『クロキバメ、マサカヤブレルトハ……』
体長五メートル、猫科狩猟動物の姿をした巨獣――イフリートが、唸る。そこにこめられたのは、溜め続けた怒りだ。イフリートは自覚している、自分は頭が良くない、と。だからこそ、考える事を任せて――その結果が敗北だ。
イフリートにはわからない、何が正しくて何が間違えてるのか? だからこそ、イフリートの出した答えはシンプルだ。
『ジブンガシタイヨウニスル!』
もしかしたら、自分のやり方の方が正しいかもしれない。クロキバは失敗してのだ、ならば違う方法が必要のはずだ――ミシミシ、とイフリートの体が変貌していく。真紅の毛並みは鱗に変わり、その姿は巨大なトカゲへと変わっていく。
知る者が知れば、こう呼んだだろう――竜種イフリート、と。
『ア、ギ、ル、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
竜種イフリートは、そのまま地面を蹴って駆け出した。その力で、目的を果たす――そして、今までの怒りを存分に発散するそのために……。
「獄魔大将であったクロキバが敗北した事で、イフリートの穏健派が力を失ったようなんすよ」
湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、そう厳しい表情で切り出した。クロキバの敗北を知り、残された武闘派のイフリート達は自分達の力でガイオウガを復活させるための行動を始めた、のだが。
「自分が竜種化イフリートとなること、だったんすけどね? 竜種イフリートとなると、知性が大幅に下がるみたいなんすよ」
なので、目的を果たすために短絡的に行動するようになる。ガイオウガ復活のため、多くのサイキックパワーを集めようと暴れまわる事になるだろう。
「もちろん、こんな方法でガイオウガ復活は果たせないっす。穏健派に抑えられていた反動とそれが無くなった勢いで、実行してしまうイフリートが多数出てしまうんすいよ。みんなには、源泉に向かってイフリートの竜種化を防いでほしいんす」
敵はイフリート一体。戦いは源泉でとなる。
「まぁ、そこそこ開けた自然の中の岩場っす。みんななら、戦闘に支障はないと思うっす」
実力はイフリートとしてそこそこだが、戦闘を始めて10分経過すると竜種化してしまい、戦闘力が強化されてしまうので注意が必要だ。
「ある程度ダメージを与え、竜種になったとしてもすぐに倒されてしまうんじゃないか? って相手に思わせる事ができれば、竜種化をやめるように説得する事も可能っす。まぁ、脳筋っすから。実際に殴り合ってじゃないと理解してくれないっす」
翠織はそこまで語り終え、厳しい表情で告げた。
「説得か灼滅かは、現場の状況で判断して欲しいっす。ただ、竜種イフリートになってしまえば説得は不可能っすから、時間内に説得が無理だと思えば灼滅に切り替える必要があるっす。そこの判断もみんな次第っすから、頭に入れて動いて欲しいっす」
参加者 | |
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伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695) |
梅澤・大文字(枷鎖の番長・d02284) |
千凪・志命(灰に帰す紅焔・d09306) |
楓・十六夜(蒼燐氷霜・d11790) |
炎道・極志(可燃性・d25257) |
ユージーン・スミス(暁の騎士・d27018) |
未崎・巧(中学生人狼・d29742) |
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607) |
●
ズン……、とその獣は足を踏み締め、ふと視線を上げた。美しい獣だった。猫型の大型狩猟獣の体躯。真紅の毛並み。そして、鋭い爪牙――獣、イフリートは小さく唸った。
『ナンダ、オマエラ?』
「ああ、お前を止めに来た」
源泉、そこに訪れた灼滅者達の中で未崎・巧(中学生人狼・d29742)が言った。その言葉を、イフリートは文字通り咀嚼する――ガチガチと歯を鳴らすことしばし、理解したイフリートは吼えた。
『ジャマヲシニキタノカ!!』
ビリ! と大気が震えるほどの怒声、見る見るその巨躯に力を力を漲らせるのを見て楓・十六夜(蒼燐氷霜・d11790)が言い捨てる。
「脳筋なら言葉より体で分からせた方が早いな」
「……そのようだ」
短く呟き、千凪・志命(灰に帰す紅焔・d09306)もうなずいた。どうやら、こちらの話を聞く耳は持ってはいないらしい――イフリートからすれば、もうかなり我慢したのだから、それも仕方なしだろう。
「竜種になられりゃもう遠慮は無ぇが、まずは拳でわからせてやるか」
「ああ」
肩を回して暖める梅澤・大文字(枷鎖の番長・d02284)に、伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)は《ASCALON-White Pride-》を引き抜いた。
「古の英雄よ、我に邪悪を滅ぼす力を!」
「燃え上がれ」
ユージーン・スミス(暁の騎士・d27018)が白銀の全身西洋甲冑の騎士姿となり巨大な巨大な戦斧を肩へ担ぎ、炎道・極志(可燃性・d25257)が全身から炎を吹き出しそれを武器として身にまとっていく――それに、イフリートは目を輝かせた。
『オウ、タタカイ、タタカイダナ!!』
「死と共にありて――咲き誇れ!」
制服姿から喪服を模したドレス姿に姿を変え、柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)は一歩前へと踏み出す。戦いの予感に心躍らせるイフリートへ、玲奈は告げた。
「ま、ちょっと説得(物理)で大人しくなってもらおうか」
身構える灼滅者達に、イフリートは地面を強く踏み締め駆けた。五メートル近い巨体は、一瞬で距離を詰めて灼滅者達へと迫る。
『オレハチカラデ、タダシサヲショウメイスルッ!!』
ゴォッ! とイフリートがその口から吐き出した炎、バニシングフレアが灼滅者達を飲み込んだ。
●
炎が、周囲を舐めつくしていく――しかし、その炎に怯むような者は、誰もいなかった。
「まずは、小手調べってね!」
バニシングフレアの炎に絡み付くように、巧の白炎蜃気楼が展開される。その白い炎の中を、ユージーンが駆け抜けた。
「感謝する」
巧へと短く感謝を告げ、ユージーンはその槍を繰り出す。螺旋を描く槍の穂先へ、イフリートは爪を振り下ろし受け止めた。火花を散らして互いが弾き合ったそこへ、極志が一気に駆け込む。振りかぶった縛霊手による殴打、極志の縛霊撃がイフリートに叩き込まれた。
「俺が見た竜種イフリートたちは、理性も無く暴れるだけだった。ただ暴れるだけでお前たちの目的は果たせるのか? どうなんだ!」
『シラン!!』
極志の言葉に、イフリートは即答する。上から叩き付けられる頭突きに、極志はとっさに受け止めた。ギリギリ、と間近でイフリートの目に、極志はそこに真剣な輝きを見る。
『ヤッテモナイノニ、マチガッテルカドウカワカラン!! クロキバガソウダッタヨウニ――!!』
ガガガガガガガガガガガガッ! と極志は押され、靴底で地面に溝を削った。膂力は、もはや比べようもない――だからこそ、極志は咄嗟に身を浮かせその膝でイフリートの顎を蹴り上げる!
「そうか。だが、竜種化を諦めないなら俺達が必ずお前を倒す!」
「……待て! おすわり!」
わずかにのけぞったイフリートの足を、死角から懐に滑り込んだ十六夜が黒と白の西洋剣に、それぞれ闇と光をまとわせて切り裂いた。イフリートは体勢を崩すが、すぐさま十六夜へと炎を吐き出し叩き付ける。
『モウ、ジュウブンニマッタ!! コレイジョウ、マテルカ!!』
ゴォッ、と炎が吹き荒れるが、そこに既に十六夜はいなかった。その代わりにいたのは、腕を組んで仁王立ちする大文字だ。
「暴れる獣はその都度黙らせるのが仕事でなッ」
咥えた草を動かし、大文字は跳躍する。濡烏――黒下駄を炎に包み、大文字はイフリートの顔面を蹴飛ばした。
イフリートが、四肢に力を入れて踏ん張る。そこへ、玲奈が跳躍。燃える踵をイフリートの眉間へと落とした。
「竜種の話は聞いた事あるけど、それで本当に貴方の目的は叶うの? 悪いけど、竜種になったら目的とか忘れちゃうんじゃない? 今の貴方は自分の頭で考えられる、でも竜種になったら本当に只の本能に従って動くだけになっちゃうよ」
『ムズカシイコトハ、ワカランッ!!』
イフリートは、グラインドファイアの連撃に構わず、駆け出した。駆けながら、唸るように吼える。
『オレ、アタマ、ヨクナイ。ソレデモ、ワカッタコトガアル――ナニモ、ヤラナイデ、シッパイスルト……モヤモヤスル!!』
(「……何もしなければ、後悔も出来ないという事か」)
志命は腰の緋ノ巻『竜馬紅鏡絵巻』を引き抜き、そこに描かれた竜馬を指先でなぞる。紡ぐ禁呪は、太陽のごとき輝きの爆炎となる――志命のゲシュタルトバスターが、イフリートを飲み込んだ。
「頭が悪いと自覚して、それでも考えるか」
その爆炎の中を駆け抜け、黎嚇は《ASCALON-White Pride-》を振りかぶる。白銀の刃を非実体化させ、黎嚇は《ASCALON-White Pride-》を薙ぎ払った。肉体ではなく、魂を切り裂く刃――黎嚇の神霊剣を受けてもイフリートの闘志は萎えない、むしろ漲った。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
イフリートが、跳躍して灼滅者達へと襲い掛かる。それを灼滅者達は、真っ向から迎え撃った。
●
説得を行ないながら戦う――否、多くの者達の心情的には、戦った上で説得できればいい、そういう心持ちだったろう。
「……考えることを放棄し、他に任せて失敗すれば責任を擦り付ける。そんな事をやる奴が正しい訳が無い」
『クロキバガウゴクナトイッタ!! ナラ、クロキバガセキニンヲトッテトウゼンダ!!』
イフリートの牙を左右にステップしながら掻い潜り、十六夜は不意に片膝をつき地面に剣を突き刺した。ヒュオ! と吹き荒れるフリージングデスの氷――ビキビキビキ、と凍りつくイフリートを上空から舞い降りた極志のスターゲイザーの蹴りが捉えた。
「…‥お前の強さはその程度か? これぐらいで何ができるって? なぁイフリートよ、なぁ、なぁおい、言ってみろよ!!」
『ナァガ、オオイゾ!!』
重圧を受けながら、イフリートはガチガチと歯を鳴らして極志を振り払う。そこへ、巨大戦斧グラムをレーヴァテインの炎で包み、ユージーンが大上段に振り下ろした。
「砕け散れ!」
ザンッ! と切り裂かれたイフリートがふらつく。しかし、なおもしっかりと踏ん張りイフリートは身構えた。
「お前は本当に、竜種となる事がガイオウガ復活の助けになると思っているのか?」
『ヤッテミナイト、ワカラナイ!!』
「……確かに竜種となれば力は得られよう。しかし、それと引き換えにお前はその考える力を失うことになる、考える力を失った竜種はただ暴れるのみ。俺たちがこれまで倒してきた竜種は皆、己の周囲の文明を原始化させるのみで今のお前たちガイオウガ派のイフリートのような誰かの為に行動することはなかった。お前は、例え竜種となってもガイオウガ復活の助けはできん、竜種に堕ちた先にあるのは、灼滅のみだ!」
一合、二合、三合、とイフリートの爪と巨大戦斧グラムが火花を散らす。そこに、志命が踏み込んだ。
「……理性なき状態で望むものは手に入らない。俺は過去に二回ほど竜種と対峙し、灼滅した。竜種だろうと、灼滅出来るぞ?」
『オレハチガウ!!』
志命の懐に潜り込んでも雲耀剣に斬り裂かれながら、イフリートはバニシングフレアの炎を叩き付ける。そこへ、すかさず巧は解体ナイフを振り払い、夜霧を展開した。
「そんなことしたってガイオウガは復活しねえぞ! やたらめったらに暴れまわって、それでおしまいだぜ」
『オマエタチニ、ナニガワカル!! オレガチカラヲテニスレバ――』
「ンな事でガイオウガやらが復活すっと思ってんのか? 流石イフリート脳だなァ!」
黒いマントをひるがえして、大文字の燃える拳がイフリートを殴打する! のけぞったイフリートへと、玲奈は非実体化させたクルセイドソードで袈裟懸けに斬りつけた。
「もうちょっと、しっかり考えて!」
『ウグググググ、オマエラ、ムズカシイコトバッカイウ!!』
黎嚇は《ASKALON-Black Transience-》を構え、夜霧を放つ。イフリートとの戦いは、順調だ。サイキックの数と種類もさして豊富ではなく、実力そのものは決してこちらを圧倒するほどではない――が。
(「竜種化すれば、この大前提がひっくり返るな」)
屠竜之技、龍をも屠ると言われた自身が継承してきた技を、決して黎嚇は過小評価していない。ようは、そういう相手なのだ竜種とは――なってしまえば、現在のパラーバランスは一気に崩れるだろう。
加えて、イフリートは10分という時間を凌げるだけの実力がある。竜種になるか、それとも説得できるか、もはやそのどちらかしかなかった。
「消されたくなきゃクロキバんトコで大人しくしてな!」
まさに、カラスがごとく黒いマントをひるがえして大文字が落下する。ゴォ! と濡烏による跳び蹴り、スターゲイザーがイフリートの眉間を捉えた。
『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「……待て! おすわりだと言ってる!」
ガッ! と地面に剣を突き刺した十六夜が、下段に切っ先を切り上げる。その軌道に沿って飛んだ影の顎が、イフリートの足へと噛み付いた。
「伏せえええええええ!!」
そして、そこへ跳躍した極志の強引な縛霊手の振り下ろし、縛霊撃が重ねられる。ダン! とイフリートが地面へと叩き付けられる――そこに、ユージーンが巨大な十字架を光臨させた。
「聖霊よ、我に力を!」
『グ、ウウウウウウウウウ!!』
放たれる光条、ユージーンのセイクリッドクロスにイフリートはたまらずフェニックスドライブで炎の翼を展開させる。そこへ、巧はすかさず解体ナイフを振るい毒の旋風を巻き起こした。
「竜になっても無駄だ、それでも竜になるってんなら、痛い目にあってもらうぜ!」
『ガ、アアア、オ、レハ……!!』
「――ッ!!」
言葉を紡ごうとしたイフリートの背へ、志命のスターゲイザーが叩き込まれる。炎の翼を羽ばたかせてもがくイフリートへと、黎嚇は《ASCALON-White Pride-》を掲げ告げた。
「我が名は龍殺しの伐龍院、これまでに5体の竜種を解体してきた」
『ガ、アアアア、ア――ッ』
「お前が竜種になれば躊躇わず解体するし、それができるんだ、大人しく帰るがいい。それとも、ここで屍を晒すか? ガイオウガの復活も果たせず、犬死するような無様な最期を遂げるのか? 選ぶがいい、僕は別にどちらでも構わないぞ」
この身は盾にして剣、我が全ては誰が為に――その揺るがぬ決意を胸に、黎嚇は言う。
「竜種化せず退くなら灼滅はしない、真に復活を望むのなら不確かな手段に出るな」
「貴方はこの源泉を守っていたんじゃないの? 守る理由とか、ちゃんと考えようよ。それでも、竜種になるっていうのなら、私達は自分達の世界を守るため、何度でも戦うよ」
言葉を継いで、玲奈は言い切った。言葉は、もう全て尽くした――イフリートは、フゥと火の粉と共に息をついて唸る。
『……ココヲマモル、タシカニ、ソレハオレノヤクメ。ガイオウガサマ、フッカツサセラレズ、ヤクメモハタセナイ、ソレハダメダ』
ゆっくりと、イフリートは起き上がる。そこには、先ほどまであった敵意はない。いっそ静かなほど、イフリートは低く答えた。
『ワカッタ、コノタタカイハオマエタチノカチダ、ショウシャニシタガウ』
確かに、灼滅者達の説得がイフリートへと届いた瞬間だった。
●
大文字は、ホっと安堵の息をこぼすと同時に少し悔しげな表情を浮かべる。そこにあるのは、イフリートという宿敵を目の前に倒せずに終わる、という複雑な心境だった。
「私は、柊・玲奈よ。あなたに名前があるのなら、聞いてもいい?」
『オレノナマエカ、オレハ『ソウハク』。シロキツメ、トイウイミダ』
そう言って、イフリート――ソウハクは、己の誇りとも言うべき爪を灼滅者達へと見せながら告げた。
『コンカイハ、オマエタチガカッタ。ダカラ、シンジル。ダガ、オマエタチハシャクメツシャ……マタタタカウヒガクルカモシレン。ソノトキハ、サイゴマデタタカオウ』
それは、自分と最後まで戦えなかったという想いを抱いた勝者達への言葉だった。信じて待つ、後悔も出来なかった自分を顧みたソウハクの言葉を、灼滅者達も胸へと刻むのだった……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年1月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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