観戦者

     薄暗い公園に、中高生だろうか、不良少年達がたむろしている。
    「ああもう、ケンカしてえのに相手がいねえ」
    「そこらで適当に吹っ掛けようぜ!」
    「いいな! お前マジ頭いい!」
     少年達にご近所への配慮ゼロな笑い声が沸き起こる。
    「ヒヒッ。いやあ、それもまあ悪くないんだけどさあ」
     突然暗闇から聞こえてきた知らぬ男の声に少年達の身がこわばった。
    「俺はさあ、そういうのじゃなくてもっとこう、派手なのが見たいんだよ」
     男はそんな少年達を気にする様子もなく話を続けながら、やや早足で少年たちへと近づいてゆく。男の頭には黒い2本の角が生えている。この男は人間ではなく、ダークネスの一種、羅刹であることは間違いない。
    「なあ、こいつでいいんじゃね?」
    「サンドバッグには丁度いいだろ」
     少年たちが立ち上がり、羅刹を囲みながら向き直る。
    「俺? あー、まいったな、俺はやらねえよ?」
    「何言ってんだこい……うわあっ!」
     大男が2人、羅刹と少年達の間に割って入り、すぐさま少年の顔面に拳が叩き込まれる。
    「お前らの相手は子分達がしてくれるから、せいぜい俺を楽しませてくれよ? ヒヒッ」
     夜の公園に、少年達の悲鳴と下衆な笑い声が交じり合った。
     
    「このままだと血気盛んな不良グループの人達が羅刹、乱暴で横暴なダークネスに襲われちゃうの」
     今回未来予測された内容によれば現場は深夜の広い公園。羅刹が2人の配下を従えて8人の不良グループを襲うという。
    「この羅刹はどうやら自分で暴力を振るうより、他者の暴力を眺めることが大好きみたい」
     そのために自分の力を分け与えた屈強な配下を連れて、たびたびこういった人間を襲っているらしい。羅刹が手加減などするはずもなく、放置しておけば間違いなく多数の死傷者が出るだろう、と付け加えられた。
    「近所の人達はなんだか深夜の喧嘩騒ぎには慣れてるみたいだから出てはこないけど、あんまり長引くと……その限りじゃない、かな」
     たとえ駆け付けたのが警察官であろうと、ただの一般人であることに変わりはない。ダークネスの力の前には為す術もなく倒れるだけだ。
    「みんなには未来予測の通り、羅刹が不良グループと接触するタイミングを見計らって向かってほしいの」
     
     羅刹は細い体に派手なスーツ、背格好は貧弱だが能力は決して低くなく、灼滅者が束になってやっとまともに戦えるという程の強敵であり、どう足掻いても1対1での勝ち目はない。
     但し、今回の羅刹は暴力を眺めることを目的としているため、こちらから手を出すか、配下が2人とも倒れるかしない限りは積極的に戦闘に参加してくることは無いだろう。
     配下の2人は黒いスーツに身を包んだボディガード風の大男。殴る、投げる等の単純な攻撃しか無いが、羅刹に分け与えられた力によって己の意思と引き換えに一般人をはるかに凌ぐ筋力、体力を得ている。
    「この羅刹は見た目はひ弱なんだけど、実際は凄い怪力なの。見た目で油断しないでね!」
     どうやら気魄攻撃への耐性も備えているらしく。単純だが、その強力さ故に一筋縄ではいかない。
     
    「未来予測してあるといっても、相手はとっても強力なダークネスだよ。みんな、気をつけてね!」


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290)
    風見・遥(眠り狼・d02698)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    梓潼・鷹次(旋天鷹翼・d03605)
    御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)
    遠吠・はがね(棺桶より産まれし者・d04466)
    九条・村雲(サイレントストーム・d07049)

    ■リプレイ

    ●ライフワーク
     公園に不快な笑い声が走る。
    「ヒヒッ。いや、あんた方の提案も悪くねえんだけどな」
    「あ? なんだオッサン。酔ってんのか?」
     不良のリーダー格と思われる少年の声は少しばかり笑い声を含んでいた。
    「いやね、もっと楽しい遊びを提案してやろうと思ってね……ん?」
     羅刹が目の前の少年達を無視し、周囲をぐるりと見渡す。何かを確信したように楽しげに笑った。
    「くせえな……ヒヒッ、楽しくなりそうだ」
     静寂を突然の轟音と閃光がつんざき、無数の光が羅刹を覆い隠す。
     硝煙の立ち上るガトリングガンを担ぎ、御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)が少年達の前へと歩み出る。
     羅刹の前に、傷だらけの黒いスーツを着た2人の男が仁王立ちしていた。
    「俺達が相手をしよう。ずっと見物しがいのあるショーになると思うが?」
    「おぃ、か弱い不良虐めてんなよ。ちっと、俺達と遊ぼうぜ?」
     梓潼・鷹次(旋天鷹翼・d03605)が矢を番え、羅刹へと向けてギリギリと音を立てる。
     いまいち状況が掴めずに首を捻っている少年達を遠吠・はがね(棺桶より産まれし者・d04466)がにらみ付けた。
    「俺らのほうにしときなよ、もっと楽しませてやるからさ」
     そう言いながら、風見・遥(眠り狼・d02698)が少年達へ向けて「あっち行ってろ」と手でサインを送る……が、効果の程はあまり見えなかった。
    「え、何、特撮? かっけー!」
    「どかーん!」
    「はー!」
     何やらポーズまで決めている。
    「……退屈紛れに人を害そうとなさる方は好きません」
     予想外な少女の声に振り返った少年の1人が聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)の放つ殺気に当てられ、言葉を失う。
     峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290)、スタンが少年のポン、と肩を叩いた。
     少年の目に映ったのはどこか現実味の無い、褐色肌の若い女性。
    「夜遊びは程々にしておきなよ、次も助けが来る保障なんて無いんだから……次は、死んじゃうかもよ?」
     薄明かりに照らされた足元には不自然に影がうごめいていた。
    「死にたくなければ、消えろ」
     九条・村雲(サイレントストーム・d07049)にガンナイフを突きつけられ、少年達は地面に手を付きながら公園の外へと向けて走り出した。
     羅刹はそんな様子をじっと、あごに手を当てて眺めていた。やがてぱん、と手を叩き、嬉しそうに顔を歪めて笑い声を漏らしていた。
    「あなたの喧嘩、私達がもっと高く買ってあげるわ。派手なのが好きなんでしょう?」
    「よし売った!」
     東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)の言葉に対して一切間を置かずに嬉々とした返事があった。
     それが合図であったかのように、黒スーツの男が拳を振り上げ、力生の頬を殴りつけた。
    「……問題ない、頑丈さには自信がある」
     力生が口元から流れる血を腕でぐいっとふき取り、心配する灼滅者達を制止する。
    「それとなー、さっきの。退屈紛れだっけ? 冗談じゃない、こちとら本気だぜ? これが俺のライフワークなの、生きがいの無い人生なんて……想像してみろよ、クソみたいなもんだろ、なっ?」
     羅刹は園内でただ1人、笑っていた。

    ●1人のギャラリー
    「……だいじょうぶ、戦い方は知ってる」
     戦いづらいから、と元の少女の姿へと戻ったスタンが小さくつぶやく。
     決意と共にきらりとピンク色の瞳が輝いた。どす黒い殺気、鏖殺領域が影に紛れ、黒スーツ達の体を覆い尽くしてゆく。
    「良く分からないけど、今のうちに手下を倒してしまいましょ」
     夜好の指輪から放たれた小さな弾丸が殺気を掻き分けて黒スーツの胸を貫いた。
     それに続くように、鷹次が光の十字架、セイクリッドクロスを呼び出す。
    「賛成! さくっと終わらせようぜ!」
     十字架を貫くように、鷹次が矢を放つ。1本だった矢は無数の光の矢と化して黒スーツ達へと次々に降りかかる。
     一瞬の混乱に乗じ、死角へと潜り込んだ遥の黒死斬が黒スーツのわき腹を捉えた。
    「まったく、弱い者虐めが見たいなんて大した趣味だな」
    「うーん、違うなあ。俺はただ人間が好きなだけなんだよ。とってもなー」
     羅刹がため息混じりに首を振る。
     黒スーツの右脚がふっ、と宙に浮いた。遥の体が正面から、ほぼ水平に踏みつけられる。技名を付けるとすればそう、『ヤクザキック』。
    「うぐっ!」
     遥から肺から声が無理やり搾り出される。
    「風見君!」
     すぐ傍に居た力生が声を張り上げた。
    「ほうら、こんなに感情豊かに殺しあう生き物なんてそうそう居ないぜ? これがたまんないんだよ、わかるか? まあわかんなくてもいいけどな、ヒヒッ!」
    「貴様の趣味に付き合うつもりはない」
     ライドキャリバーが低いうなりを上げて黒スーツの側面へとぶち当たる。ぐらりと揺らいだその体を村雲のホーミングバレットが撃ち抜いた。
    「まずは、1体……!」
     はがねの日本刀が鞘から抜き放たれ、既に体に無数の傷を負っていた黒スーツは前のめりに、巨体を地面へと伏した。
    「もっと楽しそうな顔しろよ。ったく、つれねえなあ」
     そう言いながらも羅刹の顔にはにんまりと下卑た笑みが浮かんでいる。
    「どうぞ、前をしっかりと。お願いいたします」
    「ナノー!」
     ヤマメと夜好のナノナノが即興のコンビを組んで遥を瞬く間に癒す。
     ふう、っと大きく息を吸った遥が地面から飛び起きた。
    「サンキュー、助かった!」
     口に中に入り込んでいた砂を吐き出し、再び刀を構えて残った黒スーツと向き合う。
    「どうした、こっちだ!」
     その横合いから力生のガトリングが黒スーツへと大量の弾丸を叩き込んだ。

    ●地に咲く赤い花
     黒スーツが咄嗟に頭を庇い、身を屈める。力生のガトリングは容赦なくさらに弾丸を浴びせ、追い詰めてゆく。
     そんな様子を見て羅刹は両手を打ち鳴らし、喝采を贈っている。
    「おお、やっぱりいいなあそれ! ヒヒッ、圧倒的、って感じがたまらねえ!」
    「……仲間がやられてるのに」
     宙に舞った土埃に紛れ、スタンから伸びた影の蔓が黒スーツの体を締め付ける。
    「とことん嫌なヤツだって事はよくわかったわね」
     夜好の放った制約の弾丸が黒スーツに当たって弾け、うっすらと纏わり付いた。
    「乱れ撃ち! 俺の弓からは逃げられねぇぜ、と!」
     鷹次の放った矢が流星のごとく黒スーツの頭上へと降り注ぐ。その間を縫うように遥が黒スーツの体を斬り裂いた。
     この攻撃を見計らっていたかのように黒スーツが足を振り上げた。それは先ほどの強烈な蹴りとほぼ同じ動き、遥はその動きをハッキリと捉える事が出来た。
    「何度も当たってたまるかよ!」
     小さく横へステップし、ヤクザキックは勢いよく空を切る。
     遥を飛び越えるように村雲が黒スーツの前へと躍り出る。その手に握られたガンナイフは大量の炎を纏い、そして一直線に黒スーツの顔へと叩きつけられた。
     片足が浮いていた事もあってか、黒スーツの巨体は大外刈りでもされたかのように勢いよく宙へ舞い、そして背中から地面へと落ちてゆく。
     一切動かなくなったそれを、驚いた顔で羅刹が見下ろしている。
     灼滅者達の視線が羅刹へと向けられた。
    「さって、あとは鬼退治だな!」
    「ねえ、彼らはもう闘えなくなっちゃったし……きみもそろそろ舞台に上がるべきじゃないかな?」
     ぱちぱちぱちと、大きな拍手が響いた。
    「ひゃー、驚いた! こいつら相当強いはずだったんだが。あんたら、つええなあ!」
     黒スーツへと歩み寄った羅刹の片足が、力なく転がる頭の上に乗せられた。
     ――ベキッ。
     予期せぬ光景に目を背ける事もかなわず、視線が引き止められた。
    「……さてと、たった今俺の子分枠に空きが出たわけだが、お前らの中でやってみてえヤツはいねえか? 大歓迎――」
     言い終わるのを待たずにライドキャリバーが羅刹めがけて突撃をするが、ぺちん、と片手で受け流されてしまう。羅刹へと向き直るライドキャリバーと共に、村雲が憎悪の眼差しを向けた。
    「チッ、交渉は決裂か。つええのに、あー、もったいねえ。……ま、後で個別に交渉すれば気も変わるだろ。ヒヒッ!」
     ニヤニヤと笑いながら羅刹が肩を揉み、首をコキコキと鳴らす。
    「お前に後は無い、俺達に灼滅されるだけだ!」
     まっすぐに振り下ろされた速く、重い斬撃が羅刹に当たる直前。パァンという鋭い音が響く。斬撃は、平手によって強引に軌道を逸らされて空を切った。
     羅刹は嬉々とした笑いとは違う苦笑いを浮かべ、息の生臭ささえ感じ取れるほどにはがねのすぐ傍へと顔を寄せた。
    「そんなんで俺を倒すってか? おいおいおい……冗談だろ!?」 
     割って入るように、ナノナノのしゃぼん玉がぱちんと弾ける。
     咄嗟に羅刹と距離を離そうとしたはがねに向けて、羅刹の腕が伸びた。見た目には細腕、しかしどうやっても振りほどけぬほど力のこもった手がはがねの肩をがっしりと捕らえる。そして羅刹はありったけの力を込めて、ただ乱暴にはがねを地面へと叩きつけた。

    ●闘争のカテゴライズ
    「ご無事ですか皆様」
     清めの風がはがね達の間を吹き抜け、癒してゆく。
    「ありがとう、俺はまだ……まだ闘える!」
    「……あー、ったく。せっかく久々にいい気分だったのによー」
     羅刹の顔から下卑た笑みが消えた。
    「戦いは見物するもんじゃない。決意して選ぶものだ。たとえ自分が傷ついても……そう、未来のために」
     力生から放ったジャッジメントレイが羅刹の体を穿つ。
     スタンが地面を這わせた影が羅刹の足を捕らえ、ギチギチと音を立てた。
    「お前ら何言ってんだ、戦うのは『今』のためだろ。……ってか正義漢っぷりに似合わねえ搦め手ばかり使いやがって、めんどくせえなー……」
    「搦め手で結構、今はあなたに勝つことが大事なの!」
     夜好の放った制約の弾丸が羅刹の胸深くにまで食い込んだ。小さな呻き声が聞こえる。
    「一念岩をも穿つ! 羅刹程度、撃ち抜いてやらあっ!」
     神薙刃を纏った矢が、羅刹の体に無数の傷跡を刻む。
    「これでも、喰らっとけっ!」
     遥が日本刀に影を纏わせ、トラウナックルを放つ。ふと、この羅刹のトラウマは一体、人間だったこともあるのだろうな、等という思いが脳裏に浮かぶ。
     ――いや、今更考えても、意味は無い。
     灼滅するという意志を強く影に込め、羅刹へ刀を突き刺す。
    「ぐあッ!!」
     羅刹の悲痛な顔には余裕の一片も見当たらない。
     入り乱れる灼滅者達の間を縫うように1発の弾丸が羅刹を貫いた。それを追うように走るライドキャリバーがその鋼の体を叩き付ける。
    「まだだ!」
     はがねが上段に構えた日本刀を雲耀の如く速く、ただ速く振り下ろす。
     羅刹の頭を狙った一撃は額に生えた黒曜石の角に阻まれるが、羅刹の象徴たるそれは斬撃によって大きく欠け落ちた。
    「これが俺達の戦いだ、お前のそれとは違う、俺達の戦いだ!」
     力生のガトリングガンから放たれる弾丸が羅刹の体を少しずつ削り取ってゆく。
     羅刹の鮮やかだったスーツは無数に開いた穴によって既に面影は無く、土と血で汚れきっていた。
    「くそっ、冗談じゃねえ……冗談じゃねえぞ!」
     反撃するためか、防御するためか、もしくは逃げるためか、数々の拘束から逃れようと羅刹は四肢を捻り、そして悶える。
     満足に動くことも出来ずに居る羅刹の足元に、体を縛る影とはまた異質な影が大量に忍び寄る。それはゆっくりと羅刹の体を這い上がり、首だけ残してすっぽりと包み込んでゆく。
    「……どう、やられる立場になった気分は」
     スタンの言葉に対し、羅刹がひくひくと顔を歪め、無理やりに笑顔を作り出した。
    「……ヒヒッ、どうだ……やってみると、楽しいだろ?」
     そっと目を閉じ、顔を逸らす。
    「最後まで見なくていいのかよ……へっ、もったいね――」
     ツプンッ、とまるで水に落ちたかのように羅刹の頭が影に飲み込まれる。
     羅刹はそのまま、静かに影の底へと消えていった。
    「ったく、最後の最後までこれかよ……」
     鷹次が大きく息を吐き、うなだれた。
     周囲に戻った静寂の中からサイレンの音が聴こえる。
     警戒し、身をこわばらせた途端に、それはただどこか遠くへ過ぎてゆく。
    「仕事は終わった……長居は無用だ」
     村雲の言葉に頷き、灼滅者達は公園を後にした。

    作者:Nantetu 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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