった。
「はあ、こんな玩具の相手をして。時間の無駄になりそうですね」
丁寧な口調ながら、その言葉には棘が見え隠れする。他の仲間がおでんと格闘するのを尻目に、白は燃えるエアシューズで蹴ったり、縛霊手を叩き込んだり、ビシバシ攻撃した。多くのおでんが口で受け止められるおかげで、回復の手はあまり必要なさそうである。
「ええーい!」
ギターに炎を纏わせ、緋鳥が屋台を一閃。
「おでんはアツアツに限るっすよ。炎をたっぷりつけてよーく温めるっす!」
火が燃え広がり、屋台が炎に包まれる。しかし屋台はまたおでんを射出して逆襲、少し焦げたがんもが緋鳥の口の中に侵入した。
「~~~~!?」
自身の炎でさらに熱くなったおでんに、緋鳥は声にならない叫びを上げた。
「頼んだよ! みんな頼んだよ!」
と、他力本願ノーガードな深々見。一方、深々見のナノナノ、きゅーちーは彼女の指示によってずっと口を大きく開かされていた。熱々の具が口の中に次々と容赦なく放り込まれ、目には涙を浮かべている。
「あ、来た!」
深々見に向かって飛来する大根。しかし煉夜が戦場を駆け抜け、スタイリッシュに口でキャッチした。しかも咄嗟に持参してきた辛子を付けて食べる早業である。
「残念、この深々見さんには芸人属性はないのだー! ところでどんなお味ー?」
「出汁の味がよく染みていて、熱さに慣れれば絶品だ。あと巾着が欲しい」
なぜか屋台相手に勝ち誇る深々見。煉夜はおでんを結構な量食べ続け、熱さにも慣れてきた様子で、どこか生き生きしている……かもしれない。
「おいおでんだぞ、ヒビワレ先輩。アツアツのおでんだぞ」
「それがどうした。ていうか、ヒビワレ呼ぶなって言ってんだろ!」
「武蔵坂一のおでん芸人を自称する先輩としては見逃せないんじゃないか?」
「自称してねーよ!」
煽りに……もとい支援に来たルフィアに芸人扱いされ、文句を返す響我。そこに飛んでくる、丸い影が1つ。
「あ、UFO」
「んなもんいるわ――」
ルフィアが指差した方向を向くと、ちょうど口に飛び込んでくる、今日だけでいくつ目になるかわからない熱々タマゴ。
「さすがヒビワレ先輩、おいしいところは外さないな」
「ん~~~!!」
口の中をいっぱいに占拠するタマゴに、悶絶する響我だった。
●寒い日はやっぱりおでんだよね!
そんなこんなで灼滅者たちはおでん屋台を追い詰め、連続攻撃で畳み掛ける。
「お返しのお返しっす!」
「糸こんがいいって言ってんだろうが!」
緋鳥の足元から影が伸び、触手となっておでん屋台を拘束。そこを寵が声を荒げながら槍で一突きし、鬱憤を晴らす。
「封印されし鬼神の力、顕現せよ!」
「おおおっ!」
天嶺の腕が鬼のそれへと変じ、岩のようになった拳を力任せに叩きつける。吹き飛ばされた来た屋台をハリマが受け止め、小学生とは思えない体躯を生かして投げ飛ばした。
「食べるばかりではな」
「そろそろお終いかな? バイバ~イ」
煉夜が至近距離に迫り、バベルブレイカーで高速で回転する杭をねじ込んだ。深々見は楽しそうにえげつない歌を披露し、あるかわからない屋台の精神を侵す。
「いじわるする人は更生させますっ」
桜が杖で撃ち、魔力を流し込んで内側から破壊。最後に白がとび蹴りを見舞った。
「ふう、弱すぎませんか」
そして嘆息する白の背中で、おでんの屋台が静かに崩れ落ちた。
「おでん屋台って、今まで知らなかったですけど、夜に、出てくるんですね。全く見ることないです」
と率直な感想を述べたのは、さっきまで人が来ないよう見張っていた瑠乃鴉。夜の屋台を知らないのは小学生としては自然なことだろう。
「まだ出そうですね……屋台系都市伝説も……」
食べ物を粗末にする都市伝説を撃破し、天嶺は少し安堵した。けれど、似たような都市伝説は他にも出現したし、今後も続々と現れそうなものである。
「おでん食べたいかも……」
「いいっすね、行きましょう!」
「緋鳥ももっと食べたいっす! 口の中ひりひりするけど!」
天嶺が漏らした言葉に反応し、目を輝かせるハリマと緋鳥。日は暮れているが、子どもが出歩いていてもまだギリギリ大丈夫な時間か。
「僕もご一緒しますよ」
「熱すぎないタマゴが食べたいですっ」
寵もなかなか乗り気の様子。そこまで糸こんにゃくが食べたいかと聞かれればそうではないが、ここで食べられないと負けた気がする。あまりに熱そうでタマゴに食いつけなかった桜も、まだ未練があるようだ。
「なら早速店を探そう。早い方がいいからな」
「え、まだ食うのか?」
「ああ、今日はおでんの気分なんだ」
響我が尋ねると、煉夜が真顔で答えた。割と、というか一番おでんを食べていたはずなのだが、都市伝説が消滅したことでお腹のおでんも消えたらしい。今夜は煉夜のおでんスイッチが入っているようだ。
こうして、灼滅者たちはおでんが染みわたる冬の夜を味わった。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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