竜と獣の大決戦

    作者:波多野志郎

     ――森の一角、そこには巨大なトカゲの姿があった。真紅の鱗、燃えるような瞳。しかし、そのトカゲの鼻の頭へと止まっていた小鳥達は恐れた風もない。トカゲもまた、それを拒む姿は見せなかった。小鳥達は、このトカゲの力で強化されているのだ。
    『グル……』
     不意に、トカゲが喉を鳴らした。それに、驚いたように小鳥達も飛び立つ――突如して起き上がったトカゲ、竜種イフリートは地面を抉るように駆け出した。
    『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
     竜のごとき咆哮が、鳴り響く。竜種イフリートは、わき目をふらず疾走を開始した……。



    「鴻上・廉也(小学生・d29780)さんからから、竜種イフリートの動きについて報告があったんすけどね?」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、厳しい表情で語り始めた。
    「京都の朱雀門高校が、竜種イフリートを集めて戦力にしようと画策しているらしいっす。同じ情報が、先日、竜種イフリートになりかけていたイフリート達からも来てて、協力の申し出も来てるっす」
     そこで、協力を申し出てくれたイフリートと共に、何処かに向かおうとしている竜種イフリートを灼滅して欲しい――そういう状況だ。
    「協力してくれるのは、ソウハクって名前のイフリートっす。実力はイフリートっすから、もちろん高いっす」
     ただ、そう簡単にはいかない。どうやら、移動中の森で竜種イフリートが合流してしまったのだという。
    「敵の竜種は二体、こちらはソウハクが手伝ってくれるんで戦力的には互角っすね」
     ただ、だからと言って油断は出来ない。相手の竜種イフリートは、攻撃力と耐久力ともに強敵だ。気を抜けば一気に持っていかれる、その事を忘れずに挑んでほしい。
    「後、戦場となる森の中は木々が障害物になるっす。体の大きい竜種イフリート達は小回りが効かないっすから、そこを戦術に組み込む事も可能っす。連携を忘れずに、挑んで欲しいっす」
     朱雀門が竜種イフリートを集結させて、戦力を整えようとしているのならばそれは阻止しなければならない。
    「ソウハクと協力して、竜種イフリートを何とか灼滅してくださいっす。よろしくお願いするっすよ」


    参加者
    シオン・ハークレー(光芒・d01975)
    木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)
    十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)
    鹿島・悠(赤にして黒のキュウビ・d21071)
    炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)

    ■リプレイ


     森が、ざわめいている――その事を、炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)は風の流れで感じた。
    「あれを」
     西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)の言葉に、仲間達が視線を追う。森の中のざわめきが、別の方角からも届いてきた――そう思った瞬間、猫科狩猟動物の姿をした巨獣が灼滅者達の目の前へと降り立った。
    『オマエラ、ヒイラギタチノナカマカ』
     体長五メートル、その獣の瞳を向けられ十文字・天牙(普通のイケメンプロデューサー・d15383)は真っ直ぐに受け止め答える。
    「おう、その白き爪をアテにさせてもらうぜ、ソウハク!」
    『ヨカロウ、オマエタチヲヒキサクノハワガツメ、ホカノイフリートニユズルキハナイ』
     イフリートのその言葉は、驚くほど誠実だった。だからこそ、軛は素直に受け入れる。
    「炎獣は倒すべき敵だが、協力が必要なら已むを得まい……今は、お前達は私の狙いの敵ではないようだしな」
     コクリ、とうなずいてシオン・ハークレー(光芒・d01975)も口を開いた。
    「イフリートさんと依頼で共闘するのは久しぶりなの今回は完全な共闘だし、朱雀門が何を考えてるのかは分からないけど、多分よくないことだと思うし、ぼくたちもがんばらないとだよね」
    「今回はイフリートとの共闘ですか、気を引き締めないと死にかねないですね」
     西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)は、そう暗い瞳で言い捨てる。
    (「まあ、実際このイフリートがどの位信用出来るのか……。朱雀門の事もありますし。今回は疑うのは止しておきますが」)
     裏切られれば、敵が三体になるだけ――いつも通りだ、と榮太郎は意識を切り替えた。その内心を知ってか知らずか喉を鳴らしたイフリート、ソウハクは問いかける。
    『デ? ニタイノウチ、オレガタオセバイイノハドッチダ?』
    「ソウハクさんは、魔導書イフリをお願い」
     鹿島・悠(赤にして黒のキュウビ・d21071)の問いかけに、ソウハクは小首を傾げた。
    『? ドッチダ? ミタメデワカルカ?』
    「それは――」
     首を捻るソウハクに小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)が、口を開きかけたその時だ。森の奥からかけてくる二つの巨大な気配、竜種イフリートの接近に気付く。
    『ル、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
     向こうもこちら側に気付いたのだろう、その方向にソウハクは喉を鳴らした。
    『アチラノホウダナ、ノコリハユルリトアソンデイロ』
     ザン! とソウハクは白い爪で地面を蹴り、咆哮と共に森の中へと消えていく。直後、ゴォ!! という爆音と唸りを上げる炎の帯が木々の向こうから見て取れた。
     その間も、もう一つの気配はこっちに迫っている。木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)は、身構えて言い放った。
    「さて、それじゃやりますか」
     ザァ!! と木々を抜けて、真紅の鱗を持つ巨大なトカゲ――竜種イフリートが、灼滅者達の眼前へと飛び出す。そのまま、着地と同時に灼滅者達を飲み込む暴風を撒き散らした。


     ヒュゴ!! と、竜種イフリートのレガリアスサイクロンが、吹き荒れる。その中を一つの氷柱が真っ直ぐと貫く――優雨の妖冷弾だ。
    「力を求めた結果が、ガイオウガの復活の為に力を使うわけでなく、朱雀門のために利用されてしまうというのは悲しいですね」
    『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     氷柱が突き刺さるのも構わず、竜種イフリートは地を蹴る。だが、そこには既に天牙が跳躍していた。
    「足癖が、悪いんだよ!!」
     ドォ! と竜種イフリートの眉間に天牙の跳び蹴りが、カウンター気味に叩き込まれる。しかし、重量差は圧倒的だ。天牙は後方へ飛ばされながら、しかし、ニヤリと笑う。
    「一瞬でも、動きが鈍れば――」
     その間隙に、ビハインドの十字架と悠が同時に駆け込んだ。十字架の霊撃が縦に、悠の破邪の白光をまとったクルセイドソードが横に、十字を描くように放たれた。
    「お願いします!」
    「ああ」
     悠の声に応えたのは、織久だ。十字の中心を、闇器【百貌】の一線が貫いた。
    『ガ、ガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     竜種イフリートは、それを炎を宿した尾で受け止める。だが、織久は構わなかった。赤黒い槍で螺旋を描き、尾ごと貫く!
    「もう一つ!」
     御凛が、マテリアルロッドを豪快に振り下ろした。ドン! と振り下ろした動きを追うように放たれた一条の電光が、竜種イフリートを撃ち抜く。
    「――引け」
     軛の声に、咄嗟に灼滅者達は後方へと退いた。その直後、ズォッ! と竜種イフリートは全身から炎を吹き出させ、撒き散らす。牽制ではある、が、その炎の中を歩く姿には、連撃による損傷を苦にする姿は見られなかった。
    「さすがは竜種って感じなの」
     ヒュン、と契約の指輪に点った魔力の光をシオンは腕ごと振り払う。ヒュガッ! と射出された制約の弾丸が、真紅の鱗を穿った。
    「これが龍種ですか……。龍退治は神代の華でありましょうが、真逆現代でする事になるとはね」
    「もともにぶつかれば、厳しい事になるな」
     榮太郎は花を模した光の障壁を広域に展開し、軛はオーラの法陣を構築し天魔を仲間達へ宿らせる。
    「ま、敵は灼滅あるのみ。変わりませんね。殺りきりますか」
    『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
     気負う事のない榮太郎の言葉に、竜種イフリートの咆哮が重なった。同時に叩き付けられる炎の瀑布、バニシングフレアが視界を真紅で染め上げた。


     真紅の巨大トカゲが、荒れ狂う。それを側面から、木々を盾に観察しながら優雨は目を細める。
     しかし、暴れる竜種イフリートに、知性はおろか理性さえ感じられない。ただ、狂気のままに荒れ狂うだけ――その狂気を払う方法は、思いつかない。
    「クハ」
     織久が口から呼気のような笑みをこぼし、疾走した。死角から死角へ、巨体の竜種イフリートには檻のような森の中でも、灼滅者達にはむしろ立体的に戦術を立てられるバトルフィールドなのだ。
     織久の振るった闇器【闇焔】が、竜種イフリートの足を捉える。ガクン、と巨体が大きく動きを鈍らせた瞬間、御凛は木の幹を蹴って加速。その鍛え上げた拳の一撃を、竜種イフリートの背へと叩き付けた。
    「こっちよ!」
    「うん!」
     ヒュガガガガガガガガガガガガガガガガガッ! と自身の周囲に浮かべた魔法の矢、マジックミサイルをシオンは撃ち込んでいく。ダダダダダダダダダン! と、次々と竜種イフリートへとシオンのマジックミサイルが着弾する中を、悠が十字架の霊障波による援護を受けて接敵した。
    「前々から気になってたんだよ、竜種イフリート。どちらが強いのか、ってね」
     もちろんダークネス相手だ、まだ今の自分では、1人では無理な事は理解している。
    「でもいつか、鍛え続ければ……越えられる相手か? それを見極めるためにも、全力で!」
     ヒュオ! と悠は跳躍、そのまま木の幹を蹴って燃やした蹴りを竜種イフリートの背へと叩き込んだ。だが、悠はそこで動きを止めない。足を振り切った勢いを利用して体勢を立て直して、頭上で両腕をクロスさせた。
    「――ッ!!」
     ゴォ! と大上段に尾が悠へ振り下ろされた。それは、スターゲイザーだ。ズン! という加重に地面へと叩き付けられそうになりながら、悠はかろうじて着地に成功する。
     構わず、イフリートは悠を尾でなぎ払おうとしたが、それを優雨がすかさず防いだ。
    「させません!」
     Brionacの一撃、優雨のフォースブレイクの衝撃が竜種イフリートの尾を大きく弾く。グラリ、と体勢を崩したそこへ、天牙が突っ込んだ。体勢を崩して見えた腹部、そこへ振りかぶった縛霊手の拳を全力でぶち込む!
    「――ォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
     ゴゥ!! と竜種イフリートの巨体が、横転した。すぐに体勢を立て直した竜種イフリートに、すぐに天牙は横へと駆けて木陰へと身を潜めた。
    「すぐ、回復させる」
    「助かる、軛ちゃん」
     軛の癒しの矢による回復を受けて、悠は呼吸を整える。軛は、側面から竜種イフリートを囲む仲間達の姿を見ながら、ふと視線を森の奥へと向けた。こちらへは、もう一体の竜種イフリートとソウハクの戦闘音が聞こえる。時折垣間見える姿から、ソウハクの方が優位に戦いを進めているようだった。
     ただ、問題はこちらだ。着実に追い込んではいるが、同時に決め手にも欠く状況だった。だが、この状況でも灼滅者側は焦りはない、余裕があるのだ。
    (「さて、どう出ますか?」)
     集気法で仲間を回復させながら、榮太郎は呼吸を読む。軛と榮太郎が回復に集中するからこそ、仲間達は攻撃に全力を尽くせた。それでも、あと一手――それは、唐突に訪れる。
    『ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     竜種イフリートのバニシングフレアが後衛へと叩き付けられる。しかし、黒いポンチョをひるがえして軛は言い捨てた。
    「その攻撃は、対処済みだ」
    「なのっ」
     地面に手をついて、シオンは影でその炎を相殺、そのまま走らせ竜種イフリートの足へと絡み付かせた。直後、シオンは再行動――竜種イフリートへと駆け込むと、その鱗を撫でるようにそっと触れて遅れた衝撃を叩き込む!
    『グ、ガ!!』
    「ろくに身動き出来ないでいる内にさっさと片付けるわよ!」
     そこへ、御凛が豪快にオーラの砲弾を投擲した。ドォ! と起こる爆発――それに竜種イフリートが暴れた瞬間、巨大な影が竜種イフリートを覆う。
     それは、もう一体の竜種イフリートを倒して駆けつけたソウハクが、跳躍して生んだ影だった。
    『――タタキツブスゾ』
    「ハハ! 炎比べで負けるかよ!」
     援護に駆けつけたソウハクの白い爪と、クナイがごとき炎をまとった天牙の槍が同時に竜種イフリートを切り付けた。ザザン! と深々と切り裂かれた竜種イフリートは、傷の痛みに炎を撒き散らしながら暴れる。そこへ、軛は影で編んだ日本刀へ畏れをまとわせ、駆けた。
    「組織に利用されるなど種の誇りを傷付けられるに等しい。そうなったのはお前の弱さと不運の為、悔いるが良い」
     下段からの鋭い斬撃、軛の畏れ斬りが真紅の鱗を切り裂く。そこへ、悠の非実体化させた剣の一閃と十字架の一撃が重なった。
    「優雨さん!」
    「ええ」
     そこへ、優雨が続く。朧月が無数の軌跡をそこへ描いて、竜種イフリートへ叩き込まれていく――ガガガガガガガガガガガガガガガッ! と優雨の閃光百裂拳が、竜種イフリートの巨体を宙へと舞わせた。
    『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     竜種イフリートは、なおもあがく。そこへ、跳躍した榮太郎の九字兼定『桜火』の袈裟懸けの斬撃が、放たれた。
    「西院鬼さん、今です」
    「ああ、任された」
     織久が、そこへ突進する。落下しながら竜種は身を捻り、その尾で織久を迎撃した。横殴りの尾が、脇腹に軋みを上げさせる――だが、狂戦士は止まらない!
    「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
     哄笑と共に加速した織久の殺意の黒炎が、燃え上がる。その殺意の黒炎を集中させた両の拳で一撃、ニ撃、三撃、四撃――まさに殺意の嵐と化した、織久の閃光百裂拳は、竜種イフリートが完全に粉砕されるまで続いた。


    「皆お疲れさまね。ソウハクさんもお疲れさまね。お手伝いありがとうね」
    『カリヲカエシタ、ソレダケダ』
     御凛の労いの言葉にも、ソウハクの返答はにべもない。しかし、サムズアップした天牙の親指には、その尾を立てて返して見せた。
    (「……問題はない、ですか」)
     榮太郎は、そう警戒を解かずに周囲の観察を行なっている。それが理解できるからだろう、ソウハクも必要以上に灼滅者達へ近づく事はなかった。
    「竜種、か。俺達もああなる可能性はあるのかもな」
     天牙の言葉には答えず、ソウハクは歩き出す。ただ、ソウハクは最後にこう言い残した。
    『コレデ、カシカリハナシダ。タタカウトキハ、ゼンリョクデタタカオウ、シャクメツシャタチヨ』
     ザッ! とソウハクは駆け出す。それをシオンは、手を振って見送った。灼滅者達も、その姿を見送ると森を後にする。
     あの竜種イフリートを朱雀門が集め、どうするつもりだったのか? それは、今も定かではない。しかし、この戦いが必ずや朱雀門への一矢になる、そう信じて、灼滅者達は帰還を果たした……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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