君が望んだ、ベーコンレタス

    作者:ライ麦

    「ユキ! 好きだ! 付き合ってくれ!!」
    「ごめん。このままでいよう」
     ユキの素っ気無い返事。13回目の告白も無残に砕け散った。去っていくユキの背中を見ながら地団太を踏む。ちくしょうセオリー通りに100本のバラ渡したのに! 土下座して頼み込んでも、歯の浮くようなキザな台詞を一生懸命考えて口説いてみても、ドラマよろしく海に向かって「好きだー!!」と叫んでみても、全部断られた。やっぱあれか。二人の間に存在する、とある『共通点』が原因なのか。しかし俺はあきらめない。こうなれば最終手段だ。そう、この力を使えば……この力を使って、ユキの心を操れれば。
     内なる心が自分に囁く。その囁きに、俺は身を委ねた――。

    「一般人が闇堕ちしてシャドウになる事件が、起きようとしています……」
     桜田・美葉(小学生エクスブレイン・dn0148)がおずおずと告げる。
    「闇堕ちしかかっているのは、神薙・色斗さん。高校生の男性です。色斗さんは、幼馴染の有希さんのことが好きで、でも何回告白しても受け入れてもらえなくて……いっそ、有希さんのソウルボードを書き換えてしまおうと、シャドウの力に手を伸ばしてしまったんです」
     ここまでなら、まぁそれなりによくある話だった……ここ、までは。
    「……あ、言い忘れてたんですが、有希さんは男性です」
     ……ん?
    「男性です。女性のような名前ですし、髪も長いし、綺麗な顔立ちをしているのでよく間違えられるようですが……男性です」
     大事なことなので3回言いました。つまり、今回のケースは男性が男性に懸想していると。それに。
    「それに、色斗さんの告白を何度も断っているとはいえ、本当は有希さんの方も色斗さんのことを憎からず想っているようで……」
     ベーコンレタス過ぎるだろ。
    「だったら何で何度も断るの!?」
     当然の突っ込みが灼滅者から飛ぶ。
    「それが……やはり、男性同士だから。周囲の目とか、偏見とか、いろいろ気になって、素直にうんと言えないみたいで。けれど、それゆえに色斗さんが闇堕ちしてしまったというのは、やはり見逃せないですよね。幸いにも、色斗さんにはまだ人間の心が残っています。どうか、有希さんのソウルボードに入り込む前に介入して、闇堕ちから救い出してください」
     色斗が有希のソウルボードに入り込もうとするのは、夕飯時……正確には夕飯後。
    「二人とも両親の仕事が忙しくて……帰ってくるのが遅いから。マンションの部屋も隣同士だし、いっそ一緒に、ってことでいつもどちらかの部屋に集まって夕ご飯食べてるみたいです」
     何度も告白断られてる&断ってるわりに仲いいなと思うが、これは随分前からの習慣で今でも惰性で続いちゃってるらしい。尤も、本当に嫌いだったら習慣だろうとなんだろうと一緒にご飯食べたりしないだろう。この点からも有希の色斗への想いが窺える。夕飯も二人で交代で作ってるとか。
    「両親が帰ってくるのが遅い関係上、夕ご飯食べた後で有希さんは一度仮眠をとるので……その時を狙ってソウルアクセスを試みるようですね」
     ただし、その時に突入するとバベルの鎖に引っ掛かってしまうらしい。接触は夕飯の前にする必要がある。
    「色斗さんは学校が終わった後、買い物に寄ってから有希さんの部屋に行くようです。有希さんはどこにも寄らず真っ直ぐ帰るので、色斗さんが来る30分前には帰宅しているはず……。その30分の間に、有希さんに接触してください」
     灼滅者達が向かう頃には有希は既に部屋にいる。呼び鈴を押せば普通に出てきてくれるはずだ。ただ、不審者だと思われればすぐにドアを閉められてしまうので、怪しまれない工夫が必要になってくる。
     有希に接触した後は彼を護衛しつつ、後にやってくる色斗を待って説得、そして戦うことになる。闇堕ち一般人を闇堕ちから救う為には、『戦闘してKO』することが必須だから。戦闘時には、色斗はシャドウハンターのサイキックを使って応戦してくる。シャドウは強力なダークネスゆえ、堕ちかけとはいえ色斗もそれなりに強い。
    「ですが、説得が上手く行けば戦力を下げることができます。この時、事前に有希さんを説得して、有希さんにも説得を手伝ってもらえれば……もっと言えば、有希さんの方から本当の気持ちを伝えてもらえれば、説得が成功する可能性はぐんと高くなるかと」
     そもそも、有希が頑なに告白を拒んでしまったことが色斗の闇堕ちの原因なわけで。彼の本当の気持ちが分かれば、ソウルアクセスする理由もなくなるはずだ。
    「ただ、無理に言わせるのは気が引ける、という方もいらっしゃるかもしれませんしね。有希さんに説得を手伝ってもらうか否かは、お任せします」
     どっちにしても、戦闘時有希の安全を確保する手段は考えといた方が良いだろう。
     そして、説得にあたって注意して欲しいことがあると美葉は言う。
    「それは、お二人の想いを否定するようなことは極力、言わないで欲しいということです……誰だって、純粋に誰かが好きって想いを否定されたらきっと悲しいですよね。私は、恋とかまだよく分かりませんが……性別とかに関わらず、誰かを想う気持ちは、尊いものだと思いますから」
     よろしくお願いします、と美葉は帽子を押さえて深々と頭を下げた。


    参加者
    和瀬・山吹(エピックノート・d00017)
    御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    御手洗・花緒(雪隠小僧・d14544)
    巫丞・蒼乃(豪華絢爛舞踏全夜・d24314)
    ジェレミア・ヴィスコンティ(古の血は薔薇の香り・d24600)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)

    ■リプレイ


    「腐、腐、腐」
     レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)は不気味に笑った。今回はザックリ言うと恋する男同士の背中を押す依頼だ。
    (「イイ! 実に妄想かきたてられるぜ! 一層気合入るってもんだ」)
     妄想と思いが暴走し、ついには「ふはは、ふはははっ」といっそう大きな声で笑い出す。そんな彼女はさておき。
    「恋愛というのは性別、そう関係ないとは思うんだけどね。偏見の目にさらされてしまうのは可哀想ではあるけど……。なんとかうまくいけば……いいのだけれど」
     和瀬・山吹(エピックノート・d00017)は呟く。柔和な印象を与える彼だが、その心の奥底に何が潜んでいるのかは分からない。彼の言葉に頷き、巫丞・蒼乃(豪華絢爛舞踏全夜・d24314)も言う。
    「それなりに己の欲望願望はさらけ出しても良いと思うんじゃがのー」
     うんうん、とジェレミア・ヴィスコンティ(古の血は薔薇の香り・d24600)も頷いた。彼自身、世間体とか気にしない自由人で、気持ちよければなんでもいい快楽主義者で。
    「……だから自分の気持ちに背く有希くんの気持ちを考えると、それって辛いんじゃないかなあ……って」
     と素直な心情を漏らす。仲間の話を聞き、セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)も口を開いた。普段鳥人姿の彼女は、今は艶やかな紫髪の少女の姿をとっている。
    「……私位の歳の頃、曽祖父は祖父が好きだった、らしい。空っぽだった自分を導いてくれた……兄のように、神様のような祖父に好意を、と」
     もっとも言いはしなかったらしいが。そこまで語り、セレスは空に視線を移す。
    「神薙達にはどんな未来が待つのだろうな。少なくとも、ここでバッドエンドは避けたい所だ」
     御手洗・花緒(雪隠小僧・d14544)もコクリと頷く。彼は元々色恋沙汰に鈍く、身近に同性愛者がいるせいか偏見もない。ただ、「人を思う気持ち」を持っている人に淡い尊敬や憧れの念を抱いているから。助けたいと強く思う。その思いは全員に共通するもの。特に、男性が恋人である御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)にとっては他人事とは思えない。
    (「今、僕は凄く幸せだから……それを二人に伝えたいですね」)
     そうして銘銘が決意を新たにしたところで、アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)が
    「えっと、それじゃ、和瀬さんと巫丞さん、よろしくお願いしますね?」
     と先行して接触する二人に頭を下げる。その手には携帯。連絡に使うというのもあるが、待ってる間は携帯ゲームで遊ぶつもりだ。外階段に待機班が潜むのを確認し、山吹は有希の家の呼び鈴を押す。出てきた彼に、
    「いきなりごめんね。有希さんであってるかな」
     と安心させるように微笑んだ。
    「そうですけど……どちら様ですか?」
     怪訝そうな顔をする有希に、蒼乃はラブフェロモンを発動。相好を崩した彼に早速切り出す。
    「実は、俺達は色斗さんから恋の相談を受けていてね。……君が好きだという話を」
     有希の表情が変わった。彼的には他人に聞かれたくない話だ。他に誰もいないことを確認すると、とりあえず入って、と二人を招き入れる。潜む待機班には気づかなかったようだ。まずは第一段階クリア、と二人は携帯を取り出す。
    「他に相談してた子達が居てね」
    「実はもう来ているのじゃ」
     そう言って呼び出そうとする彼らを、有希は制止した。
    「待って、相談受けてたって、そもそも君達は色斗の何なの? 僕は全然知らないんだけど、知り合い? それに他にもいるって……」
     その顔には困惑の色が浮かんでいる。魅了されていても、見知らぬ人から自分の幼馴染の恋の相談を受けていたと言われたら戸惑うだろう。プラチナチケットでもあれば違ったかもしれないが。嘘でも色斗の知り合いとか言えば良かったかもしれない。二人は顔を見合わせた、が。
    「……まぁ、最初から此方らの正体は明かすつもりじゃったしな! 問題なし!」
     蒼乃はそのままゴーして合図を送った。山吹は
    「……ごめんね。嘘をついて。それでも君達を心配してるなんて言うのはおかしいかな」
     と目を伏せる。そうこうしている内に、残りのメンバーもやってきた。驚く有希に、レイチェルは
    「いきなりですまないが、有希さん、あんたに話がある。実は私達には特殊な力があって」
     と切り出す。
    「はい?」
     有希は目を瞬かせる。とりあえず自分達が只者ではないことを示すため、ジェレミアは姿を変えてみせ、裕也は狐の影業を見せながら、レイチェルを中心に事情を説明していった。自分達が灼滅者である事、色斗が恋ゆえに闇堕ちしかかっている事、だから説得に協力してほしい事。超常の力に有希は目を丸くし、聞きなれない話に目を白黒させている。
    「このままでは、色斗くんは人間ではなくなるどころか自我も失われる。2度と会えなくなってしまうよ」
    「色斗さんは今ちょっと心が闇に傾いていますが、貴方を想う気持ちゆえです。憎からず思っているのでしたら、是非その気持ちを伝えて欲しいです」
     そんな話を、有希は半信半疑といった様子で聞いていた。たまらず
    「協力は……してもらえませんか?」
     と尋ねる花緒に
    「そりゃ、その話が本当なら助けたいとは思うけど、でも説得ってどうすれば……」
     有希はそう答えて、急にぼっと赤くなった。説得=告白という事に思い至ったらしい。その様子を悟られぬようじっくり観察しながら、レイチェルはBLエナジーを充填……じゃなくて。
    「周りが気になるのは仕方ないけど、それで自分抑えてたら楽しくねえぜ?」
     と軽く声をかける。セレスも静かに語りだした。
    「愛する。健全ではないか。年も性別も種族も違おうと、そこには遍く愛は存在し得る。友情も家族を労る気持ちも美を好む事も、性質は違っても全ては愛……湧き出る気持ちを見ないふりをしようとすると、上手くいかなくなる物だ。それでいいのか?」
     裕也も畳みかける。
    「不安があるのは当然です、ですけれど、2人で話し合って解決していく道だってあるわけだし、同じような恋愛してる人もいますよ。そもそも僕がそうですからね! しかも僕の恋人は僕の執事なんですよ!」
     幸せそうに笑う裕也に、有希は驚きの表情で返す。
    「そうなの!? ……あ、いや」
     目を逸らした彼に、今度はアイスバーンがおずおずと話しかける。
    「神薙さんを他の方に取られちゃうかもしれませんよ? えっと、同性ということで悩むことも多いと思いますけど、自分の気持ちに素直になってくださいね?」
    「うむ! ゲイ? 大変宜しい! 大いに結構! 他人の意見や目線など、そなたらの愛で吹っ飛ばしてしまえ!」
     蒼乃は一人で盛り上がって踊りまくっている。
    「いやいや待って待って!」
     有希は真っ赤になってわたわたと腕を振るが、
    「気持ちを我慢するのって辛くない? それに、色斗くんだって辛いよね。好きな人に何度も玉砕してればさ」
     ジェレミアの言葉にはっと息を呑んだ。そして、
    「……分かった。とりあえず色斗にも話訊いて、それから……」
     そこから先はチャイムの音にかき消された。灼滅者達の間に緊張が走る。
    「ユキー? いるかー?」
     その声は色斗のものに違いない。返事をして玄関に向かう有希の背を、灼滅者達は油断なく見つめた。
    「やー、買い物寄ってたら遅くなっちまってよー……ってなんだ、こいつら」
     袋を下げたまま入ってきた色斗は灼滅者達の姿を認め、敵意に満ちた視線を向けてくる。幼馴染の異変に気づき、有希も背筋を奮わせた。
    「勝手にユキの部屋に上がりこんで何やってんだよ、さっさと帰れよ」
    「帰らないよ」
     言葉は柔らかくも、確固たる意思を秘めて。守るように山吹は有希の前に立つ。
    (「……彼らがダークネスの犠牲になることなんて無いよ」)
     そう誓って、サウンドシャッターを起動させる。他のメンバーも有希の前に立った。
    「少し姿は変わるが気にするな」
     そう告げ、セレスは鳥人へと変化する。有希が目を見張った。
    「わたしたちが足止めをするので、有川さんは隠れたりとかお願いします」
     アイスバーンが呼びかける。さすがに信じたのだろう、有希も頷いて廊下から奥のリビングに走った。追うように灼滅者、それに色斗も移動する。間に灼滅者達がいるため、色斗も有希に手は出せない。苛立ったように彼が叫ぶ。
    「なんか知らねーけど、邪魔するってんなら……容赦しねーぞ!」
     同時に彼の胸にスペードのスートが浮かぶ。灼滅者達も殲術道具を構え、戦闘態勢をとった。


    「君の気持ちは有希さんを傷つけるためにあるわけじゃないはずだよ。もう一度、ちゃんと話合ってごらん」
     優しく語りかけながらも、山吹は容赦なく断罪の刃を振り下ろす。
    「話し合うだ? 何度も断ってんだったら、それが答えだろ!」
     だから心を変える、と色斗はいきり立つ。物陰から見ていた有希は目を伏せた。本当はそうじゃない、と伝えてもらうため、裕也は赤く染まった標識で色斗を殴り倒す。
    「このまま闇に囚われたら、貴方の大事な有川さんも巻き込んで破滅するだけです。笑っていて欲しいじゃないですか、一緒の未来みたいじゃないですか」
     そう呼びかけながら。内心は戦闘が楽しくて仕方ないのだが、それは表に出さないように。
    「恋をして、相手に伝える……それは、素敵なことだと、思います」
     花緒はそっと胸に手を当てて言う。
    「たとえ、どんな障害があろうと……思う気持ちは、正しいのでしょう……けど、気持ちを押しつけて、ねじ曲げてしまうのは……違うでしょう? 恋を、したことがなくても……それだけは、分かります」
     話すのは苦手なれど、一生懸命言葉を重ね、破邪の斬撃を放つ。そんな彼を霊犬 「アラタカ先生」は優しげな瞳で見つめ、続いて斬魔刀で斬りかかった。
    「心を書き換えてまでする恋愛のどこに意味があるんです? あなたが好きなのは、今まで一緒に過ごしてきた有川さんなんじゃないですか? それは大好きな有川さんを裏切ることと一緒ですよ?」
     アイスバーンの放った帯が、言葉と一緒に色斗を貫く。色斗はうっと声を漏らした。セレスもバベルの鎖を瞳に集中させ、頷く。
    「無理矢理歪めてどうこうというのは愛に対する侮辱だと思うぞ。もう一回、ちゃんと聞いてみたらどうだ?」
    「そうそう、ダークネスとしての力を使って想いを遂げても虚しいだけだよ」
     ジェレミアが的確に色斗の急所を抉り出す。巨大なオーラの法陣を展開しながら、レイチェルも熱心に語った。彼女持ちとしては熱くならざるを得ない。
    「愛する人が欲しい気持ちはわかる、わかるがダメだ! プラトニックラブを確かめあってこそ、健全なる薔薇の花!」
    「その通りじゃー!」
     とか言いながら、蒼乃はエア下駄で踊るように突っ込み、舞うように炎の蹴りを喰らわせる。
    「で、でも何度も断られてんのに、どうしろってんだよ……!」
     苦しげに叫び、色斗はレイチェルに向かって漆黒の弾丸を放つ。その弾丸は、山吹が盾となり受け止めた。そのまま、神霊剣を繰り出す。
    「だから、ちゃんと聞いてごらん? 有希さんの、本当の気持ちをね」
     そう言って、有希にそっと目配せした。セレスも螺穿槍で色斗を穿ち、告げる。
    「その言葉を届けるのだろう? 私に構わず想いをぶつけてくれ」
     頷いて、有希はそっと物陰から姿を見せる。
    「あ、あの……ごめん。今まで他人の目が気になって言えなかったけど、本当は……僕だって、色斗のことが好きなんだ!」
    「え? いやだって、何度も告白断って……」
     戸惑う色斗に、ジェレミアはウインクしてみせた。
    「こんな局面で、嘘なんてつくわけないじゃないか♪ ねぇ有希くん」
     その言葉に、二人は耳まで真っ赤になる。思わずレイチェルはその様子をガン見した。でも不快にさせないよう直ぐ目を逸らす。イエス! BLカップル! ノータッチ! だから!
     幸いその視線には気づかず、色斗は照れ隠しのようにセレスをトラウナックルで殴りつける。だがその威力は弱い。灼滅者達の説得と、有希の告白で一気に弱体化したようだ。
    「なれば一気にいくぞよ!」
     蒼乃が剣舞を舞いながら、非物質化させた剣を閃かす。
    「ジンギスカンさん、悪いものは食べちゃってください」
     アイスバーンがデフォルメされた羊の影を放ち、
    「血の、終焉を貴方に」
     かすかな笑みを浮かべた裕也がズタズタラッシュで斬りかかる。
    「愛とは与えるもの、だぜ。無理に奪い尽くそうとするのは見過ごせねえ!」
     レイチェルも攻撃に転じ、ガトリングガンを連射した。色斗がふらつく、そこに花緒のデッドブラスターが迫った。
    「せっかく気持ちが通じ合ったんです……どうか、戻ってきてください……!」
     気持ちを込めた弾丸が闇を貫く。色斗は床に倒れこんだ。


     倒れた色斗に有希が駆け寄る。
    「色斗! 大丈夫!?」
     心配そうに色斗を抱きかかえる有希に、花緒は
    「だ、大丈夫です、きっと……! 灼滅者の素質が、あれば……」
     と多少たどたどしくも頑張って声をかけた。見守る先生も大丈夫というように尻尾を振ってみせる。実際、ほどなくして色斗は目を覚ました。
    「ユキ!」
     真っ先にしたのは有希を抱きしめる事。そのまま接吻でもしかねない勢いの色斗を、有希は頬を染めながら押しやる。
    「ちょまっ……! 皆見てるから!」
     その様子を愛だねぇ、と楽しそうに眺めるジェレミアの傍ら、レイチェルは瞬きすらスキップしてその絡みを脳内フォルダに保存していた。
    「……マーヴェラスッ」
     聞こえないように、ボソッと呟きながら。
    「うむ、よかったのじゃ! とりあえず此方の舞でも見ていくが良いぞ!」
     上機嫌でテーブルの上に上ろうとしながら、蒼乃は言う。止めつつセレスは突っ込んだ。
    「戦闘中も散々踊っていなかったか?」
     そんなやりとりを見て微笑みながら、山吹は色斗に自分達の事と、武蔵坂学園の事を説明する。裕也も後片付けしながら共に説明し、
    「一緒に来ませんか? 学園には色んな人が居ますしね」
     と誘った。
    「えっと、わたし達の学園は変わった方が多くて……同性同士で付き合ってる方なんかは割りと普通にいちゃうので良ければ一緒に来ませんか?」
     アイスバーンも遠慮がちに手を差し出す。
    「んー、ユキも一緒に行けるんだったらいいけどなー」
     考えとくわ、と色斗は屈託なく笑った。たぶんこれが本来の色斗なんだろう。山吹も柔らかな笑みで返した。
    「大丈夫。答えは急がないよ。こんなことすぐに答えが出せるわけないしね。よく考えてこちらにくるなら歓迎するよ」
     うん、と頷く色斗の手はしっかり有希の手を握っている。有希の方もまんざらではなさそうだ。きっと、この先何があっても彼らなら大丈夫。そう思って、灼滅者達は学園に帰還するのであった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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