はらぺこ鬼に気を付けて

    作者:四季乃

    ●Accident
    「おいコラてめぇら、まだ焼けねぇのかよ」
     紙皿と割り箸を両手に装備し、折り畳み椅子の上で踏ん反り返る男は、腹の虫を盛大に鳴かせながらそのように唸った。
    「すみません! あと少しです…!」
    「美味しく頂いてもらう為には、もう少し焼いた方が宜しいかと!」
     気分屋のリーダーがいつ自分達に拳を振り上げるか分からない。下っ端の不良達は戦々恐々としながら、金網の上でじわじわと焼かれるスペアリブの焼き加減を入念にチェックする。
    「美味そうな匂いがするなぁ……。さみぃけど、来たかいがあったってもんだ」
     男はゆっくりと足を組み直すと、テントの前で身を寄せ合っている大学生グループを一瞥した。
    「俺がじっくり味わってやるよ。お前等の分までな」
     くつくつと肩を揺らして笑うたびに、陽の光を反射する黒曜石の角が妖しく煌めく。学生たちは男の放つ異様な雰囲気に気圧され、成す術もなく力なく項垂れた。

    ●Caution
    「その羅刹はキャンプに訪れた客の食事を強奪して回っているようなのです」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)の説明によると、その羅刹は一般人の下っ端を五名ほど連れているようで、特にバーベキューをしている客をターゲットにしているらしい。
    「どうも下っ端はいつ自分達に火の粉が掛かるか分からないから、機会さえあれば逃げ出そうと考えているみたいだな」
     姫子の言葉に補足した栢山・源治(兵器使い・d28095)は「下っ端も辛いってところか」と吐息を一つ落とした。
    「粗暴な性質をしたダークネスに一般人の方々は対抗出来ません。皆さんにはこの羅刹を灼滅して頂きたいのです」

     羅刹は二十代前半、身の丈は百九十センチはあろうかという巨体らしい。元々短気な方のようで、空腹時はそれが倍増するようだ。それを逆手にとって冷静な判断が下せない隙を狙うと良いだろう。
    「道具は全てこちらでご用意しました。このバーベキューセットで敵を誘き出して下さい」
     姫子の合図で荷物を机上に持ち上げた源治は、食材の詰まったビニール袋をポンポンと叩きながら明るく笑った。
    「肉や野菜の食材も用意してある。楽しそうにはしゃいだり、美味そうな肉の匂いがすれば、きっとすぐに掛かるだろう」
     二人が指定したポイントは片側に小川が流れており、反対は木々が茂っている。木々はすっかり冬支度を済ませているので身を潜めるには少々厳しいかもしれないが、必要ならタープを張って死角を作ると良いだろう。
    「下っ端の方々は高校生のようですね。まず彼等が接触して脅したり暴力を振るったりするようですので、一度怯えた風を装ったりやられた振りをすれば油断するでしょう」
    「下っ端に関しては内心ビビってる奴ばっかりみたいだから、戦闘が始まれば脅すなりしてみせれば逃げていくだろう」
     羅刹は決して一人では倒せない相手だが、みなが力を合わせればきっと灼滅出来る筈だ。協力して臨んで欲しい。
    「もし無事に灼滅出来たら、皆さんでバーベキューを楽しんで来て下さい」
    「ちゃんとデザートもあるから皆で分けてくれ。よろしく頼むな」


    参加者
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    神宮寺・刹那(狼狐・d14143)
    深山・戒(翠眼の鷹・d15576)
    守御・斬夜(護天の龍華・d20973)
    神桜木・理(空白に穿つ黒点・d25050)
    栢山・源治(兵器使い・d28095)

    ■リプレイ

    ●青天
     薄っすらと雪化粧を施した山々が果て無く連なっている。緩やかに流れる川のせせらぎに交じるのは男女数名の賑やかな声。
    「バーベキューは羅刹を倒したら皆で食べましょうね」
     ダンボールの中から肉のパックや野菜を取り出しながらそう声を掛けたのは神宮寺・刹那(狼狐・d14143)だ。彼は耳と尻尾をしっかりと隠し、月の光のように美しい銀色の髪を揺らして微笑んでいる。
     そんな彼の隣では、お湯を注いだ水筒に紅茶と珈琲のパック、それからタレに皿やコップなど、持参した品をせっせと並べる深山・戒(翠眼の鷹・d15576)が居て、表情にこそ出ていないものの楽しみにしている様子が窺えた。
    「ネオンもいっぱい食べられるようにはらぺこにして来たよ~♪」
     中でも特に嬉しそうだったのは殺雨・音音(Love Beat!・d02611)だった。彼女はそれまでぴこぴこと揺らしていた可愛らしいうさ耳をへにゃりと伏せると、
    「む~、お肉~、お肉~、待ちきれないよ~」
     と、グリルの設置に取り掛かっている狼幻・隼人(紅超特急・d11438)や守御・斬夜(護天の龍華・d20973)の傍でお腹を押さえている。
     その様子に笑みを零した狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)の傍ら、トーチバーナーを片手に握っていた神桜木・理(空白に穿つ黒点・d25050)は、鳥の鳴き声すら響かぬ鬱蒼と茂る林に視線を配ってみせた。
     街の郊外、喧噪から離れたキャンプ地には、自分達だけが取り残されたかのように静まり返っている。
    (「何か羅刹って普通の人に世話させて飲んだり食ったりしてるのが多いような。気のせい?」)
     しかし理だけでなく辺りの様子を窺っていたのは斬夜も同様。彼は楽しげな様子を演じつつもその視線は常に周囲を見定めている。新たに雉肉を取り出した戒も事前に付近の地形を頭に叩き込んでおり、みな一様に辺りの気配を探っていたのだ。
    (「やれやれ…バーベキューは独り占めとか奪い合うもんじゃねぇんだがな」)
     胸の内で密やかに呟いた栢山・源治(兵器使い・d28095)は、自分達が元来た方向。人工的に作られた森の小道に揺らめくモノを盗み見て、小さく吐息した。

    ●香誘
    「肉ええなぁ。あらかた丸も食うか?」
     金網の上でじゅうじゅうと香ばしい匂いを立てる肉を見ながら、隼人が足元に居る超霊犬あらたか丸に問い掛けると、すぐにバウバウと嬉しそうな返事がやって来る。
     ニッ、と笑った彼が紙皿に肉を乗せてやり、その場にしゃがみ込んで差し出そうとした時、グリルの向こう側、林の小道からぞろぞろと連れだって歩く男達の足元が見えた。
    「すっげぇ良い匂い」
    「この間の奴らより超イイじゃん!」
     少し頭の軽そうな、男の言葉たち。見やればカラフルな色に髪を染めた、「いかにも」な少年達が居た。
    「君たちだけじゃ全部食べられないっしょ? 俺達が手伝ってやるよ」
     随分と勝手な口ぶりの台詞に瞳をスッと細くした隼人は、やれやれと言わんばかりに小さく息を吸い込むとその場に立ち上がった。
    「なんやお前等、これは俺達のや。食わせるもんは無いで、あっち行き」
     目線が変わらない不良達に向かってシッシッと追い払う仕草をしてみせる。
     すると、その挑発的な態度にカッと頭に血を上らせた不良の一人が食って掛かったので、隼人も負けじと突っかかっていった。
     翡翠と斬夜はギャアギャアと鼻息の荒い男達が争っている隙に、既に焼けていたものをあらたか丸の眼前に置いた紙皿に移動させ、網の上に新しく、それも火が通りにくい物を並べてゆく。
    「きゃ~、怖いことしないでよう!」
     音音の悲鳴で視線を持ち上げると、不良達の至近に居たはずの隼人がなぜか自分達の後方に吹っ飛んでおり、突っ伏せたまま動かない。
     拳を振りかぶったポーズのまま固まっている不良が居て、彼は目をぱちくりさせているのが見えた。どうやら大袈裟に吹っ飛んでやった事に気付いておらず、自分の力であんなにも吹っ飛ばしたのかと驚愕しているのだろう。
    「んだよテメェ等、そんなにはしゃいでよぉ」
     腹の底から唸るように低い声。
     ザリ、ザリ、ザリ、と枯葉を踏み締める重々しい足音に重なるのは、喉を鳴らして笑う男の言葉。
    「お、わ……ひゃぁ、っ」
     黒いスキニージーンズのポケットに両手を突っ込み、ゆったりとした足取りで近付いてきた男を見、戒は自分より三十センチも図体のデカイ姿に怯えたように腰を抜かす。
     遙か上方から見下ろす男の双眸が満足そうに細くしなった。
    「アニキ!」
     不良達は声を揃えて男をそう呼んだが、しかしその表情はいささか強張っている。なるほど隙あらば逃げ出そうと思っているのは本当らしい。
    「へぇ? お前等ずいぶんと良いモノ持ってんじゃん?」

    ●代償
     不良達はヘラヘラとした笑みを張り付け、グリルの前で肉が焼けるのを今か今かと待ち望む鬼――羅刹に媚びへつらった。
    「アニキ! 野菜はもう焼けたっすよ!」
    「肉が最初に決まってんだろ阿呆」
    「ですよね!!」
     スパァンッと平手で殴られた不良は「さーせん!」と九十度に腰を曲げて謝罪し、残りの不良達はせっせと肉をひっくり返し、灼滅者達が持参した食料を物色する。
     何とも情けの無い姿だと溜め息が落ちそうなのをグッと堪え、大人しくされるがままを装う理は羅刹の一挙一動を注視する。その瞬間を逃すものかと青い瞳は揺らがない。
     じゅわじゅわと美味そうな匂いを放つバーベキューの様子を見、戒が思わずと言った風に「せっかくの肉が……」と呟くと、羅刹の視線がギロリと彼女を射抜く。「いえ、なんでもありません」と、そう小さく答えた戒がサッと俯いたのを一瞥し、飲み物を注いでいた翡翠は紙コップを持って羅刹に近付いていった。
    「あの、これ……どうぞ」
     気付いた羅刹が何かを言う前に差し出せば、彼は片眉をスイと持ち上げ、のちに「ご苦労」と一言口にして受け取った。
     その様子を横目に見ていた源治と斬夜は、危なっかしい手付きの不良達に交じって肉を焼いており、刹那達がじわりじわりと気取られぬように包囲を固めている事を確認すると、不良の影に隠れてそっと目配せした。
     そうして良い塩梅に焼けた肉を紙皿に乗せ、箸を添えて羅刹に手渡せば、男はそれはそれは嬉しそうにニヤリとした。
    「こないだ食った肉は筋張っててイマイチだったからなぁ、これは期待出来そうだ」
     割り箸を歯で噛んで支え、パキンと二つに割った羅刹は真っ赤な舌で唇を舐めると、いただきますの挨拶も無しに、あんぐりと口を開ける。
    「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
     肉を頬張ろうとした瞬間、耳朶を掠めた翡翠の言葉に動きが止まる。羅刹の視線がゆったりとした動きでその方を向いた刹那、そこにあったのは片腕を異形巨大化させた少女の姿だった。
     ハッ、と息を呑み咄嗟の判断で身を退けようとした羅刹であったが――。
    「ほらほら、肉に気を取られてるからこうなるんだよ、と」
     背後から忍び寄った戒による黒死斬で右脚を断たれ、バランスを崩してしまったのだ。そこへ翡翠が肉体をえぐるように強烈な拳を振り下ろす。
     恐らく地面に叩き付けられる羅刹など初めて見たのだろう。衝撃で皿や肉が弾け飛ぶさ中に突っ立っている不良達の顔が、見る見る内に真っ青になってゆく。
    「私たちの標的はこの鬼1匹だ。関係ない奴はどっかに行きな」
     先ほどとは打って変わって戒の凛々しい姿と言葉に唖然としたのも束の間。
    「今度は本気で行くでっ!!! 死にとうないならでてけっ」
     片手を突いて軽やかに起き上がった隼人が、王者の風を噴き出しながら不良達をギロリと睨み付ける。そのあまりの光景にその場にへたり込む者も居た。
    「ココにいると巻き添え貰っちゃうよ~? いいの~?」
     音音が殺界形成を展開したのを見て、源治が羅刹と不良達の間に割り込むと声を張り上げた。
    「こいつは俺らが始末する。さっさと逃げろ」
    「ひっ! ひいいい!!!」
     甲高い悲鳴を上げてバタバタと走り去っていくのを見、その背中が小さくなったのを見計らって理がサウンドシャッターを使用すると、丁度羅刹が起き上がった所だった。
     額から血を流し、忌々しそうに唇を歪める鬼を前に立ち塞がった斬夜は、抜刀すると人が変わったように言葉を放つ。
    「龍華双天流、守御斬夜。不埒なる鬼を斬りに参上した」
     そうして彼は刀を上段に構える。
    「おいおい、一体何のパフォーマンスだこりゃ? 飯を食う前の運動か何かか? あ?」
     言葉こそ軽いものの、その声音はごうごうとうねる嵐のようだ。低く獣のように威嚇の色を多大に滲ませ、羅刹は口の中に溜まった血をその場に吐き捨てると、五指をしっかりと握り締めた。
    「そっちがその気なら相手してやらぁ」
     スゥ、と瞳を細めた斬夜は鬼の背後に襲い掛かる刹那の姿を確認すると、その背面にフォースブレイクが叩き込まれるのと同じくして雲耀剣の斬撃を振り下ろした。
     あたかも拳と拳が交わるかのごとく、腹部に閃光百裂拳を喰らった斬夜は、小さく咳き込み、その懐からすぐに距離を取る。
    「霊視領域補足…味わいなっ!」
     青く巨大なロボットの姿に変身した姿の源治が、斬影刃を放って気を逸らしている内に、飛び出したあらたか丸が浄霊眼を試みる。四方八方を囲まれている鬼は、その様子を見てチィっと舌打ちを一つ。
    (「全く、人の者をとっちゃいけないってこの羅刹は教わらなかったのかね。呆れてしまうよ」)
     仕方がないとは言え、羅刹の口に入る筈だった肉が、融けきらぬ雪の上で寂しそうにポツンと一人きり。
    「せっかくの行楽を邪魔する無粋な鬼には退場願おう」
     戒は片腕を異形巨大化させてゆく鬼を真っ直ぐに見て、そう口にすると、ウロボロスブレイドを握り締めた翡翠がこくりと頷く。
    「ご飯を美味しく食べたいのならみんなで楽しく食べるのが一番ですのに。独り占めして食べてたら美味しいものも美味しくなくなってしまいますよ?」
     その言葉に「ハンッ」と盛大に鼻で笑った羅刹は、切れた唇から流れる血を手の甲で拭うと「皆で仲良しってか」と吐き捨てた。
    「美味いもんを独り占めして何が悪い? 共有なんざ、勿体無くて俺ァ無理だわ」
     ひらひらと手を振り、肩を竦める姿に溜め息が込み上げて来る。理解されるとは思わなかったが、はっきりとしたその侮蔑には呆れ以外のものも沸き起こってくる。
    「その言葉そっくりそのまま返したる! あんな美味いもんをお前に食わせんのは、勿体無くて無理や!」
     エアシューズで駆けだした隼人がそう言うなり、羅刹の顔面目掛けて流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させると、その巨体がぐらりと左へ傾いた。そこへ槍に螺旋の如き捻りを加えた理が螺穿槍を突き出して腹部を穿てば、「うぐ、」と痛みで羅刹の顔が強張ったのが分かった。
     理はトン、と地を蹴って後退すると、一瞬よろけた羅刹の動きを察知し、「神宮寺、右方斜め後ろ」とアドバイスを寄越した。それに一つ頷き、刹那は瞬時に鬼神変を振り上げるが――。
    「ガキがじゃれついてんじゃねぇっての!」
     振り向きざま羅刹の巨大な拳が顔面に迫った。しかし刹那は動じる事なくそのまま拳を振り下ろし、
    「いっ…!!」
     痛感を覚えた羅刹が目を瞑った瞬間を見計らい、懐に力の限り叩き込んでやった。その強烈な一撃に羅刹の膝が地面に突く。明らかに視界の外れからやってきた攻撃に目を白黒させながら、羅刹は咄嗟に振り返った。
     そこに居たのはブレイドサイクロンで肉体を斬り刻みにかかった翡翠が居たのだ。腹立たしくて眉間に深い皺が何本も入る。まるでその形相は獣そのもの。
    「戦ったら余計お腹減っちゃいそう~。怪人ちゃんはもうちょっとのんびり出て来て良いのに~! ぷんぷんっ」
     刹那に向かってジャッジメントレイを放った音音は「いいもんっ、ネオンの代わりに皆が怪人ちゃんを懲らしめてくれるんだから☆」と、うさ耳を揺らしてぴょこぴょこ跳ねた。
    「皆っ、フレー♪ フレー♪」
     音音の底抜けに明るい声が辺りに木霊する。緊張感に欠ける応援ではあったが、敵の様子もどうやら疲労が窺える。空腹でイライラしているのが目に見えて分かった。
     羅刹の攻撃がその方へ向かったのを見、咄嗟に駆け出した斬夜はターゲットにされている翡翠の前に飛び出した。ハッと小さく息を呑む羅刹の懐にもぐりこみ、真っ直ぐに貫く刺突を繰り出すと、敵の放った神薙刃がブレて見当違いの方向へと飛んで行った。
    「クソッ…」
     ギリ、と奥歯を噛み締めた羅刹はその場から後退。己の片腕に力を凝縮させると、
    「次からは自分で焼くんだな。次があるならの話だけど」
     クルセイドソードを握り締める戒の言葉に短く呻く。そのまま破邪の白光を放つ強烈な斬撃を繰り出され、羅刹は左方へ飛んで回避を試みたのだが。
    「マインドブレイクシステム…起動」
     聞こえた源治の言葉に振り返る。
    「たっぷりと楽しんでいきやがれっ!!!」
     しかし、言葉と共に襲い掛かる影喰らいのそれに飲みこまる直前、振り下ろされた鬼神変を咄嗟に飛び出した隼人が受け止める。主の傷をあらかた丸と音音がすぐに回復に取り掛かる一方、およそ身の丈に不釣り合いな無敵斬艦刀を構えた翡翠が問い掛ける。
    「自分がお料理される側に立った気分はどうですか?」
     膝を突いてゼェゼェと呼吸を繰り返す羅刹は、答えない。逃げる算段を考えているのか、時々視線が余所へと飛ぶが、そうはさせるか灼滅者達が回り込んで退路を与えなかった。
    「あなたの悪事もここまでです。食べられなくて、残念でしたね」
     ゆらりと背後でその拳を握り締める刹那の言葉に、喉の奥が絞られるように痛む。何故俺が。こんなガキどもに。胸の内がありありとその顔に書いてある。
    「一刀両断です!」
     まるで兎のように飛び上がった翡翠の小さな身体を見て、羅刹は即座に起き上がって駆け出そうとしたが、逃げる方向に回り込んだ刹那の鬼神変によって阻まれ、呻く暇も無いまま超弩級の一撃が己の肉体を叩きのめした。
     冷たい雪の上に四肢を投げ出すように倒れ込んだ羅刹は、「ちくしょう」と掠れた声で吐き捨てたが、次第に上下する胸も動かなくなり、程なく雪に解けるように消えて行った。

    ●報酬
    「邪魔者はいなくなったし、ゆっくり楽しもうか」
    「よっしゃ! 肉肉! 肉を焼きまくりだぜ!」
     戒の言葉によって源治が惜しげもなく肉をずらりと並べると音音は大喜び。
    「やっぱ火力やろ」
     めまぐるしく食べるあらかた丸の傍ら。静かに野菜を転がしている理と斬夜の隣で、炭を追加して火力を増させた隼人の行動によって、ボウッと炎が巻き起こると、悲鳴とも歓声ともつかない声が上がった。
     じゅわじゅわと美味そうな匂いが立ち昇る。あまり日は射していないが、しかし皆で笑いながら囲むバーベキューの賑やかさが何よりの暖だった。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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