カンナビス灼滅作戦~FiveSpears

    作者:西灰三

    「今までノ、武神大戦の目論見が全てご破算ニナルとはね」
     かつて殲術病院であった廃墟の元院長室で、革張りのソファの残骸に腰を掛けたカンナビスが、ギギギと音をならしてヘヤの中を見渡した。
     院長室には、特に選りすぐりのアンデッド達が並ぶ。
    「シカシ、ハルファスはさすがに用心深い。この状況で、既に次の手を打っていたトハナ」
     カンナビスは、残存の病院灼滅者のアンデッドを、廃墟に配置して敵の襲撃に備えるようにと、元院長室に集まった配下に指示を出す。
     武神大戦の失敗により、撤退を余儀なくされたカンナビスの元に、同盟者であるハルファスより連絡が来たのは、撤退の2日後の事であった。
     武神大戦でいろいろ動き回った事から、拠点が露見した可能性があり、拠点の大規模移転を行ったというのだ。
     また、武神大戦を戦ったカンナビスには、他勢力の監視や追撃があるかもしれないので、拠点の一つで入り、もし、追撃があるようならば、それを撃破して欲しいという依頼も受領している。
     これからも、ハルファス勢力を隠れ蓑に研究を続ける上で、この程度の依頼は、当然引き受けるべきだろう。
     カンナビスはそう考え、この拠点に入ったのだった。
    「だが、ソレももう終わりダ」
     ハルファスから、武蔵坂学園による拠点襲撃の情報が送られてきた。
     この情報は、カンナビスのバベルの鎖の察知とも合致しており、間違いのないものだろう。
     現在のカンナビス配下の戦力では多少手を焼くかもしれないが、迎撃は難しくない上、ハルファスからの援軍もある。
    「武神大戦の借りヲ返す、良い機会でもアル。ハルファスの援軍が来る前ニ、灼滅者を片付けてシマエ」
     カンナビスの命令に、アンデッド達は恭しく礼をしたのだった。
     
    「新年早々集まってくれてありがとう、皆に集まってもらったのはカンナビスの行方がつかめたからなんだ」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)は武神大戦獄魔覇獄で獄魔大将の1人であったカンナビスのその後の説明を始めた。
    「カンナビスは配下のアンデッドと一緒に、廃墟になった殲術病院の一つに立てこもってるみたいなんだ。あとこの病院の周りにはソロモンの悪魔、ファルハスの部下達が監視する雰囲気で活動している感じだね」
     これらの情報はホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)、水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)、ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)の3人の情報によって分かったことだ。
    「殲術病院には特別な脱出路があるから、正面から攻めこむだけだとカンナビスに逃げられる可能性が高くなっちゃう。……だから正面入口、裏口、秘密の脱出路の全てから一気に攻めこむ作戦を取ることになったの」
     全部で5チーム。カンナビスを倒すために3つの出入口へ同時に襲撃をかける作戦である。
    「病院灼滅者の死体を使って戦力を増やすカンナビスを見逃すわけにはいかないからね。このチャンスを活かして灼滅して、お願いだよ」
     そう言ってクロエは件の廃墟となった殲術病院の資料を広げる。
    「廃墟にはさっきも言ったけど3つの出入口があるの。正面入口、裏口、秘密の通路。秘密の通路は下水道からつながっていて、カンナビスがいる院長室に直接つながっているの。全員が下水道から襲撃をかけると、カンナビスは残った二つの出入口、つまり正面入口や裏口から撤退しちゃうんだ」
     すなわち、確実にカンナビスを灼滅するためには秘密の通路から襲撃をかけるの同時に、正面入口と裏口を制圧する必要があるということだ。
    「3つのルートはそれぞれアンデッドが守っているよ」
     正面入口には多くのアンデッドが配置されて防衛戦を築いている、これらは病院灼滅者のアンデッド達だ。ここを突破するためには2チーム以上の戦力が必要となるだろう。
     裏口には試作品アンデッドであまり性能が出なかった『不良品』達が配置されている。不良品とは言っても通常の灼滅者アンデッドに比べれば戦闘力は高い、ただ連携などは全くとれていないので、上手く立ち回れば、1チームでの制圧も可能だろう。
     秘密の通路には強力なアンデッドが居る。獄魔覇獄で交戦した試作型アンデッド薬殺人形72号を超える戦闘力があるようだ。だが強化が不安定なために長時間の戦闘を行うと自壊してしまうようだ。確実に勝つのなら長期戦を見た戦術をとればいいだろうが、時間がかかる事がなんらかのデメリットになることはありうる。
    「今回の作戦は複数のチームで役割分担をすることになるから、どう戦力を分けるかとかよく相談してね。それじゃみんな頑張ってきてね! 行ってらっしゃい!」


    参加者
    レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)
    識守・理央(オズ・d04029)
    灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)
    水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)
    ルー・カンガ(南から来たカンガルーヒーロー・d27158)
    シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)
    ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(バーストブルーライトニング・d28514)
    永・雨衣(トコシエノハナ・d29715)

    ■リプレイ

    ●突破
    「りょーかい。そんじゃ、20秒後に突入で」
     同じ秘密の道を往く人造灼滅者の彼の言葉が静かに響く。カタカタと僅かに鳴るのは、声を出すのがしゃれこうべだからだろうか。
     ここに集った人造灼滅者達は多い。それはカンナビスが彼らの仲間の亡骸を道具として扱うまさに仇敵と言っていい存在故なのだろう。それぞれが思いを秘めて時を揃えて駆け出していく。そして程なくして門番のアンデッドと遭遇する。
    「これは前座に過ぎない、速やかに突破しよう」
     レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)の言葉と共に灼滅者達は武器を取りアンデッドに向かって殺到する。それは今回の作戦の目的がこの目の前にいる巨大なアンデッドではなく、これを生み出したカンナビスであるからだ。時は一刻を争う。
    「行きます!」
     隙にならない程度にお守りを握り頭を下げ、永・雨衣(トコシエノハナ・d29715)は防御の術を張る。早く倒すとしても損耗はここで抑えておきたい。
    「道を作ります!」
     前に出た灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)と右舷も守りの姿勢を固める、だが繰り出すのは氷の弾と六文銭。守ってばかりではここを超えることなど出来ない。彼女らの攻撃を援護射撃として二本の雷が門番を打つ。
    「おのれ……!」
     門番の上に飛び上がると同時にその姿がシャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)の目に入る。闇落ちにまで追い込まれ、そしてその体を更に継ぎ接ぎにされてアンデッドとなった存在。目をそらさずにそのまま巨体を異形と化した足で蹴り倒す。彼女と同じ様に動きを抑えるための攻撃が数度放たれる。その度に大きく身体が揺れる門番、だが反撃とばかりに援護に回っていた水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)に拳を振り下ろす。
    「危ない!」
     とっさに雨衣が間に割り込み彼を守る。がその衝撃はそこでとどまらずに、雁之助の体もまとめて吹き飛ばす。
    「つっ……」
    「次はこっちで受けます!」
     すぐに別働隊の守り手が前に出て二撃目を受ける。その間にも雁之助がすぐに立ち上がる、派手な割にダメージは無いようだが雨衣の方はそうではない。即座にルチノーイ・プラチヴァタミヨト(バーストブルーライトニング・d28514)が回復の輪を彼女に投げる。
    「命を大事にです……!」
     はたしてそれはメディックとしての矜持を表わすだけの言葉だったのだろうか。少しでも攻撃の被害を減らそうと前線の合間からルー・カンガ(南から来たカンガルーヒーロー・d27158)は門番に向かって光を放つ。
    「サザンクロスビームだぜ!」
     闇の中の光は眩しい。その光の一撃をかき消さんと門番はルーの方向を向く。だがそれが隙となった。
    「……蒼き寄生の猛毒……対象侵食……」
     死を招く光が背後から敵を貫く。それに続き一斉に攻撃が放たれ、次々と門番の体に傷が生じていく。そしてその中でも最も強い一撃が門番を捉える。
    「僕には、終わらせるしか出来ない」
     神霊剣を識守・理央(オズ・d04029)が振り抜いた。非実体となった刃は深々と門番の身体を切り裂き、自重に耐えられなかった相手はその場で崩れ去り、そして自壊した。
    「まったく、死体をもてあそぶのもいい加減にしろって所だぜ」
     ルーがその様子を見て呟いた。怒りが声ににじみ出ている。最後の一撃を与えた理央も辛そうに崩れていく様を見つめている。
    「急ごう」
    「先へ、行かなくては」
     レニーのとひみかの言葉に彼らはもう片方の班と分かれ前を向いて走りだす。ルチノーイは胸の中で黙祷を捧げながら。

    ●邂逅
     闇を駆ける。灼滅者達が道を征けばそこかしから響くのは戦いの音。剣戟が、銃声が、爆発音が壁越しに聞こえてくる。
    「……多分、この上の方に」
     雁之助が病院の外観を脳裏に浮かべる。通路を抜ければ直ぐにカンナビスの居る院長室へと出ることが出来るだろう。そこから進み程なくして一枚の扉が彼らの前に現れる。
    「ここがカンナビスのいる……」
    「正面の部隊ハそのまま敵をすり潰セ! 数はコチラの方ガ多イ! 裏口ハ……」
     確かに聞こえるのはカンナビスの指揮する声。ルーが全て言い終えるよりも先に聞こえた。灼滅者達は互いに頷くと扉を吹き飛ばし院長室へと乱入する。
    「いた!」
    「ナ……!?」
     どうやら本棚の裏に隠し通路があったらしく辺りに紙片が散乱する。その舞い落ちる先にあっけに取られるカンナビスの姿があった。
    「智の犬士カンナビス、君の王国も今日で終わりだ」
    「さぁ覚悟なさい!」
     レニーが進み出てひみかがマントを翻す。突然現れた灼滅者達を前にカンナビスは我を取り戻したかと思うと突如笑い出す。
    「クククク……、ハーハッハ!」
    「……何がおかしいのですか」
     雨衣が訝しげに問えば、息を整えてカンナビスは言葉を紡ぐ。
    「ワタシに対しテ陽動を仕掛けて来るとハ一本取られたと言う事ダヨ! たかだカこの程度ノ戦力でワタシを殺そうなどトいうノモ大変に可笑しい事だがネ!」
    「やってみなければ分かりませんです」
     ルチノーイが杖を振るえば、4つの輪が唸りを上げる。
    「イイヤ、分かるネ! 君達の獄魔覇獄での戦いで見せたあの力ハ今は無い! そんナ半端な君達にこの『智』のカンナビスが遅れヲ取る筈がナイ!」
     そう言ってカンナビスが踏み出せば、強烈な殺気が灼滅者達を襲う。だが、戦う意志に満ち溢れた灼滅者達にとってそんなものはまやかしにすぎない。シャノンは進み出て再び身体を異形として闘いの姿勢を取る。
    「かつての仲間達への弔い。そして新しい仲間達と先に歩むため、貴様は我等がここで討つ!」
    「託された想いがあるんだ……逃がしは、しない!」
    「逃げル? フフ……ソレを考えるのはワタシでは無く君達じゃナイか? モットモ逃しはしないガネ!」
     理央の言葉を嗤いカンナビスは『智』の霊玉を浮かべた。
    「サア、このワタシの力の前に果テるかがイイ! サゾヤ良いアンデッドになるだろウ!」
     霊玉が分裂し灼滅者達に向かって弾丸の様に放たれた。

    ●死闘
     放たれた霊玉が次々と前衛の者達を貫いていく。その威力は複数の相手に与えるダメージとしては桁違いに高い。更にこの霊玉の力を重ねて叩きつけてくる。
    「くっ……」
    「大きな口ヲ叩いた割にハ苦しそうじゃないカ」
     嘲笑う様に苦しむ様子を見るカンナビス、だがその胸元に一条の光線が突き刺さる。放ったのはレニー、いつぞやのお返しのつもりだ。
    「ウ……!?」
    「そうやって、相手を下に見ているから足元を掬われるんだ。カンナビス!」
    「偶然当たっただケのコト、そのようニ勝ち誇られてハ困るナ」
     確かに攻撃は当たったものの大したダメージとはなっていないようだ。確かにこのダークネスの身のこなしは武蔵坂学園の出会った相手の中でも上位に位置するものだろう。
    「お返シだ、大人しク受け取っておくとイイ」
     カンナビスは骨の翼を広げると、そこから悍ましきオーラを放ち再び前衛に放つ。オーラに巻かれた灼滅者達はその身に傷を増やしながら、さらに視界の中にそれまでいなかったはずの敵を見つける。
    「これは……!」
    「トラウマさ! いくらなんでモ多勢に無勢ハ恥ずかしくなイかトおもってネ!」
     いけしゃあしゃあとカンナビスは言う。霊玉で力を増幅しているのか複数の『敵』が灼滅者を襲う。
    「このままでは……!」
     仲間を守った雨衣の体に傷が増えていく。このままでは前衛の一角が早々に崩れてしまうだろう。
    「させないです!」
     ルチノーイの放つ防御の輪が傷と見えざる敵を払う。雨衣自身も気を集めて回復を行うが、連戦も含めての傷は深く治りきらない。
    「なら早めに決着を着けるまで!」
     シャノンが相手の上方からの蹴りを放つ。だがカンナビスは余裕だ。
    「そのようナ見え見エの……ナ!?」
     カンナビスが身を翻してかわそうとしたその先にあったのはルーの拳だ。
    「この拳、確かに食らわせたぜ!」
     命中と共に霊子の網が広がりカンナビスを捉える、身じろぎの鈍くなったその体にシャノンの一撃が芯を捉える。
    「僕等の仲間の尊厳を侮辱した罪……絶対に思い知らせてやる!」
     雁之助が続き動きの鈍くなったカンナビスに人造灼滅者の技、殲術執刀法を仕掛ける。水晶部を大きく切り開かれカンナビスはここに来て初めての苦悶の表情を見せる。そしてこの機を逃がすまいとひみかが鋼糸を手繰りカンナビスを更に締め付ける。
    「これで……どうですか……!」
     確かに動きが始めの時と違い鈍くなっている。決定打を与えようと理央が足元に炎を溜める。
    「ダークネスも、元々は人間だったんだろう。お前はどんな絶望から生まれた。カンナビス!」
     炎が蹴りの軌跡と共にカンナビスに突き刺さりカンナビスの体が燃え上がる。
    「僕はお前を哀れむ。けどお前は、救われるには悲しみを広げすぎた……!」
     燃え盛るカンナビスの体、そして。

    ●限界
    「……誰ガ誰ヲ憐れム……だト……!」
     炎の中から水晶の腕が突き出し、近づいていた理央を貫いた。そして彼から活力を奪うとカンナビスは怒りの形相で灼滅者達を睨めつけた。
    「少しばかリ、傷がつかないようニ殺してやろうト思ったガ……それモもう終わりダ! 纏めテ廃棄処分にしてやル!」
     圧倒的な殺意。これまでとは全く違うものを灼滅者達は感じ取る。
    「確実ニ、一人残らズ、縊り殺してやル!」
     そして最も手近にいた雨衣をやはり水晶の爪で切り捨てた。攻撃を受けたはずの彼女も何をされたのか分からないといった表情で倒れる。
    「このっ!」
     殴りかかってきたルーに対しては霊玉を放つ。ルーはそれを直接受けて直ぐに動かなくなる。霊玉はその勢いでシャノンとルチノーイをも貫いていく。
    「このままじゃ……!」
     比較的傷の浅い雁之助の背筋に冷たいものが流れる。本気になったカンナビスがこれほどに強い存在であるとは。殲術再生弾も人数もないこの状態では厳しい戦いを強いられるのは必至なのだ。
    「今更命乞イでもするかイ? モットモもうそんなコトをシても無駄だけドネ!」
     カンナビスは再び骨の翼を広げ、冥き衝撃を放つ。それに覆われて傷ついていく灼滅者達。
    「ククク、ハハハ! そのまマ、死に絶えルが………ガっ!?」
     カンナビスの胸元に深々と突き刺さっているのはリングスラッシャー、近づいていたのはルチノーイ。杖を振り下ろした姿勢で立っていた。
    「キサマ、まさカ……!」
     カンナビスはルチノーイの腕に生える蒼き鱗が強く逆立っていることに気付いた。それはまさしく自我を犠牲にして力を得る、闇落ちに他ならない。
    「だガ今更キサマ一人が……! グァっ!?」
    「……誰が一人だけだって?」
     レニーの右腕から黒く禍々しい水晶が張り出している。その切っ先はやはりカンナビスの脇腹を捻るように抉っている。
    「ここで本気を出さなきゃ、格好悪いだろ……!」
    「覚悟せよ、カンナビス。今一度だけ私は、かつてのような『兵器』に戻る!」
     傷を抱えた理央とシャノンも闇堕ちし、この場で仇敵であるカンナビスを確実に灼滅せんと力を得る。理央の体はたちまち複数の仮面を纏う黒き異形に飲み込まれ、シャノンは姿こそ変わらぬものの先程までとは段違いの殺気を放っている。
    「己を捨ててまデ……!? 素材に出来れバ最高だっタものヲ!!」
     途端に劣勢に追い込まれていくカンナビス。シャノンの水晶の牙が、理央の黒き腕が、レニーの水晶が、ルチノーイの風と雷を帯びた一撃が、そして何より彼らの強い意思がカンナビスを追い詰めていく。
    「これなら……!」
     傷つき力尽きそうであったひみかも立ち上がる。闇堕ちした彼らの力で戦いの趨勢は一気にこちらへと傾いた。ルチアーノの風巻く一撃が霊玉の力を断ち切り、水晶の爪から吸精の力を失わせる。レニーの文字通り鋭い回転蹴りがカンナビスの身体を揺らがし、続くシャノンの殲術執刀法を効果的にサポートする。
    「こ、このままデハ……!」
    「お前を殺す僕が憎ければ、いくらでも憎め。 全部、背負ってやる」
    「もウ勝った気デいルだト……!? 馬鹿ナ! そんナ筈ハ……!」
     灼滅者達の捨て身の猛攻、カンナビスの体に次々と大きな傷が生じていく。最初の時にあった敵の余裕はもう微塵も残っていない。
    「これで終わりだ……! ……!?」
    「嫌ダ! こんな所デ……! ……?」
     だが、彼の一撃は空を切った。同時に踏み込んだルチノーイと接触してしまったためだ。
    「ク、ククク、ハハハ……! まダ、ワタシにハ運があるようダ! 闇落ちに耐えられなくなッテ連携を損なウとはなナ!」
    「! みなさん!?」
     ひみかが呼びかけると、限界が来ていたのか彼らは必死に耐えていた。そして彼らを置いてカンナビスは灼滅者達が来た隠し通路の方へ身を翻す。残った二人で追いかけても、もう倒すことは難しいだろう。
    「流石ニ、私とテここまで追い詰められれバ撤退せざるヲ得なイ。もう会うことハ無いだろウ、さらばダ!」
     悠々とカンナビスは去っていく。それと同時に闇堕ちした灼滅者達も他の戦っている灼滅者に被害を与えまいと次々とその場から離れていく。

    ●結末
    「主任、みんな……すみません……」
     シャノンの残した悔しさの滲む言葉は、この場にいる全員に共通する想いだ。敵も仲間たちもいなくなった後、辛うじて体の動く二人はルーと雨衣を介抱する。
    「……倒せませんでしたか」
    「クソっ……!」
     雨衣とルーは悔しそうに臍を噛む。そんな中、雁之助が通信を受け取ると驚いた声を上げる。その後少し会話をすると疑問符の付く仲間達に内容を説明する。
    「もう片方のチームがカンナビスを灼滅した」
     灼滅者達は勝利の報告に対し静かにわきあがった。やはり先程の戦いで与えたダメージが撃破に大きく寄与したらしい、闇堕ちした彼らの覚悟があってこその結果だろう。ルーは一息を付く。
    「これで、ようやく安泰だぜ」
    「あとは闇堕ちした方々を連れ戻すだけですね……」
     とりあえず救助に倒した方のチームが来るらしい、彼らを待ちながらひみかは次の事を考える。
    「………」
     雁之助は瞑目する。そして胸の中でカンナビスに利用されていた仲間達に勝利の報告をした。その間に姿を表したのは秘密の通路で門番と戦ったチーム、やはり人数が一人足りないを見るにあちらも激闘だったらしい。彼らと合流した直後、ソロモンの悪魔が動いたと言う報を聞き灼滅者達は病院を後にする。
     斯くて灼滅者達は『智』のカンナビスを灼滅したのであった。

    作者:西灰三 重傷:ルー・カンガ(南から来たカンガルーヒーロー・d27158) 永・雨衣(トコシエノハナ・d29715) 
    死亡:なし
    闇堕ち:レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856) 識守・理央(オズ・d04029) シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186) ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(トライエレメンタルドラグーン・d28514) 
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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