赤いじゅうたんが敷かれ、天井にシャンデリア。ここは屋敷の大広間。
顔にハートマークをつけたメイド――コルネリウス配下のシャドウが箒を手に、掃除をしていた。
「うふ♪ お掃除は気分転換にいいですね」
そこに――黒い巨人が現れた。黒巨人の身長は2メートル半。全身の肌が黒い。丸い頭も黒く、髪や目や鼻が見当たらない。ボーリングの玉を思わせる頭。黒巨人の手には斧。
斧を持つ手にはダイヤのマーク。黒巨人はアガメムノン配下のシャドウだ。
「がはは♪ 死ね。アガメムノン様の為に。がはははは♪」
巨人の言に、メイドの顔が険しくなる。
メイドは箒の先を巨人に向け、巨人は斧を構えた。
時間が経過して。激戦を制したのは、黒巨人。彼の斧が、メイドを両断したのだ。
……床に、壁に、天井にひびが入り始めた。ソウルボードが崩壊しようとしている。
「がはは♪ 次の獲物も潰すぞ。がははは♪」
笑い声をあげ、黒い巨人はソウルボードから立ち去った。
学園の教室で。
「新年早々だが、事件だ」
ヤマトが灼滅者たちに声をかける。
「ソウルボード内でシャドウ同士が争い、それにより夢を見ていた一般人が死亡する、という事件だ。
原因は、獄魔大将だったアガメムノンの配下が、獄魔覇獄の復讐に、コルネリウス派のシャドウを襲撃したこと。
結果、戦場となるソウルボードの夢を見ていた一般人が、シャドウ同士の激戦に耐え切れずに死亡してしまう。
皆。夢を見ている人の場所に向かい、シャドウの争いからソウルボードを守ってほしい」
夢を見ている一般人は茨城県のアパートに住むOL。
まず彼女の夢に侵入しなければならない。が、彼女のアパートに侵入するのも、ソウルアクセスするのも、灼滅者なら極めて容易。
ソウルボードの舞台は、きらびやかな洋風の豪邸。
コルネリウス配下のシャドウは、メイド趣味がある。
このシャドウ、メイドシャドウは休息のため、メイドとして振舞いたい欲望を満たすため、豪邸のソウルボードを訪れた。
そのメイドシャドウを襲うのは、アガメムノンの手下、黒巨人。
「コルネリウス配下のメイドシャドウとアガメムノンの手下の黒巨人は、ともにシャドウハンターの技を使いこなす。黒巨人は加えて龍砕斧に似た武器を使う」
総合的な実力はメイドシャドウより、黒巨人が上。
「さて、ソウルアクセス後の行動について説明しよう」
灼滅者がソウルボード内に入った時、メイドシャドウと黒巨人は互いににらみ合い、戦闘開始直前。
「お前達のその後の行動だが――次の二つから選んでもらいたい」
一つ目。『コルネリウス配下・メイドシャドウを離脱させた後アガメムノン配下・黒巨人と戦闘を行なう』
黒巨人は、灼滅者も報復相手と考えている。メイドシャドウを撤退させた後も、戦闘を仕掛けてくる。
シャドウ同士の戦いでは無くなるので、夢見る一般人が死亡することは無くなる。が、アガメムノン配下は強敵だ。
二つ目。『アガメムノン配下・黒巨人に協力してコルネリウス配下・メイドシャドウを撃破する』
素早くメイドシャドウを撃破する事で、夢を見る一般人の死亡を阻止できる。強い方に加勢することで、一般人が死ぬ前に戦闘を決着させることが可能だからだ
コルネリウス配下の止めを黒巨人に刺させた場合、メイドシャドウは死亡し、黒巨人は撤退する。
逆に、コルネリウスの配下の止めを灼滅者が刺した場合、メイドシャドウは死亡しない。そのうえ、報復を邪魔された黒巨人が、灼滅者に戦闘を仕掛けてくる。
一つ目の選択肢と二つ目の選択肢、どちらを選ぶかは灼滅者次第。
「が、黒巨人にコルネリウス配下メイドシャドウを殺させれば、シャドウという灼滅しにくいダークネスを撃破できるかもしれない」
ヤマトは灼滅者の目をじっと見る。
「いずれにせよ、最大の目的は『一般人が死なないこと』だ。そのことは忘れないでくれ。皆の活躍を期待する!」
参加者 | |
---|---|
米田・空子(ご当地メイド・d02362) |
忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774) |
朔良・草次郎(蒼黒のリベンジャー・d24070) |
東・喜一(走れヒーロー・d25055) |
望月・一夜(漆黒戦記ナイトソウル・d25084) |
影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262) |
桐生・冬華(天に舞う比翼の春花想尊・d25882) |
静守・マロン(我シズナ様の従者也・d31456) |
●
シャンデリアの灯りを、広間の隅に飾られた白い壺が反射していた。足元には絨毯。屋敷の奥からはクラシック音楽が聞こえてくる。
ここはソウルボードの中。侵入したばかりの灼滅者八人は、肌に殺気を感じていた。
前方には、殺気の主である二体、メイドと黒い巨人が向き合っている。コルネリウス配下のメイドシャドウと、アガメムノン配下の黒巨人だ。
メイドシャドウは箒を槍のように構え、黒巨人は斧を振り上げていた。互いに攻撃しあう寸前。
望月・一夜(漆黒戦記ナイトソウル・d25084)と桐生・冬華(天に舞う比翼の春花想尊・d25882)は走りだす。
「常闇よりの使者、ナイトソウル見参ッ!」
「黒巨人、助太刀するわ! 今回はね!」
一夜と冬華の足は燃えていた。二人の足がメイドシャドウの頭を、左右から挟み込むように、蹴る!
よろめくメイドシャドウ。黒巨人は、
「我に助太刀だと? 見たところ、学園の灼滅者のようだが……何故我に?」
といぶかしむように問いかけてくる。
朔良・草次郎(蒼黒のリベンジャー・d24070)が黒巨人たちに近づき、吐き捨てるように答えた。
「やつを始末してぇんだろ? こっちもそのつもりで来てんだ。さっさと始めろ」
忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)と影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)が草次郎の隣に並び、言葉を添える。
「私達はアナタを利用していち早い決着を望むわ。アナタは私達を利用して有利に戦えばよい。利害は一致していると思うけれど、どうかしら?」
負の感情を見せず、穏やかに言う玉緒。
死愚魔もぼさぼさ髪に触れた後、冷静な声で理を説く。
「コルネリウス派と協力したのは、あくまで利害関係の一致から。こっちはコルネリウスの戦力も削ぎたいから、今は黒巨人たちと利害関係が一致する。――協力しあえると思うんだ」
黒巨人は数秒間黙った後、
「がはは♪ 我の邪魔をせぬのであれば、勝手に手を貸すがいい。がはは♪」
上機嫌に承諾する。
静守・マロン(我シズナ様の従者也・d31456)は黒巨人の言葉を聞き、唇を噛んだ。唇から歯を離し、
「今は……戦うのみである」
ビハインドのシズナと前進する。マロンとシズナはメイドシャドウの左右をとった。マロンの銀の爪とシズナの霊撃が、敵の脇腹をえぐる!
攻撃を受けたメイドシャドウは目尻を吊り上げた。彼女の持つ箒が黒に染まる。
「このっ!」
箒がマロンの肩を痛打。痛みと幻に、マロンは膝をつく。
米田・空子(ご当地メイド・d02362) はメイドシャドウを見つめていた。が、マロンが膝をついたのを見ると、即座に手をマロンへ差し伸べる。
「安心して欲しいのです。怪我をしても、空子がすぐに治しますから」
手が淡く光る。空子の光がマロンを包み込み、マロンから痛みと幻を払った。
一方、メイドシャドウは声を張る。
「アガメムノンの手下だけでなくあなたたちまで、私の敵に? ふざけな……」
ふざけないでと言おうとするメイドシャドウの言葉を、東・喜一(走れヒーロー・d25055)が遮った。
「メイドヒーローはこんなふざけ方はしません。同じメイド服を着ているものとして、本気で相手させてもらいますよ!」
メイド服の裾を翻しつつ、槍の先に炎を点す。炎で、メイドシャドウの体を焦がす!
●
戦いは始まった。黒巨人の斧が、メイドシャドウの腹を薙ぐ。それでもメイドシャドウは目に闘志を燃やす。
「勝負は数のみではありません! 数の不利を跳ね返してみせましょう!」
箒の柄の先から黒い弾丸が飛び出した。弾丸は玉緒の左胸を射抜く。
玉緒は痛みを顔に出さない。
「その意気は、見事だと思わなくもないわ。でも――」
言葉を切る。漆黒の髪と服の裾をなびかせ駆けた。剣を振る。一振り、二振り……一振りごとにメイドシャドウの衣と肌を切り刻む。そして守りを削いだうえで――神霊剣!
最初の数撃をあて、勢いに乗る灼滅者。
が、メイドシャドウの身のこなしは軽やか。バックステップしたかと思えば、しゃがみこみ、また即座に立つ。滑らかな動きに、灼滅者の攻撃のいくつかはよけられてしまう。
マロンと冬華は後衛から、黒と金の瞳で敵の動きを見つめていた。
「どんなに素早くとも、当ててみせねばならぬである――冬華殿!」
「了解よ、静守さん! ――シュネーも合わせてね!」
仲間の攻撃をよけ、メイドシャドウの動きが止まった一瞬。その一瞬を逃さず、マロンと冬華は前進。
マロンは敵の正面でチェーンソー剣を振り上げた。刃から、鼓膜を潰すような激音を奏でる。
冬華は敵の側面に回り込み、槍から巨大な氷塊を生成、冷気を漂わせる。
マロンの騒音がメイドシャドウの顔を歪ませ、冬華の氷が体を凍てつかせた。膝をつくメイドシャドウ。
さらにシズナが素早く腕を降る。ナノナノ・シュネーも口を大きく開けた。霊障波とたつまきでメイドシャドウを狙う。
空子は赤茶の瞳で戦場を観察していた。仲間の危機を見逃すまいと。空子は口の中で呟く。
「(攻撃に参加できない分、しっかり皆さんを守らないといけません)」
空子の仲間と黒巨人は、メイドの機敏さにてこずりつつも、メイドシャドウの傷を着実に増やしている。
が、メイドシャドウの抵抗は激しい。
今も箒の柄に影を宿しフルスイング! 打撃が黒巨人の胴を直撃しようとするが、
「別に黒巨人さんと仲良くしたいわけじゃないですが、でも――」
喜一が黒巨人を突き飛ばした。巨人を庇い、打撃を体で受け止める。喜一はたまらず尻もちをついた。
空子が即座に彼に駆け寄る。空子は喜一の背後で縛霊手をはめた両手を組んだ。祈り、癒しの光を作り出す。ナノナノの白玉ちゃんも、ナノ! と鳴きながらふわふわハート。
空子と白玉ちゃんの力で、喜一の傷はほとんど塞がった。喜一は立ち上がる。立ち上がりざまに、氷柱をメイドシャドウに投げつけた。
メイドシャドウは凍るが、反撃はやめない。一分後には弾丸を飛ばしてくる。
が、草次郎が跳ぶ。炎をともした足で、弾丸を蹴りとばす!
「一般人守れんなら何でもする。その為の最善手がてめぇを倒すことなら、倒す。それだけだ!」
草次郎はメイドシャドウの正面で着地。屈む。チェーンソー剣で相手の急所へ――殲術執刀法! メイドシャドウはよろめき、箒を杖代わりにし踏みとどまった。
一夜と死愚魔は互いの顔を見た。
「死愚魔兄ちゃん、チャンスだ!」
「ああ、まずは俺から行くよ!」
死愚魔は答えると同時、赤い交通標識を下から上に。相手の顎を殴りつける。何かが砕けるような音。死愚魔の打撃に、メイドシャドウの体が持ち上がり、宙を舞う。
一夜が漆黒槍「ルーンヌィ・スヴィエート」、その柄を握る。歯を食いしばり冷気の塊を召喚。落下中のメイドシャドウへ叩きつける!
●
「がはは♪ 灼滅者もやりおる。一番やるのは我だが――。覚悟した方がいいのではないか、メイドシャドウ」
「まだです!」
勝ち誇る黒巨人。強く叫ぶメイドシャドウ。
メイドシャドウは箒を振ろうとし――止まる。今までの攻撃によって体がマヒしている。
「効いてはいるが、まだまだ余裕がありそうだな、手っ取り早くやらねぇと」
「ええ。この戦いは長引かせられないのだしね」
荒々しい口調の草次郎に、冷静に答える玉緒。二人に冬華が呼びかけた。
「じゃあ、いきましょう。もちろん全力全開でね!」
冬華はメイドシャドウの前方に立つと輝く十字架を召喚。
タイミングを合わせ、草次郎と玉緒がメイドシャドウの左右に立った。草次郎がチェーンソー剣の刃を回転させ、玉緒が足に炎を灯して跳んだ。
シュネーもうつらうつらしつつ、シャボン玉を飛ばし主らに加勢。
はたして、冬華の十字架からの光線が、メイドシャドウの胸を射抜き、草次郎の刃は肩に食い込む。玉緒の踵落としが敵の脳天にめり込んだ。
三人の技がメイドシャドウの体力を大幅に削った。
「……このっ」
メイドシャドウは一分間で姿勢を立て直した。再び黒い弾丸を放ってくる。
弾丸は一夜に命中。
が、素早く空子が息を吸いこむ。腕を祭霊光で輝かせた。白玉ちゃんもふわふわハートを一夜に投げた。光とハートに込められた力が、一夜に流れ、体力を回復させる。
「最後まで空子も全力を尽くします。だから、どうか……」
「空子姉ちゃん、助かった。ああ、攻撃は任せてくれっ!」
一夜は空子に頷く。日本刀を勢いよく振り上げ――刃を一閃! メイドシャドウの腕を切る!
灼滅者たちの猛撃にたまらず後ろに下がるメイドシャドウ。
「あと少しだけど、手は抜かないよ」
死愚魔が長い右腕を持ち上げる。さがるメイドシャドウの顔を指した。指先から漆黒の弾丸を撃つ!
弾丸を受け思わず目を瞑るメイドシャドウ、死愚魔は彼女から目をそらさない。死愚魔はさらに氷柱を作り出し、彼女の腹を貫いた!
腹から流れた血が絨毯を汚す。が、メイドシャドウは笑った。
「ふふふふっ、あと少し? ご冗談を! あと百年だって戦えます!」
メイドシャドウは腕を振り回す。箒がマロンを殴打し、弾丸が喜一を射抜く。
マロンはラビリンスアーマーで自分を癒やしながら、相手を観察する。
言葉とは裏腹にメイドシャドウの顔色は真っ青。息遣いも荒い。膝も震えている。
マロンは仲間に呼びかけた。
「皆、これ以上の攻撃は不要である!」
彼女の声を聴いて、皆が構えを防御と回復へ切り替えた。
喜一も自身の傷をラビリンスアーマーで塞ぎながら、横に立っていた黒巨人を見る。
「早く止めを――」
悔しさの滲む声。喜一の想いを知ってか知らずか黒巨人は、がはは、と笑う。
「言われるまでもなく、確実に――一刀両断だ!」
斧がひらめき――灼滅者が弱らせたメイドシャドウの体を断ち、消滅させた。
●
メイドが消え去り、ソウルボード内は静まり返る。
「終わったわね……ソウルボードも異常はないし……成功、ね」
玉緒の顔に敵を倒した喜びはない。ただ、カギを握り、祈るような姿勢で、己の殺意を鎮めた。
草次郎は黒巨人を睨む。
「用は済んだんだろ? なら……」
怒りを抑えた、けれどなお怒りの滲む声で告げる。
黒巨人は灼滅者たちに背を向ける。
「がはは♪ 利害が一致したのみだというから礼は言わん。が――お前たちの力は役に立ったとは、言っておこう。がはは♪」
冬華は隣にいる一夜の耳元に口を当て囁いた。
「ねぇもっちー、やっぱ倒しちゃダメ?」
一夜は首を振り囁き返す。
「今回は、一般人の救出が一番の目的だからな。でも次、相見えたときは……」
そこまで言うと一夜は声を出さず唇だけを動かした。「にがさない」と。
灼滅者が見つめる中、黒い巨人は、がはは、と笑いつつ姿を消す。
マロンは、
「……絶対、このまま許しはしないである……いつか、絶対……」
そういうと手を握る。爪が食い込むほど強く。
死愚魔と喜一も口を開いた。
死愚魔は黒巨人とメイドシャドウが消えた場所をそれぞれ見て、
「どっちが正解だったか分からないけど……今はこれで良しとするしかないのかな」
喜一は自分の顔の前で拳を作り、その拳を見つめ、
「今回は力量不足でしたが、いつか必ずメイドヒーローとして……」
空子は仲間たちの顔を見つめた。彼らの思いを読み取ろうとするように。そして告げる。
「全てができたわけではありませんが、この夢を見ているOLさんは守り抜けましたです。そのことはとてもよかった、そう思うのですよ」
空子の言葉に数人が頷く。シャドウ一体を葬れ、また一般人の命を救うことに成功したのは事実だ、と。
やがて灼滅者はソウルボードの出口へと歩き出した。灼滅者たちは、それぞれの想いを胸に、現実への道を歩いていく。
作者:雪神あゆた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年1月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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