燃えたぎる情熱は時に

    作者:飛翔優

    ●燃える心に鬱憤という名の薪をくべて
     晴れやかな青空が広がる草津。その奥地にある源泉に、彼はいた。
    「あー、もう、イライラするぅ!」
     名を、エイガ。
     武闘派イフリートの一人。
     彼は源泉の力を利用し流酒家を行いパワーアップ。そしてなんやかんやでガイオウが様を復活させる……と言う策に乗った。
     今は源泉で力を溜めながら、「考えるのは俺達がするから、お前達は待ってるだけで良い」などとのたまい失敗したクロキバへの不満を爆発させている最中である。
    「だいたいよぉ、まどろっこしいんだよクロキバさんはよぉ! 強い奴が勝つ、これこそ単純明快自由ハツラツじゃねーか」
     口にする度に怒りという名の巻がくべられるのか、エイガから立ち上る炎が熱く、激しい物へと変わっていく。
     より、力強いものへと変わっていく。
     そして……。
    「……うおぉぉぉぉぉぉ、あっちぃぃぃぃぃぃぃ!!」
     竜種イフリートへと、変貌した。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、静かな調子で労った。
    「先日の武神大戦獄魔覇獄、お疲れ様でした。今回は、それに関係した事件となります」
     葉月は語る、クロキバの事を。
     先日の武神大戦獄魔覇獄で、獄魔大将であったクロキバが敗北したことで、イフリートの穏健派が力を失ったと。
     残された武闘派イフリートたちは自分たちの力でガイオウがを復活させるための行動を始める様子。
     その方法とは、自ら竜種イフリートになること。
     竜種イフリートになると知性が大幅に下がり、目的を果たすために短絡的に行動するようになる。
     今回の場合、ガイオウが様復活のために、多くのサイキックパワーを集めようと暴れまわる事になるだろう。もっとも……。
    「こんな方法でガイオウが復活は果たせないのですけど……穏健派に抑えられていた反動と、それが無くなった勢いで、実行してしまうイフリートが多数出てしまい……。皆さんには、源泉に向かってイフリートの竜種化を阻止してきて欲しいんです」
     続いて地図を開き、草津の奥地にある源泉を指し示した。
    「この場所で、武闘派イフリートの一人エイガさんが、竜種イフリートになるために力を溜めています。赴いた頃には、あと少しで竜種化する……といった状態ですね」
     おそらく、猶予は十分ほど。
     十分が経過すると竜種化してしまい、戦闘力が強化されてしまう。
     一方……。
    「ある程度ダメージを与えた上で、竜種になったとしてもすぐに倒されてしまうんじゃないか? と思わせる事ができれば、やめるように説得する事も可能でしょう」
     エイガは武闘派イフリートの多分に違わず馬鹿……もとい直感的かつ直情的に動く脳筋。そのため、こちらの戦力が上であることを示した上で言葉を投げかければ、素直に従ってくれるだろう。
     肝心のエイガのイフリートとしての力量は、八人ならば十分に足せる程度。攻撃特化な戦術で、技はイフリートのものと同等のものを使ってくる。
    「また、依頼としては説得することができるか灼滅してしまえばOK、と言う形になりますね」
     以上で説明を終了すると、葉月は現地までの道を記した地図を手渡した。
    「説得か灼滅かは、みなさんの判断にお任せします。また、竜種化してしまえば説得は不可能となるため、その際は……」
     灼滅に切り替える必要がある。そう告げた上で、締めくくった。
    「どうか、全力での行動を。何よりも無事に帰って来てくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    天城・兎(赤狼・d09120)
    鏡・エール(カラミティダンス・d10774)
    焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)
    坂上・海飛(犬はやめて・d20244)
    カノン・アシュメダイ(アメジストの竜胆・d22043)
    犬塚・小町(壊レタ玩具ノ守護者・d25296)

    ■リプレイ

    ●暴走した情熱
     身を癒やし、心を労る。
     様々な人が訪れては温もりある休息に身を委ねていく、草津の地。
     湯治の基である源泉へと足を運んだ灼滅者たち。充満する湯気、吹き上がる飛沫をかき分け進んだ末、熱気を……炎を放っている男を発見した。
     イフリート・エイガであると断定し、カノン・アシュメダイ(アメジストの竜胆・d22043)はスレイヤーカードを抜いていく。
    「La lumiere du noir de jais」
     瞳が、紫水晶から深緋色へと変化する。
     表情もまた柔和な笑みから、鋭き氷のような険しいものへと変貌した。
    「行くよ、メイキョウシスイ!」
     一方、鏡・エール(カラミティダンス・d10774)もまたスレイヤーカードを一閃し、得物とともに霊犬の芝丸を呼び出した。
    「芝丸、お願いね」
     芝丸が重々しくも元気な鳴き声で返事をする中、黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)もまた武装。
     気配に気づいたのか視線を向けてきたエイガに対し、気だるげに手招きしながら言い放つ。
    「どうせ力で分からせなきゃなんねー。……単純明快でいいですね。頭冷えるまで殴り合いましょーか」
    「何なんだてめぇら! 邪魔するなら容赦しねーぞ!!」
     返答は、苛烈な言葉と敵意にて。
     エイガが竜種化するまで、およそ十分。
     タイムリミット付きの戦いが開幕する……。

     息遣いも、足音も、吹き上がる熱気にかき消されていく源泉。匂いすらも灼熱である事しか伝わってこない場所で、灼滅者たちもエイガも仕掛ける機会を伺っていた。
     最初に動いたのは、焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)。
    「物事はシンプルな方がいいんだろ? 俺とお前の炎……どっちが熱いか試してやんぜ!」
     不敵に瞳を細めるとともに大地を蹴り、縛霊手を嵌めた右手に霊力を込めて殴りかかっていく。
     半ばにて、拳は止まった。
     炎に染まりしエイガの拳と打ち合ったから。
    「邪魔する気だな? そうなんだな? だったら容赦はしねぇ、焼きつくしてやるぜェェェ!!」
    「っ……!」
     更なる力が込められていく事に気が付き秀煉は一旦バックステップ。
    「まだだぁ! 黒王号も続けぇ!!」
     着地とともにしゃがみ込み、膝のバネを使って跳躍。
     流星の如きジャンプキックを放つ中、ライドキャリバーの黒王号もまた秀煉の影を辿る形で吶喊した。
     上下からの連撃を受けよろめくエイガを、すかさず数本の影が絡めとった。
     担い手たるヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)は影に力を込めながら、静かな言葉を響かせていく。
    「まずは動きを抑えよう」
    「ああ、まずはこいつを……えっと……ああ、エイダ! エイダだ! とにかく止めるぞ! あ、カルビは待機な!」
     いち早く呼応した坂上・海飛(犬はやめて・d20244)は結界を放ち、エイガの四方を取り囲んだ。
     待機を命じられた霊犬のカルビが戦場に視線を送る中、エイガは小さく身動ぎし――!。
    「エイガだ、俺の名はエイガだ間違えんなぁぁぁ!!」
     ――影を振りほどくことなく、炎を放出。前衛陣を飲み込んだ。
     灼熱色に染まっていく戦場を前に、犬塚・小町(壊レタ玩具ノ守護者・d25296)はひとりごちていく。
    「強い奴が勝つ、確かに単純明快だね。……でも、残念ながらキミは弱い」
    「なんだとぉ!」
     反論には耳を貸さず、帯を射出。
     炎を貫きエイガの肩を切り裂く中、カノンもまた二叉に別れた諸刃の聖剣で待機を切り裂き踏み込んだ。
    「隙だらけだな」
     息つく暇も与えず横に薙ぎ、腹部を切り裂いていく。
     ……そうして、全力の攻撃を交わし合った。
     攻撃を優先したため最低限とはいえ、それでも、一体のイフリートを相手にするのに十分なほどの治療は行えていた。
     常に、最大限の攻撃を行う事ができていた。故に……。
    「チィッ……」
     炎が弱まっていく。
     影に囚われたまま、足をふらつかせ始めていく。
     力の差を知らせることはできただろうか? と、天城・兎(赤狼・d09120)が一旦ライドキャリバーの動きを制していく。
     自身もまた剣を下ろし、優しく、諭すように語りかけていく。
    「昔、竜種化したイフリートと戦ったことがある」
     自らの記憶を。
    「その際も、ガイオウが復活の兆しは何一つなく、寧ろ、灼滅後も何も残さず消えていった」
     経験を。
    「エイガくん、君の行動はガイオウが復活には繋がらないんじゃないかな? 少なくとも俺は、そう思うよ」
    「……」
     返答を促すため、兎は一度口を閉ざした。
     ただ、真っ直ぐにエイガの瞳を見つめていた。
     エイガは瞳を細め、口を開く。
    「ごちゃごちゃとうるせぇぇ!!」
     まだ、足りないのか。
     はたまた言葉も重ねる必要があるのか。
     いずれにせよもう少し続ける必要があるだろうと、兎は再び攻撃の機会を伺っていく。
     既に五分の時が経過している。
     残る時間は、おおよそ五分。それまでに説得できなければ……。

    ●炎をかき消すための熱き想い
     言葉を拒絶するかのように、炎が満ちた。
     刀を縦に構え、切り裂きながら、表情を曇らせる事もなく、エールは淡々と語っていく。
    「力が強いと有利、というのも真理だけどね。でたらめに力をふるうより、適切な所にふるう方が強い。キミのやろうとしてる竜種化はそれが出来なくなるんじゃないかな?」
    「うるせぇ、そんなの知らねぇよ!」
     返答は、拒絶。
     エールは少しだけ肩を落としながら手首を返し、一閃。
    「風よ……敵を打ち払え!」
     虚空を薙ぎ、風刃にて炎をエイガを切り裂いた。
     更に、蓮司が風に開かれし炎の中を駆け抜ける。
     炎に染まりし浴びせ蹴りを首筋へとかました時、その影からヴォルフが飛び出した。
     灼熱を宿せし大鎌を振り下ろすも、炎のガントレットでコーティングされた腕に阻まれる。
     ならば抑えこむまでと鍔迫り合いへと持ち込んで、身を寄せながら語りかけた。
    「暴れて破壊しまくって……それに何かメリットはあるのか?」
    「ガイオウガ様復活だ!」
    「それはどうだろう? まず落ち着いて情報収集、行動はその後だって学校で習わなかった?」
     語り終えると共に弾き合い、静かに視線を交わしていく。
     エイガは小首を傾げていた。
    「知らねぇ……ってか学校ってなんだ?」
     答える代わりに、兎が踏み込み剣を振るう。
     エイガが身をかがめた時、海飛が吹き上がる湯気よりも熱き拳を突き出した。
     左掌に阻まれても力を緩めず、押し合いへと持ち込み告げていく。
    「俺みたいに馬鹿なお前じゃできねえことをクロキバはやってて、それができなかったお前はやられてる。リンチしても面白くない、サシでやりたいけどこのまま続けるなら倒す」
    「っ!」
     事実、戦況は灼滅者側優位。たとえこのまま竜種化させてしまったとしても、灼滅できるだろう程度には余裕があった。
     今もそう。数多の呪縛がエイガの動きを鈍らせた結果、力比べでさえ押していく事ができている。
    「ぐぬぬ……だが、まだ……!」
     歯ぎしりしながらも、エイガは自らに気合を入れ海飛を押し返した。
     押し返された海飛はすぐさま体勢を整え、叫ぶ。
    「っ、エイダの分からず屋!」
    「エイガだ!」
    「おらよ……っと!」
     語らい合う二人の間に、秀煉が炎を掲げて飛び込んだ。
     黒王号が弾丸を放つ中、ただ袈裟に振り下ろしていく。
     エイガの体に、斜めの傷が刻まれた。
     さらなる熱が、エイガの宿す炎すらも焼いていく。
     そして……。

     重ねてきた言葉が効いているのか、体力的にも追い詰めているのか……いずれにせよ、エイガの動きは鈍っていた。
     残り二・三分。
     時間がない、だからこそしっかりと……全力をつくすのだと、蓮司は拳を放つ。
     肩へ、腹部へ顔へと打ち込んでいく中、静かな言葉を放っていく。
    「……実際の竜種なんざひでぇモンでしたけどね。言葉は通じねー上、する事といや精々原始人を侍らせるだけで」
    「っ! それは、さっき、聞いた!」
    「頭ン中は空っぽ、やる事はショボい。アンタが成りたがってるのはそんなモンですよ」
     返事に構わず、気だるげに言葉を重ねていく。
    「……大体、行き当たりばったりで済むならさ。ガイオウガさん、とっくの昔に目覚めてるでしょーが」
    「っ!?」
     若干、険が収まった。
     エイガが蓮司から距離を取り、口を強く結び始めていく。
    「キャリバー、一旦止まってくれ」
     変化を前に、兎はライドキャリバーを停止させた。
     小町は小さないきを吐き出し、改めて言葉を伝えていく。
    「もう一度言うよ。キミは弱い。何も考えず、直感に従っての動きは読みやすいんだ。ま、その圧倒的な暴力は認めるけど」
     事実、力だけならこの場にいる誰よりもエイガの方が強い。今はただ、呪縛を重ねたがゆえに抑えることができただけ。
    「竜種化すると、今より更に直感に頼った動きになる。だからボクらに灼滅されてるんだよ。竜種は」
     小町の参加した依頼を含め、果たして何体の竜種化イフリートが灼滅者たちに灼滅されてきたことだろう。
     言外に多数の竜種化イフリートを屠ってきたのだと匂わせて、エイガの様子を探っていく。
     エイガは俯いていた。
     自らの放つ炎の勢いを弱めていた。
     ため息とともに、カノンは剣を収めていく。
     答えを導き出させるため、言い放つ。
    「竜種化して暴れるだけでガイオウガが復活できるのなら、穏健派も既に行動していると思いますよ?」
    「……」
     静かな瞳で見据える中、エイガは項垂れたまま動かない。
     問題無いと踵を返し、仲間の状態を確認し始めた。
     説得は成った。故に、考えなければならないのは次のこと。
     カノンは互いの治療を行いながら思考を巡らせる。
     竜種化するイフリート。
     互いの持つ性質から考えれば……あるいは、今現在いるイフリートは、元々竜種イフリートが知性を得た姿なのだろうか?

    ●誤りし情熱は弱まりて
     治療を終えた頃になっても、エイガは項垂れたまま動かない。
     エールは仲間たちと顔を見合わせて、小さくうなずき近づいた。静かな息を吐いた後、軽い調子で語りかけていく。
    「ほら、考えて力を振るうのも強いでしょ?」
     芝丸が、元気に同意の鳴き声を響かせる。
     一呼吸分の時間を起き、エイガは笑った。
    「ああ、そうかもな……ははっ」
     ようやく顔を上げたエイガの表情は、迷い子のように瞳を潤ませ頼りない。
     けれども防ぐことはできたのだから……と、小町は話しかけていく。
    「力は、それを有効に使う事ができて初めて強さになるんだ。一度、クロキバと話し合う場をもってみたらどうかな?」
    「クロキバの野郎と……いや、クロキバさんとか……」
     具体的な回答はないが、前向きなニュアンスは伺えた。
     故に、ヴォルフは投げかける。
     学園への誘いを。
    「常時、色んなネタが入ってくる場所だから、お前の力の制御もお前の欲しい情報も手に入るかもしれないぞ?」
    「……」
     しばしの後、エイガは首を横に振った。
    「悪ぃ……そこまでは割り切れねぇ。だが、気持ちだけは受け取っとくぜ」
     顔を上げ、小さく頭を下げていく。その上で、外に向かって歩き出していく。
     背中を追いかけながら、海飛はしっかし……と自らの後頭部に両手を回しながら呟いた。
    「せっかくだから温泉とか入って行きてーよな! 泥まみれ汗まみれだし……エイダ、どっかいいとこ知らない?」
    「……もうエイダでいいよ」
     もっとも温泉なども知らないと、エイガは頼りなく笑っていく。
     けれども概ね和やかな光景を、秀煉は遠巻きに眺めていた。
    「まぁ、求心力を失ったイフリート勢に今後何ができるのか見物だな」
     単純とはいえ、相手はイフリート、ダークネス。今後が、どう転ぶかはわからない。
     ……願わくば、良い方へ向かわんことを……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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