美少女使い魔のご主人様

    作者:小茄

    「所詮は中学校程度のセキュリティ、俺の力を持ってすれば潜入は容易かったな」
     下校時刻もとっくに過ぎた、夜の学校。一人の生徒がぶつぶつ呟きつつ、急ぎ足で校内を走る。
     彼の名は西野一(にしの・はじめ)。この公立中学校に通う中学二年生の男子である。
     その彼が夜の校舎に忍び込んだのは、何も宿題を忘れたとか、好きな子のリコーダーを舐める為とか言う理由ではない。
    「ふふふ、ついにこの時が来た……年が明ける瞬間、旧校舎3階の合わせ鏡の前に立つと、闇よりの使者と邂逅を果たすことが出来る! 闇の王の血族たる我が呼びかけに応じ、姿を現せ!」
     彼はそう言った類いのオカルトに、ドはまりしていたのである。
     とは言え、思春期の少年少女には珍しい事ではなく、多くの人間はそうした非日常の出来事が、自分とは無縁である事を知りつつ大人になってゆくものである。
     ――パッ!
    「うおっ?!」
     だが、あろう事か呼びかけに応えて合わせ鏡は眩く輝き、一は思わず目を瞑る。
    「……何?」
    「な、なに!?」
    「いや、何じゃなくて貴方が呼び出したんでしょ?」
     恐る恐る目を開いた一の目の前に居たのは、桃髪ツーテールの美少女。それも、裸である。
    「お、おま……闇の使者か?」
    「そうよ?」
    「マ、マジかよ」
    「アンタさ、宅配ピザ頼んで自宅にピザ頼んだら驚くタイプ?」
    「うっ、いや、そんな事は。……解った、今この時よりお前は我が僕だ!」
    「OK」
    「……と、取りあえずこれを着て……いや着ろ。そしてここを脱出だ」
    「はいはい。ご随意に」
    (「思ってたより従順じゃないけど、まさかこんな女が出てくるとは……いや、慌てるな、俺は特別な存在……高貴なる闇の血を継ぎし者なのだから……」)
     一は自分の着ていた上着を彼女に押しつけてその裸身から目をそらすと、往路以上の慎重さで帰路についたのだった。
     
    「とある淫魔が、一般人中学生を籠絡しようと策謀を巡らせていますわ。一般人中学生は強力なダークネスになる素質を秘めており、このまま行くと淫魔は強力な手駒を得ることになりますわ」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の説明によると、この中学生男子は既に淫魔の策に乗り、籠絡されかけていると言う。一刻も早い対応が必要となる。
    「この事件を解決するには、淫魔の灼滅は不可欠ですけれど、場合によってはダークネスと化した少年も灼滅せねばならない……と言うケースにも成りかねませんわ。アプローチとしては……」
     一つには、一切の策を弄さない正攻法。つまり正面から問答無用で淫魔を灼滅すると言う手。
     この場合、淫魔が苦しむ姿や自分に助けを求めるのを目の当たりにした少年が、闇に堕ちる可能性はかなり高いと言って良いだろう。
     二つ目は、少年を引き離し、彼の目の届かない場所で淫魔を灼滅する手。
     しかしながらこの手も、好意を寄せ精神的に依存し始めていた少女が突然消えてしまったショックによって、少年がダークネス化する可能性は否定出来ない。例えば彼女が去る合理的な理由をでっちあげたり、彼女が居なくなる事を受け入れられる状況(例えばより魅力的な女性が現れる等)を作らねばならないだろう。
     三つ目は、事前に彼に接触し、説得によって全てを納得させた後、淫魔を灼滅すると言う手。
     難しくはあるが、説得さえ成功すれば、彼が闇堕ちする危険は無くなり、戦いに集中出来る。
    「どの様な手段をとるかは、皆さんにお任せ致しますわ」
    「淫魔と一少年は、殆どの時間を一緒に過ごしていますわ。僅かに離れるのは、学校で一が授業を受けている間くらいですわね」
     淫魔は彼の中学の制服をゲットし、潜入しては居るが、現時点では正式に生徒になってはいない。
     それ故、授業中などは中庭やトイレ、屋上と言った場所で教師の目を避けつつ、可能ならば少年を遠くから見守っていると言う。
     2人が離れている瞬間に接触を試みるのであれば、このタイミングが唯一無二だろう。特に体育の授業中などは、一般生徒や教師の目を盗んで接触も可能である為、少年をじっくり説得するには良いかも知れない。
    「淫魔は策を弄する事に長けている分、武闘派タイプではありませんわ。皆さんが力を合わせて油断無く戦えば、十分に勝てる相手と言えるでしょう。色仕掛けや命乞い等に騙されませんよう……と言うのは釈迦に説法ですわね」
     一方、一少年がもしダークネスとなれば、イフリートとして破壊と殺戮の力を得ることとなる。
     好意を寄せる者の死による悲しみと怒りで目覚めた彼は、淫魔が惚れ込むだけあってかなりの難敵となるに違いない。
    「勝てない敵ではないでしょうけれど、淫魔との連戦の形になりますし、不利には違いありませんわね」
     やはり戦いを避けることが出来ればそれがベターだろう。
     
    「今回の作戦に関しては、ダークネス一体の灼滅をもって一先ず成功条件を満たしたものと考えましょう。彼の学校の制服は用意しておきましたので、潜入時にお使い下さい」
     淫魔か、闇堕ちした少年のいずれかを灼滅すれば良いと言う事だが、大成功を目指すのなら少年の闇堕ちを防いで淫魔を灼滅したい所だ。
    「では、気を付けて行ってらっしゃいませ」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)
    黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)
    黒木・唄音(不変のココロ・d16136)
    御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)
    小瀬羽・洋子(清貧清楚・d28603)
    桜海老・まる(地獄の果てまで桜海老・d30674)
    アルフレッド・アレアシオン(クリスタルヒートハート・d30905)
    甘莉・結乃(異能の系譜・d31847)

    ■リプレイ


    「では授業に行ってくる」
    「転んで怪我しないでね、ご主人様」
    「そんなドジするかっ! お前こそ、姿を見られるなよ?」
    「人間なんかに遅れは取らないって」
    「う、うむ」
     何の変哲も無い公立中学校の屋上で、一組の男女が会話を交わす。
     片や、この学校に在籍する男子学生の西野一。ぼっち気味でオカルトかぶれである事を除けば、ごく普通の中学生である。
     片や、魔界より召喚された使い魔、るか。一の平凡な日常を根底から覆した張本人である。
    (「ご主人様……俺がご主人様か」)
     人は信じたいものを信じる。まして夢見がちなこの年頃の少年にとって、自分だけに従う美少女使い魔との生活など、否定しろと言う方が無理だ。
    (「多少、主に対して忠実とは言えない部分もあるが……そこはじっくり調教していけばいい。調教……う、うむ……主たるもの、しもべを躾ける事は権利……いや、義務だ」)
     屋上から教室に急ぎつつ、緩みそうになる頬を両手でパチンと叩く一。次の授業は体育なので、早めに着替えを済ませねばならない。


    「大丈夫、誰も居ません」
     旅人の外套に身を包んだ御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)が廊下を先行し、他の2人へ合図する。
     今回の作戦に従事する8名の灼滅者のうち、彼ら3名は一足先に校舎内へと潜入していた。
    「ここから屋上に出られる様ですわ。立ち入り禁止になっているので、誰かが来ることもないでしょう」
     校内の見取り図を手に、指差し確認するのは小瀬羽・洋子(清貧清楚・d28603)。
    「おっと……あれだな、居たぜ」
     と、屋上に続く扉の窓越しに、たなびく桃色の髪を見て取るアルフレッド・アレアシオン(クリスタルヒートハート・d30905)。
    「では、説得班に連絡を……」
     洋子は携帯を取り出すと、校庭で一との接触を図っているであろう他の5名……説得班をコールした。

    「鉄の匂いが付くから嫌なんだよなぁこれ」
    「しかも冬は冷たいしなぁ……絶対もっと軽くて良い奴あるよな、今の時代」
     文句を言いつつバレーコートの支柱を運び出す男子らに続き、一もボールの入った籠を体育倉庫から外に運び出そうとした――丁度その時である。
    「おう、ちょっとツラ貸せや」
    「え? な、何?」
    「良いから」
     物陰から近づいて来て、一の両腕をがしりと掴んだのは桜海老・まる(地獄の果てまで桜海老・d30674)と甘莉・結乃(異能の系譜・d31847)の2人。
     付近に居る生徒も教師も、一が拉致された事に気付く事はなかった。
    「……い、今は授業中なんだが……君たちは? 制服を見る限り、同学年みたいだけど」
     校舎裏に連行される間に多少は落ち着いたのか、一は見慣れない生徒達を見回して問い掛ける。
    「闇の召喚を行ったというのは君かな?」
     ――むにゅっ。
    「ほわっ!? な、なぜそれを……」
     一の背後から身体を密着させつつ問うのはベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)。
    「アンタが一? 思ったよりいい面構えだね。アタシは結乃。アンタを、助けに来たんだ」
    「助けに? 一体何から」
     一を連行した結乃も、正面に回って彼の顔を見据えつつ名乗る。無論、一には寝耳に水の事態だ。
    「まずあたしらは……見ての通りの者だ」
    「っ?!」
     まるは、一瞬狼の姿に戻ってから、再び人の姿に変わってみせる。息を呑み固まる一。
    「い、犬に!? 君たちも、俺と同じ様な……特殊な力の持ち主なのか!?」
    「お、おう……いや犬じゃねぇ、オオカミだ!」
    「闇の王よ。このままでは、貴方は召還した使い魔と共に、今後会うであろう美少女や多くの人の命や夢を奪うことになるでしょう。そのようなことをお望みですか?」
    「げほ、げほっ……な、っ……命を奪う? ど、どう言うことだ」
     まるに襟首を締め上げられてむせつつ、静かに問い掛ける黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)の言葉に目を見開く。
    「ボク達は彼女を倒す為に来た。キミは彼女に騙されてる」
    「彼女……るかの事か? 倒す? 待て! 何か勘違いしてるぞ。私は闇の王の血属……それにるかは俺が召喚した。俺がちゃんとコントロールしている!」
     黒木・唄音(不変のココロ・d16136)は普段通り、砂糖の塊の様に甘いスイーツを口に運びつつ、しかしきっぱりと言い切る。一方一は、目の前に居るのが特別な人間(もしくは人間ではない何か)である事は納得しつつも、るかの事を守ろうと弁解を始める。
    「るかは儀式で召喚した僕? 本当にそう? 代償は?」
    「そ、そうだ。代償? それは……」
    「きっとるかが求めているのはアンタの大切なもの。未来とか、運命とか」
     結乃は、視線を泳がせる一の代わりにきっぱりと事実を告げる。
    「悪魔はね、信じて信じて信じさせた贄を最後に裏切るんやで。闇の使いなら当たり前やろ? ボクらはそんな悲劇に抗う者」
    「馬鹿な! 俺は闇の王の……騙されるわけが……るかが俺を騙すなんて、有り得ない!」
     更に続くベルタの言葉に、一は激しくかぶりを振る。
    「もー! ぐちぐちぐちぐち、もーー!」
     ――ばきっ。
     と、ここで痺れを切らしたようにまるが、一の頬を殴りつける。
    「ぐあっ!? な、何をする! 俺は闇の……」
    「んな都合の良い話あるわけねーだろ! 騙されてるんだよ!」
    「だ、黙れっ! 何者かも知れないお前達の口車になんか……乗るかっ!」
     痛む頬を抑えつつ、まるの言葉に声を裏返しながら反論する一。るかを失う恐怖と同時に、自分がただの中学生に戻ってしまうと言う恐怖が彼を焦らせるのだろう。
    「貴方の真の力はまだ目覚めていません。使い魔を名乗る彼女は、それを利用しようとしているのです。だからこそ、現時点では何の変哲も無いただの中学生である貴方に取り入った」
    「俺の……真の力……?」
     智慧は、狼狽する一に対し、より真実に迫る内容を告げてゆく。すなわち灼滅者とダークネスについてである。
    「悪い事は言わない、すぐに彼女から手を引いて」
    「……し、しかし」
     灼滅者の説明は論理的に破綻しておらず、それらが真実だとすれば全てのピースはきっちりとはまることになる。一はそれを理解しつつも、まだ唄音の言葉に首を縦に振る事が出来ない。
    「本人に直接聞いてもいいで?」
    「……そうだな、そうしよう」
     相変わらず一の腕を胸に押しつけたままのベルタが言うと、彼もこくりと頷く。
    「よし、一。アタシを、アタシの仲間を信じてくれないか?」
    「両方の言い分を聞いて……後は俺自身で確かめる」
     目を見据えて言う結乃の言葉に、一もまた腹を決めた様子で頷いた。

    「……えぇ、承知致しましたわ。説得班は彼を連れてこちらに向かうそうですわ」
     説得班からの連絡を受け、洋子が2人へ報せる。
    「後は蓋を開けてみないと、だね」
    「こっちも今のところ、動きは無しだ」
     頷く靱。感付かれないように様子を窺っていたアルフレッドも、片手を挙げて応える。
     ここまでは作戦通り。後は淫魔と一次第である。


     ――ガチャッ。
    「……え?」
     扉を開き、一を伴った灼滅者達が屋上に足を踏み入れるのと、るかが様子を見るために校庭へ向かおうとしたのは、ほぼ同時だった。
    「ご主人様……その人達は?」
    「るか、お前は何者なんだ?」
    「な、何者って……」
     るかは一の問い掛けに対し、素性の知れない灼滅者達の前で自らの正体を明かすわけにもいかず、返答に窮する。
    「お前は俺が召喚した使い魔なのか? それとも……俺の力を利用しようとしている別の何かなのか?」
    「……っ!」
     一の言葉から、その背後に居る8人が何者なのかを察し、息を呑むるか。
    「私はご主人様の使い魔に決まってるじゃない。元日の夜、ご主人様が踊り場で召喚してくれたからこの地上に来られたのよ? って言うかぁ……そいつらは……私達を殺しに来た灼滅者よ! 私達の仲を裂いて別々に殺すつもりよ!」
     となれば、うわべを取り繕う必要は無い。全力で一を言いくるめ、共に灼滅者に対するしかないと言う判断だ。
    「殺すんやったらとっくに殺してるやろ。なぁ?」
     ――ぐにゅ。
    「そ、そうだな……うん」
     相変わらず一に密着しつつ反論するベルタ。色仕掛けに加え、一がるかの元に行かないようにする一挙両得の手段である。
    「そ、それは……」
    「淫魔のるかさんでしたか、いたいけな中学生を誑かすなどいけない事ですのよ! 中学生とは揺るぎの年代。ちょっとした事でその人生が大きく変わってしまいますの! 女の子にべたべたされたら、それだけでこう、大変な事になってしまいますわ!」
    「今それをしてるのはアンタ達の方でしょ!?」
     宿敵を前に言い放つ洋子だが、るかもすかさずツッコミ……もとい、反論する。
    「大体、契約って僕になっても代価を求められないなんて話がうますぎる!」
    「だ、代価はあるわ! そ、それは……その……そうよ、ご主人様が私をお嫁さんにしてくれる事!」
    「な、なんだってーっ!?」
    「今までは……恥ずかしくて言えなかったけど……そうなの! それが私を使役する代価よ、ご主人様!」
     靱の指摘に対し、るかがとっさに言い放ったのはベッタベタな代価。しかし一には効果的だったようで、忙しなく視線を泳がせる。
    「君が本当に欲しい物って魔族の僕? 普通に笑いあえる人間の仲間や恋人じゃないの? 君さえその気になれば、それは手に入るものなんだよ!」
    「そ、それは……そうさ……その気になれば、幾らでも……だが、俺は……」
    「違うわ! ご主人様には私しか居ない! 闇の王の血族が、その辺の中学生と対等に付き合うわけないでしょ! さぁ、早くこっちに! そいつらの戯言なんかに耳を貸しちゃダメ!」
    「……俺は……闇の……」
     更なる靱の問い掛けに対し、一とるかは同時に口を開く。
    「どうしたの! 私と一緒に居れば、気に入らない相手なんて幾らでも消せるし、勉強や宿題なんて一切しなくても良くなるのよ? 学校も来なくたって構わない! さぁ!」
    「……」
    「無駄だよ。彼は他人を傷つけられる人じゃない。少し話して見て解ったよ。るかちゃんは何日も一緒に居たのに解らなかったの?」
    「ぐっ……」
     手を伸ばして一を招くるかだが、彼は俯いたまま動こうとしない。唄音は相変わらず笑顔でるかへと告げる。
    「まぁ見ておきな。あんな仮初の女じゃなくても惚れさせる様な、真のかっこよさを教えてやる」
     悔しげに歯ぎしりするるかを見据えつつ、一の肩をぽんと叩くまる。
    「胸部以外は知り合いに似てんな……だが、ダークネスはダークネス。その口から出任せも、すぐに言えなくしてやるぜ」
     同様にるかへ言い放つと、足を肩幅に開き臨戦態勢を整えるアルフレッド。
     灼滅者達は、狼狽も明らかな淫魔に対し一斉に攻撃を開始する。


    「闇から生まれた者は闇に帰すのが定め……これで仕舞いや」
     ――バッ!
    「狂鳴!」
     ベルタの手から伸びる影が、触手の様にるかの足首に絡みついて動きを制限する。とほぼ同時、フードを被りスレイヤーカードを切る唄音。愛刀――氷華藍心を手に、猛然と間合いを詰める。
    「邪魔をするなっ! その子は……一は私の物よ!」
     制服の袖口から隠し持っていたナイフを取り出し、迎撃の構えを取るるか。
     ――ギィンッ!
    「ぐっ、あぁぁーっ!」
     妖刀の刀身はナイフの刃と交錯して火花を散らし、本来の狙いである心臓から肩口へとずれて突き刺さる。が、その瞬間に流し込まれる膨大な魔力は、るかの身体に甚大なダメージを与える。
    「一を君の操り人形になんか変えさせないよ」
    「お覚悟を」
    「く……一! 助けて! このままじゃ……!」
     立ち直る暇を与えず、クルセイドソードを振り下ろすのは靱。これに呼応し、死角を突くように回り込む智慧は妖の槍に捻りを加えて繰り出す。形勢が圧倒的に不利であると感じたるかは、往生際悪く一へ助けを求めようとする。
     ――ザシュッ!
    「っ……」
     刃に斬り付けられ、槍の穂先に腹部を抉られる使い魔の姿に、思わず目を瞑る一。
    「力に目覚めるのよ! 一ならコイツらを皆殺しに出来る! その力がある!」
    「お、俺は……人を殺すつもりはない」
     傷を負いつつ訴えるるかに対し、一は俯いたまま絞り出す様にそう応える。
    「退屈でやりたくも無い事をやらされるだけの、つまらない人生でいいわけ!?」
    「一がどんな人生を歩むかは一が決める事だ。他人が……まして淫魔が決める事じゃねー」
    「そう言う事。アンタのやり口は気に入らない。一は必ず取り戻すよ」
     尚も一を誘惑しようとするるかに対し、獣の力を具現化した鋭い爪を振るうまる。結乃もまた、これ以上一の心を揺さぶらせぬ様、渾身の力を槍のひと突きに篭める。
    「ぐうっ、う……クソ……その駒さえ手にすれば、私は……」
    「さあ! いけない淫魔さんを退治しますわよ!」
    「所詮お前はダークネスってこった。消えな!」
     がくりと膝から崩れ落ちたるかに、引導を渡すべく迫る洋子とアルフレッド。
     コンクリートを斬り付け火花を上げながら高温化したエアシューズが、淫魔の側頭部を直撃する――と同時に、鋭利な水晶のメスと化したアルフレッドの手が、その心臓を貫く。
    「が、はっ……!」
    「……う、うわぁぁぁーっ!」
     淫魔が絶命すると同時、一は慟哭と共にその場にうずくまった。


    「仮初の 夢を見るかな 過ぎ去りし」
     智慧は夕焼けに染まる校舎の屋上を見上げ、一句を捧げる。
     淫魔を灼滅し、一が闇堕ちしなかった事を見届けた一行は、いまだ呆然自失の彼を残し校舎を後にしていた。
    「一、大丈夫かな?」
     仕事終わりのスイーツを補給しつつ、少し心配そうに言う唄音。
    「せやね……記憶を完全に消せるわけやないし、好きだった人を失った様な喪失感みたいのは残ってるやろね」
     去り際、一の首筋に噛みついてその衝撃的な記憶を薄れさせたベルタだが、その能力も万能ではない。
    「友達も恋人も、彼がその気になって踏み出せば、いくらでも出来ると思うよ」
     前向きに頑張ってくれる様にと祈りつつ、明るい口調で言う靱。
    「多感な時代ですもの、大事に過ごして頂きたいものですわ」
     と、洋子も先ほどに引き続き、訳知り顔で頷く。何にせよ、一が女の子にベタベタされて大変な事になる機会は……暫くは訪れないはずである。
    「まー、格好良さの手本は見せたしな」
     と、何やら成し遂げた表情で胸を張りつつ言うまる。
    「あぁ。後は一次第だな」
     そう言いつつ頷くアルフレッドもまた、充足感に満ちた表情である。
    「大丈夫。一は自分の見たい現実よりも、アタシらが示した残酷な現実の方を直視した。そう言う勇気を持ってる奴は必ず立ち直るさ」
     結乃は自らの誠意に対し応えた一に対し、信頼を持ってそう断言する。

     かくして、淫魔に魅了され掛けた少年を、色気と誠意によって目覚めさせた灼滅者達は、無事黒幕である淫魔を灼滅し、凱旋の途に就いたのであった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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