転職するならHKT

    作者:天木一

     駅の改札を通り抜けたところで、コート姿の男がぼんやりと人々を眺めていた。
    「あの、小田原さんですか?」
    「なんだお前は?」
     その男に話しかけたのは、冬だというのにTシャツ姿の若い男だった。
    「実はこのあたりにとんでもなく強い人がいるって聞いたもので」
    「何だ、それは皮肉か?」
     男の眉が釣り上がるのを見て、若者は慌てて手を横に振る。
    「いえ! まさか、ただ入った会社が悪かったんですよ。斬新コーポレーションなんてぽっとでの組織じゃあないですか。あんなとこじゃどんな力を持っててもダメですよ」
    「まあそうだな……」
     若者のおだてに男は深く頷く。
    「小田原さんの力は斬新コーポレーションみたいな弱い組織じゃあ上手く使いこなせないんですよ。どうです。その力をHKT六六六で活かしてみませんか?」
     若者が背中を見せる。そこにはTシャツにHKTと書かれていた。
    「いい趣味だな」
    「そうでしょ! このTシャツが着たくて入る奴も結構いるんっすよ!」
     Tシャツを褒められて若者は嬉しそうに笑う。
    「どうです、入ってもらえたらTシャツはいくらでも支給されますよ!」
    「まあいいだろう。どうせ暇をしてたところだしな。入ってやる」
    「ありがとうございます!」
     Tシャツを受け取ると男は早速着替える。
    「それで、こんな駅で一体何をしてたんすか?」
    「ん? ああ、人が多いと獲物が見つけやすいからな。ほら噂をすれば……」
     その視線の先に居たのは似合わぬ赤い口紅を塗った2人の女子高生だった。
    「あれっすか?」
    「そうだ。俺はな、赤い口紅を塗った若い女が苦悶に口を歪める姿が大好きなんだ! 叫び、涎を垂らし、だらしなく口が開く姿を想像するだけで……!」
     想像するだけで堪らないと、男は恍惚の表情で自らの体を抱きしめるように腕を回す。
    「はぁ、そうなんすか。じゃあ早速やっちまいますか?」
    「そうだな。転職祝いにパーッと派手にやってしまうか」
     ニヤリと男が哂うと、いつの間にかその手にはロープが握られていた。
     
    「やあ、説明を始めるよ。また新しい事件が起きるみたいなんだ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が集まった灼滅者に話を始める。
    「HKT六六六の強化一般人が、斬新コーポレーションの六六六人衆を勧誘するみたいでね。そのついでに殺人事件が起きるみたいなんだよ」
     詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)からの情報で発覚した事件だ。情報を無駄にしない為にも、敵の動きを阻止したい。
    「このままだと一般人を殺した後に、HKT六六六に入る為に九州に行ってしまうんだ。みんなには六六六人衆を倒してこの事件を防いでもらいたいんだ」
     六六六人衆を襲撃する好機でもある。
    「六六六人衆の名前は小田原喜一。それとHKT六六六の強化一般人だよ」
     強化一般人の方は戦力として殆ど役に立たない。六六六人衆と集中して戦えるだろう。
    「敵が現われるのは駅の改札を入ったところだよ。人の多い夕方だから気をつけて」
     帰ろうとする人々が賑わう時間だ。戦闘が派手になれば巻き込む人も出てくるだろう。
    「斬新コーポレーションの斬新京一郎社長はセイメイとの交渉に失敗したみたいだけど、まだまだ健在なんだ。新たな行動を開始する前に、少しでも戦力を削いでおきたいからね。お願いするよ」
     誠一郎の言葉に頷き、灼滅者達は駅での戦いを想定して作戦を考え始めた。


    参加者
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)
    山城・榛名(高校生神薙使い・d32407)

    ■リプレイ

    ●転職
     日の沈み始める時間。寒くなってきた中、電車から降りた人々は早足で立ち去っていく。
     そんな駅の構内を赤い口紅をつけた2人の少女が歩く。
    「やれやれ、もうすぐ高校生になるとはいっても、僕に口紅は早いか……」
     自分で似合わないと思いながらも、字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)は仕方ないと首を振る。気になるのか口元を触ろうとして、口紅が乱れると思い手を止める。
    「どうでしょう、上手く塗れてますか?」
     隣で同じく赤い口紅をした銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)が顔を向けて自信無く尋ね、戦う前だというのに緊張感の無い会話に2人は顔を合わせて笑い合う。
     2人が進む先、人の行き交う改札の近くで、寒い中HKTと書かれたTシャツ姿の2人の男の姿があった。
    「噂をすれば……早速獲物が現われたな」
    「あれっすか?」
     男達は望と紫桜里という獲物を見て動き出す。
    「ッ……動いた。こちらも仕掛けるぞ」
     ダークネスを見張る巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)は、鋭い頭痛に顔をしかめながらも足を踏み出す。
    「HKTに再就職させるわけにはいきませんね。ここで仕留めましょう」
     花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)が殺気を放ち、一般人が近づかないように脅えさせる。
    「無差別に人を殺そうとしている奴が居る! 早くここから逃げろ!」
     それに合わせ周囲に居る一般人に向け精神波を放ったエリアル・リッグデルム(ニル・d11655)が、拡声器で鋭く指示する。何も考えられず声に従って人々は逃げ出す。
    「こっちだ、ここから逃げろ!」
     騒がしい中でも、踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)の声ははっきりと届く。その指示に従って人々は押し合うように改札の外へと出て行く。
    「きゃあっ」
    「慌てないで、前に進んでいれば大丈夫!」
     エリアルは押し飛ばされて転んだ少女を抱え、飛ぶように駆けて敵と離れた場所へと運ぶ。
    「んん? 何の騒ぎだこれは……」
     訝しげに似合わぬTシャツを着た男が周囲を見渡す。
    「貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら?」
     月姫・舞(炊事場の主・d20689)の持つカードが消え、その手には大きな鞄が握られていた。
    「どういう結果になるのか、試してみましょう」
     鞄から取り出した剣を振るう。すると刀身が鞭のようにしなって伸び、刃の嵐が渦を巻いて2人の男の全身を切り刻む。
    「敵っすか!?」
     Tシャツの似合うチンピラ風の強化一般人が頭を抱えて刃から逃れ、慌ててオーラを纏うと自らの傷を癒した。
    「何者かは知らんが、手を出してきたんだ。やり返さなくてはな。だがまずはあの若い女2人を殺る。他の奴はそれからだ」
     ロープを手にした男が舌なめずりをして、望と紫桜里に向けて殺気を放って呑み込む。
    「好きにはさせません」
     嫌悪に満ちた目で敵を見た山城・榛名(高校生神薙使い・d32407)は、黄色い標識を突き立て仲間に力を与えた。

    ●HKT
    「さぁ、その赤い唇が歪む様を俺に見せてくれ」
     楽しそうに両手に持ったロープを張ったり緩めたりしながら小田原が近づいてくる。
    「苦悶に満ちた顔が見たければやってみろ。僕達はそう簡単じゃないぞ?」
     望は向かって来る小田原に向けて帯を撃ち出す。帯は投げ槍のように小田原の肩を貫いたが、小田原は口の端を吊り上げたままロープを構えて迫る。
    「いいねぇ。抵抗するほど絶望した時の顔が際立つんだ」
    「……征きます」
     自分を奮い立たせるように呟くと、紫桜里は向かって来る小田原に剣を振り太股に斬りつける。
    「ははっ、どっちから楽しもうかな」
    「先に俺の相手をしてもらおうか」
     2人の口元を見ながら小田原がロープを投げようと構えると、そこへ横から踏み込んだ冬崖は巨大なハンマーをロケット噴射させて振り下ろす。ロープを張って受け止めようとする小田原の体を勢いのまま吹き飛ばした。
    「まずは機動力を奪いましょう」
     背後から近づいた焔は赤い大剣を低く薙ぎ、小田原の脹脛を斬りつける。
    「大丈夫っすか!?」
     駆け寄ったチンピラが小田原にオーラを分け与えて傷を癒す。
    「あら? なりそこない相手にバックアップを受けるなんて、支援がないと満足に戦えない程弱いのかしら?」
    「なんだそれは、挑発のつもりか? 話を聞いて欲しいんだったらまずは赤い口紅を塗れ」
     ロッドを叩き込む舞が挑発すると、ロープで受け止めた小田原は、口元を見て興味を無くしたように視線を外す。するとロープが蠢いて舞の体を拘束した。
    「へへっ小田原さんが興味ないなら。オレがやっちゃってもいいっすよね」
     男が身動きできぬ舞に向けて腕を伸ばす。だが手が届く前に、腕がぼとりと地面に落下した。
    「うわぁっ!?」
     飛来した光の刃がチンピラの腕を斬り落としたのだ。
    「待たせたな、避難は終わったぞ」
     光の剣を手にした釼が戻り、敵を囲むように位置を取る。
    「次の電車が来るまでには決着を付けたいね」
     そう仲間に声をかけながら、共に駆け戻ったエリアルは影を伸ばして小田原の体を呑み込んだ。
    「すぐに戒めを解きます」
     榛名が風を起こすと、舞の体を縛るロープが緩み、その間に舞はロープから脱した。
    「いでぇ!」
     チンピラは何とか拾った腕を繋げようとオーラを集中する。
    「目障りね……さっさと死んでくださる?」
     笑みを浮かべながら冷たく言い放った舞が鞄を開けると、中から現われた影の腕がチンピラを切り刻んで命を奪った。
    「もうやられたのか、まあいい、2人の女を可愛がったらさっさと去るとしよう」
     小田原は紫桜里に向けてロープを飛ばす。
    「させん」
     冬崖が左腕を差し込むと、その腕にロープが絡みつく。そして蛇のように締め付け一瞬にして腕の筋肉を断裂し骨を砕いた。
    「ぐっ、これで少しは頭痛が誤魔化せるな」
     激痛と共に力なく下がる左腕、それでも冬崖は右手一本でハンマーを持って振り抜く。
    「猪突猛進か、男に興味はない下げってろ」
     小田原はロープを張り巡らせて攻撃を防ぎ、周囲に結界の如くロープが張られ近づく者の行く手を遮る。
    「すぐに治療します」
     榛名が穏やかな風を吹かせて冬崖の折れた腕を繋げた。
    「斬り拓きます」
     前に出た紫桜里がロープを剣で切り払うと、結界が破られ射線が開く。
    「この寒空の中凍て付け!」
     望が槍を振るうと、穂先から飛ぶ氷柱が小田原の足を凍りつかせた。
    「ちっ、この寒い中氷を飛ばす馬鹿がいるか」
     小田原がロープを鞭のように振るい、望の首元へ伸びる。だがその前に割り込んだ焔が大剣で攻撃を受け止めた。そして突進すると反対の手で持つ剣を押し当てる。
    「抉ります。痛いですよ?」
     モーター音が轟き、剣の刃が駆動して小田原の体を削るように切り裂く。
    「このっ! 口紅してない奴は呼んでないんだよ!」
     小田原はロープを焔の足に巻いて吊り上げ、大きく揺らすと振り子の勢いで壁に叩きつける。
    「斬新社員としては全く普通の出で立ちなんだね」
     エリアルがTシャツ姿の小田原に不躾な視線を送る。
    「ふ、このTシャツが羨ましいのか? だがお前にはやらんぞ」
    「全然?」
     エリアルは馬鹿にしたように首を振ると、一気に駆け寄る。捕らえようと迫るロープをすり抜け、禍々しい釘バットを叩き付けた。
    「斬新だろうがHKTだろうが、やるべき事は変わらん」
     続いて釼が跳躍すると飛び蹴りを放つ。すると小田原はロープを張って受け止めた。
    「理不尽を、不条理を、今度こそ止めるために磨いてきた力だ……此処で使わずして、何時使う」
     着地するとそのまま流れるように動き、縛霊手で小田原の顔を殴り飛ばした。

    ●死の恍惚
    「まったく鬱陶しい奴らだ。俺はそこの女2人以外には興味が無いんだよ。だからとっとと消えろ」
     尻餅をついた小田原がそのままロープを伸ばして周囲に張り巡らせる。
    「こないだ戦った人事部長は強かったけど?」
     エリアルがロープを打ち払って首を傾げる。
    「キャラ立ちが弱いし斬新会社では大成出来なさそうだよね。それならHKTに行っても同じじゃない?」
    「斬新なんて全然斬新じゃあないな。斬新というのはな、俺の用意したこの何色で塗っても真っ赤に染まる口紅みたいな商品をいうんだよ!」
     自慢げに色とりどりの口紅を見せる小田原に、エリアルは冷たい視線を向けた。
    「くだらないね。センスないよ」
     そして釘バットを叩きつけ、鋸を引くように引っ張ると、釘が小田原の肉を削り取った。
    「ぎえっ」
     痛みに悲鳴を上げたところへ、焔が背後から剣を突き立てた。
    「そんな商品では転職してもダメですね」
     焔は剣を押し込み傷口を拡げようとするが、小田原がその剣を掴んで止めた。
    「どこが駄目だっていうんだ? 血のように赤い口紅は最高じゃないか! お前の唇もこれで塗りたくってやろうか? ああっ想像するだけで興奮する!」
     小田原は焔の体をロープで縛るとその体を放り投げて壁に叩きつける。そして周囲にロープを何十にも張り巡らせていく。
    「またですか」
     張られたロープの結界を紫桜里が次々に断ち切る。だが斬られたはずのロープが網のようになって紫桜里を絡め取った。
    「今度はロープを網目状に枝分かれさせてみたんだが、どうかな、気に入ってもらえたかな?」
     体の自由を奪い、一本のロープが首に巻きつくと天井へと引っ張り挙げられる。息が止まり紫桜里の顔が歪むと、小田原は興奮したように鼻を膨らませた。
    「首吊りの刑だ。さあ最高にエクスタシーな顔を見せてくれ!」
     更にロープは周囲の灼滅者達にも襲い掛かる。
    「流石に一筋縄じゃいかないか。だがそれはこっちも同じだ」
     望は帯を鎧のようにして身に纏い、絞め殺そうと首に巻きつくロープとの間に隙間を作る。ロープは帯を押し潰して首に迫るが、その僅かな間に望は屈んでロープの魔の手から逃れた。
    「邪魔だどけ!」
     釼は光剣を振るい近づくロープを切断する。そして光刃を飛ばして紫桜里を締め上げるロープを両断した。
    「ごほっ……はぁはぁっ」
     落下した紫桜里は咳き込み、大きく空気を吸い込む。
    「ああっなんてことだ! もう少しで絶頂に達せたのに! どうして邪魔をする! 少女の最高に美しい表情が見たくないのか? 見たら絶対病みつきになる。男なら一度は経験しておくべきだぞ!」
     小田原は額に手を当て悲しそうにオーバーアクションをする。
    「少し黙れ、お前の声を聞いていると痛みが酷くなる」
     響く頭痛に冬崖は苦虫を噛み殺したように眉間に皺を寄せ、ローラーダッシュで近づくと小田原に炎を纏った回し蹴りを浴びせた。薙ぎ倒された小田原は地面を転がる。
    「う~ん、あの小田原さん……でしたか。人の趣向に口を出すつもりはないですが……。控えめに言って引きますよねぇ……」
     軽蔑するような視線を飛ばしながら、榛名は紫桜里を癒して首についたロープの痣を消す。
    「貴方はどうやって死にたいのかしら?」
     舞が開ける鞄から影のような布が飛び出して小田原の腕を貫いた。
    「はははっ、死ぬのはお前の方だ」
     小田原は布を引き抜くとロープで輪を作って投げる。舞は躱そうとするが、ロープはまるで生き物のように動いて後を追い、舞の首に巻きつく。
    「そうはさせませんよ」
     焔が剣を振り抜き、ロープが締まる前に斬り飛ばした。
    「僕は宿敵と同じぐらい六六六人衆が大嫌いなんだよ」
     軽い口調ながらも、エリアルの目には嫌悪の光が宿っていた。手にした釘バットを叩きつけ、傷口を抉るように押し込む。
    「その気持ちは分かるな。俺も年老いた女と同じくらい男が嫌いだ」
     傷つきながらも小田原はエリアルに向けてロープを伸ばす。エリアルは執拗に追いかけてくるロープを何度も避ける。
    「男の悶え苦しむ様じゃあイケないんだ。だから死んでくれ、あっけなくな」
     庇う為に前に出た冬崖の体にロープが巻きつく。締め上げられ骨が軋むほどの圧力が全身を襲う。
    「その姿を見てるだけで不快になりますね」
     榛名は黄色い標識を立てて冬崖の痛みを軽減させる。
    「お前が死ね」
     冬崖は苦しみに息を止めながらも前に進み、ハンマーを叩き付けた。
    「がぁっ痛いんだよ! このむさ苦しい男が!」
     冬崖に巻いたロープを引っ張り振り回すと、遠心力をつけて投げ飛ばす。
    「人類……特に女の敵だお前は。これが報いだ!」
     その隙に、槍を真紅に染めて駆ける望はその勢いを乗せて突く。刃が小田原の腹に吸い込まれ、貫く穂先が背中から突き出た。
    「いいや、俺は女に人生で最初で最後のエクスタシーを感じさせてやってるんだ。死ぬ間際こそ人がもっとも気持ちよくなれる時間なんだよぉ!」
     小田原は腹から大量の血を流しながらも、望の首にロープを回した。力強く締め上げ赤い唇が歪むのを愉悦の表情で眺める。
    「なら、最後に貴方はどんな苦しむ顔を見せてくれるのかしら?」
     微笑む舞はロッドを振るう。小田原の背中に叩きつける。
    「がはっげほっ」
    「終わりにしよう」
     咳き込み力が緩んだところへ、釼は足を払い顔面に拳を叩き込んだ。
    「これで……、終わりですッ!!」
     紫桜里は剣を上段に構え、気合一閃、真っ直ぐに振り下ろす。刃が首に食い込んだ。
    「げっはっ……これが死の快感か……」
     首が半分ほど切断されながらも起き上がり、小田原は苦悶と恍惚の入り混じった顔でふらつく。
    「消えろ!」
     望が槍を薙ぎ、首が飛んだ。転がる頭が壁にぶつかって止まる。その顔は気持ち良さそうに哂っていた。

    ●口紅
    「ふぅ、終わったか」
     体中に奔る鈍い痛みを堪え壁に寄りかかっていた冬崖は、頭痛が治まった事に安堵して張り詰めていた力を抜いた。
    「HKTの全容が全く見えないのがもどかしいね」
    「今後もこういうことが増えると思うと頭が痛いですね」
     エリアルが散発的に行動して尻尾を掴ませぬ敵組織に肩を竦め、これからの戦いを想像して焔は大きく溜息を吐いた。
    「何にせよ、犠牲者が出なったのだ。それで良しとしよう」
    「そうですね。あんな趣味の悪い人の犠牲者が出なくて良かったです」
     釼は表情を変えずにただ満足そうに頷くと、榛名も同意して微笑んだ。
    「ふふ、これはもらっていきますね」
     舞はロープを拾い上げると、鞄の中に仕舞い込む。
    「これで口紅を落とせるな」
    「ええ、落としにいきましょうか」
     口元の違和感を早く拭いたいと望が言うと、紫桜里も賛成して2人はトイレへと向かう。
    「俺達も退散するとしよう」
     戦いが終わり人の流れが戻りだした駅内を見回し、冬崖が痛みに顔をしかめながら歩き出す。
    「それじゃあ解散だね」
     エリアルも駅を出て、仲間達もそれぞれ立ち去っていく。
     まだまだルージュの似合う女性になるには経験が足りない。少女達は化粧を落とし、無邪気な素顔で雑踏へと消えていった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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