迷惑酔客と善哉餅

    作者:聖山葵

    「なぁ、いいじゃねぇか? ちょっとぐらいよぉ」
    「っ、やめて下さいませ!」
     しつこく言い寄ってくる客に、何時しか少女の忍耐力も限界が迫っていたのか声に怒りの成分が混じる。
    「んなこと言ってよぉ、その格好、男を誘ってんだろうがよぉ?」
    「違います。これはお隣のお手伝いに」
    「だーから、そんな言い訳はいいってんだろぉ」
     何度目か解らない説明をするも御神酒で酔っぱらったらしい客の男は、まともに取り合わない。
    「俺とよぉ、イイコトしてくれたらこいつだって買ってやるぜ?」
     いやらしい笑みを浮かべ、聞くに堪えない言葉を口にする男を前に、少女がただ耐えていたのは、迷惑な酔っぱらいでも客を主張していたからに他ならない。
    「ほれ、十個だろうが二十個だろうが、お?」
     だが、その我慢も限界を迎える。
    「あ」
     ぞんざいに善哉餅の箱を手に取ろうとした、男の腕が、積み重なった箱を倒したのだ。呆然とする少女の目に映る、崩れて行く商品。
    「おあっ」
     しかも、床に落ちようとする商品の上に元凶の男はよろめいて倒れ込もうともしていて。
    「ぎゃあっ」
    「そん……な」
     訪れたのは、絶望。嫌な客が転んだのは自業自得としても、何の罪もない善哉餅達の無惨な姿に少女は耐えられなかった。
    「許さない、許さない……もちぃ」
     身を包んでいた巫女装束が白から黒に染まって行き、握りしめた拳の中に一張の弓が生じる。
    「うぐっ、痛ぅ……あ、なんだそりゃ、何時の間に着替」
    「許さんもちぃ、善哉餅の仇、今ここで浄化してやるもちぃっ!」
     まだ、事態を完全に把握していない酔っぱらいに敵意の篭もった目を向けながら、ご当地怪人と化した少女は弓に矢をつがえたのだった。
     
    「ちょっと気になる人を神社の近くで見かけてね、はるひちゃんに調べて貰ったんだけど」
    「調査の結果、一般人が闇もちぃしてご当地怪人になる事件が起きようとしている事が解った訳だ。今回は善哉餅だな」
     四季・彩華(魂鎮める王者の双風・d17634)の言葉を継ぐ形で座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は説明を始めた。
    「本来ならば闇堕ちした時点で人間の意識は消えてしまうものなのだが、今回のケースでは元の人間の意識を残したまま、一時とは言え持ちこたえるようなのだよ」
     いわば、ダークネスの力をもっちぃながらダークネスになりきっていない状況になるという訳だ。
    「もし彼女に灼滅者の素質があるのであれば、闇堕ちからの救出を。完全なダークネスとなってしまうようであれば、その前に灼滅をお願いしたい」
     もちろん前者の方が良いがねと付け加え、はるひは更に説明を続ける。
    「今回闇もちぃしてしまう少女の名は、清哉・花善(すがや・かよ)。お土産屋の娘で高校一年生だな」
     豊満な身体つきか、それとも隣の神社の神主に頼まれて巫女服を着て店が暇な時は手伝いもしていたことか、あるいはその両方が仇となったか、酔客に絡まれてしまった花善は、トドメとばかりに目の前で売り物の善哉餅を床に落とされた上に酔客の身体でそれを押しつぶされ、善哉モッチアへと変貌して矢を放とうとする。
    「少女の持つバベルの鎖に引っかからず介入出来るタイミングは、ちょうど善哉モッチアが矢を放つ直前だ」
     割り込んで庇えば、酔客は助けることが出来る。
    「後はESPなり何なりで対処すればいい」
     この客が迷惑な客であったからか、接触場所になる土産物屋には他に人もおらず、人避けをする必要はないとのこと。
    「庇った後も善哉モッチアは餅の仇である酔客を攻撃しようとするだろうが、これについては『店で暴れれば商品に被害が出る』と指摘してやることで一時的に阻止することが出来る」
     もっとも、それはあくまで一時的な処置だ。土産物屋の外に出てしまえば善哉モッチアももう仇を討つことを躊躇わないだろう。
    「だからこそ、取れる手段は二つだ」
     一つめは、酔客を眠らせるなり縛るなりして逃げられなくした上で、元少女を外に誘い出し戦うといったもの。
    「これで男は逃げないから先にこっちの話を聞いて欲しいとかいいつつ外に連れ出し、説得したり戦う流れだな」
     二つめは、逃げる酔客を庇いつつ屋外に出て戦うというもの。闇堕ちしかけた一般人を救うには戦ってKOする必要があり、戦いは避けられない。
    「人間の意識に呼びかけ、説得することで戦闘力を削ぎ弱体化させることが出来るのは知っていると思うが」
     説得するつもりであるなら、やりやすいのは酔客を逃げられなくし、店に残す前者のパターンだろう。後者は完全に逃がしてしまえば、事後処理んも面倒くささが減るが、説得の難易度は跳ね上がる。
    「彼女はセクハラが嫌いでね」
     闇もちぃの理由も酔客に身体を触られたり、言葉によるセクハラをされたことが理由だったりするので、説得でもセクハラと取られかねない言葉は禁句。
    「説得するなら、耐えていた花善を労ったりして落ち着かせた上、諭すのを私は推奨する」
     たまりに貯まった負の感情の爆発が闇もちぃと酔客を殺害しようという行動へ繋がったのだ、冷静さを取り戻させれば、こちらの言葉に耳を傾ける余裕も生じると思われる。
    「戦闘になった場合、善哉モッチアは天星弓のサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     ご当地ヒーローのものに似たサイキックも使用可能だが、どちらかというと弓を使った攻撃を好むらしい。
    「酔客については、全てか片づいた後少女が救われていれば少女自身がカタを付けるだろう」
     よって、後のことは少女に任せて、隣の神社で初詣をしてくるのもいいかもしれない。
    「ともあれ、少女が助かるかどうかは君達にかかっている」
     少女のことを宜しく頼むと頭を下げたはるひに見送られ、君達は教室を後にするのだった。
     


    参加者
    日月・暦(イベントホライズン・d00399)
    九湖・奏(たぬたん戦士・d00804)
    靱乃・蜜花(信濃の花・d14129)
    四季・彩華(魂鎮める王者の双風・d17634)
    月岡・悠(銀の守護者・d25088)
    レイヴン・リー(寸打・d26564)
    矢矧・小笠(蒼穹翔ける天狗少女・d28354)
    裳経・いちご(五平餅はご飯じゃないのっ・d31542)

    ■リプレイ

    ●阻止すべきもの
    (「またモッチアかあ、幸か不幸か縁があるのかもなあ……」)
     胸中で呟きつつ日月・暦(イベントホライズン・d00399)も、闇もちぃが起きると不幸があると知ってしまえば、しみじみとしてる訳にも行かなければ、助けないと言う訳にも行かず。
    (「それと、今度こそモッチアが何かって知らないと……!」)
     ただ一つ決意しながら土産物屋の戸口をくぐれば、そこにはあった。
    「許さない、許さない……もちぃ」
     巫女装束を黒く変色させ、ご当地怪人になりつつある少女が、拳の中から一張の弓を出現させる光景と、お餅の箱の上に倒れ込んだ男の姿が。
    「いい大人が情けない」
     と、ここまでのいきさつを知っている月岡・悠(銀の守護者・d25088)が内心でため息交じりに酔った客へ冷たい目を向ける余裕も殆どない。
    「うぐっ、痛ぅ……あ、なんだそりゃ、何時の間に着替」
    「許さんもちぃ、善哉餅の仇、今ここで浄」
     事態を完全に把握していない酔っぱらいへと弓につがえられた矢が向いた直後のことだった。
    「ちょっと待ったそれはダメーっ!」
    「な」
     裳経・いちご(五平餅はご飯じゃないのっ・d31542)の声が店内に響き、九湖・奏(たぬたん戦士・d00804)とレイヴン・リー(寸打・d26564)のビハインドであるラオシーが鏃と酔客の間に割り込んできたのだ。だが、もはや矢羽根からご当地怪人の手は離れても居た。
    「ぐあっ」
    「な、何てことをするもちぃ! だ、大丈夫もちぃか?」
     当然矢は割り込んだへ奏と突き刺さるが、庇ったのは覚悟の上でもある。そして、人の意識が残っているからか自分を気遣ってくれたこの元少女が問題ないと解ればどういう行動に出るかもまた、把握していた、だから。
    「うん。けどな、ここで暴れたら大事な店の品がぐちゃぐちゃになっちゃうよ!?」
    「そうそう、今ここで戦っちまったら店ん中めちゃくちゃになっちまうんじゃねーか?」
    「え?」
    「こいつが憎いのは分かる。でも、いいのかい? 店で暴れればまた商品に被害が出るよ?」
     レイヴンと二人がかりの指摘に、虚を突かれた元少女へ更に四季・彩華(魂鎮める王者の双風・d17634)が転がったままの酔客を指さして畳みかけ、戦意を削ぐ。
    「も、もちぃ……それは」
    「今まで嫌なことがあっても、真面目に怒らずに頑張ってきたあなたに敬意を。けれど、ここから先はやりすぎだ」
     言葉に詰まったご当地怪人を悠は賞賛しつつも窘め。
    (「んー……大事なものをこんな風にされちゃったら怒りを感じるのもちょっとわかります」)
     周囲の悲惨な光景に顔をしかめた矢矧・小笠(蒼穹翔ける天狗少女・d28354)は、痛ましげに潰れた箱へ視線を落とした。もちろん、だからと言ってもやってはいけないことがあると凶行は止めさせるつもりなのだが。
    「な、何だぁお前等は?」
    「神聖な場所でいい大人が女子高生に迷惑行為なんて恥ずかしいのよ」
     一時的に蚊帳の外になった男へ、今度は靱乃・蜜花(信濃の花・d14129)がジト目を向けるが、ここまでの態度を鑑みれば無理もない。
    「公共の場で酔いは言い訳になりませんなのね」
    「んだとぉ? んなことガ……ぁ、なん」
     反論しようとした男は言葉の途中で崩れ落ち。
    「これでこの男は逃げない。だから僕らの話を聞いてほしい。外に出て、店に被害が出ないところまで一緒に来てほしい」
    「酔っ払いは逃げられなくしたし、お店で暴れたら商品ダメになっちゃう。だからさ、外でお話ししよ?」
     魂鎮めの風で男をあっさり眠らせた彩華が元少女に向き直れば、いちごも援護射撃し。
    「大好きな餅を台無しにされて怒る気持ちはわかるけど、まずは新しい餅食べて落ち着こう? そしてその後は、ね?」
    「……仕方ないもちぃね」
     差し出した善哉餅と男の間を視線で二往復ほどさせた元少女は、男に起きる様子がないのを認めると首を縦に振ったのだった。

    ●いかに理由があろうとも
    「はむっ」
     店の外に出るなりいちごから渡されたお餅をご当地怪人善哉モッチアが口にしたのは、ある意味で必然だったかもしれない。
    「いいなぁ」
     昔から甘いものに目が無かった暦からすれば、羨ましい光景かも知れないがあくまでそれは説得の為の掴み。
    「自分のことより、善哉餅のことで怒ったんだよな? 立派だと思うよ」
     甘味に怒りを和らげられた様子の元少女を見て、奏は切り出した。
    「も、もちっ? 急に何を言うもちぃ?」
    「ほんとよく頑張ったよ」
     虚を突かれ動揺する善哉モッチアをいちごも労い。
    「ストレス溜まるよね。私でよければ話聞くよ」
    「嫌なことや我慢できないことがあるなら、愚痴ってくれていいんだよ。一緒に善哉餅を食べながら、ね?」
    「俺も前にちょっと苦労したことがあってね。そう言う話なら付き合うよ?」
     悠の援護を受けながら、「私も大きな胸でそういう目にあってたから気持ちわかるし」と理解を示しつつ促せば、暦も便乗し。
    「あなたももちぃか?」
    「ええ、こんな顔のせいで色々とね……」
    「……解ったもちぃ。まず、あれはわたくしが商品の補充をしていた時のこともちぃ……」
     元少女は話し出す。
    「なるほどな。男の俺からじゃセクハラって言うのか? のほんとの辛さは分かんねーから、それに関しちゃ何とも言えねーけど、でも、善哉餅をぞんざいに扱われて許せなかった気持ちは何となく分かる気がするんだ」
     レイヴンが口を開いたのは、ご当地怪人の話を全て聞き終えた後のことだった。
    「大事にしてるものをそんな風にされたら許せないよな」
    「そうもちぃ」
    「かよおねーさん、酔客さんが悪いのはとっても解るのね。酔いを理由に傍若無人にふるまうおバカさんはお仕置きしたい気持ちも解るのよ」
    「解って、くれるもちぃか?」
     元少女は我が意を得たりとレイヴンの言葉に頷き、蜜花の声に顔を上げる。
    「話して良かったもちぃ」
     お餅の甘さ、愚痴をはき出せたこと、理解者が見つかったこと、その全てが元少女に落ち着きを取り戻させたのだろう。
    「でも、だからこそ、そんなあんたに人は殺してほしくないと思うんだよな」
    「ただ、そのお仕置きが取り返しのつかないものになってしまうのはいっぱい悲しいのよ。この素敵な神社を悲劇の現場にしたくはないのよ」
     話を聞き入れる下地は出来た。そう判断して、二人は言葉を続け。
    「え?」
    「でも射殺すのは良くないよ……そんなトラブルがあると善哉餅のイメージも悪くなると思う」
    「もちぃ、そんな」
     目を見開いて固まったご当地怪人へ、今度は奏が突きつけた指摘によたよたと後退する、だが説得はそこで終わりではなかったのだ。
    「清哉さん、あなたの善哉餅への愛はこんなものなんですかっ!」
    「そ、そんなことないもちぃ!」
    「では、あんなおじさんのためにあなたが手を汚しちゃったら、一体誰がこれから善哉餅の良さを広めるんです?」
    「も、もちぃ。それは……」
     一喝に頭を振って反論はしたものの、小笠の投げた疑問には答えかね。
    「今まで頑張って我慢してきたのを、こんなところでムダにしたらダメですっ!」
    「……も、もちぃ」
     冷静さが戻っていたからこそ、自分に向けられた言葉を思ってのモノと理解出来たのか突っぱねることも出来ず。
    「鬱陶しい酔客によく耐えたね。君が辛かったことは良く知っている」
     そんな元少女を彩華は労い、言葉を続けた。
    「あ……」
    「だからこそ、ここで闇に全てを任せちゃいけない。あんな奴のために闇に堕ちて、二度と店の手伝いをできなくなるも嫌だろう?」
     ただし。
    「……闇もちぃ?」
    「あ、闇って言うのはね――」
     ここで、事情を知らぬ元少女へと説明の時間が設けられたのは、仕方ないことだったのである。

    ●少女に救いを
    「それでは、闘いを奏でよう」
     事情を説明しようとも、救う為には戦いが避けられない。
    「いざ」
     悠がスレイヤーカードの封印を解き、地を蹴ったのは、今だ説得が続く中。
    (「こんなことで人を闇堕ちさせるわけにはいかないよ。必ず――」)
     酔った男を見た時の決意のまま、連れ帰ろうと決めたまま身体に巻いた帯を解くと射出の準備を整える。
    「それじゃ」
     おそらくは、レイザースラスト。一直線にご当地怪人へと伸びる仲間のダイダロスベルトを視界に入れ、タイミングを見計らって暦が出現させるのは、赤きオーラの逆十字。
    「こっちも行くよ。響、援護を宜しく」
    「わうっ」
     悠とは別方向から転輪の如く奏が回転しつつ、元少女へ肉迫する。霊犬の撃ち出した六文銭による支援を含めれば四方向からなる同時と時間差で形成された攻撃の檻。
    「準備は調ったようであるな」
     小笠は天狗の面を被るなり、これに加わった。
    「てんぐ様のお通りであるっ!」
     捻りを加え突き出すユピテル・ランペッジャメントによる一撃。まるで天狗が如く跳躍して宙を舞い、連係攻撃の余白が埋まる。
    「もべちっ」
     灼滅者達の言葉で自分の過ちに気づかされ、全力を発揮出来なくなった善哉モッチアが対処出来るはずもない。
    「逃がさないよ、五平餅ダイナミーック!」
     集中攻撃によって物理的に灼滅者達の檻からはじき出されて転がった元少女を捕まえると、いちごは勢いまで利用してその身体を高く持ち上げ、力一杯地面に叩き付ける。
    「もちゃぁぁぁっ」
     爆発が一瞬、ご当地怪人の姿を消した。
    「でも、この程度じゃ救えないみたいだね」
    「うぐ」
     爆煙の消え始めた場所に蹌踉めきつつも身を起こすシルエットを見て、彩華は星空の勝風 -天風の織姫-を駆りローラーの摩擦で熾きた焔に足を包んだ。
    「君のその力は闇から皆を救うためにある。だからその闇を振り払え!」
     呼びかけながら繰り出したそれはまさに炎の蹴撃。
    「熱も゛っ」
     炎に貼り付かれた元少女の身体吹っ飛び。
    「やっぱ、あれ以上の言葉は出てこねぇな、ならっ」
     追いかけるようにして両拳へオーラを集中させつつ飛び出したレイヴンに合わせるようにビハインドのラオシーは動いた。
    「もちっ、う」
    「あああああっ」
     背中から地面に落ち、身を起こした元少女が見たのは拳の嵐。
    「っ、もちぁぁぁぁっ」
     ただではやられまいと咄嗟に弓へ矢をつがえ、放たれた矢は短い距離を進んで嵐の中心を貫くはずだった。
    「え……もべっ」
     だが、矢が貫いたのは盾になったラオシーで、一瞬だけ放心したご当地怪人の身体へとレイヴンの拳が叩き込まれた。
    「かよおねーさん、負けないで欲しいのよ」
     呼びかけながら、蜜花は妖の槍を握りしめる。
    「あんなおじさんの為にかよおねーさんを堕とさせないのよ」
     だからこそ、拳に踊らされるモッチアへ穂先を向け、捻りを加えて突きを放つ。
    「もちゃあっ」
     悲鳴をあげて黒の巫女が突かれた場所をおさえつつ膝をつく。だが、戦いはまだ終わらない。
    「月岡、四季、合わせるのである」
     二人分の名を呼んで殲術道具を振り上げながら小笠は跳躍し。
    「そんな攻」
    「責任感があって、売り物を大事にしてきたあなたがそんな風になったら、沢山の哀しむ人がいるよ」
    「っ」
     反応しようとしたご当地怪人の動きが、投げかけられた言葉で僅かに止まる。三人がかりの攻撃を成功させるのにはそれで充分だった。
    「うぐ、もべっ、がっ」
     侵蝕の針 -白衣の堕天使-の針先で貫かれた身体は、握り拳の形にした縛霊手に殴りつけられ、小笠の偽・天狗の錫杖の杖頭がたたらを踏んだ元少女の頭上に落ちた。
    「もぢぐっ、う」
    「かよおねーさんっ、今助けるのね」
    「あ」
     ワンテンポ遅れた内からの爆発にも耐え、尚も立とうとしたご当地怪人は、次の瞬間蜜花の撃ち出した氷柱を身体に突き立て崩れ落ちる。
    「良かった」
     漏らした声は誰のものか。地に伏した少女の巫女服は白の色を取り戻していた。

    ●後片づけと餅、補正
    「おかえり、花善ちゃん」
    「わたくしは……ありがとうございます」
     いちごの言葉に、おおよそのことを察したのだろう。
    「よく戻って来たね。善哉餅も、きっと喜んでるよ」
    「いえ、皆様のおかげでございましょう」
    「花善ちゃん、君のその力は他に闇に苦しむ人々を救える力だよ。だから、僕達と一緒に学園に来てくれないかな?」
    「え? ええと……その」
     頭を下げて見せた少女は彩華の言葉についてはやりとりの途中で少し困惑したが、急な話では是非もない。
    「とりあえず、提案する必要はなかったかなあ」
     よかったら彼女を武蔵坂に誘ってみたらどうかな、と暦が口にする間もなかった。
    「それはそれとして、善哉餅だけど、ある? 善哉は大好きだからね、良かったら一つ二つ貰いたいなって」
    「あ……いいね。善哉餅、少しは残ってないのかな? 折角だから俺も食べたい!」
     気を取り直してが話題を変えれば、奏も便乗で挙手し。
    「少しお待ち下さいまし。それでしたら、駄目になっていないものがお店の方にまだ……あ」
     二人のリクエストに応じようとした少女の動きが止まったのは、きっとお店の現状を思い出したからだろう。
    「あー、あの酔客は酔いを醒ましてやってから、神主さんにお説教してもらうのはどうかな? そしてきっちり謝ってもらおうよ」
     奏は眠らせたままの男について提案すると、これも何かの縁だしとお店の後片づけの手伝いまで申し出る。
    「え? 助けて頂いた上にお手を煩わせてしまうのは」
    「気にすることはないよ。元々後で一緒に善哉餅を食べようと誘うつもりだったからね」
    「その後は神社の参拝をさせていただきたいのね」
     恐縮する少女に頭を振りって悠が応じれば、蜜花も希望を述べ。
    「じゃあ、とりあえずお店に戻ろっか……あっ」
     促そうとしたいちごが、石に足を取られてつんのめる。
    「きゃあぁ」
     倒れ込む先には、いちごに背を向け店へ戻ろうとする少女。いちごは掴むモノを求めて思わず手を伸ばし。
    「大丈夫ですか?」
    「え?」
     振り返った少女にごく普通に受け止められて呆然とする。真後ろから見るとスカートがめくれて五平餅プリントが完全に露出したまま。
    「あれ? モッチア補正は?」
     おそらく、格好いい系なのでモッチア補正キャンセラーとか、そう言うモノが働いたのだと思われる。
    「って、そうじゃなくて、ありがとう。餅仲間はいつでも歓迎だから、一緒に来てほしいなぁ、なんて思ってるんだけど」
    「そうですわね。少々急なお話ですから確約は出来ませんけれど、救って頂いたお礼はさせて頂きたいと思っていますわ」
     我に返ったいちごが、礼に添える形で誘えば、少女はそう答え。
    「モッチア補正? そう言えば知りたかったんだけどモッチアって何?」
     モッチアの単語を耳にした暦に捕まることによっていちごがモッチアの説明をさせられることになったのはきっと別の話。何にしても、一人の少女は救われたのだ。
    「よし、さっさと終わらせてしまおう」
     奏は呟き、土産物屋の中に消える。終わった後で神社に参拝することを考えながら。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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