きらめく想いに飾られて

    作者:柚井しい奈

    「フランチェスカをイメージしたアクセサリーがあったら絶対買うのに」
     雑貨屋のアクセサリーコーナーで、草薙・彩香(小学生ファイアブラッド・dn0009)は手にしたペンダントを戻した。
     売ってるわけがないのはわかっている。フランチェスカは彩香の相棒、世界でたった1本のマテリアルロッドなのだから。ただ、あったら嬉しいなあと。
     そうしたら貯金箱をひっくりかえしてでも自分へのプレゼントにしちゃうのに。
    「なら、作ってみてはいかがですか?」
    「え?」
     振り返ると、レジから戻ってきた隣・小夜彦(高校生エクスブレイン・dn0086)が笑みを浮かべていた。
    「好きな天然石を組み合わせてアクセサリーを作れる店があるんです。彩香さんがフランチェスカをイメージして石を選んでみては?」
     色で選ぶならローズクォーツやインカローズにホワイトオパールとか。あるいは石の持つ意味や効果で想いを示すとか。
     言葉が進むほどに大きな瞳が輝いた。
    「うわあ、いいかも! 皆も誘って行きたいな」
    「では声をかけてみましょうか」

     
     透き通った水晶、夜空のかけらラピスラズリ、深い森を思わせるアベンチュリン――数え上げればきりがない色とりどりの石から気に入ったものを選んで、世界でたった一つのアクセサリーを。
    「そんなにあるとどの石を使うかだけでも悩んじゃうね」
     彩香は頬を緩めてまだ見ぬ石たちに思いを馳せる。
     石には力があると言われている。直感で運命の出会いがあるかもしれないし、お守りとしての効果で選ぶのもいいだろう。誕生石も定番だ。
    「1月の誕生石といえばガーネットですが、誕生日石というのもありますよ」
     俺も身に着けているんです、と小夜彦はループタイを留めるマスカット色の石に触れた。
    「そうなんだ。わたしの石は何かなあ?」
    「お待ちくださいね……、グロシュラライト・ガーネット、だそうですよ」
     小脇に抱えていた本を開いた小夜彦の口から出たのは聞いたことのない名前。マーガレットの髪飾りが小さく揺れた。
    「いろんな石があるんだね。ますます悩んじゃいそう」
    「色だけで決めるのも手ではありますよ」
     石にこもっているのは守護や癒し。何を選んだって悪い意味になることはない。
    「それで、彩香さんは何を作りますか?」
    「あ、そうだよね。ブレスレットもいいけどペンダントもいいし……難しいのってある?」
    「ブレスレットが一番簡単ですが、他のものも少し道具が増えるくらいで難しくはありませんよ」
     小夜彦が微笑みかけるが、選択肢が減らなくて彩香は腕を組んだ。
     伸縮性のある糸に石を通して輪にすればブレスレットのできあがり。ネックレス、ペンダントやピアスにストラップだって、ワイヤーに石を通して金具を付けるだけ。
    「あらかじめ石を並べて置くのがコツでしょうか」
     糸に通す前に、選んだ石を並べておけばあとはその順番に通すだけ。どんな順番にしよう? 色の組み合わせは? 大きさは?
    「いっぱい悩んじゃうけど、全部わくわくするね。よかったらアドバイスしてもらってもいいかな?」
     皆と一緒に作ったら、きっと素敵なものができるはず。
     それこそ宝石のように瞳を輝かせて、彩香は花飾りを揺らした。



    ■リプレイ


     そう大きくもない店内で、机に並んだ200種類を超える輝きは目を引いた。
     オニキス、オパール、ロードナイトにアメジスト。まあるく磨かれた色とりどりの石がケースの中で選ばれるのを待っている。声なき声で呼んでいる。
    「こんなにいっぱい、石あるの、ね?」
    「びっくりだねー」
     そろって目を丸くする想と澄。聞いたことのない名前の石に守りや癒しの言葉まで添えられたら、御伽噺に迷い込んだみたい。
    「どうしようかな……」
     きょろきょろと石を見比べる想の横顔を見つめて澄は笑みを零した。
    「ぼくはネックレスを作ろうかなー。サンストーンは想と結の誕生石なんだって!」
     キラキラしたオレンジの輝きは心をあたためてくれる色。
     顔を上げた想は向き直って掌を開いた。転がったのはアメジスト。澄の誕生石。
    「……すてきな出逢いと……癒しの、効果」
     夜明け前の空が零したような紫を押し抱き、瞳を細める。
    「めろ、りおねちゃんにプレゼントするの作るの!」
    「僕もめろに何か作ろうかな」
     声を弾ませるめろに手を引かれ、遥音は唇に笑みを乗せた。めろの空いた手には天然石の本。遥音はポケットから事前に作ったリストを取り出して。それぞれに輝く石と見比べる。
     ぴったりの石を選びたい。好きそうなもの? らしいもの?
    「うーん、シトリンにしようかな」
     めろの瞳と同じ色。
     つまんだ石を光にかざす。陽光に溶けた蜂蜜を集めなおしたクリアイエローに微笑んで、視線を傍らに移した。本を閉じためろが笑みを返す。
    「りおねちゃんの誕生石だって。ぴったり!」
     取り上げたのはレースアゲート。やわらかな水色と白が重なる模様はまさに上品なレースのよう。それから、とめろはラピスラズリを手に取った。星を宿した群青は遥音の瞳と同じ色。
     互いの瞳の色をした石を見せ合って、何が出来るかはお楽しみと笑いあう。
    「せ、せっかくだから……誕生日石、調べてみた……」
     周囲のざわめきに紛れそうな声量でユァトムがメモを取り出した。石に目を向けていた一夜が振り返る。
    「そうなのか、どの石?」
    「望月さんは……ピ、ピンク・サファイア……」
    「なんか女子っぽい色だなー」
     苺味のキャンディみたいだ。ためすがめつ眺める一夜に、ユァトムはもう一度メモに目を走らせた。
    「え、えっと……病気や不幸から、守ってくれる……弱者の味方、だって……」
    「へえ」
     瞬きひとつ。八重歯を見せて笑った一夜はつまんだ石を握りこむ。
    「常儀さんの誕生日石は……モルガナイト、だって……」
    「あ、すみません! 探してる石があるんです」
     じっとケースを見つめていた文具は、弾かれたように振り返る。気にしないでと首を振るユァトムに軽く頭を下げると、再び並んだ天然石に視線を巡らせた。
    「灰色……灰色……」
     手伝った方がいいのだろうか。声をかけるか迷っていたら、文具の手が動いた。
    「これに決めました!」
     掲げた石はラブラドライド。グレーの奥からにじむ虹色はオーロラを閉じ込めたよう。添えられた説明には信念を貫けるよう導くと書かれていて、文具は満足げに微笑んだ。
     ほう、と流希が息を吐く。
    「誕生石ですか……。1月5日は……」
    「ジルコンですね」
     ページをめくった小夜彦が応じる。ブルー、イエロー、オレンジ、無色エトセトラ。色ごとに収められたケースの中できらめく石は悲しみを取り除いてくれるという。
    「なんとも綺麗な色ですねぇ……」
     手に取って、何を作ろうかと首をひねる。いかにも宝石然とした輝きを放つのに、騒々しさはなく、むしろ落ち着くようだ。
    「あ、カフスボタンが必要でしたっけ……?」
     ひとつ頷いて、流希は作業台へと移動した。
     音雪とリュネットも石と一生懸命にらめっこ。
    「わ、同じ名前なのに色がいっぱいっ」
    「イロで効果も違うの?」
     目を丸くして、眉間にしわを寄せて。音雪が指差すたびにリュネットの表情がころころ変わる。思い描くのは互いに贈るブレスレット。込めたい気持ちを伝える石はどれだろう?
     右へ左へ。体ごと視線はあっちこっち。
     長い髪を揺らすふたりに軽く手を振って、嵐は石を見渡した。ぱちりと瞬く。自分に似合う石ってなんだろう?
     ケースを見下ろしていたら、マーガレットの髪飾りが視界に入った。
    「あ、誕生日オメデト」
    「えへへ、ありがとう!」
     満面の笑みに目を細める。なんとはなしに今日はひとりで来たけれど、一人と独りは別物で。並ぶ石に視線を戻せば目につく輝き。手に取ってから見渡せば。
    「お、こっちはアイツっぽい」
     愛らしいピンクオパールに陽光を固めたサンストーン、静かに透き通るセレナイト。身近な人々を思い浮かべて選んだ石は色も意味もばらばらだ。
     悪くない。
     不格好に繋がるたくさんの石に頬を緩めた。
     ピンクの石を手にしては見比べる彩香に麻綺が微笑みかける。
    「一緒に選んでもいいかな」
    「うん! 誰かへのプレゼント?」
     答えの代わりに1月26日の――彼の生まれとは違う日の石を問う。
    「石言葉は燃える愛。活力を与えてくれるそうですよ」
     小夜彦の言葉に麻綺は目を丸くしてパイロープガーネットを光にかざした。炎を冠した石があの子の守り石なんて、不思議な感じ。ああ、だけど。降り積もる雪の中に灯るぬくもりは笑顔をくれる。違う道を行く時も、石よ、どうかその行く手を照らしてあげて。


     もうすぐ慧杜の誕生日。何を贈ろうかと悩んだ結果、怜示はこの場に彼女を誘った。一緒に作る思い出ごと受け取ってもらえたら。
    「普段づけ出来て手軽といえばブレスレットかな?」
     真剣に悩む表情に笑みを浮かべていた怜示は、慧杜の問いかけを受けて自分の手首を見下ろした。彼女にもらった日から、そこには蝋引紐に編まれた石が輝いている。
    「石や雰囲気をその、お揃い……っぽくしてみるのはどうかな」
     赤い瞳が怜示の視線を追いかけた。顰められていた顔が一瞬で華やいだ。
    「さんせーい!」
     せっかくだからと石選びを任されて、今度は怜示が思案顔。隣の笑顔を見つめてから、石の並ぶケースに手を伸ばす。
     1月の誕生石は柘榴石。手にしたロードライトガーネットはピンクがかった鮮やかな薔薇色。それから、桜色のモルガナイトと水晶を添えて。
    「……どう、かな」
    「わ、ちょっと照れちゃう位可愛い色合いだね……!」
     渡された石から色が移ったみたいに慧杜の頬が染まった。
    「よし、目指せ可愛いブレス!」
     材料を目の前に広げて座る。隣に座った怜示の手首をもう一度見て、慧杜は最初の石を手に取った。ちゃんとお揃いになるように、頑張って作るから。
    「今日はステキなプレゼントをホントありがと!」
     石の輝きに想いを寄せて、その力に祈りを込めて。指先で心を紡ぐ。
     樹の指がパールビーズを一粒ずつワイヤーに通していく。美しさを引き出す力を持ったやわらかな白。左右対称に曲線を描くパールの中央には星を戴く鮮やかな青。愛の不変を誓うブルーサファイアの力を星の輝きが強める。丁寧に形を整えて、出来上がるのはミニティアラ。
     隣で手を動かす彩歌を見つめ、彼女が一番綺麗に輝く日を思い描く。
    「何かを作る楽しさって、樹さんに教えてもらった気がします、私」
     顔を上げた彩歌が黒髪を揺らした。こんな風に何かを作るのは何度目だろう。微笑む手元にはアイオライトと珊瑚を連ねたブレスレット。自分らしい道を進む手助けをしてくれる落ち着いたブルーに、優しいピンク。
    「結構、出会った時よりも器用になってる気がするんですよ?」
     仕上がったブレスレットを親友に差し出して笑う。
     頬を緩めて受け取って、樹はそっとミニティアラを差し出した。
    「できればそう遠くないうちに、これをつけて式を挙げてほしいわ」
    「ありがとう、樹さん。……私も近いうちに、向き合ってみるつもりです」
     親友の想いを受け取れば、乗り越えられないものなんてない。一番しあわせな場所に向かって踏み出そう。
     シェリーと七狼もまた、互いにペンダントを贈るべく、選んだ石をワイヤーに通していく。
    「此れどうすれば良いのかな」
    「ひとつめは少し余裕を持たせテも大丈夫だ」
     眉間にしわを寄せたシェリーの手に指を添える。つぶし玉の位置をずらしてペンチで押さえれば金具はしっかり石と繋がった。
    「さすが七狼! 頼りに成るね」
    「完成ダな」
     向けられた笑みに金の瞳を和ませる。彼女のうなじに手を伸ばし、誕生石の輝きを胸元に飾った。パーティー・カラード・フルオーライト。その名の通りいくつもの色が混ざり合って賑やかな、けれど決してうるさくはない、調和の石。繋いだミルキークォーツはやさしい輝きで愛を伝える。
    「とても良く似合っていルよシェリー」
    「ありがとう、宝物にするね」
     はにかんだシェリーも完成したペンダントを七狼の首へ。
     誕生日石はイエローアンバー。石言葉は『理想的』だなんて、わたしの王子様にぴったりと頬を染めた。その下にハート型のアイオライトが揺れる。
    「大事にするよ」
     もらった光をそっとなぞって、七狼は目を細めた。
     また2人で一緒に何かを作ろうと約束して、まずは合作のストラップを誕生日を迎えた少女に渡すべく立ち上がる。
    「うわあ、ありがとう! かわいいのにおとなっぽい!」
     エンジェルシリカの淡い色合いに彩香の瞳が輝いた。
    「この石たちがリュネちゃんの幸せを運んでくれたらいいな」
     音雪は最後の石を糸に通して微笑んだ。
     ピンクトルマリンはリュネットの誕生石。摘みたてのイチゴみたいなピンクにアクセントはクリソプレーズのアップルグリーン。間をつなぐ淡色のカルセドニーは人との繋がりを強くしてくれる石。クリソプレーズが拓く夢や希望への道の先に、かけがえのない絆のあらんことを。
    「オト、受け取ってもらえる?」
     向かいで石をつないでいたリュネットもちょうど完成させたところ。
     淡いピンクは愛情のモルガナイトに優しさのローズクォーツ。アクセントのアクアマリンは音雪の誕生石だ。やさしい色合いのブレスレットを差し出してリュネットは唇を綻ばせた。
    「幸福や健康を象徴していて、天使の石、ともいうのですって。オトにぴったり、ね?」
    「て、天使だなんて……!」
     頬を赤らめた後、音雪はブレスレットを受け取って。
     互いに贈りあった輝きを手に、2人は満面の笑みを浮かべた。
     遥音の指が結ぶのは二箇所留めの帯飾り。三重の十五角籠目結びで椿を編んで、シトリンを繋ぐ。
    「光が入ると金平糖みたいですごく綺麗なんだよ」
    「楽しみ! めろからはこれ」
     にこりと目を細め、めろは藍と薄水が交互に連なるブレスレットを差し出した。じっくり選んだ石を丁寧に繋いだとっておきのプレゼント。
    「りおねちゃん、大好き!」
     きらきら。あったかくて、まぶしいきもち。
     澄の作ったネックレスは想の首へ。
     中央に輝くサンストーン。連なる石はエンジェライトとクンツァイト。癒しと安らぎをくれるもの。
    「いつまでも二人仲良く、笑顔でいてくれたら嬉しいよ。ぼくも入れてくれたらもっと嬉しいけどね!」
     向けられた笑顔を見つめ返す。胸に差す雪解けの光に目を細めた。
    「……いつも、ありがと」
     いつも一緒にいてくれる澄に、2人分の気持ちをこめて。想はアメジストとラピスラズリをつないだブレスレットを差し出した。
     これからも、一緒に。笑顔で。


    「ええと、ここに通して結べば……できた!」
     彩香が完成したブレスレットを光にかざした。フランチェスカのことを考えながら選んだ石はピンクトルマリンにストロベリークォーツ、それからホワイトカルセドニー。色で選んだ石だけど、愛情や人の縁に関わる力を持った石だと説明を受けて、彩香は頬を緩めながらブレスレットを手首に通した。
    「かわいくできたかな」
     手首を顔の高さに持ちあげて、浮かせた足をぶらぶらさせる。
     皆はどんなのを作ったのかな? 首を左右に巡らせた。
    「二人は作ったのどうすんの。誰かにあげたり?」
     青、黒、赤……好きなように色を組み合わせてひたすら糸に通していた一夜は、できあがった3つめのブレスレットを置きながら顔を上げた。作ったのをどうするか、考えてなかった。
    「自分用……」
     ユァトムは誕生日石を繋いだブレスレットを見せて目を細める。無色のサファイアは思考をクリアにしてくれるのだとか。眩いほどの輝きに緩む頬。
    「僕はプレゼントです」
     照れたように笑う文具。大事な人に。彼女が自分の夢を叶えられるよう願って。
    「そっか。……なあ」
     呼び止めて、誕生日の少女に白瑪瑙のブレスレットを差し出した。
    「えへへ、ありがとう!」
    「楽しい催しへのお誘い有難うございます。本日はお誕生日だそうで……お礼も兼ねて、これをお受取り頂けませんか?」
     恵理が差し出したものを見て、彩香は大きな瞳を輝かせた。
    「フランチェスカだ!」
     銀粘土のロッドにガーネットをはめ込んだペンダントトップはシンプルながらも確かに相棒のシルエット。歓声を上げていろんな角度から眺めていた彩香は、はたと顔を上げると深々と頭を下げた。
    「ありがとう。大事にするね」
     ぴょこんと跳ねるツインテールに微笑む恵理の胸には銀の蝶が止まる。緑柱石を載せたブローチの裏には赤瑪瑙も2粒。
    「こう言う細工は大好きなんですよ。魔女たる者魔法の宝物を拵えられなくてはね、ふふっ」
    「素敵だね。わたしも魔法にかけられちゃった」
     増えた宝物を胸に抱いて彩香が肩を揺らす。
    「お誕生日おめでとう。君が生まれた日に同じ様に生まれたブレスレット、フランチェスカが喜んでくれるといいね」
    「えへへ、ありがとう。麻綺くんのもきっと喜んでもらえるよ」
     大切に掌に乗せられたブレスレットを見て、彩香は満面の笑みを浮かべた。

     想いが届きますように。
     守ってくれますように。
     ――込められた気持ちこそが、何よりキラキラした宝物。



    作者:柚井しい奈 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月22日
    難度:簡単
    参加:20人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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