古典的斬新特訓法

    作者:小茄

    「さぁ皆さん! 皆さんはこの革新的斬新特訓プログラムの記念すべき第一期生です。この特訓を乗り越えれば、必ずや強靭な肉体と精神を手に入れられる事でしょう!」
     閑静な住宅街の一角に、奇妙な一団が居た。
     十代~二十代と思しき若い男達だが、皆レオタードに鉄下駄、腰にはタイヤを結びつけたロープが巻かれている。
    「お母さん、あの人達なぁに?」
    「しっ、見ちゃいけません」
     近隣に住むらしい親子が、視線を逸らしながら足早に通り過ぎる。
    「……あ、あの……」
    「何か?」
    「い、いや……凄く寒いし、重いし、恥ずかしいんですけど……」
    「それがどうしましたか? それこそがこの斬新な特訓の醍醐味なのです」
    「おい、こんな新人研修有りかよ」
    「だよなぁ……ブラックっていうか、求人広告と話が違うっていうか……」
     スーツを着た一団の長らしき男性が高らかに言うが、若い男達は互いに顔を見合わせ、不満げに耳打ちし合う。
    「済みません、やっぱり僕……帰ります」
    「俺も……」
    「あぁーん♪ アイカ、男らしい人だぁい好きぃ♪ 特訓を終えた人から順番にぃ、アイカが御・褒・美……あげちゃうっ♪」
     帰りかけた男達に甘ったるい声色で言うのは、この寒空には不似合いな紐ビキニ姿の少女。
     小麦色に焼けた肌と、煽情的に揺れる豊かな胸が男達の視線を釘付けにする。
     とは言え、である……今時色仕掛け程度でころって態度を変えるとは――
    「さぁ、やろうか」
    「しゃーおらー!! 体育会系の血が騒ぐぜー!」
    「皆さんやる気になって頂けた様ですね。では早速、特訓を開始して頂きましょう!」
     かくして、欲望に素直な男達は、鉄下駄とタイヤの重みに抗い、長い階段を登り出すのであった。
     
    「霧月・詩音(凍月・d13352)のもたらした情報で、ラブリンスター配下の淫魔が『斬新コーポレーション』の強化一般人に協力して、何やら動き始めている事が解りましたわ」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の話によれば、斬新コーポレーションの強化一般人は派遣社員という立場だが、配下を集めて社に貢献しようと考えて居たらしい。
     一方淫魔は、そんな強化一般人をまとめて自勢力に取り込もうと目論んでおり、彼もまた、やり甲斐のある職場であれば転職しても良いと言う想いがあるようだ。
    「大きな事件とは言えませんけれど、近隣住民の迷惑にもなりますし、斬新コーポレーションの配下が増えるのも、我々にとっては望ましい事ではありませんわ」
     彼らの迷惑な特訓行為をやめさせるのが、今回の作戦の主目的となる。
    「淫魔はあなた達と戦う事は望んでいないはずですけれど、接触の仕方次第では敵方に回る可能性もありますわ。なので、彼女の生死は問いません」
     説得すれば引き上げてくれる可能性もあるが、彼女らにとっても戦力の立て直しは死活問題だ。
     
    「強化一般人は、ピチピチのレオタード姿をしたマッチョマン達ですわ。皆が学生時代にスポーツを嗜んでいた様ですわね」
     彼らの武器は鍛え上げられた己の肉体(と闘気=バトルオーラの様な物)のみ。ディフェンダーとクラッシャーが2人ずつ。潔い事である。
    「淫魔は歌や踊りで味方を回復、支援したり、催眠のバッドステータスを与える等の力を持っていますわ」
     参戦すれば、メディックのポジションとなる。
     彼らが居るのは、関東近郊の閑静な住宅街。長い階段のある一角で、否応無く目立つ集団なので接触は容易だろう。
     平日昼間であれば一般人も殆どおらず、足場は広い階段ではあるものの、通常戦闘と同様に考えて差し支えないという。
     
    「白の王セイメイとの交渉に失敗したとは言え、斬新京一郎社長はいまだ健在ですわ。その戦力増強を阻止しておいて損はないでしょう。……それでは、行ってらっしゃいまし」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)
    星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)
    李白・御理(玩具修理者・d02346)
    四津辺・捨六(夢水・d05578)
    メルフェス・シンジリム(魔の王を名乗る者・d09004)
    神隠・雪雨(虚往実帰・d23924)
    アサギ・ビロード(ホロウキャンバス・d32066)
    人首・ククル(塵壊・d32171)

    ■リプレイ


    「斬新!」
    「「斬新!!」」
     不可思議な掛け声と共に、鉄下駄がコンクリを打つ音が住宅街に響く。
     屈強な男達は、鉄下駄に加えてタイヤを引っ張りながら、長い長い階段を駆け上がる。
    「あの人達なに?」
    「見ちゃいけません」
     しかも彼らが纏っているのは、身体のラインが浮くようなレオタード。
    「こんな新人研修有りかよ……」
    「やぁん素敵ぃ♪ アイカ、頑張ってる男の人ってだぁい好きぃ♪」
    「「うぉぉーっ!!」」
     時折羞恥やつらさにくじけそうになる彼らを励ますのは、これまた露出過多な紐ビキニの美少女。煽情的に揺れる胸に、男達は気合を注入されて階段を上り続ける。
    「これ程に斬新な特訓があっただろうか? いや無い。こんな発想が出来る俺は、正社員雇傭間違いなし……ヘッドハントも悪く無いなぁ」
     と、そんな彼らを見て満足げな表情を浮かべるスーツ姿の男。斬新コーポレーションの契約社員ヒロシ。この騒動の仕掛け人である。
    「皆さん! ペースを落とさず、斬新な特訓を続けましょう!」
    「ちょっと待って下さい」
     意気揚々と言う彼に、待ったの声が掛かる。声の主は星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)。そして7名の灼滅者の姿。
    「何ですか、あなた達は……参加希望者ですか?」
    「いえ、先ほどから斬新斬新と仰っていますよね……言いたくないけど『斬新』じゃなくて『変態』にしか見えません」
    「なっ!?」
     白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)の率直な感想に、凍り付く一同。
    「しかもただ変態なだけでなく、その訓練は斬新でないし、大した効果もないですね。まして、こんな目に付く場所で訓練を行えば、情報や技術が盗まれ会社や組織の損失になるのではないでしょうか」
     ピクリとも動かない彼らへ、静かに言い聞かせる口調の李白・御理(玩具修理者・d02346)。
    「ぐ、ぐぬぬ……そんな事は無いっ! 現に彼らは、この斬新な特訓によって生まれ変わりつつある! そもそもお前達は何者だ!?」
     地団駄を踏んでエキサイトし始めるヒロシ。一方レオタードの男達は、顔を見合わせて困惑ムード。彼らもこの特訓に疑問を覚えては居るのだ。
    「そうよっ、難癖つけて一体何が目的なわけ?」
     と、ラブリンスター派の淫魔も憤然たる様子で抗議を始める。
    「あなたがアイカだね? ヒロシの特訓法はデタラメで、あなたは騙されている」
    「だ、騙されてる? どう言うことよ?」
     四津辺・捨六(夢水・d05578)は詰め寄ってくるアイカを制止しつつ、説得の言葉を紡ぎ始める。
    「ラブリンスターさんの為に戦力、増やしてるんですよね? 大丈夫、私達がちゃんと皆さんをお守りしますよ」
    「武蔵坂……? そりゃ、アナタ達の事は頼りにしてるけどさぁ、アタシ達だって戦力は必要な訳よ」
     えりなの説得で、自分達の妨害をしているのが何者かを察した様子のアイカ。しかし、向こうにも向こうの事情がある様で、すんなりと引き下がらない。
    「斬新社員、斬新度、最上。万一、貴陣営、陳腐……斬新社員、裏切。他当推奨」
    「……へ?」
     更に言葉を引き継いだのは、アサギ・ビロード(ホロウキャンバス・d32066)。当人は丁寧に喋っているつもりらしいが、かなり特徴的な話し方をする。初対面のアイカに話が通じるのだろうか、一同の脳裏にそんな不安がよぎる。
    「アタシ達が斬新じゃないかも知れないって言うの?! 会いに行けるどころか、歌って踊ってエッチも出来る(意味深)アイドルグループが斬新じゃないわけないでしょっ!」
     が、やはり言語は心。相手に伝えようと言う意思があればちゃんと伝わるらしい。伝わった上で、反論してくるアイカ。
    「そちらにとって戦力の増強が急務だということは理解しておりますが……とはいえ、無造作に彼らを加えることは学園との軋轢に繋がり兼ねません」
    「えぇ、私達は斬新コーポレーションと敵対していますので、斬新組の戦力増強を見逃すわけにはいかないのです。貴女達と争う気はありませんので、引いて頂けると有り難いのですが」
    「ちょっと待ってよ。何それ、脅し? 大体ね、私達だって減らしたくて戦力を失ったわけじゃないんだけどっ!?」
     学園とラブリンスターとの関係について、現実的な状況を踏まえて言及するのは、人首・ククル(塵壊・d32171)。神隠・雪雨(虚往実帰・d23924)もまた、学園のスタンスを過不足無く伝える。だが学園に事情があるのと同様に、ラブリンスター達にも事情がある。アイカも、口を尖らせ捲し立てる。
    「その新戦力候補が発案した訓練があまりにもダサくて一般人がひいてるのだけど、アイドル派閥がそんな軍団を取り込んだら今よりも更にマイナーになると思うのだけどその辺はいかがかしら?」
    「えっ?」
     と、ヒロシ達を引き込んだ後の事を指摘し始めるのはメルフェス・シンジリム(魔の王を名乗る者・d09004)。
    「それに、裏切らないっていう確証はどこにあるのかしら」
    「そ、それはぁ……」
    「レオタードで鉄下駄の男が増えていいの? ほんとに? 見た目変質者だよ!?」
    「うぐっ……」
     視線を泳がせるアイカへ、矢継ぎ早に問い掛ける朝乃。
    「確かに難も有るかも……」
    「彼奴等、戦闘能力疑問。見極必要。戦闘相手、私達」
     口ごもり始めるアイカに、ここぞとばかりに提案するアサギ。
    「え? アナタ達が戦って確かめるって言うの?」
    「はい……手荒な方法となり申し訳ありませんが、彼らにリスクに見合うだけの力があるのかどうか、私達も見極めさせて頂きたく思います」
     ククルは頷きつつ言うと、今度はヒロシ達へ向き直る。
    「そういったわけで、お手合わせ願いましょうか。私達に劣る程度であれば、斬新コーポレーションはおろかどこの陣営でも厳しいでしょうしね」
    「そんなに自信があるなら、特訓法の成果を実際の戦闘で証明しろって事さ。それが出来りゃ、間違いなく斬新かつ有効って事だ」
    「ここで成果を出せば、正社員へ登用されるかもしれません」
    「な、なるほど」
     ククルと捨六、そして御理の言葉に、ヒロシも納得した様子で頷く。
    「オーケー、じゃあこうしましょ。ヒロシさんとレオタ男達がうちの勢力に相応しいかどうか、ここで見せて貰うって事で」
    「我々はそれで結構です」
    「俺もそれで構わない……ここで実績を得れば、斬新コーポレーションでやっていくにせよ、ヘッドハントされるにせよ、箔が付くには違いないのだからな」
     と言う訳で、どうやら灼滅者達の思惑通り話は纏まった様だ。


    「ところで確認なんだけど」
    「ん?」
    「この戦いに勝ったら、それなりの見返りはあるのか?」
     自分達と関係ない所で話が進んでいく様子に不安を覚えたのか、レオタ男達が尋ねる。彼らとて元々、求人広告と色気に釣られてやってきた哀れな一般人なのだ。
    「もちろん。アイカ、強い男の人ってだぁいすきぃ♪ もうどうにでもしてぇん♪」
    「了解した」
     寡黙な暗殺者が、依頼者から報酬の約束を取り付けた様に無表情で答える男達。
     ――ブチッ! ガシャンッ。
     タイヤを結んでいた縄を、自らの腕で、或いは腹筋の膨張によって断ち切り、鉄下駄を脱ぎ捨てる。完全にやる気満々である。
    「完全に変質者……出来れば戦いたくなかったけど」
     いざ戦端が開かれてしまった以上、速やかに終えるのみである。朝乃はナノナノに援護を命じつつ、歌声を紡ぎ始める。
    「皆さん、今ならまだ戻れます。もっと良い会社、いっぱいありますよ。私には歌しかご褒美はあげられないけど……」
     えりなもこれに続き、愛用の星形ギターを掻き鳴らす。それは厳しい就職戦線で迷走する彼らへの応援の意味もあるのだろう。
    「何卒、尋常勝負」
     一礼しつつ、アサギもこれに合わせて殺気の波に男達を呑み込ませて行く。
    「お前達、社会の厳しさも知らぬ学生に遅れを取るな! コイツらさえ倒せば内定は手にしたも同然だぞ!」
    「「おぉぉーっ!!」」
     が、ヒロシもまた、負けじと彼らを鼓舞し奮い立たせる。
    「空白の5年がなんだ! 俺はやってやる! そして御褒美をゲットするッ!」
     ――ブオンッ!
     凄まじい気魄の籠もった拳が唸りを上げて迫る。
    「正社員の実力はこんなものじゃありませんよ。手加減しては為になりませんので容赦無しでいきますね」
     しかし御理はこの攻撃を紙一重でかわすと、マテリアルロッドを鳩尾に叩き込む。
     ――バシュッ!
    「この俺が、こんな子供に……ぐふっ」
     直撃の瞬間流し込まれる魔力によって、がくりと崩れ落ちる男。
    「なんて事を……彼の人生を賭けたパンチをあっさり撃退するなんて、お前達の血は何色だ!」
    「いやはや、手心を加えては見極めになりませんからね」
     ククルは慇懃に男の抗議を受け流しつつ、夜霧を仲間達へ纏わせる。言葉とは裏腹に、水の一滴も漏らさない戦闘態勢である。
    「目障りだし消えてもらうわ」
    「目障り!? 言うに事欠いて目障りだと?! オラ怒ったぞーっ!!」
     メルフェスの何気ない率直な感想に益々怒りを燃え上がらせる男は、鍛え上げられた肉体から渾身のタックルを放つ。
     ――どすっ。
     が、メルフェスの繰り出した妖の槍によって、あっさりと返り討ちにされてしまった。
    「ところで……今日は口数が少ないのねシャーロック」
     男の命に別状が無いらしい事を確認しつつ、ふと自身の執事たる捨六へ視線を向ける。
    「メル様そっちは星野さんのお父さんですよ!? ……確かに親近感は湧きますが」
     反対方向に居た捨六は、主へすかさずツッコミを入れる。
    「似てます、か?」
     えりなのビハインドたる父親も、前髪で目元が隠れがちではある。
    「てめぇらぁ! んな事どうだっていいんだよぉ! こちとら人生とアイカちゃんが懸かってんだ! 遊びじゃねぇんだよぉぉ!」
     と、緊張感の無いやり取りに、残る2人のレオタマンも激怒。
    (「淫魔の色香に迷って強化一般人になっちゃったんですよねー……可哀想、と思うのも失礼かもしれませんが、なんだか物悲しい、ですね」)
     自業自得とは言え、少し憎めない部分もある彼らを見て、心中で呟く雪雨。
    「もはや許せぬ! くらえぇい! 必殺奥義――」
     再現無く膨張してゆく筋肉によって、レオタードが裂け始める。
     ――ゴシュッ。
    「ぶべらっ!」
     が、それ以上悪化する前に雪雨の射出した帯が男を昏倒させる。哀れみつつも手加減はしない主義だ。
    「己の肉体を鍛える事だけに全てを費やしてきた俺達が……ものの数分でこんな連中に……」
    「この役立たずめ! さっさと倒せ! 斬新トレーニングの成果を示せぇっ!」
    「そ、そんな無茶な……アイカちゃん、何とか言ってやってくれ!」
    「え? あー、アタシ弱い人興味ないんだよねー」
    「なっ?!」
     上司たるヒロシには無茶な指示を出され、アイカには掌返しに冷たい言葉を浴びせられる哀れなレオタ男。社会に出ずして社会の厳しさを知らされると言ったところか。


    「私たちの強さ、解りましたよね? 退いて下さい。そうすれば命までは奪わずに済みますから」
    「汝、就活戦士の心を弁えず! 散っていった彼らの墓前に、内定の報せを持ち帰るまでは!!」
    「そうだ、良いぞ! それでこそ我が斬新特訓により生まれた戦士だ!」
     手を退くように促すえりなだが、レオタ男は尚も闘志を燃え上がらせる。ヒロシもまた、背広を脱ぎ捨てサラシにドスと言う斬新(?)な戦闘スタイルで鼓舞を続ける。
    「では、レオタードの方から」
    「覚悟」
    「本意では有りませんが……」
     ククルはラビリンスアーマーで仲間の傷を癒やしつつ、指示を出す。これに頷くと、自らの腕を砲へ変え、強毒性の光線を放つアサギ。雪雨は言葉の上では仕方なくと言うニュアンスを漂わせつつも、一片の躊躇なく冷たい炎を解き放つ。
    「やらせはせん! やらせは……がはっ」
     最後のレオタも倒れるが、戦いはまだ終わっていない。元凶とも言うべきヒロシが残っているのだ。
    「……役立たずどもめ」
    「貴方も含めて、かしら? シャーロック、援護なさい」
     可愛いもの以外には容赦の無いメルフェス。穂先に氷柱を宿し、ヒロシの心臓目掛けて放つ。彼女の声に素早く反応した捨六と彼の試作一号もまた、死角より一気に間合いを詰める。
    「俺は……俺は役立たずなんかじゃない! コイツらとは違う!」
     氷柱に腕を貫かれ、神霊剣で深々と斬り付けられても尚、戦意を失う事の無いヒロシ。それはまた、彼が既に引き返せない所まで来てしまっている事の証左でもある。
    「戻れる可能性がないのであれば」
    「仕方ない、ですね」
     ――ババッ!
     これまで攻撃に手心を加えてきた御理だが、救えない相手であれば、してやれる事は一つ。閃光の如き無数の拳をヒロシへと叩き込む。ビハインドの父親がガンナイフの引き金を引くと共に、えりなもまた、ギターを掻き鳴らす。
    「ぐ、おぉぉっ!」
    「発想のセンスは悪くないと思いますが……残念です」
     可能であればヒロシとの戦いも回避し穏便に解決することを望んでいた朝乃だが、瀕死になりながら尚も灼滅者に襲いかかって来る手負いのダークネスに、クロスジャスティスを一閃させる。
    「ぐっ……そ、そうか……悪く無いか……初めて、人に評価されたよ……良いもの、だな」
     それは本来、場を収める為の方便だったのだが、朝乃の言葉に微かな笑みを浮かべると、ヒロシは地面へと突っ伏し動かなくなった。


    「ひっく、ぐすっ」
     意識を取り戻し、泣き崩れるレオタ男達。彼らは就職先も、御褒美も失ってしまったのだ。
    「元気、出して下さいね」
    「生きてるんだから、良い事ありますよ」
     と、優しい言葉を掛けて励ます朝乃と雪雨。
    「健闘、祈念」
     アサギも彼らのこれからをお祈りする。
    「私も非効率的で理不尽な訓練でもやらせてみようかしら?」
    「まあ、そんなトレーニングを強要されたら転職前に下克上狙いに行きますね」 
     メルフェスは、足下に転がっている鉄下駄を見つつ聞こえよがしに言うが、捨六は受け流す様に呟く。息の合ったやり取りである。
    「またお会いできたら、よろしくお願いしますね」
    「力が必要なら僕らも手伝います」
     軽く会釈するえりな。ラブリンスターと顔見知りである彼女も、淫魔との戦いを避けられて一安心と言った所。御理もまた、同じ様な事件を起こさない様にと言う意味を篭めてアイカへ告げる。
    「えぇ、こちらこそ。やっぱりアナタ達は強いね、頼りにしてるから♪」
     アイカもまた、そんな二人の言葉に微笑んで、投げキッスを飛ばす。
    (「現時点ではまだ、利用価値がありますからね……お互いに」)
     ククルもそんなアイカに軽く目礼を返しつつ、内心で呟く。

     かくして、はた迷惑な斬新トレーニングに励む一同を撃退し、斬新コーポレーションの派遣社員を灼滅する事に成功した灼滅者達。
     淫魔アイカや、再び就活に励むであろう男達と別れ、凱旋の途につくのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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