繰り返す初夢

    作者:奏蛍

    ●無限ループ
    「待て、待て、待て、待ってくれ!」
     背筋にすっと流れた冷たい汗に、滝都は身を震わせた。
    「待てるわけないでしょ!?」
    「自分が悪いんじゃない!」
    「償ってもらうからね!?」
     口々に滝都に悪態をつきながら、三人の女性が迫ってくる。そしてその手には、野球のバットにフライパン、ゴルフのドライバーを握っている。
    「お、落ち着け!」
     身の危険をひしひしと感じて、滝都は声を上げた。しかし女性たちが止まることはない。
     振り下ろされた武器と化した道具に、滝都がぎゅっと目を瞑った瞬間だった。
    「うわぁああ!」
     ガバッと起き上がった滝都の体は、大量の汗をかいている。張り付いた服を握りながら、荒い呼吸を繰り返す。
    「ゆ、夢か……」
     初夢にこんなものを見るなんて、今年はついてないかもしれない。そう思いながら、携帯に手を伸ばす。
     そして時間を確認した滝都の瞳が見開かれた。一月一日。
     眠りについた時と時間が変わらない。力を抜いた瞬間、また一気に夢の中へと落ちるのだった。
     
    ●自業自得?
    「うーん……何か自業自得って感じじゃねぇの?」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)からの情報を思い出しながら、思わず炎谷・キラト(失せ物探しの迷子犬・d17777)が呟いていた。しかし、放っておくわけにはいかないと、集まってくれた仲間を改めて見渡す。
     そして須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)からの情報を話し始める。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、まりんたちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     キラトの予感が的中して、シャドウによって悪夢に囚われた滝都の存在が明らかになった。悪夢の中でさらに眠りについて、同じ夢を繰り返し見せられ苦しんでいる。
     このまま放っておくと、滝都の命が尽きるのも時間の問題だ。みんなには滝都を救い出してもらいたい。
     実際に女性たちに殺される初夢を見た滝都だったが、夢は夢と思っていた。しかしそれが本当に起きてしまったのだ。
     形には違いこそあれ、三人の女性に詰め寄られ責められ弱ったところをシャドウに付け入れられてしまったのだ。しかしキラトの言うとおり、自業自得であると言っていいだろう。
     三股をかけていたのが、それぞれの女性にばれてしまったのだ。あまりにも恐ろしい三人の豹変ぶりに恐怖を感じた滝都は、シャドウの悪夢の中で何度も繰り返し初夢を見続けている。
    「まずはソウルアクセスする必要があるぜ」
     滝都はアパートで一人暮らしをしている大学生だ。窓に鍵をかける習慣がないため、大きな物音さえ立てなければ隣人にも気づかれずに侵入できるだろう。
     みんなが悪夢の中に入ると、滝都はまさに三人の女性に殺されそうになっているところだ。まずは滝都を助けてもらいたい。
     そして三人の女性を倒してもらえば、異変を感じたシャドウが現れてくれる。しかしこの方法で助け出すと回復まで時間がかかってしまう。
     他にも方法は二つある。何としても滝都を殺そうとする三人の女性を止めた状態で、滝都にここが夢であることを分からせてもらいたい。
     そして夢であることをわからせた状態で三人の女性を倒してもらえば、シャドウが現れてくれる。この方法で助け出すと、昔と変わらないダメな滝都が復活するだろう。
     最後の方法は、夢であるとわからせた状態で滝都に反省させることだ。三股していたことで、いかに女性たちを傷つけたかを分からせ反省させることが出来れば、異変に気づいたシャドウが現れてくれるだろう。
     この状態で滝都を救い出すことが出来れば、人として少し成長した滝都が目覚めるだろう。
     現れるシャドウはシャドウハンターのサイキックと日本刀を使ってくる。一緒に現れる配下は五体で、解体ナイフを使ってくる。
     シャドウは配下が倒されれば、諦めて退散してくれるだろう。
    「どの方法で助け出すかは、みんな次第みたいだぜ」
     にっと笑ったキラトの八重歯が覗くのだった。


    参加者
    セリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485)
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    ギルドール・インガヴァン(星道の渡り鳥・d10454)
    炎谷・キラト(失せ物探しの迷子犬・d17777)
    天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417)
    リコリス・ユースティティア(正義の魔法使いアストライア・d31802)

    ■リプレイ

    ●怒りに燃える女性たち
     悪夢の中に入り込んだ瞬間、天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417)の瞳が微かに見開いた。そしてすぐに地を蹴っていた。
     漆黒の髪が綺麗に流線を描くのと同時に、愛用の刀であるの星椿でフライパンを受け止める。
    「ほんといきなりじゃん」
     さっと飛び出した炎谷・キラト(失せ物探しの迷子犬・d17777)が思わず口にしながら、ゴルフのドライバーを受け止める。そんな二人の後ろで、身を守るように頭を抱えていた滝都がおずおずと顔を上げた。
    「な、何が……」
     三人の彼女たちと自分しかいなかった空間に、突然現れた灼滅者たちに瞳を彷徨わせる。どうにも情けない姿に、キラトの肩が落ちる。
    「うーん、どう考えてもジゴージトクだろ……」
     けれど鬼のような形相をしている女性たちを見て、放っておくわけにもいかないかと油断なく構えた。
    「だ、誰だ、おま、おまえたち!」
     噛みすぎている滝都はもういっぱいいっぱいなのだろう。
    「滝都さん、落ち着くっす」
     ゆっくりと滝都の前にかがんだギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が、視線を合わせる。緑色の瞳が滝都の動揺の度合いを測るように揺れた。
    「これが夢だってことは、十分分かってるっしょ?」
    「ゆ、夢!?」
     確かに突然人が増えたりおかしい部分も多々あるが、全てがリアル過ぎて滝都にはとても夢だと思えない。
    「これ、どう思う?」
     すっと逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485)が武器を差し出す。滝都が首を傾げた。
     確かに現実でこんな武器を見ることはない。しかし世の中にはレプリカというものがある。
     なぜこれを……そう思った滝都の目の前で、武器が一気に豪華版に姿を変える。
    「うぉ!?」
     驚いた滝都が奇妙な声を上げた。
    「こっちも見てね」
     にこっと笑った赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)が、わざと自らの服を汚していく。これでもかと言うように、汚れが広がっていく。
     そしてこんなものかな? と言うように緋色がくるりと回りながら自分の汚れを確認した。その汚れ具合に、滝都も顔を引きつらせる。
    「じゃあ、行くよ!」
     可愛らしく両手を上げた緋色が自らの服を二、三回叩いた。すると武器が変化した時と同じように、一気に汚れが消えていく。
     むしろ汚す前より綺麗になったように見える。
    「な、何だよ、これ……」
     ごくりと息を飲んだ滝都が何度も瞬きして目を擦る。
    「こうして襲われるのは何回目だい?」
     何が何だかわからなくなってきた滝都に、ギルドール・インガヴァン(星道の渡り鳥・d10454)が優雅に訪ねた。見るからに高貴な血が流れていそうなギルドールに滝都が身を引いた。
     人間の心理だろうか、自分とは明らかに違うギルドールの雰囲気に飲まれそうになるのを避けようとする。無様な様子を晒す滝都を見下ろすギルドールの左目の目元にはほくろが二つ並んでいる。
     それすらもギルドールの優雅さを演出しているような気がしてきて、滝都が身をさらに引いた。
    「何回目って……」
     初めてだと言おうとした滝都の口が止まる。何か違和感を感じたのだ。
    「おい、もう一つおまけだぜ?」
     夢なのかどうかと境目を探す滝都に、女性たちの攻撃を防いでいたキラトが声をかけた。はっと滝都が顔を上げた瞬間、キラトの姿が猫に変わる。
     そしてまた攻撃を防ぐべく、人の姿に戻った。信じられないものを見たというように、滝都が呆然としている。
    「夢……どっからどこまで……」
    「眠って悪夢を見て起きるところまで悪夢っす」
     そしてまた起きて悪夢に戻る。この繰り返しをしていたとギィに言われて感じた違和感がわかった。
     何度も繰り返していたのだ。滝都が夢であることを理解したことがわかると、リコリス・ユースティティア(正義の魔法使いアストライア・d31802)が一歩前に踏み出した。
     絶対に反省してもらうという気持ちできたリコリスの瞳が、滝都を射抜く。そんな仲間と滝都、そして怒れる女性三人を見ていたセリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671)がふぅと息を吐いた。
     滝都が自分で招いたこととは言え、色恋沙汰は本当に面倒だと微かに首を振る。
    「まあ、僕にはもう縁が無い事さね」
     誰にも聞こえない声で、セリルが囁くのだった。

    ●反省という言葉
    「ところで、この三人を傷つけたということは理解しているのか?」
     フライパンにドライバー、次々に攻撃を受け流した雛菊が淡々ときいた。
    「え?」
     突然の質問に、滝都の意識が戻ってくる。こだれだけ起こっている三人の彼女を目の前にすれば、理解できないはずはない。
    「わかってるなら、これ以上は何も言わねーよ」
     勢いよく振り下ろされたバットを受け止めたキラトが口を開いた。もちろん女性たちの方に同情を寄せているキラトだが、現実で十分に責められたことを考えて追い打ちは控えようと決めていた。
    「ただ、もし次アンタが同じことをしたら……」
     女性たちを傷つけないように、振り払ったキラトがまっすぐ滝都を見る。
    「ホントにこんな目にあうかもな」
     微かに低くなったキラトの声音に滝都が息を飲んだ。
    「ま、これにこりたら同じマネはすんなってことだな」
     にっと笑うのと同時に八重歯が覗く。そしてキラトは再び女性たちの怒りを受け止めるのだった。
     キラトから言いたいことは二度と同じことをするなということだ。
    「自分の恋愛模様はハーレムみたいなものっすけど、皆さん満足してくれてやすよ」
     失敗した男を目の前に、恋人を数えるには両手の指が必要なギィが話しかける。決定的な違いは、滝都が内緒で三人と付き合っていたのと違ってギィはオープンであるということだろうか。
     付き合う前に複数の恋人がいることを話した上で、お付き合いの申し込みをしている。
    「滝都さんは、ちゃんと皆を愛してあげやしたか?」
     滝都以上にたくさんの恋人がいても、ちゃんと一人ひとりを公平に愛してるおかげで問題はない。大切なのは誠実であることだ。
    「愛してって……」
     どこかで楽しければいいやと思っていた滝都は口篭った。
    「今、お前は幸せか?」
     どこか見透かしたような奏夢の言葉に滝都は視線を彷徨わせた。なんと答えるか思案しているような顔だ。
    「自分を幸せにすることは、至極簡単な事だと思う」
     どこか素っ気ない様子で奏夢は言葉を続ける。実際に、前までは滝都は幸せだったのだろう。
     けれど幸せにする対象が他人となると、難易度は一気に跳ね上がる。滝都は付き合ってる女性を幸せにするという難問に挑むことなく諦めたのだ。
     そして自分の幸せだけを優先させた。
    「このままだと……お前は悪夢に苦しむ、負け犬になってしまうぞ」
     それでいいのか? と言うように奏夢の金色の瞳が滝都を見る。何かを言おうとして滝都がまた口を閉じた。
    「浮気してるのに気付かない人を見て面白かった?」
     同時に、どこか冷たいリコリスの言葉が響いた。女性を不幸にさせて、さらにまわりを迷惑かける。こういうのはダメと言うように、表情は変わらないがリコリスの雰囲気が伝わってくる。
     リコリスの両親は浮気と不倫で喧嘩ばかりしていた。近所で噂になるのもそう時間はかからなかった。
     そしてリコリスと弟にも近所の人は関わらなくなった。大変だった過去の思いがリコリスに蘇ってくる。
    「その人の周りだって不幸になるんだって知ってた?」
     リコリスはその場から一歩も動いていないが、その言葉が確実に滝都を追い詰めていく。裏切られたものは、周りのひとを裏切ってしまう場合だってある。
     一つの裏切りがたくさんの裏切りを生んでいく可能性があるのだ。
    「みんなが不幸になるのよ」
     経験したことがあるリコリスだからこその、重い言葉だった。ごくりと滝都の喉が鳴る。
    「裏切られ、傷ついた気持ちはわかっただろう」
     すっと星椿を振った雛菊が滝都に問いかける。そして、自分はどうするのかと……。
     反省する気持ちがあるのかどうかを、見極めるように滝都の言葉を雛菊が待つ。しかしどう答えていいかわからない滝都は固まってしまっている。
    「彼女達に襲われる夢を繰り返し見るのは、キミの中に彼女達への罪悪感が少しでもあるからだよ」
     僕はそう思うと言うようにギルドールが柔らかく頷いた。そして滝都に出来ることはひとつしかない。
    「反省するんだ。心から……」
     有無を言わせないギルドールの真剣な言葉に、滝都は息を飲んだ。ばれないと思っていた滝都の浅はかさが招いた現状であることも、ギルドールは滝都に伝える。
     いまだに自分を手にかけようと迫る姿を見て、滝都が後ずさった。
    「ここは夢だけど、あの女の人たちが怒ってるのは本当だよ」
     当事者でもない緋色にだってわかることだ。がくりと滝都の頭が落ちる。
    「反省……します」
     それは自分の身の危険を感じての言葉だったのかもしれない。けれど反省しようとした滝都の気持ちは本物だった。
    「よくできました」
     ふわりと優雅にギルドールが笑うのと同時に、飛びかかってきていた女性の体がセリルの目の前で消えた。そしてぞっとするような空気が漂い始めた。
    「こ、今度は何だよ!?」
     怯えた滝都が声を上げる中、灼滅者たちは油断なく構えた。
    「とんだ邪魔が入ったものね」
     声がした瞬間に、目の前にシャドウとその配下が出現するのだった。

    ●シャドウとの戦い
     待ってましたと言うように、セリルが軽やかに地面を蹴った。出現させた妖の槍、フロストレヴィアを強く握る。
     そして現れた配下を容赦なく穿った。フロストレヴィアの軌跡が白く輝く。
    「やっとでてきたねシャドウ!」
     セリルに続いて駆け出していた緋色が声を出すのと同時に跳躍する。
    「小江戸の緋色がこのソウルボードから退場させてあげる」
     しっかりと構えて頭上から配下を狙う。そして捻りを加えた一撃で鋭く穿った。
     何もすることが出来ずに倒れた配下から、緋色が間合いを取るようにふわりと離れる。一気に畳み込もうと身構える灼滅者たちが息を飲んだ。
     流れるような動作でシャドウが日本刀を振り切ると、鋭い一閃が前にいた灼滅者を襲う。衝撃に身を強ばらせた体に、さらに毒の風が襲ってくる。
     微かに息を飲みながらも、雛菊が前に駆け出す。星椿に影を宿して、横薙ぎに振り切った。
     宿った影の残滓が軌跡となって空を舞う。
    「おまけだぜ」
     いつの間にか飛び出していたキラトが、雛菊によってふらついた配下に超弩級の一撃を食らわせる。
    「殲具解放」
     言葉と同時にギィが黒い炎を掌に出現させる。
    「まとめて焼き払うっすよ」
     さっと振られた手から、炎が奔流となって解き放たれた。ギィの黒い炎に焼かれる配下の前に、奏夢が現れる。
     そして握った標識を、赤色にスタイルチェンジして一気に殴り倒した。倒れた配下が霧散する。
     同時に奏夢の霊犬、キノが傷ついた仲間の回復に走った。その間に、ギルドールとリコリスが自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させていく。
    「邪魔はさせないよ!」
     配下を二体倒されたシャドウの表情が醜く歪む。そして漆黒の弾丸が放たれた。
     真っ直ぐに狙いに向かった弾丸は、雛菊の体を貫いていく。ぐっと足に力を入れて耐えた雛菊の体から、赤い液体がぽたりと垂れる。
     その瞬間、後ろにいた奏夢の右手がぴくりと震えた。微かに痺れるような感覚が右手に広がっていく。
     右手によって味わった家族の体温が奪われていく感覚が蘇る。血が苦手になったのはそれから、そして右手の痺れ……。
     強く左手を握った奏夢が右手の痺れを振り切るように飛び出した。容赦のない飛び蹴りが、一体の配下を吹き飛ばすのだった。

    ●悪夢の終わり
    「足元がお留守ね」
     死角から飛び出したリコリスが、鋭い斬撃で斬り裂いた。斬られた配下が怒りの声を上げて迫ってくる。
     瞬時にギルドールが魔法弾を放って、配下の動きを止めていく。
    「真白なる夢を、此処に」
     さっと手を伸ばしたセリルが光に触れると、光が槍の形をしたマテリアルロッドに変化する。
     そしてギルドールが攻撃する配下に向かって地面を蹴った。
    「此処で、断ち切る!」
     殴りつけるのと同時にセリルが魔力を流し込んでいく。配下を足で踏んでバネがわりにしたセリルの体が空を舞った。
     そして綺麗に着地するタイミングで、配下の体が内部から爆破される。ぎりっと歯噛みしたシャドウの体が飛び出し、影を宿した攻撃が緋色をとらえた。
    「んっ……!」
     衝撃に息を飲んだ緋色に、キラトが反応する。
    「あとちょっとだぜ」
     頑張れと言うように、オーラを癒しの力に転換して緋色を癒していく。
    「ありがとだよ」
     お礼を言いながらも、すでに駆け出した緋色が高く飛び上がる。
    「ひっさつ小江戸キーック!」
     思い切りジャンプキックを放った緋色が着地するのと同時に、配下が霧散する。
    「これで最後の一体だな」
     残った配下を見て、雛菊がすっと低く構える。そして一瞬で配下の死角に回り込みながら、星椿を振るった。
     斬られた配下が雛菊に気を取られた瞬間、足元の影に顔を上げた。すでに迫っていた奏夢が標識を振り切った。
     衝撃に転がった配下が何とか体勢を立て直そうとする。
    「遅いっすよ」
     すでに構えていたギィが、超弩級の一撃を振り下ろした。霧散した配下には目もくれず、ギィがシャドウを見据える。
     忌々しそうな舌打ちと一緒に、シャドウの体が消える。
    「シャドウは退散するっすか」
     ふっと力を抜いたギィがため息を吐いた。
    「不完全燃焼っす」
     つまらなそうに髪をかきあげて、滝都を見た。滝都の前には雛菊が立っている。
    「目覚めたらまず、真摯に謝罪する事だな」
     変わらず穏やかな口調ではあるが、その漆黒の瞳は必ずそうすることを要求している。
    「そうっす、三人の方と誠実によく話し合ってくださいな」
     ギィも念を押すように滝都に言う。その言葉に滝都が何度も頷いている。
     その姿に反省の色を見た奏夢がすっと手を差し出して、滝都を立たせた。
    「ここからスタートだ」
     情けない顔をしていた滝都が、奏夢の言葉に微かに瞳を見開く。そしてしっかりと頷いた。
    「みんなを不幸にしないことね」
     そう呟いたリコリスが、滝都の悪夢から消える。それに続くように、灼滅者たちは悪夢を後にするのだった。
     戻ってきた現実では、滝都が穏やかな寝息を立てている。
    「オヤスミ、悪夢は此処までだから」
     そっと呟いて、セリルが部屋から抜け出した。今度、滝都がどうなるかはセリルの知るところではない。
     けれど本当に少しは反省した方が良いと思うのだった。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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