マジ斬新コーポとか時代遅れじゃね?

    作者:のらむ


    「ふーん、勧誘? へー」
     とあるブティックの中で、1人の女子高校生が携帯をいじりながら適当な返事を返した。
     そしてその女子高校生に、黄色いシャツを着た5人の男たちが低い姿勢で何かを語っていた。
    「ていうかさー、さっきから斬新コーポががダメだって連呼してるけど、どの辺がダメなわけ?」
     華美弥と呼ばれた女子高校生が、視線を携帯から全く外さないままそう問いかけた。
    「まず社長がトイレットペーパーの上、メガネと髪型も常軌を逸してセンスがありません! あの様な男が社長の会社など、センスに満ち溢れた華美弥様には相応しくはありません!」
     その言葉を聞き終え、華美弥がようやく携帯から視線を外す。
    「あー……やっぱり分かっちゃう? 私のキュートでイケてるセンスが」
    「もちろん! 華美弥さんのメイクと武器は、とても素敵でポップかつキュートで……私共には決して真似出来ません!」
     華美弥のダイダロスベルトとマテリアルロッドには、ピンクと紫と赤と金と青と黄色がグチャグチャに混ぜられた様な目にうるさい色が全体に塗られており、所々にラメもくっついていた。
     華美弥の顔面も、何重にも塗りたくられた化粧によって改造が施されている。ケバい。
    「いやー、私のセンスが分かるなんてアンタら結構見る目あるわねー、ヤバイわー……」
    「そんな素晴らしいセンスを持つ華美弥様は、斬新コーポレーションには勿体ありません! どうか我々HKT六六六への転職を考えては頂けないでしょうか! もし了承していただけるのなら、このTシャツに袖を通して下さい!」
     男達が頭を下げ、HKTTシャツを華美弥に向けて差し出す。
    「んー…………OK! アンタラの方が面白くてヤバそうだし。そこまで斬新コーポにこだわり無いし。そんじゃあちょっと待っててー。着替えたらちょっと転職祝いに近くの高校でいい感じに殺人していきましょ」
    「はい!」
     そして華美弥は試着室でHKTTシャツに着替えると、男達と一緒に仲良く近くの高校へと向かうのだった。


    「詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)さんからの情報で、HKT六六六の強化一般人が、斬新コーポレーションの六六六人衆を味方に引き入れて、殺人事件を起こす事が分かりました。放っておくと、殺人事件を起こして気分を良くした六六六人衆が、HKT六六六に加わるため、九州に向かってしまいます。という訳で、皆さんは現場へ向かい、この殺人事件を未然に防いできて下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)はそう言って赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「勧誘されるのは、華美弥という名の六六六人衆です。華美弥はとあるブティック内にてHKT六六六の強化一般人からの勧誘を受け、これを了承します。華美弥達へ直接接触できるのは、その後華美弥がHKTTシャツに着替え、試着室から出てきた後から、ブティックを後にsるまでの間です。それ以外のタイミングで接触しようとすると、華美弥のバベルの鎖に予知されてしまいます」
     その時、ブティック内には店員、客合わせて6人の一般人がいる。
    「華美弥達はブティック内にいる人々を殺す気は特にありませんが、別に殺さない理由もありません。戦闘に支障が出る可能性がありますので、戦闘前か、戦闘中に逃した方がいいと思います」
     戦闘前に逃す場合は、華美弥達に不審がられないような工夫が必要だろうとウィラは言い、資料を1枚めくった。
    「次は、華美弥達の戦闘能力についてですが……この資料に纏めておきました。後で読んで置いて下さい」
     そしてウィラが灼滅者達に手渡した資料に書かれた内容は、以下の通りである。

    ・六六六人衆、華美弥(かびや)
     ポジションはクラッシャー。殺人鬼、ダイダロスベルト、マテリアルロッドのサイキックの中から5つを使用。
     能力は術式、神秘寄りで、火力が高い。
    ・HKT六六六強化一般人(グラサン)2名
     ポジションはジャマー。殺人鬼、断罪輪のサイキックを使用。
    ・HKT六六六強化一般人(丸メガネ)3名
     ポジションはディフェンダー。殺人鬼、縛霊手のサイキックを使用。

     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「……さて、説明は以上です。斬新コーポレーションのトイ……斬新京一郎社長は、白の王セイメイとの交渉に失敗したものの、今も元気に斬新斬新言ってる事でしょう。彼が再び何かの動きを起こす前に、斬新コーポレーションの戦力を削ぐことは、重要かもしれません……という訳で、お気をつけて。皆さんが無事に、依頼の成功を収められることを願っています。お気をつけて」


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    蒔絵・智(喪失万華鏡・d00227)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    万事・錠(ハートロッカー・d01615)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)
    切金・菖蒲(愛と正義の小悪魔・d25849)
    芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)

    ■リプレイ


    「ふーん、勧誘?へー」
     とあるブティックの中で、六六六人衆、華美弥が、携帯をいじりながらメガネ達の話に適当な相槌を返していた。
     カランとブティックの入り口の扉が開かれる。
    「へー。見た感じ結構いい服揃ってるみたいだね。ちょっと店内見て回ろうか」
     扉を開けた芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)が、そう言って物珍しそうに店内を見回す。
     そして優生に続き、他の7人の灼滅者達も次々と現れた。
     一瞬だけグラサンの1人が灼滅者達の方に顔を向けたが、特に何の反応も示さずに華美弥の方に向き直る。
     スレイヤーカードを解放するなどの怪しい行動を取るものはいなかった為、灼滅者達はすんなりとブティック内に入ることが出来た。
     そして各々散開し、灼滅者達はさり気なく華美弥達と一般人達の間をブラブラと回る。
     そして話は進み、華美弥はHKTTシャツを手にして更衣室の中に入る。
     戦闘の始まりは近く、灼滅者達は僅かな緊張感を覚えた。
    「よっし、着替え完了! それじゃ、近くの高校に――」
    「Slayer Card,Awaken!」
     華美弥の声を遮り、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)の澄んだ声が店内に響き渡る。
     そして、白夜の如く淡い白光を放つ剣、光剣『白夜光』を携え、アリスは華美弥の前に立つ。
    「なっ……テメェ一体なブゴッ!」
    「華美弥様!!」
     更に華美弥の言葉を遮ったのは、東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)が放った魔の弾丸だった。ちなみに顎にクリーンヒットした。
    「あ、ごめんなさいね華美弥ちゃん。まあでも、こっちも本気で行かなきゃマズイから今日の所は勘弁してねッ!」
    「顎狙うとかマジでヤバイわー。脳が揺れたわー…………」
     そう呻きながら顎をさする華美弥。
    「リリース……さあ、始めようか!」
     蒔絵・智(喪失万華鏡・d00227)がスレイヤーカードを解放し、刃が8つに分かれる鞭剣、『尾噛』を構えた。
    「アンタ達逃がしたら、沢山の人達が傷ついちゃうもんでね。悪いけど、ここを通すわけにはいかない!」
    「あー? あー……なるほど、アンタら武蔵坂の灼滅者ね? 獄魔覇獄で何か勝ちやがった」
     華美弥はそう吐き捨てながら、毒々しいという言葉だけでは表現しきれないドギツイマテリアルロッドとダイダロスベルトを装着する。
    「グワッ! 何だそのケバベルト! しかもTシャツも冗談みたいにダセエ! 止めろバカ目が発酵するワ!」
     楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)が物凄いオーバーな動きで華美弥から後退り、ゴミを見るような目で華美弥をちら見していた。
    「…………」
     二重の意味で物凄い形相の華美弥が、盾衛を睨みつける。
    「そんなに睨んでもなァ……実際そのTシャツださいぜ? Tシャツだけじゃ無えけど。いや、マジでマジで」
     万事・錠(ハートロッカー・d01615)が真顔で華美弥に言い放ち、同時に店内へ膨大な殺気を放った。
    「………………」
     更に眉間の皺が深くなる華美弥。
    「ほう、社長はトイレットペーパーだが、おまえさんはカビがテーマか。さすが斬新だな、すばらしい」
     切金・菖蒲(愛と正義の小悪魔・d25849)が、無表情かつ棒読みでそう投げかけながら、最高潮に気の抜けた拍手を華美弥に送った。
    「…………………………」
     全身の皺が全部寄ったんじゃないかという位に眉間の皺が深くなる。
    「そういえば、名前もカビさんなんだっけか?」
     そんな感じで、灼滅者達は華美弥を煽りまくった。
     結果、
    「ンだとテメェら黙っテ聞いてりャア調子に乗りやガって!! ブチ殺ス!!!! アンタラも協力しなさい!!」
     華美弥に促され、武器を取り出す強化一般人達。
     そんな感じで華美弥がヒートアップしている間に、ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)はちゃっかり一般人達の避難誘導をほぼ終えていた。
    「とっても危ないからお外に避難、だよ? ほら、あそこで危ない人が叫んでるでしょ?」
     ティルメアはそう言いながら、最後に残った店員を外へ出した。
    「私を怒らせた事を後悔させてやるわよこのクソ共がァ!!」
     そして、ケバい女子高校生とメガネの混成団と、灼滅者達の戦いが始まった。


    「アンタさっきはよくもボロクソ言ってくれたわね!!」
     華美弥が、菖蒲目掛けてダイダロスベルトを射出する。
     華美弥が1番ムカついたのが、菖蒲の挑発だったのだろう。
    「くっ……! 聞いた通り強力な攻撃だが……狙い通りだ」
     身体を刺し貫かれて傷を負いつつも、挑発が上手くいき僅かに笑みを浮かべる菖蒲。
    「ちょっと待って、すぐに回復するからなあ」
     スレイヤーカードを解除し、黒いマスクを装着した優生が、菖蒲の傷を癒すためにダイダロスベルトを菖蒲に伸ばす。
     その帯は菖蒲を包み込み、傷を癒していった。
     そして改めて武器を構え、優生が華美弥と対峙する。
    「美人は飾らなくても美人、ってなあ。そんな格好してるようじゃ気づかないか?」
     優生がそう華美弥に投げかける。
    「フン、私は飾っても飾らなくても美人よ。アンタにはこのセンスが分からないでしょうけどね……やりなさい!」
     華美弥の指示に従い、グラサン野郎が断罪輪を構えて九字を唱え、呪法を後衛に向けて放つ。
    「そうかなあ、華美弥のセンスは目がチカチカする分斬新の社長よりも酷いと思うし、絶対にそのメイクは取った方が美人だと思うけどなあ」
     優生は自らのダイダロスベルトを自身の前に展開する。
     そして放たれた呪法をその帯で受け止め、爆発から身を守った。
    「さて……っと、あなた達の内部争いや派閥争いに興味は無いけれど、就職祝いだなんてそんな気軽な理由で人を殺させるわけにはいかないわ!」
     夜好は神経を集中させ、自らの指に嵌めた指輪に魔力を集中させ、生成した弾丸を次々と放っていく。
    「だったら他に何しろって言うのよ」
     心底訳が分からないという風に呟き、華美弥が杖を夜好に叩きつけた。
    「痛ぅ……ッ、さすが、イマドキのやる気無さげ風女子高校生でも、六六六人衆ね……!」
     夜好は体内で引き起こされた強烈な爆発に嫌な汗を流しつつも、ニヤリと笑って更に華美弥に攻撃を仕掛ける。
    「やらせるか!!」
     メガネ強化一般人が夜好の前に飛び出し、華美弥を庇う。
    「そう……それじゃあ、まずはあなたから沈めてあげる!!」
     夜好が強化一般人の胸をトン、と押すと、そこに紅き逆十字が刻まれる。
     そして幻覚に囚われた強化一般人は、縛霊手で自身の胸を引き裂きながら倒れていった。
    「これで1人。まだまだ先は長いねえ」
     智はそんな事を呟きながら、丸メガネ強化一般人の丸メガネを鬼の拳で叩き割った。
    「さて、いきましょうか。斬新コープだろうがHKTに移ろうが、屑っぷりに変わりは無いわ。どちらにせよ、叩き潰すまでよ」
     アリスは光剣を構えると、華美弥に向けて駆け出す。
    「それに貴方は、六六六人衆にしても悪趣味が過ぎるわ。しかもその癖、真の邪悪が持つ凄みは持ち合わせていない。まだまだ温いわね」
     そう言ってアリスは白く輝く刃を勢い良く突き出す。
     その刺突は立ち塞がった強化一般人が受け止めたが、刃は心臓を深く抉り、そのままバタリと地面に倒れた。
    「ふん……だったらアンタらは何なのよ。ダークネスの力を借りなければ戦うことすら出来ないアンタらは!!」
     華美弥は声を荒げながら後ろへ跳ぶ。
     そして杖をブン回すと、巨大な竜巻が前衛に向かって放たれた。
    「少なくとも、あんたみたいに人生なめてるガキよりは、ちゃんと立ってるつもりよ」
     即座にアリスは自らの周囲に、五芒星の形に護符をばら撒く。
     アリスを中心とした、白く輝く防壁が構築され、竜巻はアリスに傷一つ付けることが出来なかった。
    「室内で竜巻とか、止めてくれないかなー、並んでた服がただのボロ布になっちゃったよ」
     ティルメアがそう言いながら、丸メガネをかち割られた強化一般人にガトリングガンを撃ちまくり、そのまま仕留めきった。
    「おいおいどうしたどうした、もう前衛はお前1人じゃねえか」
     錠はそう言ってニヤリと笑い、腕に嵌めたミサンガを掲げる。
     そのミサンガから星座盤の様な巨大な盾が現れ、前衛が受けた傷を回復させていく。
    「こんな雑魚ども、最初から大した戦力になるとは思ってないわよ」
     吐き捨て、華美弥は錠に向けて杖を振り下ろすと、錠は咄嗟に縛霊手を突き出してその攻撃を受け止める。
    「……お前のその顔なら、すっぴんもイケると思うけど」
     そんな緊迫した状況で、不意に錠がそう投げかけた。
    「イケるイケないの問題じゃないっつーの。素の顔を見せるのが嫌なだけよ」
    「そうか。だったら俺がお前のメイクをもっと綺麗にしてやるよ。テメェの血化粧ってヤツでなァ!!」
     腹を蹴り飛ばし、僅かな間を作った錠は、縛霊手を大きく振りかぶる。 
     バン!!
     という爆音が店内に響き渡り、放たれた豪腕は華美弥の顔を強く打ち付けた。。
    「ク、ソがああ!!」
     どす黒い怨嗟を含ませた声で、華美弥が叫ぶ。
    「イイ顔になったじゃン。まあ顔のケバさは消えてねえけどナ!!」
     盾衛はそう言いながら、戦場を見渡す。
     残る敵の数は3体。華美弥の攻撃の威力が超ヤバイから、さっさと攻め落とさねばと考える盾衛だった。


    「さてさて、次に狙うのは……グラサン強化一般人かな?」
     ティルメアはそう言いながら穏やかな笑みを浮かべ、片腕を異形化させた。
    「くそ……華美弥様をHKTに連れ帰るまで諦めないぞ!!」
     ビシッと断罪輪を構えるグラサン。
    「いやー、悪いけどそれは諦めてねー」
     ティルメアはグラサンにやさしい笑みを投げかけながら、突撃する。
    「援護するわ」
     アリスはティルメアの援護をするため、魔法を詠唱してグラサンの足元を凍りつかせた。
     その隙に、ティルメアはグラサンの懐まで潜り込んでいた。
    「えい」
     そして鬼の拳をグラサンの顔面に叩きつけ、壁に叩きつける。
    「ウザイっつーの!」
     次の瞬間、華美弥が放った帯がティルメアの全身に突き刺さった。
    「グッ……何するんだよ、痛いなあ」
     激しい痛みがティルメアを襲ったが、尚も穏やかな笑みを浮かべ、ガトリングガンの銃口をグラサンに向ける。
     ズガガガガガガガガガ!!
     放たれた無数の銃弾がグラサンに追い打ちをかけ、そのまま意識を失い倒れていった。
     更に味方の数が減り、華美弥が舌打ちをする。
     激しい戦いに華美弥の顔にも汗が浮かび、塗られた化粧がドロドロになってかなり酷い事になっていた。
    「はー、そこまでくると下品って表現がお似合いよ。同じ今を生きる旬の女子高校生として恥ずかしいったらありゃしない」
     智が呆れた様にため息を吐く。
    「女の子は、やっぱり自分を見せてなんぼでしょ? メイクは、それをちょっと助けてくれるだけでいいのよ」
     智はそう華美弥に投げかけながら、バベルブレイカーを構えて最後のグラサンに突撃する。
     放たれた杭はグラサンの胸に突き刺さり、グラサンは胸を抑えながら意識を失っていった。
     そして華美弥が、無表情のまま共に帯を放つ。
    「…………悪いけど私はアンタと違って、自分を見せる為にメイクしてる訳じゃない。逆よ」
    「……逆? ああ、成る程」
     智は尾噛の刃を展開させて振るい、放たれた帯を全て弾き返した。
    「自分に自信がないのね」
     智のその言葉に、華美弥は何の反応も返さなかった。
    「そろそろヤバくなってきたんじゃない? 華美弥ちゃん!」
     夜好は再び魔力を集中させ、機銃のように魔弾を撃ち放つ。
    「…………クッ」
     全身が痺れあがった華美弥の動きが、はっきりと鈍くなる。
     そんな華美弥の顔面に、突如として腐った生卵と発酵しすぎた納豆が投げつけられた。ヒドイ。
    「何すんのよこのチビ!!」
     納豆を投げつけた張本人、菖蒲に向かって華美弥が吼える。
     言うまでにも無いが、華美弥の顔面は溶けた化粧と血と生卵と納豆で酷いことになってた。子供が見たらきっと泣く。
    「まあまあ、とりあえず落ち着こうか。ほら深呼吸、深呼吸」
     徹底的に煽っていくスタイルの菖蒲。
    「アンタだけは絶対に殺す!!」
     そしてドギツイ色の帯が前衛に放たれ、菖蒲の身体を絡めとって締め付けた。
    「ググ……そんなにムキになるから、足元がお留守になってるぞ」
    「は?」
     次の瞬間、菖蒲が密かに伸ばしていた影が巨大化し、華美弥を飲み込んでトラウマを見せた。
    『この化粧、カビさんによく似合うと思うんだ。気に入ってもらえたかな?』
    『ねぇねぇ、今どんな気持ち? 納豆で化粧するってどんな気持ち? NDK? NDK?』
     そして影から吐き出された華美弥は、顔を青くして立ち上がった。メイクで違いはあまり分からなかったけど。
    「んー、そろそろこっちの体力もキツくなってきたなあ」
     優生が癒しの風を前衛に放ちながら、そう呟く。
     ただでさえ強敵である六六六人衆に加え、強化一般人5人を相手にした灼滅者達の受けた傷も、決して浅くは無かった。
    「それじゃあこの辺で決着付けるとしようぜェ、斬新ケバケバ女!!」
     盾衛は自在刀『七曲』を多節棍の様に分解させ、鎖剣の形にして構える。
     そしてブンブンと振り回し、超高速で旋回させていく。
    「チィッ! この私が1人も殺せないまま撤退するなんてヤバイ事になる筈が……!!」
     そして杖を構えた華美弥だが、攻撃が放たれる前に、灼滅者達が一斉に攻撃を仕掛ける。
     夜好が赤き逆十字を華美弥の胸に刻み、
     智が放った鋭い帯が右肩を貫く。
     菖蒲が放った糸が華美弥の全身を縛り付け、
     アリスが放った斬撃が華美弥の腹を斬り裂く。
     錠が放った影の触手が足元を掬い上げ、
     優生が縛霊手の爪で左肩をズタズタに斬り裂く。
     ティルメアの放った帯が華美弥を捕縛し、
     盾衛が鎖剣をブンブン振り回しながら華美弥に突撃する。
    「いっそ脱いどけ、この有害前衛芸術物体Xがァ!!」
     強力な回転と共に放たれた斬撃は、華美弥の全身の様々な方向から斬りつけ、華美弥は身体に無数の傷を負った。
    「グゥッ! くそ、せめて1人くらい殺…………いや」
     怒りよりも自身の命の安全を優先した華美弥は、脱兎の如く外に向けて駆け出した。
     灼滅まで想定していた者は少なく、華美弥の逃走を防ぐ行動をとった人物もまた少なかった為、華美弥はそのまま戦場から離れることができた。
     もちろん逃走を防いでいれば、灼滅者達もそれなりのリスクを負うこととなってはいたが。
     その華美弥の背に、盾衛が言葉を投げかける。
    「オイ、一言いいかね……ケッバァァァァァァい!」
    「死ね!!」
     シンプルな悪口を残し、そのまま華美弥はどこかへと消え去っていった。
     
     こうして戦いは終わった。
     HKT六六六の戦力を削り、一般人の死者をゼロに抑えたという戦果を手にし、灼滅者達は帰路についたのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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