
新年を迎え、日増しに寒さも増しているような1月初頭。冬休み中の学園内に、見慣れない貼り紙が掲示されていた。
『乾布摩擦だよ! 水着で集合♪』
そんな表題の下に続いてイベントの詳細が書かれている。みんなで水着姿になって乾布摩擦をしよう、という内容だ。灼滅者が健康法にトライするというのも妙な気はするが、この冬の思い出作りにはなるかもしれない。
集合時間は午後1時、場所は某海岸。各自で持参するものは、体をこするための布やブラシといった乾布摩擦道具。服装は水着限定とのことだが、それ以外に指定された項目は特にないようだ。
とはいえ、寒波が次々と押し寄せている今冬。日中とはいえ真冬の海風に晒されながら水着になるのだから、灼滅者といえども身に沁みる寒さを覚悟したほうがいいだろう。
そんな中、一心不乱に乾布摩擦をするも良し。仲間と楽しく乾布摩擦をするも良し。乾布摩擦が終わった後は暖を取ったり、温かいものを食べたり飲んだりするのもいいだろう。また、冬の海辺を楽しんでから帰るというのもオツな選択だ。ただし、万が一、不用意に海へと入ってしまった場合には悲惨な事態が起こってしまうかもしれないが……
どんな時間を過ごすのか、すべては君次第である。
●レッツ☆乾布摩擦
1月某日の昼下がり、とある海岸に若者達が集まっていた。武蔵坂学園の灼滅者達である。その中の1人――紅羽・流希は、眼前に広がる水平線と頬を撫でる冷たい風に満足げな表情を浮かべていた。
「いやはや、冬の海で乾布摩擦ですか……ちょうど良いかも知れませんねぇ……」
そんなことを独りごちつつ服を脱ぐ。サーファーパンツ姿になっても涼しげな表情は変わらない。この寒さも彼にとっては贅沢な心地よさとして感じられるようだ。『心頭滅却すれば火もまた涼し』という言葉を体現するように、潮騒に耳を傾けながら手拭いで乾布摩擦をし始める。
真っ赤なビキニ姿のエイミー・ガーネットも元気に乾布摩擦中だ。姿勢を正し、せっせと背中をタオルでこするたびに豊かな胸元が揺れ、冬の穏やかな日差しの中でさえ眩しい光景である。
「ポカポカしてきたデス!」
乾布摩擦の効果か、元々露出度の高い服装を好んでいるために耐性があるのか、はたまたESP『寒冷適応』のおかげなのか、体も温まってきたらしい。無邪気な笑顔もこぼれ、冷たい海風に吹かれても実に楽しそうだ。
ハートとスペードを模った水着をそれぞれ着用している茂多・静穂とジヴェア・スレイは、寒さに震えながらも乾布摩擦に励んでいた。
「うぅぅ……寒い寒い……」
そう言いながらも一生懸命体をこすっているジヴェア。その甲斐あってか、次第に温かくなってきたようだ。
(「ん? 少しは温かくなったかな?)
余裕が出てきたのか、マイクロビキニでかろうじて隠されている胸元にも手を伸ばす。
そして、静穂はというと……
(「ふふ、もっと……! この寒さで私はむしろ盛り上がるタチ……! その上、乾布摩擦の感触もなお! ああ、寒空の乾布摩擦最高!」)
寒さに打ち震えながらも、非常に楽しそうなのだった。
●乾布摩擦のその後は……?
「おおっし、や、やるぞー!」
赤いビキニ身を包み、震えながらスポーツタオルを掲げて仲間達の音頭を取るのは【suffle】の緋室・赤音。しかし、後に続くメンバー達の大半は特に動じている様子もない。雪国の山間部出身という海野・桔梗は余裕の表情で、震える赤音に視線を送る。
「情けないもんじゃないか、赤音」
(「……なんで俺、海まで来て乾布摩擦とかしてんだろ……」)
街風・恭輔はそんなことを思いつつ、のんびりと乾布摩擦をしている。北国出身の彼にとっては今日の寒さは許容範囲らしく、こちらも余裕の表情だ。
「この程度の寒さなら、まだそこまで震えるようなものでも無いと思うのだが……ふふ、少し気合を入れてやらねばならんな!」
そう言って神宮寺・桃香はハンドタオルを手に、赤音の体をこすりはじめる。赤音もお返しとばかりに桃香の体をこすり返した。
「こすれば温かくなるっすか? なら自棄っす。全力でこするっすよ」
見よう見まねながらも一心不乱に乾布摩擦をしているのはギィ・ラフィット。上質なタオルで惜しげもなく体をこすっていくうちに、次第に寒気も薄れてきたようだ。
そして、ジェノバイド・ドラクロアはというと――
「おい! このタオルボロくねぇ!? もう3回も千切れてんだけどよ!!」
――タオルを引き千切り、まともに乾布摩擦できないという前代未聞の事態を招いていた。逞しい筋肉のなせる業には違いないが……なぜだろう、あまり羨ましくない。
「さて、せっかく海まで来たんだ。少しは泳がねばな」
しばらく乾布摩擦を続けて体が温まってきたところで、桃香が海に向かって歩き出した。
「俺は魚でも獲ってこよう。岩場に潜れば貝とか魚とか獲れそうだし」
桔梗も海へと向かい、その後にジェノバイドも続く。2人の手には、それぞれ持参した銛が握られていた。
平然と海へ入ろうとする3人の姿を目にした赤音が、おもむろに恭輔を振り返る。
「毒を喰らわば皿までだ、泳ぐぞ」
「流石にそれは無理だからっ!」
詰め寄られ、逃げようとする恭輔。すでに服を着て焚き火の準備をしていたところなのだ。巻き込まれてはかなわない。
「ふふっ、冗談だよ」
赤音は悪戯っぽく笑ってから波打ち際へと駆けていき、待っていた桃香と共に海へと飛び込んでいく。
「あっ、赤音さん……何か温かいものをたかってやろうと思ったんすけどねぇ……」
波間へと繰り出していく後ろ姿を眺めつつ、ギィは溜息まじりに呟いたのだった。
●寒さに負けるな!
「おい、天木! どういう事だ? 乾布摩擦とか聞いてねぇぞ!」
「すんませんっした!」
炎導・淼が声を上げ、天木・桜太郎をタオルで叩く。が、言いだしっぺである桜太郎もまた、寒さにガクガクと震えていた。
「乾布摩擦を最初に考えたのは誰なの馬鹿なの? クソ寒いわ!」
彼の予想ではもう少し楽しいイベントのはずだった。が、面白半分で参加するには、1月の海辺という環境は厳しすぎたらしい。現実は無情だ。
そして、ここにもう1人、寒さに打ち震えるファイアブラッドの姿があった。天城・理緒である。
「……寒い、寒すぎです! 真冬の寒さ舐めてました!」
しかし、自分が先にリタイアするわけにはいかないという思いから、よろよろと乾布摩擦をはじめる理緒。淼もまた部長の意地を見せ、胸をビシッと張って背中をこすっている……が、脚の震えだけはどうしようもないらしい。ファイアブラッドだからといって寒さに強いわけではないようだ。
「ふおおおぉお、さ、寒……くなんてなーっい!!」
堂々とした淼の姿を目にした中川・唯は、引きつった笑顔で声を上げ、小刻みに乾布摩擦をしはじめた。そして、寒くない寒くないと自分に言い聞かせる。すると、どうだろう。自己暗示のお陰か、次第に寒さが薄らいでいく。
しかし、他の3人はそうはいかない。淼はなんとか続行しているものの、桜太郎は早々にリタイアし、理緒にいたっては寒さのあまりに思考も麻痺してきたようだ。
「水の中に入ったほうが暖かいかも……」
そんな呟きを残し、ふらふらと波打ち際へと向かって行く。その理緒の後ろになぜか続く桜太郎。2人を離脱させまいと追う唯の足元で、ビーチボールが転がる。
「このクソ寒い中でビーチバレーを……」
(「私、乾布摩擦が終わったらバレーで遊ぶんです……」)
桜太郎が唯に畏怖の視線を向ける一方、理緒の中では何か危険なフラグが立とうとしていた。しかし――
「先輩、どこ行くんです? まだまだ終わりませんよっ!!」
すんでのところで唯が2人を捕まえる。離脱・ダメ・絶対、ということらしく、その後も唯のペースで乾布摩擦は続行されることになるのだった。
(「天城……ドンマイ……」)
フラフラの理緒に同情の念を送る淼も、相変わらず寒さに震えている。部長の意地で最後まで唯に付き合わなければならなくなってしまった淼もドンマイ……
●いつのまにやら大騒ぎ!?
女生徒14名で参加している【花園】の面々は華やかな雰囲気だ。紅色のビキニに身を包み、先陣を切って乾布摩擦を開始した黒岩・りんごをはじめ、魅力的なスタイルのメンバーが目立つ。綾瀬・一美の着ている鮮やかなブルーのビキニも、海風に翻る長いパレオが冬空に映えて印象的だ。そんな中にあって、ひときわ目立って――否、異彩を放っているのは姫条・セカイである。着物の下に彼女が身につけていたのは水着ではなく、白いサラシと褌だったのだ。
「はわっ! セカイさん、その格好は……!?」
「えっ? これが乾布摩擦の正装と伺ったのですが……な、何か変でしょうか?」
「よろしいと思いますよ? ……いろいろと」
一美の言葉に、ようやく何かを悟りかけるセカイ。そんな彼女に、りんごは乾布摩擦を続けながらも何やら意味ありげな視線を向けている。
一方、スクール水着姿になったはいいものの、無垢島・いるかは寒そうに身を縮めていた。
「寒いです」
「流石に寒い……が、だからこそやる意味がある!」
「つばきさま、その意気なのです。さむいからこそ体をきたえるのですよ!」
颯爽とパーカーを脱いでビキニ姿となった支倉・椿にと共に、スクール水着に身を包んだ綾町・鈴乃も気合いの入った言葉で乾布摩擦を開始した。そんな2人の姿に感化されたのか、いるかも決心したように鈴乃の隣でわっしわっしと体をこすりはじめる。
競泳水着の上に学園指定のスクール水着を重ね着している曹・華琳は、早々に乾布摩擦を切り上げて海へと視線を向けた。
「海に来たからには寒中水泳をやりたいよね」
そう言って平然と海へと入っていく華琳に続き、いるかと鈴乃も寒中水泳に参加した。その後ろにビキニ姿の如月・水花も続こうとしたが、爪先を濡らす波の冷たさに、早々に引き返してくる。しっかりと乾布摩擦をすることにしたようだ。
「よーし、わたしも……寒いぃぃ!?」
寒さの中でも頑張る友人達の姿を見て香祭・悠花も乾布摩擦を始めようとするが、あまりの寒さに一瞬怯んでしまう。が、ここで頑張らなければ女が廃る! と、気を取り直した様子で、しっかりと胸を張って背中をこすり始めた。
が、誰もが乾布摩擦に積極的なわけではない。寒さ対策のため、水島・佳奈美はタンキニの上にダイブスキンを重ね着していた。
「だって素肌さらしたら寒いじゃない。いい案だと思ったのにな」
しかし、素肌をこすってこその乾布摩擦。あれよあれよという間にダイブスキンを脱がされてしまうのだった。
「ふふ、皆さんお元気ですわ……♪」
「皆さん、寒い中よく頑張りますよね~」
そんな言葉を交わしながら友人達を見守っているのは、スミレ・シラカワと白金・葵。そもそも乾布摩擦をする気のない2人はしっかりと防寒し、友人達のために休憩スペースを準備中なのだ。悠花の霊犬であるコセイも、もふもふ要員としてスタンバイしている。
そこにいち早くやって来たのは七里・麻美だ。
「うー、さむさむ。寒いのは苦手~」
早々に寒さに負けた麻美は、さっそくコセイをもふもふしつつ、スミレと葵が用意した蜂蜜レモンや生姜湯でも暖を取りつつ、完全に見学モードへと移行する。その視線の先には、先ほどまでガタガタ震えていた天瀬・ゆいなの姿があった。
「あはははははは寒くない私寒くないっっ!!」
ハイテンションというか、最早やけっぱちで背中をこすりまくるゆいなだったが、その拍子にタオルが水着のホックに引っ掛かってしまった。
「わっきゃあああああぁぁぁぁ!?」
あわや乙女のピンチかと思われたが、すわ一大事とばかりに近付いた悠花とりんごの手によってポロリは回避された。が、むにゅっと胸元を守られたゆいなは突然のことに暴れ出す。そして騒ぎは次第に大きくなっていき――
「大丈夫か? 無理そうならこれを着て……ど、どこを触っている!」
「ひゃうっ!?」
「はわー、私もやられてばかりじゃないですよ~、それっ」
「あ、いや、私まで巻き込まないでー! きゃー!」
何やら大変なことになってしまっている。それを見て、スッと立ち上がるスミレと葵。おもむろに服を脱ぎ捨てると、なんと2人とも服の下にビキニを着てきているではないか!
「さぁ参りましょう、葵さん……♪」
「ええ、スミレさん。参りましょうか♪」
手を取り合って騒ぎに乱入していく2人を見送る麻美は、相変わらず暖を取りながら友人達を応援している。
騒ぎはますます大きくなり、海から上がった華琳が止めに入るものの、むしろ巻き込まれてしまっている。せっかく水着の上に着たワンピースもはだけるわ、捲れるわで……
「せいざ!」
突然の正座命令に、騒ぎがピタリと止まった。皆の視線の先にいるのは鈴乃だ。
「ほかの人もいるのです! さわぐのはメッですよ!」
小学3年生による至極真っ当なお説教に、シュンと正座する中学生、高校生、大学生達……その姿を笑顔で見守るのも、小学3年生のいるかなのだった。
| 作者:二階堂壱子 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2015年1月20日
難度:簡単
参加:28人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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