竜種、討つべし

    作者:聖山葵

    「フシュゥゥゥ」
     目を閉じ、地面に横たわった『それ』から漏れたのは、おそらく寝息だった。瞳を閉じ、とぐろを巻くように身体を丸めたそれは時折尾を揺らす程度で、動かないからこそなのか、周囲には異常に角の発達した鹿の様な獣達か散らばり、思い思いに草を食んでいる。
    「フシュオ?」
     ただ、そんなのどかな時は唐突に終わりを迎える。突如目を開けた竜種イフリートと呼ばれる『それ』がいきなり身を起こしたのだ。
    「フシュゥァァァ、ガァァァッ」
     一声吠えたかと思えば、先程までの穏やかさを完全にどこかに放り投げ、行く手を塞ぐ木々をへし折り、岩を砕きながらイフリートは走り出す。後に残されたのはただ破壊の跡のみ。加害者は既に走り去っていた。
     

    「竜種イフリートの動きについて報告があったのはもう知っているか?」
     情報提供者である鴻上・廉也(小学生・d29780)の名前を挙げながら君達に問いかけた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、答えを待たずして更に言葉を続けた。
    「京都の朱雀門高校が、竜種イフリートを集めて戦力にしようと画策しているらしい」
     はるひによると、同じ情報が先日竜種イフリートになりかけていたイフリート達からも来ており、同時に協力の申し出も来ているとのこと。
    「もっとも、今回協力を申し出てくれたイフリートは、竜種になりかけたイフリートとは別のイフリートだがね」
     そう前置きしてはるひが口にしたイフリートの名は、チャシマ。先日クロキバを救出した際道案内などで協力してくれたイフリートである。
    「クロキバを救出してくれたお礼、と言う形で今回は協力してくれるらしいな」
     よって彼女と合流し竜種イフリートを灼滅して欲しい、それがはるひの依頼だった。
    「竜種イフリートの数は2、戦闘になればファイアブラッドのサイキックに酷似した攻撃を使ってくると思われる」
     戦力的には、協力してくれるイフリートの存在を鑑みると互角、いやこちらがやや優勢と言ったところだろうか。
    「お礼という形で協力してくれることになっているので、チャシマは君達の指示に従ってくれるだろう」
     ただし、難しいことは苦手なイフリートである。指示の仕方は解りやすく簡潔にする必要がある。
    「ちなみにこのチャシマだが、彼女は炎の盾を作り出し、投げつけたり叩きつけることで敵を攻撃することを得意とする」
     この他、ファイアブラッドのサイキックも仕様可能とのこと。
    「まぁ、盾を使うことから通常は守りを重視して戦うタイプだが、その辺りも君達の指示に従うだろう」
     これはもし何も指示がなければ、ディフェンダーとして戦うということでもある。
    「次に戦場だが、君達がバベルの鎖に捕捉されることなく接触出来る場所は、とある山の中。滝の前にある開けた場所となる」
     水でも飲みに立ち寄るのか、たまたま進路なのかは不明だが周囲に遮蔽物のない広い空間が戦場だ。君達はチャシマと合流後ここに赴き、待機してやって来る竜種イフリート達を待ちかまえ襲撃する形になる。
    「片方をチャシマに任せ、君達で一体の対処をするか、協力して二体と戦うか。戦い方は君達に任せよう」
     いずれにしても朱雀門が竜種イフリートを集めて戦力に仕様としているのならば、それは防がねばならない。戦い方をどうするにしても竜種イフリート達は倒さなければならないのだ。
    「総合的にはこちらの方が若干有利とは言え、油断は禁物だ」
     くれぐれも気を抜かぬよう宜しく頼むよと続け、はるひは君達を送り出すのだった。
     


    参加者
    伊舟城・征士郎(弓月鬼・d00458)
    紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)
    聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)
    東屋・紫王(風見の獣・d12878)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    狗ヶ原・詩稲(せーち会特別諜報部筆頭書記官・d22375)
    清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)
    吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262)

    ■リプレイ

    ●さいかい
    (「私にとって初の共闘相手とまた一緒に戦う……感慨深いの。あの源泉防衛時の臆病系ネコ科イフリート、やっと名前で呼べるの」)
     佇む少女の背中を見つけた小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)は記憶の中にある猫のイフリートと重なる毛並みを見つめ、チャシマと口の端に乗せ。
    『に? ……あ』
     名を呼ばれて振り返ったイフリートの少女は、目を見開いた。反応が示すところ、美海のことを覚えていたのだろう。
    「源泉防衛以来なの。……元気そうで良かったの」
     美海のかけた言葉に尾が揺れる。
    「久しぶりって程でも無いけど一緒に戦うことになるとはなあ。元気そうで嬉しいよ」
     そして、少女と面識のある灼滅者がもう一人。
    『みぃ……チャシ』
     東屋・紫王(風見の獣・d12878)の挨拶に何か言いかけた時だった。チャシマという名のイフリートが他の灼滅者達に気づいたのは。
    「征士郎。よろしく、お願いします」
    「俺は赤マフラーの高斗だ。頼りにしてるぜ!」
     自分を指さして伊舟城・征士郎(弓月鬼・d00458)が深々と礼をすれば、赤いマフラーをなびかせつつ、吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262)も名乗りを上げる。
    『にぃ……チャシマ』
    「会うのは初めてだね。俺は紗守・殊亜。シュアでいいよ。宜しく」
     頷いて自分の名を口にしたチャシマへと紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)は自己紹介がてら挨拶すると、ふいに空を仰いで共闘したイフリートへと思いを馳せ。
    「やっぱり世の中、仲良くできるなら皆仲良くしたいよね、うん」
     仲間で構成された輪の中央にいるチャシマを眺めつつ、狗ヶ原・詩稲(せーち会特別諜報部筆頭書記官・d22375)が自身の言葉に頷いた。
    「チャシマ……よろしくな」
    「にぃ」
     灼滅者の輪の中で聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)の挨拶へも鳴き声で応じるとイフリートの少女は歩き出す。
    「倒すのはボクらがやる。君は背負いすぎなくていい」
     そんなチャシマに清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)が声をかけたのは、仲間と交流する少女へ何処か影を感じたからだった。
    『大丈夫』
     ただ、チャシマはこれに対して首を横へ振る。
    『すれいやー、チャシマ、守ッタ……ダカラ、チャシマ、強クナッタ』
     利恵を見つめ返すは、強い意志を帯び、何処となく悲しげな瞳。
    『モウ、恐レナイ。チャシマ、すれいやー、守ル』
     美海が記憶の中に見た猫イフリートと同じ色の目で灼滅者達を見たチャシマは再び前も向くと、歩き出した。

    ●開戦
    「竜種……初めて対峙することになりますが、まさかこの国で竜とは……」
     滝の前に到着し、待つことと暫し。咆吼に少し遅れて木々の合間に覗く竜種のモノらしき炎を見て、征士郎はちらりと少女の横顔へ目をやった。
    (「竜種といえど同じイフリートの彼女は、これから共闘して同族と戦うことをどう思っているのでしょう?」)
     利恵の気遣いに見せた反応は、ある意味不可解で。
    「さーて、やりますかー」
     ただ、長々と理由について考えている場合で無いのは明らかだった。
    「フシュゥァァ」
     詩稲が地面を蹴ってエアシューズで滑り出したことに竜種イフリート達はまだ気づかず、木々をなぎ倒しながら接触の時を自ずと早める。
    「チャシマ、あいつを狙うぞ!」
    「「ガァッ?!」」
     二体の竜種が敵へ気づいたのは、殊亜が大声で呼びかけた瞬間。
    『解ッタ』
     詩稲の向かって行く方の竜種を殊亜が指し示すのを見たチャシマは短く答えて走り出しながら左手をかざす。
    「WOKシールドじゃ……ないの?」
     生じた炎が形作り始めた盾を見て、利恵は呟いた。やがて完成したのは少女の全身を隠してしまえる大きさの長方形の盾、手の甲に貼り付けて障壁を発生させるコイン型の殲術道具とは、まるで別物だった。
    『シールド・スマイト』
    「ギャウッ」
     先に駆け出していた灼滅者を追い抜く形で前に飛び出たイフリートの少女によるヒーターシールドで横っ面を叩かれた竜種は悲鳴をあげて殴り倒され。
    「ちゃーんす!」
    「グガアッ」
     地面に転がったソレの鼻先に炎を纏わせた詩稲の蹴りが突き刺さった。
    「フシャアアッ!」
     流石に仲間へここまでされればもう一体の竜種も襲撃には気づく。即座に仲間の復讐をせんと竜種イフリートは前足を振り上げ。
    「チャシマ様達の邪魔は――させません!」
     白光と共に放たれた征士郎の斬撃が落ちかかる前足とぶつかった。
    「ッ、フシュウゥッ」
    「っ」
     ただ、純粋な力比べになれば、灼滅者とイフリートのどちらが押し負けるかは言うまでもない。
    「黒鷹」
    「ガッ」
     もっとも、邪魔が入らなければの話だ。主に名を呼ばれたビハインドの目的は攪乱。突如割り込んできた邪魔者に前足を振り下ろそうとしていた竜種の意識を僅かに逸らすだけなら、顔面に見舞われた一発の霊障波だけで充分だったのだ。
    「悪いね。だが、助かった」
     二人の動きにあわせて側面に回り込んだ利恵を竜種から隠すという意味でも。
    「浮気はよろしくないな。君にはボクらの相手をしていてもらおう」
    「シュブッ」
     WOKシールドは隙を見せた竜種の顔面へと叩き付けられ。
    「向こうも抑えてくれてるんだ、さっさと片付けないとな」
     ダメ押しとばかりにライドキャリバーへ備え付けられた機銃が掃射する音を聞きながら、殊亜は見つめる。チャシマへ呼びかけた時、獅子の形に変えた影が今まさに敵へ襲いかからんとする様を。
    「そうだね」
     応じて紫王も帯を射出し、斬り裂かんとする影と共に竜種イフリートを挟み撃てば。
    「フシュアアッ?!」
    「竜種の力を集めさせる訳にはいかんからな」
     斬られ、貫かれたそれへとローラの摩擦で足を炎に包んだ高斗は肉迫し、最後の一歩で宙に舞う。
    「ここで潰すぜ、赤マフラーキィィィック!」
    「ガアァッ」
     なびくマフラーと対を為すよう炎の尾を引き、蹴りは竜種の上半身を捉えた。誰もがこのまま竜種の片割れを仕留めようと連係して放たれた攻撃に、炎を纏わせた身体を大きく傾ぐ。
    「グゥゥ、フシャアアッ」
     ただ、それで倒れてくれる程、甘くもない。
    「流石にそんなにあっさりはいかんか……だが」
     四肢に踏ん張りを効かせ、身を起こそうとする標的を見定めたまま、忍魔は地を蹴った。
    「……天魔光臨、なの」
    「こちらには心強い味方がいる! 負けられん!!」
     慈眼衆の断罪輪を掲げた美海が展開した方陣からは天魔を、大気中のエナジーからは流星の煌めきと重力を宿し、空から突き立たんとする足は鬼の牙。
    「グガァッ」
     もとより傾いていた竜種の身体は追加で加えられた負荷によって倒れ込んだ。

    ●圧倒と苦境
    「フシャァァァァッ」
    「皆、無理はするなよ!」
     満身創痍の竜種を前にして、忍魔が叫ぶ。
    「チャシマ、無理はしないように」
     東屋も重ねてイフリートの少女に声をかけるが、こちらは有る意味で杞憂か。
    『み、大丈夫』
     苦し紛れに叩き付けた一撃から盾を掲げて灼滅者を庇う姿には余裕さえ感じられたのだから。
    「どうした? ボクはまだ立っているぞ?」
     むしろ、状況的に厳しいのは、利恵達の方だった。チャシマに一体を任せるという選択肢があったと言うことは、竜種イフリート一体の戦闘力は灼滅者達八人分に匹敵するのだから。
    「フシュゴアアアッ」
    「っ……悪い、ディープファイア」
     咆吼に一瞬だけ振り返った殊亜の目に飛び込んできたのは、炎の奔流に呑まれて爆散するライドキャリバーの姿。二人とサーヴァント達だけでは抑えておけるのにも限界がある。
    「少し遅かった」
    「グギャアアッ」
    「任せろっ、赤マフラーストライクッ!」
     殊亜の撃ち出した光刃で眉間を貫かれ、紫王からマテリアルロッドで足を殴りつけられた竜種が蹌踉めき、飛び出した高斗が握る交通標識に殴り倒されて地に伏し、消滅する。
    「これで、一体! このまま行かせて貰う」
     標的を失った忍魔は残るもう一体へと向かって殲術道具で殴りかかり。
    「待たせたかな」
    「いえ。東屋様、助かりました」
    「……祝福の風、なの」
     先程倒された竜種同様に傷だらけで征士郎は応じた。そこへと流れるのは、美海の掲げた荒鎮の十字剣に刻まれる祝福の言葉が変換された風。
    「さ、反撃と行こうか」
    「はい」
     戦況は一変した。
    「スナイパーだけに狙いうつ! 弾が出るとは限らないけど!!」
    「グガァァァッ」
     詩稲の無数に召喚した刃で出来た横殴りの雨に苦痛でのたうつ竜種の身体へ、飛来した炎の盾が鱗を削りながら一直線の傷を刻み。
    「借りは返させて貰おう」
     怯んだ竜種イフリート目掛け、利恵が地を蹴る。
    「フグゴッ」
    「清浄様っ」
     視界一杯に迫ったWOKシールドに顔面を殴打され、たたらを踏んだ所へ征士郎がギターをかき鳴らし音波で追い撃つ。
    「ガァァァァッ」
    『サセナイ』
     呻きつつ苛立って竜種イフリートが利恵へと前足を振り下ろそうとすれば、飛び出したチャシマの盾に阻まれ。
    「……デッドブラスター、しゅーと、なの」
    「ガ」
     漆黒の弾丸に前足が上がりがら空きの胴を貫かれた体躯は一瞬硬直するように動きを止める。
    「おっと、ちゃーんす」
    「そのようだ。お前達に罪は無いだろうが、ここで絶たせてもらう!!」
     仲間の言葉に応じつつ忍魔は【鋸引鬼】斬魔を一振りすると駆け出した。
    「フシャッ、ガァッ」
     そこから先は、ほぼ一方的。威嚇の咆吼を上げようとした竜種の顔に超弩級の一撃が叩き込まれ。
    「すみません、ですが――終わりです」
     起きあがる間さえ与えず、次の一撃が振り下ろされる。
    「グ、フシュウウゥ……ガッ……」
    「……貴方達、竜種にはもふもふが足りないの。誕生からやり直すの」
     蹌踉めきつつもかろうじて瞳を開けた竜種はその言葉を理解出来たか、定かでない。
    「……必殺・もふビーム、なの」
     次の瞬間、飛来したビームは意識を永遠に奪い去っていた。

    ●影
    「お疲れさま、そしてありがとう。今日は助かったよ」
     まず、労いの言葉へ感謝の言葉を重ねたのは、紫王だった。
    「ありがとう、チャシマ。今度お礼をさせてくれないか?」
    『に? 今日ハ、チャシマ、オ礼デ来タ』
     続く忍魔の言葉へは首を傾げるが、チャシマからすれば今回の協力自体がクロキバ救出の礼なのだ。お礼をしただけだからお礼して貰う理由にならないと思ったのかも知れない。
    「ともあれ、一件落着だな」
     二体の竜種イフリートは朱雀門へと合流することなく灼滅され、残されたのは灼滅者達とチャシマのみ。
    「なら、もう何の問題もないの」
     美海からすれば、お待ちかねの瞬間。
    「チャシマ」
    「に?」
     声をかけられたイフリートの少女が振り返った時には、既に美海は動き出していた。
    「……久しぶりのもふもふ、なの」
     腕の中に捕まえたイフリートの感触に変化があるのは、以前と違ってチャシマが人型であるからだろう。
    「み」
    「俺の彼女も猫っぽくて可愛いんだよ。少し似てるかも」
     つい殊亜がイフリートの少女の頭を撫でてしまったのは、何故か抱きつかれた瞬間、微かに瞳を揺らしつつも大人しくなすがままにされているイフリートの少女を見てしまったからか。
    「……チャシマの服、着てみたいな」
    「みぃ?」
    「あ、いや、待て……そう言う意味じゃなくてだな、早まるな! 服を脱」
     ぽろっとが零してしまった一言があってあわや大ハプニングが起きかけたが、それはそれ。
    「こういうのっていうのは必要でなくても必要だと思うのよねうん。私も言っててよくわからないけど……まあ人間ってそんなもんなのー」
     お弁当を広げて腰を下ろした詩稲の呟きは、自分に対しても向けたモノだったのか、一つ頷いては美海のおねだりで完全な猫型へ変じつつもふられているチャシマへと目をやる。
    「あのさ、クロキバは――」
    「……クロキバの様子は如何なの?」
     のんびりとした時間。機と見て切り出そうとした紫王の言葉と、腕の中へ前より明らかに大きくなった猫イフリートを抱いたまま美海の問いかけが被る。
    「ご飯とか、ちゃんと食べてる?」
     ワンテンポ遅れて紫王の言葉が続いたのは、元気か、と尋ねかけて全く元気でなかった事を思い出し言い直したから。
    「みぃ」
     短く鳴いたチャシマは少女の姿に戻ると、ワカラナイと首を横に振った。
    『仲間、言ウ。今、一人、シテオク』
     おそらく他のクロキバ派イフリートにでも言われたのだろう。
    『チャシマ出来ルコトスル、オ礼、ソノ一ツ』
    「そうなの……こんなこと言うのは筋違いなおかもしれないけどクロキバさんに手伝えることがあったら手伝うよって言っておいてほしいの」
    『解ッタ』
     自身の告白へ相づちを打った詩稲へ、イフリートの少女は頷きを返すと美海の腕の中を抜ける。
    「またな、チャシマ。クロキバや他の仲間によろしくな!」
    「あ、待ってくれ」
    「み?」
     高斗の声を背に受け、そのまま立ち去ろうとしたチャシマを呼び止め、利恵が差し出したのは、パフェの容器に生肉を詰めたモノ。
    「生か焼いたのが好みかわからなかったので良ければ調整してくれ。他にもあるから、良ければお土産にしてくれ」
    『すれいやー』
     足を止め、器を手にして少女は呟く。
    『チャシマ、すれいやー好キ。ケド、仲良クスル、駄目』
    「そっか、あの時も……」
     悲しげな瞳を見て紫王の中で、先日の道案内を終えた後の姿と今のチャシマが重なる。
    『すれいやー、チャシマ守ッタ。チャシマ、すれいやー守レル様ニ強クナッタ』
     恩ある者の為臆病ささえ克服し、心身共に成長した少女を待ち受けていたのは、沢山の仲間がよりによって灼滅者の手で灼滅されたという結末だったのだ。獄魔覇獄はこの少女の心にも影を落としていたということなのだろう。
    「気にしていたのは、同族と戦うことではなかったんですね」
     もう一度だけ灼滅者の為に戦うとだけ続けて去っていった少女の背は、見送る征士郎の視界からもやがては消え。ただ、滝の音だけが残された。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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