少女の境界

    作者:菖蒲

    ●situation
    「好き、です」
     これ、と付き返されたのはくしゃくしゃに丸められたラブレター。
    「いらねぇよ、ブッ、ブス」と吐き出された言葉に少女は目を見開いた。
    「……ッ」
     罅割れた眼鏡に水滴が幾つも落ちる。街に鏤められた星が眼窩で輝いている。
     家でサンタクロースの格好をしプレゼントを手にした父を見た時に、中学生なのに淡い夢を持っていたんだなと自虐した。
    『サンタクロースを信じ続けた夢見がちの眼鏡ブス』
     そんな呼び名があたしには似合うのか。
     サンタクロースを信じなくなったら大人なのか。初めての恋を忘れ去れば大人なのか。
    「ッ、ぅ――アッ……!」
     大人と子供の境界線。あたしは――受けとめる事が出来なくて。
     
    ●introduction
    「サンタクロースが箱を一つ、とびっきりの贈り物――サンタって『居る』のかな?」
     唇に冗句めいた笑み一つ。不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)は首を傾げる。
    「雪村・未明さん。中学校三年生。彼女が、闇堕ちしてデモノイドになる事件が発生しようとしてるの」
     デモノイドは理性なく暴れ回り、多くの被害を出す。だが、今ならば事件の直前に現場に突入できる。
     真鶴は「被害を未然に防いで欲しいの」と金の眸を瞬かせる。聖夜の夜、未明に起きた『重大な事件』は何て事無い話しなのかもしれない。しかし、少女の心には大きな傷を残したのだろう。
    「少し、重要な話しなの。デモノイドになったばかりの状態なら、多少の人間の心が残ってる事がある。
     だからね、その心に訴えかける事が出来れば灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれない。……だから、」
     助けられるならと真鶴は絞り出す。救出できるかどうかはデモノイドとなった者がどれだけ強く人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっている。
    「デモノイドとなった後に人を殺してしまうと、人間に戻りたいと言う願いが弱くなるから……助けるのは難しくなる」
     接触するのは未明が告白した海沿いの公園。
     鮮やかな光が遠くにある彼女や彼女の告白相手の地元では有名なデートスポットだ。
    「未明さんは告白し、振られたの。勇気を出して告白した女の子に不細工なんて、失礼しちゃう。
     サンタクロースを信じていて、父親がサンタだった。その上で片思いの相手にブスと言われれば――失意の淵へと追いやられるに決まってるもの」
     その手が告白した相手を殺す前に。介入し、未明を止めて欲しいのだと真鶴は言う。
    「公園で告白の相手である男の子を逃がすか守るかの方針も決めておいてね? マナは出来れば未明さんを助けて欲しいかな――どうか、人間に戻りたいと願わせてあげて欲しいの」
     楽しい事も、嬉しい事も。哀しみに飲み込まれ失意の淵で闇に堕ちたとしたならば。
     これからの幸福を教えて上げて欲しいと真鶴は呟いた。初恋は叶わぬからこそ美しいとどこぞの文学では書いていたけれど――それでも悲しい事だろうから。唇を震わせてエクスブレインは柔らかく笑う。
    「ハッピーエンドはみんなの手で! 幸福をプレゼントしてあげて欲しいの、ね? サンタクロース」
     灼滅者へと『幸せ』のプレゼンターとなってと勇気づける様に彼女は言った。


    参加者
    江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)
    天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    齋木・桃弥(星喰む夜叉・d22109)
    成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793)
    東間・玄(プロテクター・d25274)
    灰慈・バール(魂の在り方を問う彷徨いし者・d26901)
    イヴ・ハウディーン(怪傑ジョーカー・d30488)

    ■リプレイ


     冬の掠れた風が潮の香りを運ぶ。静寂漂う冬の海に街のネオンが反射し星空の様に煌めいた。
     海風に揺れた金糸はあの日、元に戻る事の出来なかった男を思い返させる様で、天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)は明るい空を思わせる瞳を細めた。
     その日も街のネオンが煌めき、星を零した空の様に思えた事を覚えている。遠巻きに見えた街の明かりがやけに無機質に思えたのは戻れるか戻れないかの些細な差。
    「『自信』を付けるのは難しい事だけど、卑下するものでもないからね」
     唇に乗せたのは人間としての本能。己を卑下し続ける事で往きつくのは絶望だけだと江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)は知って居た。眼鏡の奥で細めた深海色の瞳は向きあう男女の姿を映して居る。
     華奢な身体を震わせる少女は何処かでぶつけたのか割れた硝子越しに丸められたラブレターを眺めている。ぽつ、ぽつと硝子に落ちた雫の意味を東間・玄(プロテクター・d25274)は知って居た。
     彼の表情を隠す仮面の奥、青年が何を思い描くのかは分からない――只、マスクから漏れる怜悧な瞳の色は殺戮に傾倒する意志を今日は感じさせない。
    「ダークネスに成り得るか、そうならざるか」
    「成らない様にcoolに解決するぜ。未明さんにはまだチャンスはあるはずだからな」
     天使の翼を思わせるベルトをその身に纏わせて、イヴ・ハウディーン(怪傑ジョーカー・d30488)は小さく頷いた。灼滅者として戦いに出るその実力はイヴの中ではまだまだ不足している。それでも、想いまでもが落込んで閉まっては意味がないと幼いながら彼女は知って居た。
    「シンデレラを迎えに行くとしようか」
     マントを揺らし、萌えフィギュアをそっと仕舞いこんだ灰慈・バール(魂の在り方を問う彷徨いし者・d26901)が告げる。勇ましさを感じさせるバールの言葉に風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)がゆるりと頷いた。
     淡い闇の帳に隠された長い髪を揺らし、優歌が唇に乗せる。ちらちらと空から舞う白雪の色は、聖夜を思わせるようで。幼い頃に聞かされたサンタクロースの物語はどの様な話しだっただろうか。
    「サンタクロースはソリに乗って世界中に贈り物を届ける優しい人。貰うだけで子供ならそれに憧れる事ができますから……」
    「だからこそ、憧れる、か」
     齋木・桃弥(星喰む夜叉・d22109)が零す言葉に優歌が頷いた。向きあう男女へと視線を送った桃弥は公園の砂利を踏みしめる。決して柔らかくないその感触を確かめる様に靴底で踏みしめて、妖の槍を手に彼は「行くぞ」と呟いた。
     無機質な星空に生み出されたのは無機質な蒼。巨大な腕を持った異形が産み出され、その拳を振るうその隙間へと、日本刀を手にした龍一郎が滑り込む。
    「必死の想いで書いた手紙を『そんな風』にする遣るなんて本当は助けたくないんだがな」
     へたり込む少年へと背中越しに告げた言葉に、「バケモノ」と吐き出した彼は唇を戦慄かせる。
     交通標識を地面に突き刺して成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793)は異形へとその姿を変えた少女へと視線を送る。慈愛に溢れた桃色の眸が映す蒼色は何よりも無機質に見えて、ピアノは唇を震わせた。
    「……また、」
     ――あの子、自分の事みじめだって思ってる。そんな事無いって伝えなくちゃ。


    「ん、逃げた方がいいよ」
     淡々と告げた麒麟が振り仰ぐ。座り込んだままの少年は自力では動けないのだとずりずりと後ずさる。
     少年を護るように立つ桃弥の指示に首を振った少年へと彼が発する風は昏々と眠りの縁へと誘っていく。
     入れ替わるようにその細腕からは想像もつかない力で少年を抱えた優歌は自分を標的に定めた無機質な蒼い存在――デモノイドへと視線を送る。
    「オオオオ――!」
    「確かに、男の子の態度は酷いよね。女の子に不細工って失礼しちゃうと思う。
     でも、あの子も戸惑ったんじゃないかな……なんて、思ってしまうのは、ちょっと好意的解釈が過ぎるかな?」
     独白にも似た思いを吐き出してピアノが穂の先をデモノイドへと向けた。
     救いを失ったデモノイドではない、中学三年生の気弱な少女なのだと彼女は知っている。だからこそ、想いを吐露するように声をかけた。
     イヴの放つ援護射撃は足止めを行う為にデモノイドの腕を狙う。恋する乙女の末路――その果てが『バットエンド』は認められない。
    「傷つき涙に堪えながら告白した乙女のすることじゃないぜ、お嬢さん」
     正面へと飛び出して、声をかける彼女は『coolな漢』を気取る様に唇に笑みを乗せて見せた。
     アメリカ西部の男たちに伝わる伝説の拳銃――バントラインバヨネットカスタムは小振りの剣を付け、弾丸を放つ。
     イヴの弾丸と重なった玄の弾丸は弾幕の様に散り散りに蒼い巨体を押し留めた。彼が視線を送るだけでエンジンをフル稼働させ連撃を重ねるヴォーバンの稼働音が耳を劈く。
    「確かに信じて居たものを否定されるのは辛い、好きな人に否定されるのも辛い、それは痛いほどに分かるでござる」
     振り翳した腕を押し留めた龍一郎の背後で指輪を煌めかせて愛らしくメロディを奏でる麒麟の眸が煌々と輝きを増す。市中の煌めきさえもを灯したその眸に乗せた残酷さは地獄(ダークネス)として生きた事があるからか。
    (「未明さんも彼に好かれようと頑張ってたわけじゃないなら、かってに夢見て、勝手に絶望した様に見えるけど……?」)
     小首を傾げる麒麟の眼前で、日本刀を振るい上げた龍一郎は無機質な青色を眺めて柳眉を寄せる。柔らかなネオンの中でも余りに気味の悪さを感じさせるから――
    「その姿は本当に自分なのか? それでいいのか?」
     念を押す様に、問い掛ける。巨大な刃に変わった腕が振り翳されて、龍一郎の腕を切り裂いた。
     抵抗を見せるデモノイドは理性なき破壊の化身となった事を厭う様に寄生体の肉片から強酸性の液体を飛ばし続ける。深い海の底に沈みこんだかのような少女の気持ちを受けとめる様にピアノは柔らかく笑って見せた。
    「私、家族が居ないの。怪物に殺されちゃったんだ。時々ね、無性にお父さんたちの事思い返すの」
     私の話しだよ、と肩を竦める彼女の槍がデモノイドの身体を貫いた。螺旋するその勢いに貫かれてふらつくデモノイドが呻き声をあげるそれを振り払う様にピアノは瞳を細める。
    「子供のころはなんとも思ってなかった行動の1つ1つが、私の為にしてくれたものなんだなぁ、って今なら分かるんだ」
     煌めくネオンに、仄かに香る海風に。人気のないこの場所で武器を持った灼滅者八人も未明の為に刃を振るっている事をピアノは良く分かって居た。
     彼女の父親がそうだったように。誰かの笑顔が幸せで――それが我が子ならば尚更に。
     舞う木の葉を感じながら少年を攻撃範囲の外へと運びだした優歌は『トラウマ注意』の黄色標識を仲間達へと示す。靴底が蹴り上げる砂利の感触さえも、理不尽な運命を感じさせて優歌は目を細める。
    「サンタさんはいますよ」
     襲い来る影に優歌が仰け反る刹那、常闇の瞳の色にも似た冷ややかな妖気がデモノイドの体へと飛び込んだ。
     怜悧な瞳に宿されたのは、静かなる激情。神事を司った桃弥は夜更け色の眸を細めて言葉少なに少女を呼んだ。
    「サンタクロースは確かにいるが――その正体が父と知ったのは余程辛かっただろう。
     今の今まで夢を見続ける事は悪くない。好きな相手に告白できたのは寧ろ素晴らしい事だと僕は思う」
     僕は恋を知らないから、と桃弥は付け足した。恋情がどれ程の激情かを彼は知らない。大海原を荒らす強固な風の様に。静けさ漂う冬の海を荒らす風の如き想いを少女が宿しているのかもしれないと、その気配は嫌と言うほどに感じられた。
    「僕もサンタの正体を知った時、それこそ絶望を感じた事はあるよ。
     しかし、お父さんが何故サンタの格好をしていたかを考えた事はあるか?」
     彼の問い掛けに、少女は――幸村・未明は答えない。


    「夢見がちってのは悪い事ではないと思うぜ。人は夢を抱いて、成長するんだからよ」
     バールの言葉に首を振って影の触手が伸びあがる。絡め取らんとするそれを打ち破る様に玄がそのダメージを肩代わりし、デモノイドの少女を眺めた。
     蒼い体躯は少女のものからは遠く、別物に見える。玄はそのデモノイドの中に、未明の自我を感じとった様に目を細めた。
    「無理やり大人になる必要はないでござる。大人にはいつの間にかなっていて、気付かないもの。
     こどもとおとなの境界線なんてどこにもないし、見えない物でござるよ。誰だって、解らないでござる」
     幸村さんと呼んだ声にデモノイドは拳を振り上げる。
     どうしようもなくて、辛く悲しいのだと。悲痛な声から感じとってはバールは斬艦刀を振り翳した。
    「夢破れて、新たな夢を抱いて破れ……人はその繰り返しで成長していくんだ。
     いつか自分の夢をかなえるために必要な、大切な階段なんだ! 君の夢はまだ終わっちゃいけないんだ!」
     バールの声音は何処までも必死そのもの。勇猛果敢に先陣を駆けだした彼の頬を殴りつけたデモノイドの鋭い刃に、彼が唸り声をあげて刃を振り上げた。
     筋肉の軋む音がする。握りしめた無敵斬艦刀の重さが身に沁みる様で、バールは小さく唸った。
     デモノイドの戦闘行動に見えた少しばかりの戸惑いの隙を付く様に。
     振り下ろしたそれに倒れ込んだデモノイドへ龍一郎は「君を『人』に戻す」と厳しい一声を発した。
    「悲観したままそこから抜け出さない、そんな弱い心が作りだしたその姿で駄々をこねれば満足か?」
     誰かが、父親が慰めてくれるのを待ってまた夢の世界に戻るのか。
     悲観して殺戮人形にをの身を沈める事が何よりも本望と言うならば龍一郎はその刃で切り裂くだろう。
    「君は『人間』だ。戻ってこい」
    「ッ―――」
     僅かに見えた人間らしさに踏み込む様に麒麟が手を伸ばす。赤きオーラは麒麟の瞳とは対称的な色をしている。
     逆十字に蝕まれたデモノイドが少女の如き動きを見せて攻撃の為に振り翳す腕をゆっくりと下ろしていく。
    「信じる事をしないから、闇に飲まれるの。もしかしたらサンタさんは他に居るかもしれない、彼も、あなたがおしゃれして、綺麗になった振り向いてくれるかもしれない。
     ……なんであなたは何も頑張らないでしんじゃうの? 戻れない人もいるのに、あなたは、もどれるのに」
     厳しい言葉にデモノイドが首を振る。
     桃弥は「一つの経験なんだ。初恋は忘れなくて良い、それは糧にする事ができるだろう?」と声をかけた。
     影をで縛り上げた足先が砂利を蹴り上げて、蒼い巨体が迫りくる。
    「捕まえた」、と。
    「――お父さんはあなたの笑顔を見たかった。本気だったんだよ。あなたのサンタになる事が。
     子供の幸せの為に、本気になってくれるお父さんが居るんだから、凄く愛されてるんだよ。
     ……素敵なお父さんがいて、私は、あなたが羨ましい」
     真っ正面からピアノは告げる。愛情を滲ませた瞳は、優しげに細められて未明の名を呼んだ。
    「すて、き?」
    「素敵じゃないか。傷つきながら惚れた相手に告白しようとした最高の乙女に、素敵なお父さん。
     最高にいい女なんだ、男たちは未明さんをほっとかない。大人になるのは捨てる事じゃないんだぜ?」
     幼いながらも知って居た。モデルとして経験したノウハウを告げる様にイヴは小さく笑みを浮かべる。
     影の刃を押し留めて、イヴは「未明さん」と彼女を呼ぶ。coolな言葉は何よりも誰かを勇気づける物。
    「その昔、サンニコラウスさんという神父さんは子供達を本当に大事にしていたんですよ。
     その優しさに賛同した人が子供達を大事にし続けた――サンタさんはその役割の名前」
     優しい話を知ってほしい。職業の中に、サンタは存在しているのだと優歌は告げた。
     イヴが言う様に、大事にしなくてはならない素敵な父親は、何よりも未明を大事にしていたのだと灼滅者は言う。
    「弱いままではいけない。変われるかは君次第だ!」
     鋭い一声は刃と共に落とされた。鋭い切っ先がデモノイドの身体を切り裂いて、生温い風を吹かせる。
     何処までも温かい風は冬の海原を駆け廻る。まるで、誰かの心へと平穏を運ぶかのように。
     デモノイドが膝をつき、倒れて行く。嗚咽に混じる「ごめんなさい」の声に優歌は柔らかく微笑んだ。
    「大人になるのは、知識と力を得て人を大事にするということ。お父さんの様な素敵な人に、なりましょう?」


     歩み寄った龍一郎がおもむろに泣きじゃくる未明の前髪を上げる。
     頬を赤く染め、涙の筋を何本も残した少女の顔を眺め龍一郎は未明を呼んだ。
    「前髪を切れ、眼鏡を外せ。そしてしっかりと前を見ろ。そうすれば世界なんて簡単に変わる」
     罅割れた伊達眼鏡。涙の跡を残す硝子は投げ出す様に地面に転がっている。
     龍一郎の言葉に唇をかみしめた未明は白い息を吐き、掌を眺めて涙を零す。
    「武蔵坂にくれば、いいんじゃないのかな?」
     寂しいなら。戻れない誰かより――救えたのだから、差し伸べる事ができる。
     茫とした瞳を細めて麒麟は胸の中に薄っすらと残った過去の記憶を思い返す様に、未明の手を取った。
    「女の子が大人になるのってとっても難しいと思う。お父さんにびっくりしたんだよね?
     ……プレゼントありがとう、って言ってあげたらどうかな? きっと驚くと思うけど……笑ってくれるんじゃないかな」
     夢見がちな少女がサンタの格好をした父親に冗句めかして小さく笑う。そんな場面があっても良い。
     暖かな家庭を夢見る様に、ピアノは慈愛を宿す桃色を細めて小さく笑う。
    「言って貰えたら、きっと嬉しいと思うからさ」
     想いを受けとめる事が大人になる筈だから。俯いたままの未明はピアノの言葉に小さく頷いた。
     おかえり、と頭の上にポンと落とされた掌に涙を零した少女はか細い声で有難うと小さく言う。
     浮かべた笑みに「可愛いじゃないか」と龍一郎が彼女を褒めれば、頬を赤くして小さく俯いた。
     この世界の真実は、彼女にとっても『夢』の延長戦なのかもしれないけれど、今は帰ってこれた事に感謝する様に未明は小さく頷く。
    「それじゃあ、仕切り直しにクリスマスパーティーとかどうでござる?」
     手を差し伸べて散る粉雪に玄が息を吐く。長く伸ばした前髪の向こう側、雫が落ち続ける眼鏡を取って、未明は笑う。
     境界線はここにあるから――少女が灼滅者になる一歩を踏み出す様にしっかりと両の足で地を踏みしめた。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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