命と金を天秤にかけて

■リプレイ

●命と金
「……地下闘技場か。まさか、金の為に命を危険に晒して戦うとは、な」
　険しい表情を浮かべながら、坂部・芥一郎（病焔ヴォルケイノ・d01965）が都市伝説の確認された場所に向かう。
　都市伝説が確認されたのは、地下闘技場。
　実際には単なるバーだったと言われているが、真偽の程は定かではない。
「人間同士を戦わせるなんて、とてもとても悪いダークネスですね～。きっちり灼滅しちゃいましょう～」
　警戒した様子で辺りを見回しながら、野々路・由佳（ゆるふわりん・d02789）が旅人の外套でこっそり近づいていく。
　いまのところ、誰にも気づかれていない。
　しかし、都市伝説が確認された場所に近づくにつれ、沢山の声が……歓声が聞こえてきた。
「確かに、人の心の弱いところを狙うなんて、許しがたいですねっ」
　壁に背を向けるようにして身を隠し、スィン・オルタンシア（ピュアハートブレイク・d03290）が室内を覗き込む。
　ホームレスがざっと見積もっただけでも数十人。
　ふたりのホームレスを囲むようにして、円を作るようにして陣取っていた。
「……ま、的にかけられるのは、常に弱者か……こ、これが人の噂が生み出した業というなら、じゃ、弱者を虐げてよ、喜ぶ人間がそれほど、お、多いというわけか……ま、まぁ、ひ、浸っているば、場合でもない……こ、こんな悪趣味な、も、催しは、そ、早々に、しゅ、終了さ、させねばな」
　自分自身に言い聞かせるようにして、六堂・鈨（ご当地キラー・d07300）がホームレス達を睨む。
　ホームレス達はみんな興奮状態！
　そのため、こちらの存在に全く気付いていないようである。
「さて……、ホームレスはどう対処すべきかのぅ……」
　先程まで乗っていた箒から下り、アリシア・ウィンストン（美し過ぎる魔法少女・d00199）が困った様子で汗を流す。
　あまりホームレスを刺激して戦う事になっても困るのだが、この状況で都市伝説だけ倒す事など不可能に近い。
「都市伝説に踊らされてるって言っても……。こんな場所で、不要な戦いで怪我するなんて、馬鹿らしいの。……死人が出ていないか、少し心配なの」
　視界の隅に映っていた黒い大きなビニーク袋に気づき、晦日乃・朔夜（死点撃ち・d01821）が目を凝らす。
　超と大きさ的には大人一人分の大きさ。
　ただし、身体を丸めてようやく入るほどの大きさだが……。
　もしくは体をバラバラにするかの、どちらか。
　よく見れば、黒いビニール袋の下に、小さな血溜まりが出来ていた。
「これより、武蔵坂学園生徒対レフリーによるエキシビジョンマッチを開催いたします。皆様、本番戦に備え、巻き込まれぬよう所定の位置までお下がりください」
　試合が終わるタイミングを見計らい、パール・ネロバレーナ（殲滅型第六素体・d05810）が口を開く。
　その声に気づいたホームレス達が何事かと思い、パール達がいる方向に視線が集中した。
　だが、パールに向けられたのは、敵意、殺気、憎しみ、怒りなど負の感情。
　彼らにとって部外者は、排除すべき存在。
　倒せば多額の現金が入るエモノ。
「とりあえず、皆さん。落ち着いてください～」
　ホームレス達を射程内に捉え、野々路・由佳（ゆるふわりん・d02789）が改心の光を使う。
　その途端、ホームレス達が罪悪感に襲われ、『俺達はどうして今までこんな事を……』と自分自身を恥じた。
「勝っても人殺し、負けたらお終い。あんたら、そんな惨めでほんまにええんか？　そいつが金くれるっちゅーんは嘘や！　金もろて、やり直した友達おらんやろ？」
　ホームレス達が落ち着いたところを見計らい、形無・鏡魅（フリープレイヤー・d06912）が説得を試みる。
　それに気づいた都市伝説が『そいつの言っている事は嘘。金ならある！　コイツラを殺せば、もっとやるぞ！』とマイク片手に叫んで金をバラ撒き始めた。

●ホームレス
「な、何だか雲行きが怪しくなってきましたね～」
　一瞬にしてホームレス達に囲まれ、由佳が気まずい様子で汗を流す。
　もちろん、相手は単なる一般人。
　由佳達が本気を出せば、確実に倒せる相手であるが、手加減して戦わないと、ウッカリ殺ってしまう可能性が高かった。
「……ほ、欲しいものを得るために、い、命をかけること自体は、あ、悪ではない……。だ、だが、虚構に溺れ、じ、自分を見失うのは、よ、弱さだ……。わ、我々が守るべきよ、弱さだ……だ。だが、彼らがこれに懲りず、さ、さらなる弱者から奪うなら……む、む、報いは受けさせる……ぼ、僕がな」
　ホームレス達と対峙しながら、鈨が最後の警告をする。
　しかし、ホームレス達は頭に血が上っているせいで冷静な判断力を失っており、『やれるものなら、やってみろ！』と叫んで襲い掛かってきた。
「他人の血で手を染めて、本当にそんな自棄で良いのですか？」
　ホームレス達の攻撃を避け、スィンが彼らに問いかける。
「自棄……？　違うな。これも明日のため、未来のため、金さえあれば何でもできる。世の中、金、金、金だァ！」
　迷わず即答。
　都市伝説がバラ撒いた札を忍ばせ、さらなる富を求めて、攻撃を仕掛けてきた。
　もしかすると、ホームレス達には、スィン達が金のなる木にしか見えていないのかも知れない。
「まあ、しゃあないわな」
　ある程度は手加減しつつ、鏡魅が向かってきたホームレスに、当て身を喰らわせていく。
　それでも、ホームレス達は『よっしゃ、分け前が増える！』とばかりに、倒れた仲間を踏みつけていった。
「……正直、こういう『戦い』は苦手なの。ここで戦ってもお金は手に入らないし、痛い思いをするだけ。死にたくないのなら、そもそも戦わなければ安全なの。……私に出来るのは、殺す事だけなの」
　なるべく感情的にならず、朔夜がここで戦う無意味さを理性的に訴える。
　……武器はまだ構えていない。
　戦意が無い事を示すため……。
　だが、朔夜の体から漂う、ほのかな殺気。
　それでいて一歩前に足を踏み出せば、首が飛びほど鋭い殺気に気づいたのか、ホームレス達がたじろいだ。
　ここで動けば、必ず死ぬ。
　ホームレス達はそれを本能で感じ取り、即座に防衛本能が働いたようである。
「さあ、選ぶがいい。ここで死ぬか。それとも、生き続けるか。攻撃を仕掛けてくる以上、覚悟しておいた方がいいぞ」
　警告混じりに呟きながら、アリシアが距離を縮めていく。
　もちろん、殺すつもりなど毛頭ない。
　しかし、ここで本音を言えば、ホームレス達が再び付け上がる可能性も捨てきれない。
　故に、あえてキツイ事を言って、ホームレス達の戦意を喪失させようとしたようである。
　ホームレス達もだんだん冷静になって怖くなってきたのか、自らの命と金を天秤にかけ、『し、死にたくねぇ！』という結論に至ったようだ。
「だったら、今すぐここから出て行け。お前達じゃ、役不足だ」
　冷たい視線をホームレス達に送り、芥一郎が咎人の大鎌を構える。
　その途端、ホームレス達の顔がみるみるうちに青くなり、『ひ、ひいいいいいいいいい』と叫んで逃げ出した。
「お、おい。こら、金はいらんのか！」
　信じられない様子で、都市伝説が大声をあげる。
　だが、都市伝説の声は既に、ホームレス達の耳には届いていない。
「さて……、始めましょう……。対象確認……認識……破壊します」
　すぐさまスレイヤーカードを開放し、パールが顔の上半分を覆うモノアイのバイザー、全身をすっぽり覆うボディスーツと各部の重装甲と言った感じの姿になり、都市伝説と対峙する。
　そのため、都市伝説も悔しそうに歯軋りしつつ、『お前達だけは許さない。絶対に殺す！』と叫んで敵意を丸出しにした。

●都市伝説
「巻き添えを喰らう前に、みんな逃げるの」
　すぐさまホームレス達の避難誘導を始め、朔夜が都市伝説に視線を送る。
　おそらく、都市伝説にとっては予想外の出来事であったのだろう。
　先程まで握り締めていたマイクを放り投げ、両手に有刺鉄線を巻いている。
「随分とやる気のようじゃが、その気持ち今すぐにでも、へし折ってやろう」
　手持ちの杖をくるくると回して可愛らしく決め、アリシアが後方からマジックミサイルを撃ち込んだ。
　それと同時に都市伝説が『キエエエエエエエエエィ！』と叫んで飛び上がり、アリシア達に殴り掛かってきた。
「……レ、レフェリーとは、こ、公正であ、あるべき……ルールも守れぬ悪は死ね」
　都市伝説の攻撃を避けるようにして横に飛び、鈨が鏖殺領域を発動させる。
　だが、都市伝説は怯まない。
　自らのプライドをズタズタにされた恨みを晴らすため、鈨達に何度も攻撃を仕掛けてきた。
　しかし、その大半が空振り！
　もともと、戦いが得意ではなかったのか、虚しく空を切っている。
「数ではこっちが勝ってるねんから、落ち着いて！　こっちに戦闘不能者を出せへんかったら、大丈夫のはずや！」
　仲間達に声を掛けながら、鏡魅が都市伝説の死角に回り込む。
　実際に都市伝説の攻撃は当たらない。
　例え当たったとしても、かする程度のレベルであった。
「あなたの相手はこちらですよ～♪」
　予言者の瞳で自己強化し、スィンが都市伝説を挑発する。
　その挑発に乗って都市伝説が狂ったように拳を振り回すが……、当たらない。
　まるで、その様はダンスを踊っているのではないかと錯覚してしまうほど、滑稽であった。
「今までホームレスさんに酷い事をしていた報いを受けてもらいますよ～」
　間延びした言葉とは裏腹に静かな怒りを込め、由佳が大鎌を振るって都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
　その途端、都市伝説が『もう悪い事はしない。勘弁してくれ！』と命乞いをし始めた。
「そうやって、パール達を油断させて、不意打ちを喰らわせようとしているつもりのようですが……、そんなに殺気を放っていたら、騙す事なんて出来ませんよ」
　自らの心の深淵に潜む暗き想念を集め、パールがデッドブラスターを撃ち込んだ。
　次の瞬間、都市伝説が『ば、馬鹿な！　俺が滅びる……だと！？』と叫び、跡形もなく消滅した。
「……終わったか」
　都市伝説が完全に消滅した事を確認し、芥一郎が床に倒れているホームレスに駆け寄った。
　先程の戦いで瀕死の重傷を負ったホームレス。
　……かろうじて息がある。
　今なら、まだ間に合うかも知れない。
　そう思いつつ、芥一郎がホームレスを担ぎ、病院へと急ぐのだった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2012年9月10日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 9／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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