相馬の誕生日~数多の星を眺めれば

    作者:カンナミユ

    ●ある日の話
    「冬の星って、綺麗だと思わないか?」
     資料に目を通しながら結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)はふと、そんな事を言い出した。
    「空が澄んでてさ。地面に寝転がって見るとすっごく綺麗なんだよ」
    「寝転がって、ですか?」
     その言葉に三国・マコト(正義のファイター・dn0160)は何となく教室の窓から外を見れば、茜に染まりはじめた空に星がぽつりと輝きだしている。
    「何て言ったらいいんだろうな。寝転がって見ると……こう、大きなボウルに星を散らしてさ、それをひっくり返して中から眺めるような……」
     エクスブレインでも上手く説明できない事はあるらしい。両手でひっくり返したボウルを描くその様子を目にマコトは言いたい事が分かったようだ。
    「プラネタリウムみたいな感じですか?」
    「お、そうそう! それ! 巨大なプラネタリウムみたいなんだよ」
     先輩って意外と、ロマンチックなんだなあ。
     楽しそうに言う相馬を目にそんな事を思ってしまうマコトだが、
    「……ロマンチックだなって思っただろ、今」
     あ、バレた。
      
    ●星を見よう
    「皆で星を見に行かないか?」
     放課後の教室に残る灼滅者達へと相馬は声をかけた。
    「冬は星が綺麗なんだよ。オリオン座に北斗七星、それに……」
     そう話す相馬だが、言葉は途中でぷつりと途切れてしまう。
    「それに?」
     聞かれた相馬は視線を泳がせ、他の星座を思い出そうとするが駄目だったようだ。取り出した携帯電話を操作することしばし。
    「冬の大三角! そう、冬の大三角も見れるんだよ」
     明るく話すその様子に灼滅者達は知識はなくとも星を見るのが好きという事は分かったようだ。
     都会の喧騒から離れ、眩しい輝きも届かない場所で星を見たいんだと話す相馬は床に置いていた大きな紙バッグから何かを取り出した。
     それはアンティーク風のカンテラ。電池を使わない、ろうそくを使うタイプのものだ。
    「面白いだろ? 星を見に行くのに懐中電灯じゃ雰囲気でないなって思ってさ」
     言いながら机に置くカンテラは多くはない。全員分を用意する事はできなかったので一人ひとつ、何人かで参加するなら二人でひとつになるだろう。
    「誰か親しい人と二人で眺めるのもいいし、皆で話しながら眺めるのもいいと思う。もちろん、一人でゆっくりと眺めるのもいいと思うんだ」
     灯りのともらぬカンテラを手に相馬は言い、瞳を灼滅者達へと向けて言葉を続けた。
    「星を見ながら楽しい一夜を過ごそうぜ。寒いけどきっといい思い出になるからさ」


    ■リプレイ


     雲ひとつなく、風もない夜。
     都会の喧騒も届かず、外灯もない道にぽつぽつと橙の灯りが揺らめき動く。
     それはカンテラがともすろうそくの灯り。
     集まった仲間達はカンテラを手に草原へと向かい、歩く。
     ――星を見る為に。
     

    「綺麗な夜ね」
     足元までしっかりと防寒対策してきたステラは歩きながら星を眺めていたが、振り返れば少し遅れて荷物持ち、もとい従弟のアンカーが沢山の荷物を担いで歩いてくる。
    「重いなら持つわよ?」
    「紳士として従姉とはいえレディに荷物を運ばせるなんてとんでもない」
     にこりと紳士の笑みを従姉であるステラに向けるアンカーだが、ESPが使える事を心から喜んでいた。怪力無双が使えなかったら今頃へばって動けなくなっていたに違いない。
    「そう。じゃあ頑張ってね」
     従弟の紳士な笑みにステラも笑みを返すと、自分の名前でもある星を見るこの機会に感謝した。
    「冬の日本からですと東洋で縁起が良いとされるカノープスが楽しみですね。今夜見えると良いのですが」
     それは地平に見える星ではあるが、見上げて星を眺めると輝く一等星――カペラが見える。
     煌くカペラを目にしたステラはそれが他の星と繋がる馭者座を思い出すと、アンカーが女の子から頼まれた荷物を受け取る声を耳にした。
    「ここなら丁度良さそうね」
     平原に着いた二人はガスコンロを置いても倒れない、星を見るのに良さそうな場所を見つけると荷物を降ろしたアンカーは色々と準備をはじめた。
     断熱材の上にレジャーシートを敷き、暖を取る為にガスランタン。そしてお茶や料理の為に用意してきたのはキャンプ用コンロ。ステラは用意した食材を手に、簡単な料理を作りはじめる。
    「おいしそうだね」
     料理作りに勤しむステラだが、出来上がった料理を目に相馬が声をかけてきた。
    「こちらよろしいでしょうか。拙い手料理ですがもしよければどうぞ」
     温かいお茶に美味しそうな料理。ステラはそれをアンカーや他の参加者達へと振舞った。
    「料理上手なんだね」
    「そんな事はありませんよ」
     料理に舌鼓を打つ相馬に謙遜するステラ。マコトも料理を食べていたが、アンカーがステラと二人で来ていたのを思い出した。
    「仲がいいんですね、先輩達は」
    「従弟の私にも優しい素敵なお姉様です」
     マコトの言葉にアンカーは妙に心がこもってないような言葉を返すと、相馬に星座を教えている従姉からの視線に感づき、
    「ええ、本当に素敵なお姉様ですよ。本当に。ええ」
     慌てて繰り返す。
     そんな様子のアンカーだが、ふとマコトが荷物の一つを気にしている事に気付く。
    「ああ、あれは花火だ。爆発させる際のアクセントにな」
    「……爆発?」
     爆発には花火だとアンカーはバケツと消火用の水をちゃんと用意していた。
     何を爆発させるのだろうとマコトは首を傾げるが、真意を読み取る事はできかった。
    「冬の花火もいいですね」
     とりあえずそんな用途なのかとマコトの言葉に相馬は思ったようだ。
    「花火も綺麗だけど、やっぱり星は綺麗だな。ステラさんが色々と教えてくれたから勉強になったよ」
    「お役に立てて光栄です」
     にこりと微笑み、ステラはアンカーと共に心ゆくまで星を眺めていたが、覚えのある声を耳にした。
     
    「今日はお誘いありがとうございます」
     空を眺めていた真理だが、イベントを企画した相馬とマコトが歩いているのが見えたので礼を言う為に声をかけた。
    「こちらこそ参加してくれてありがとう」
     にこりと相馬の言葉を受ける真理だが、マコトがノート手を持っている事に気が付いた。よく見ると星座が書いてあるようだが、ちょっと違うような。
    「それ、間違ってるよ?」
     おかしな箇所を指摘し、修正すると相馬はその様子を興味深く見ていた。
    「詳しいんだね、真理さんは」
     真理は宇宙が好きだ。なので天体観測も大好きだし、星座とかの知識はかなりある。それを知った相馬から頼まれ、真理はいくつか星座を教える事に。
    「冬の大三角は――」
     そう言いながら、すと指を空へと示せば指先にすうっと一筋の光。
     ――どうか先輩が無事に戻ってきますように。
     流れる星を目に、真理は一心に願う。
    「もしかして恋のお願いですか?」
     時期が時期だったので勘違いされてしまったようだ。
    「はい、大好きな人の事を祈ってました」
     マコトからの言葉に真理は応えると、
    「あら、今日は望遠鏡を持って来ていないのですね」
     聞き覚えのある声。ステラだ。
     天体観測が好きな真理だが、今日は望遠鏡を持ってきていない。
    「今日は眺めにじゃなくてお願いに来たからですよ」
     そう、真理は星を眺めるのではなく、星に願う為に参加したのだ。
     先輩が無事、武蔵坂に戻ってくるようにと。
    「大丈夫。きっと……いいえ、必ず願いは叶いますよ」
     その言葉に再び空を見上げれば星がまたひとつ流れていく。
     どうか、どうか無事に。
     流れる星を目に、真理は必死に願い続けた。
     
    「……少し重装備過ぎかな?」
     厚手のコートに手袋をはめた一樹だが、冬の寒さにはちょうどいいくらいだった。
     カンテラを手に仲間達と共に草原に到着すると良さそうな場所から星を眺める事にする。
    「……星は沢山見えるんだけど、冬の大三角形はどこなんだろう」
     空を見上げ、輝く星を眺める一樹だが、冬の大三角が見つからない。いったいどの星なのだろうか。
     冬の星座はいつもオリオン座くらいしか見つけらなかった一樹だが、
    「どれがどこだか、聞けば分かるかな?」
     もしかすると詳しい人がいるかもしれない。そう思って周囲に視線を巡らせば、イベントを企画した相馬が歩いている。
     聞くと相馬も星にあまり詳しくないそうだが、先ほどいくつか教えてもらったらしい。
    「ええと、確か……あれだ」
    「……あれかな?」
     オリオン座のベテルギウス、こいぬ座のプロキオン、そしておおいぬ座のシリウスが繋がる冬の大三角。
     相馬は指差し思い出すように一樹に星を示した。
     空気が乾燥し、水蒸気が少ない時季のせいか本当に空は澄んでおり星が綺麗に見える。望遠鏡を持ってくれば良かったかなあと思いながら一樹は輝く一等星を線で繋いで空に三角形を浮かび上がらせていた。
     静かな時間が流れる中、一樹の視界にすうっと一筋の光が流れ落ちる。
     うん、やっぱ戦ってばかりは疲れるし、こういう時も必要だな。心が綺麗になった気がする。
     プレーンとココアの小さいカップケーキを取り出し、魔法瓶から熱い紅茶を注いだ一樹は星と共にゆっくりした時間を過ごしていると、近くを霊犬が通り過ぎる。
     
    「星にも色々あるものだな」
     カンテラを手に出雲は呟き草原に腰掛けると、隣に座る天音は霊犬・焔と共に藍の瞳を空へ向けていた。
     宝石箱に詰められた宝石を空に散らしたように、空には沢山の星が散りばめられ、輝きを放っている。
    「出雲くん、お空いっぱいのお星さまですよ。お星さま、詳しいですか?」
     きらきらと輝く星空を目に天音は微笑を浮かべて尋ねれば言葉はなく、出雲は無言で首を振るだけで。
    「……そうですか」
     その様子に天音は少し困って笑い、
    「お茶、いれてきました。夜は寒いですし、よければどうぞ」
     そう言ってお茶を出せば出雲も茶請けとして用意したチョコケーキを出すと、二人は他愛のない話と共に空を眺めた。
     チョコケーキを口にすれば甘い味が広がり、お茶を口にすればそのぬくもりに体と心も温まる。
     着物姿の紫藤は珍しいな。
     ほわりと湯気が立ち上るお茶を手に出雲はそんな物思いに耽っていると、まるで帳が下りるかのようにゆっくりと眠気が降りてくる。
     天音に気付かれないよう欠伸をかみ殺した出雲はナノナノ・薄桜の視線を受ける中、お茶を飲み干すとそれをそっと置く。
    「お茶とチョコケーキ、合いますね」
     そんな様子に気付かぬ天音は沢山の星を眺めながらチョコケーキを口にしていたが、ふと視線を向ければいつの間にか出雲は眠っていた。
    「……出雲くん、寝ちゃいましたか?」
     声をかけるが反応はない。起こすのも悪いと思い薄桜に出雲を任せ、天音はそっとその場を離れる。
     
     厚めのコートに身を包み、準備を整えてきたマイケルはカンテラ片手に良い観測場所を探していた。
     周囲には視界を妨げるようなものはなく、人工の灯りもない。カンテラからこぼれる優しい灯りと夜目を頼りに歩いていると、今回のイベントを企画した相馬の姿が見えた。
    「お誕生日おめでとう。今日の星空が相馬さんにとっても素敵な思い出となりますように」
    「ありがとうマイケル。君にとっても今日が素敵な思い出になってくれると嬉しいよ」
     その言葉に夏に行われたパーティーのお礼も言うと、その時の事を相馬はよく覚えていたようだ。
    「あの時も来てくれてありがとう。アイツ、すごく喜んでたよ」
     そう言って視線を向ければ、その先には相馬が言うアイツ――マコトがいた。
    「何の星を眺めてるの?」
    「あ、マイケル」
     声をかけると、じいっと星を眺めるマコトはクラスメイトの姿を目に嬉しそうな顔になる。
    「冬の大三角を探してたんだけど、見つからなくって。北極星なら分かるかなって」
    「北極星? ……あれじゃないかな?」
     北に輝くこぐま座。ひときわ明るく輝く北極星を指差し示せばマコトはじーっと見つめ、感嘆。
    「綺麗だね」
     呟く言葉に頷くマコトとしばし北極星を眺めていたマイケルだが、持参した携帯クッションに座り天体観測を開始した。
     あまり詳しくはないが、空に散らばる星の輝きは幻想的でもあり神秘的だ。
     あの日姿を見せてくれた流れ星。今夜はどこを飛んでいるのかな。
     水筒を取り出し、熱い紅茶の温もりを感じながらマイケルはあの日の星へと思いを馳せ、探してみるのだった。
     
    「あー……冬は過ごしやすいなー」
     空を眺めながら快適そうに言う彩蝶だが、シアンはちょっぴり寒そうにブランケットを引き寄せる。
     広げたレジャーシートの真ん中にカンテラを置き、お茶にお菓子、防寒対策と準備万端だが、やはり冬の草原は寒い。
     そんなシアンの目に付いたのは彩蝶の尻尾。触り心地が良さそうだし、とっても温かそう。
    「彩蝶ちゃん、尻尾で暖とっていーい?」
    「んぁ? シアン、尻尾触りたいの? いいよー」
     許可をもらったシアンはさっそく彩蝶の尻尾に。
    「わ、ぬくぬく♪」
     思った以上に温かい。ぬくもりに包まれたシアンはなんだか幸せ気分。くすぐったいのか彩蝶の尻尾がときおり揺れるのも可愛い。
    「星きれーい!」
     そんな中で眺める星は格別だ。
    「オリオン座があれだから……あっちが双子座かしら?」
     ぬくぬくしながらシアンは空を仰いで星を探すと、雲ひとつない空には数え切れないほどの星が瞬いている。
    「星が綺麗だねー。北斗七星ぐらいしか知らないけど」
     あまり詳しくない彩蝶だが、それだけはすぐに見つける事ができた。繋げば柄杓となる7つの星の輝きを指差すと、シアンもそれを見つける。
    「あ、北斗七星! あれだけはわかるのよねー」
     輝く星を目に言うシアンだが、足音に視線を向けると相馬の姿。
    「あ、相馬くん、ちょっといいー? マコトくんもよかったらおいでーお菓子と飲み物あるわよ☆」
     その声に歩いていた相馬は一緒に呼ばれたマコトと二人でシートの上に。
    「相馬お誘いありがとーと、16歳の誕生日おめでとー! これからも一緒に頑張ろうね!」
    「相馬くん、16歳のお誕生日おめでと! エクスブレインのお仕事、お疲れ様。これからもよろしくね☆」
     クラスメイトからの言葉に相馬は少し照れくさそうな笑みを浮かべた。
    「彩蝶さん、シアンさん、ありがとう。……こちらこそ、これからも宜しく」
     二人からの祝いの言葉は嬉しかったようだ。彩蝶は礼を返す相馬に手作りクッキーとケーキを取り出し差し出した。
    「とりあえずクッキーとかケーキとか作ったから、よかったら食べてほしいな」
    「ありがとう、彩蝶さん」
     嬉しそうに相馬は受け取り、ぱくりとクッキーを一口。
    「これ手作りなの? すごくおいしいよ」
     ケーキも口にすればやはりおいしいと反応が返ってくる。作った甲斐があるというものだ。
    「ねえ、せっかくだからみんなでパーティーでもしない?」
     輝く星の元、シアンの提案によりお菓子や料理を持ち寄ってプチパーティーの開催となった。
     

     皆がささやかなパーティーを楽しんでいる中、相馬は紅茶を手に仲間達を眺めていた。
     皆を誘ってよかった。
     楽しむ様子を目にそう思う相馬だが、ふと、霊犬を連れた天音がやって来た。
    「相馬くん、お誕生日おめでとうです」
     眠ってしまった出雲をその場に残し、天音が相馬に手渡したのは星と猫のモチーフの眼鏡ケース。
    「ありがとう、すごく嬉しいよ」
     嬉しそうに受け取る相馬を目に微笑を浮かべる天音だが、足音に気付いて振り向くと眠っていたはずの出雲がこちらへ向かってきている。
    「出雲くん、起きてましたか?」
    「すまない紫藤、放ってしまって」
     侘びの言葉と共に出雲は辿り着くと天音は気にしていないようだった。
    「出雲くんも一緒にお祝いしましょう」
     二人で食べたチョコケーキとは別に、天音はケーキを相馬へ渡すと、出雲も用意していた小箱を手渡した。
    「開けていいかな?」
     頷く出雲を確認して小箱を開ければ、栞が一枚。それには青灰色の小粒があしらわれており、表面の奥から青や黄緑などの独特な輝きとても幻想的だ。
    「曹灰長石の栞だ。天の加護がお前を助けんことを」
     曹灰長石。ラブラドル長石とも言うその石が持つ輝きを目に、相馬は珍しそうにそれを手に眺める。
     エクスブレインとしての仕事だけでなく普段遣いにもと用意したそれは、相馬にとって嬉しいプレゼントだったようだ。
    「ありがとう、出雲。君と天音さんにも天の加護がありますように」
     プレゼントを手に相馬が言葉を返すと、きらりと星が流れ落ちる。
    「誕生日おめでとう。よい年になるように」
     出雲の言葉に相馬は集まった仲間達を見渡すと、
    「……皆にとっても、いい年になりますように」
     ぽつりと口にした。
     雲ひとつない空に輝く星と流れる星。
     集まった仲間達はそれぞれの思いと共に空を仰ぎ、夜を過ごすのだった。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月31日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
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