古の罪人、人を喰らいし蛇と老人

    作者:のらむ


     深夜。とある山中の河原に、1体の獣が佇んでいた。
     月明かりが、血の様に濁った獣の赤い身体を照らしていた。
    「…………」
     蒼く澄み切った瞳で、獣は対岸を見つめていた。
     不意に獣が天を仰ぎ、大きく吼えた。
     そして獣は振り返り、何処かへと走り去っていってしまった。
     獣が立ち去ってから数分後、獣が見つめていた河原の地面が大きく揺れ、ひび割れる。
    「キヒ、キヒヒヒヒヒヒ…………」
     不気味な笑い声を上げながら、地面から這い出したのは、1人の老人だった。
     そして老人の後に続くように現れたのは、人の体の大きさを優に超えた、巨大な蛇だった。
     蛇の身体と老人の足には複数の鎖が巻き付き、地面に繋ぎ止めている。
     老人は蛇の身体をゆっくりと撫でつつ、蛇に話しかける。
    「おお、蛇目……死んでもワシと一緒とは嬉しいのう……それにしてもあの人間どもめ、ワシとお前をバケモノと称して殺すとは……憎いのう…………お前は人の肉が好きで、ワシはただそれを与えていただけだというのに。キヒヒヒヒ…………」
     蛇目と呼ばれた蛇は嬉しそうに目を細め、老人に擦り寄った。
    「よしよし、いい子じゃ……それじゃあ蛇目、行くとするか。久しぶりの食事の時間じゃよ。キヒヒヒヒヒヒ……」
     そう言って老人は懐から錆びついたナタを取り出し、蛇目と共に食料となる人間を探し始めるのだった。
     

    「とあるスサノオが、古の畏れを生み出しました。皆さんは現場へ向かい、これを灼滅して下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、この古の畏れの元となった逸話について話しはじめる。
    「家族もいない、孤独に塗れた1人の年老いた男が、一匹の大きな蛇を拾いました。老人は大層その蛇を可愛がって育て、蛇も老人に懐きましたが、何故かその蛇は老人の与える餌を全く食べようとしなかったそうです」
     そしてその蛇は、夜な夜な家を抜けだしてはどこかへと行っている。そして帰ってくるたび、身体が少しづつ大きくなっている。
     それに気づいた老人はある日の夜、こっそりと蛇の後について行った。
    「そこで老人は、蛇が人を喰らっている姿を目撃したそうです。……そこからはもう単純な話。蛇を愛していた老人は自らも人を殺し、その血肉を蛇に与え、自らも食す様になってしまったと。しかしその行いは当然のごとくばれ、村の住人達に蛇もろとも殺されてしまった。そういう話です」
     ウィラはファイルをパラリとめくり、事件の説明に入る。
    「この古の畏れが現れるのは深夜、とある山中の河原です。この古の畏れを呼び出したスサノオと接触することは出来ませんが、被害が出る前に古の畏れを灼滅することは出来ます」
     接触時には周囲に人もおらず、月明かりが出ているため、特に注意する必要もなく古の畏れとの戦闘に集中できるとウィラは言う。
    「蛇……蛇目は自身の牙や身体を使用した戦闘を。老人はナタを使った戦闘を行います」
     ここまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。それなりに危険な相手ですが……皆さんが無事に、勝利を収められることを祈っています。お気をつけて」


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    オデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)
    北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    月弓・奏(月下鳴弦・d31971)

    ■リプレイ


     1体のスサノオの手によって、人を喰らう蛇と老人の古の畏れが生み出された。
     そしてそれを灼滅するべく、8人の灼滅者達は古の畏れが出現する河原の近くまで訪れていた。
    「古代の畏れですか……直接相対するのは初めてですが……。なんというか、業の深く物悲しい存在ですねぇ……」
     山道を進みながら、紅羽・流希(挑戦者・d10975)が呟く。
    「そうね…………自分が拾った蛇が、人を喰らう蛇で、愛していたがゆえに自分も人を喰らうようになった……蛇目を愛していたのなら、おじいさんが止めなきゃいけなかったのよ」
     オデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)が流希の言葉に応えた。
     本人がいくら愛のためだと主張しても、そのせいで罪のない人間が多く殺されてしまった。
     それは、そう易々と許される罪では無いだろう。
    「今から会うのは敵で、見た目がそれっぽいだけで蛇じゃなくて古の畏れで…………いやでもやっぱしそれって蛇じゃ」
     山道を突き進みながら石弓・矧(狂刃・d00299)が何かブツブツ言っていたが、幸い誰にも聞こえていなかったらしい。
     そうしてしばらく歩みを進めた灼滅者達は、古の畏れが出現する河原のすぐ近くまで到達していた。
     そして灼滅者達が近づいてきているとは知らない蛇と老人は、揃って河原を徘徊していた。
    「キヒヒヒヒ…………こんな山奥じゃあ、餌になる人間は中々いないのう…………」
     乾いた瞳で老人が周囲を見渡すが、誰の姿も見つけられない。
     だが一方で、蛇目は何かに気づき、興奮した様子で老人に擦り寄った。
    「ん? どうした蛇目……あっちに誰かいるのかのう?」
     蛇目が頭を振って指す方向に、老人が振り向く。
     そこには、古の畏れを灼滅するために訪れていた8人の灼滅者達が立っていた。
    「キヒヒヒヒヒヒ…………新鮮な人間が、8匹。でかしたぞ蛇目。今日はご馳走にありつけそうじゃ。キヒヒヒヒヒ」
    「悪いが俺らは食材じゃないぜ、灼滅者だ…………まあ分かりやすくいうと、あんた達を殺しに来た奴らだよ」
     北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)がそう告げても、老人は笑い続けた。
    「貴様らのような小童が、ワシと蛇目を殺す……? キヒヒヒヒ……!」
     老人達の前に、日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)が殲術道具を構えて立つ。
    「日野森沙希、貴方を祓いますですよ」
     その沙希の言葉に、老人は顔をしかめる。
    「祓う……? 貴様らもワシらを化け物扱いするか……いくぞ、蛇目。この無礼な小童共を、八つ裂きにして喰らい尽くすのじゃ」
     老人がナタを構え、蛇目が老人を庇うように灼滅者達の前に進み出る。
    「蛇が大事だからって、人を餌にするのはやりすぎなの……餌になんかなりたくないし、きっちり退治するの」
     ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)がそう言って斧を構え、敵の動きを観察する。
    「私は、私に出来ることを……。それでは、参りましょうか」
     月弓・奏(月下鳴弦・d31971)は、自身の中に生まれた僅かな緊張を抑え、仲間たちに呼びかける。
    「そうだな……この狂人に被害を出させるわけにはいかない。そして、私達が食べられてやる訳にもな……行くぞ!!」
     志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)がそう声を上げ、スレイヤーカードを解放する。
     古の畏れと灼滅者達の戦いが始まった。


    「さあ、行くのじゃ蛇目、キヒヒ……!!」
     老人の呼びかけに応えるように、蛇目が口を大きく開けて、紫色の霧を放つ。
     猛毒が含まれたその霧が、後衛を包み込む。
    「激しい攻撃ですが、凌いでみせましょう…………」
     奏はその攻撃を涼しい顔で耐え凌ぎ、攻撃に転じる。
     まず、忍装束のビハインド『刃鉄』が、小刀を構えて蛇目に接近する。
     そして通り過ぎざまに蛇目の身体を切り裂き、怯ませた。
    「邪神を狩るは鴉かしら……行って、動きを止めて」
     その隙に奏は足元の影を無数の鴉のの形へ変形させ、それらを一斉に蛇目へと放つ。
     烏の群れは蛇目の身体に纏わりつき、その動きを鈍らせた。
    「……隙が出来たわ。今の内に攻撃を」
     奏がそう呼びかけると、ウロボロスブレイドを構えた既濁が、蛇目に向けて飛びかかる。
    「人を殺って餌にして、それで腹を満たして満足かね……ま、それに関しては別に言うことはねえが……面倒だな。殺すのに理由が要るってやつは」
     まるで自分とは違うとでも言いたげな既濁が、動きの鈍った蛇目の下顎を蹴り上げ、頭を大きく反らした。
    「ああいや、この場合は殺人が目的じゃなくてただの手段だったか……? ただ逆なだけか。ややこしい」
     既濁はそう言って自身の身体を回転させつつ、刃を伸ばした。
    「……ま、何であろうと敵には変わりない。仕留めさせてもらうぜ」
     既濁が放った激しい斬撃の応酬が、蛇目の全身を斬り、自身の力も同時に高めた。
    「おのれ……! 蛇目に何てことを!!」
     自身が愛する蛇が傷つけられ激昂した老人は、ナタを振り回しながら灼滅者達に突撃する。
    「クッ……やらせるものか!!」
     友衛が老人の前に飛び出し、振り下ろされたナタを肩で受け止めた。
    「ワシの蛇目を……ワシの蛇目を傷つけるなぁ!!」
     老人は血走った目で友衛を睨みつける。
    「悪いが……人に仇なすお前らを見過ごすわけにはいかない!!」
     友衛は肩に抉りこんだナタを引き抜いて老人から距離を取ると、右腕を獣化させて蛇目へ飛びかかる。
    「行くぞ……避けられるものなら避けてみろ!!」
     鋭く尖った爪を蛇目の身体に突き立て、友衛は一気に引き裂いた。
     蛇目は口を大きく開け、灼滅者達を威嚇する。
     そしてそのまま、ピアットに向けて襲いかかる。
    「んー……そう簡単に食べさせてあげないの!」
     ピアットは蛇目の牙を斧で受け止め、そのまま大きく斧を払って受け流す。
     蛇目は更にピアットに巻きつことするが、その前にピアットが反撃する。
    「締め付けるのなら、こっちも負けないの!」
     ピアットは影の触手を数本放ち、蛇目の全身を縛る。
    「更に更に、ぶつ切りにしてあげるの!」
     ピアットは巨大な斧を大きく振り上げ、一気に振り下ろす。
     刃が蛇目の身体に食い込み、血が流れ出す。
    「離れろ小童共!!」
     老人はナタを振り回しながら灼滅者達を威圧する。
     蛇目もまた老人の側に寄り添いながら、牙をむき出しにして灼滅者達を威圧する。
     それなりのダメージは与えてきたが、蛇目の体力はかなり高く、未だ倒れない。
     戦いはまだ続くだろう。


    「クゥッ……大丈夫じゃよ蛇目……ワシとお前が一緒になれば、こんな奴ら、すぐに喰らい尽くせる」
     最早老人の口からは、あの不気味な笑い声が漏れなくなっていた。それだけ追い詰められているということなのだろう。
     蛇目は老人の言葉に頷き、再び毒の霧を生み出して前衛に放った。
    「蛇は嫌いじゃないけど……毒放ったり食べようとしてくるのはちょっと怖いわね……すごく大きいし」
     毒の霧から飛び出してきたオデットは地を強く蹴って跳び上がると、妖気を纏わせた槍を蛇目に向ける。
    「冬眠から目覚めるには……ちょっと早すぎたわね」
     オデットは無数の氷の刃を放ち、蛇目に向かって降り注がせた。
     そして槍を構え直し、蛇目に向かって急降下する。
    「ここはあなたには寒いでしょう? でも安心して。もうすぐ天国に行けるから」
     そう言ったオデットは槍を蛇目の身体に貫通させ、抉った。
    「蛇目から離れろぉおお!!」
     かなりのダメージを受けた蛇目から引き剥がすように、老人がオデットをナタで斬りつけた。
     しかしその直後、流希が蛇目に追撃を仕掛ける。
    「全く今も昔も人間ってのは……大切な存在の為なら他人を犠牲にしても平気って輩が多すぎる……気持ちは解るが、な」
     流希は炎を纏わせた回し蹴りを放ち、蛇目の身体を大きく吹き飛ばす。
     木に衝突して止まった蛇目と老人を流希は見据え、光の剣を構える。
    「だがそうだとしても、貴様らを放ってはおけん。ここで、もう一度眠ってもらう」
     そして流希は剣を数度振り、鋭い光の刃を蛇目に向かって放つ。
    「御伽話は昔々から始まるもんだ……現代に、お前らの居場所は無い」
     光の刃は周囲の木ごと、蛇目の身体を斬る。
     なぎ倒された大木が、地面を大きく揺らした。
    「殺す……絶対に殺し尽くしてやるぞ、人間共……!! そして肉の一片も残さず喰らい尽くしてやる!!」
     老人は歯ぎしりをしながら灼滅者達を憎悪の目で灼滅者達を睨みつける。
    「貴方は……最早、自分を人では無く、バケモノとして扱っているんじゃないんですか?」
     不意に矧が投げかけた言葉に、老人は眉を潜める
    「何をぬかすか小童が……!! ワシからすれば、ワシらを殺したあの人間どもが……!!」
     矧はチェーンソーを構え、蛇目に接近する。
    「あなたは僕達を、そして他の人々を『人間』と呼んだ。それは自身を『人間』の枠組みに入れていないという事だ」
     蛇目の正面から跳びかかり、矧はチェーンソー剣を振り上げる。
    「自分たちを『バケモノ』だと。貴方は自分でそれを認めているんですよ」
     そして振り下ろされた刃は蛇目の右目ごと顔を切り裂き、大きな傷を刻んだ。
     苦しげな鳴き声を上げながら、天を仰ぐ蛇目。
    「おお、蛇目……!! 許さぬ、許さぬぞ人間共ぉおぉおおお!!」
     悲痛な叫びを上げ、老人は蛇目を庇うように立つ。
     しかし蛇目はそれを許さず、再び老人の身を守るように灼滅者達の前に這う。
     そして沙希が、蛇目と老人の前に進み出た。
    「もう終わりです…………貴方が人間に怒りを向ける理由は、化け物と呼ばれたからですか? それとも自分たちが殺されて来たからですか?」
     沙希は槍を構えながら、全身から膨大な炎を吹き出していく。
    「それでしたらあなた自身の、化け物と呼ばれる所業の数々はどうなるんですか? 人を殺しておいて自分が殺されたから憎いと?」
    「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!! 貴様ら人間に、ワシラを理解することは出来ない!!」
     沙希の問い詰めに、老人は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
    「堕ちる所まで堕ちた貴方は、最早人間ではありません……せめてもの情けに、清浄なる炎で蛇と共に祓って差し上げます!!」
     そう言って槍を構えて沙希が蛇目に攻撃を仕掛け、他の灼滅者達も一斉に攻撃を仕掛ける。
     ピアットの放った魔の弾丸が全身を痺れ上がらせ、
     矧の放った炎の蹴りが、身体を焼く。
     奏が影を纏わせた剣を身体に突き刺し、
     既濁が伸ばした刃で尻尾を切り刻む。
     オデットが杖を蛇目の腹に叩き込み、体内で爆発させ、
     流希が居合の構えで蛇目を一閃する。
     友衛が放った氷の刃が蛇目の全身に突き刺さり、
     沙希が業火を纏わせた突きを放つ。
     放たれた炎は大蛇の形を成し、蛇目を丸ごと包み込み、焼いた。
     口を開きながら炎に包まれた蛇目は、そのまま動かなくなってしまった。
    「じゃ……蛇目…………」
     老人はナタを手落とし、心臓を抑えながら燃え盛る蛇目に身体を寄せた。
     そしてそのまま、蛇と老人の身体は焼きつくされ、骨の一欠片も残らず消え去った。
     
     こうして、人を喰らう蛇と老人の古の畏れは灼滅された。
     だが、彼らを生み出したスサノオに関しては、未だ灼滅者たちと出会ってすらいない。
     灼滅者達は、スサノオの手によって新たな罪人が呼び起こされないことを願いながら、帰還するのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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