遊べ! 二宮金治郎!

    作者:三ノ木咲紀

     福岡県のある中学校の陸上部員が、校庭で短距離走の練習をしていた。
     弱小陸上部ながらもエースを張る椎奈(しいな)は、コーチの指導のもとスタート位置について走り出した。
     いつもなら何も考えずに駆け抜けるのだが、その時は違った。
     ざわつく周囲に、思わず後ろを振り返る。そこには、二宮金治郎がいた。
     正確には、校庭の片隅にある二宮金治郎像が、椎奈を追いかけてきた。
     薪を背負いながら読書する少年の銅像が、夜中に走り回るという七不思議は椎奈も知っていた。
     だが、まさかこんな部活中に堂々と走り回るとは思いもしない。
     しかも、椎奈を追いかけてくるのだ。
     そのあまりの迫力に、椎奈はゴールを過ぎても走り続けた。
     銅像もまた、椎奈を追いかける。
    「鬼さんまて~! 待てったら待て~!」
     子供のような声を上げながら、二宮金治郎像は一定の速度で走り続けた。
     徐々にスタミナが切れて、足が鈍くなった椎奈は、ついに銅像に追いつかれた。
    「つ~かまえた!」
    「も、もう追いかけるの、やめてよ!」
     息を切らせながら叫んだ椎奈に、銅像はニヤリと笑った。
    「走らねぇ銅像はただの銅像だ」
    「バカッ!」
     思わず反応した椎奈は、後頭部に走った衝撃に意識が暗転する。
     追い抜きざま、薪で椎奈を殴った二宮金治郎像は、倒れ伏した椎奈を薪でつついた。
    「お~い。次はキミが鬼だよ~」
     答えない椎奈に、二宮金治郎像は頭を振った。
    「寝ちゃった。しょうがない。他の子をつ~かま~えよっと!」
     二宮金治郎像はくるりと向きを変えると、騒ぎ出した陸上部員達に向かって走り出した。


    「いやまあ、確かに銅像のニノキンはんは、遊びたい盛りやろうけど。これはいただけんわ」
     未留来・くるみは、頭をかくと納得がいかない表情で唸った。
    「しゃあないな。天生目・ナツメ(大和撫子のなり損ない・d23288)はんと、千布里・采(夜藍空・d00110)はんから、『九州の学校でようさん都市伝説が実体化して事件を起こしてまう』っちゅー報告があってん。場所が九州ばっかやさかい、HKT六六六やうずめ様が関わってるかもやけど、まだ分からへん。何にせよ、このままやったら、ようさん被害が出てまう。解決に向かったってや」
     事件が起こるのは、福岡県内のある中学校。
     クラブ活動中の陸上部員である椎奈が、百メートル走の練習中に襲われる。
     周囲には部活中の陸上部員十名ほどがいる。少し離れた場所では他の運動部員が部活中で、通りがかる学生たちもいる。
     介入できるのは、椎奈が走り始めてから。
     都市伝説は、鬼ごっこのつもりで椎奈を追いかけている。工夫すれば、椎奈を避難させることも可能。
     二宮金治郎像は遊びたいので、殺気を放ちながら攻撃をすると逃げてしまう。
     また、五ターン目までに二宮金治郎像を灼滅できなかった場合、逃げられてしまう。
     逃げられた場合、後日改めて再戦となる。
     その場合、椎奈が無事なら椎奈を、そうでなければ別の陸上部員を追いかけるところからとなる。
     全力で遊びに付き合いながら、攻撃するといい。
     二宮金治郎像は最初鬼ごっこを挑んでくるが、他の遊びを提案しても良い。
     知性もあるので、説得による弱体化もある程度有効。
     足場と広さに問題はない。時刻は夕方のため、灯りも必要ない。
     ポジションはディフェンダー。マテリアルロッドに似たサイキックとシャウトを使う。
    「銅像は銅像らしゅう、大人しくさせたってや! それとな、なんやこの事件、何者かの気配を感じるんや。襲ってくることはなさそうやけど、事件解決後は早う帰って来たってや! 皆の安全が何よりやさかい。頼むで!」
     くるみはにかっと笑うと、親指を立てて送り出した。


    参加者
    ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)
    華槻・奏一郎(抱翼・d12820)
    天草・水面(神魔調伏・d19614)
    風見・真人(狩人・d21550)
    興守・理利(藤廻向・d23317)
    ヴィア・ラクテア(ジムノペディ・d23547)

    ■リプレイ

     北風が吹き抜ける校庭で、椎奈はスタートラインに立った。
     コーチの声と共に走り出した椎奈の後ろに、二宮金治郎像がこつ然と姿を現した。
     そのまま椎奈を追いかける金治郎像に、アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)が併走した。
    「鬼ごっこかい? 仲間に入れて欲しいな」
     アイナーの言葉に、金治郎像は振り返った。
     驚いたようにアイナーを見る金治郎像に、華槻・奏一郎(抱翼・d12820)も併走しながら声を掛けた。
    「なぁ、俺達と遊ばない? 暇してるんだ。皆は部活中だしさ、相手してくれよ」
     敵意なく笑顔で誘う二人に安心したのか、金治郎像は足を止めた。
    「いいよ! じゃあ十数えるから、お兄さん達も逃げてね! いーち……」
    「お、いいもの持ってんじゃん」
     天草・水面(神魔調伏・d19614)が興味深そうに、金治郎像が背負う薪を指差した。
     金治郎像は嬉しそうに薪を一本取り出すと、カッコ良く構えた。
    「えへへ、いいでしょ! これでいつも、タンレンを欠かさないんだ!」
    「じゃあそれで、チャンバラをしよう。この腕章を付けた者同志、敵味方に分かれるんだ」
     金治郎像に二色の腕章を示しながら、風見・真人(狩人・d21550)は金治郎像に提案した。
     真人の提案に、金治郎像は薪を振り回した。
    「チャンバラ? いいね! 剣術は武士のタシナミだもんね! ねえねえ、どうやって組分けする? 必殺技はあり?」
    「もちろん! でもまだ友達が来るんだ。多い方が、楽しいだろう?」
    「お友達いるの? いいなーいいなー! 僕はいっつも一人だから、お友達欲しかったんだ!」
     無邪気にはしゃぐ金治郎像に、アイナーは言い含めるようにルールを説明した。
    「いいかい? この腕章を付けている人とだけ遊ぶんだ」
    「なんで? もっとたくさんの人と遊んだ方が楽しいよ!」
     下校途中の女子生徒に手を振った金治郎像に、アイナーは首を横に振る。
    「君の力は普通の人には強過ぎるんだ。それで遊べなくなるのは、皆、辛いだろう?」
    「……僕の力、そんなに強いのかなぁ?」
     首を傾げる金治郎像に、真人は頷いた。
    「そうだね。金治郎君は強いから、俺達と遊ぶ時もハンデが欲しいんだ。いいかな?」
    「……。いいよ。遊べる人がいなくなっちゃうのは、つまんないもんね!」
    「ありがとな!」
     友達に接するように肩をポンポン叩く水面に、金治郎像は嬉しそうに頷いた。


     金治郎像が走り始めたと同時に、ヴィア・ラクテア(ジムノペディ・d23547)は声を上げた。
    「今日の部活動は、校庭のメンテナンスの為に中止です!」
     邪魔されることなく届いた声に、校庭で部活をしていた生徒が立ち止った。
    「部活中止? なんでだよ!」
     サッカー部のキャプテンらしい男子学生が、ヴィアに苛立ったように詰め寄ってくる。
     ヴィアとキャプテンの間に割って入りながら、興守・理利(藤廻向・d23317)は毅然と頭を上げた。
    「今日の校庭での部活動は中止になったようなので、すぐに帰宅して下さい!」
     プラチナチケットの効果で、引退した三年生の先輩に思わせた理利に、キャプテンは首を傾げた。
    「先輩、何言ってるんすか? 夏の大会に向けて、今の時期から……」
    「先生から伝えるよう、頼まれました」
    「先生から?」
     不審そうに首を傾げるキャプテンの後ろでは、他の部員達もざわつき始めた。
     今まで普通に部活で使っていて、特に問題はないグラウンドだ。いきなりメンテと言われて、戸惑っているのだ。
     顧問の教師が前に出た時、花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)が済まなさそうに頭を下げた。
    「ごめんなさい。今日は部活中止です。すぐに帰ってください!」
     ましろから流れる王者の風に、生徒や顧問は顔を見合わせた。
     今の時期は大きな大会もなく、体力作りが主だ。顧問は納得したように頷いた。
    「わ、わかった。……皆! 今日の部活は中止だ! 部室に戻れ!」
     顧問の号令で、生徒たちは部室へと戻る。
     無事に走り終えたらしい椎奈も、他の陸上部員と一緒に立ち去るのが見えた。
     真人はふと、顔を上げた。一瞬業のにおいを感じたような気がして、意識をDSKノーズへと集中させる。
     業の位置や大きさを測ろうとした時、金治郎像の少し苛立ったような声が聞こえて来た。
    「早く早く~! 早くチャンバラやろうよ! 帰っちゃうよ!」
    「おう、やろやろーっ!」
     ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)はすごくいい笑顔で手を振りながら、金治郎像の方へと駆け寄る。
     真人は首を一つ振ると、金治郎像の方へと走り出した。


     合流した皆に、腕章が配られた。
     金治郎像と霊犬の銀は正義の味方、他のメンバーは全員悪の組織の構成員、という組分けに、金治郎像はぷう、と頬を膨らませた。
    「ねえ。いくら僕が強くても、さすがにちょっと不公平じゃないかな!」
    「大丈夫だよ。銀がサポートするから」
     真人の済まなさそうな言葉に、銀が元気よく吠えて返事をする。
    「でも……」
    「一人が心細いんなら、オラが味方になってやんよ」
     サウンドシャッターを放ちながら、水面が腕章を交換する。
    「じゃあおれも、助太刀する」
     理利もまた、自分の腕章を交換し、金治郎側についた。
     これで、四対七。バランス的には金治郎像側が不利だが、水面はにっと笑った。
    「ヒーローなら、敵の数は多い方がいいだろ?」
    「これで一回遊んでみよう。まだバランスが悪かったら、また人数調整するから」
     真人の言葉に、金治郎像は頷いた。
    「そうだね! じゃあ今からスタート!」
    「ほな、いっくでー!」
     明るく宣言したベルタは、クルセイドソードを大げさに振りかぶった。
     ガムテープでぐるぐる巻きになった棒きれをで、金治郎像を袈裟懸けに斬りつける。
    「ぐわっ! やったなー!」
     金治郎像は襲う衝撃にのけぞると、そのまま薪を振り下ろした。
     攻撃のために至近距離にいたベルタに、薪が叩き込まれる。
     重い。こんな薪で殴られたら、一般人ならひとたまりもない。
     ベルタは薪の攻撃に耐えながら、悪代官のように楽しそうに笑った。
    「金治郎、お主も強いのぅ。一般人では敵わぬはずじゃ!」
    「きみも強いや! 僕、ワクワクするぞ!」
    「ボクらが思う存分、遊び相手になってやるわ!」
     悪代官のように高笑いするベルタに、水面が動いた。
    「今がチャンスっす!」
     水面はベルタに追撃を掛けるように、ジャッジメントレイを放った。
     鋭い光条が降り注ぎ、ベルタの傷を癒す。思わず緩みそうになる頬を慌てて引きしめたベルタは、眉間にしわを寄せてのけぞった。
    「ぐわっ! や、やられた……!」
     ベルタは大げさに痛がりながら、戦列へと戻った。
    「ふふふ……やりますね。それなら、これはどうでしょう!」
     意外とノリノリなヴィアが悪役幹部のように高飛車に構えながら、バベルブレイカーを起動させた。
     そのまま真っ直ぐ金治郎像の内懐に飛び込み、抉り込む。吹っ飛ばされた金治郎像に、真人が駆け寄った。
    「これでも、食らえ!」
     真人が振り下ろした拳を、金治郎像は薪で受け止める。そのまま展開した結界が、網状に広がって薪を縛り付けた。
    「あれ? 薪が動かないや!」
     戸惑う金治郎像を庇うように、銀が飛び出した。
     獰猛に威嚇しながら、銀は真人に迫る。真人は銀をチラリと見ると、分からないように小さく頷いた。
     真人の腕を甘噛みする銀に、真人は派手に痛がりながら後退する。
     縛霊手で動きを止めた金治郎像に、ましろのダイダロスベルトが迫った。
     伸びた帯が金治郎像を切り裂く。金治郎像は慌てて本をベルトが届かない位置まで避難させた。
    「本はまた、後で読むから破いちゃダメ!」
    「一生懸命勉強に励んでいた金治郎くんも、本当は遊びたかったのかな?」
     ましろの問いに、金治郎像はふと手を止めた。
    「うん! 皆が遊んでるのをずっと見てて、一緒に遊びたいなって、ずうっと思ってたんだ!」
     ニッコリ笑う金治郎像に、ましろは明るく笑みを返した。
    「じゃあ今日はわたし達と、いっぱい遊ぼうね!」
    「うん!」
    「じゃあ俺とも、遊んでくれよ!」
     音もなく近寄った奏一郎の日本刀が、大きく振りかぶられた。
     上段から放たれる攻撃が、金治郎像を大きく切り裂く。
     そこへ、ペケ太の霊撃が迫る。放たれた一撃は金治郎像を捕え、傷を深くした。
    「思い切り遊んで、楽しもう!」
     アイナーは笑顔で影業を抜き放つと、残影刃を放った。
     鋭いナイフのような影が、金治郎像を襲う。
     重い連続攻撃に、金治郎像は思わず膝をついた。
    「助太刀に来ました!」
     理利は金治郎像の隣から駆け出すと、奏一郎に神薙刃を解き放った。
     わざと軸をずらした攻撃をごまかすように、理利は奏一郎に斬りかかった。
     交通標識を受け止めた奏一郎は、理利の意図を察したように交通標識を受け流す。
     派手なチャンバラが始まった。
     理利の交通標識が上段から放たれ、切り返し胴を薙ぎ、受け止める。
     奏一郎の日本刀が交通標識を受け止め、軌跡を逸らし、大きく打ち込む。
     ひとしきり殺陣を演じた理利は、金治郎像の傍へと戻った。
    「お兄ちゃん達、すごいすごーい!! 僕も頑張ろうっと!」
     大きく拍手した金治郎像は、改めて灼滅者達に向き合った。


     灼滅チャンバラの時間は、楽しく過ぎていった。
     灼滅者の本気遊びな攻撃に、金治郎像も夢中になって応える。
     一方的な展開にならないよう、水面と理利と銀が絶妙なフォローを入れる。
     四分が経過し、金治郎像もかなり傷だらけになっていた。
     ましろはエアシューズを起動させると、一気に駆け出した。
     天空に流星の軌跡を描く蹴りが、金治郎像の脇腹を抉る。
     よろけた金治郎像に、反対側から巨大な腕が叩き付けられた。
     真人の右腕が、巨大な刀に変化する。縛霊手を飲み込んだ刀が金治郎像を吹き飛ばし、大きく割ったような傷を作った。
     大ダメージを負った金治郎像は、にやりと笑うと薪を構え直した。
    「ついに、最終奥義を見せる時が来たみたいだね……!」
     金治郎像は薪を思い切り振りかぶると、薪に雷を纏わせた。
     野球のピッチャーのように大きく足を上げ、ヴィアに向かって狙いを定めた。
     金治郎像と息を合わせるように、理利は風を生み出した。
     味方にダメージがいかないように、グラウンドの土を巻き上げる。
    「合体奥義・薪投げインパクト……!」
     神薙刃を追い風に突き進む薪をまともに受けたヴィアは、予想以上の傷に膝をつくのを何とかこらえた。
     金治郎像が薪投げを使ってくるのは分かる。だが、薪投げインパクトは聞いていない。
    「こんなの予定にないですよ! おのれぇ……ヒーロー!」
     ヴィアはマテリアルロッドを振りかぶると、回転を弱めた金治郎像めがけて振り抜いた。
     軸を崩された金治郎像は、そのままグラウンドに叩き付けられる。
    「さあ、我々の力で君を倒してみせる!」
     アイナーはサイキックソードを構えると、起き上がろうとした金治郎像の死角へと潜り込む。
     金治郎像が受けた攻撃は、一撃ではなかった。
     奏一郎が放った居合切りが、金治郎像を同時に襲う。
     まるで一撃のように見える連撃に、金治郎像は再び地に倒れた。
    「い、たた……」
    「よくも金治郎像をやったっすね! これでも食らえっす!」
    「ちょっと、待って!」
    「薪注意」と書かれたイエローサインを放とうとした時、金治郎像の声が水面を止めた。
     金治郎像はよろよろと体を起こしながら、不審そうに首をかしげた。
    「ねえ、水面くん。さっきから君が攻撃すると、みんな元気になってる気がするよ?」
    「そんなことないっすよ! ほら」
     金治郎像の意見に、水面は金治郎像にジャッジメントレイを放った。
     光条が金治郎像に突き刺さり、銅の胴を焼く。金治郎像は身をよじって光条から逃れた。
    「い、いたたあた! う、疑ってごめんよ!」
     硬い体と高い体力を誇った金治郎像は、蓄積するダメージに肩で息をした。
     逃げたそうに及び腰になる金治郎像に、ベルタは駆け出した。
    「最後の決着や!」
     ベルタは勢いのまま金治郎像をつかむと、金治郎像の体を高々と持ち上げてジャンプした。
    「食らえ! ベルタダイナミック!」
     ありったけのご当地パワーを込めて、グラウンドに向けて叩き付ける。
     すり鉢状になったグラウンドの中央には、仰向けに倒れた金治郎像がいた。
     五分が経過し、いつ逃げられてもおかしくない。だが、金治郎像はそこにいた。
     すり鉢の縁にしゃがみ込んだ奏一郎は、何も言わない金治郎像に問いかけた。
    「たまには、こういう気晴らしもいいだろう?」
    「……うん」
    「チャンバラ、楽しめたか?」
    「うん!」
     奏一郎の言葉を継ぐように、アイナーも語り掛けた。
    「思い切り遊んで、満足してくれたかな?」
    「みんな強くて、びっくりした! だから僕も、全力でチャンバラできたよ!」
    「薪投げインパクト、うまくいったな」
    「みんな驚いてたよね!」
     理利との連携攻撃を思い出して、金治郎像は笑った。
    「じゃあ、もういいよね?」
     ましろの言葉に、金治郎像は大きく息を吐き出した。
    「うん。……お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう! また、遊ぼうね!」
     心底楽しそうな笑顔を浮かべた金治郎像が、だんだん消えていく。
     すり鉢状にへこんだグラウンドには、何も残されていなかった。


     戦いが終わり、真人は気配に問いかけた。
    「そこで見ている人、良かったら少し話さないかい? 敵意は無いよ」
     問いかけると同時に、DSKノーズを使う。
     半径三十メートル以内の業を嗅ぎ分けるも、何も感じ取ることはできなかった。
     周囲を警戒しながら、しばらく待つ。だが、何か出てくる様子はない。
    「あ、これか? 校庭のメンテナンスって」
     校務員らしい中年の男が、すり鉢状のグラウンドに駆け寄ってくる。
     騒がしくなってきた校庭に、顔を見合わせた。
    「……出てくる様子はないし、帰りましょうか」
     ヴィアの提案に、全員が頷く。

     福岡県にある中学校の校庭の片隅に、薪が一本足りない二宮金治郎像があった。
     何の変哲もない金時草像は、今日も笑顔で読書をしていた。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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