失われし知識求むる年

    作者:幾夜緋琉

    ●失われし知識求むる年
     深夜の帳がすっかり堕ちた、午前0時。
     ゴーン、ゴーン、と遠くから除夜の鐘が聞こえる年明けの夜……みんな、ささやかな年明けの言葉を交わし、お年玉を貰ったりしている……そんな中。
    「グ、ウゥ……」
     閉館中の図書館の中から聞こえてきたのは、何者かの呻き声。
     その呻き声は、苦しみながらも……嬉しさを覚えているような、そんな声が聞こえてくる。
     沢山の蔵書で、本の薫りが充満する中、プエル兵は……蔵書を収集、そして……まるでヤギの如く、ドンドン喰らい尽くしていく。
     そう、プエル兵達は……静かながらも、知識を蓄え、貪り続けるのであった。
     
    「みんな、集まったね? 年明け早々集まって貰って申し訳無いんだけど、早速依頼の説明をはじめさせて貰うね!」
     と、須藤・まりんは、集まった灼滅者達を見渡すと共に、早速説明を始める。
    「今回の依頼の鍵になるのは、武神大戦獄魔覇獄で獄魔大将をしていた、ソロモンの悪魔・プエルなんだ」
    「プエルは武神大戦の戦いにより、力である知識の多くを失ってしまったようで、知識の再収集をするべく、プエル兵を図書館へと放ったようなんだ」
    「幸い、図書館は年末年始の休業になる為、人的被害は出ないけど、放置すれば図書館の全部の本が犠牲になってしまいかねないんだ」
    「年始明け、図書館で本を読むのを楽しみにしている人達が、休業明けに図書館に行って見る光景……それがプエル兵に荒らされた惨状だとなると、可哀想だよね? という訳で、プエル兵を倒してきて欲しいんだ」
    「勿論、プエルはその貪った知識で力が取り戻してしまうのも脅威になるよね? だからプエルが力を取り戻すのを阻止するために、図書館の防衛に参加して欲しいんだ!」
     そこまで言うと、まりんはプエル兵の詳細な戦闘能力と、場所について説明を加える。
    「プエル兵が現れるのは八王子市郊外のとある図書館。先ほども言った通り、休館期間にはいっているので、一般人が居る事はないよ」
    「図書館の中は蔵書のエリアと、本を読むエリアに別れてるんだけど、知識を貪ろうとするプエル兵はその中の蔵書エリアにいるんだ」
    「勿論蔵書エリアは人が2人すれ違える位の通路しかなく、狭いし、見通しも悪い。そんな通路にプエル兵は現れ、蔵書を貪って居るみたいなんだ」
    「ちなみにプエル兵の数は4体。特殊な能力とかはないけれど、戦闘の立地から考えると、中々難しいかな? 蔵書の被害も出来る限り抑えて欲しい所でもあるし、ね」
     そして最後にまりんは。
    「何にしても、プエルが知識を付ければ更なる強敵になるのは間違い無いと思う。だから、みんなの依頼の成功、祈ってるよ!!」
     と、拳を振り上げるのであった。


    参加者
    鏡・剣(喧嘩上等・d00006)
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    綾峰・セイナ(銀閃・d04572)
    クラウィス・カルブンクルス(片翼無くした空飛べぬ黒蝶・d04879)
    レセフ・リヒテンシュタイン(はハートマークが恋しい・d13834)
    カツァリダ・イリスィオ(黒百合インクィジター・d21732)

    ■リプレイ

    ●知識の貧欲者
     まりんより話を聞いた灼滅者達。
     年明けすぐに、彼らが訪れるは八王子市の郊外にある、とある図書館。
     その図書館に現れるというはぐれ眷属、プエル兵……彼らはこの図書館の中の蔵書を貪り喰らい、知識を付けているという。
    「んまー! 年明け早々プエルの一味ちゃんもとんでもないおイタしてくれるわねっ!? まじめに図書館の本が好きな人が可哀想だわ」
     と、レセフ・リヒテンシュタイン(はハートマークが恋しい・d13834)が呟く言葉。
     知識の海、図書館に現れ、そして貪り喰らっていく簒奪者、プエル兵……そんな彼らを放っておくことは出来ない。
     勿論、新年明けたら本が一冊も無くなっていました、なんて事をさせる訳にもいかない。
    「とはいえまったく、力付ける為とは言え、よく本喰う気になるな。俺なら頭痛くなりそうだぜ」
    「ああ……というかこれ、集めた知識をどうこうってより、知識を集める事が目的になってるように見えるぜ。本当のところはどうなんだろうな」
    「さぁな……ああ、俺は文章を見るとアレルギーが出るんだよな。ああ、本当吐き気がしてくるぜ」
     天方・矜人(疾走する魂・d01499)に、おぇっ、と言う仕草をする鏡・剣(喧嘩上等・d00006)……アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)が。
    「まぁ今回も厄介になる前に何とかせねばのぅ……」
     と呟くと、それにカツァリダ・イリスィオ(黒百合インクィジター・d21732)、クラウィス・カルブンクルス(片翼無くした空飛べぬ黒蝶・d04879)、そしてレセフが。
    「プエル兵……戦争の時が初見ですので、私には何の縁も所縁もありません。が、ソロモンの悪魔なら、ただそれだけで神の敵です。異端審問官として拷問して査問して処刑して救済し尽くして差し上げましょう」
    「ええ……これも私達の闘いの後処理のうちなのでしょうね。何はともあれダークネスの好きにはさせませんよ」
    「うん、そうね、ここはあたしたちが一肌脱がないとね?」
    「そうですね。それに人の叡智たる書物を喰い漁るなど、品性の欠片もありません。縛り上げて串刺しにして、首を切り落として処刑です」
     そして綾峰・セイナ(銀閃・d04572)が。
    「まぁ、何に為ても私達がしっかりと灼滅しないとね……と、あれ? 朔耶さんは?」
    「ああ、そういえばセキュリティを切ってくる、と言ってたと思うのじゃが……ん」
     セイナにアリシアが視線を向けると……こちらにやってくる月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)。
    「お待たせ……無事、セキュリティはカットした。とは言え余り長時間切っておきたくと、怪しまれるかも知れない、急ぐとしよう」
    「ん、了解……それじゃ行くわよ」
     朔耶にセイナが頷き、そして灼滅者達は図書館の中へ足を踏み入れるのであった。

    ●貧欲
     そして図書館の中に足を踏み入れた灼滅者達。
     当然図書館の中の灯りは消灯……蔵書の臭いがいい感じに漂っている。
    「くせえ……こんなにほんの臭いがする所で戦うなんて、ほんとやってられねー所だぜ」
     と、その臭いに剣が溜息を吐きつつ、廻りを確認。
     蔵書エリアと、読書エリアに大きく別れた図書館の中……当然蔵書エリアにある本棚には、しっかりと本が詰まっている。
    「ここが図書館……小説ばかりじゃ……おお、これは漫画家されてるものじゃな!!」
     と、本のタイトルを見て……大学で漫画アニメを学んでいる結果、それに反応してしまうアリシア。
     ……とは言え……今、そんな事やる訳にはいかない。
    「いかんいかん。今は誘導じゃな」
    「ああ……さて、どっちがいい? ……蔵書に被害を出したくないなら、やっぱり読書エリアに引っ張り出した方がいいか?」
    「そうだな……余り本の被害を出さない為には蔵書エリアから引き離した方がいいんだろうが、プエル兵が蔵書エリアから離れてくれるかって言うと、余り期待は持てないか?」
    「だな……じゃ、しゃーねぇ、出来るだけ本棚を端に寄せて戦闘に適した場所を作るとするか」
     矜人と剣の会話に、セイナが。
    「それじゃあ、運ぶわよ。矜人さん、写真、とっておいてね」
    「ああ、解った」
     と、矜人が現況の写真を撮って、そして左、右……重い重い本棚を一つ一つ端に寄せていく。
     そして……一通りを端にずらし終わった、その時。
     張り詰める空気と共に……現れるプエル兵。
     蔵書エリアに現れたプエル兵、合わせて四体……彼らは現れるなり、廻りの蔵書を一瞥し、貪り喰らおうと、動き始める。
    「出てきたか……さぁ、ヒーロータイムだ!」
     と矜人がスレイヤーカードを解放すれば、廻りの仲間達も。
    「救われぬ物に救いの手を、異端者に神威の鉄槌を、AMEN!」
     と、カツァリダを始めスレイヤーカードを解放し、戦闘態勢を取る。
     ……と、そんな灼滅者達の動きに対し、プエル兵は……不穏な呻き声で威嚇……そして、手近にあった本を、腕を動かし、ガサッ、と手にする。
    「させるかよっ!!」
     と、それに対峙し、素早く剣が動く。
     前線に駆けて行くと共に、抗雷撃の一撃を叩き込む。
     更に続けて矜人、セイナ、カツァリダのクラッシャー陣が次々とプエル兵へと近接。
     狼化した脚で鋭く蹴り飛ばすカツァリダに、矜人のフォースブレイク、そしてセイナが螺旋槍。
     ……勿論、本棚を左右に拡げたから、多少は戦闘場所に余裕はあるものの……大きく振り回すと、武器の勢いにいくつかの本が舞い上がり、散らばってしまう。
    「流石に本に完全に被害を与えず……は難しい様じゃな」
    「そうですね……被害は最小限に抑えたいところなのですが……」
    「うむ……むしろ早急にプエル兵を倒した方が、被害が少なくてすむじゃろう。さぁ……仕掛けるぞ!」
     アリシアがフリージングデスで攻撃すると、クラウィスはシールドバッシュで怒りを付与。
     更に朔耶もフリージングデス、レセフはマジックミサイル……と次々と攻撃。
     灼滅者達の猛攻に、プエル兵の体力は1ターンの内にガリガリと削られていく……しかし倒れるまでには行かない。
     そして、プエル兵達の攻撃。
     蔵書を喰らおうと、立ち塞がる前衛四人を邪魔と言わんばかりに、どけ、と言うが如く、攻撃を仕掛けていく。
     ……しかしその攻撃を、仲間達から庇うはカツァリダのビハインドと、朔耶の霊犬、リキ。
     交互に攻撃を受けつつ……その回復はレセフの霊犬、アルントルードがメディックの効果を受けて回復する。
     そして次のターンになれば、また先頭切って動くクラッシャー陣。
    「オラオラ、さっさと潰れちまえよ!!」
     剣が今度は閃光百列拳で攻撃すれば、セイナも閃光百列拳、カツァリダは螺旋槍……そして、矜人は。
    「喰って知識を収集、か。テストん時に欲しいよな、その能力……ま、ともかく来いよ! オレ達を倒さねぇ限り、知識の収集なんてできねーぜ?」
     と、挑発と共にクルセイドスラッシュ。
     ……流石にその一撃で、プエル兵一匹目は崩れ落ちる。
     残るは三匹……そいつらに対し、更にフォースブレイクでアリシアが追撃を付与し、クラウィスは更にシールドバッシュで怒りを付与し、プエル兵達の注意を本よりこちらに引きつけようとし続ける。
     ……勿論、本とプエル兵の間には灼滅者達が立ち塞がっている為、彼らも中々本を喰らう事は出来ない。
     ……どうにか喰らおうと、威嚇し、暴れ回る。
     できる限り本に被害を与えない様に配慮しながら、2ターンに1匹ずつを確実に、討ち取っていく。
     そして……7ターン目。
     残るプエル兵は、後一体……喰らおうとした蔵書と、武器の勢いに俟った本の数々が、物悲しく思う。
     とは言えプエル兵達は、他の図書館にもこうして出てきている訳で……これを止めない限り、プエル兵の親玉、プエルが力を付けてしまうことには間違いない。
     つまり、全てここで倒す必要がある。
     そして……8ターン目の剣、矜人、セイナ、カツァリダが、クラッシャー効果で以ての大ダメージを叩き込む。
     ……大きく、動きが鈍るプエル兵……其処に。
    「知識も大事じゃが、何より知識が足りぬ!!」
     アリシアのオーラキャノンの一撃が、プエル兵の身体を打ち抜き……プエル兵は、全て灼滅されたのである。

    ●保全
    「ふぅ……終わったみたいね」
     息を吐き、ほっと一息付くセイナ。
     無事プエル兵4体を全て倒し終え……ほっと一息。
     とは言え周りを見てみると、戦闘の被害の痕跡は結構なもの。
    「……まぁ、こればっかりはしゃーないわな。という訳でこれからは後始末の時間だな」
    「ああ。という訳でで……っと」
     剣に頷きつつ、先ほどデジカメで撮った写真を確認、同じアングルから確認して。
    「えーっと……ああ、その机はこっち。その本棚はそっちだな」
     とてきぱきと矜人が指示を出して、机椅子、本棚等々を、怪力無双を使って並べ直していく。
     そして全て並べ直したら、散乱した本を一つ一つ本棚に戻していく。
     ……でも、そんな本を一つ一つ、タイトルを見ながら戻すと。
    「……おお、これはあの漫画の原作じゃな。漫画では原作のシーンをどう表現しているかのぅ……」
     と、パラパラ見始めるアリシア。
     ……良く大掃除であるような、片付けてたら本を読んでしまうパターン。
     そんなアリシアに。
    「アリシアさん……それは後にしましょう?」
     とクラウィスの言葉に。
    「おお、すまぬな。そうじゃな……閲覧日に借りて比較も悪くないしのぅ」
     と、笑って本を戻す。
     そして……一通り片付けを完了して、セキュリティを再度セットして、図書館より脱出。
     ……そして空を見上げれば、微妙にキレイな星空が広がっていて。
    「綺麗な星空ね……今年もはこれで始まるのね」
     とセイナの呟く一言。
     ……そう、今年も又始まったばかり……そんな中、灼滅者として……立ち塞がるダークネス達を一つ一つ相手にしていかなければならない。
     そう、そんな今年もまだ始まったばかりなのだから……。
    「そうだな……ま、ちゃっちゃとやってこーぜ」
     と、剣が空気を振り払うように告げて、そして灼滅者達は図書館を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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