仮像者の暗殺~ダイヤの報復は死なり

    作者:志稲愛海

     色とりどりの花が美しく咲き誇る、秘密の花園。
     そんな夢の花園でひとり、お茶会と洒落込んでいた紳士――パンタソス・カロは、ふと顔を上げて。
    「おや……こんなところまでお客様とは、ね」
     不意に現われた存在に、首を傾げてみせる。
     彼のお茶会に乱入してきたのは、花園に似合わぬ巨体の男。
     いや、屈強な男の形をしたシャドウであった。
    「武神大戦獄魔覇獄の事は知ってるだろう?」
    「参加した『ザ・ダイヤ』勢力は、どうやら残念な結果だったみたいだね」
     不躾にも急に尋ねた男に、パンタソスはさらりと返すも。
    「その敗退の原因となった『ザ・ハート』の提案を、武蔵坂学園に伝えたダイヤのシャドウがいたと聞いたが……?」
     じろりと睨むような視線を向け、そう問い詰める男。
     そんな男の胸にも――ダイヤのスートが浮かんでいる。
     だが、パンタソスは敢えて答えず、ただ微笑むのみで。
     そんな彼を見遣った後、男は大きな得物を握り、言い放つ。
    「しらばっくれても無駄だぞ。お茶会は終わりだ、パンタソス・カロ! 貴様を抹殺する為に、今回は特殊暗殺部隊が動いているんだからな!」
    「私のような、ただのしがないシャドウに、随分と大袈裟だね」
    「ふ、他の『ザ・ハート』派のシャドウも、今頃報復を受けている頃だろうな」
     そして肩を竦めてみせるパンタソスに不敵に笑んで。
     得物の切っ先を向け、男は続ける。
    「報復とは勿論、死だ」
     そんな男の言葉に、パンタソスは再度首を傾けて。
    「やれやれ、それにしても困ったな。この状況は私にとって、とても分が悪いねぇ……」
     そう呟きながらも、漆黒の翼がついたアンティーク調のロッドを手にする。
     ――そして。
    「死ね!!」
    「……!」
     刹那、ソウルボード内に轟音が鳴り響き、幾度となく衝撃がぶつかり合った後。
     美しく咲いていた花がはらはらと散り……枯れ果ると、同時に。
     脆くも儚く、ソウルボードが崩壊していくのだった。
     

    「武神大戦獄魔覇獄も、ひと段落……したかと思ったんだけどね」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はそう言った後、予知の内容を語り始める。
    「実はソウルボード内でね、シャドウ同士の争いが起こるみたいなんだ。そのせいで、夢を見ていた少女が死んでしまう事件が察知されたよ。これは、アガメムノンが獄魔覇獄の復讐として、コルネリウス派のシャドウを襲撃することが原因みたい」
     そんなシャドウ同士の戦いによって、戦場となるソウルボードの夢を見ていた一般人が死亡してしまうというのだ。
     そして。
    「今回襲撃されるのは、あのパンタソス・カロだよ。パンタソスには名指しで暗殺部隊が放たれてるみたいだけど……武蔵坂学園にコルネリウスの提案を伝えたのは彼だし、パンタソスはダイヤのシャドウだから、報復の矛先が真っ先に向くのは、考えてみれば当然だよね……」
     それから遥河は、さらに詳細を説明する。
    「夢を見ている一般人は、マナっていう10歳の女の子だよ」
     彼女のソウルボード内は花園のような景色が広がっていて、パンタソスがお茶を楽しんでいたのだが。そこへ、『ディミオス』という名のシャドウがやって来るのだという。マナの夢は特に悪夢では無いので、パンタソスとディミオス以外の存在はない。
    「それで、マナのソウルボードが崩壊して彼女が死なないように、シャドウ同士の争いをなんとかして欲しいんだ」
     その為に考えられる手段は、二つ。
    「一つ目はね、パンタソスを離脱させた後、ディミオスと戦闘を行なう事だよ」
     アガメムノン勢力にとっては、灼滅者も報復相手。パンタソスを撤退させた後も、ディミオスは戦闘を仕掛けてくるだろう。シャドウ同士の戦いでは無くなるので、マナは死亡しない。
     だが、暗殺部隊に属する程の力を持つディミオスは、かなりの強敵だ。
    「そしてもうひとつはね……アガメムノン配下のディミオスに協力して、パンタソスを撃破する事だよ」
     元々ディミオスに抹殺されるパンタソスを、ディミオスに手を貸し、より素早く撃破する事で、マナが死ぬ前に戦闘を早期決着させようという作戦だ。
     ただ、パンタソスの止めをディミオスに刺させた場合、パンタソスは死亡しディミオスは撤退するが。もしもパンタソスの止めを灼滅者が刺した場合は、パンタソスは死亡せず、報復を邪魔されたディミオスと灼滅者との戦闘になってしまうだろう。
    「他にも良い作戦があるかもしれないけれど。オレから提示するのは、この二つだよ」
     それから遥河は、最後にこう付け加える。
    「今回はシャドウ同士の抗争に介入する事になるんだけどさ。どちらの勢力に味方するっていうよりも、シャドウの抗争のせいで死んでしまうマナの救出が目的だよ。シャドウという普段灼滅しにくいダークネスを撃破する機会でもある反面、パンタソスとはこれまで何度も接触してきたから、どうするかは難しい案件ではあるんだけどね……」
     でも、どんな方法や作戦を取るかはみんなに任せるから、と。
     遥河は、信頼する灼滅者達の背中を見送るのだった。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    獅子堂・永遠(ブレイラビイド・d01595)
    泉・火華流(自意識過剰高機動装甲美少女・d03827)
    神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)
    二階堂・空(大学生シャドウハンター・d05690)
    明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)
    フェルト・ウィンチェスター(夢を歌う道化師・d16602)
    鳥居・薫(涙の向こう側にある未来・d27244)

    ■リプレイ

    ●仮像者と処刑者
     見た事のない色彩放つ花弁が、ひらり舞い遊ぶ空間。
    (「綺麗なソウルボードだな」)
     もしも存在するならば、楽園とはこの様な風景かもしれない。
     そして、こんなソウルボードの持ち主であるマナはきっといい子なんだろうな、と。
     鳥居・薫(涙の向こう側にある未来・d27244)は優しくそっと、広がる空の如き色を秘める瞳を細めるも。
     ふと視線の先に居る者達の姿に、複雑な色を浮かべる。
     そう、夢の花園に在るのは、シャドウ。
     『仮像者』パンタソス・カロと『処刑者』ディミオスである。
     そして――灼滅者達が攻撃を仕掛けた相手は。
    「こいつの相手はボクたちが引き受けたー!」
    「! 何っ」
     屈強な男の形を取る、『処刑者』ディミオスであった。
    「面影糸を括り断ち切る剣を熾せ。――影剣立花」
     そう紡ぎ、力を解放した神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)の、半獣化した腕から放たれた爪撃に合わせて。同時に動いたフェルト・ウィンチェスター(夢を歌う道化師・d16602)が握る杖のスロットが、黄色へとチェンジすれば。
     処刑者を縛らんと迫り、形彩る影は、まるで動物の翼のはばたき。
    「これだけのハンターとシャドウさんズでソウルボードいっぱいやわ」
     戦場に躍り出る霊犬を前に送りながら、千布里・采(夜藍空・d00110)はそう、くふりと笑んで。
    「また遇ったなパンタソス、其方から話を振っておいてこうなる事への対策はしてなかったのかい?」
    「今日は思わぬ客人が多い日だね」
     煉の言葉に、紅の瞳を細め微笑むパンタソス。
     そんな彼に煉は一瞬視線を向けるも。
    「とは言え、その答えを聞いている時間は無い、此処は疾く退け。なに、貸し一つと言う事にしておいてやるさ」
     すぐにディミオスを見据え、得物を握り締めて。
    「これでこの間の借りはチャラかな?」
     シャドウの間に割り込み、悪戯っぽく笑うフェルト。
     今回選んだのは、『パンタソスを離脱させてディミオスと戦う』作戦。
     各人、思うところは様々ではあるけれど。
    (「パンタソスくんは種族的には確かにボクたちの敵だけど、前の大戦の時有利な情報をくれたし、今までだってやり方はともかく人間の幸せを考えて行動してくれたもん」)
     同じ種族ですら殺そうとするディミオスとじゃ比べ物にならないよね、と。
     迷わずに、ディミオスと対峙するフェルト。
     そして灼滅者達の行動に、パンタソスは大きく首を傾げる。
    「君たちは本当に理解不能だね、私を灼滅する絶好の機会だというのに」
    「さっさと出てってくれはらへん? 帽子屋さん」
    「行けよ、お前が戦えばこのソウルボードが無事じゃ済まない」
     次は狩りたいわ、と本音は思いつつも、彼を撤退に促す采。
     薫も、色々と言いたい事はあるものの。
     見せてあげよう影を打ち払う魔法を。目覚めの時間だ――そう紡ぎ、毒を帯びる漆黒の弾丸をディミオスへと撃ち出しつつも、今はぐっと我慢しておく。
     パンタソス自身も言うように、確かに彼を灼滅する絶好の機会。
     シャドウを狩る者としてこの機会を生かしたかったのは、獅子堂・永遠(ブレイラビイド・d01595)。
     いや、うさうさな小学生であった彼女は此処にはなく。スペードのスートを浮かべ、エイティーンで本性のものへと姿をかえた、森嗚・久遠である。
     過去の経緯から、今回の作戦は正直やる気が沸かないとはいえ。
     しかし相手はダークネス、仲間達の意向に合わせ、ディミオスを狩るべく、カテゴリーKの巨大剣を握る久遠。
    「ははは、俺としては出来ればほとぼりが冷めるまで、一般人のソウルボード以外に逃げて欲しいんだけどね」
     いつもの笑みを絶やさないながらも、二階堂・空(大学生シャドウハンター・d05690)は今後一般人に危害が及ぶ事を懸念し、パンタソスへと声を掛けて。
    「俺達のこの行動も理解不能なのかもしれないけれど、世界には理解できないことなんて沢山あるもんさ」
    「だからこそ、個人的には興味深くもあるんだけれどね」
     続けた空に、愉快気に笑むパンタソス。
    「アンタのスートって本当にダイヤ? ……ううん……本当にただのしがないシャドウ?」
     そして彼の情報を得られればと、泉・火華流(自意識過剰高機動装甲美少女・d03827)はパンタソスに尋ねてみるも。
    「コルネリウスに会う事があったら、言っておいて……いつか必ず一発入れに行くからって……」
     無愛想なお姫様の頼み事聞くくらいなら、可愛い美少女の頼みぐらい聞いてくれるよね……と。ただ微笑むだけの紳士に、そう言付けを。
     だが――その時。
    「やはりパンタソス……貴様、武蔵坂学園と繋がっていたのか!」
     そう、声を荒げるディミオス。
     そんなディミオス目掛け、戦場と化した花園に糸を張り巡らせながらも。
    「幸せ依存症の姫さんに『ありがとう』って伝えてくれないか。それから、ここのソウルボードを壊さないために、引き上げて欲しい」
     ダイヤの反撃を姫さんに伝えるのも大切だろ、と。パンタソスに改めて撤退を促した、明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)。
    「姫さんの都合であっても、助かった事には違いないから、さ。あんたの入れたお茶、一杯ご馳走してくれれば良いさ」
     そんな止水にパンタソスは笑み返して。
    「じゃあ、お言葉に甘えて。私は失礼するよ」
     シルクハットに手を添え、上品に一礼して。
    「では、また会う日まで……その処刑者に、君達が殺されなければ、ね」
     くすりと笑むと、夢の花園から姿を消すのだった。
     そんな彼を逃がすまいと、動こうとしたディミオスだが。
    「待て……、っ!?」
    「ボクたちが相手だって言ったよね!」
    「お前の相手は、俺達だ」
     パンタソスの後を追わせまいと、攻撃を仕掛ける灼滅者達。
     それをディミオスは振り翳した大鎌で弾き返すも。
    「思えば、貴様ら武蔵坂学園も、獄魔覇獄においての報復対象……ならば貴様らから処刑しようか!」
     パンタソスを追うのを諦め、灼滅者へと、処刑対象を変えたのだった。

    ●猛る処刑者
     シャドウとシャドウを狩る者達の、激しいぶつかり合い。
     咲き誇る花弁を一気に散らすのは、処刑者が振り下ろす強烈な黒き波動。
     だがその薙ぎ払いに怯みもせず返されるは、影で成した大太刀の一撃。
     夢で不躾にも荒ぶる影の存在を、『畏れ』を纏いし煉の影が斬らんと放たれれば。
    「これでカロも懲りへんやろかねぇ」
     そうくふりと含んだ笑みを宿し、花園を駆ける真白の霊犬と絶妙の呼吸で采が動いた刹那。
    「あんさんは逃がしまへんよって」
    「!」
     正確に狙い撃たれる、二つの獣の牙。采の操る影の触手が獣の牙と成り、ファイアブルーの彩り灯す霊犬の斬撃が、同時に鋭撃を繰り出して。
     ぐっと番えた空の弓から放たれるのは、仲間を癒す一矢。
    「いつもとは勝手が違うけど、剣と弓ならまぁ似たようなもんかな、ははは」
     空本人曰く器用貧乏であると言うが。ガンナイフから弓へと持ち替えても、そつなく使いこなせている万能さは健在だ。
     そして、空と同じ様に。
    「あんまり使わない武器だけど、なかなか……難しいなっ!」
     使い慣れていない得物を操る止水。
     だがそう言いつつも屈強な敵の肉体を穿たんと、高速回転する杭を突き繰り出して。
    「さすがは獄魔覇獄の覇者……と言いたいところだが」
     灼滅者達の猛攻を受けるディミオスが、そう口を開いた瞬間。
    「だが所詮、たかが灼滅者だな!」
    「……ッ!」
     絶大な威力を誇る大鎌の一撃が、久遠へと見舞われる。
     だが、宿りしスペードのスートをより闇色に染めながら。
    「これが特殊暗殺部隊……。面白い! 私の真の姿を見せてやろう!」
     狩るべき宿敵を粉砕すべく、『闇斬剣・キングカリバー』を大きく振り下ろす久遠。
     そして煽りの一言を放つのは、止水。
    「たかがって思って、速攻で俺達に足下すくわれてる」
    「何だと?」
     その言葉に、反応を示すディミオス。
     そんな様子を見遣りつつも。
    「ダイヤのシャドウってゴツイ感じのばっかりなのっ!?」
     戦場を疾駆する火華流から放たれるのは、『エアシューズ・シック』のロケットブースターを利用した、燃え盛る炎の蹴り。
     そして屈強な身体に蹴りを見舞いながらも、火華流は思う。
    (「ダイヤは体躯が大きいのが多い……が、パンタソスは優男。服は所詮は装飾、頬のスートも塗装なだけ?」)
     だがパンタソスがスートを偽っているとは、先程実際に彼を見て感じられなかったし。
    「俺達は、夢の中だけで満足する軟弱なシャドウ達とは違う!」
     ディミオス達は単順に、似た思考を持つシャドウの一派というところかもしれない。
     そして武闘派なだけあり、ディミオスの放つ一撃は重い。
     そんな豪腕誇るシャドウを見据えながら。
    「もう! キミには優雅さの欠片もないんだね。少しはパンタソスくんを見習ったら?」
     踊る道化が花園に舞わせるのは、伸縮自在なカラフルなリボン。
     フェルトの『ルージュ・エノアール』が仲間を覆い、生じた傷を癒せば。
     美しい花園を映すその瞳にバベルの鎖を集中させた後。
    「絶対、守ろうぜ」
     漆黒の弾丸をディミオスへと放つ薫。
     己に潜むシャドウに何処か似たパンタソスを見て。思い出す過去は、胸が締め付けられる程に痛いけれど。だからこそ、今度こそ守りたい。
     もう二度と、ソウルボードが壊れるところを、薫は見たくないから。
     そして各々が、思惑や感情を抱きながらも尚、協力しながら。
     夢の花園で重い衝撃に耐えつつ、得物を振るうのは……共通の目的を、成す為。

    ●処刑者の激昂
     強力なシャドウであるディミオスに、大きな傷こそ与えられないが。
    「く、しぶとい奴らめ!」
     皆で何とか支え合い、これまで処刑者へと徐々にダメージを積み重ねてきた灼滅者達。
     そして。 
    「……貴様等の相手も、ここまでだ」
     まだ倒れる様子こそないが。
     思いのほか長引いた戦況に、撤退の意思を見せるディミオス。
     だが。
    「復讐しに来ておいてすごすご逃げ帰るのかい?」
    「どうした? 堕ち損ないに負けて尻尾巻いて帰るつもりじゃないだろうな?」
    「ははは、暗殺部隊なんて言っておきながら、シャドウハンターに敗れましたなんて言ったら、他のシャドウにも笑われるね、こりゃ」
    「……何だと?」
     撤退の姿勢をみせていた処刑者は、その足をピタリと止めて。
    「暗殺部隊って言う割には、その程度なんだな。灼滅者の俺達相手で、しっぽ巻いて逃げるんだろ」
    「ふーん、どれくらい強いのかと思ってたけど意外とたいした事ないんだね。これならパンタソスくんを逃がさなくてもよかったかも」
     ――パンタソスを逃がすかわりに、ディミオスは逃がさない。
     それが灼滅者達の……いや、シャドウハンター達の選択。
     ダメージが蓄積してきている様にみえるディミオスを逃がさぬよう、言葉で煽って。
     そして完全に思惑通りに、ディミオスの撤退を止めたのだが。
    「逃げて結構……、情けないシャドウなど斬る価値も無い」
    「……言わせておけば、灼滅者の分際で……うおおぉぉっ、許さんッ!!」
     ダメ押しに言い放たれた久遠の言葉に、ついに怒りを抑えきれずに。
     ディミオスは、花園を震わせるほどの声を上げた後。
    「!!」
     今までと比べ物にならぬほど深い闇を宿した大鎌を振り下ろし、強烈な殴打を久遠へと放って。これまで前に立ち続けていた彼女に、最早戦えぬ程の深い傷を刻んだのだった。
     だが、そんな激昂するシャドウの動きを少しでも抑えんと。
     刹那、戦場に伸びる二つの影。
     血色の紅が滲む煉の影が、瞬時に籠手式のパンカーと成り、放たれれば。同時に動いた魂の片割れのファイアブルーに照らされ、より深さを増した采の影が、骨化した鋭き爪と成って伸ばされる。
     そして続き、近くに位置取る者同士息を合わせて。同時に攻撃や回復に動いた、フェルトと止水と薫。
     その連携に、顔を顰めたディミオスであったが。
    「小ざかしいっ! 纏めて死ねっ!!」
    「!!」
     瞬間、中衛の灼滅者達目掛け襲い掛かる、咎の力宿りし黒き波動。
     容赦なく放たれたその衝撃を、モロに受けたフェルトと止水が倒れて。咄嗟に薫を庇った霊犬の青き炎が撃ち消され、白き身体が花園から消え失せる。
     そして空の「祝福の言葉」から生み出された風が、前に立つ煉と火華流の傷や状態異常をすかさず癒すも。
    「ッ!」
     今度は回復役の空を狙う、ディミオスの漆黒の弾丸。
     そこに割って入るのは、ジェット噴射の勢いで『シックブレイカー』を振るう火華流。そしてその身を無慈悲にも貫いた、毒を帯びた弾丸。
     これで戦闘不能者は4人。
     空は、首に巻いた橙色のマフラーをぐっと握りながらも、冷静に決断する。
    「ソウルボードから撤退かな」
    「ハンター大集合でえらい面白かったけど、お仕舞いやね。敵さんもお怒りやし急ぎましょ」
     空の声に采も頷き、負傷した仲間に手を貸しつつ花園から脱出をはからんとするも。
    「現実に逃げる気か? ならば、現実世界で処刑してやるまでだ!!」
    「!」
     怒りが収まらず、灼滅者達を現実世界まで追わんとするディミオス。
     だが――その時だった。
    「人間は下がっていろ……、此処からはシャドウ同士の殺し合いだ」 
     スペードのスートを宿し、より深い闇へと堕ちんとするのは、一度倒れたはずの久遠。
     しかし、そんな彼女を引き止めたのは、薫。
    「待て、永遠! シャドウ同士が戦えば、マナのソウルボードが壊れるだろう!」
     シャドウ同士が争えば、パンタソスを逃がした甲斐なく、ソウルボードは崩壊する。
     ……だが。
    「永遠ではない、久遠だ。此処が駄目ならば、戦場を移す」
     久遠がそう薫へと返した、その時だった。
     ディミオスが現実まで追ってくると、そう確信した瞬間。
    「やれやれ……仕方が無いか」
    「!」
     その脚や腕の一部に纏われたのは、獣人の如き影の毛皮。深い傷を負っている久遠よりも早く、闇へとその身を委ねたのは――煉であった。
     そして、マナに極力負担をかけぬ様に。
    「場所を移動しようか」
     少しでも被害の少ない所へと、処刑者を誘う。
    「煉!」
    「すまない。後は……任せたぞ」
     そんな煉がディミオスをひきつける間に、撤退する灼滅者達。
     使い慣れぬバベルブレイカーに鋼糸を絡ませながらも、止水は仲間の肩を借りつつ、煉を一度振り返って。
    「もう二度と会うことも無いだろう。だが、会いたいと願うならば私を呼ぶがいい」
     寸でで完全なる闇には堕ちなかった久遠は、夢の主であるマナにそう呼びかけると。
     皆と共に、現実へと脱出したのだった。
     そしてディミオスは、敢えて灼滅者達を現実世界まで追わず、不敵に笑んでから。
    「仲間を逃がすべく同胞となったか。ならば、貴様から処刑してやろう!」
     闇に堕ちた煉へと、大鎌の切っ先を向けて。
     マナのソウルボードから姿を消した煉を追う様に――花園の夢から、去ったのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:獅子堂・永遠(だーくうさぎ員・d01595) 泉・火華流(自意識過剰高機動超爆裂美少女・d03827) 
    死亡:なし
    闇堕ち:神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756) 
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 17
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