サンタブレイカブル!

    作者:邦見健吾

    「おいそこの貴様、サンタクロースだな?」
    「え、あ、はい」
     とある商店街のケーキ店の前で、筋骨隆々の男が、サンタクロースの恰好をしたアルバイトに声をかけた。
    「では勝負だ」
    「え?」
     バキ。
     男の拳が、困惑するサンタの頭を捉えた。頭と胴が分かれ、頭だけが遠くに飛んでいく。
    「うむ、これは真のサンタクロースではなかったか」
     そう呟きを残し、男はネオンの光の中へ消えて行った。

    「アンブレイカブルが事件を起こすのを予知しました。皆さんにはこれの灼滅をお願いします」
     熱い緑茶の入った湯呑を傍らに置き、冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が灼滅者たちに説明を始める。
    「強者との戦いを望む性質を持つアンブレイカブルですが、このアンブレイカブルは一晩で世界の子どもにプレゼントを配るサンタクロースはきっと剛の者に違いないと思い至り、サンタクロースの恰好をした人を片っ端から襲おうとしています」
     今はまだ被害は出ていないが、蕗子の予知によれば必ず犠牲者が出る。その前に止めなければいけない。
    「アンブレイカブルの名前は十文字・三太(じゅうもんじ・みつた)といいます。商店街でサンタの格好をしていれば勝手に勝負を仕掛けてきますので、迎撃してください」
     三太はシャウトとストリートファイターのサイキックを使うほか、サンタが乗るソリを撃ち落とすために用意したブーメランがある。遠距離の敵にも攻撃手段を持ち、侮ることはできない。
    「三太は自分を真のサンタクロースだと主張する者を優先して攻撃します。戦いに利用できるかもしれません」
     アンブレイカブルらしく荒唐無稽な発想をするが、その分戦闘能力は高い。油断できる相手ではないだろう。
    「商店街の中で戦うことになるので、何らかの手段で一般人を遠ざけておいた方が無難かと思います。それでは、よろしくお願いします」
     蕗子は説明を終えると緑茶を飲み、鞄からサンタの顔の形をしたクッキーを取り出した。


    参加者
    秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    遠野・潮(悪喰・d10447)
    君津・シズク(積木崩し・d11222)
    宮瀬・柊(月白のオリオン・d28276)
    フェイ・ユン(侠華・d29900)

    ■リプレイ

    ●襲撃されるサンタ
     灼滅者たちはアンブレイカブルを迎え撃ち、クリスマスを守るため、商店街に来ていた。
    「おー、サンタの格好似合ってるっすよ。これならばっちり声をかけられるっす」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)の視界に入ったのは、サンタの格好をした4人の姿。
    「サン・ニコラもいい迷惑っすねぇ。さっさと頭のネジがゆるいアンブレイカブルを灼滅しないとっす」
     せっかく被害が出る前に感知できたのだ。犠牲者を生む前にダークネスを倒さねば。
    「それにしてもサンタが剛の者って、おもしろい発想だねー」
     サンタ服を着る宮瀬・柊(月白のオリオン・d28276)の顔には、何かを諦めたような微妙な笑みが浮かぶ。突飛な考えを実行に移すのは、さすがアンブレイカブルというところか。
    「うーん、サンタさんって強いの……? すごいなぁって思う事はあるけど……」
     と首を傾げるのは、ミニスカサンタの衣装を身につけたフェイ・ユン(侠華・d29900)。ちなみにユンはサンタの存在を今も信じている。ダークネスという超常が跋扈するこの世界なら、本物のサンタもどこかにいる……かもしれない。
    「さて、準備を始めようか」
     一方、無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)は女性ながらズボンスタイルのサンタ服を着用している。殺界形成を発動し、アンブレイカブルが来る前に一般人を遠ざける。
    「きゃんきゃんっ」
    「よしよし」
     トナカイの角でコスプレした霊犬、花がじゃれつくと、サンタ姿の秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)が頭を撫でてなだめる。白い髭まで付けた誠士郎と花は、まるで本当のサンタとトナイカイのよう。
    「うーん、前に新宿で戦った六六六人衆の奴もサンタの格好してたし、サンタって強い奴の証なのかもー? 世界中にプレゼント配るんだから、分裂とかできないと無理だよねー」
     海藤・俊輔(べひもす・d07111)たちはサンタ服組から少し離れ、アンブレイカブル・三太の到着を待つ。
    「分裂ー……あれ?オレ達ってもしかして真のサンタクロース倒しちゃったー!?」
     過去に武蔵坂が灼滅した敵を思い出し、サンタを倒したのかと1人危惧する俊輔だった。
    「はあ……子どもじゃあるまいし、サンタさんなんか――」
    「え、なんか言った?」
    「あ、いや、なんでもないわ」
     サンタさんなんか信じちゃって――そう言いかけて、君津・シズク(積木崩し・d11222)が口をつぐむ。自分がサンタを信じていないからといって、子どもの夢は自分の崩すべきものではない。
    (「まあ、誤解してるって言うべきか。プレゼントを楽しみに待ってる訳じゃなさそうだしね。……アンブレイカブルなら拳のプレゼントでも喜んでくれるでしょう」)
     アンブレイカブルとはそういう存在。戦えさえすればそれでいいのだ。
    「む、貴様ら、サンタクロースという奴らか?」
     そこに筋骨隆々の巨体を持った、クリスマスに不似合いな武骨な男が現れた。アンブレイカブル・十文字三太である。
    「ああそうだ」
    「思うに、サンタは1人ではないのか?」
    「俺達はサンタクロースの一員として活動をしているに過ぎない。だがサンタは皆たった一夜で任務を熟すことの出来る選ばれた者達だ。信じられないのならば、武を以て証明してみせよう」
     疑いを持つ三太を誠士郎が説得すると、三太がううむと低く唸る。
    「ほう、では勝負だ。相手に不足はないと見た」
    「サンタの力を見抜くなんて結構やるねー。リクエストに応えて相手してあげるよ」
     三太が挨拶代わりに繰り出した鋼鉄の拳を、柊はゆるく笑いながら迎え撃った。

    ●迎え撃つサンタ
    「ハハハ、やるなサンタクロースとやら!」
    (「クリスマス結構楽しみにしてんだから、こういう迷惑な事件は勘弁して欲しいぜ」)
     高笑いする三太に辟易し、遠野・潮(悪喰・d10447)はやれやれと嘆息しながら肩をすくめた。
    「さっさと片付けて、クリスマスを楽しむ準備をさせて貰おうか」
     ギターを激しくかき鳴らし、弦の振動が音の波を生み出す。音の波が三太を呑み込み、その体にダメージを与えた。
    「殲具解放」
     ギィが静かに殲術道具を解放、斬艦刀を振り上げて三太に迫る。
    「やあ、三太さん、いらっしゃい。自分達のクリスマスパーティーを始めやしょうや」
    「ガハハ! 宴だ宴だぁ!」
     そして遠間から踏み込み、袈裟に斬り下ろした。敵の体に大きな傷を刻むが、三太は嬉々として笑い声を上げる。
    「食らえサンタ!」
     雷を纏う拳を、誠士郎は霊縛手を構えて受け止めた。吹き飛ばされまいと踏ん張るが、その威力に全身が軋む。
    (「サンタクロースについて調べようと思ったことはなかったのだろうか。……調べるよりも体が動いてしまうのがアンブレイカブルの性質なのかもしれないがな」)
     ある意味それだけ純粋な性格なのだ。そもそもアンブレイカブルに理性を期待するだけ無駄である。
    「ほーら、サンタさんからのプレゼントだよー♪」
     柊はプレゼント用の白い袋からガンナイフを取りだすと、三太の動きを鈍らせようと足元に銃撃する。そこにナイフを携えたユンが滑り込み、刃に炎を纏わせて抉った。
    「サンタはこの時期が一番忙しいの! 邪魔するんじゃないっ」
     シズクはハンマーのロケットを点火し、加速に乗って三太に接近。そのまま勢いを乗せてハンマーを叩きつける。衝撃で巨体が浮き、受け止めた三太を吹き飛ばす。
    「ハッハァッ! そうこなくては!」
    「ボクが相手だよ!」
     しかし三太はすぐさま起き上がり、パーティーではしゃぐ子どものように楽しそうに拳を振るう。その重い一撃を、今度は理央が受け止めた。
    「おや、サンタとは男ではなかったか?」
    「そうそう、サンタクロースと聞けばアゴヒゲたっぷりの男性をイメージするでしょ? そのイメージ誘導で真のサンタクロースたるボクに目が行かないようにしてるんだよ!」
    「なるほど、奥が深いな!」
     理央の言葉を真に受け感心する三太。サンタクロースのことなどどうでもいいのか、ただ単純なだけなのか、おそらく両方だろう。理央はボクシングの構えから鋼のストレートで顔面を強打、三太を覆う雷を砕いた。
    「行くぜー」
     俊輔が小さな体躯を生かして懐に潜り込み、纏うオーラを爪のように尖らせて斬り抉る。潮も指輪から魔弾を放って追撃。魔弾が命中すると、赤い呪縛の紋様が敵の体に浮かび上がる。
    「やるな小僧。しかし俺の相手はサンタだぁ!」
     もはやサンタを倒すことしか頭にないのだろう。三太は俊輔を払いのけ、再び理央を襲った。

    ●連携するサンタ
    「うおおおおっ!」
    「ボクこそが真のサンタクロースだ!」
    「そっちかぁっ!」
     サンタがブーメランを振りかぶった瞬間、ユンが三太の攻撃を誘った。ブーメランが高速で飛来し、ユンを襲うが、すぐさま花が浄化の眼差しを送って回復させる。ユンも叫びを上げて自身を癒し、ビハインドの无名は霊力を青竜刀に集めて一太刀浴びせた。
     三太の攻撃力は強大であったが、灼滅者たちはサンタを名乗り合うことでダメージをコントロールしていた。
    「クリスマスに蝋燭の明かりは不可欠っすよね。灯してあげるっすよ」
     ただし、ロウソクではなくサイキックで。ギィが斬艦刀に炎を走らせ、豪快に振り下ろす。
    「ハハッ、甘い甘い!」
     しかしその一撃は余裕をもって躱された。同じ系統の技ばかり使っていると相手の目も慣れるもの。攻撃を当てるなら、より積極的に違う技も織り交ぜていくべきだろう。
    「食らえ女サンタァ!」
    「俺が最強のサンタだって知らないのかな?」
    「最強だと!?」
     傷ついたユンを狙う拳を、柊が受け止める。衝撃で着ていたサンタ服が吹き飛ぶが、柊は笑みを浮かべたまま腕とガンナイフをデモノイドに呑み込ませ、腕を砲台に変えて至近距離から死の光線を撃ち出した。
    「足元がお留守だぜ?」
     柊の背に隠れた潮が、足元から影を伸ばして追撃。影が弾丸のように迸り、三太の足を縫いとめる。その隙に理央が目の前に飛び込み、鋭く拳を振り抜いて肉体を抉る。
    「悪い子には炭がプレゼントされるって事も知らないんでしょうね」
     シズクはロケットハンマーを振り回しながら、勢いをつけて高速で三太に迫る。
    「でもあんたには消し炭がお似合いよっ!」
     自身ごとハンマーを回転させ、さらに加速。強烈な鎚の一撃が三太を正確に打ち抜いた。誠士郎は蒼い霊縛手を叩きつけると同時に霊力を浴びせ、三太を縛り付ける。
    「サンタさん倒しちゃったら、良い子にしててもプレゼント貰えなくなっちゃうよ! そんな事は絶対させない!」
     サンタを信じるユンは良い子の夢を守るため、体に帯びた気を両手に集めて拳を連打、岩のような巨躯に光る拳を打ちつける。
    「これでどうだー」
     俊輔がエアシューズを駆動させて商店街を滑り、三太目掛けて走る。眼前に迫ると、サッカーのオーバーヘッドキックのように宙返りしながら炎纏う蹴りを繰り出した。
    「ハハ、これで体が温まるわ!」
     しかし火傷を負っても、怯むどころか余計に笑う三太だった。

    ●勝利したサンタ
    「やるなサンタどもぉ!」
    「させるか……!」
     三太の投げたブーメランを、誠士郎は霊縛手を広げて掌で受け止める。同時に霊力の網でブーメランを絡め取り、その威力を殺すことに成功した。
     いくら傷ついても、いや傷つけば傷つくほど三太は嬉々として暴れ続けた。けれど三太の体力は瀕死に近く、決着は近い。
    「さ、パーティーはもうお開きっすよ」
     ギィが指差す先に逆十字が発生し、三太の体と精神を引き裂く。俊輔は自身の体を竜巻のように回転させると、自分を巨大な刃の車輪に変えて三太を切り刻んだ。
    「KO狙いでいくよ!」
     理央は軽いフットワークで三太に接近、顎を狙って強烈なストレートを放つと、さらに柊がガンナイフを操って細かい傷を無数に刻む。
    「もう終わりだな」
     潮も影を伸ばして三太を束縛し、動きを鈍らせた。ユンが手から炎の奔流を放つと、イルミネーションのように煌めく波が三太を呑み込む。
    「これでお別れね」
     そしてシズクがもう一度ロケットを点火。
    「メリークリスマス!!」
    「いいクリスマスプレゼントだったぞ! ガハハハ!」
     渾身の一撃が、足の止まった三太を打つ。そしてアンブレイカブルは高笑いを上げながら冬の街に消えたのであった。

     アンブレイカブルを無事灼滅し、灼滅者たちは夜の街を歩いて帰路に着く。クリスマスを目前に控え、イルミネーションが街を彩っていた。
    「いやー、片付いたっすね。ケーキ、まだ安売りしてるっすかね?」
     本気か冗談か、ギィが目を光らせて商店街を見渡す。クリスマスにはあと数日あり、ピークはこれからだ。
    「うーん、まー、でもプレゼント配るいい人があんなダークネスのはずがないかー」
     と、自分で自分を納得させる俊輔。以前新宿での戦争で現れた六六六人衆、クリスマス爆破男。あれがサンタクロースと思われてはとんだ風評被害である。
    「今年こそ、ボクの家にサンタさん来てくれるかな?」
     ボクいい子にしてたよね、とユンは目を輝かせるが……きっと答えはサンタのみぞ知る。
    「シズクちゃんのところにはサンタさん来てくれるよね?」
    「……私? うーん、どうかしら」
     ユンに問われ、一瞬どうしようか迷ってしまうシズク。本当のことを言おうかとも考えたが、ユンの瞳を見るとそれはできなかった。
    「……来てくれないの?」
    「でも、サンタさんじゃなくても家族や友達からのクリスマスプレゼントは嬉しいものだと思うわ。ケーキも美味しいしね」
    「……うん!」
     シズクの言葉に、ユンが満面の笑顔で頷く。シズクはサンタの正体を知っている。しかしもしサンタが来なくても、友達や家族と一緒なら、クリスマスはきっといい日になるだろう。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ