「…………」
年の暮れ、一色・リュリュ(赤・dn0032)は非常にかなりこれ以上なく落ち込んでいた。今月に入ってから財布を落としたり予定が狂ったりと悪い事ばかりが続いている。
「初詣、行きます?」
ちょうど近くにいた学生達にたずねる。
「お参り、露天商、おみくじ……あと、お祓い。いかがですか」
そこは青梅街道沿いにひっそりと佇む、猿田彦大神を祀った神社。朱色の灯篭に導かれるようにして、元旦の朝には長蛇の参拝列ができるという。
駅から社までの道沿いには露天商が花も盛りとばかりに香ばしい匂いを立てながら百花繚乱、子どもたちはどれがいい、あれがいい、と楽しげな笑い声をあげる。
賑やかな初春の神社で、はぐれないように手を繋ぐ。
おみくじを見せ合い、抱負を語る。
本殿脇ではお守りや絵馬が購入できます。
悩んでいる人は一緒にお祓いをどうですか。
2015年未年、来る。
●一月一日、晴れ
「今年もいい一年になるといいですね」
五円玉を賽銭箱に投げ、嘉月は青地に梅咲く振袖を纏った咲桜に微笑みかける。「うん」と嬉し気に頷き、咲桜は感謝の想いを胸に手を合わせた。
(「本当にありがとう」)
清十郎は雪緒の手を握り、一歩ずつ本殿に近づいてゆく。正装した二人の姿は遠目からでも目を惹いた。
「雪緒はどんなお願いしたの?」
帰り道、尋ねる清十郎に雪緒は真っ赤になって言った。
「え、えと……清十郎が教えてくださったら、私も言うのですよー」
「じゃあ、お家に帰ったら教えるよ」
と、周りを気にして視線を外しつつ、答える。
混雑する境内で小太郎と希沙は顔を寄せ合い、互いに耳打ち――小太郎が告げた途端、晴着を纏った希沙は耳まで朱に染まる。渡された封筒の中からこぼれ落ちたお守りに小太郎は微笑んで、大事にしますと誓う。
「これも……、……あなたのことも」
「……は、はい」
きさも、と頷くふたりから少し離れた場所で恭介は「ふざけんな!」と声を荒げた。三年前の過去を謝る唯を抱き寄せて、恭介は約束する。
「今度は俺が、お前を守る。あいつの分まで……俺が守ってやるよ」
「…………うんっ…! ありがと……恭兄……♪」
優しい口づけに唯は涙を流しながら、幸せそうに微笑んだ。
同時刻、人波に埋もれそうになったシャルロッテを救出した律は繋いだ手はそのままに歩きはじめる。いつもと違う格好の先輩は、とても似合っていて、照れる。
「これでおみくじが中途半端でなければなぁ」
「中吉だって素敵デスヨ? これから上がるはずデスカラ!」
「せやね、頑張れた良いってコトやね」
顔を見合わせて、にっこりと笑って――今年もよろしくお願いします、と挨拶し合った。
一方、朴念仁の恭輔はうっかり失言してリィザに小突かれていた。
「だって、リィザなら恋人なんて本当にすぐ出来ると思ったんだよ……」
「……これでも一途な方なんですっ」
ぷいっと拗ねたリィザだったが、交通安全のお守りをもらうと少し機嫌は直ったようだ。
「湾岸線でスピードの向こう側にいくんだろ? 気を付けてね」
「誰がレディースですか、誰が。ま、ありがとうございます」
今度ツーリングにでもどうですか、と誘うリィザ達に続いては、それぞれ『らしい』振袖を纏った真琴と向日葵が仲良く並んで参拝する。
「私達の番ですね。愛良部長」
「うん♪」
ふたりはにっこりと笑い合って、一緒に鈴を鳴らした。
――今年も無事に、皆と一緒にいられますように。
――来年もこうしてみんなとお参りできますように!
【びゃくりん】としての願いと、もうひとつ、真琴は膝の傷跡のこともお願いしておいた。長い列の中でもひときわ目立つ異彩の集団は、暗い顔の葵を励ますように彼の肩を叩き、あるいは背を押して一番前に押し出した。
「一杯笑えばきっと今年も良い事沢山ありますよっ」
破顔する狭霧に葵は「うん」と頷いて、神様に背中を押してもらうために――【宵空】を代表して鈴を鳴らした。
「うちも色々悩んだり心配掛けてもうたりしたしな、もし何か聞いてくれるゆうなら……」
後押しして下さい、と薫は神妙な顔で手を合わせる。冬崖はつられたように去年の悪かったことも良かったことも思い出して、暗くなりそうな気分を吹き飛ばすように頭を振った。
「んじゃ、俺もみんなと一緒に。賽銭が先だったよな?」
「はい! 二回おじぎして二回手を叩いてもう一回おじぎ……でしたっけ?」
朋恵は一生懸命鈴を鳴らして、真剣にお願いする。
(「学園で仲がいい恋人の人たち見るとついうらやましく……じゃなくて!)
いかんいかん、と『本当の』お願い事を胸中で呟き直す。いつもとは違う皆の横顔を眺めていた朔之助は「何願ってんだろ……」と小首を傾げるが、何でも人に言ったら効果がなくなるらしい。
(「僕の願いはただ一つ」)
目を閉じて、両手を打ち鳴らす。
「さー、みんな終わったわね? うん、スッキリした顔になったじゃない。笑う門には福来たるってね」
七はウインクして笑い、両手を腰にあてて賑やかな境内を見下ろした。
「ちょっと出店寄って行かない?」
「賛成ですっ」
来年も頑張るので見守っててくださいね、と神様にたっぷりとお願いした後で、菊香はまっさきに手を上げた。
「せっかくですし温かいものでも食べて寄り道しながら帰りませんか?」
その時ちょうど風が吹いて、おいしそうな匂いが彼らの鼻先を掠める。香ばしいソースの匂いだ。センリと蒼空、珈薫は揃って5円玉を賽銭箱に投げ入れる。
「ねえ! 何をお願いしたの?」
手を合わせたまま無邪気に尋ねる蒼空に、センリは目を閉じて笑う。
「叶うまでの内緒だ」
「えーっ、願い事、秘密なの!?」
珈薫はよし、と腕を組む。
「今度じっくり聞いちゃうんだからね! 取り敢えず今日は屋台巡りへいこー!」
ああ、と頷いてセンリが続く。
「ちょこ、蒼空。今年も宜しくな」
「うん! 今年もよろしくね!」
蒼空が嬉しそうに頷いて、――三人はそれぞれの願い事の通り、仲良く並んで露店通りに繰り出していった。
長い間、祈りを捧げていた七葉は銀河の質問に顔を上げて答える。
「ん、皆が幸せになるように、だよ」
猿田彦大神はその道行を照らしてくれるだろうかから――妨げる者を祓う加護を下さいますように、と。
「……ふふ。皆、願う事は一緒、だね。藍花は?」
「ええと、私は、皆の健康と健やかな成長、とかですね」
真顔で言う藍花に、七葉はくすりと笑みをこぼした。
銀河も得意げに頷いて、言った。
「これできっと、今年も良い一年になる事間違いなし!」
傍で聞こえていた悠花は、人知れず合点している。
「健康は大切です。特に今年は高校生ですし、インフルエンザにかからないようにお願いしておきましょう。お供え物におさごも持ってきました」
「そうですね。殺人鬼がお参りというのも少々おかしいかもしれませんが、僕も平穏を祈っておきましょう」
隣で透馬は頷き、悠花の四十五円と一緒に五円を投げ込んだ。
●穢れを祓い、清らかな心で初春を
「明けましておめでと~ですよ~♪」
くるみが袖を振る度に、柄のナノナノがふわふわと揺れる。【星空芸能館】としてのお祓いはずばり、『芸能館の健康と繁栄』。
「ファルケさん、気負わずに……心桜さんの手ほどき通りにすれば大丈夫ですよv」
えりなに肩を叩かれて、フォルケは頷いた。
順番に呼ばれ、正座して宮司のお祓いを受ける。事前の予行演習通り、代表のファルケが玉串の奉納をしてお祓いは無事終了。
「あとはやっぱり、お詣りもしていきましょうか!」
心桜たちの提案でお祓いの後はあらためまして、二礼二拍手一礼。
(「クラブの皆が病気やケガしたりしませんように」)
マサムネは心をこめて字を書いた時と同じように、心を込めてお祈りする。来年も……良いものでありますように。
「…………」
「…………」
流希とリュリュは神妙な顔でお祓いを受けている。
片や、流希は大学進学という大きな節目だ。気を引き締めるためにも、ここはひとつ、ビシッと祓っていただかねばなるまいと。神妙な心持ちで宮司の前に座り、頭を下げて瞑目した。
●そして皆一緒に御神籤と屋台を巡る
「じゃあ、せーの!」
学業のお守りを交換した後でおみくじの見せっこをした花火と竹緒は、それを見た瞬間に顔を見合わせて、思わず吹き出してしまった。
「見てよ、ひっどい結果!」
「ほんと、これはひどい……」
なんと、互いに凶――ふたりは同時に駆け出して、白い紙がたくさん結ばれた枝に自分達のそれを仲間入りさせる。
同じく、結果の思わしくなかった香奈江と耀はそそくさと結んで「さ、次に行きましょう」とお守り所へ向かう。
「厄除けにするか、学生らしく学業成就か、悩みますね……」
「川堀さんは、これなんてどうです?」
たくさんあるお守りのなかから、耀は年末に酷い風邪を引いたという香奈江のために健康祈願のそれを選び取った。
我楽はと言えば、ひとつずつおみくじとお守りを所望してから紺菊を振り返る。
「紺菊嬢ちゃんはどうだったっすか? あっしはまあ、ぼちぼちでしたけども」
「えっと、私もぼちぼち……だと思います!」
手を繋いで――互いに照れつつ――おみくじを枝に結び、そうだ、とお守りを交換する。
「この方がご利益あるらしいっすからね」
「それは、是非! 我楽さんにとって最高の一年になりますように」
紺菊は嬉しそうに笑ってそっとお守りを差し出した。隣の絵馬所では、はしゃぐミユに手を引かれてやってきた銘子が器用にふたりの絵馬を並んで結びつけている。カラン、と触れ合った絵馬が音を鳴らした。
「喚島先輩、次はあっちです! 可愛い2匹の羊さん……!」
「はいはい、転ばないようにね」
銘子はまるで妹ができたような、娘を可愛がる父親の気持ちすらわかるような気がして笑みをこぼす。
さて、皆が思い思いのお詣りを楽しんでいるなか、【クロノと愉快な仲間たち】の面々はと言えば――。
「……末吉……中途半端だな」
何となくへこむ、とクロノは肩を落とした。
「私も中吉だ。……これはどうなんだ?」
黒い振袖姿のデーモネが首を傾げれば、一歩離れた場所でみんなのやり取りを見守っていた清音も半信半疑の様子だ。
「……中吉……良縁の兆し有……ホントかしら? ……もしかしてみんな吉……?」
しかし、シロナと絵梨香はぷるぷると肩を震わせている。
「…………大、凶?」
「……ま、まあ、おみくじだしね……うん」
落ち込む二人を慰めるように、クロノ――可愛い花に囲まれた少年は、率先して屋台を巡る。
「気を取り直して、今日は長いんだ。4人ともすごく綺麗だし……」
「そうですね」
と、シロナが意味ありげに言った。
(「照れてるみたいですし、今回は許してあげますか」)
「?」
絵梨香はみんなの後を無邪気についていき、清音とデーモネは並んで歩き始めた。遅れないように、けれど、過ぎ行く時をもったいないとでも言いたげにゆっくりと――……。
「うっわあ~みんな、幸せそうっ」
カシャ、カシャシャッ!
花柄の可愛い振袖に愛用のカメラを装備した空は、【光画部】としてのコーレーギョージを次々と収めていく。
まずは、ぶちょーことまぐろとあーること仲次郎のラブラブツーショット。新調した学ラン姿でまぐろを撮りまくっていたかと思えば、たこ焼きを「あーん」して食べさせようとしている。
「あーん」
照れつつ開いたまぐろのお口に、熱々のたこ焼きが……。
「……」
羨ましそうに見つめていた紅輝は祖でを引かれ、狼狽えた。
「紅輝くん。あーん、です」
いるかが鈴カステラを差し出しているのだ。
「お、俺もか?」
恥じらいつつ、紅輝は素直に口を開いた。
甘くて温かいカステラの味。
微笑ましい光景のすぐ傍では奇妙な三角関係が出来上がっている。遥を挟んでイルルと静香が言うには、つまりこういう事らしい。
「遥殿は『妾たち』の彼氏じゃ!」
「遥さんは『わたしたち』の彼氏さんです♪」
即ち、共に愛する蜜月状態。
当の遥は「まあ、そういう感じになるのかな」と苦笑しながらもされるがままになっている。気分は恋人どころか保護者である。
「何か食べたいものはある?」
りんごあめの屋台に去ってゆく三人とは対照的に、いちごは大岡越前のように右腕を由希奈、左腕を桐香に引っ張られてしまった。
「えっと……それでは順番に、3人で回りましょうか?」
笑顔でなだめ、「ご馳走しますから♪」と申し出る。
「じゃあ、私は綿飴がいいな」
由希奈が言えば、
「私は鈴カステラがいいですわ」
桐香は微笑んで屋台を指さした。そんなこんなで、最後に皆で集合する頃にはお腹がいっぱいになってしまった。
「振袖、似合ってる」
紅輝に囁かれたいるかは何故か熱くなる顔が不思議でたまらず、遥といちごは両手に花の状態でにっこりと微笑んだ。しっかりと、手首の辺りまで触れるように手を握りしめる。
仲次郎はカメラを構え、皆を呼んだ。
「はーい笑って笑ってー、はい、スマイルー!」
「待ってくださいっ、お守り買うのに時間がかかって……にゃーっ!?」
慌てて駆け込んだ空が躓いて転びそうになった瞬間、シャッターが下りた。さて、どんな写真が新年第一号を飾るのか。楽しい初詣はあっという間に過ぎ去って、新しい年が賑やかに始まりを迎える。
作者:麻人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年1月8日
難度:簡単
参加:60人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 11
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