●スーパーカーブームっていうのが昔はありましてですねえ
「おお……このシルエット、たまらないでございます!」
カーマニアの高校生、竹内愛浩(たけうち・よしひろ)。彼はカーフェスなどのイベントに参加しては父親譲りの一眼レフで車の写真を撮りまくるのが人生最大の楽しみだった。
ちょうど彼の父親の世代にはスーパーカーブームっちゅうものがあって、乗れもしないし大人になったところで多分買えないような自動車の写真を撮りまくり、カタログスペックを熟知し、エンジン音だけでどの車か特定するようなマニアがそこらじゅうにいたもんだが、現代でもそんなことやってんのは近所でも彼くらいなもんである。
今日も峠攻めで有名な道路で一日中スタンバッて通りがかるキレッキレな車を撮影するという遊びに興じていた。
「おっと、今日も撮影に熱中してしまったでございます。ご飯は……」
財布を開いてみると、お金は殆ど入っていなかった。帰りの電車賃くらいのもんである。
あとあるのといえば、お父さんが会社で貰ったけどいらないからってくれた芋羊羹くらいだ。
「仕方ないでございます。ここは芋羊羹で……うぐっ!?」
喉が渇いてお腹がすいていたからだろう。愛浩はうっかり芋羊羹を喉に詰まらせてしまった。
「うぐっ、うぐぐでございます……!」
目を白黒させながら胸を叩く愛浩。
ようやくごっくんと飲み込んだ――その時!
「でございま――ウガアアアアアアアア!」
なんか知らんが急にデモノイドに変身してしまったのだった!
あ、芋羊羹は特に関係ないです。はい。
●急にデモノったので
「いやあほんと困るよな。デモノイドって何の前触れも無く急に来るんだからさ。でも大丈夫、俺たちがこうやって予知してるから、ガチ被害が出る前に対処できるのさ!」
赤いジャケットを着たエクスブレインが、妙にキレッキレな動きで親指を立てた。
なんでもデモノイドにいきなり闇堕ちした少年がいるっちゅーハナシである。
「と言うわけで、武蔵坂学園灼滅者……出動だ!」
デモノイドはそれ自体わりかし強力なダークネスである。
ほとんど物言わぬモンスターと一緒だが、そのぶん強いというのが特徴といえば特徴か。
だが今回のヤツは両腕を道路標識に、両足を自動車タイヤにしたなんだかゴッテゴテしたデモノイドなのだ。
「完全に趣味がモロ出ししたんだな。まあダークネス業界じゃよくあることだ、気にするな!」
エクスブレインは無駄にポーズチェンジして親指を立て直すと、ニカッと笑った。
「闇にとらわれた奴を、俺たちの手で救ってやろうぜ! な!」
参加者 | |
---|---|
白・理一(空想虚言者・d00213) |
江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337) |
椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925) |
シュクレーム・エルテール(スケープゴート・d21624) |
白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496) |
猩々・鵺(最大胸筋・d29985) |
●手取り17万程度で地球の平和を守る人がいるんだからさ……な!(残業に誘う時の文句)
「ゴザァー!」
交通標識とエアシューズのデモノイドこと竹内くんは、両手の標識を振り回しながらパラリラパラリラしていた。
ンな様子を双眼鏡で観察する灼滅者一同。
「随分おもしろいデモノイドだねぇ。ああいうのもあるんだ」
下の方にテロップで『白・理一(空想虚言者・d00213)』と出てきた。
「自分の趣味を文字通り体現している。悪い奴じゃなさそうだ。」
同じく江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)。
「あれ? おかしいな、なんかゾクレンっぽくないです? ぽくないですか?」
同じく椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)。
「いや、おかしいのは俺たちだろう。下手すると黒歴史になるかもしれないんだぞ」
おにゃじくエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)。
「白の人みたいに?」
うにゃじく東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)。
「えっと……みんなが何話してるかイマイチついていけてないけど、かっこいい車が好きな人なんだよね、あの人?」
にゃにゃじゃく白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496)。
「誰かツッコめ、このテロップに誰かツッコめって」
にゃにゃーにゃうにゃにゃーにゃ猩々・鵺(最大胸筋・d29985)。
「心配ないだっぷ! 見てる人はちゃんと分かるだっぷ!」
だっぷ。
「って名前! 名前だけはちゃんと表示するである!」
テロップのとこをつまんで放り投げ、代わりに『シュクレーム・エルテール(スケープゴート・d21624)』と書かれたプレートを貼り付けた。
「っていうかこのテロップ物理的に設置されてたんだ……」
「途中から絶対飽きてたでしょ……」
「ま、まあともかく。行きますか!」
「「おう!」」
八人(プラスライドキャリバー二台)はそれっぽいかけ声と共に崖からジャンプした。
●ポリス星人にも妻子がいるんだからお前だって……な!(婚期の遅れた人への慰めかた)
「「そこまでだ!」」
「ゴザッ!?」
カット編集で繋いだのかなってくらいジャストなタイミングで着地した八人へ、竹内くんはぐるっと振り向いた。
「ゴザァ!?(お前らは何者だと言っています)」
「フッ、僕たちは……!」
八人は地面を削る勢いで右足を前に出し、ぐるっと回転させてから親指を立てた。
「戦う交通安全!」
「学園戦隊!」
「「シャァァァァクメツシャー!」」
「シャー!」
ワンテンポ遅れるエアン。
皆の視線が集中し、エアンは小声であやまった。そのタイミングで爆発する背景。もうぐっだぐだである。
どう考えてもスレイヤーのほうが響きがいいのにあえてシャクメツシャの方で行く辺り、非常に『分かってる』奴らだった。
ひとしきり名乗りを待ってから、竹内くんは両手の標識をがっしがっしして突撃し始めた。
「ここは私に任せてください」
紗里亜はスッと前に出ると、両手から垂らした二本の帯を素早く両腕に巻き付けた。
「はっ!」
頭を前にして突っ込んできた竹内くんを斜めに払いのける紗里亜。
得意げに瞑目する。
「スーパーカーがブームだったのは父の子供の頃のことだったと聞きます。友達と写真を見せ合ったり、集めたカードを交換したり。父は当時のことを子供のように楽しげに語りました。だから分かるんです、今のあなたに足りていないのは……そう、仲間!」
カッと目を見開く紗里亜。
斜め後ろで破壊されてるガードレール。
『ゴザイマアアアアアア!』とか言いながら転げ落ちていく竹内くんの声。
「…………」
紗里亜はゆっくりと振り向いて。
「もう一回最初からやっていいですか?」
「最初からだってー! 竹内さーん! 最初っからー!」
「ゴザー!」
ガードレールから身を乗り出して呼びかけると、すんごいスピードで峠を登り切り、ぜーぜー言いながら元の位置に戻ってくれた。
「ござー!」
「はいっ!」
突っ込んでくる竹内くんの頭を両手でキャッチするように受け止める紗里亜。
タイミング良く理一とシュクレームがジャンプ。それぞれの得物を出現させた。
「ファンタスマゴリア!」
「毛皮ハンマー!」
紗里亜に押さえつけられている竹内くんを同時に殴りつけると、竹内くんは頭から火花をちらしてよたよたと後じさりした。
「ご、ございまっ!」
「竹内くん! 両腕が標識になっちゃったら一眼レフを持てないよ!」
「そうである! それに青なら戦隊もののブルーのほうがずっといいだっぷ!」
「ござー!」
竹内くんは両腕の標識を振り上げ、二人へと叩き付けてきた。がっしりとキャッチする二人。
「くっ! 目を覚まして! 学園にはライドキャリバーもあるんだよ! あんなのがあるんだよ!」
「はい、こんなのが!」
桜花がライドキャリバー・サクラサイクロンのエンジンをぶんぶんと吹かして見せた。ピンクのごてっとしたフォルムが陽光に光る。
「おっと、こういうのもあるぞ! 霧は……いやさ天馬雷!」
黒光りする大型バイクのようなフォルムをしたライドキャリバーに跨がり、鵺はエンジンの重低音を響かせた。
「バイクはいいぞ竹内! 風になれるからな!」
「思い出して、あのエンジン音を! 君が愛した車のことを!」
「あとバイクのことをな!」
「えっ?」
「んっ?」
二人は顔を見合わせてお互いを探り合ったあと、まあいっかという顔でアクセルをひねった。
「変わっちゃったからって諦めないで!」
「未来へ走ろう、竹内!」
同時に突撃を始める二人。
桜花の下に『桜餅アタック』、鵺のほうには『ぬえぬえアタック』というテロップが出てきた。
「って、どういう名前つけてんだ!」
「ござー!」
「うわー!」
「ぎゃー!」
竹内くん……と、理一とシュクレームがガードレールを突き破って崖を転がり落ちていった。
「リーチー!」
「店長ぉー!」
「竹内くーん!」
「もう! みんな落としすぎだよ! 今からちゃんと説得するから、落とさないでよね!」
純人が両腕をばたばたさせて怒った(かわいい)。
下の方で峠を猛スピードで駆け上る竹内くんと理一とシュクレーム。
でもってぜーぜーいいながら戻ってきた。
純人は竹内くんへと向き直り、こほんと咳払い。
「スーパーカーのこと、忘れたわけじゃ無いよね」
「ござっ!?」
「力強くて美しい、全てを兼ね備えた圧倒的なカリスマ。君はもう彼らを追いかけることを、撮影することを諦めてしまったの!?」
「ご、ございま……!」
「おお、効いてる効いてる! その調子ですよ!」
仲間たちの声援を受け純人はこっくりと頷いた。
「思い出して。情熱を、夢を……喜びを!」
「ござぁぁあああ!」
「竹内くん!」
飛びかかる竹内くん。
蹴り飛ばす純人。
くるくる回転しながら崖下へ落ちていく竹内くん。
「ござああああああああああああ!」
「竹内くううううううううううううん!」
「結局落としてるんじゃないか!」
「そんなはずじゃあ……」
「仕方ない。こうなったら俺らのほうから迎えにいくよ!」
ガードレールの隙間からぴょんと飛び出すエアン。
「そうだな、レースしようぜ。走ってこそだろう車は」
同じく飛び出す八重華。
二人は崖下で自分に絆創膏貼ってる竹内くんのところへ着地した。
「ゴザッ!?」
「かつての憧れを体現したのか? だがそいつは違う。思い出せよ、俺と走りながらな――ッ」
「そうさ。デモノってる場合じゃないよね!」
エアシューズを唸らせ、走り出す八重華とエアン。
竹内くんもそれに触発されたのか足下のタイヤを回転させ、一緒になって峠を走り始めた。
お互いにがしがしと身体をぶつけ合いながら、三人は元の位置へと突き進む。
「次のコーナーを曲がったところだ」
「ゴザァ!」
八重華とエアンの体当たりをものともせず、竹内くんは急加速。
二人を追い抜くかたちでゴールラインを切った。
「一番でございまぁああああす!」
ラインを切ると同時にデモノイドらしい青モップみたいな肉体を内側から破り捨て、まるで脱皮でもするかのように竹内くんが飛び出してきた。
メタリックブルーのツナギとフルフェイスヘルメットというやけに特殊な格好である。
「やったね竹内くん!」
「いやブルー!」
「うんブルー!」
「ブルーなんとか!」
「ございます!」
遅れて到着する八重華たち。
「これでデモノイドの力を克服したんだな」
「あれ、ちょっとまって? なんか雰囲気ちがくない?」
「……ございます!」
よく見ると、竹内くんあらためブルーからはなんだか闇的なオーラがもわもわしていた。
劇画調で身を乗り出すシュクレーム。
「これは、デモノイドの力を克服しようとするあまりその力をフルパワーで引き出してしまったんだっぷ!」
「「な、なんだって!?」」
はいCMはいりーまーす。
●世の中の大抵のことはナンセンスの海に流してしまえるということをだね、教わってだね……。
「ございます!」
「これは、デモノイドの力を克服しようとするあまりその力をフルパワーで引き出してしまったんだっぷ!」
「「な、なんだって!?」」
同じモーションをなぜかもう一回やる一同。
ブルーは片手を銀色の剣に変えると、純人たちへと襲いかかってきた。
「ここからはPC配布したときのモーションを紹介するためのガチなアクションシーンだっぷ! 気を抜いたらやられるだっぷ!」
「ねえシュクレームさん、なんでその口調なの? そんな口調じゃなかったよね?」
純人は両手で四角を作ってバーリアってしたしダイタロスベルトもシャカシャカ動いて盾になったが、ブルーはそれを一瞬で切り裂いてしまった。
「わっ、ほんとだ! ほんとに強いやつだ!」
「よっし、そうでなくっちゃな! 竹内!」
鵺はやけにでっかいスパナを取り出すと、ブルーへと叩き付けた。
破壊されて吹き飛んでいく剣。
更に鵺のライドキャリバーが突撃をしかけた。
「ございます!」
ブルーはひるまず腕を再び変形。自動車型の銃にすると、ライドキャリバーへと凄まじいビームを放った。
爆発して吹き飛んでいくライドキャリバーとすれ違いながら突撃する理一。
「これはバトルに勝ったら仲間になる流れ! いくよ、竹内くん!」
杖を握りしめ、ブルーへと繰り出す。
ブルーは交通標識型の盾を出現させると、それでもって杖を受け止めた。
更に標識から放たれた波動が理一を吹き飛ばす。
「キレッキレな動きだな。でも仲間と戦う楽しさはまだ知らないんじゃないかい? さあ、本気を見せてみてよ!」
「ございます!」
標識を操作して身構えるブルー。
するとどっからともなくタイヤが飛んできて肩からたすき掛けするみたいにコウカーンって……。
「ちーがうちがう! それじゃない! それじゃないやつ!」
「ございます?」
全身をがしょがしょ変形させてスポーツカーになるブルー。
「ちがうって! それじゃない! 真面目にやってもよう!」
「ございます!」
ブルーは全身にくっついたパーツをぽこぽこ取り外し、スーパーカー型のキャノン砲にして腕へ装着させた。
上から落ちてくる『これで正解』っていう垂れ幕。
「いくよ!」
「お前が燃えていたもの、思い出してみるがいい」
エアンと八重華が同時に飛び出し、炎を纏った蹴りを叩き込んだ。
「ございま……す!」
火花を散らしてずざーっと後方へ滑ったあと、スーパーカーキャノンを発射。
とんでもなくでっかいビームが放たれエアンたちは爆発と共に吹き飛ばされた。
「くっ……やっぱり強い。月給21万は伊達じゃないな」
何でか知らんけど顔や服を焦げ付かせた八重華が、口から流れた一筋だけの血をぐっとぬぐった。
「それでこそ、ですよ!」
背後から飛びかかった紗里亜が強烈な掌底を叩き込んだ
衝撃がブルーの体内に伝わり、芋羊羹が口から飛び出してくる。まんまの状態で。
「あ、あら? このまんま飲み込んでたんですか? でも出てきたんなら」
「「と見せかけてもう一回シューッ!」」
シュクレームと鵺が力を合わせて芋羊羹をシュート。
口の中にもごっと入った(フルフェイスヘルメットのどこから入ったのかはさっぱりわからない)ブルーは胸を叩いてもがもがした。
「今だっぷ! これでぶっ殺せば五分五分の確立で正気に戻るだっぷ!」
「五割!? 意外と低いね!?」
「それじゃあいっきまーす!」
サクラサイクロンを唸らせた桜花がおもむろに桜餅バイクアタックをぶっ込んだ(PTAの皆さんが怒らない程度のローアングルパンチラシーンを挿入しております)。
「ございまっ!?」
ぽいーんという音と共に崖下へ転げ落ちていくブルー。
火薬どんだけ使ってんだろうってくらい途中でぼかぼか爆発した後、一番下でひときわでっかい爆発を起こした。
ガードレールから身を乗り出して下を覗く一同。
「し、死んだかな?」
「だ、大丈夫じゃない?」
「死んだかと思ったでございます」
「「……」」
無言で横を見ると、同じように下を覗き込む竹内くんがいた。
「あ、今日からお世話になるでございます! 竹内愛浩でございます! シリアス依頼以外なら、どこにだって駆けつけるでございます!」
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年1月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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