穴水牡蠣怪人、現る!

    作者:夕狩こあら

     荒波逞しい日本海も、能登半島の内側に位置する穴水湾となれば波は穏やかで、まるで湖のよう。
    「今年も牡蠣まつりの季節がやって来た……冬の陣、到来!」
     静かに揺れる養殖場の牡蠣、その傍にプカプカと浮かびながら、牡蠣のような何かがカッと目を開いた。穴水牡蠣怪人である。
    「今年も牡蠣を崇める連中が集まるだろうが、いまいちパンチが足りん」
     毎年多くの来場者が広場を埋め、熱気と共に牡蠣に舌鼓を打つ催事であるが、これを湾から自主警備していた牡蠣怪人は、今年は何か思いついたらしい。
    「もっと人々が崇めやすいもの、そう、モニュメントが要る!」
     今度はグワッと、恐ろしい形相で開眼した牡蠣怪人、
    「ふむ! 巨大『ボラ待ち櫓』を作れば良いのだ! そこから牡蠣汁を洗礼としてかける!」
     名案とばかり身を起こせば、凪の如き養殖場も大きく波立つ。
     牡蠣怪人はそう言うと、波紋を作りながら海面を歩き、広場の方向へと足を進めた。
     
    「牡蠣まつりの会場となる広場に、牡蠣怪人が巨大な櫓を立てようとしています」
    「なんて迷惑な……」
     集まった灼滅者達が次々に眉根を寄せる様を見ながら、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が頷いた。
    「牡蠣怪人は、催事が開かれる日までに巨大な『ボラ待ち櫓』を完成させ、来場者にこれを崇拝するよう強制し、牡蠣信仰を集めて世界を征服するつもりです」
    「その『ボラ待ち櫓』っていうのは?」
    「この地域に古くから伝わるボラ漁用の櫓で、通常の高さは3~5メートル程ですが、牡蠣怪人はこの倍の高さの櫓を建てようと材料を運んで来ます」
     厄介な事に、牡蠣怪人は元大工。腕を奮って、猛烈なスピードで櫓を建てるだろう。通常のサイズなら2ターンで作り上げてしまう。
    「皆さんには牡蠣怪人の灼滅と、櫓の破壊をお願いしたいのですが、場合によっては櫓での戦闘も覚悟して下さい」
     足場は悪いが、それを聞いて怯む者は居ない。
     姫子は更に続けた。
    「敵はご当地ヒーローに相当する攻撃と、資材として運んだ丸太を武器として使用し、繰り出される技は無敵斬艦刀に相当します」
     敵は元大工、長い木材を不安定な足場で振るうに何の問題もない。櫓を登ってきた者、破壊しようと近付く者に容赦なく攻撃を仕掛けてくるだろう。敵の得意とする櫓での戦いが不利と思われる場合は、地上戦に持ち込むのも手だが……。
    「彼の弱点は、嘗ての大工気質が色濃く残っている所で、『親方!』と呼ばれるとつい振り向いてしまったり、用件を伺いに来てしまう癖があります」
     話しかける言葉によっては、櫓の建設に執心する敵を地上に誘き寄せたり、或いは攻撃対象を操作して、戦闘を有利に運べるかもしれない。
    「土木作業員の恰好や、差し入れに来た女性の恰好などは?」
    「接触時に相手を油断させる要素となり得ます」
     姫子の言葉を聞いた灼滅者達は、戦闘の主導権を握るべく話し合いを始めた。
    「牡蠣まつりは、毎年多くの来場者を楽しませる食のイベントです。楽しみにしている方の為にも、牡蠣怪人の灼滅をお願いします」
     そう言って姫子が頭を下げると、灼滅者達は颯爽と席を立った。


    参加者
    媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756)
    齋藤・灯花(麒麟児・d16152)
    ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)
    風見・真人(狩人・d21550)
    ベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)
    長宗我部・まつり(スーパームーン・d30290)

    ■リプレイ


     数多の岬と入江から成る穴水湾。四方に陸を囲む此処は、入り組んだ海岸線を描きつつ波は静かだが、やはり冬の日本海、湖の如き水面に吹く風は冷たく、湾に接する件の広場にも凍える潮風を運んでいた。
    「残すは櫓の床か」
     数日後に催事を控えながら閑散とした広場、その冷たい芝生を丸太で穿ち、櫓の土台を組み立てて汗を拭ったのは、穴水牡蠣怪人。その無骨で逞しい態に目を細めながら、足場板を脇に抱えて櫓を登った時、地表から声が掛かった。
    「親方さーん、とても素敵な櫓ですね!」
    「む?」
     呼ばれて振り返った牡蠣怪人に陽気な笑顔を注いだのは、時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756)。鮮やかな赤髪を風に晒し、作業服姿で芝生を踏み締めてやって来る。
    「是非アタシ達にも建てるの手伝わせてくれませんか?」
    「弟子入りか……」
     尊敬の眼差しを注がれて満更でもない牡蠣怪人は、櫓を登る足を止めて近付く人影を俯瞰した。次に目に入ったのは、気合充分に頭のタオルを締めた風見・真人(狩人・d21550)が礼儀正しく挨拶をする姿。
    「新人の風見っす! 親方が櫓を建てると聞いて、いてもたってもいられずやってきました!」
    「弟子は取らん主義だが」
     渋い顔でそうは言うもの、親方と慕われて嬉しくない筈がない。その主義は元気良く声を張った真人を前に揺らぎ、
    「牡蠣が滅茶苦茶大好きです!」
    「良し! 採用!」
     他愛なく折れた。
     彼の隣で同じく深々と頭を下げていた長宗我部・まつり(スーパームーン・d30290)は、金髪を隠して被ったヘルメットの影でにんまりと微笑む。
    (「毎度、ご当地怪人は芸人じみた事しちょるの……」)
     接触は良好。警戒心を持たせる事なく敵に近付いた彼等は、櫓に感動の視線を集める一方で、密かに構造と強度を推し測った。
     牡蠣怪人を懐柔する決め手となったのは、ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)のこの科白。
    「牡蠣祭りを成功に導くお手伝いをさせて頂くのです」
    「全員、弟子と認める!」
     彼等が牡蠣信仰と世界征服の実現に従う者と思い込んだ牡蠣怪人は、快く拳を突き出し、眼前に親指を押し出して4人の侵入を許した。
     灼滅者達は更に敵の油断を誘う。
    「こんにちは。精が出ますね、親方さん」
    「? あれは……」
     愛嬌のある甘い声に惹かれて視線を移せば、華奢な細腕を軽やかに振って近付く媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)と、家庭的な割烹着姿が愛らしい齋藤・灯花(麒麟児・d16152)、そして、
    「親方~! 作業お疲れ様です。差入れにきました~」
     風呂敷に包んだ重箱を淑やかに抱えて歩く久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)の姿。その傍らより近所の子供を装うベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)が駆け寄れば、
    「おお、地元婦人会の皆さんか」
     大いに牡蠣怪人の思い込みを補完する。
    「お疲れでしょう、甘いものは疲れが取れますよ。召し上がれ」
    「これは有難い」
     厳格な祖父に育てられた背景あって、愛想笑いもお手の物。魔法瓶から湯気立つ御汁粉を注いで手渡すまほろに気を良くした牡蠣怪人は、続く灯花の温かい茶を啜ると、撫子の白い手より伸びたタオルに汗を押し当てて一服を堪能した。
    「おう、新入り達も力をつけな!」
    「はい、まだまだありますよ」
     ホッと一息吐いた牡蠣怪人は、まだ温もりのある水筒の蓋を灯花に返しながら、先程の弟子達を激励すべく見渡した。その時である。
    「親方! ヤグラのここって、どうして崩れないのー?」
    「おいいジャリい、危ないぞおおお!!」
     無邪気を演じる小さな悪魔が、今しがた建てた櫓に登って揺さぶっており、
    「どぅおお、新入りいい!! そこ違うううう!」
    「やっべ、間違えちゃった!」
     新弟子の真人が晴れやかな笑顔で大事な支柱を鋸で切り落としていた。
    「さくっとブチ壊したるっ」
     止めを刺したはまつり。支えを失って大きく揺れ出す丸太に踵を振り下ろすと、牡蠣怪人渾身の櫓はグラリと傾いて倒壊した。


     土木作業員に扮する者が摩擦を起こさず敵に接触し、差し入れを装う者が油断を作った隙に櫓を破壊する。序盤の作戦は大成功だ。
    「牡蠣信仰の礎が……!」
     芝生を強かに叩いて崩れた櫓を前に、ワナワナと震える牡蠣怪人。その背ではまほろが静かに殺界形成を施し、轟音に紛れて布陣する灼滅者達。
    「毎年イベントを見守ってくれるのは良いですが、強要しちゃったらダメですよね」
     ゴロリと転がった丸太を見届け、撫子が着物の袖よりスレイヤーカードを取り出す。
    『殺戮・兵装(ゲート・オープン)』
     唇の祝福を受けて解放された武器が、背を向けたまま打ち震える敵を指した。身の丈を超える十文字鎌槍、その燃ゆる切先に細身を添えて駆った撫子は、火焔の花弁を散らすが如く背を穿つ。
    (「……硬い!」)
     刃の銀光を返した敵の背は、成程殻に覆われ守備は堅い。撫子の猛火を敢えて甘んじた牡蠣怪人は、その衝撃に振り返ると、憎悪に顔を歪めて一同を凝視した。
    「おのれ! 櫓を壊しおって!」
     支柱となった太い丸太を両脇に抱え、深く腰を落として魂を燃え上がらせる牡蠣怪人。闇に身を委ねれば、奥底より禍々しい力が湧いてくる。
    「親方!」
    「ん、何だ」
     その緊迫をジオッセルが声を掛けて解いた。彼女の呼び声に思わず振り向いた牡蠣怪人は、全身を薄く纏った闇を、集中力と共に霧散させる。
     しまった、と本能に後悔する暇はない。
    「こういう所が、ご当地怪人を心から憎めないのかもしれませんね」
     艶やかな色を差す着物の袖が翻ったと思った瞬間、その袖より伸びた異形の拳が牡蠣怪人の胸元に裂傷を走らせた。敵に非情になりきれぬまほろの僅かな憐みが、心臓までは抉らずに鮮血を宙に噴出させる。
    「ぐム……ッ! 櫓は何度でも建つッ!」
     痛撃に踏鞴を踏みながら、牡蠣怪人は再び丸太を抱えると、まずは土台となる支柱を即座に組み上げる。梯子用の横木を臍に打ち込むのも手馴れたもので、櫓の骨組みが出来上がると、そこに脚を掛けて登ろうとした。
    「させないよ!」
    「邪魔をするな!」
     両脇に抱えた丸太を振り回す牡蠣怪人の怒号を交わし、霧栖が炎の奔流を脚より放つ。好戦的な微笑を口元に湛えた彼女、繰り出された焔もまた躍るように丸太を飲み込み、見事に消し炭と変える。
    「貴重な穴水産の材木を焼きおったな!」
     怒気を露わに牡蠣怪人は霧栖を睨むも、悪戯な瞳が輝くのみ。歯噛みする間もなく、その挑発的な笑顔の奥より白い何かがフワリと舞った。
    「なんとかとけむりは高いところが好きなのですね」
    「ぬおおっ!」
     割烹着を脱ぎ捨てた和服姿の灯花が、旋風を纏って身ごと飛び出る。大気を螺旋に斬り裂きながら疾駆した彼女は、牡蠣怪人の脇腹へと衝撃を打ち込んで櫓より引き剥がした。
    「とにかく櫓はこわして、陸の上で戦うように――」
     親方と呼び掛けて気を引き、櫓を壊して集中力を乱す。弱点を掌握した灼滅者は巧に敵を翻弄し、牡蠣怪人は焦燥に攻撃の精彩を欠く。
    「喰らえ! 牡蠣汁の洗礼!」
     櫓の高みより放ってこその牡蠣汁ビームも狙いは定まらず、
    「女の子を汁だくにはさせられないだろ……!」
     闇雲に閃いたビームに盾と踏み込んだのは真人と彼の相棒、銀。程良く温められた海のミルクは両者を容赦なくずぶ濡れにし、その後は潮風に晒され一気に冷やされる。
    「うわー、ぬるぬるするし、スースーする……!」
     肌にジットリと絡む不快感に麗顔を崩す真人と、全身を震わせて牡蠣汁を飛ばす銀。同じディフェンダーであるジオッセルの霊犬ギエヌイが、彼等を労うよう即座に癒しを施せば、
    「牡蠣は好きだけど、浴びるほどは……ね」
     苦笑して呟いた霧栖の科白に、誰もが強く頷いた。


    「ボクもいートコ見せないとね!」
     女性陣を庇って盾となった真人と銀。彼等が成した防御壁より空を引き裂く帯が伸びた。小さな騎士ベルベットが放ったレイザースラストが牡蠣怪人の肩口を強襲する。
    「ぬっ……!」
     大きく体勢を崩した身体が櫓を揺さぶり、不意に手を付いた瞬間、天を指していた支柱は斜めに傾く。
    「あー、自分で壊しちゃって」
    「小僧~ッッッ!」
     牡蠣怪人は悪童を見るような目でベルベットを睨むも、櫓に執心した両手は支柱に添えたまま。何とか倒壊を凌ごうと身を差し入れて留まった瞬間、
    「そのまま支えとれ! まとめて斬ってやるけ!」
    「ぬをおおっっ!!」
     苦し紛れに放ったビームは紙一重でヘルメットを掠め、留め具が外れて豊かな金髪が暴かれる。己の耳を横切った閃光にも臆せず、畏れを纏ったまつりが鬼気迫る斬撃を叩き込んだ。
    「むっ……く、っ」
    「駄目ですよ、親方さん? 櫓の足元が曲がってるじゃないですか」
     支柱と共に硬質な巨躯をあらぬ方向へ折り曲げた牡蠣怪人、彼を呼ぶ甘い声は然し残忍で。
    「親方さんでしたら、もっと安全な櫓を立てられます……よね?」
     まほろが脇に抱えたバベルブレイカーが、次々に杭を弾いて無慈悲に櫓を穿つ。楔の如く撃ち込まれる荒々しい杭に櫓は遂に潰え、再び芝生に丸太を転がした。
    「おうよ! 作ってやらあ!」
     牡蠣怪人の怒れる顔貌は最早泣き顔に近い。彼は力なく横たわる丸太を暴走する感情のままに振り回して敵陣に飛び込んだが、灯火の如く柔らかに舞う撫子に攻撃は当たらず、
    「親方さん、美味しい牡蠣の食べ方を教えて貰えますか?」
    「おう?」
     すれ違い様に掛けられた声に不覚にも手が止まる。
    「おりゃオメエ、引き揚げたばかりの新鮮な牡蠣を船の上で……ごヲフッ!」
    「必殺、灯花ビーム!!」
     隙あり、とばかり後衛より軌跡を描いた光芒が、懇々と語る牡蠣怪人の胴を捉えた。牡蠣汁を迸らせて身体を曲げた瞬間、今度は眼前の撫子より痛烈な黒死斬を喰らう。
    「ぬグッ!」
     膝裏を切られた脚は、遂に折れて芝に膝を付けた。
    「タイミングばつぐんです!」
    「灯花ちゃんも遠距離から上手に狙えましたね」
     二人が笑顔を重ねる影で、牡蠣怪人は脚を震わせながらもゆっくりと立つ。己と同じく冷たい芝生に倒れた丸太を見て、怒りは頂点に達したようだ。
    「おおおおォォォォ……!!!」
    (「来る……!」)
     膨張する殺気に逸早く動いたのは真人、そして彼に呼応したジオッセルがラビリンスアーマーにて援護する。敵の死角より仲間に強靭な鎧を届けたジオッセルが、その紫の瞳で静かに真人を追えば、彼は大地を海の如くうねらせる超弩級の振り下ろしの前に眼差しを強くして対峙していた。
    「牡蠣は好きだけど! 親方のやり方はちょっとやりすぎなんだよ!」
    「弟子よ! 儂は間違っておらん!」
     即席で成立した師弟関係が、まだ活きていたか。牡蠣怪人は殺気を漲らせ、掲げた丸太で真人を一刀両断にするも、衝撃は彼の縛霊撃に相殺され阻まれる。
    「櫓より牡蠣汁の洗礼を授けねば分からんか!」
     ギリギリと拮抗して緊張する空気、睨み合う両者に凍える潮風も届かない。
     その張り詰めた時間を破ったのは、ベルベットの大きな声だった。


    「親方! 空から女の子が!」
    「む……?」
     ベルベットに呼ばれて振り向いた牡蠣怪人は、彼が指差す方向、上空へと視線を移す。
    「思いっきりやっても大丈夫だよね。見た目硬そうだし」
    「何ッ、ッッ!」
     優しく舞い降りる天使どころではない。今時の女子高生らしからぬ悪い顔をした霧栖が、彗星の如く尾を煌かせて牡蠣怪人の頭上を襲った。七色の光を散りばめた足蹴りは敵の脳天に炸裂し、烈しい重圧で押し潰す。
    「おお、っおおおお!!」
     重厚な殻が歪に砕け、牡蠣怪人が痛撃に咆哮した瞬間、
    「終いじゃ。焚き上げてやるかの」
     まつりとベルベットの煌々と燃える脚が、同時にその身を火柱に包んだ。二人分のグラインドファイア、その威力は牡蠣怪人の今際の叫びも奪い、忽ち焼き牡蠣を通り越す。
    「親方、教えてもらった櫓作りの技術、無駄にはしないのですよ……」
    「……ッッ……!!」
     身を焼いて消え行く敵に、敬礼を手向けるジオッセル。彼女は戦闘中も匠の腕を冷静に見届けていたのだ。
    「……牡蠣が好きって言うのは本当なんだ」
     欺いたような罪悪感を振り払い、偽ることなく真実を伝えたのは真人。牡蠣怪人はその姿に打ち震え、初めて弟子と認めた彼等にグッと親指を突き出して炎に融けた。
    「親方……」
     灼滅した敵と通じ合う、僅かな瞬間。然しそれも空腹を前に秒で去る。広場に散らかった丸太の残骸を片付けた一同は、凍える身体を温めるべく、まずは駅に向かった。
    「まさか跨線橋の中にお店があるなんて……」
    「鉄道を下に眺めて食べるとは、意外じゃの」
     あつあつの牡蠣に色白の頬を上気させながら、美味に頬笑して頷くまほろとまつり。その隣では、スマホを片手に早くも次の店を探し始めている霧栖が、芳しい香りを放つ焼き牡蠣を前に口元を緩めながら悩んでいた。
    「牡蠣釜飯、牡蠣鍋もいいなぁ……。うーん、どうしよう?」
     彼女が指を滑らせる画面に撫子もつられた様子で、
    「良い牡蠣があれば、お土産として買って帰りましょう」
     即売所があれば、料理の腕を振るうべく立ち寄るつもりでいる。幸いにして、差し入れを演じた風呂敷が帰り道にも役立ちそうだ。
     焼き牡蠣を前に、長椅子に腰掛けながら会話を弾ませる彼女達を、花を愛でるような瞳で見たベルベットは、
    「おねーさん達、牡蠣フライも来たよ!」
     おませにも女性を気遣い、手際よく卓に皿を並べていく。
    「はい。これ、ボクおすすめのタルタルソース!」
     牡蠣を焼く音に紛れた朗らかな声が煙と共に立ち昇る一方、向かいに座った灯花は、絶品に落ちそうになる頬に手を添えながら、生粋の蕎麦愛を募らせ、
    「あたたかいおそばに、牡蠣をのっけるのです!!」
     牡蠣汁を絡めた蕎麦の味を想像し、恍惚の表情を浮かべていた。
    「これは浴びるほど食べたい……!」
     戦闘では牡蠣汁を身で味わった真人も、胃袋をそれで満たせば笑みも明るい。
    「親方が愛した牡蠣まつり、今年も成功しますよ」
    「……そうだな」
     ジオッセルの科白に、大きく頷いてまた一口。彼はそう言った後は黙々と牡蠣を頬張るジオッセルと同様、ただひたすら箸を口と皿で往復させた。
    「ごちそうさまでした!」
     彼等が手を合わせたのは、何軒目の事だろう。穴水町に集った灼滅者達は、後に行われる催事を守り抜いた勝利、その福音を大いに堪能して去ったということだ。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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