甘い夢に迫る影

    作者:相原きさ

     ふわふわピンクの雲のお城の中。
    「むにゃむにゃ……コルネリウスさまぁ……うふふ……」
     そのお姫様が寝ていそうな、天蓋つきのもくもくベッドに、うさ耳のついた、シルクハットに可愛らしいファンシーなドレスを身にまとった少女が気持ちよさそうに寝ている。その少女は、またもや、ファンシーな可愛らしい杖を抱きかかえていた。
     このままずっと、幸せなこの夢で少女は休んでいる……はずだった。
     そこに突如、稲妻とともに現れたのは、赤い鎧を纏った大男。ぶんと、大きな斧を少女へと振り下ろす。
    「きゅわわわ!! なになになにっ!?」
     その前に気づいた少女は、何とか、その一撃を避け切ったが。
    「ほほう、この一撃を躱すとは。だが、その力を我らへと向けた報いを受けるがいい!!」
    「え? ええ? あ、も、もしかして、あんた達ってアガメムノンの?」
    「今更気づいても、もう遅いっ!!」
     激しい戦いが、このソウルボード内で繰り広げられる。
     可愛らしい雲の城が壊され、見るも無残な姿を晒している。
     何度も互いの武器が交錯し、そのたびに互いの傷が増えていく。
     だが、よく見ると、押されてきているのは、うさ耳の少女のようだ。
     とうとう、足がもつれて少女が倒れ込んでしまう。
    「ね、ねえ、同族でしょ? 仲よくしよーよ?」
     ロッドを盾のようにしながら、命乞いする少女だったが。
    「問答無用!!」
     その後の、男の無慈悲な一撃を何度も受け、少女はとうとう息絶えた。
    「ふふふふ、はーっはっはっ!! これでまずは一人……くっくっくっ……」
     崩壊するソウルボードから、男が脱出すると、後に残ったのは、少女の躯と。
     そして、このソウルボードを提供していた、主である一般人の死の二つだった。
     
     
    「どんな事件も灼滅者と迷宵ちゃんにお任せ☆」
     きゅぴーんと野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が魔法少女の格好で、灼滅者達を迎える。
    「というわけで、みんな、事件だよっ! ソウルボード内でシャドウ同士の争いが起きて……その夢を見ていた一般人の人が、耐えきれずに死んじゃいそうなの! ちなみに原因は、アガメムノンの配下が、コルネリウス派のシャドウを襲撃した所為なんだ」
     そこでと区切って、迷宵がびしっと手にしていた、ロッドを灼滅者達へと向ける。
    「そこで、みんなの出番だよ! 二人が戦ってる夢に入って、シャドウの戦いから一般の人を守ってあげて欲しいんだよっ☆」
     迷宵の話によると、夢を見ているのは12歳の女の子、エリちゃんらしい。ファンシーな小物を作ったり集めたりするのが大好きな内向的な女の子のようだ。
    「夢に入るから、ソウルアクセスが必要になるけど、入るのはそんなに難しくないよ。悪夢じゃないし、二人のシャドウ以外は何もいないから、その辺も考えなくて大丈夫☆ で、夢の中は、ピンクの雲の上にできた、可愛らしい雲の城だよ。ちょっとふわふわしてるから、気を付けてね」
     それよりもと、迷宵は注意を促す。
    「問題はその後! みんながどう行動するかによって、戦い方も変わってくると思うの」
     よく聞いてねと前置きして、迷宵は説明する。
    「ひとつは、襲われてるコルネリウス派のシャドウを離脱させた後で、アガメムノンの配下と戦うこと。アガメムノンの配下は、灼滅者のみんなのことを報復相手だと思っているから、コルネリウス派のシャドウがいなかったら、みんなのところに襲ってくると思う。ただ、シャドウ同士の戦いにはならないから、エリちゃんの死んじゃうリスクは減らせるよ。でも、アガメムノンの配下は、かなりの強敵だから気を付けてね」
     そこで区切って、迷宵は次の説明に入る。
    「二つ目は、アガメムノンの配下に協力して、コルネリウス派のシャドウを撃破すること。強い方に加勢して、早期決着をつけることによって、エリちゃんが死ぬのを阻止する方法だね。ただ、コルネリウス派の止めをアガメムノンの配下がした場合は、コルネリウス派の子が死んで、アガメムノンの配下は撤退していくことになる。でもね、その止めを灼滅者のみんながした場合は、コルネリウス派の子を死なずにすることはできるだろうけど、報復を邪魔されたと思ったアガメムノンの配下が、襲ってくることになると思うよ」
     どちらもメリットとデメリットがある。時間をかけてギリギリの戦いをするか、それとも早期決着で一般人を助けるか。
    「どちらにせよ、今回の目的はあくまでも、『エリちゃんを救出する』のが目的だからね。どちらの勢力に味方するってことじゃないから、エリちゃんを助けることを優先にして考えてね」
     シャドウ同士の抗争に介入することになるが、今回はそれに巻き込まれた一般人であるエリを助けることが第一だ。
    「どんな方法でも構わないけど……アガメムノン配下にコルネリウス派のシャドウを殺させれば、シャドウという灼滅しにくいダークネスを撃破する大きなチャンスになるかもしれないね」
     そう言って迷宵は、出かける灼滅者達を見送ったのだった。


    参加者
    姫城・しずく(優しき獅子・d00121)
    小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)
    上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    枉名・由愛(ナース・d23641)

    ■リプレイ

    ●潜入
     仲間の力を経て、灼滅者達は、エリちゃんのソウルボード内へと入っていった。
     ふわふわの、ピンクな雲の上。遠くには件の雲の城が見えた。
    「……ソウルボードに入るのも久しぶり、ね」
     感慨深そうに黒の瞳を細めるのは、枉名・由愛(ナース・d23641)。
     その横で、月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)はため息交じりに、心の中で思う。
    (「抗争かー……一般人を巻き込まない程度でやってくれないかな……。コルネリウスはあまり好きじゃないけど……武神大戦獄魔覇獄での恩があるし、その恩を返すぐらいは……ね」)
     どうやら、それぞれ思うことがあるようだ。
    「……綺麗な夢ね。ええ、これを壊させなどしないわ」
     桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)も、意気込んでいる様子。
     その傍で。
    「シャドウ同士、抗争。人的被害、皆無、為らば、放置推奨。が、一般人、危機故、妨害遂行」
     ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)もまた、その意見に同意していた。
     と、そこで城から爆発音が響き渡る。
     どうやら、二人のシャドウが戦闘開始したようだ。
    「ジン、一緒に行くよ!」
     姫城・しずく(優しき獅子・d00121)は、傍にいる霊犬にそう声をかけて。
     灼滅者達は、すぐさま、城の内部へと駆け出して行ったのだった。

    ●接触、そして退避
     斧を振るうたびに、壁や床が壊れていく。
    「もうもう、この子の夢、すっごく気に入ってたのにっ」
     憤慨するかのように、うさ耳のシルクハットを被ったシャドウの少女が、そう悪態をつく。
    「煩い! お前達が、あの戦いであんなことをしなければ!!」
     赤い鎧を着込んだ、男のシャドウが再び斧を振り下ろそうとしたときだった。
     がきんという鈍い音と共に、銀と黒の長髪が、うさ耳シャドウの少女の目に映る。
     続いて、異形化した腕が赤鎧のシャドウへと振り下ろされた。
    「腹いせに報復とは考えが浅いね。それとも、ただの戦闘バカかな?」
     架乃と理彩、そして上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)が、シャドウ達の間に割り込むように飛び込んできたのだ。
     それから遅れるかのように、後から来た灼滅者達が次々と到着する。
    「同族同士で争うなんて、ダークネスも色々と大変そうね」
     由愛が介入がてら、そう呟く中。
    「この敵は、私達が引き受けますから逃げてください!」
     風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)は、うさ耳シャドウの少女へとそう呼びかけながら、赤鎧のシャドウへとWOKシールドで勢いよく殴りつけた。
    「さっさと逃げてね。じゃないとあのお兄さんに殺されちゃうよ」
     しずくもガトリングガンで、赤鎧のシャドウを牽制する。
    (「なんて、可愛い帽子っ……!」)
     いや、今はそんなときではない。小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)はマテリアルロッドを構えると。
    「まずは私達と戦ってもらうっすよ……!」
     魔術によって引き起こした雷を敵へと向けて、撃ち込んだ。
    「え? え、ええ? どういうこと!?」
     シャドウに襲われ、灼滅者に助けられ……うさ耳シャドウの少女は混乱しているようだ。だが、灼滅者達は彼女を攻撃せず、赤鎧のシャドウだけを攻撃しているため、少しずつではあるが、落ち着いてきているようだ。
     その間も灼滅者達の攻撃は留まる事はない。
     死角から放たれた斬撃。それにより、赤鎧のシャドウの足取りを鈍らせた。
    「失敬。赤鎧シャドウ、妨害遂行。通行希望、為らば、肉体言語、宜しく」
     それを成したのは、ガイスト。表情は読めないが、その雰囲気からすると満足げな気配を感じる。
    「貴様ら、邪魔するつもりか!?」
     これまでの攻撃を受けて、かなり怒っている様子。
    「邪魔をするな、ですか? して当然です。我々は灼滅者、ソウルボードを破壊する行動を取るシャドウを優先して、撃破するのは当たり前でしょう?」
     そう、敦真が言い放つ。いや、それだけではない。
    「こういうのを、脳筋って言うんだっけ?」
     しずくも焚き付けるかのようにそう茶化していた。
    「き、貴様ら……ならば、貴様らから血祭りにしてやろう!」
     赤鎧のシャドウは、龍の骨をも叩き斬るような強烈な斧の一撃を前に出ていた理彩が受けてしまう。思わず膝をつくものの、それでも理彩はやられる気はないようだ。
    「早く去りなさい。私達の……貴女の主への義理がまだ有るうちに」
    「それって……」
     思わず、うさ耳シャドウの少女が呟く。
    「私は恥知らずでは無いから、義理には礼でもって応えるだけ。次に会ったら敵よ」
     そんな理彩の言葉に続けるかのように、架乃も口を開く。
    「このままシャドウ同士で戦い続けたら、このソウルボードが壊れちゃうよ。素敵な世界が無くなるのは悲しいしもったいないから……ね。頼むよ」
     その間にも、灼滅者達と赤鎧のシャドウの戦いは、激しく続いている。灼滅者達の方が人数が多いのでなんとか抑え込めているが、これが長引けば、どうなるかはわからない。
    「保護者同意なしでの未成年者の精神連れ去りなどを、あなたがここでしていたなら、あなたも私の敵ですが……単にここに居ただけなら、関心はありません」
     優歌もそう言いながら、うさ耳シャドウの少女を説得していく。
    「それよりも早く逃げなくていいのかしら? あなたがアガメムノンの配下の者に襲撃を受けたこと。このことをコルネリウスに知らせるべきではなくって?」
     由愛が最後にそう告げると。
    「そうだね、このことはコルネリウスさまにも、いち早く伝えなくっちゃいけないもんね。それに、コルネリウスさまも危ないかもしれないし」
     うさ耳シャドウの少女は、すっくと立ち上がると。
    「そこのお姉さんの言う通り、ボクはここで帰った方が良さそうだね。それと……」
     照れたように頬を火照らせ、少女は続ける。
    「まあ、その……一応、言っとくよ。ありがと……」
     そう言って、うさ耳シャドウの少女は、やっとこのソウルボードから撤退していったのだった。
     残るは赤鎧のシャドウのみ。
    「き、貴様ら……貴様らが貴様らが……うおおおおおお!!!」
     雄叫びと共に、赤鎧のシャドウは、龍の翼の如き高速移動で灼滅者達へと突入し、次々と薙ぎ払った。
    「なるほど。7割が倒されたあの攻撃であなたが生き残ったのは、そのように無様に逃げ回っていたからですか。倒すには時間がかかりそうですね」
     挑発を込めたその言葉と共に優歌は、ダイダロスベルトを射出し、赤鎧シャドウを貫く。そんなつもりはなくとも、その優歌の言葉は、今後の赤鎧との戦いが長引くことを暗示していた。

    ●激闘の末に
     うさ耳シャドウの少女が去った時点で、この戦いの成功は確約されたも同然。
     だが、邪魔された赤鎧のシャドウは黙っていない。
    「貴様らが邪魔をしなければ、あやつを殺せたはずなのに、貴様らが邪魔をしなければっ!!」
     斧に宿る力を解放して、傷を癒し自らを強化させると、赤鎧のシャドウはなおも激しい攻撃を重ねてきた。
    「そうはさせません!」
     負けじと敦真も鬼神変で、強化された盾を壊そうとするも、なかなか上手く壊せなかったようだ。
    「そこまで言うのなら、僕達が倒してあげるよ、お兄さん」
     続くしずくは、距離を取りながらも漆黒の弾丸を形成し、一気にシャドウへと放つ。
    「夜霧、展開」
     激しい攻撃に対応するため、ガイストは夜霧を身の回りに展開させた。ガイストは前衛で赤鎧のシャドウの足止めと盾役に徹していた。傍に控えるビハインドのピリオドもガイストの意志を汲んで、同じように盾役を務めている。お蔭でディフェンダーを担う者達の負担が大きくなっているが、その分、他の者達のダメージを抑えつつ、戦いを展開し続けることができた。それだけではない、先ほど逃走したうさ耳シャドウの少女の逃走時間を作ることもできたのは、彼らが支え、かつ、他の皆も挑発し、効率よく戦っていたお蔭だろう。
    「燃え尽きて消えるがいいわ、シャドウ」
     体内から噴出させた炎を武器に宿し、理彩は赤鎧のシャドウへと叩きつける。
    「さあ、楽しみましょう?」
     そう言って、由愛は赤鎧のシャドウに近づくと。
    「大丈夫よ、すぐに楽にしてあげるから」
     手に持った注射器で、体内へと毒を流し込んでいく。
     激しさを増す戦いの中、翠里は宿敵であるシャドウを逃がすことに、戸惑いを覚えていた。
    (「コルネリウス派と戦えば、シャドウを完全に灼滅できる……でもそれでも、一般人の方を確実に助け出したいっす……!」)
     そんな気持ちを振り払うかのように、翠里はフォースブレイクで追撃をかける。
    「これでも……喰らえっ!!」
     赤鎧のシャドウの放ったデッドブラスターは、優歌の体を蝕んだ。
    「これが歓喜の毒ですか。一般人が作り出す麻薬のような効果にするくらいの工夫もできないんですね。その方がよほど恐ろしいのに……ですが」
     優歌はそれに耐えながらも。
    「他人の心を戦場にするなんて、迷惑です!」
     必死に、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させる。
    「そうそう、戦うなら場所を選んで欲しいよね」
     続いてしずくが、爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射していく。
     これで終わらないのが、灼滅者達の攻撃。
    「防護、割断……決着間近、把握」
     ガイストの放ったティアーズリッパーの手ごたえを感じ、すぐさま理彩が前に出る。
    「さようなら。――心壊!」
     愛刀である心壊で一刀両断! これで……終わるはずだった。
    「ま、まさか……」
    「流石は……幾度となく戦いを制覇してきた猛者よ」
     噴き出す血をそのままに、その男はなおも立ち上がったのだ。
    「今宵は我が引くとしよう……これほどまでの力を持つとは、恐ろしい奴らよのう」
     立ち去ろうとする赤鎧のシャドウに理彩がもう一度、一太刀あびせようと動き出そうとしたが。
    「深追いは禁物です。目的はエリちゃんの救出で、それは達成しました。それに、あのシャドウが現実に現れたら全てが無駄になってしまいます」
    「そ……そう、ですね」
     敦真に引き留められ、赤鎧のシャドウはそのまま姿を消した。灼滅者達はそれを見送るかのように、それぞれ手にしていた武器をゆっくりと下したのだった。

    「とりあえずは成功かな。お疲れ様、皆。怪我は無い?」
     しずくが皆に声をかける。また、怪我の酷い者にはジンを向かわせ、回復を施していた。
    「損傷確認、治癒開始」
     ガイストも自分の怪我に気づいたらしく、防護符で治療をしている。
    「ああ、うさ耳さんに、あの帽子がどこで売っているか聞きたかったっす~!」
     戦い終わって、思わず翠里が本音を暴露していた。
     その様子に思わず、笑みが零れてしまう。
    「これでエリちゃんは大丈夫かな?」
     心配そうに空を見上げる架乃の頭に、ぽんとしずくの手が乗せられる。
    「そうだね。後で、エリちゃんの様子見に行かないとね」
     その言葉に架乃もやっと笑みを浮かべて。
    「……この抗争、すぐに収まってくれるといいんだけどね」
     こうして、彼らの戦いは終わりを告げた。
     二人のシャドウを倒すことはできなかったが、それと引き換えに、一人の少女の命を救うことができたのだった。

    作者:相原きさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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