「きゃっ!」
「どうしたの?」
「びっくりした……こんなところに骨格標本あるんだ……」
「あ、そういえばさ、この骨格標本、真夜中になると動くらしいよ」
「ええ……よくある七不思議ってやつでしょ」
「まあそうなんだけどさ。動くだけならまだしも……動いたところを見た人の首をしめてくるんだって……」
「これが……? って何か見てたら怖くなってきた! 早く行こ!」
「みんな集まってくれてありがとう。天生目・ナツメ(大和撫子のなり損ない・d23288)さんと、千布里・采(夜藍空・d00110)さんからの、九州の学校で多数の都市伝説が実体化して事件を起こしているという報告から、また1つ事件が予知できたよ」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が言った。
「今回実体化している都市伝説の存在がわかったのは、長崎県の中学校。噂通りに、真夜中に理科室に入ると、動く骨格標本が入ってきた人の首を絞めて殺してしまうんだ」
今回の一連の都市伝説の出現は、場所が九州に特定されている事から、HKT六六六及びうずめ様の関与が疑われていものの、確証はない、とまりんは付け加える。
「どちらにせよこのままでは多くの生徒が被害にあってしまうから、急いで解決に向かって欲しい」
都市伝説は0時ちょうどに学校の理科室へ入ると現れる。学校は無人、人払いの必要はない。電気も点けることができる。理科室は一般的な40人程度が入れる大きさ。机は作り付けのものが並んでおり、椅子は中にしまわれている。広さは十分といえるが、
「理科室は壁際に水槽がいくつか並んでいるみたいなんだ。生き物が入っているものもあるし、できるだけ壊さないようにしたいよね」
都市伝説は1体のみ。『掴みかかる』『噛みつく』といった攻撃に加え、エクソシスト相当のサイキックも使用してくる。
「それから、やっぱりここでも何もかの気配を感じるんだ。襲ってくることはなさそうだけど、安全のため事件解決後はすぐに帰還するようにしてね。じゃあ、よろしくね!」
参加者 | |
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シェレスティナ・トゥーラス(夜に咲く月・d02521) |
文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) |
居木・久良(ロケットハート・d18214) |
遠野森・信彦(蒼狼・d18583) |
ルーシー・ヴァレンタイン(金欠・d26432) |
ジェルトルーデ・カペッレッティ(撃滅のストラディオット・d26659) |
真神・峯(秘めた獣の心・d28286) |
ベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210) |
●
「昼と夜。違う顔を持つ場所というのは不思議なものだね」
理科室のドアを閉めながら、シェレスティナ・トゥーラス(夜に咲く月・d02521)が言った。
「学校の怪談って結構好きなんだけどね。事件にならないくらいなら、だけど」
居木・久良(ロケットハート・d18214)が言う。
「人体模型はよく動くって聞くけど、まさか骨格標本なんてね……」
と、ライドキャリバーのべんつ五号を伴ったルーシー・ヴァレンタイン(金欠・d26432)。すると、
「う、うごくほね……こわい!」
ジェルトルーデ・カペッレッティ(撃滅のストラディオット・d26659)がこわいのポーズ。
「だ、大丈夫よ、ルーデちゃん。あ、あたしがついてるし!」
「うん、すっごくたよりに、してるよ!」
ジェルトルーデがしてるよのポーズ。
(「ちょ、ちょっと怖いけど、ルーデちゃんの前であんまりかっこ悪い所は見せられないしっ」)
実は強がっているルーシーなのだった。
(「動く骨、コワッ」)
そして密かにコワがっている者がここにも。
(「……ぁ、で、でも、都市伝説だもんネ! なら怖くない! 怖くない、よ?」)
ベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)は自分で自分を納得させている。
「俺も怪談とかはあんま得意じゃねぇんだけど、ダークネスなら怖くないな。幽霊相手じゃ拳は通じねぇからな」
遠野森・信彦(蒼狼・d18583)が言った。
(「それより気になるのが」)
七不思議の都市伝説が九州だけで頻発していること。都市伝説自体は強敵でもないようだが、
「まるで実験しているみたいだ……対象が俺達なのか、都市伝説なのか分からねぇけどな」
「学校の怪談か。さて、裏に何があるのやらだな」
と言ったのは文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)。
「なんというかボクたちも学校を拠点としているからこう、ここまで続くとちょっと心配になるよね」
真神・峯(秘めた獣の心・d28286)が言った。傍らには相棒のちぇっくんがいる。
(「学校で連続して起きるって時点で、何らかの統一した意識が関わってると思うんだけど……」)
「できうる限りは調べて、後に生かせるようにしていこう、なんだよ!」
「うん、裏になにがあるかわからないし、気を引き締めないとねっ!」
ルーシーが言った。事件解決後の調査に備えて、携帯番号の交換やいざという時の脱出経路の確認は済んでいる。
時刻はもうすぐ、0時。
●
0時ちょうど。理科室に入り電気をつけると、教卓の後ろ、カタカタと骨格標本が揺れているのが見えた。
(「やっぱり、こ、こわい!」)
ジェルトルーデは思わずルーシーの影に隠れ、小さくこわいのポーズ。明るいせいで余計に、本物の人間の骨が震えているように見えなくもない。ジェルトルーデ自身のダークネスとしての姿も骨の魔獣。その姿を嫌う彼女の目には、特別な意味をもって映っているのかもしれない。
水槽内のヒーターかエアーポンプか、モーター音が鳴っている。水槽を傷つけないよう戦うと決めている灼滅者たちは、机の隙間を利用し少しずつ間合いを詰めながら、仕掛けるタイミングをはかる。
(「……?」)
不意にシェレスティナは、何かの気配を感じた。正確には『感じたような気がした』だ。他の誰もそのような素振りは見せていない。
(「何だろうね。威力偵察ってやつ?」)
ただ在るだけなのか、視てる何者かがいるのか。そう考えた時にはすでに気配はなく、自分の気のせいだったのかもしれないと思う。だがもし気配が戦闘後にもあるならその時は。まずは目の前の都市伝説を灼滅するために、シェレスティナはDies iraeと黒く刀身に刻まれた真紅のクルセイドソードを手に、機を狙う。
「!」
骨格標本がゆらり、浮き上がった。そして風船か何かのように天井近くまで上がるや否や、ぽっかり空いた目から無数の光線を放つ。
(「むしろ上なら好都合だな」)
怯まず光線の隙間をかいくぐり、信彦は拳に蒼い炎を灯した。水槽はもちろん理科室内の設備はなるべく壊したくない。天井なら電灯に注意した上で叩き落とせばいい。
刹那、後方から標本を弾丸が襲う。久良が握る口笛吹きと言う名の大型リボルバー、454ウィスラーから響く撃鉄を叩き続ける音。普通の使い手と普通の銃では命中率が下がる撃ち方だが、久良には関係ない。確実に命中させ、標本は蜂の巣になる皮膚がないかわりに骨の並びをぐず、と崩した。
「まかせてなんだよ!」
シェレスティナの前に飛び込んだ峯が、ソードの切先を斜め下に向けて眼の前に構え、光線を耐えきる。頷き、緑の髪をサイドへなびかせ振り返るように峯の後ろを抜けたシェレスティナは、標本から目を離さないまま机のヘリを蹴るように飛び、Dies iraeから標本へ白光の斬撃を放った。間髪いれず信彦が、白光散る中へ飛び上がろうとする。が、久良の銃撃とシェレスティナの斬撃で外れたのか腕をだらりと垂らした標本が口を開け、歯をむき出して信彦に襲いかかった。
「っ、」
黒いファイヤーマンコートの肩に血が滲む。骨格標本が噛み付いたのは、ギリギリ飛び込んだ咲哉の、【十六夜】を構えた側とは逆の肩。踏み切りかけた足を踏み込んで止め、体を沈めていた信彦の炎を纏った拳が、咲哉の肩から骨格標本を殴り飛ばした。その対角、壁際を守るように囲んでいた峯の拳にオーラが光る。峯はギリギリ標本に近づいてから、中央にとどめるように拳を叩き込んだ。
(「派手なことして設備を壊したくないしね。ボクも学校にお世話になってるし」)
峯の連打に標本が翻弄されている間にちぇっくんが咲哉へハートを飛ばし、えぐられた噛み傷を治療。咲哉はあらためて【十六夜】を構え直す。
床へ標本がぐしゃんと崩れた。が、すぐに足先から組み上げられていく。すかさず机の隙間を抜け、2方向から走りこんできたのはお互い交通標識を手にしたジェルトルーデとルーシー。先手ジェルトルーデがSenso unicoを振りかぶった。標本は相殺にくっついたばかりの腕を持ち上げ、ジェルトルーデへ光る指先を向ける。
「させないよっ!」
ベルベットが教卓の上へ片手片膝をついて飛び乗り、もう片方の手のひらを標本へ向かって広げた。空を切って飛んできた帯が次々と標本を突き刺す。
標本が指先から発した光線はジェルトルーデから逸れ、Senso unicoは標本の肩を叩き壊した。が、標本は逆の指先を持ち上げ、再びジェルトルーデを狙う。
「こっちよ!」
ルーシーが真後ろから叫んだ。頭蓋骨だけがグルリ回転してルーシーを見、その隙にジェルトルーデはワンステップ後ろへ抜ける。
(「こ、怖くない、怖くないっ!」)
一瞬怯むが機は逃さない。ルーシーは思い切り標識を振り下ろした。同時べんつ五号が機銃を掃射。ガシャガシャと崩れた骨格標本は今度はルーシーに手を伸ばす。がその前、ブーツの踵を強く踏みこみ、再び咲哉が、【十六夜】を上段に構えて立ちはだかった。親友の形見の刀が夜闇を裂く月の様に鋭く光り、真っ向から打ち振るわれる。標本は派手な音を立てて崩れ落ちた。
「ん?」
光に包まれ組み直されていく標本を見ながら、ベルベットが首を傾げる。
「なにか、へん?」
ジェルトルーデもベルベットと並んで首を傾げた。
「ダメージは残ってるようだな」
咲哉が言う。信彦は、
「よし、さっさと終わらせようぜ!」
標本はところどころの骨を失い、不良品のようになっていた。
●
閉められたカーテンと音の壁。誰に邪魔されることもなく戦闘は続いていた。
標本が再度ふわりと浮き、目から光線をばらまいた。光線は後衛に向かう。
「ナノ!」
ちぇっくんに降り注いだ光線を、峯がオーラを纏わせた拳でまるで固体のように叩き抜いた。心配ないよというようにちぇっくんと視線を合わせ、頷き合い、峯はオーラを癒しのそれへと変えながら駆け出し、ちぇっくんもハートを飛ばして別の盾役を支援する。
「助かったよ!」
ダッシュで久良の前に入ったべんつ五号を後ろからとびこえ、久良は454ウィスラーから弾丸を連射。ジェルトルーデへの射線にはルーシーが間に合ったが、光線に服は裂け、ピッ、と白い肌にも赤い線が刻まれる。
「ルーシーおねーさん!」
瞬時にルーシーの全身を、ベルベットの放った帯が守るように包んだ。
「ありがとー!」
傷が癒えるのも待たず走るルーシーの身体から徐々にぱらぱらと帯が解け、ベルベットの手元に戻っていく。机を踏み切り、標本と同じ高さに飛びあがった咲哉の【十六夜】に宿る黒い影。咲哉の一撃は標本が指先から放った光線さえ黒に染め、標本を真下へたたき落とすとともに、トラウマを引きずり出した。
ルーシーはキュッ、と片足の側面を机の足に当てて身体を返し、標本のがら空きの背面へ指輪から魔法弾を撃った。炸裂、動きを鈍らせる骨格標本の肋骨側に接近していたジェルトルーデが、ざくり胴体の骨を切断する。
金の瞳の前、赤い火の粉がちらついたことに気づき、ジェルトルーデは上体低く、片手を床へついて走り抜けた。真上高く、エアシューズに炎を纏わせた信彦がいる。信彦は掴みかかってきた標本の手を避けずにわざと左腕をつかませ、十分に引き寄せたところを強烈に蹴りあげた。
標本が燃え上がった。そして回復の光を灯しかけたところを、シェレスティナの非物質化させたDies iraeに霊的防御を断ち切られ、標本はまたしてもガタガタと崩れる。
囲いこみと麻痺で教室の中央から極力移動させず、かつ攻撃重視の布陣で戦闘後の調査に必要な体力を残す。意志の一致から回復を含めた連携もよく噛みあい、灼滅者たちは都市伝説を追い詰め、決着は近づく。
「霊子力原動機、出力、上昇! ヴァイ・アヴィンティ!」
前へ進めとぼくは言う。ジェルトルーデの回転機構を持つ機械杖が駆動した。
「重ッ!」
いつもは槍使いのベルベットが、赤色にスタイルチェンジした交通標識を持ち上げながら、言った。しかし言葉のわりには、扱う様子は全く重さを感じさせない。ベルベットは槍を使う時と同じように標識を肩上へ構えると、半ズボンの脚で机を3ヶ所軽々と飛び抜け、標識を標本へ振り下ろす。標本は身体をゆるがせて標識を避け、逆にベルベットへ噛みつこうと口を開けた。その顎をかばいに飛び込んだ峯がソードの柄を当てて砕く。
「峯ねーちゃん、すごっ!」
ベルベットは1度振り下ろした交通標識をそのまま今度は左から右へ薙ぎ払い、標本の肋骨をばきっ、と折った。峯も続けて、瞬時に非物質化させたソードの刃で縦一文字に斬りつける。標本の裏側に透ける橙はジェルトルーデの髪。カドゥケウス・イミタッツィオーネが叩きつけられた。
爆発を前に近接に飛び込んだシェレスティナの首へ伸ばされた標本の手は、ルーシーが交通標識で叩き割る。シェレスティナは耳元から剣先を前に構え、間合いをとったソードを斜めに振り降ろした。シェレスティナの斬撃が呼び水になったかのように、ジェルトルーデが注ぎ込んでいた魔力が爆発。崩れ、回復を試み、骨を足から積みなおそうとする途中、咲哉の切先が両足の骨をばっさり断つ。
すでに骨の数は頭蓋骨に背骨他、下手な落書き程度。エアシューズの音が鳴り、右に赤、左に蒼の炎が上がった。久良の足元、ロケット駆動のムーントリッパーが摩擦熱に炎を纏い、骨格標本の一歩手前で踏み切る。そして信彦の拳が蒼の炎を尾とひかせて標本を殴りつけ、
「これで終わりだ!」
空中でホバリング、久良が左足を高く蹴りあげた。蒼と赤が重なり、離れる。久良の爪先に刈り取られた頭蓋骨がごろりと落ちた。久良が着地、ムーントリッパーの炎が消えて、キャンバス地に月のマークのスニーカーらしい姿に戻った頃には、標本は完全に消滅していた。
●
戦闘後、灼滅者たちの体力は彼らの設けていた条件を満たしていた。だが、
「けはいない、ね」
ジェルトルーデが言う。
「ああ」
咲哉もそれらしい気配は感じない。シェレスティナは、
「実は……」
戦闘開始直前に感じた気配について、皆に話した。
「んー……あたしは気づかなかったけど……」
ルーシーが言う。
「やっぱりシェルの気のせいだったのかな……」
考えこむシェレスティナ。
いずれにしても皆体力は残っており、ジェルトルーデいわくの『あんぜん、だいいち!』が守られるならできる限り調査をしたい、という点で全員一致している。灼滅者たちは二手に分かれて調査を開始した。が、
「何か手がかりになるものでも落ちてるとよかったんだけど」
何でも屋の七つ道具を手に久良が言う。
「うーん、他の七不思議でも探してみる? トイレの花子さんトカ」
ベルベットが言った。要するに、何も手がかりになるものは見つけられなかったのだ。気配も依然、ない。
「HKT六六六じゃあないのかな……?」
ベルベットが言う。
「学校という条件的に、他の灼滅者組織や朱雀門の潜入も想定していたが……」
咲哉が言った。峯も人間型ではない可能性まで考えていた。情報が豊富であることは強力だと今までの学園の歩みが物語っている。だからこそ何か情報を持ち帰りたいと峯は思うが、しかし。
(「誰かに見られてるかもってのは嫌な感じだな。喧嘩してぇなら来いって話だ」)
信彦は目視で周囲を確認していたが、気配、視線、物音、いずれも感じない。
(「襲ってくる気がねぇなら、理由くらいは知りたいもんだよ」)
これ以上残っていても得られる情報はないだろうと判断し、灼滅者たちは帰路につくことにした。
電気を消し、理科室のドアを閉める前、峯はもう1度暗闇を振り返る。入った時と同じモーター音がきこえた。
大きい事件の予兆なのだろうか。峯は後ろ手にドアを閉め、皆の後を歩き出す。正しいことが強力なこともボクたちは知っている。
今回も無事に1つの事件を解決した。後は。
作者:森下映 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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