カンナビス灼滅作戦~廃墟に葬れ

    作者:泰月


    「今までノ、武神大戦の目論見が全てご破算ニナルとはね」
     かつて殲術病院であった廃墟の元院長室で、革張りのソファの残骸に腰を掛けたカンナビスが、ギギギと音をならしてヘヤの中を見渡した。
     院長室には、特に選りすぐりのアンデッド達が並ぶ。
    「シカシ、ハルファスはさすがに用心深い。この状況で、既に次の手を打っていたトハナ」
     カンナビスは、残存の病院灼滅者のアンデッドを、廃墟に配置して敵の襲撃に備えるようにと、元院長室に集まった配下に指示を出す。
     武神大戦の失敗により、撤退を余儀なくされたカンナビスの元に、同盟者であるハルファスより連絡が来たのは、撤退の2日後の事であった。
     武神大戦でいろいろ動き回った事から、拠点が露見した可能性があり、拠点の大規模移転を行ったというのだ。
     また、武神大戦を戦ったカンナビスには、他勢力の監視や追撃があるかもしれないので、拠点の一つで入り、もし、追撃があるようならば、それを撃破して欲しいという依頼も受領している。
     これからも、ハルファス勢力を隠れ蓑に研究を続ける上で、この程度の依頼は、当然引き受けるべきだろう。
     カンナビスはそう考え、この拠点に入ったのだった。
    「だが、ソレももう終わりダ」
     ハルファスから、武蔵坂学園による拠点襲撃の情報が送られてきた。
     この情報は、カンナビスのバベルの鎖の察知とも合致しており、間違いのないものだろう。
     現在のカンナビス配下の戦力では多少手を焼くかもしれないが、迎撃は難しくない上、ハルファスからの援軍もある。
    「武神大戦の借りヲ返す、良い機会でもアル。ハルファスの援軍が来る前ニ、灼滅者を片付けてシマエ」
     カンナビスの命令に、アンデッド達は恭しく例をしたのだった。


    「カンナビスの足取りが掴めたわ」
     夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は、灼滅者達にそう話を切り出した。
     ノーライフキング、カンナビス。
     元スキュラ八犬士の1人、智の犬士にして、先の武神大戦獄魔覇獄では、獄魔大将の1人として参戦していた。
     その戦場から去った後の行方を探る提案をしたホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)や水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)、アンデッド作成を懸念したユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)が携わった調査の結果、周囲をソロモンの悪魔・ハルファスの手下達が監視するように動いている、廃墟となった殲術病院の1つが見つかった。
     そこが、カンナビスが配下と共に立て篭っている場所だ。
    「集まって貰ったのは、勿論、侵攻作戦の為よ。病院灼滅者の死体を利用して戦力を増強する彼は、放置しておくのは危険過ぎるし……許せる事じゃないものね」
     ここで逃せば、次はいつ、カンナビスを灼滅する機会が得られるか判らない。
     今回は、二度とないかもしれない好機、と言う訳だ。
    「その殲術病院には、正面入口の他に、裏口と秘密の脱出路があってね」
     秘密の脱出路は、下水道からカンナビスがいる院長室まで、直接繋がっている。
     但し、どこか1つから全員が襲撃したのでは、カンナビスは残る2つのどちらかから撤退してしまうだろう。
    「つまり、確実にカンナビスを灼滅する為には、秘密の通路から襲撃をかけると同時に、正面入口と裏口を制圧する必要がある、という事になるわ」
     そこで5チームが編成される事になったのだ。
     続けて、柊子はそれぞれのルートの説明を始める。
    「正面入口には、多くの病院灼滅者のアンデッド達が配置されているわ」
     多数のアンデッドが防衛戦を築いている正面入り口を突破するには、2チーム以上が必要になると思われる。
    「裏口には、試作型アンデッドであまり性能が出なかったのが配置されているわ」
     カンナビスに言わせれば、不良品、になるのだろう。
     性能が低いといっても、通常の灼滅者アンデッドに比べれば戦闘力が高いので油断は出来ないが、連携などは全くとれていないので、うまく立ち回れば、1チームでの制圧も可能だろう。
    「秘密の通路には、門番を任されている強力なアンデッドがいるわ」
     獄魔覇獄で戦った、試作型アンデッド薬殺人形72号。
     それを超える戦闘力を持つアンデッドのようだが、強化が不安定で、長時間の戦闘を行うと自壊してしまうと言う大きな欠点を抱えている。
     持久戦で自壊を待てば勝つのは簡単だが、時間がかかり過ぎるのは難点かもしれない。
    「以上の3ヶ所を、5チームで役割分担をして攻略する。それが今回の作戦よ」
     これ以上の数を動員すれば、カンナビスは危険を察して襲撃前に逃げ出す公算が高くなる。カンナビスが逃げ出さない、ギリギリのラインだ。
    「3つの入り口をどう分担すれば良いのかは、確実な事が言えないの。だから、皆で作戦を考えて決めて欲しいの」
     敢えて正面に戦力を集中して、秘密の通路から侵入した部隊が持久戦で敵を撃破している間に、院長室に攻め寄せる――と言う作戦もあり得るだろう。
    「難しい作戦だと思うけど、皆なら出来ると思ってるわ。気をつけて、行ってきてね」


    参加者
    真純・白雪(白蛇の神子・d03838)
    冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    霧月・詩音(凍月・d13352)
    ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)
    武藤・雪緒(道化の舞・d24557)
    ユーヴェンス・アインワルツ(優しき風の騎士・d30278)

    ■リプレイ

    ●塞ぐ者
     カンナビスの篭る拠点。
     その秘密の通路に続く下水道には、2チーム、16名の灼滅者達の姿があった。
    「りょーかい。そんじゃ、20秒後に突入で」
     インカムをつけた骸骨――武藤・雪緒(道化の舞・d24557)はカタカタと骨と歯を鳴らし、そう言うことで、と仲間達に告げる。
     息を潜めて20秒。灼滅者達は一斉に通路に飛び込む。
    「見えた!」
     腰につけたライトで薄暗い通路を照らしながら進んでいた冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)が声を上げる。
     通路の先に立っていたのは、全身に包帯を巻いた巨体の姿。
    「これは前座に過ぎない、速やかに突破しよう」
    「……それじゃ、作戦開始ね……」
     別のチームの灼滅者の言葉に、ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)が頷いて、一斉に殲術道具を構える。
    「道を作ります!」
     先制したのは別のチーム。
    「まずは目の前の強敵を撃破しないとね」
     少し離れて足を止めた真純・白雪(白蛇の神子・d03838)は、『白蛇の頭』の名を持つ魔杖を門番に向ける。
    「ああ、速攻で行くぜ!」
     翼は門番に向かいながら、同じように杖を構え。
     氷の弾と六文銭に続いて、僅かな時間差を置いた2つの雷光が巨体を撃ち抜いた。
    「足元がおるすだぜー」
     激戦の中、別チームの誰かが飛び上がるのを見ながら、海藤・俊輔(べひもす・d07111)は対照的に敵との体格差を活かし敵の足元に潜り込んで槍を突き立てた。
     さらに霧月・詩音(凍月・d13352)は無表情のまま、銀の指輪に通常よりも制約の力を強く込め、門番へと魔弾を撃ち込む。
     だが、敵もやられてばかりではない。
    「危ない!」
     その声の直後には、別チームの2人が吹き飛ばされていた。
    「次はこっちで受けます!」
     更にもう1つの拳を振り上げる門番の姿を見ながら、森沢・心太(二代目天魁星・d10363)が全員に聞こえるように言って、その前に飛び出した。
     掲げた障壁で防いで尚、強い衝撃に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられながら、槍の先から鋭く冷たい氷を放つ。
     すぐにナノナノからハートが飛ぶ。
    「待ってろ。すぐに、楽にしてやる」
    「奴に縛られるなんざ窮屈だろう……魂を解き放ってやる」
     雪緒がスライム体から影の触手を生やして門番に絡みつかせ、ユーヴェンス・アインワルツ(優しき風の騎士・d30278)はその頭上まで跳び上がり、煌きと重力を纏った重たい蹴りを叩き込む。
     2人の正確な攻撃で、確実に敵の力が削がれて行く。
    「サザンクロスビームだぜ!」
     通路を照らした眩い光を放った灼滅者に注意を向けた門番の背中に、ポルターが利き腕に生まれた蒼い砲口を向ける。
    「……蒼き寄生の猛毒……対象侵食……」
     殺到する灼滅者達の合間を縫って、死の光線が巨体の背中に叩き込まれた。
     そこに再び襲い掛かる灼滅者達。
    「僕には、終わらせるしか出来ない」
     別チームの灼滅者のその言葉と共に振り抜かれた刃がトドメとなり、灼滅者2チームの猛攻に耐え切れず、門番のアンデッドの巨体が崩れて自壊していった。

    ●遭遇
     先行したチームを見送った8人は、通路を調査しつつ進んでいた。
     別行動をとる事で、万が一、カンナビスが先行したチームをやり過ごしたりした場合でも、撤退を阻止する事が出来る筈だ。
     門番戦の消耗は少なく、前後衛の交代も不要な状態だ。連戦にも不安はない。
    「……この脇道も、特に何もありませんね」
     覗き込んだ脇道をランプで照らし、行き止まりになっているのを確認して、詩音が静かに告げる。
    「もっと正確な地図があれば良かったんだけどね」
     光点輝く手書きの地図を手に、白雪が小さく肩をすくめる。
     流石に秘密の通路の書かれ地図が、ある筈もなく。複雑な通路ではないので、手書きの地図で特に問題は無いのは幸いだ。
     途中の脇道にも何もなく、隠し扉の様な異変もないが、彼らは慎重に進んで行く。
     だが、異変は向こうから彼らの元にやって来た。
    「……奥の方から、強い業の匂いが……近づいてきてる」
     ポルターが、デモノイドの能力で何者かの接近を感知した。その方向は、通路の奥、病院の内部側だ。
     油断せずに待ち構えていると、現れたのは左半身が骨になった姿。
    「――カンナビス!」
    「何ダトッ! まダいたのカ灼滅者!」
     灼滅者達に気付いたカンナビスが、グンッと速度を上げる。振りかぶった右手に水晶の爪が閃いているのを見て、心太が祖母のお守りを手に飛び出した。
     ボキンッと鈍い音の後に、血飛沫が上がる。
    「っ……問答無用、ですか」
     水晶の爪で斬られた腕を押さえ、心太は床に降りたカンナビスを見据える。
     その額に残っていた角は、今の衝突で根元から折れていた。
    「先に行った皆と戦った後ってトコみたいだなー」
     言葉と共に俊輔が突き込んだ螺旋に回る槍を、カンナビスは無言で背中の骨を使って弾き飛ばす。
     だが、その無言は肯定したようなものだ。
     左半身は露出した骨が何本か折れたりヒビが入っており、右半身に残る端正な顔と細い体も傷だらけだった。背中の白い翼も、薄汚れてボロボロになっている。
    「皆はどうしたの?」
    「さあネ? 早ク助けニ行っテやった方ガ良いんじゃナイカ?」
     燐光を従える光輪を仲間に飛ばす白雪の問いに、骨の指で後ろを指差すカンナビス。
     先行したチームから連絡がなかったことは1つの気がかりであり、今の言葉が事実である可能性はある。
     だが、だとしても、カンナビスを放置する事は出来ない。
    「カンナビス、お前の悪行は聞いている。それに付き合わされた人間の意思を継ぎ……騎士として、お前を消し飛ばす!」
     飛びかかったユーヴェンスの破邪の光と風を纏った黒い剣は、これも骨に弾かれて空を切る。
    「仲間の分の借り、ここで精算させて貰うぞ。塵一つ残さず消し去ってやる」
     いつになく語気を強める雪緒の髑髏の眼窩の奥に閃いたのは、集まったバベルの鎖と内に秘めた憎悪の光か。
    「……今までの悪ふざけの分も纏めて、此処で報いを受けて頂きましょうか」
    「……絶対に、倒す……精度を高める帯の弾倉……」
     詩音の指にある銀色の月から制約の魔力が放たれ、ポルターが意志を持つ帯をカンナビスに射出する。
    「決着つけさせて貰うぜ……三度目の正直だ」
     翼は魔導書を掲げ、カンナビスのいる空間に原罪の紋章が刻み込む。
    「仕方ナイ。お前達も蹴散らしてヤルか」
     カンナビスが広げた骨翼から、灼滅者達の心を抉る幻を生む光が溢れた。

    ●激戦
     戦いは、門番の時以上の激戦になっていた。
    「霊玉、来るよー」
     『智』の文字がある霊玉が幾つも浮かび上がったのを見て、俊輔が声を上げる。
     直後、2つの軌道を描いて放たれた霊玉が、詩音以外の灼滅者を撃ち抜き、一方でカンナビスの力を高めていた。
    「霊玉にそんな使い方があるなんてなー」
     どこか感心した様に言いながら、俊輔は心太の陰から飛び出し、槍の穂先に集めた冷気を氷柱に変えて撃ち出す。
    「あんな状態で、まだこんな力を残してるなんて」
     ポルターに庇われた白雪は、優しい風を招いて仲間に吹き渡らせる。
    「ナノ」
    「頑張って……エンピレオ」
     ハートを飛ばしつつ力なく鳴くナノナノに返し、ポルターはギターを爪弾き、静かだが力強い音色を奏で、同列に響かせる。
    「偽りの命に終焉を 骸は廃墟に、死者へ葬送歌を――」
     詩音が神秘的な歌声を高らかに響かせる。届いた筈だが、カンナビスは敵味方の境を見失わず、爪で灼滅者を斬り裂いてその体力を奪っていく。
    「流石に強いですね。これが八犬士ですか」
     雷を纏った拳を遮られ、心太は幾つかの感情が混ざった笑みを浮かべた。
    「他の犬士もあなたぐらい強いのですか? 例えば、ラゴウ――足柄山の金太郎とか」
    「そんなコト此処で死ヌお前達が、知ル必要はナイヨ」
     はぐらかすカンナビスだが、彼が八犬士最強ではないのは獄魔覇獄からも明らかだ。それでも手負いながら、互角以上の戦いを見せている。
     或いは、手負いだからこそと言うべきか。
     窮鼠猫を噛む、の言葉もあるが、相手は鼠とは呼べない強大なダークネス。それが死に物狂いとなればどうなるか、その答えがこの戦いだ。
    「まだ倒れナイか。出来が良いのを門番にしたツモリだったが、アレも大して役に立たナイ失敗作だったカナ」
     中々倒れない灼滅者達に焦りを隠せず、門番を不出来と漏らすカンナビス。
    「ふざけんじゃねぇ!」
     その言葉に怒気を強めた翼の鋼のような拳が、霊玉も砕いてカンナビスの体に突き刺さる。
    「病院の仲間の死体を勝手に使っておいて、随分な言い草だな」
     内面の怒りを表すかのように髑髏をガリガリ鳴らす雪緒のスライム体から、にょきりと生えるガトリング。
    「命を犠牲にした上に、愚弄するとはな!」
     一気に駆け抜けたユーヴェンスが、非物質に変えた黒い刃で斬りつけ、霊玉の力の一部を切り捨てる。
     直後、飛来した爆炎の弾丸が命中し、一帯が明るくなる程の爆炎の中にカンナビスの細い影が膝を付く。
     この調子なら倒せる――そう思えた。
    「ヤレヤレ。ナゼ死体を使った事をそんなに怒るのヤラ。理解不能ダヨ」
     炎の中から白羽と骨が広がり、焼かれながら飛び出して来るカンナビス。
    「それナラ、こうシタらどうなるカナ?」
     突進し水晶の爪で心太を体を貫いたカンナビスの赤い瞳は、怒りの色に満ちていた。

    ●智将が解せぬモノ
    「マダ殺さナイよ……いきなり顔ヲ殴ッテくれた借りヲ返しテ貰おうカ」
     水晶の爪に刺したままの心太を自身の盾にするように持ち上げて、カンナビスはじりじりと位置を変える。
    「獄魔覇獄の戦いで見せたあの力も無くこの『智』のカンナビスをココまで追い詰めたのは褒めテやる……ダガ今度コソ、もう会うことハ無いだろウ、さらばダ!」
     そして爪を引き抜くなり、翼を翻しグンッと飛び出した。
    「心太!」
     放り投げられた心太は雪緒のスライム体が受け止め、駆け寄った白雪が傷に光輪を当てる。
    「逃がすかよー」
     仲間の無事を確認し俊輔はカンナビスの後を追い始めるが、既にその差は広がっている――かに思えた。
    「カンナビィィィス!」
     一足飛びでカンナビスの背中に追いついた翼が、杖で床に叩き落とす。
    「ガ、グ……ハァ……クソッ! また闇堕ちカ!」
     起き上がったカンナビスは、内側からの衝撃と闇堕ちに気付いて表情を歪める。
    「死んだ奴らの為に俺がしてやれる事なんて、これしか思いつかねぇからな」
     闇に体を委ねてでも――唯一その覚悟を決めていた翼は、此処でそれを選んでいた。
     追いついた仲間達に笑みを見せる、その理性が彼女に残っている時間は長くない。
     だが、そのおかげで増した力はカンナビスとの力の差――逃げに出た距離を埋めるに足りたのは、今しがた示した通りだ。
    「遅い、遅スギる。ハルファスの援軍は何ヲやって――まさかっ!?」
     焦りの色を濃くしたカンナビスが、何かに気付いて半分端正な顔を大きく歪ませる。
    「いや……ソウ言う事カ。始メから切り捨テル気だったナ! あの悪魔ガァァ!」
    「裏切りですか。まあ当然かもしれません。ソロモンの悪魔にしても、あなたを生かす価値は全く無い、という事でしょう」
     冷たく見つめ淡々と呟いた詩音は、制約の魔力を銀の月が輝く指輪に集め、激昂するカンナビスを魔弾で撃ち抜く。
    「グゥッ……仕方ナイな。もうハルファスとは手ヲ切ル。だから手ヲ組まナイか。ワタシの技術がアレば、さっきの奴が死ンでもリサイグギッ!?」
     まさに掌を返してきたカンナビスの言葉を遮り、翼が無言で殴り飛ばす。
    「仲間を勝手に殺さないでよ!」
     白雪の掌に集まった生命の力の具象化たる波動が光に変わり、カンナビスを撃ち抜く。「本当に、理解しがたい奴ラだ!」
    「もう喋るなよ、不愉快だ」
     爪を振り上げようとしたカンナビスの背中で、雪緒のスライム体から回転する杭が飛び出した。
     背中の翼も骨も砕いて捻じ切る衝撃が詩音の制約の魔力と作用し、カンナビスの動きを縫い止める。
    「命の扱い酷すぎる……許せない。蒼き寄生の強酸……対象溶解……」
     そこに、嫌悪をはっきりと口にしたポルターの放つ強酸が降り注ぎ、ナノナノのシャボン玉が顔の前で弾ける。
    「嫌ダ! スキュラ八犬士のワタシが、こんな――」
    「スキュラもお前が居なくてさみしがってるかもしれないよー。だから一緒の場所に送ってやんぜー」
     苦し紛れにカンナビスが振り回す爪を獣爪の気で弾くと、俊輔は小さな体を思いきり捻って竜巻のような回転からの連撃をカンナビスに叩き込む。
    (「自分の為に多くの他を犠牲にし続けた報い……そして、俺の怒りだ」)
     黒き聖剣の柄をきつく握り締め、ユーヴェンスが床を蹴る。
    「吼えろ風の聖剣! 魂ごと、微塵に砕けろォ!!」
     怒号と共に振り下ろされた破邪の輝きを纏った刃が、智の犬士の体を両断した。
    (「……その風に乗っていけ。きっと天まで届くだろうぜ」)
     ユーヴェンスが剣を鞘に納めると、驚愕に目を見開いたまま2つに分かれた体が、崩れて消えていく。
    「悪い、迎え頼むなー」
     勤めて明るい声を最後に、通路の先へと駆け出して行った翼の足音が聞こえなくなる頃には、カンナビスの体は完全に崩れ去っていた。

    ●作戦終了
     しばらくは、誰も、何も言わなかった。
    「あ、連絡しないと。あー、テステス。こちら雪緒。現在地は秘密の通路だ。いきなりだけど、カンナビス灼滅したよ! 繰り返す、カンナビス――」
     激しい戦いが嘘だったかのような静寂を破ったのは、通信機に向けた雪緒の声。
    「それと、アムレティアさん。そっちに冴凪さんいるよね。実は――」
    「……勝てた、ね」
     状況を伝える声の響く中、ぽつりとポルターが漏らした呟きは、小さいながらも仲間達の耳に届いていた。
    「――あらま、了解。皆、院長室に行くよ。先行したチームが、やばい感じらしい」
     雪緒の耳に届いた救援要請を受け、漸く感じ始めた勝利の余韻もそこそこに、疲れた体を動かし院長室に急行する。
     そこにいたのは、なんと4人。部屋に残る痕跡も、戦いの激しさを物語っている。ここでの戦いがなかったら、カンナビスを倒せていなかったろう。
     そこに『ソロモンの悪魔の一隊が、たった今病院へ侵入しました』との連絡が、裏口チームからもたらされた。
    「……流石にこれ以上の戦闘は無理ですね。退きましょう」
    「この状況じゃ、落ち着いて治療出来ないしね」
    「カンナビスの残したものを破棄しておきたかったが……止むを得ないか」
     その報にも動じた様子のない詩音の言葉に、別チームの傷を見ていた白雪と、周囲を調べようとしていたユーヴェンスが頷く。
    「殿は引き受けたぜー」
     動ける者は動けない者に肩を貸し、手と体力の余っている俊輔が殿に付く。
     こうして、智の犬士カンナビスを灼滅した彼らは、廃病院を急ぎ後にするのだった。

    作者:泰月 重傷:森沢・心太(二代目天魁星・d10363) 
    死亡:なし
    闇堕ち:冴凪・翼(猛虎添翼・d05699) 
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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