●scene
銀座の初売り。新年早々奥様やお嬢様達が福袋を求めて店の前に行列を作り、開店と共に店内を猛進して、凄絶な争奪戦を繰り広げるのはもはや風物詩となっている。
そんな銀座の正月も過ぎ、百貨店のフロアにも平穏が訪れていたかに思われた。
「お客様。失礼ですが、荷物の中を確認させて頂いてもよろしいですか?」
万引きバスターと思わしき中年のマダムが、財布売り場をうろついていた挙動不審な女に声をかけた。手提げバッグに、ブランド物の財布を落とし込んだのが見えたのだ。
確信したマダムが優雅な微笑みを浮かべる一方、女も何故か薄笑いを浮かべていた。
これは『上級者』の顔だ――仕事人の直感がそう告げ、フロアに緊張が走る。
「オーッホッホッホッホホホーーーウ!!」
女の高笑いとともに、シリアスな空気が物理的に爆発四散した。
煙が晴れると。
大胆かつ無秩序にブランド品で身を包み、頭に福袋を被った上からフクロウのお面を被るという奇天烈なうえ珍妙な仮装をしたご婦人が、大量の福袋を手に佇んでいた。
「ごめんあそばせ奥様、あたくし銀座福袋怪人こと『怪盗フクブクロー』といいますの。あたくし福袋が大好きですのよ。なのに新年しか売らないなんて、嗚呼なんという横暴かしら! ホッホーウ、お前達、ゆきなさい!」
「ホホーウ!」
なんと、女の合図で福袋から飛び出したしもべのフクロウ達が、店内の商品や購入済みの品をくわえて去っていく。店員も客も大混乱に陥るフロアを、フクブクローは満足げに見回した。
「この品々は幸福の化身たるあたくしが直々に福袋にお詰めして、貧しい庶民にバラまいてあげますわ。福袋の素晴らしさをご理解頂いて、ゆくゆくは世界征服……ですの。オーッホッホッホッホホホーーーウ!」
●warning
「……福袋を開けるときって、ちょっと幸せだよな。でも、何があっても、万引きはだめだろ。買い物を楽しみにきてる人たちの楽しみをぶちこわすのも、だめだ。許せない」
「奇遇だな。俺も、鳥類の品格を下げる輩には特別厳しく当たる事にしている……。何なんだよフクブクローって。駄洒落か、池袋に謝罪しろ、俺もフクロウに囲まれたい!!」
「おれだってほんとは福袋ほしいよ……」
鷹神・豊(エクスブレイン・dn0052)は机を叩き。
哀川・龍(降り龍・dn0196)は机に突っ伏す。
普段、まったく気が合っていない男たちがここに結託した。まったく違う理由で。
「今回は銀座のとある百貨店に出現する、この『怪盗フクブクロー』なる不埒なご当地怪人を排除する事にした。予知を避け、介入できるタイミングは、丁度しもべのフクロウ達がフロアに放たれたあたりだな」
フクブクローは既に帰るモードになっているため、彼女の気をひき、足止めしなければならない。
「どうすんの豊さん」
「福袋だな」
「福袋だな。わかった」
伝わってしまった。
解説すると、この四字は『怪盗フクブクローが思わず欲しがるような、愛と夢と情熱をこめたオリジナル福袋を各々作って持っていき、これを賭けて勝負しようとか持ちかけてみるのだな!』の略だ。
怪盗フクブクローに構っている間、店内を飛び回るフクロウ達は放置する事になるが、怪人を倒せば全て消える。
「そうだな……避難誘導とフクロウの邪魔はこの哀川がやるので、君達はご当地怪人本体との戦闘に専念してもらえるか」
「……え、なに、めちゃくちゃ今聞いたけど。まあいいか、皆なら倒してくれると思うし……大声とか出すの、ほんとはあんま得意じゃないけどさ。……頑張ってみる」
無事戦闘を終えたら商品は店に返すとして、持参したオリジナル福袋が手元に余る。
「それ、持って帰るのもなんか寂しいし、交換とかしてみるのもよくない。誰かの好きなものがつまった福袋って、それだけでなんか福! って感じだろ。レアだし」
「……お、おう。……福袋、理解し難いな。中身の分からんものを買って楽しいか?」
「うん。まあわかんなくてもいいじゃん、バランスとれてるよ、おれたち。たぶんな」
どうだか、とエクスブレインはおかしそうに笑った。
「ともあれ、流通の秩序を乱す輩に幸福の使者を騙る資格はない。その点には俺も全面同意だな。邪なご婦人に、格式高き銀座百貨店の敷居を跨がせてなるものか。ゆくぞ、怪盗フクブクローを灼滅せよ!」
参加者 | |
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秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236) |
鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795) |
篠村・希沙(暁降・d03465) |
アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392) |
北澤・瞳(覇謳曖胡・d13296) |
神西・煌希(戴天の煌・d16768) |
朝川・穂純(瑞穂詠・d17898) |
高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857) |
●1
「ホーッホホウ、今日も善い事をいたしましたわ」
「いや、普通にダメだろ万引きだし……その行い、ヒーローがここで止めてやるっ」
ショーケースは叩き割られ、悲鳴が響く。そんな光景は百貨店には似合わない。気合の販売員的赤はっぴに身を包んだ高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)は、手に持った物体を掲げ、大声を張り上げた。
柄に『産地直送』の旗を貼りつけた交通標識。
「試食できまーーーーーーーす!」
いや『のぼり』だ。カンナビスもびっくりであろう。
「そんじゃ哀川、そっちはよろしく頼むなあ。こっちは任せろ」
神西・煌希(戴天の煌・d16768)へ頷き返し、哀川・龍(降り龍・dn0196)達はフロアに散った。こちらは前進あるのみだ。
「ホホウ?」
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。量産福袋とはひと味違うオリジナル福袋が勢揃い、オレ達に勝てたら全部差し上げまっせ」
「もう帰ってしまわれるとは何と勿体無い! 福袋新作をお持ちしましたぞ!」
麦を先頭に、鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)と篠村・希沙(暁降・d03465)がお汁粉の空き缶でちんどんしながら進む。後に続く灼滅者達も、それぞれ福袋を携えている。
「ホウホウ……どのようなものかしら」
フクブクローが食いついたとみて、麦はすかさず試食販売ごり押し攻撃に出た。
「肉食なあなたに贈る牧場自家製・無添加で安心のハム・ソーセージ! 新鮮なオーガニック牛乳で作った濃厚チーズとヨーグルト! オシャレな避暑地・那須高原で大人気のチーズケーキ! どうですかマダム!?」
「! とろける食感……牧場の雄大な風景が目の前に広がるようですわ!」
「この『産地直送 那須高原牧場グルメ福袋』、他にも個性豊かな福袋を用意してますっ。どうぞ! ご覧になって下さいっ!!」
その時。
「オー、マーベラス! ナンエンデスカ?」
外国人観光客が現れた!
「あ、あいすぴーくじゃぱにーずおんりー!」
希沙はカンペを見て、しどろもどろで説明をする。実は米国生まれだったアレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)が助け舟を出した。
「See what I mean?」
「アーハン。オゥ、オーケーオーケー!」
「ホ、ホホーウ。会話が全く聞き取れませんわ……」
「アレクサンダーさんすごい!」
英字は図形、英文はデザイン、英会話は呪文。ええと、ソーリー!
ともかく北護・瑠乃鴉と御舘田・亞羽に手をひかれ、外人は避難した。一行(と、なぜか怪人)は胸を撫で下ろす。
「いいわ、お続けになって。ただしつまらない物でしたら途中で失礼致しますわ!」
怪人は中身の見える福袋を投げた。巨大な鰹……いや、ライドキャリバーのスキップジャックに騎乗したアレクサンダー、朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)の霊犬かのこと北澤・瞳(覇謳曖胡・d13296)の霊犬庵胡が福袋を回収に走る。怪人に加え、梟と犬とバイクが闊歩するフロアは軽く百鬼夜行状態である。
「庵胡、なんだか楽しそう♪ ところで福袋の中身は何かしら?」
「ぬう、これは……全国の百貨店で使えるお得な商品券!」
何だと。
ほしい。皆が思った直後、アレクサンダーが爆発して粉まみれになった。
「オーッホホホウ! はずれは粉爆弾ですのよ!」
「何という妨害力だ……だが俺達は屈しない。今だけご当地ヒーローになり、地元の魅力を教えてやろう」
「おう、熱い戦いにしようぜ!」
秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)の言葉に、煌希と小太郎が強く頷く。普段は割と落ちつきのある彼らだが、楽しそうで何よりだ。やっぱり男子ねー、と瞳が微笑ましげに呟いた。
●2
「こっちです! 危ないのでしばらくこちらにいて下さいね」
「可愛い子ねえ、有名人? これ映画の撮影かしら」
「すごい勘違いされてるよ……」
一方、避難誘導も順調に進んでいた。ESP効果でそわそわする奥様達に笑顔を振りまきながら、室本・香乃果と龍は階下に降りていく。
「俺らこんな問題解決の専門やからー! フクロウとかは任せて、はよ避難してくださーい!」
メガホンで呼びかける氷月・燎の声に押され、従業員も避難した。逃げ遅れた客を襲う福フクロウに五十嵐・烈火が雷を放ち、墜落させる。
「おっ? 当たった当たった」
「大丈夫だから……な」
笹島・輝希が襲われていた客の傷を癒した。危機を悟ったフクロウ達は商品を掴んで去ろうとしたが、桃野・実の霊犬クロ助がその首根っこを捕まえる。
「わ、ふわふわ……」
「ジャッジメントレイ……回復しているなんて、そんな、もっふもふ」
「ホウー!? ホウー!!」
実や漣・静佳らにもふられ、じたばたする福フクロウ。商品を取り上げ、存分にもふを楽しんだ後、二人は眷属を灼滅したのだった。
●3
希沙の施した防音が働き、騒ぎは大きくなってはいない。上下階への通路も仲間が通行止めにしておいてくれるだろう。
「福袋は年に一度だからこそ楽しみもあるのだ。簡単には手に入らないのも欲しがる理由だろう」
「だよなあ、一年中売ってたらただの詰め合わせになっちまうじゃねえか。自分の生活圏じゃおいそれと買えねえようなものに人は惹かれる、そう思わねえ?」
一行は安心してセールス、もとい戦闘を続けていた。誠士郎の意見には煌希も全面同意のようだ。
「あたくしが間違っていると仰りたいのね。自信満々ですこと……相当魅力的な品を用意して下さっているのね?」
「ああ。紹介しよう」
誠士郎は福袋を掲げた。『福袋』の文字が躍るそれは、まさに伝統的福袋。
「まずは和雑貨。羊の置物、水に浮く桜の蝋燭、桜模様の硝子の器……他にもあるがお楽しみとしよう。盛岡のソウルフード、冷麺・じゃじゃ麺・わんこそばのお得な詰め合わせも入っている。更に今ならおまけ付きだ」
編み笠を被った雫石あねっこの服装が愛らしい霊犬の花が前に出て、浄霊眼で小太郎を見つめた。
「あざっす。あれ、これはまさか激レアグッズの……オレも欲しーい」
合いの手にあわせ、花はくるりと背を向ける。
見て見て! とばかりに、きゃんと一声。背中にはなんと、中身が見えるリュック福袋が。
「南部鉄瓶は見た目だけじゃない、茶を淹れれば鉄分も補給出来る。そして……これが、この世に二つとない『はなぐるみ』」
誠士郎は一際力をこめ、言う。
くりんとした目や睫毛の細かいディテールに拘り、滑らかで柔らかい触り心地を実現。
花をモデルに作られた柴犬ぬいぐるみは――おまけどころか大分メインだ。
「ホホーウ! 福フクロウちゃんにもひけをとらない愛らしさですわ」
「だろう。俺の自信作だ」
作ったのかよ。
とつっこんでくれそうな人材は不在だ。
主夫目線が活きたプレゼン力。会話の合間に、ダイダロスベルトでアレクサンダーの防御を固めるのも忘れねえ、か――。
慣れない支援も堅実にこなす誠士郎。だが地元愛なら負けねえぜ、と煌希はにまりと笑う。こちらにもマダムをキラーする秘策ありだ。
「ってことで次は俺の番だぜえ。俺が提案するのは、美味いものも工芸品も揃った島根が出雲福袋なあ」
煌希は不敵な笑みをたたえたまま、福袋を掲げた。威厳ある出雲大社の姿が描かれた袋は、とても有難い福がありげなオーラが出ている。
「縁結びにご利益ありの箸、薬膳茶のセット、どじょうすくいの顏した饅頭、タオルセットにケヤキ材の木の器! これでちょっとした旅行気分!」
「これで独身貴族のあたくしにも良いご縁が……ホッ、もしや貴男が運命の」
「俺まだ結婚できる歳じゃねえしなあ。悪ぃなあマダム、無理だわ」
煌希は怪人の求愛をさらりとかわした。
軽くショックを受けるマダムの隙を見抜き、容赦なく叩きこまれる飛び蹴り。足元から崩れ落ちた女へ、小太郎がそっと自分の福袋をさしだす。
「大丈夫ですかマダム。さ、こちらには北海道の福がたっぷりですよ。まるまる肥えたエビにホタテにタコイカイクラ、そしてマダムのように足が長ーい特大タラバガニ」
「まーあ、あたくしのようだなんてお上手ですこと。オホホホホウ」
あ、単純な人だ。
小太郎はひっそり思ったが、顔には出ない。ぱつんぱつんの保冷福袋を重そうに掲げ、更に密度をアピール。
「最新の冷凍技術で限りなく新鮮な海の幸を詰めました。おまけに可憐な木彫りの熊もお付けします……お、おもい」
……というか、実際重い。主に熊? のせいで。
「マダム、うちの福袋も見たってくださいっ」
小太郎くん。
熊言いはったけど、袋からはみ出てるそれ、木彫りの鮭ですやん――。
乙女の戸惑いは胸に秘め、希沙も福袋をさしだす。リボンでラッピングされた透明な福袋は、乾いた冬の素肌に潤いをプラスする女子力アップ・ハンドケアコスメセットだ。
「こちらは高保湿の無香料ハンドクリーム! 即効性高く、1度塗るだけで滑らかでしなやかな手に! アロマハンドクリームは寝る前に付けると安眠効果抜群!」
「あら、ベリーの良い香り。あたくし乾燥肌なのよねぇ……」
「手は年齢の出やすいとこでもありますよマダム。ミストは髪にもどぞ! ささ、お試しくださいっ」
試供品のミストを手に取り、希沙は小太郎をちらと見た。怪人へ向け、滑走する。
「熱い実演をもっと熱くさせましょ!」
そして強烈な炎の蹴りを喰らわせ、ついでにミストを顔面に吹きつけた。
「だ、騙しましたわね! お返しですわ、スイーツ詰合せダイナミック!」
「ひゃああ! ダイダロスベルトが生クリームでしっとりふわふわ!」
怪人は福袋を出すと、希沙の頭にずぼっと被せた。小太郎の眼差しが一瞬、鋭く細められる。既にヒグマの形を成していた影は、静かに加速し、敵を襲う。
「これも福袋のおまけですよ」
「実演もまだまだ続くよ! どうぞ、ブレイジング試食小皿!」
「痛、熱……でも悔しいっ、美味しいですわ!」
二人の連携に麦も加わる。熊に食われ、燃え上がりながらも、次々出されるハムとチーズを食べる手が止まらない。ノリのいい怪人さんだね、と穂純は屈託なく笑う。
「何やってんだ……」
「あ、哀川さんだ!」
その時、龍が白い鳥に乗って現れた。お前こそ何やってんだと言いたい。
「湊詩さんが乗っていいって言うから」
「誠士郎、野菜の福袋ってないのかな。旬の野菜がみっちり……」
「家に帰れば蜜柑が山程ある」
「私もみかん大好き!」
戦闘中とは思えぬ平和なひと時。ここにアレクサンダー青春の思い出(と言っても、驚く事に彼はまだ義務教育中だ)が蘇るようだった。
「昔わしが模型屋の福袋を買った時、同じ色の塗料が大量に詰め込んであった。しかもめったに使わない特色系……。ゲーム屋のは絶対やらないジャンルの同じゲームが5本入ってた」
……。
……。
……。
「御気の毒ですわ……」
「アレクサンダーさん、泣かないで!」
皆が目頭を押さえた。肩を震わすアレクサンダーに、穂純が声援を送る。
「福袋と宝くじは夢を買う物なんだよ! わしの悲劇は繰り返させん。フッ……見るがいいこの大きさ」
ドン!
「ホホウ……クーラーボックスですって!?」
福袋、いや箱。
アレクサンダーは、売り場から拝借した秤をレジカウンターへ乗せた。
「そして、針が振り切る重さを!」
ドォォォォン!!
何せ中身はポン酢・薬味と、ウツボ・鰹を丸々一尾づつ特殊な氷で保存した土佐の豪快ご当地タタキセット。その重みに坂本龍馬や長宗我部元親も大喜び、かもしれない。
煌希がふっと笑みを深くする。
「へえ、ここで測定不能のご当地力を引き出すたあ、やるなあ土佐の」
「悲しみがわしを強くしたのだ、出雲の……」
握手を交わすご当地ライダー達の顔を、夕日的なもの(怪人のバステ炎)が照らす。
週刊少年アレクサンダーが読めるのはサイキックハーツだけ。
「そして喰らえ、鰹出汁スプラッシュ!」
「嗚呼っ、鰹の旨み!」
ご当地ビームとともに、フロアを包む出汁の香り。庵胡の鼻がひくひくと動いた。丸い目をきらきら輝かせ、鰹は? 鰹は? と探している。好奇心いっぱいなその様子に、瞳はくすりと笑う。
「庵胡も福袋のお裾分けほしいのね。後でね♪」
今夜は鍋焼きラーメンにしようかしら、などと考えつつ、瞳はラッピングもきらきらと華やかな福袋を取りだした。
「運気UPの天然石ブレスレットやブローチ、ラメ入り毛糸のニット帽の装飾品が入ってるの。美味しい宝石箱は極上果物ゼリーやカラフルマカロン、アイシングやステンドグラス風デコクッキー。美容にも効くハーブ茶で素敵なティータイムよ♪」
「ホッホウ、優雅な幸福の使者たるあたくしに相応しい品ですこと!」
「名付けて『キラキラ煌めくシアワセ福袋』。衣食両方楽しめる欲張りセットよ♪ でも、独占しようとするマダムは私達の力を結集して成敗しないとね?」
瞳はウインクすると、キラキラオーラを拳にも纏わせ怪人へ連打を放った。
「ま、眩しいっ。……痛!」
「あら? 庵胡、あなたの事好きじゃないのかも。ゴメンなさいねー?」
先程とはうって変わり、庵胡は怪人を斬りつけるとかのこの後ろにささっと隠れた。そのかのこは、どこか心配そうに主人の穂純を見つめている。
大丈夫だもん――穂純は、おもちゃの福袋を掲げた。
ビーズアクセや消しゴムの作成キット、簡単に本格チョコが作れるショコラティエセット。限定モデルの携帯ゲーム機も入った、皆の子供心をくすぐるセレクトだ。
「……高値で転売されてる現在入手不可のレアなアニメグッズも入ってるよ。私の宝物だから、ほんとは入れたくなかったけど……」
たまげたズラ。転売もダークネスの仕業かもしれない。
「何時間も行列に並んでやっと買えたんだもん……でも入れたの! 今年のお年玉も殆ど使っちゃった……だからね、すっごく価値あるんだよ! 絶対手離したくないけど、おば……お姉さんが勝ったらあげる!!」
「きっと……妖怪のせいなんよ。お年玉が消えたの」
「おじさん、今年も出たのかな……」
後悔はしていない。でも、手に入れた時の事を思い出すと――涙が溢れそうで。もらい泣きしそうな希沙に、穂純は防護符をぺたりと貼る。
欲しいなんて言えない。合いの手を入れようにも、皆の良心が痛む。怪人までハンケチでお面の目元を拭う始末だ。
「健気な子……貴女がたの情熱、胸に染みましたわ。その福袋、全部あたくしに寄越しなさいな!」
その後、灼滅者達は見事な連携で怪人をこてんぱんにした。福袋のセールスぶりを見れば、その様子が目に浮かぶと思う。心の眼で読むのだ。
「むぎまるは良い子の味方だ、産地直送旗レッドストライク!」
とどめに、麦が産地直送標識で怪人を殴り倒した。那須高原の農場パンフをさりげなく床に落とし、ニカッと笑顔を向ける。
「福袋はあげられないけど、生まれ変わったら栃木に来てくれよな!」
「ホホッ、貴方達のような子がいれば……福袋の未来は安泰……ですわ。オーッホホーーウ!」
フクブクローはパンフを拾う。そしてダイヤの輝きを散らしながら、どこか満足気に爆散したのだった――。
●4
回収した商品を店に返した一行は、お礼の食事券を手にパーラーへ向かった。煌希の掛け声でくじを引き、作った福袋を交換しあう。
「そんじゃ、くじ引くぜ。せーの……」
誠士郎へは、小太郎の北海道福袋。鮭に食われている木彫りの熊が衝撃的だが、家計に悩む誠士郎へは贅沢な海の幸も嬉しい。
「今年は福袋を買えずに悔しい思いをしたが、これは有難い」
小太郎はぐっと親指を立てる。木彫りの鹿もあったら欲しかったなぁ、と希沙が笑う。今度見つけたら差し上げますよ、とこそばゆそうな小太郎へは、煌希の出雲福袋が。
「箸二膳あるし、揃いで使ったらいいんじゃね?」
にまりとからかうような煌希の笑みに、二人は照れてうつむく。希沙の元へは穂純のおもちゃ福袋が届いた。これは大事にしてな、と例のグッズは穂純に返す。
「宝物やもんね。ビーズやチョコも、今度皆で作って遊ぼ!」
「ほんと? えへへ、買ってよかった!」
お年玉も報われただろう。アレクサンダーは麦の牧場グルメ福袋、麦はアレクサンダーのタタキセットを引き当てた。ウツボと睨みあい、麦はむむと声を漏らす。
「海のガイアパワーを感じる……! ありがとうー、土佐の人に感謝して食べるよっ!」
「那須高原の命の恵み、わしもしかと味わってみよう。八十八ヵ所巡りも宜しく頼む」
二人は互いのご当地愛を称えあった。瞳の元には、希沙のハンドケア福袋。キレイになれちゃうわね、と嬉しそうな瞳と希沙を見て、小太郎は少しほっとする。瞳なら使いこなしてくれそうだ。瞳のきらきら福袋は、煌希の元へ。
「へえ、婦人向けアクセかと思ってたけど中々イイなあ」
「男女兼用出来るデザインにしたのよ。それと、龍さんにも幸せお裾分け♪」
「やった。あ、おれも、皆に新潟のお米プチ福袋。あとコーヒー豆福袋、実さんとクロ助から」
キーホルダーと干支福袋、福フクロウの写真を貰い龍も満足げだ。最後に誠士郎の福袋がやってきて、穂純はわあと声を上げる。はなぐるみと、着物の生地が色鮮やかな羊を抱き、ぱあっと笑った。
「やっぱり福袋ってわくわくするよね。交換も楽しくて好き!」
ちょっとお高い銀座のスイーツは、一期一会の幸せの味。こうして、新春の一時は和やかに過ぎていった。
作者:日暮ひかり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年1月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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