バーニング・ヴァーミリオン

     某県某所の山の中。遥か遠方の温泉街の湯本である源泉付近に訪れる獣が1匹。
    「フン! 灼滅者テイドに負ケルとは、クロキバの奴もヤキがマワッタものダ!」
     そう言うと、元々イフリートだから燃えているなと大笑いする獣。そう、この獣はただの獣ではない。灼熱の化身。破壊の象徴である炎を宿すダークネス。イフリートだ。
    「大体アンナ洒落の1ツモ言エナイ奴がイフリートの代表ナノが気に食ワン。マア、元カラ俺達は木ナド食ワナイがな!」
     再び笑い出すイフリート。驚いた野鳥たちが慌てて飛び立っていく。
    「サア源泉ヨ。ガイオウガ様のタメ、コノ『ギンシュ』様を早ク竜種に進化サセルノダ!」
     そして獣は、源泉へと足を踏み入れる。
     
     新年早々、冬休みの学園に呼び出された灼滅者達を出迎えたのは、新人エクスブレインの遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)だった。
    「あ、明けましておめでとう……って挨拶してる場合じゃない! 大変なのよ!」
     鳴歌の話によると、先日の獄魔覇獄でクロキバが敗退したことで穏健派のイフリート達が力を失った結果、武闘派達が行動を開始したのだと言う。
    「武闘派は、自分達が竜種化すればガイオウガ復活が近付くって考えてるのだけれど……」
     当然そんなことでガイオウガが復活するわけも無い。だが、このまま源泉に集う武闘派のイフリートを放置すれば、竜種化の後に暴れ出すこととなる。
    「サイキックパワーを集めるためには暴れればいい! みたいになっちゃうみたいね」
     元々脳筋な武闘派がこうなっては大変だ、というわけだ。
    「ということで、至急源泉へ向かってイフリート竜種化の阻止をお願いするわ!」
     地図を取り出し灼滅者達へ手渡す鳴歌。どうやら現地は結構な山奥らしい。
    「迷わないように注意してね。帰りに遭難とか洒落にならないわ」
     行き帰り共に何か考えておいた方がいいだろう。なお、現地到着は夕方の予定だ。
    「イフリートだけど、ファイアブラッドのサイキック以外にも使える技があるみたいね」
     鳴歌の水晶玉占いによると、大きな角で一突きにする攻撃や、笑い声を上げて回復をする姿が見えたのだと言う。
    「戦い始めて10分くらいで竜種化するみたい。まだ灼滅できる範囲だけど……」
     竜種は中々の強敵だ。させないに越したことは無いだろう。
    「逆に、今回は灼滅せずに説得してみることも可能よ」
     まあ、その場合も拳で語り合い、『竜種化しても勝てると思うなよ!』程度まで追い込む必要があるのだが。
    「他の特徴だけど、ダジャレとか好きなみたい。占いでもよく笑っている様子が見えたわ」
     戦闘で隙を作る、説得に利用するなどの作戦に使えるかもしれない。
    「灼滅か説得か……。これは現場である皆さんの判断に任せるわ。でも、竜種化後の説得は不可能よ。その時は諦めて灼滅に切り替えてね」
     例え説得をしたくとも、竜種が暴れ回る事態は防がなければならない。それを肝に銘じ、灼滅者達は作戦を練り始めた。


    参加者
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    本山・葵(緑色の香辛料・d02310)
    バジル・クロケット(紅焔蒼狼・d02754)
    星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891)
    レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)
    阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)
    ジーク・シグファス(メモリアグラム・d29886)
    睦沢・文音(インターネットノドジマン・d30348)

    ■リプレイ

    ●秘境の源泉を目指して
     寒風吹き荒ぶ冬山へ訪れた灼滅者達。源泉こそ利用されているが登山者向けに開放された山ではなく、目的地までは道なき道を進むも同然の状態だ。
    「おいおい、こりゃまた登り甲斐のありそうな山だな……」
    「遭難に注意……。言われるだけあるよね」
     山頂方向を見上げ本山・葵(緑色の香辛料・d02310)が覚悟を決めると、帰り道を考えて新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)がアリアドネの糸を起動させる。
    「そうですね……。もっとも、相応の準備ができましたので問題ないでしょうけど」
     応えて星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891)はスーパーGPSを起動させる。現在地と目的地と方角、これが分かれば迷うことは無い。
    「はーい、通してくださいねー」
     そして道を塞ぐ木々などがあれば、睦沢・文音(インターネットノドジマン・d30348)が隠された森の小路を使い道を作る。他に灼滅者達の道を阻めそうなものは崖くらいだろう。
    「順調ね。いざという時に疲れてちゃなんだし、少し休憩を入れましょう」
     時間に余裕があるしという阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)の提案に足を休める一行。正直山道が苦手な千波はホッと一息つくと、持参したお茶を振る舞う。
    「で、今回の相手……ギンシュだったか。できれば説得したいところだな」
    「そうすっね。友好的な関係が結べればベストっす!」
     一服しながら相手のイフリートについて話すバジル・クロケット(紅焔蒼狼・d02754)とジーク・シグファス(メモリアグラム・d29886)の2人。通じる見込みありとして、竜種化するまでは説得をというの灼滅者達の総意だ。
    「聞く耳持たせるには先に拳で語れってんだから、全力で叩くことに変わりはねぇけどな。違うのは洒落を言いながらってところか」
     苦笑しながら、レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)は用意している洒落の内容を思い浮かべる。有効と聞いていたため、予め洒落を用意してきた者は多い。
     休憩を終えて再び山を登ることしばらく。日が沈み始めようかというその時、湯煙の中で源泉に浸かる朱い獣が、灼滅者達の前に姿を現した。
    「ギシキ中に何者……? ハッ! サテハこのギンシュ様の竜種化を邪魔シニ来タな!」
     確かにその通りだが、推理したというより単に一番初めに思いついただけという感じだ。
    「ギシキを邪魔サレテハ、『寛大』なギンシュ様デモ『噛ンダリ』するゾ!」
     ダジャレを言いながら源泉を出るイフリートに対し、灼滅者達はカードを起動させる。

    ●ダジャレを言うのは何人じゃ?
     武装した灼滅者達へ自慢の角を向け身構えるギンシュに対し、まずはバジルが獣化させた腕を振るう。
    「立派な『角』を持った『格』がありそうな大将さんよ! クロキバを負かした集団の力、ちょっと試してみたくないか?」
    「ハッ! 洒落が分カルトはイエ、灼滅者テイドがギンシュ様に挑モウとは『片腹痛イ!』 例エ『腹ガ痛クテモ』負ケナイがな!」
     腹部に負った傷を意に介さず、ギンシュは牙に炎を纏わせ噛み付こうと迫るが、割り込む千波の刀がそれを受け止める。
    「その余裕、いつまで続くかしら?」
     そのまま顔面を殴り飛ばし距離を取ると、入れ替わった葵が槍を突き入れる。
    「程度とは言ってくれるじゃねえか! あたし達の強さをその目で確かめてもらうぜ!」
    「オ前達コソ、竜種トナル者のチカラを目に『焼キ付ケル』がイイ!」
     そしてギンシュは体から吹き出す炎を大きくする。多分、炎系の攻撃で焼き付けることにかけていると言いたいのだろう。
    「ボクとしては竜種化してほしくないですね。こんな『面白い』イフリートさんに会うのは初めてですから……。ひょっとして『尾も白い』んですか?」
    「イヤ、ギンシュ様は朱イから、オ前達にトッテ『尾モ白クナイ』コトにナルダロウナ!」
     沙月が霊犬の紅蓮と共に射撃攻撃を繰り出すも、ギンシュは体を捻って急所を守ると更にダジャレで切り返す。
    「面白い奴だな……気に入ったぜ。その『灼熱』の魂、無理に『灼滅』はしたくねぇ……。ぷくくっ……。竜種化なんて止めねぇか?」
    「オ前達コソ逃ゲタラどうだ? 洒落が分カルコトに免ジテ見逃シテヤルゾ?」
     自分のネタに自分でウケているレイチェルへ、ギンシュは余裕を見せつける。
    「ガイオウガのためって言うっすけど、竜種化しても暴れるだけじゃないっすか?」
    「ソウダ! 暴レテガイオウガ様の『タメ』にパワーを『溜メル』のだ!」
     ジークも声を掛けてみるが、返ってくるのは根拠の無い自信と相変わらずのダジャレだ。
    「またダジャレ……。そんなに良いものなのかな?」
    「良イに決マッテイル! 面白イコトは良イコトだ!」
     と理由を挙げるギンシュだが、七葉にとっては洒落が面白くないからこその疑問だった。
    「その通り! ですから『洒落』の1つも言えなくなる竜種化などやめな『しゃれ』!」
    「グッ……。シカシ! ガイオウガ様のタメとアレバ仕方の無イコト!」
     ダジャレ問答の中でも、文音が回復をかける傍からギンシュが炎の渦で前衛を焼き払う。言葉からは何かを我慢している様子が見えるが、説得にはまだ言葉と攻撃が必要なようだ。

    ●肉体言語は共通言語
     夕焼けに包まれた山中で繰り広げられる、灼滅者とギンシュのダジャレ合戦……ではなく真剣勝負。炎を叩き込んでもすぐに回復が飛ぶためか、ギンシュは角攻撃へシフトする。
    「ギンシュ様のダイギンシュカクで、『人』を『一刺シ』だ!」
    「ぐっ! ダイギン『シュカク』とは見事な角ですね。これが見られただけでも『収穫』があったというもの!」
     自ら前に出て標的となる文音だが、気力でダジャレは続けるも動きは封じられる。
    「お前の『角』でかすぎだっ『つの』! 参るっ『つの』!」
    「えっと……。『ナース』じゃないけど、怪我を『治す』よ」
     レイチェルや七葉の回復で痺れは取れたものの、手数が1回減ったことに変わりは無い。ダメージも高いが、何度も受ければ時間も心配になってくる。
     だが、灼滅者達も黙ってやられている訳ではない。
    「大口叩いておいてこの程度か? こりゃ竜種になっても大したことなさそうだな!」
    「むしろ貴方みたいな頭脳派が竜種化すれば、私達はやりやすくなるけど……いいの?」
     葵の拳が腹を打ち、千波の刀が肩を裂く。
    「竜種の力に『妬イテイル』ノカ? イヤ、ギンシュ様が『焼イテイル』側ダッタナ!」
     たたらを踏むもダジャレは忘れないギンシュだったが、灼滅者達の攻撃とダジャレは更に続く。
    「洒落はもちろん作戦も『理解』できなくなります。それはイフリートに『有利かい』?」
    「竜種化とは進化か? 頭が悪くなって洒落も楽しめなくなる。俺からしてみればそんなの『退化』だと思うが、あんたはどう思う? そうなってしまうのは『めでたいか』?」
     沙月が紅蓮に連携を命じて弓を放ち、続けてバジルが得物に畏れを纏わせ斬り付けると、ギンシュの動きが一旦止まる。
    「グ……」
     竜種化かと時間を確認する灼滅者達だが、時間はまだ残っている。
    「グハハハハハッ! 今マデ我慢シテイタが、オ前達は面白イナ!」
     ギンシュが大きく笑い声を上げると、体の傷と状態異常が回復していく。
    「ソコマデ言ウのナラ、洒落と同ジク策も使ウのダロウ? 力で勝ルギンシュ様に『策』で『サク』ット勝ッテミロ! ソウスレバ、戦イが力ダケではナイコトを認メテヤル!」
    「分かってくれて嬉しいっす! 勝ったら洒落について教えてほしいっすよ!」
     言葉と共にジークが送るのは魔法の弾丸。これをギンシュは正面から受け止める。
     説得の目処は立った今、後は時が来る前にギンシュに勝つだけだ。

    ●朱との友情
     残された時間は少ないが、せっかく手にしたフラグを折れさせまいと、灼滅者達は懸命に攻撃を続ける。
    「この『辺り』を狙えば攻撃が『当たり』そうですね」
    「オラオラ! 早くギブしないと、そのでかい『角』を『ホーンとう』に折っちまうぞ!」
     得物を銃に戻した沙月の援護を受けた紅蓮が斬り付けると、時間差で葵のロッドが顔面に叩き込まれる。
     対してギンシュも自慢の角で攻撃を続けるが、灼滅者達を戦闘不能に追い込めるほどではなく、回復の暇もなく追い込まれていく。
    「これでちったぁマシになったろ。そろそろ締めてくれよ」
    「ああ、任せておけ」
     角の一撃を受けていたバジルがレイチェルからの回復で体の自由を取り戻すと、ロッドに魔力を集中させる。
    「来イ灼滅者。『落トシ前』として、ヒトリ位は『落トサセテ』もらうぞ!」
     角を突き出し突進してくるギンシュと、ロッドを振るうバジルが交差する。そして……、膝を付いたのはギンシュだった。

     決着から小休止を挟み落ち着いたところで、灼滅者達はギンシュと雑談に興じていた。
    「それにしても皆良く考えましたよね。他にも考えてきたのあります? 私はですね……」
     と、言えなかったダジャレを披露していく文音。用意していた数ではダントツだ。
    「先に聞いてたのより増えてねぇか……?」
    「よく思いついたもんだ……」
    「ヤルナ灼滅者……」
     葵やバジルにギンシュが感嘆の声を漏らす中、ジークがギンシュへ話を振る。
    「ギンシュは何かあるっすか? あるなら聞いてみたいっす」
    「『配下に入ルカ?』、『牙ダケに気張ッテ噛ミ付ク』ナド良ク使ウゾ。他ニハダナ……」
     そして、いつの間にか始まるダジャレパーティー。松明代わりのギンシュがいたから気にならなかったが、気付けばすっかり日が落ちていた。
    「そろそろ私達は帰るわね。今日は楽しかったわ。また会いましょう、ギンシュさん」
    「次会う時もこのままでいろよ。軽々しく情報や知恵を捨てたら洒落にならねぇってこと、分かっただろ?」
     千波が別れの挨拶をすると、レイチェルが釘を刺す。
    「分カッテイル。ガイオウガ様ニモ洒落を聞イテモライタイシナ」
     そう言い残すと、苦笑しながらギンシュは山の奥へと消えていった。
    「ん、皆お疲れ様。何か普通の依頼より疲れた気がするよ……」
    「そうだね……。でもボク達はもうひと頑張りしないと」
     帰り道を確認できるESPが使える七葉と沙月に先導され、灼滅者達は山を下り始める。数時間後には無事に麓へと辿り着くことだろう。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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