偽りの園

    作者:森下映

    「せんせーい! こっちきてー!」
    「はーい! ……ごめんねきりちゃん、行ってきていいかな」
     小学生になったばかりの子たちが先生を呼んでいる。わたしはもちろんうなずいた。だってわたしはあの子たちよりずっとお姉さんだから。でも。
     部屋に戻ってドアを閉める。
     ――でもホントはさ、先生たちひとりじめしたいよね?
    「そんなこと……」
     ――最近きたアノ先生、ちょっとかっこいいし?
    「そんなことっ!」
     枕を鏡に投げつけた。くすくす誰かが笑ってる。
    (「ううん」)
     知ってる。わたしはそれが誰なのか知ってる。
    (「……わたしにはできる……?」)
     ――そうよ♪
     わたしには力がある。先生も他のみんなも、虜にできるくらいの魅力が、
    「わたしには、あるの……?」
     ――当然じゃない♪
    「みんな、わたしだけをみてくれる……?」
     笑ってる。鏡の中のわたしが笑ってる。
     ――早く、こっちへきちゃいなよ。
     早く。ね?

    「一般人の女の子が闇堕ちして淫魔になりそうなんだ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が言った。
    「彼女の名前は亜篠(あしの)・きり、小学校4年生。物心つく前に両親を亡くした彼女は、家族と暮らせない子どもたちのための施設にいるんだけど……」
     きりは面倒見がよく、年下の子達にとても優しい。自分はお姉さんなのだから、と先生たちが他の子どもたちにかかりっきりになっても我慢していたが、心の奥底にはもっと自分を見てほしい、先生を独り占めしたい、という気持ちもあったようだ。
    「闇堕ちのきっかけは新しくやってきた男の先生のようだけど、あくまでもきっかけなんだろうね」
     きりはまだダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきっていない状態。
    「もし彼女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救いだしてほしい。そうでなければ……灼滅してほしい」
     きりはその日、気分が優れないといって自室に閉じこもっている。すでに学校は冬休みだが、施設の他の子どもたちは学童や保育園に行っており不在。職員が数名いるが、きりの部屋の窓は庭に面しているので、庭から侵入すれば、職員に気づかれずにきりと接触することができるだろう。窓は人が出入りできる大きさで、キリの部屋の隣には庭とつながるドアもある。
    「いずれにしても戦闘はなんとか庭へ連れだして行ったほうがいいね。広さは十分あるよ」
     きりは年相応の姿から、小柄な背丈は変わらないながら肉感的で妖艶な淫魔の姿へと変化し、戦闘時にはサウンドソルジャーと魔導書相当のサイキックを使用する。
     きりを闇堕ちから救う場合にも灼滅してKOする必要があるため、戦闘は必須。KO後、灼滅者の素質があれば灼滅者として生き残る。また、彼女の人間の心に呼びかけることで、戦闘力を下げることが可能だ。
    「小さい頃から封じ込めてきた気持ちが今になって爆発したんだと思う。でも淫魔の力で先生を惹きつけたとしても彼女は……」
     よろしくね、とまりんは灼滅者たちを送りだした。


    参加者
    九条・風(廃音ブルース・d00691)
    蓮華・優希(かなでるもの・d01003)
    橘・千里(虚氷星・d02046)
    ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)
    辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)
    成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793)
    ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)
    神成・恢(輝石にキセキを願う・d28337)

    ■リプレイ


    (「まァ年齢的にも仕方ねェだろうなァ、環境も環境だろうし」)
     施設の庭。九条・風(廃音ブルース・d00691)は、きりの部屋から見えない場所に待機している。
    (「ただ間違った方向に行くんなら止めてやらんと。それが年上ってもんだ」)
     続けた我慢、湧き上がってしまった独占欲。罪悪感。
    (「火傷みてェなもんなんだろうよ、いつまでもヒリヒリ痛むみてェな」)
     傍らにはサーヴァントのサラマンダー。共に動き出すべき時を待つ。
    (「『お姉ちゃんだから』」)
     くすんだ灰色の髪が風にそよぎ、同じく庭で待つ橘・千里(虚氷星・d02046)の右頬の模様があらわになった。
    (「この言葉は魔法の言葉。唱えれば強くなれる。でも……その強さは諸刃の剣」)
     千里も一家の長女。きりの気持ちはよくわかる。姉を姉たらしめる存在がいかに大切であるかも。
    (「子供の頃ってわけじゃないんだけど……私も家族を失くしてるから。気になる人もいたから」)
     家族を失った経験、恋を失った経験。成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793)は、自分ときりを重ね合わせていた。
    (「だからこそ、真摯に向き合いたい」)
     建物の影にはルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)。 側には霊犬のモップがいつもの通り、ぐったりと寝そべっている。一方、神成・恢(輝石にキセキを願う・d28337)は、
    (「俺も寂しいのは嫌い。寂しがっている人も嫌い」)
     実習生を装い接触を試みている辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)、蓮華・優希(かなでるもの・d01003)、ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)の様子を見守りながら、思う。
    (「繋がりを求めるなら手を差し伸べたいし、求める余り道を踏み外すなら、別の道を教えてあげたい」)
     別の道を選ぶ力は誰にでもある。しかしその邪魔をするのはきっと、
    (「小さな孤独と、そこに付け入る弱い心」)
     討たなきゃならないのはその2つ。恢は意志を固めた。


    「こんにちは」
     ヴァイスが部屋の窓をノックした。カーテンは開いている。ベッドの上に座っていたきりが顔を上げた。窓の外から飛鳥は、困っている、とお願いするようなジェスチャーをする。
     年上の優しげな女性たち。少しためらいを見せたものの、明らかに人が困っているのを見過ごすことができる性格でもないのだろう。きりは立ち上がり、窓を開けた。ヴァイスは、
    「突然すまない。初めての場所で勝手がわからず、困っているんだ」
    「……先生たちにご用ですか?」
    「そうなの。わたしたち先生の卵なんだけど、どこへ行ったらいいのかわからなくて」
     飛鳥が言う。
    「よければ案内してもらえないかな」
     優希が言った。
    「入り口は向こうなので……外から戻ったほうが早いです」
    「あちらだろうか」
     ヴァイスはわざと違う方向を指差す。
    「いいえ……ちょっと待っていてください」
     きりはカーディガンをはおると、ぱたぱたと部屋を出て行く。程なくして部屋の隣にあるドアが開いた。
    「おまたせしました。じゃあ、」
    「あ、待って」
     先に立って歩きだそうとしたきりを飛鳥が呼び止める。しかしここからどうすべきか。連れ出すことには成功した。が、案内を頼んでおいて遊びに誘うのも不自然。自己紹介を始める雰囲気でもない。
    「ごくごく普通の願いでも、そこから湧いてくるダークネスはほんと厄介ですね!」
     建物の影から顔を出し、様子を見ていたルーナが言った。
    「私の正義の心、とかいて霊犬が黙っちゃいないですよ! ですよねモップ!」
     モップはぴくっと片耳をあげる。
    「さぁパパッと解決してくるのですよモップ!!」
     ルーナが片腕をさっと前に差し出した。と、
    「わん!」
    「きゃっ」
     きりの足元にモップ。霊犬だが見た目も名前も実は用途もモップ、がやってきた。
    「犬? どうして……ふふ」
     すぐにその場でぐったりと寝そべったモップの姿に、きりが笑みをこぼす。
    「やっと笑ったね」
     優希の言葉にきりがびくりとした。風は殺界を形成する。徐々に打ち解けていく時間はないだろう。戦闘の準備を整え、あとは時間のある限り彼女の心に訴えかけるのみだ。
    「君が、誰かに甘えたいと思う気持ちはわかる」
    「!」
     ヴァイスに心の奥を見透かされ、青ざめるきり。が、
    「私も君と同じく施設で育ったからな。両親の顔も知らない」
     同じ境遇。加えて肯定してもらえたことにほっとしたのか、きりはヴァイスの赤い瞳を見つめなおす。
    「甘えたい気持ちを抑えている君は優しく、強い子だ。それはとても凄い事だし、他の皆も先生もそう思っているだろう」
    「お姉ちゃんだから、みんなのためにってずっと我慢してたんだよね」
     飛鳥が言った。
    「まだ甘えたいときだってあるよね。当たり前だと思うよ。でも、」
    「幸せは奪ったり独り占めするものではないだろう?」
     再びヴァイスをきりが見返す。飛鳥は、
    「ましてやダークネス……今キミが使おうとしているその力で思い通りにしたって、それは本当にキミを見てくれるわけじゃないんだから」
    「っ、」
     きりが何か堪えるように唇を噛んだ。
    「寂しいって言ったことありますか?」
     姿を現し、恢が言う。
    「あ、始めまして。神成と言います」
     後ろにはルーナ、風、千里、ピアノもいる。
    「いきなり寂しい、って言ったら先生たち困るかもしれないけど」
     恢はきりの視線の高さに合わせて片膝をついた。
    「いっぱい我慢したなら、頑張ったなら。その分褒めて慰めてくれたんじゃないかな。俺だったらそうします。きっとアノ先生だって」
    「ふーむふむ、かっこいい先生を独り占めしたいと」
    「!」
     きりの目つきが尖る。ルーナは悠々と歩いてモップの隣にくると、
    「うん、普通の感情ですよ?」
    「えっ?」
    「誰だって好意持ってる人には傍にいてほしいですものー」
     ルーナは手のひら同士をあわせて傾けると、にっこりと言った。
    「でもそれじゃ、」
    「いいんですよ、たまには我がまま言ったって」
     ルーナはきりの正面に立ち、
    「無理やり虜になんてしなくても、優しいあなたのことはみんな、大好きなはずですから!」
    「あ」
     きりが胸の真ん中を押さえる。
    「さびしいのをずっと耐えて、皆のために我慢してきたこと、本当に偉いって思うよ」
     飛鳥が念を押すように言った。
    「あ、あ、ア、」
    「まァ、姉役兄役ってのはどこでもそういう葛藤あるもんだよな」
     風はSpietataを装着し、
    「同情するぜ。……殴るのは止めねェけどな」
     瞬間、きりの姿が変化した。


     ルーナがサウンドシャッターを発動する。ワンピースにカーディガン、ニットのソックス。そんな部屋着姿は一瞬にして消し飛び、今きりが身につけているのは肩と胸の大きくあいたボディースーツ1枚。手首と首には白いファーが巻かれ、同じ色の猫耳と尻尾が現れたが早いか、きりはニーブーツの爪先で大きく跳んだ。
    「総てを喰らえ、氷華の刃!」
     千里がスレイヤーカードを解放する。そして即座に狙いを定め、氷牙槍ブリューナクを投げ放った。
     黒衣-鬼姫-に身を包んだヴァイスは魂を闇へと傾け攻撃力を高めながら、虚空ノ刃を手に握る。恢は双子の兄であるビハインド、玄を出現させると、槍の妖気を冷気と変えつつ走り出した。
    「行くぜサラマンダー。寒空の下で突っ立ってんのも飽きたとこだ」
     風がキャリバーに飛び乗る。
    「絶対に救ってみせる! ……着装!」
     スレイヤーカードを掲げ、駈け出した飛鳥の身体が瞬く間に、足元から黒髪のポニーテールまで紅い装甲服に覆われた。飛鳥は身体から噴出させた炎をPLBG-11 拾壱式光刃刀に宿し、片足で踏み切る。
    「今までとっても辛かったよね……でもどうか、その優しい心を忘れないで!」
    「きゃあっ!」
     空中できりに飛鳥の炎が叩きつけられた。さらにむき出しの肩へ千里が投げた槍が突き刺さり、激しい捻りが肌と肉を穿ったところへ、ルーナが激しくかき鳴らしたギターの音波が直撃する。
    「や〜! 痛い〜!」
     体勢を崩し、墜落するかに見えたきりだったが、
    「なんてね♪」
     片足を振りぬき、くるっと1回転すると、
    「燃えちゃえ〜♪」
     ドン! という音とともに広範囲で爆発が起きた。きりが狙ったのは後衛。しかし禁呪の攻撃はいち早く盾役が肩代わりしていた。ルーナの前にモップ、恢の前に黒いトカゲのトライバル散る真紅の車体。優希は爆破の衝撃をソードで耐えると、そのまま刃を非物質化させ、着地したきりへ斬りかかる。
    「自分で求めている?」
    「え? 何?」
    「あなたは、自分の足で踏み出せているかな?」
     構えたソードの影から、優希が問いかけた。
    「自分では我慢して、我慢して、他の誰かに頼って……その他の誰かに自分を明け渡していないかな?」
    「やだ何いってんの?」
     鼻先で笑い、きりが優希のソードを避けて方向を変える。
    「だいたいもうコノ子の自分なんてどこにも、」
    「とりあえず確実に痛てェ目に合ってもらうが、」
    「きゃ!」
     目の前にはレッドカラーのライダース。かばいに向かったサラマンダーから飛び降りていた風が、きりの前に立ちはだかっていた。
    「まァ勘弁してくれ。本意じゃねェだろ、お前も」
     きりの頭上へSpietataが振り下ろされる。放出された霊力の網がきりの身体をひゅると縛り、対角からサラマンダーが機銃を掃射。隙を逃さず、優希のソードがきりの魂を断ち切った。
    「ね、きりちゃん」
     足元に炎を纏い、ピアノが外周から駆け入る。
    「誰かの特別になりたいって気持ちは、特別でもなんでもない普通の事なの」
     蹴りかかるピアノのエアシューズを吹き飛ばそうと、きりは魔導書から光線を発射した。が、
    「亜篠さん。そこは本当にあったかいですか? やっぱり寂しくない?」
     恢が言う。刹那きりの背中へ、恢が槍から放っていた鋭い氷弾が突き刺さった。よろけるきりをピアノが蹴り倒し、続けて玄の毒の波動が命中する。
    「きりちゃん、鏡に映ってた自分、どんなだった?」
     半身を燃え上がらせ血を滴らせるきりへ、ピアノが言った。
    「普段慕ってくれている子供達に。頼ってくれる大人達に。そして気になるあの人に。鏡に映った自分を、本当に見てもらいたいって思った?」
     きりはピアノをひと睨みすると、歌声を轟かせ、傷を塞ぐ。
    「そんな力使わなくたって、きりちゃんはとても魅力的」
    「うるさいわよ!」
    「おっと」
     割り込んだ風がRouletteからシールドを広げた。運命を決める回転盤にも似た障壁が前衛の盾となる。たっ、ときりが飛び退いた。
    「相手の気持ちを捻じ曲げてでも 埋めたい隙間があるのは分かるつもりです」
     きりを追い、手のひらへオーラを集中させながら恢が言う。
    「でもその誘惑に負けたら、みんなを悲しませることになっちゃうから!」
     飛鳥が言った。
    「強引に人を傍に置いたって、傍にいたいと自ら望んでくれなければ……ずっと寂しいまま」
     恢が両手をきりへ向ける。
    「このままじゃ隙間は深くなるだけ。望まれる為に進まなきゃ!」
     恢の放ったオーラがきりへ向かった。避けようと踏み出したきりを白光の斬撃が突き飛ばす。ヴァイスが虚空ノ刃から繰り出した破邪の光と恢のオーラの炸裂に挟まれ、きりの姿が薄らんだ。


    「姉として我慢して来た事、辛かったよね。でも君の力はそんなことのためにあるんじゃないぞ!」
     千里の合成音声が優しく語りかけると同時、きりの身体は氷爪剣フェンリルの凍てつく青い切先に斬り刻まれた。
    「君のその力は君を慕う子や、君が好きな先生たちを守る為の力。魅了するための力じゃない」
     千里の髪が通り過ぎる。きりは血にまみれ炎くすぶる自分の手足を駄々をこねるように振った。
    「なんなの……なんなの!」
    「その力、大事な人を守る為に……私たちに貸してくれる気はない.……?」
    「知らないってば!」
     苛立つきりの攻撃が向かった先は優希に安々と読まれ、もう幾度目か、ソードで受け流された。途中風に付与された怒りによって狙いは単調。癒しのためにルーナの奏でる響きが鳴り、モップが眼力を使う。対して傷を塞ぐことはできても、状態を戻すことはできないきり。
    「な、」
     きりの目前、優希が片腕を異形化させた。きりが思わず眉をしかめる。優希は、
    「醜いかな? そうだね、確かにあまり人に見せたくはない。でも、」
     ばっと交差したきりの両腕の防御を打ち破って、優希が鬼の腕で殴りつけた。
    「これも自分の一部だから」
     時には醜いところを見せてもいいのだと。優希は攻撃にのせて訴えかける。
    「なにいってるの!」
     きりが叫んだ。そして魔導書を掲げようとした寸前、サラマンダーが突撃。続けて風の翅蛇がきりの背を蹴り潰した。取り落とした武器を拾おうと伸ばした手は、ルーナの紅い手甲、焔に打ちのめされ、ヴァイスが影を宿した虚空ノ刃が容赦なくトラウマをひきずり出す。
    「なによ! みんなに好きになってもらって何が悪いの!」
    「きりちゃんは、そのままの魅力的な自分をもっと磨けばいいんだよ」
     エアシューズの駆動を1度止め、ピアノが言った。
    「私にお手伝いさせて。普段はお姉さんのきりちゃんも、私相手にはお姉さんじゃなくていいんだから」
     きりは両手で自分の耳を押さえる。その胸元を黒い矢が射抜いた。千里が飛ばした魔法の矢は、圧縮から解き放たれ、きりの身体の中心で改めて爆発する。
     ファーは赤く染まり、髪は焦げ、艶やかだった肌はあざに埋もれ。だがまだその痛々しい姿は、きりであってきりではない。
    「この一撃で、終わりにする!」
     闘気を雷と変え、飛鳥が駆け込む。
    「おいで? 他の誰かじゃなくて、自分の足で」
     優希が言った。
    「そして、うーーんと素敵な自分になろうよ!!」
     そう言ってピアノは、その場から流星の重力が反転するかのようにエアシューズできりを蹴り上げる。倒れかけたきりをピシピシと音を立て光る稲妻の這う、飛鳥の拳が弾き飛ばした。
    「……もし、亜篠さんが全てを拒絶するならその時は、って、思ってました」
     倒れこんだきりを受け止め、恢が言う。
    「俺はそこまで優しくもないしお人よしでもないから……ごめんなさい」
    「ひと安心ですね!」
     元の通りの姿で眠るきりの顔をのぞきこみ、ルーナが笑顔で言った。恢の口元も少しほころんだように見えた。


    「だからきりちゃん、わたしたちの所に来ない? わたしたちは大歓迎だよ!」
     目を覚ましたきりに風が学園の説明をした直後、飛鳥が言った。千里もメモにペンを走らせ気持ちを伝える。視線の合ったピアノが頷いてみせると、きりもしっかりと頷いた。
    「自分の足で踏み出せば手に入ったでしょ?」
     優希が囁き、手を差しのべる。きりがその手をとった。
    「このあたたかみが」
     そして、きりを抱き寄せると
    「おかえり」
    「う、」
     堰を切ったように、きりの目から涙が溢れ出した。

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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