さよならじゃないよ

    作者:一縷野望

     人を遠ざけがちな月乃ちゃん。美人なのに無愛想で素っ気なくて、一人で平気って顔。
     そんな彼女へ鬱陶しいレベルで構うのは、自分がお節介だからだって思ってた。
     でも、違った。
     彼女の纏う空気が好きで、とにかく同じ空間にいたかったのだ。
     ……最初はそう、それだけだった。
     でも最近は、彼女が不意に見せてくれる口元だけの笑みを探してたり。メアドを教えてくれたのがなんか、もう青天の霹靂で。
     自分も彼女の居心地のいい空間になれてるのかなって、嬉しかったのに――。

    「君の絆を僕にちょうだいね」
     しんと冷え込む深夜の子供部屋にて、宇宙服のような隔たりの向こう、少年の囁いた。
     眠る蒼音という少女から奪われるは、形なき宝物。

     親戚周りでロクに遊びに行けなかったお正月も終わったのに、なんだか心に霞がかかったよう。
     ベッドサイドで充電していた携帯端末を手に取り画面を滑らせる。
     ――メールフォルダ「月乃」に新着1件。
     今までの蒼音なら、朝からそんなの見たら嬉しくてにやにや笑いが止まらなかったのに、今は至って平坦。メールを開こうという気にすらならない。
     ブブブブ。
     震える携帯端末は別メールの着信をつげる。
    「……あ、サリからだ。今更あけおめって、遅いっての」
     こちらへは極々普通の反応を示しつつ、蒼音は壁掛けの洋服へと手を伸ばす。
     

    「絆のベヘリタスがらみの動きがまた予知されたよ」
     新年の挨拶もそこそこに灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は口早にそう告げる。
     絆のベヘリタスと関係が深いであろう謎の人物が一般人から絆を奪い、ベヘリタスの卵を産み付けた。このまま孵化を赦すわけにはいかない。
    「狙いは孵化した直後。キミ達は産み付けられた『志村・蒼音(しむら・あおね)』さんに接触して絆を結んで」
     蒼音と絆ある者に対して及ぼせる力は大幅に減ずる。向こうからの攻撃力は下がり、逆に絆ある者からの攻撃には脆くなる。
     ……そうなって初めて斃せる相手なのだと、まずは認識して欲しい。
    「だから、できるだけ多くの人が蒼音さんと絆を結んで欲しいんだ。種類はなんだっていいからさ」
     10分経てば撤退するが勢力を削ぐためにもできれば灼滅して欲しい。

     蒼音と奪われた絆の先にいる月乃は同じ総合大学の1年生。文学部に所属している。
    「まだ講義は始まってないけど、チェーン店のカフェとかあるしぶらついてる学生さんは多いみたい。蒼音もその一人だよ」
     カフェやファーストフードやコンビニがある西側は、一般人の出入りも見られる。だから様々な年齢の灼滅者達が出入りしても見咎められることはない。
     蒼音は19歳の女性。
     人なつっこくて世話好き。困っている人を放ってはおけない気質だ。
     また小旅行が好きなので、出先で会ったことがあるという入り方もありだろう。
     他にも月乃の過去の友達とかやり方は色々ある。
    「時間は1日目の朝から2日目の夕方まで」
     2日目の夕方、バイトを休んで逢いにきて、でも話しかけそびれてる月乃の目の前で卵は孵化する。
    「――メールが来なくなったの気になったんだと思うよ。そもそも月乃さんが返信以外でメールを飛ばしたのは初めてで、それの返事もないわけだし」
     初めてのメールは丁度卵が産み付けられた日の朝、なんという皮肉か。
    「月乃さんは、受け身な自分が悪かったんだ責めてる。でも、蒼音さんとの友情がなくなっちゃうのもしょうがないのかな、なんて……諦めてもいるみたい」
     だから話しかけられない。
     そしてまともな状態の蒼音ならば、友情が壊れるなんて絶対望まない。
    「折角キミ達が関わるんだし、その辺りもちょいちょいってもっとしっかり結んであげるといいんじゃないかな」
     制服のリボンを解いて再び結び、標は笑顔で首を傾けた。 


    参加者
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    満月野・きつね(シュガーホリック・d03608)
    祟部・彦麻呂(誰が為に鐘は鳴る・d14003)
    夜久・葵(蒼闇アンダンテ・d19473)
    烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)
    人首・ククル(塵壊・d32171)

    ■リプレイ

    ●1日目朝 姉妹
    「あの、すみません」
     振り返れば、くりっとした瞳を翳らせる少女と後ろに隠れる妹が視界に入る。日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)と鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)だ。
    「兄と待ち合わせたんですけど……」
    「西門は逆だよ」
     瞠目する姉、「だから言ったのに」と膨れる妹。
    「連れてってあげる」
    「ありがとうございます。良かった、心細くて」
     妹は真っ赤になって俯く。
    「……ごめんなさい。お話……苦手で……」
    「そっか」
     無理強いせずに引いたら追いかけるような瞳。
    「学校でも……大好きなお友達なのに……嫌われちゃうかな……」

     ――嫌いじゃないってわかってる。だから話しかけるの。ダメ?

     これは誰に言ったんだっけ?
    「あ、お兄ちゃん!」
    「おや、案内して頂いたのですか? 有難うございます」
     兄・人首・ククル(塵壊・d32171)は気の赦せない印象を抱かせるも、妹に慕われる様がよい兄と物語る。
    「お礼をさせてください」
    「そんな大した事ないよー」
    「妹もこう言っておりますし、宜しければ明日のお昼にお茶でも」
     こくり頷く末妹。
     ……こういう出逢いは悪くない、むしろ好きだ。
     沙希とメアド交換し「また明日」と手を振った。

    ●1日目昼 道すがら
    「大学に通っている姉が忘れ物をしたらしいんです」
     おずおずと切り出したのはおかっぱ髪の夜久・葵(蒼闇アンダンテ・d19473)
    「素敵なところですね。でもこれだけ大きな大学だと友達とかできるか……」
     待ち合わせ場所のカフェへの道案内中、不安げに翳る蒼に呑み込まれる。

     ――翳りがちの眼差し、何を想っているのが知りたくて覗きこんだ。

    「……っ、葵ちゃんはこの大学志望?」
    「いえ、親友が」
    「親友、か」

     ――そうなりたいと望んだ人がいた、気がする。誰だっけ?

    「大丈夫ですか?」
    「あ、うん」
     カフェに着いた所で勇気を振り絞るように顔をあげた。
    「知り合いになっていただけると嬉しいです」
    「……もう、知り合いだよ。一歩進んであたしは友達になりたいな」
     蝶々結びのようにあっさり結べた絆にはにかむように破顔する。

    ●1日目昼 カフェで
    「志村さんでしょうか」
    「実は、碧莉も私も、文学部に興味があって」
     姉妹ですと頭を下げる、烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)とレイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)は、聞くなら志村さんと勧められたらしい。
    「大学生になるのは、私の方が先なのですが……」
    「文学部って、どんな感じの勉強をしていけばいいのでしょうか?」
     聡明そうなエメラルドと理知的な瑠璃へ微笑み椅子を勧めた。
    「勉強かぁ……あたしは『作者はなにを考えて書いたんだろう?』って知りたいのが高じて、気付いたらこの学部選んでたんだよねー」

     ――ミステリアスだから、彼女を知りたいと思った。

     生真面目にメモを取るレインと背筋を伸ばし頷く碧莉を前に、先程から引っかかる気持ちへ捕われ話しが止まる。
    (「絆を奪って、何をする気なのか」)
    (「人と人の繋がりは大切にしなければいけません……」)
     明日も逢う約束を取り付けてた2人は改めての決意を固める。

    ●1日目昼 兆し
    「近い未来、大切なものを失くす」
    「!」
     立ち上がった蒼音と背中合わせ、誰もいなかったはずの場所から聞こえる囁き。
    「……どういう事?」
     警戒心露わな声に、祟部・彦麻呂(誰が為に鐘は鳴る・d14003)は丁重に詫び名乗る。
    「私は占いをして方々を渡り歩いてる者です」
     柔らかくなる声音に蒼音の瞳が好奇心を帯びた。
    「……あたしが既に失いつつあるって?」
    「やはり心当たりが?」
    「わからない」
     唇を噛み握りしめる携帯端末にはその答えがあるというのに、絆を取り上げられた彼女は気付けない。
     それがとても哀しくて悔しくて、彦麻呂は一瞬だけ彼女らしい率直さを浮かべた。
    「取り戻すのを手伝わせて」
     そう残し再び影纏いで姿を消す。

    ●1日目夕 お守り
    「あれ……お姉さん」
     今日最後の出逢いは、飴をもごもごさせる満月野・きつね(シュガーホリック・d03608)
    「ウチに初詣きてなかった?」
     挙げる神社を特定されぬよう頷いて。
    「やっぱり! 俺、参拝にきてくれた人の顔は忘れねぇんだ」
    「すごいね。憶えててくれて嬉しい」

     ――……ちゃん、あたしのこと憶えててくれたの、嬉しい!

    (「つ、き、の……?」)
     浮かんだ名前を当てはめどしっくり来ない。どうして?
    「大丈夫か、顔色悪いぜ?」
     覗き込むきつねに制御できぬ感情で首を縦に揺らす。
    「心配だなぁ……そうだ、明日の朝もここ通る?」
    「うん、10時頃に」
    「じゃあさ、ウチのお守りあげる」
     大切な絆を護るお守り
    「ありがとう。じゃあまた明日」
     弱々しい笑みを見送ったきつねは、ぱしっと掌に拳を打ち付けた。
    (「大切な絆を奪うだなんて……ヤな奴! ぜってー許さねぇからな」)

    ●2日目
    「はい、お守り。ご利益あるんだぜ」
     きゅうと閉じれば狐の目、渡されたのは友情のお守りと紙包みの飴ちゃん2つ。
    「ありがとう」
     ……2人で食べてと言われてるみたいで胸があたたかくなる。でもその『誰か』がわからない。

     昼下がりの学内のカフェにて――。
    「改めて、昨日は有難うございました」
    「ここは奢らせて頂きますので」
     ……兄が。
     爽やかな笑顔の沙希に頷く珠音、妹達へククルは「貴女は程々にしなさいね」と釘さし。
    「仲いいね! あたし兄妹いないから羨ましい」
     カフェオレで喉潤し微笑ましげに目を細めた。
    「お兄ちゃん忘れ物多すぎ」
    「本当。蒼音さんみたいに優しくて面倒見がいい人が恋人だったらいいのに……」
    「貴女達はもう……すみません」
     困ったように笑う兄につられ蒼音も頬を緩めた。
    「ククルさんはこの大学の学生?」
    「いえ、遊びついでに見学です。来年受験なんですよ」
    「受かるかわからないですけど」
     弾ける笑い、食べ物をシェアしあうぐらいに4人は打ち解けてた。
    「蒼音お姉ちゃん」
     くいくい。
     沙希の兄愚痴の合間を見て珠音が袖を引く。
    「お姉ちゃんは……大事なお友達、いるの?」
     ふと静まる場、カップを置いて瞳を伏せる。
    「……やっぱり、友達なのかな」
     確定的に言えないのが、なんだか悔しい――。
     3人は瞳を交し頷いた。
     大丈夫、ちゃんとまたそばにいれるように、全力を尽くすから!

    「すごい、学校の教室の3倍はあります」
     ひな壇式の講義室に踏み込んで、碧莉は物珍しげに瞳を見開いた。
    「驚くよねー。あたしも最初そうだった」
     教授が立つ位置に納まり、ホワイトボードを指さし。
    「画面に映りました」
     柄にもなくはしゃぐ妹を前にレインは嬉しげ。切れ長の瞳に折り目正しい女子制服は古風な着こなし。
    (「なんだかいいな」)
     この背筋が伸びるような空気は何処かで感じた。
    「日本文学と民俗学に……」
    「え」
     妹を立てるように控えめだった姉が口火を切った。
    「興味があって。志村さんは日本文学専攻ですよね?」
    「うん、別れるのは2年になってからだけど」
    「どんな授業があるのですか?」
    「じゃあ掲示板まで戻ろっか」
     時間割、と蒼音はにっこり。
     取ってる授業の概要、好きな作家、もうすぐ中学な碧莉へのお勧め本……とりとめのなく話を重ね彼女たちは別れた。

     ――それぞれが掛け替えのない絆を紡いたら、恐怖と背中あわせの救出劇が幕をあける。

    ●夕暮れ 大事な探しもの
     対角線の方角からほぼ同時に2人の女性が現われる。蒼音と長身で真っ直ぐな黒髪にジーンズ姿は月乃だ。
     月乃へ伝えたいと駆けつける彦麻呂と葵、だが背中に感じる仲間達の緊張から卵が孵ってしまったのだと臍をかむ。
    「……ッ何?!」
    「月乃さん」
     やはり何処か自分に似ていたと葵は口元を僅かに崩す。
    「友達って、片思いでもいいんです」
    「……片思い、か」
     ぐっと胸に手を当て瞳をあげた視線の先では、珠音に腕引かれ逃れた蒼音がよろよろ逃げてくる。
    「消えていい、失っていい友情なんてあるもんか!」
     入れ替わるように入ったきつねがベヘリタスからの攻撃を盾で弾く。
     シャドウからの攻撃は、軽い。
    「俺、お前のこと大っ嫌い。奪った絆……返してもらうぜ」
     お返しと握った拳で鼻先を殴りつければ、シャドウは苦しげに顔を押さえてのたうつ。絆の手応えにきつねはへへんと胸を反らす。
    「離れていて下さい。月乃さんと」
     ククルは蒼音も月乃も恐慌状態に陥っていないと見定めて王者の風は招かない。
    「つ、きの……」
     絆を卵に奪われきって薄ぼんやり、その背では対照的に鮮やかなククルの炎がベヘリタスを喰らう。
    「蒼音は月乃が嫌になったわけじゃない、だから絆を諦めちゃダメ」
     励ますように見据えてくる彦麻呂に月乃は切れ長の瞳を瞬かせた。
    「月乃さん」
     葵が掲げた指先に絡む帯。螺旋のように踊り絆奪いの禍々しきシャドウへ絡みつく。
     返せ、と。
     大事な絆を返せと、苛烈に容赦なく締め上げさせて。
    「両思いならもっと素敵だと思いませんか?」
     傍にきた蒼音と月乃の手をつながせて、いつか自分もそんな友達に巡り会えたらと憧憬混じりの眼差しを向ける。
    「!!!!! がぁぁぅ」
     シャドウはデタラメな叫びと共に闇へ巻き込み内側から爆ぜさせんとす。
    「痛くないのです。蒼音さんと月乃さんの悲しみに比べたら!」
     毅然と言い切る沙希。
     コートの彼に庇われしレインは、にぃと闊達にして不敵な笑みで祭壇の歯車を弾く。レインは名を呼ばない。こんな時でも、こんな時だからこそ。
    「今なおしてあげます」
     其の脇で碧莉は清浄なる風を招き仲間達の疵を素早く塞いだ。

     糸と指輪を使い分ける珠音の戒めは、シャドウの回避の目を思う様に潰す潰す。
    「満月野さん、右です!」
    「ありがと」
     ナイフ翳し霧招くククルの声、転がり避けたきつねの足下、膨れあがるは甘そうなふわふわ黒い綿飴。影に絡め取られるシャドウを、すかさず葵が地から巻き上げた炎で包む。
    「ベヘリタス……そしてタカト――私は祟部彦麻呂と言います」
     畏まった口調で名乗り挙げる彦麻呂は、ベヘリタスと卵を植え付けたであろうタカトとの絆を望み呼びかける。しかしシャドウの様子は変わらない。
     ……であれば。
     つがえた矢に月乃の想いを乗せてつま弾く彗星、容赦なくシャドウの身を削る。
    「人の絆は丈夫な糸みたいなもの。そう簡単にはなくならない」
     口で咥え引いた糸を自在に放ち戒め広げる珠音。
    「絆ですか、良い言葉ですね」
     碧莉も頷き胸に浮かべた情念を極限まで高めていく。
    「きっと二人の絆も、元通りに結び付けられるんよ!
     手元に戻した糸結び、珠音は蒼音を支える月乃へ笑いかける。
    「ええ。私も作りたい……そう憧れたあなた達の絆を護りきります」
     淡い鴉羽を冬空に散りばめて、鮮烈なるエメラルドの少女は胸から滑らした指に乗せ漆黒を射出する。
    「……ッ! ガゴガガガッ!」
     頭を掻きむしりのたうつ影の元へ滑るように辿り着くは、紅のインバネスコート。
    「何故また絆を狙う?」
     彼女たちが抱いたのが欲する程に強き想いで在り、力の源となるのは推察できる。
     が。
     それを赦せるかというと別の話。
     名を呼ばぬ彼が斬り裂くのに合わせて、レインは破邪の光で夕暮れを『白』へとかきかえた。
     明滅が晴れた刹那、シャラリ髪飾りをはためかせた沙希が傍らに立ち、指を食い込ませ引き寄せる。
    「大切な絆を返してもらうのです」
     もし自分が姉への想いを失ったなら? 想像できる疵の深さに胸痛め、だからこそ赦せぬと渾身の力で巨腕を叩きつけた。
    「ああぁぁあ!」
     天地が割れるような悲鳴をあげて、孵化したばかりの幼子はその形を再び朧へ還す。

    「……月乃ちゃん」
     名を呼んだきり項垂れる。糧とされ蝕まれていた絆を取り戻し言葉を失う蒼音へ、穏やかな声を響かせたのはククルだ。
    「色々と混乱されているかもしれませんが……まずは、お話されてみては?」
    「蒼音さんは本当は月乃さんと友情を失いたくないはずです」
     沙希の声に頷きかけて固まった。何を今更と責める心の声がさせてくれなかった。
    「蒼音さん、月乃さん」
     呼びかける碧莉の後ろからひょこり顔を出す珠音は「大事な友達……」と、未だ演技モードのままの上目。
    「月乃さん」
     両思い――そう、唇を動かして葵は口元に三日月を浮かべる。蒼音が踏み出せないのなら、月乃からと。
    「月乃は蒼音にさよならされたくないから来たんだよね?」
     真摯な眼差しの彦麻呂に背を押され、月乃は膝に当てた指をぎゅうと握りしめる。
    「蒼音、いつもいっぱい話しかけてくれて……ありがとう」
     消え入りそうな語尾に蒼音はぱちりと瞳を瞬かせた。
    「今……蒼音がどれだけ頑張って接してくれたかわかって、その……こんな私は嫌われても……」
    「違う! あたしが月乃ちゃんのいる空間が好きで、そこにいたくて……」
     だから、
    「さよならなんか、やだぁ」
    「蒼音!」
     頬伝う涙に慌ててハンカチを引っ張り出すのを見て、きつねはポケットに手をつっこむ。
    「来年の正月は2人で来てくれよ」
     月乃にも友情のお守りを握らせて飴ちゃん咥えた口で笑めば、返ってくるのは目一杯の泣き笑い。
    「待ってっから!」
     同時に頷く2人をレインは離れた所から穏やかに見守っていた。
    (「……わからないわけではない、な」)
     ここからならばよく見える――『とにかく一緒にいたい』という真摯な願いが。
     奪われかけた想いは護られて、更に雪がとけるように理解へと至った2人の未来は明るいはずだ――。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 1
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