ピリオド

    作者:西灰三


     『めいがす堂』。そう名付けられた家屋に古道具屋を開き闇堕ちした識守・理央(ダンタリオン・d04029)はいた、その姿はつば広の三角帽にローブと言った出で立ち。ここで彼は子供達を集めて、導師リオと呼ばせていた。
     この子供達は行き場のない暴力の最後の捌け口、例えば学校でのいじめや家庭内暴力などで、居場所を失った子らだ。理央はそんな彼らの避難場所として開放している。
     それだけならば、胸を張れるべき行動と言えるだろう。だが無論そんな「いい話」ではない。ソロモンの悪魔である彼はいずれ彼らを自らの手駒にすべく、魔術師の教育として強化一般人に仕立てようとしている。無論その授業を受けている彼らも望んでそうしている、自らの置かれた状況を変えるための力を得るために。
     彼らはまだ動かない。今はまだ。
     

    「カンナビスとの戦いで闇堕ちした識守さんの行方が分かったんだ」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)が集まった灼滅者達を前にそう切り出した。
    「今、識守さんは『めいがす堂』っていう古道具屋で子供達向けの駆け込み寺……って言うのかな。ともかくそういうことをしているんだ。でもそれはソロモンの悪魔がやっている事だから」
     いずれもっと大きな不幸を呼ぶ事になる。と。
    「とにかく、彼を灼滅して止めて欲しいんだ。大きな事になる前に」
     彼女は続けて戦闘力を解説する。彼は戦闘になれば最初は魔法使いのサイキックで、ダメージが大きくなってくると影業とビハインドのサイキックを加えて使用する。単体のダークネスとしては強力だが、協力して戦えば倒せない相手では無いと。
    「戦いに必要な情報は以上だよ」
     そして彼女はもう一つの資料を取り出した。
    「……こっちは識守さんを助けるための情報。……大変だよ」
     そう言って彼女は資料をめくった。
    「まずダンタリオン――このダークネスは自分のことをそう呼んでいるんだけど――は皆がいつか来ることを想定しているの」
     つまりは倒されない、よしんば自分が倒されても理央が灼滅者として復帰出来ない様に考えているらしい。
    「まず説得に対して強いの。何か言われても「それがどうした」「僕の何を知っている」みたいに。それでも踏み込めば識守さんが心の中に隠していたもの、隠していたいと思ってたものを引き合いに出すんだ」
     それが何なのかはクロエはよく分からないと言う、ただずっと過去の事象と言うよりは、日々の暮らしの中で隠していたものらしい。最近まで共に過ごしていた者の方が深く分かるかもしれない。
    「もう一つは集められた子供達。戦闘になれば必死でダンタリオンを守るんだ。この子達が戦闘に巻き込まれて攻撃を受けたりしたら、灼滅しても識守さんは帰ってこないよ」
     もちろん向こうは攻撃の手を緩めない、ただ子供達を巻き込むような攻撃はシないようだ。彼を助けるためには不利な戦況をいかに攻略するかが大切になるだろう。
    「あと……、もし、助けられたらの話なんだけど。残った子供達の事も考えてあげて。闇堕ちしてからの行動の中にも識守さんの人格の影響がある気がするから」
     彼女は姿勢を正して灼滅者を送り出す。
    「それじゃ、みんな頑張ってきてね、行ってらっしゃい」


    参加者
    神坂・鈴音(魔弾の射手は追い風を受ける・d01042)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    灰色・ウサギ(グレイバック・d20519)
    ジリアス・レスアート(水底の薄氷・d21597)
    ユリアーネ・ツァールマン(夜を抱く蒼翼・d23999)
    新路・桃子(リバースデーケーキ・d24483)
    小森・弾子(魔女を穿つ森・d25985)
    晞足・稀星(夜天煌・d30948)

    ■リプレイ


    「喧嘩の時間だァ!ガキどもは丁重に預かっておくぜェ!」
     その新路・桃子(リバースデーケーキ・d24483)の叫びが聞こえるのと同時に導師リオははっと顔を上げた。何事が起きたかと子供たちが問うよりも早く複数の灼滅者達が部屋に駆け込んできて子供たちを抱えて外に連れ出していく。子供たちは皮脂で抵抗するがなにせ色々と差が大きすぎる。あっという間に部屋からいなくなる。残ったのは導師リオ、いやダンタリオンと彼を相手取る灼滅者八人。
    「なるほどね、こうすれば確かにあの子達が君達の邪魔になることはない」
     彼らの来訪を知っていたのかダンタリオンは悠々と灼滅者達の前で語る。
    「さて、話をしましょうか。導師さん。子供たち抜きでね」
    「いいね。話だけならいくらでもお相手しよう」
     神坂・鈴音(魔弾の射手は追い風を受ける・d01042)の言葉とともにダンタリオンは古びた椅子に腰掛けた。
    「たってくれ」
    「立ち話の方がお好みかい? ゆっくりと話したいのなら座った方がいいと思うが」
    「そうじゃない。それにおまえにいったんじゃない」
    「やれやれ『僕』か。そんなに彼の事が大切なのかね」
     小森・弾子(魔女を穿つ森・d25985)の言葉に首を振りながらダンタリオンは立ち上がる。
    「さてね、僕は悪魔を逃したくないだけだからね。他のみんなは違うんじゃないかな」
     ジリアス・レスアート(水底の薄氷・d21597)の背後では怒気を孕んだ表情の灰色・ウサギ(グレイバック・d20519)とユリアーネ・ツァールマン(夜を抱く蒼翼・d23999)が立っている。さらにはしきりに瞬きする晞足・稀星(夜天煌・d30948)もいる。
    「こちらも色々弾けそうでね。……禊の時間だ。始めやしょうぜ、識守の」
     撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)が得物を手にしてダンタリオンを窺う。ダンタリオンは肩をすくめると杖とマントをどこからか取り出して構える。
    「話だけで帰ってくれるのがお互いにとって良い話だと思うんだけどね。仕方ない」
     かくしてダークネスとの戦いは始まりを告げる。


     店内で戦いが始まった一方、外では子供たちが灼滅者たちを睨みつけていた。その視線に含まれるのは怒りと恐れ。無理もない、彼らにとって灼滅者たちは安息を得られる場所を奪おうとしている存在にしか見えないのだから。
    「ねえ、そんな怖い顔でこちらを見るのはやめて。不満や怖いことがあるのならゆっくりでいいから言葉で伝えて欲しいの」
     七の言葉が子供たちに投げかけられると同時に和弥が腰を下ろして視線を子供たちと合わせる。それは高圧的でもなくへりくだるでもなく、対等な立場であるという姿勢。それを察したのかリーダー格と思わしき少年がゆっくりと口を開く。
    「僕は、僕たちはどこにいてもいないほうがいいんだ。殴られたりするのも、無視されたりするのも嫌なんだ。でも導師リオは違ったんだ」
    「でも導師リオは君達と同じ境遇だと思うけど魔法を使わないで解決したよ」
     え? と兼弘の言葉を聞いて彼らは顔を上げた。
    「君達が手に入れたいものは、導師リオの教える力で得られるものではない」
    「力があっても苦しさって晴れないんだよね。後からどんどん増えちゃって」
     宗嗣と鈴莉が彼らの得ようとする力について語る。
    「でもお前たちだって僕らの場所を壊そうと……!」
    「俺達の力はオマエ達を傷つけたか?」
     治胡が子供達に問うと、彼らは押し黙る。そしてバツの悪そうな顔で視線を下に向けた。
    「力を暴力に使ってはいけないよ。それは別の暴力を呼ぶことになる、君達が考えていたように」
    「なら、どうしたら!」
     三月の言葉に叫ぶように返す。
    「諦めない事、勇気を覚悟に変えること、そして抗い続ける事……」
    「そういうのもイイけれど、『Carpe diem』って言葉もオススメするわ」
     こぶしの言葉に続けて信志が言う、不思議そうな顔をする子供達に「一日を大事にして、煩わしい事を気にしないこと」と説く。
    「今はまだ難しいかもしれない、けど俺達や俺達みたいな人がきっと力になってくれる」
     クレイがそっと周りを見やる、灼滅者は人として生きることのスペシャリストでもあるから。その幾分かが彼らに伝わればきっと子供達もなんとか出来るようになるだろう。


    「ヒーローも休みたいでしょうからね。でも……」
    「ヒーローかい。それがどうしたんだ。……クク、ハハハ」
     サイキックの飛び交う中、鈴音の言葉にダンタリオンはあざ笑うように声を上げた。
    「何がおかしいんだい?」
    「確かに『僕』はそんな名前の仮面を好んでかぶっていたと思いだしてね」
     ジリアスの問いかけにダンタリオンは事も無げに言う。
    「ヒーローなんてのは愛やら勇気やらを好き好んで抱えて動く連中の立ち振舞いだろう?」
    「それのどこが笑えるってんだよ!」
     稀星の一撃を紙一重の差で見切りながらダンタリオンはあざ笑う。
    「だって、愛も勇気も君達人間が自分たちの行動を肯定するために、もっともらしく良く聞こえるようにつけた情動の名前だろう? しかも『僕』はそんな実のない概念ですら抱えきれていない。意味のないもので自分を繕おうとしてるなんてまるで裸の王様のようじゃないか」
     ダンタリオンはヒーローという存在を軽い調子で否定した。
    「……こわいのか」
    「は、そうだろうね。恐怖に怯えているに過ぎないさ」
     弾子はじっとダンタリオンを、その奥にいるであろう理央を見抜く。奥歯を強く噛みしめる。
    「さて、おしゃべりが過ぎたようだ。これから君達には力づくでも帰ってもらうとしよう」
     杖をくるりと回せば一面が冷気に覆われる。それによって生じた氷が刃になって灼滅者達の防具を貫き切り裂く。
    「……バカヤロウ……!」
     その冷気の範囲から一歩外に出ていたユリアーネが距離を詰めてダンタリオンに詰め寄り一太刀を浴びせる。杖ごとマントを切り裂きその隙間から黒い何かが見える。
    「グっ……!」
     ここに来て初めてダンタリオンの体が大きくよろめいた。その隙に冷気を桃子の広げた盾で防いだ前衛が一気に踏み込む。
    「撫桐組組長、撫桐娑婆蔵たァあっしのことでござんす!」
    「荒れる風は灰色さ!」
     娑婆蔵とウサギが相手の後方と前方から同時に切り裂く。その体をまとう布は辛うじてつながっているだけでありそこには先程までなかった仮面が覗いている。
    「……ここまで追い込まれるとはね」
     ダンタリオンはふっと笑うとその体が内側から膨れ上がっていく。布を破いて現れくるのは黒い塊といくつかの仮面、そして理央の頭部から顔が剥がれ落ちその仮面の列に並ぶ。無貌の顔面が外に露出しており、おそらくダンタリオンなりの厚意なのだろう。
    「ここからは少し本気を出させてもらうよ。君達もこれくらいの方が話しやすいだろう?」
     目も耳も口も無いけれどね、とダンタリオンは笑う。その立ち振舞いからは未だ余裕を纏っていた。


    「悪魔に体乗っ取られた正義の魔法使い。助けに来た仲間。佳境でボス第二形態。ここでお披露目、この手になんとお前さんの愛剣。熱い絵面だろ」
     娑婆蔵がダンタリオンの姿を見て抜いたのは理央の使っていた醒剣フェイトブレイカー。それを掲げて娑婆蔵は続ける。
    「こういうの好きだろ。あっしも大好きだ。こんな時お前さんはどんな風に根性見せると格好良いと思う? 叫んでみなせえ識守・理央!」
    「お前達に『僕』の何が分かる!」
     ダンタリオンが理央の頭から言わせたのはその叫び。それは理央本人の口調そのものであり、灼滅者達は動きを止めた。
    「……って、彼が喋れたら言っていただろうね。あ、それとも仮面の内側で呟いていただけかな」
     すぐさまにダンタリオンの口調に戻り、相手は話を続ける。
    「君達に親切なボクは『僕』の本当の心を教えてあげよう」
     彼が話すその最中、外から子供達の退避を終えた灼滅者達が複数人戦場へと入ってくる。その中の一人、有無が声を上げる。
    「何も知らぬからこそ教えてくれ。闇は 私に呉れ」
    「いいね。ギャラリーが多いほど語るには楽しいものさ」
     多くの武器が向けられているのにも関わらずにダンタリオンは舞台役者のように読み上げる。
    「僕はお前達が大嫌いなんだよ!」
     それは隠し持っていた彼の感情。
    「いつも僕をバカにして。僕より先にいて」
     思い上がりの劣等感。
    「鬱陶しい、ムカつく、消えろ、死ねってさ!」
     自分勝手な他者否定。
    「助けるだけ無駄だ!」
     甘ったれの一人好き。
    「……とまあ、彼はこんな事を考えていたわけさ」
    「理央さんよ、その気持ちは分かった。けどそれを自分で言わないのは少しばかり違わんかね?」
    「ホントの想いを……理央くんの言葉で教えてよ……一緒にいさせてよ」
     小次郎と燈の問いかけにダンタリオンは頷いてみせる。
    「全くだね、もっと自分に素直に生きれば彼も楽だろうに……ん?」
     ダンタリオンはそこまで言うと周りにいる灼滅者達の様子を見てピクリと止まる。
    「いい加減目を覚ませ!」
    「ナンデそんな姿をしている、「ヒーロー」!」
     隼人と貞明の言葉の通り灼滅者か戦意は尽きていないその様子を見てダンタリオンは驚いた声を上げる。
    「……馬鹿な、人間ならば……。いや君達は灼滅者だったか。それならばここで折れないのも道理か」
     ダンタリオンはそこまで言うと闇色の体を広げ、戦いの姿勢に入る。
    「だが彼は未だ君達の戻る気がないようだ。このまま君達に『僕』ごとボクを殺すことができるかな?」
     そう言ったダンタリオンに向かってジリアスの呼んだ雷が落ちる。
    「僕ならできる。彼が盾になるとは思わないことだ」
     ジリアスの瞳には覚悟の光が灯っている。いざとなれば闇に身を預けてでもダンタリオンを倒す気概だろう。
    「やれやれ、では改めて本気を出すとしよう」


    「さ。ヒーロー、準備はできたかしら。まだあなたの師匠のお話を聞いてないんだから……そろそろ目覚めの時間でしょ。メイガスブラッド!」
     マジックミサイルを鈴音はダンタリオンに放つ、反対に相手は体についた仮面を放ち複数の相手に見えざる敵を差し向ける。
    「ダイちゃん守って!」
     鈴音のダイダロスベルトが傷の多いウサギを取り囲み守る。それでも見えない敵からの攻撃は灼滅者達を苦しめていく。
    「……「『僕』の何が分かる」……分かるわけないだろ……隠していたのは理央じゃないか」
    「怒っているのかい? それも当然だね、『僕』のこれまでの行いを知っていれば」
     ダンタリオンの魔法の矢とユリアーネの光の刃が空中で交錯する。
    「思ってることも好きに言えずに、何が仲間だ、何が絆だ……! 私達はそんなに頼りないか! 信用できないか!」
    「さてね、とりあえず絆とでも言っておけば寂しくないから言っただけじゃないかな」
     言葉と攻撃のやりとりの速度が加速ずる。
    「正義の味方が一人で抱え込まなきゃいけないなんて誰が決めた!」
     光の刃の一つがダンタリオンの体に突き刺さる。体が揺らぎそこに踏み込むのは弾子。勢いをつけて体当たりをしてダンタリオンを押し倒して見下ろす。
    「世界はこわい。失敗もざせつも他人もこわい。泣きたい、にげたい、弱さをはきだして閉じこもりたい。わたしにもわかる」
    「……そこを退くんだ」
     ダンタリオンの放つ霊撃を受けても弾子はその場を離れない。そして手に持った武器を逆手にして振り下ろす。
    「立ちむかえとは言わない。けれど立ってくれ。それだけでいい。おまえを立ち上がらせるために、わたしはここにきたんだ」
     武器の行き先が突き立てられたのは闇と無貌の境界。叫びとともに振りぬかれたダンタリオンの腕がようやく弾子を引き剥がす。それでも彼女はよろよろと立ち上がる。
    「いいか。よく聞け。おまえは今からせいぎのみかただ。わるい悪魔をたおして子供を安心させてやるんだ。かっこいいヒーローはそれをしないといけない。おまえはできる」
     その弾子の傷を癒やすために、この戦場にいるもう一人の理央が駆け寄る。
    「じゃないとできないヒーローにすくわれたわたしの立場がないからやれ。何が何でもやれ」
    「あの時の言葉、私からも返すね。「私達はこの程度じゃ諦めない。だから、キミは自分の闇と戦って、キミを取り戻してよ、理央!」」
     ダンタリオンの中の無貌が僅かに動いた。それはかつて彼のなしてきた事が事実となって目の前に来たためだろうか。狼狽するダンタリオンの前に稀星と桃子が迫る。
    「お前だってオレの何を知ってんだよエラソーに! 知りたいからここに来たんだよ!」
    「ぁあ? 弱虫で意地っ張りで臆病で欲張りで、それがどうした!」
    「そんなもの受け入れてやる、どんと来やがれ!」
     ダンタリオンの腕が二人を追い払おうとするが二人がかりでその攻撃を受け止める。
    「弱いから戦う。負けたくないから立ち上がる。戦いたくないから言葉を尽くし、臆病だから蹲って泣く人と共に泣ける。欲張りだから皆幸せにしたい」
     桃子は黒い腕を押し返し、白い帯を巻いた拳でダンタリオンを殴りつける。
    「識守理央はそういうヒーローだろうがええ? 諦めさえしなけりゃ、物語は何処までも続くんだよ!」
    「今日ばかりはオレもその正義の味方だ! だから友達の帰還も願うし、不幸になるのも止める。お前が言ったんだろ、理央!」
     桃子の反対側から稀星の炎を帯びた拳が突き刺さる。ダンタリオンの闇の部分は削ぎ落とされ、いくつかの仮面は砕けている。その闇に止めをとウサギが歩き出す、ダンタリオンは動けない。
    「……理央ちゃんが強がりなだけの弱虫なんてこと、ウサギちゃんはとっくに知ってるよ」
    「知っていて、何故? その弱さを凌駕するほどに彼に魅力があるのかい」
    「それでも「みんなと仲良くしたい」って、辛くて苦しくても、ヒーローとして誰かを救うって言ってたんだ。だから」
    「仮面でも貫けば意味がある、か」
    「卑怯な手を使うのは、お前が灼滅者を恐れているからだよね」
    「そうじゃないね、これが効率的と判断したからさ。もっともこれからは君達をもう少し脅威として見ることにするけどね」
    「次は無いよ。あっても理央自身が、何があろうと必ず立ち上がると決めているから」
    「……また会おう、灼滅者達」
     ウサギの鬼と化した腕が闇を理央から引きちぎる。それをきっかけにダンタリオンは消滅していき。残ったのは理央の体だけであった。


     ふ、と娑婆蔵が武器を収める。理央を見た感じに生きてはいるようだ。これでとりあえず救出は完了したようだ。ジリアスもまた別の意味で心を弛緩させる、誰も殺めず自身も闇堕ちする必要がなかったがゆえに。
    「これで一件落着だぜです」
     桃子も戦闘が終わって落ち着いてきたようだ、若干口調が怪しいが。
    「……よかった」
     ユリアーネの心の中に引っかかっていたのはカンナビスとの戦いに送り出した時の自身の言葉「私の分まで」。そう言った事をようやく詫びる事ができそうだ。
    「みんなこんな戦いばかりしてんのか……」
     初依頼だった稀星は肩を鳴らすと、店の入口の方に見知った顔がある。オルゴールだ、同じクラブの仲間と子供達を見てこちらを窺っている。同時に彼らの足元で理央が起きる気配を催す。
    「メイガスブラッドには目覚めたばかりで悪いけれど、早速ヒーローのお仕事をしてもらいましょうか」
     鈴音が彼の体を揺する。うっすらと目を開ける理央の手のひらに弾子がメモを一枚握らせる。その中身の結びはこうだ。
    『全力でかっこよくやれ』
     理央の行く末を決める権利は、やっと彼自身の手元に戻ってきたのだ。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 24/感動した 3/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 9
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