The torso

    作者:那珂川未来

     その高校の生徒の間で、とある怪談話があった。

     洋裁実習室に、古いトルソーが四体ある。
     長い年月、生徒の作った色々な服を着て、色々な生徒たちの日常的ドラマを見つめ続け、いつしか人になりたいと思った。
     けれどトルソーというものは、衣服やファッションの陳列に用いるマネキン人形の一種であるものの、胴体部分だけしかない。
     だから、トルソーたちは、夜な夜な学校に居残る生徒を見つけては、一人っきりになっているのを見計らって、腕を奪い、足奪い、少しずつ人の体を作り上げていって――最後の頭部だけを残すのみとなっているとかいないとか。

     まぁ、ここまではよくある話だ。所謂、人体模型や骨格標本が動きだす学校の七不思議の、亜種みたいなものだろう。
     しかし。
     ――ぐちゃり。ぐちゃり。
     そんな噂が現実となってしまえば笑えない。
     事切れれた男の頭は、無理矢理トルソーの胴体に捻じ付けられて。接続部分から、潰れた肉と血が滴るけど、ころこと思うように変わってゆく表情を手に入れて、瞳は狂喜に爛々としていて。
     しかしもう、生命の途切れた肉片は、少しずつ腐っていってしまう。
    『より長持ちで、より美しく、より確実な……』
     そんな声と一緒に、残った残骸はずるずると、新しく出来上がったツギハギの『人間』に引き摺られてゆく。
      
    「君の推理が当たったよ。天生目・ナツメ(大和撫子のなり損ない・d23288)さんと、千布里・采(夜藍空・d00110)さんから、九州の学校で多数の都市伝説が実体化して事件を起こしているという報告があったのは記憶に新しいと思うけど。それに準ずる内容だと思っていてくれて間違いない」
     相も変わらず机に腰掛けたまま。仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)は資料を久条・統弥(槍天鬼牙・d20758)へと差しだした。
    「本当に当たるなんて思わなかったけど……」
     まさかの九州。まさかのHKT六六六及び、うずめ様の関与も疑われる内容。
     統弥は、びっくりしたよと独りごちたあと、その資料を受け取って。
    「学校の七不思議の内容としては資料の通り。まぁツッコミどころはあるけど、あくまで怪談話だからその辺りはスルーしてね。けどスルー出来ないのは、具現化している事。まず、高校へは学生のフリして放課後、部活動もそろそろ終盤に近づく六時ごろに侵入して欲しいんだ。時間も時間だから先生も少ないし、制服の事とか年齢的な心配は気にせずでいいよ」
     そして1階視聴覚室の準備室が、鍵も空いていて潜伏向きなので、そこで時間を潰して欲しいとのこと。
    「本格的な行動は夜9時から。30分程度は、常駐の警備員も屋外施設……柔剣道場とかグラウンドとかを警備してくるから、その間は気にせず行動していいよ。そして、指定の教室の何処かにばらばらに待機して。トルソーは、一人しかいない時にしか現れないんだよね」
     待機場所としては、三階の3Aの教室。二階の多目的室。一階の1Aの教室、そして体育館横の、男子か女子の更衣室どちらか。そこで一人しかいない状態で待っていると、9時10分に各所に一体ずつ現れる。
    「けど、一人じゃないと現れないってなると……」
     結構厳しいんじゃないのという統弥の指摘に、沙汰は頷きつつ。
    「一体が、灼滅者二人で充分対応できる程度の強さだから、四班に分かれても問題ないよ。そして、一人が教室で待っていて、他の一人は、掃除用具箱に隠れるか。それか蛇変身して、鞄や机の中に隠れるとかすれば」
     とにかく、目視出来ない場所に隠れれば問題ない。
    「二人編成で戦うってことなかなか無いけれど。相手がとても強いわけじゃないから、役割分担さえ明確にすれば大丈夫」
     もしも早急な撃破が出来たなら、合流を目指してもいい。各指定の教室までは、走れば二分で辿りつく。
    「トルソーは、四体ともバトルオーラのもの三種と居合切りのサイキックを使用してくるよ」
     属性は、気神系らしい。
    「今現在は、どこかのダークネスの関与の確証はないにせよ、このままでは、警備員が殺されてしまうから」
     卒業だって間近の学校で、こんな悲惨な事件は必要ない。だから、確実に灼滅してと沙汰。
    「何者かの気配は感じるけど、襲ってくる事はなさそうだから。事件解決後は、安全のため、すぐに帰還するようにして」
     無事に帰ってくるのを待ってる。そういって、沙汰は君達を見送った。


    参加者
    ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)
    司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)
    禰宜・剣(銀雷閃・d09551)
    六藤・薫(アングリーラビット・d11295)
    御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484)
    久条・統弥(槍天鬼牙・d20758)
    ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)
    天道・白野威(描き出すは筆のしらべ・d31873)

    ■リプレイ

    ●静かなる傍観者
    「夜の校舎というと、窓ガラス割らなきゃっていう衝動にかられるもんだぁね」
     ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)は、勿論私は良識ある紳士なんでやりませんけどねと、飄々とした顔で嘯きながら、こんと一つ、指先でガラスをつついた。
    「さて……都市伝説とはいえ今回は少々物騒だ」
     何者かの関与が囁かれている、と。そうエクスブレインからの忠告もある本件。目的の教室へと向かう間際、禰宜・剣(銀雷閃・d09551)はそう独りごちる。
     襲ってくる気配はない。
     そう明言されているとはいえ、未知の存在がいるとなれば自然と気も引き締まる。
    「さて、相手が何を望んでいるのかわからないけど、観察してるなら話したいな」
     一方的に見られているというものは、やはり気持のいいものではないから。
     久条・統弥(槍天鬼牙・d20758)は振り返ると、果ての見えない廊下の闇へと問いかける。
     静寂は、彼等の靴音だけを返す。
     謎は今、どこに居るのだろうか。

    ●多目的室
     中庭を照らす光と、非常口の緑色の光に、悪戯っぽい表情が浮かんでいて。
     机に腰掛け足をぶらぶせさせながら、一人トルソーの出現を待つハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)はとても楽しげ。
     そんな彼女とは逆に。息を潜め、ロッカーの中から様子を伺うジュラルは、微かに通気口から差しこむ明かりをぼんやりと見つめている。
     程なくして時が回れば、ずるり。妙な音が天井から降ってきて。
     綺麗な円を描く平らな首が、こちらを羨ましそうに見下ろしていた。
    「まってたよお」
     にんまり。ハレルヤは双眼を細めながら。ご挨拶がわりに降ってきた刃物を、ひらりかわす。
    「そんなとこに居たなら、さっさと出てきゃぁいいものを」
     掃除用具ロッカーは快適とは言い切れませんでしたねーと、ジュラルは文句を零しながら蹴り開けると、
    「ナノッ!」
     ナノナノ・軍師様の解き放つしゃぼん玉と絡む様なイオン粒子。トルソーの腹へと光を散らす。ハレルヤのリングスラッシャーが内容物を摘出して。
     衝撃に揺らいだトルソーだが。持ち直しながら、全身に羨望を表す様な色を練りあげ。
     唯、動物の中で笑いを表現できる部位。頭という最後の部品を求め、オーラの塊を吐きだして。
    「羨ましい? そお? ボクなんてもう、身体なんて忘れたよ。使い物にならなくなっちゃったもん。けど、コレがボクの物じゃあ無くたって動いてるんだし」
     くすくす笑いながら、満足できない意味わかんなあいと不思議がる様に首を傾け。
    「キミを頂戴。でも貰ってばかりじゃ悪いよねえ……」
     軍師様への攻撃を真正面から庇い出て。爛々と輝く金色のびーどろ玉のような目、ジュラルの放つ渦巻く様な炎を映し。嬉々とした斬撃を補佐する癒しの力が広がれば、突きぬく弾道は腐肉を噛み砕いて。
    「ボクのと取り換えっこしよっか♪」
     足りない部品を求め、彷徨うトルソー。捻って、千切って、その傷口に繊細な感情いだかず取りつけるさまは、まるで『カラダ』を無くした自分によく似た都市伝説。
     古びた布の体に突き刺さった、しなびた腕へと走る銀色。狂おしげに戦いの渦中に踊るハレルヤを、ジュラルは冷静に見定めて。軍師様のふわふわハートに全て任せ、自身は軽薄な微笑を浮かべつつイオン砲を構え、照準を定めて。
    「ヘッドショットの醍醐味は――まぁ無いものに文句は言いませんがね」
     鮮血と、しゃがれた腕が同時に舞う中。ジュラルは影の中を静かに滑り、死角へ回って。
     中身のこぼれ始めた胴体。心の臓を見抜いた瞳と、指先がトリガーを引いたのは同時。
     マズルから迸る光線が、トルソーを背中から射抜いて。
    「確か3コールで出なきゃ戦闘中と判断だっけかな」
     炭と化してゆくトルソーにはもう目もくれずに。ジュラルは早々に連絡を回す。

    ●3A
     夜の教室に、月から零れた光が奥まで差し込んでいた。
     その乏しい光の中、ずるずるとつきはぎの体を引き摺ってやってくる影。
     首なしの、トルソー。
    「人間に憧れた、か……付喪神みたいなものなのかな?」
     そんな淡い光を顔に受けながら、統弥は誰にでも無く呟いた。サイキックエナジーの所為とはいえ、形を与えられた不運には同情も覚えて。
     ふわり。ロッカーの中から床へと降りる御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484)。統弥の感情に共感もあったのか、神への祈りを捧げ、物悲しい存在への慈悲を願う。
    「……可哀想だけど、犠牲者を出すわけにはいかないからね」
     首なしトルソーしわがれた手に握る刃で、刎ねる様に薙いだ。すかさずフォローに入ったのは、フローレンスの霊犬・シェルヴァだ。
     刃の一撃に、軽くバランスを崩したものの。気合いと共に放たれた統弥の螺穿槍が、隊列の乱れを最小限に抑えて。
    「彷徨う哀れな魂よ、神に捧げる曲を聴きなさい!」
     シスター服を靡かせ、指先と爪先が刻むリズム。セイクリッドギターが震わす音色に、シェルヴァは動きのリズムを整えて。机を足場に地を蹴ると、くわえた斬魔刀を振るいあげた。
     血飛沫咲く体に、何も感じぬまま。トルソーは羨望を固めた弾丸を発射する。
     喰らい付く様な一撃に散る、蒼の寄生体。
     咄嗟響き渡る、弦をはじく音。フローレンスのクレセント・ライトより解かれた矢を後ろ手に受け止めたあと、統弥は霊刀・陽華を抜刀する。
     一閃に散る赤。
     次いで、羨望の刃に舞う蒼。
     フローレンスの指先は、例え一弦であろうとも、癒し爪弾き神の如き先見の力を統弥へと届け。シェルヴァが追撃の弾丸を横へと反らし、六文銭を高度から振りまいてゆく。
     キンキンと床を跳ねた金属音。弦をはじく音と重なって。
    「憧れるのは自由だよ。でも、その歪んだ叶え方を断つ!」
     潜り込むように間合いへと詰める統弥の寄生体が膨れ上がり、霊刀・陽華の斬撃に加わる、追撃の爪先。
     壁まで切り飛ばされる左足。
     支え失った体、地に伏せるより早く響き渡った、鮮烈な鎮魂歌。
    「さあ、神の歌を聞きなさい!」
     神を讃える天使の翼のように、フローレンスの爪弾く音色に合わせて踊るダイダロスベルトが広がった。
     ちぐはぐな体。憐れみ隠すように純白の帯が絡まり、悲しきトルソーを天へと誘うように。
     ピリオドが討たれたその時、都市伝説は跡かたもなく消滅していて。
    「統弥さん、お怪我の具合は?」
     清楚な仕草で伺うフローレンスへ、統弥は柔らかな表情浮かべ。
    「大丈夫ですよ、フローレンスさん」
     このまま救援の必要そうな場所へと行きましょう。戦闘態勢は維持したまま、教室を抜けて。

    ●女子更衣室
     小さなすりガラスだけから光差す女子更衣室は、闇も濃く不気味さを増している。
     そんな中に、薄汚れた体だけのトルソーが、人間から奪い取ったとされる歪んだ四肢を振り回しながら襲ってくるのだから、都市伝説と頭でわかっていても、心霊系は苦手な司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)の口元は引きつり、顔真っ青。
    「……想像はしてたけど、この都市伝説、想像以上に怖いよ!?」
     これが単純に強面ダークネスならそうはならなかったのだが――逆に人狼である天道・白野威(描き出すは筆のしらべ・d31873)は、そういった人々の畏れにも等しい感情そのものである今回の都市伝説は、血の宿命もあるのか、強い使命感を顔に映し。
    「出たね。その穢れ、祓わせてもらうわ!」
     古びた石剣に風纏わせ解き放てば。穢れを調伏する流れは、まるで文字を描くかのよう巧みに踊る。
     散り散りと体をさらわれようとも、呻く事も叫ぶ事もない無言の怪奇は、何とも言えない不気味さだ。鋭い音を立てて奔る、銀の一閃をスレスレで避けて。銀河は突っぱねる様に、ダイダロスベルトを前方へと解き放って。
     天の川の様に流れる白銀の輝きが炸裂しようと、トルソーは機械的なまでに動きを止めず。
     くすんだ赤色に妬みを込めて。ぶち放ったオーラの弾丸が、逆に星屑にしてやらんと。
     旋回しながら横っ腹を穿ってきた一撃。
    「道返玉……彼女を護って」
     白野威の解き放つ輝く勾玉。銀河は癒しの力と一緒に受け取って。
     踏みこみSgr A*に収束させた一撃が、トルソーの腹に真黒な穴を開けて。
     けれど痛みを知らないトルソーは、無言のまま刃を振り下ろす。
     空を切る音。銀河の頬に血が浮いた。
     傷の一片も残すことなく。穢れ払う力、守るため。白野威の勾玉が、再び銀河へと輝き放ち。
    「人になりたくても、人を殺した時点でもう人にはなれないよ!」
     それはもう悪鬼としか呼べないと。心霊ものの嫌悪感とも戦う銀河の一撃は、流星の如き勢い乗せて。
     星弾けるが如く、魔力の残光と共に破裂する。
     ぶるぶると、白野威のポケットの中で電話が震えている。
     誰から。なんて確認している場合ではないが、一つ事が済んだのだと理解する。
    「道返玉……輝け!」
     次なる痛みを鎮める為に、白野威はシールドリングを解き放って。
     大ぶりで落ちる、トルソーの刃。障壁が完全な刃の侵入を拒みながら。
    「次は、本当の人として生まれる事を祈るよ」
     先に開けた黒点を結ぶように、打ち込んだ一撃は、綺麗に体を分断する。
     ずるりと崩れるトルソーは、存在意義を無くして消えてゆく。
     見た目がアレなだけに精神的にきつかったのか、銀河は安堵の息を吐き出して。
    「そういえば、先程電話がかかってました」
     着信通知を確認しようと、白野威が電話を取りだした時、廊下から靴音が聞こえた。

    ●1A
     両手をポケットに突っ込んだまま、六藤・薫(アングリーラビット・d11295)は教室の中へ。
     それにしても、と。山暮らしで学校にあまりいけなかったからか、武蔵坂学園へ来た時は、あまりのマンモス学園っぷりに未だ窮屈さだとか、居心地の悪さだとかを感じている。だからなのか、普通の教室ってこんなもんだったかなと、ガラリとしている内部は妙に寒々しさを感じて。
    (「これも都市伝説の所為なのか」)
     見回したところで、勿論マネキンの類などはここにない。しかし蛇になって隠れるには事欠かない場所だ。
    「そろそろ準備するか」
    「ああ、そうだな」
     薫と剣はそう言って、蛇変身。
     顔を見合わせる蛇が二匹。しまった。お見合いになってしまった。なんて二人の頭の中にそんな言葉が過ったかもしれない。だが、時間的な余裕もいくらかある。今回は、現地調整の効く範囲。
    「ここは年長の私が囮になろう」
     変身を解く剣。体力的にも立ち位置的にも適任だろう、と。
     気を取り直して。
     薫が蛇の状態で、剣の傍の机に隠れて息を潜め。剣は教室の中央にて出現を待てば。
     感じた気配の先、教室の隅から蠢く何かが飛びかかってきた。
     煤けた布製の胴体。奪い取ったという噂の四肢はミイラの様に細く干乾び不気味さを強調していて。
     仄暗い世界に、金属が閃く。
    「その刃が生徒へと凶行に及ぶ前に、潰させてもらおう」
     刃物の一撃にも怯まず、剣は鬼神の力を腕に宿らせて。打ち返し、薫から届けられたシールドリングを旋回させながら。返しの刃は黒の一閃。
    「模型が歩き回る話はよくあるけど、手足が欠けてる分、余計不気味だな……」
     薫はポケットに手をつっこんだまま、周回させているリングスラッシャーを操るかの如く揺れるダイダロスベルトに意識を繋いだまま、注意深くトルソーの無残な姿を注視していた。或は飛んでくるかもしれない攻撃にも、気を張っているのもそうだが――ツギハギの四肢はもう、手足とは呼べぬ程に朽ちていて。
    「……そもそも、そうまでして人になりたい理由すら、作りものなんだよな」
     一人無愛想に呟きながら、三度目のシールドリングを飛ばす薫。
     剣が巻き起こすカミの風が、トルソーをきりきりと捻る様に吹き上がる。
     勢いに腕一本欠けようが只管に、無言で、向かってくる不気味な体。投げつけた羨望のオーラが、剣の肩に深い傷を置いていって――。
     一体何処が、その生命の底になるのか。痛みも何も持たぬ存在故に、明確に疲労が分かりにくく。けれど見た目通りならば、限界も近いはずだと薫は見解きながら。
     剣は先程震えた気がした携帯を軽く見やって。その前に潰すべくカミの風放ち。
     これで幾度目か――薫が生み出す円環が確実に剣の防御力をあげたことによって生まれた傷の浅さ。
    「都市伝説とはいえ、必死だな。だがあたしは、相手がだれであろうと変わらない。全霊を以て挑むのみ」
     ティアーズリッパーの一撃を、するりとかわして打ち込んできた拳。
     追撃に、一片の赤が散る。
     けれど。
    「シェルヴァ、行きなさい!」
     早めに始末を終えていたフローレンスと統弥が、教室の中へと飛び込んで。
    「ったく……これで不気味な姿も見おさめにしようぜ」
     薫の体から、ダイダロスベルトが解き放たれる。
     フローレンスの奏でる音色に世界を泳ぐかのようにしなりながら、無残な都市伝説の存在をかき消した。

    ●傍観者の行方
     戦闘後、ジュラル、剣、統弥、ハレルヤが、小動物に変身して、物影から何者かが現れないか、待つことに。フローレンス、薫、銀河、白野威は、後ろ髪引かれながらも、学園に灼滅の報告を持ち帰るために、先行して帰還する。
     すでに警備員も、校内の巡回に入っていて、一度だけした気配の正体は、まさにその人。
     それから、一向に何かが起こるわけでもなく、ただ静かに時間だけが経ってゆく。
    (「だあれもこないねえ――」)
     猫姿のまま、ハレルヤは小さくあくびをした。
     動物になって、物影に隠れているのがいけないのだろうかとハレルヤは考えるが――エクスブレインの話では、「何者かの気配を感じるけど、襲ってくることはなさそうだから」と言っていた。だから、自分たちが此処に着た時点で、その何者かは此処に居たことになる。
    「んー、かくれんぼしているなら見つけてあげるべきだったかなあ?」
    「虎穴に入らずんばなんたらというしね。待ってるだけじゃあ、照れ屋なお相手さんは顔も見せてくれないという事だぁね」
     やるならもうちょっと詰めるべきでしたかねぇと、変身を解いたハレルヤに続いて、元の姿に戻ったジュラルは、軽く頭を掻いた。
     行動を起こすべきだったのかもしれない。見ているだけの相手に接触するための、具体的でアクティブな行動が必要だったのかもしれない。
     今から探したところで、それは居るのかもわからない。いや、居ない可能性が高い。相手が、もとよりこちらへの接触をする気はないという事は、こちらに勘付かれた場合を想定して、接触に動きだす前に撤退している方が自然だろう。
    「襲いもせず、ここに居た理由はなんだったのだろう……」
    「いやそもそも、どうしてここにそいつはいたんだ……?」
     統弥剣は首を捻る。
     これに関わる謎の片鱗を、掴むことは叶わず。
     少し、この謎に、踏みこんで考えてみる必要がある様に感じられた。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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