「姉ちゃ、狡いアル! それワタシの部屋のお餅アル!」
「はっはっはっはっは」
どこにでもありそうなごく普通の民家の中、ドタドタと走り回るのは二人の少女だった。笑いながら逃げ回る方は、呼ばれ方からするともう一方の姉なのかも知れない。
「すまんな、だがこれが我が家の鏡開きだろう」
「鏡開きと定めた日、最初にその鏡餅を手にしたものが、調理法を決める……」
「そう言うことだ。麻婆餅は確かに美味い。だが、毎回毎回では流石になぁ……」
今日の気分は善哉なんだ、と告げた姉らしき少女の言葉が悲劇のきっかけだった。
「嫌アルっ!」
「おっと、え?」
目尻に涙をためて飛びかかってきた妹を避けた先が拙かった。そこは、1階に続く階段の前。
「あ……あぁ」
呆然と佇む少女の前で、ヒビの入った鏡餅と一緒に、姉が落ちて行く。
「ぐっ」
鈍い音と少女の洩らした呻き声。
「あ、あぁ……姉ちゃ……」
階段を登り切った場所で、佇む少女が変貌し始めたのは、この直後。
「ワタシのせい……ワタシの、せいアル……あ、うぁ……ああ」
衣服がドロドロと溶け出し、まるで麻婆豆腐か何かのようなモノへと変わる。瞳からは光が失われ。
「あ、あぁ、もっちぁぁぁぁぁっ!」
ご当地怪人に変貌した少女は、二階の窓を突き破って外へと飛び出したのだった。
「一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が発生しようとしている。今回は、麻婆餅らしいが」
「アイエエエ、早い、早すぎますの。まだ準備が――」
「まぁ、とにかく説明を続けよう」
集まった君達に説明を始めた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、何やら衝撃を受けている情報提供者の白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)を横目でちらりと見ると、すぐに視線を戻して語り始めた。
「本来闇堕ちしたならば、ダークネスの意識によって人間の意識はかき消えてしまうのだが、今回のケースでは一時的ではあるものの人間の意識を残した状態で留まるようなのだよ」
言わば、ダークネスの力をもっちぃながらもダークネスになりきっていない状況である。
「もし、問題の少女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい」
また完全なダークネスになってしまうのであれば、その前に灼滅を。
「むろん、救えた方が良いに決まっているのだがね」
目を伏せつつ、はるひは説明を続ける。
「少女の名は、比婆・麻菜(ひば・まな)。小学五年生だな。姉とお餅の取り合いのさなか、姉が階段から落ちてしまったことがきっかけでご当地怪人麻婆モッチアと化す」
変貌した元少女は自分が元凶という罪悪感と目の前で起きた事態が受け入れられない感情から完全にパニックになっており、外に飛び出した後は訳もわからずただひたすらにご近所を駆け回るモノと思われる。
「先に補足しておくと、姉の方は命に別状ない。頭にはたんこぶ、身体には打撲ぐらいはしていると思うので、無事とは言えないが」
もっとも、元少女はそんなことなど知るよしもない。
「と言うか、半狂乱とでも言うような態なのでね、説明も説得も無駄だろう」
ただし、もしお餅を持っていって見せたとすれば、反応を示すともはるひは言う。
「ある意味で原因の一端だったからか、それとも大好きな麻婆餅を作る為の餅をその状態でも無意識に求めているのか」
餅を見せると襲いかかってくるのだとか。
「で、ではわたくしのべこも乳も襲われて麻婆まみれにされてしまいますの?」
「敢えて言おう、否定はしないと」
補足として、戦いになれば麻婆モッチアは服の代わりに身体を包んでいる麻婆豆腐を影業のサイキックのように使うことで反撃してくることをはるひは明かす。
「もちろんご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃も使ってくるかもしれないがね」
ともあれ、闇堕ち一般人を救うには一度戦ってKOする必要がある。戦いは不可避だ。
「問題の元少女は極度のパニックで聞く耳を持たない状態になるようなのでね、説得は不要」
もちろん、呼びかけるのはいっこうに構わないが、とにかく暴走したままではどうしようもない。
「尚、麻婆モッチアとの接触については家の外の道路で待ち伏せて、出てきたところを捕捉すると良いだろう」
バベルの鎖にも引っかからず、時間的に人避けも不要。おまけに少女を首尾良く助け出せた場合、少女の姉の元に向かうのにも時間は余りかからないのだからこれ以上都合の良いタイミングは他にないとははるひの談。
「最後に、餞別としてこの鏡餅を渡しておこう。餅が視界にあれば麻婆モッチアも君達を無視して走り出すことはないと思うのでね」
そう言ってはるひは鏡餅を君達に手渡し、ほぅと吐息を漏らす。
「小学生……自分が灼滅者でないこと、同行出来ないことを残念に思うよ」
メッキがはげたというか、このエクスブレインやっぱり変態だったと言うべきか。
「少女のこと、宜しくお願いする」
キリッとした顔で頭を下げ、はるひは君達を見送るが、先程の一言のせいで色々台無しだった。
参加者 | |
---|---|
日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366) |
鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965) |
東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925) |
東雲・菜々乃(お散歩大好き・d18427) |
白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838) |
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607) |
志羽・鈿女(ヒーローオブプリマドンナ・d31109) |
エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136) |
●遭遇
「麻婆餅……」
「マーボー餅……岩手県平泉町の名物ですの。かの地にて有名なハイクを詠んだ松尾芭蕉は実はニンジャだったとか」
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)の呟きを疑問と受け止めたのか、白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)はいきなり語り始めた。
「へぇ、美味しいの? それ」
元々興味があれば、闇もちぃした少女に聞くはずだった質問を黒子にぶつけてしまったとしても是非はない。
「それはもち――と、お話ししてる余裕はなさそうですわ」
ただ、応える時間を既に持ち得ないことに気づいてしまった黒子は、会話を中断させ、視線を上へと逸らした。
「あ、あぁ、もっちぁぁぁぁぁっ!」
側にあった民家から漏れてきた叫び声。ガラスの割れる音。窓を突き破って「ソレ」が現れるまでの時間はごくごく短いものでしかなかった。
「一体、どういう状況なのだ……」
説明だけを聞いたなら、そう困惑するしかなかった鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)も、ご当地怪人と化した少女が降ってきた時点で、ある程度は察せた。
「もちぃぃ、も、もちぃいいいっ!」
着地するなり獣のようにただし「もちぃ」と唸るそれは完全に自分を失っていたのだ。
「麻婆餅って、まだ食べたことないのですけど、どんなものなのですか?」
「も、餅ぃ? うううっ、餅、もちぃ」
日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)のかけた声にも耳を貸さず、ただの手にした丸餅に目を留め、唸りながら睨み付けるだけと言う反応は、説明も説得も無駄だがお餅には反応を示すというはるひの言葉通りであった。
「お餅ならここにあるよ。まずは落ち着いて」
「お餅はここにあるのですよー」
「餅? も。もちぃ?」
すかさず、東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)と東雲・菜々乃(お散歩大好き・d18427)がそれぞれお餅を出してみせれば、気になるものが増えた為か、今にも飛びかかりそうだった麻婆豆腐まみれの全裸少女もといご当地怪人は動きを止めて、見せられた餅達の間へ視線を往復させ。
「ドーモ、比婆=サン、べこ餅ヒーロー白牛黒子ですの」
「餅ぃ、うああああああっもっちぃぃっ!」
黒子のアイサツにも何ら反応を見せることなく、アスファルトを蹴ると桜花目掛けて飛びかかった。
「ちょっ」
想定内では有った、見せるのは鏡餅で胸の餅じゃないからねと誰に向かってか説明したように餅を見せたのだ。ご当地怪人が標的にしても不思議はなく。
「ああ、やぱりお餅関係の人が狙われるんだ……」
メンバーを見回し、黒子ちゃんや桜花さんが狙われたりするのかなと呟いていた玲奈からしてみても、何となく予想出来た流れだった。
「餅ぃぃぃっ!」
「とりあえず、素通りはされなかったね」
エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136)の見る限り、ご当地怪人と化した少女は、桜花の餅を奪うことにしたらしい。一応、胸の餅じゃなくて鏡餅の方を。
「ヒーローの力、見せてあげる!」
「もちゃべっ」
だが、伸ばした手が餅に届くことは無かった。突如踊り出した志羽・鈿女(ヒーローオブプリマドンナ・d31109)による情熱の籠もったバレエの動作から繋げた一撃で叩き伏せられたのだから。
「落ち着きなさい! マーボー餅にするための餅はお持ちしましたの。そしてお姉様もまだ助かりますの!」
「危なかったぁ」
「これが餅族? ……流石? であるな」
半ば叱責するように声をかける仲間と、ギリギリの所で餅を奪われずに済んだ仲間、双方のもっちあ(名詞)を視界に入れて神羅はポツリと呟いた。
●狂乱
「大丈夫、お姉さんも無事だよ」
「もちゃああっ」
かけられた声にも、効果はみられない。
「やっぱり、正気に戻って貰わないと意味がないんでしょうか」
襲いかかる元少女の攻撃から仲間を庇う為、ライドキャリバーのサクラサイクロンが盾になる様を見て菜々乃は漏らす。
「そうみたいですね」
非物質化させた殲術道具を構え口を開いた翠は、一撃を繰り出すべく前へと飛ぶ。
(「子供の頃って、些細なことでも大変なことに感じちゃう時があるよね。でもそれは、その人が大好きだから、そう思ってしまうと思いますのです」)
人の言葉が耳に入らぬ程取り乱してしまっているのも、元少女が姉を大切に思っていたが故だとしたなら。
「助けないといけませんよね、尚のこと」
「もぢっ」
外傷を残さず霊魂と霊的防護だけを直接破壊する斬撃に翠とすれ違ったご当地怪人麻婆モッチアの身体が一瞬硬直し。
「餅であれば冷凍保存して後で食すのも有りか。無論、今はこの場で決着をつけるが!」
隙を生じさせた元少女の身体目掛けて氷柱が撃ち出される。
「もぢっ」
「大人しくして頂きたいのですよ~」
身体を包む麻婆豆腐に氷柱を突き立てて呻くご当地怪人へどことなくのんびりした口調とは裏腹に素早く距離を詰めた菜々乃は、オーラを集中させたままの拳を連続で繰り出した。
「も゛、べ、、じ、ま゛っ」
「そもそも、麻婆餅ってなんなの? 麻婆豆腐のお豆腐お餅にしただけなのかな……美味しいの? それ」
拳の嵐に取り込まれ、滑稽なダンスを踊らされる麻婆モッチアへと向けて駆け出しながら、玲奈は自分の疑問をツッコミと言う方にに変えてみるが、絶賛被攻撃中の元少女にはパニック中であることを差し引いても回答は無理な状態だった。
「べもっ」
故に実質的には炎に包まれ、物理ツッコミとなった蹴撃が突き刺さっただけである。
「なんで麻婆豆腐着てるの麻婆餅着ようよ! 今のあなたはもっちあじゃないよ、とーふ怪人だよ!」
そして、尚も続く呼びかけというかツッコミ。
「ええと、微妙に申し上げにくいのですけれど……」
これに反応したのは、ご当地怪人ではなく仲間の一人だった。
「麻婆餅には麻婆豆腐の中にお餅や揚げ餅を入れるものもありますの……つまり、あれは、彼女自身のもち肌を餅の代わりとして麻婆餅を体現した姿。小学生の女の子には興味津々の私にとっては――」
「ふーん、あたしよりあの子がいいんだ?」
「アイエッ? 浮気違いますの! かわいいて思っただけですの……せんぱいが一番ですのーっ!」
解説が脱線しかけたところで桜花が茶々を入れ、顔色を変えた黒子が桜花にしがみつくも、ええと、戦闘中ですよ、元モッチアのお二方。
「あっ、ちょ、うみゃぁぁぁ! って、どさくさにまぎれて何してるかー?!」
「ご、誤解ですの! こ、これは手の幸せじゃなかったモッチア補正というか、先輩の桜も乳を麻婆から守ろうとしてるだけですの!」
「楽しそうだね! いいな。ボクも、ぎゅーってお餅守ってみたいな」
じゃれ合う二人を見て、小悪魔っぽい羽根を生やしたエメラルが夜霧を展開しつつ、羨ましげに見つめていたが、異性から見ればそれは目のやり場に困る光景である。
「せいやっー!」
「もぢゃあっ」
もっとも、一部の灼滅者がお楽しみ中も攻防は続いていた。
「どう? 少しは落ち着いた?」
「うぐぐ、もぢぃぃ」
麻婆豆腐の一部を斬り裂かれるように蹴られた元少女に鈿女が声をかけるも、まだ問いにまともな答えが返ることはなく。言葉を代わりに向けられたのは、身体を覆う麻婆豆腐から生えて伸び、襲い来る麻婆触手。
「駄目みたいね、けどこの程度っ!」
紙一重で鈿女の避けた触手は何も無い空間を虚しく貫き、戦いは、続くのだった。
●呼びかけは
「ンアーッ!」
「にゃっ?! 黒子ごめんっ」
お約束は踏み抜く為にあるとでも言うべきか。時間差で襲いかかった桜花が攻撃を避けられ、折り重なってべこも乳と桜も乳による鏡も乳が作り出されたのは、もっちあめいた補正のなせる技であった。誰かの斬撃はきっちり麻婆豆腐を切り裂いてるのだが、それはそれ。
「い、いえ……むしろご褒美というか、本望ですの」
何だか下の段の方が妙に幸せそうなので、おそらくスルーで良いと思われる。
「餅を食べるにしても、家族や友人と食べられた方がより美味であろう! 汝は今そういう可能性を捨てようとしている! 姉君と一緒に餅を食べたくば今此処で踏みとどまられよ!」
「うああああっ、も、もちぃぃ!」
呼びかけながら地を蹴った神羅はご当地怪人の叫んで放つビームをギリギリの所でかわすと縛霊手を握り拳の形に変えて振り上げる。
「もべばっ」
事前に無駄と言われていたとおり、殴り飛ばされただけで一見呼びかけには何の反応も見せていないようにも見える。だが、それならば説明をしたはるひも、呼びかけるのは自由などとは付け加えまい。
「貴女の闇を! 私が照らしてあげる! 刻み付けなさい! エトワールの輝きを!!」
網状の霊力に絡みとられつつ蹌踉めいたご当地怪人目掛け、大きく跳躍した鈿女は降下の勢いを乗せ蹴りかかり。
「お姉さんは元気ですよっ、ですから――」
「んー言わないよりはいいよね!」
仲間の姿を見たエメラルも、少しだけ唸ってから声をかけの輪に加わる。
「お姉ちゃん無事だってよかったね! お餅も無事だからおいしく食べられるよ!」
「もぢゃべっ」
契約の指輪から魔法弾を放ちつつ、微笑みかけた相手は蹴り飛ばされてアスファルトの上を転がって行き。
「もぢゃぁぁっ」
速度が弛んで止まった元少女へと魔法弾は命中する。別方向から射出された帯と殆ど同時に。
「うぐ、もっぢぃぃ!」
「いっしょに帰って、お姉さんとお餅食べましょうですっ」
吼えながら身を起こしたご当地怪人目掛け距離を詰める御幣で祓うように一撃を叩き込み。
「もべあっ」
「大好きなお餅を否定されるのは悲しいよね。でもさ、好きな物だからって押し付けるばかりじゃダメだよ」
語りかけながら、桜花は目線だけで後輩に合図を送る。おそらく、それで充分に伝わると信じて。
「ボクも麻婆餅食べたいな、食べたことないの。早く帰って一緒にいただきますしよ! 一緒に食べるといっぱいとってもおいしいよきっと!」
「そう、一緒に楽しんで食べなきゃ、ね?」
仲間の声に頷き、視線を向けた先は、物言わぬ相棒のライドキャリバー。
「いくよ、サクラサイクロン」
囁くように声をかけ。
「そんなところで闇もちぃしている場合じゃありませんの! 早く目を覚ましなさい! わたくし達もお手伝いしますの」
後輩の呼びかけをきっかけに、強くアスファルトを踏んで、飛び出す。
「黒子っ」
「せんぱいっ」
二人のタイミングが完全に重なった瞬間。
「今、お救いいたそう、いざっ」
「もぢゃばぎゃふっ!」
流星の煌めきと重力を宿し、宙へ舞い上がった神羅の跳び蹴りが元少女を吹っ飛ばしたのだった。
「う、あ……姉ちゃ」
元の姿に戻りつつ少女はポテリと地に伏し。
「アイエエ?! ちょ、せんぱいストップで」
「にゃ、黒子止まっ」
標的を消失した約二名がどうなったかは、鏡も乳の前例でお察しである。
「うう、何でこんな展開にばっかり……」
「餅族とは、本当に凄いものでござるな……」
るーと滂沱の如く涙を流す灼滅者他一名からなる「男性の目には毒な光景」から、唯一男性である神羅は気まずげに目を逸らし呟いた。
●ただいま
「おかえり、麻菜」
「……ありがと。あんまり覚えてないケド、姉ちゃ達が声をかけてくれていたからワタシ戻ってこれたような気がするアル。……あ」
桜花からかけられた声に横たわったまま応じた元少女は、短い音を漏らしてガバッと起きあがる。
「そ、そんなことより姉ちゃは? 姉ちゃは、無事アルか?」
声をかけられたことをいくらか覚えていたとは言え、実際に姉の姿を見た訳ではない少女の反応はある意味で当然だった。
「大丈夫、お姉さんもちょっと怪我はしているだろうけど無事だから」
「ほ、本当アルか?」
そのまま走り出していきそうだった少女へ穏やかに言い聞かせるようにして足を止めさせた玲奈はしっかりと頷き。
「無事に成功して良かった……次のミッションは、姉君との仲直りであるな」
「そうそう。ちゃんと帰って謝らないと、ね?」
神羅の言葉に同意しつつ、足止め用だった鏡餅を差し出し、微笑む。
「はい、お土産。これで麻婆餅作ってもらえるといいね」
「あ、ありがとうアル。ワタ」
「待って下さい、気持ちは解りますが綺麗にして戻った方がいいのですよ~」
満面の笑みを浮かべるとそのまま家に戻っていこうとした少女を止め、菜々乃は少女の服を叩いて軽く汚れを落とす。
「これで良いのですよ~」
「姉ちゃありがとアル」
本当はクリーニングでもあればもっと良かったのですけどねと礼を言う少女の背を見送ったのは、誰も少女の着替えを用意して来なかったからだろう。
「ただいまアル」
麻婆豆腐になっていた服が容赦なく攻撃された結果、大胆かつ斬新にカッティングされた服は少女が自宅から戻ってきた時、全く別の服となっていた。
「姉ちゃ達の言ってた通りだったよ。ホントに姉ちゃ達にはありがとうアル。くれたお餅で麻婆餅も作れるアルよ」
「あ、でしたらこれも持っていって下さいっ。麻菜さんには、麻婆餅、作ってもらいたいですー」
嬉しそうな少女の顔を見て、翠は自分の持ってきていた餅を差し出す。
「いいですね~。どんなお餅か興味はありますし、食べ物は大事にしないといけません。では、私の鏡餅も提供しますので味見させて貰えますか~?」
便乗するように菜々乃が、お餅を手にしたまま提案すれば、エメラルもこっそり持ってきていたお餅を取り出して言う。
「おいしそうだね! 楽しそうだね! ボクも仲間に入れて貰っていい? みんな仲良くいただきますでお餅食べられたらいいな!」
「勿論アル。姉ちゃの料理はとっても美味しいアルよ」
エメラルに笑顔で答える少女へは玲奈も「麻菜ちゃんが作るんじゃないの?」とツッコまない。
(「いいな。ボクも、お姉ちゃんほしいな」)
少しだけ儚げな微笑みを浮かべたまま、エメラルは眺め。このまま麻婆餅試食会になだれ込んで終わってしまいそうな時だった。
「私は志羽・鈿女! 歌って、踊れるヒーローやってるわ!」
決めポーズと共に名乗った鈿女が説明を始めたのは。
「貴女さえ良かったら、私たちと一緒にヒーローやってみない?」
「餅仲間はいつでも歓迎だよっ」
鈿女の勧誘に桜花も乗っかる形をとり。
「マーボー餅……実に興味深いですの。武蔵坂学園でその餅、広めてみませんか?」
「むさしざか? 姉ちゃ達の通うとこ?」
オウム返しに問うてきた少女へと黒子は胸を張る。
「そうですの! わたくし達も自分が愛する餅の普及に勤しんでますの!」
「んー、姉ちゃと相談してみるアル」
即答で承諾と行かなかったのは、怪我をした姉が気になったからかそれとも説明を完全に呑み込めて居なかったのか。
ただ、それでもまた再会出来る気がして、持ってきたお餅を無駄なく使い麻婆餅をご馳走になった一行はやがて帰路につくこととなるのだった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2015年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|