●まだ自宅にお餅残ってる人、いますか?
「さあほむらーん、とってこーい!」
と言って、水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)は霊犬ほむらーんを投げた。
もう一回言おう。
霊験ほむらーんを投げた。
きゃいーんと言いながら丘の斜面を落ちていくほむらーん。
それを眺めながら、瑠音はすっと体育座りした。
「いやー、最近は悩み事がたえねーなー。ほんとたえねーなー……ほんと……えーっと……なんだろーなー、世界情勢かなーダウ平均株価かなー」
最近の悩み事というタイトルで指折り数えてみる瑠音。
巨乳人妻のおっぱいを揉み損ねる。
Tシャツに書く文字がかぶりはじめる。
「あとは……あ、そうだ」
空を飛んでいるお餅が目に入り、瑠音は指を折った。
「正月の餅、まだ残ってるな」
●
「いやそれフライングお餅ですよ! なにスルーしてんですか! 都市伝説! 実体化した都市伝説ぅー!」
「そっかー」
どうやら子供が餅が空を飛んでたらいつでも食えるのにと思ったことからなんでか広まっちゃった都市伝説だという。
多いなあこのパターン! わかるけど!
「で、そのお餅ってのは?」
「普段は衛生バリアに守られて汚れずに空をふわふわ飛んでいられるっていう、つきたてのお餅です。たまにまかり間違っておじいちゃんの喉に突っ込んで窒息させてしまうので、そうならないように食べてあげる必要がありますよね」
「まかり間違わないと突っ込まないんだな……」
「基本浮いてますから」
が、本当にボケおじいちゃんが食べちゃうかもわからん。つきたてとか危なくって危なくってもう!
「というわけで、飛んでる分をぜんぶ食べちゃってください。全部です全部!」
参加者 | |
---|---|
水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982) |
アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681) |
柏木・イオ(鈴カステラ怪人・d05422) |
青和・イチ(藍色夜灯・d08927) |
華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958) |
イシュタリア・レイシェル(曼珠沙華・d20131) |
鈴木・咲良(モモンガじゃないフェレットだ・d25318) |
来海・叶(アルトの瞳・d29829) |
●もう朝とか面倒くさいからってレンジでチンしちゃうよねお餅
いきなり想像力を要求するようで申し訳ないが、見渡す限りお餅が飛び交っている中に来海・叶(アルトの瞳・d29829)がいた。
「……これは、お餅戦争である!」
最近の子供は『お餅』と聞くと乾燥させて角切りにしたやつを想像するんだそうで、丸いやつを見せたりつきたてのもちもちしたやつを渡すと若干ビビることがある。
そんなところがあるのかないのか、軽くもにょーっと伸びたお餅がそこら中を飛んでいる光景に叶は軽くショックを受けていた。頭で分かっていても、というやつである。
「これを都市伝説にするって、ロマンのある子供もいるんだねえ」
リュックサックを一度下ろし、アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681)はお餅の群れを見上げた。
同じく鞄を下ろして背伸びする柏木・イオ(鈴カステラ怪人・d05422)。
「腹減ったー。早く食いてえな、お餅」
もうこの時点でお餅特有の『米とはちょっと違う香り』が辺りに漂っていて、イオのお腹が軽く鳴った。
誰か醤油もってこい醤油、ってな空気である。
割り箸を紙皿をしゃきーん言いながら構えるイシュタリア・レイシェル(曼珠沙華・d20131)。
「こいつは危険きわまりねーのです。イシュちゃん黙ってらんねーのですよ」
箸をカチカチしながらぱちぱちウィンクするイシュタリア。
彼女の後ろで、華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958)と青和・イチ(藍色夜灯・d08927)が同じテンポでこっくり頷いた。
「僕は餅が、ものすごく好き」
「……みんなで、おもち、食べるの……」
原っぱにビニールシートを広げ、さあ食べられるぞってな状態にしてからの……。
「そーらほむらーん、直に喰いたいかそうかそうかー! いけー!」
水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)が霊犬ほむらーんをハンマー投げのフォームでぶん投げた。
「そしておまえも行けモモンガー!」
「モモンガじゃなくてフェレットー!」
ついでに鈴木・咲良(モモンガじゃないフェレットだ・d25318)も同じフォームでぶん回してぶん投げた。
自分もやらにゃあとばかりに霊犬ぽむを崩し砲丸投げフォームで放り投げる穂乃佳。
犬と餅とモモンガもどきが飛び交う原っぱ。
叶は遠い目をして言った。
「うーん……カオス!」
●
「やっぱ餅は七輪だよなー。ちりちり焼けるもんなー」
『ほむらーんカルタ、あ。危ない橋にほむらーんを投げる』と書かれたシャツを着て、瑠音は七輪をぱたぱたやっていた。
かたわらにはお餅が顔にみっちょりついてて軽く死にそうになっているほむらーん……と、全く同じことになっているぽむがいた。
「ぽむが……今とって、あげる……です……」
ワンテンポ以上遅い動作でお餅をつかみ、うにーってのばす穂乃佳。
「くっつく……です」
「だめですよつきたてのお餅はくっつきやがりますから」
イシュタリアがフリッフリヒラヒラの衣装をまとい、腰とこめかみに手を当てるシャレオツなポーズをとっていた。
お餅に向かって両手を翳す。
「つまり、一旦焼かねーとですよ!」
そしてほとばしるゲシュタルトバスター。
お餅が残らず消し炭に……と思いきや、微妙に表面だけかりっと焼けたお餅になって落ちてきた。
「さすがイシュちゃん、お餅焼かせてもすげーのです!」
あっつあっつ言いながらお手玉してほっふほっふしつつかじりつく。
もう二月も近い今日ではあるが、お餅の味はまだ記憶に新しい。
が、これがつきたてかつ熱々かつプレーン状態となると、意外とピンと来ないやもしれない。
だから順を追って説明したい。
手に吸い付く熱い餅。少し押せば若干の抵抗をしつつも素直に形を変える餅。
口に近づければまず熱気を感じるが、しめった空気の中に確かに『炊きたてのご飯』めいた空気が入っているのがわかる。
だが熱い。餅の香りを楽しんでいる余裕は無い。一気に口に頬張り、しかし舌に触れない程度に歯でひっぱる。餅はどこまでも伸びる。すするように器用に千切っていく。
口に入るには少し大きすぎるのでは? という両を頬張ることになる、ほふほふと口内の空気を入れ換えながら口の中で転がせば、次第にほどよい熱さになるというもの。
そこで初めてお餅特有の深い味わいを感じることになる。
炊きたてご飯のように甘くもなく、塩にぎりのようにしょっぱくもなく、しかし奇妙なほどしっかりと主張してくる『餅の味』。
軽く噛んで飲み込めば、喉を熱さが通り抜けていくのがわかるだろう。
お腹の中に落ちた感覚が分かると同時に、後から口の中に残留する空気。
それが最初に感じたお餅の空気だと知り、初めて『自分はお餅を食べたのだ』とわかるのだ。
……以上。『普通のお持ちを食べた感じ』である。
「素手で持つと、熱すぎるでしょ」
イチは水の入ったきりふきを手に、お持ちにしゅっしゅしていた。
こうしてやるとお餅をちっちゃく千切るのに便利だからである。
「くろ丸」
「……」
霊犬くろ丸が背中にザルのっけててってこ歩いてきた。
そこへ団子状になったお持ちをぽいぽい放り込んでいくイチ。
「それちょーだい! パス! パス!」
イオがお皿片手に手を振った。
静かに頷いてちっちゃお餅を放るイチ。
イオはそれをお皿で上手にキャッチして、シートの上に腰を下ろした。
「今日俺が持ってきたのはねー、これとこれと……」
鞄を開いていくつかのボトルを取り出すイオ。
お餅っちゃあ醤油やきなこだろと思う中、イオはここぞとばかりにチョコソースやシナモンパウダーを取り出してきた。
何してんのこの子、パンじゃないのよ。などと思う無かれ。
世の中には『ご飯に合うものはパンに合う。逆もしかり』という言葉があり、チョコレートとご飯が意外と合っちゃうものである。近いところで言うと、餡子とご飯でおはぎになる感じである。
イオは先入観が無いのかむしろ昔からそうするのが普通だったのか、嬉々としてチョコ餅を作り始めた。
あんころ餅ならぬ、ちょころ餅である。
「いっただーっきまーっむっ!」
たまんねーという顔で目をぎゅーっと瞑るイオ。
その様子を横目に、咲良はゆっくり立ち上がった。
「私もそのまま食べようかな! てい!」
飛びついた餅がけまみれになった。
ついでに咲良が餅まみれになった。
「ああああああああああああああ!」
「火! 火で焼きやがるのです!」
イシュちゃんのファイヤー的なジェスチャーに頷いて、咲良は全身から火を放った。
餅が消し炭になった。咲良の毛皮も一緒に焼けた。
「ああああああああああああああ!」
「落ち着いて。お餅、あげるから」
「自分で、とらなくても……どうぞ、です」
イチや穂乃佳が譲ってくれたお皿に、濡らし餅の入っていた。
これはどうもと言いながら持参した『きなこ』って書いてある瓶を開けた。
咲良はきなこまみれになった。
「ああああああああああああああ!」
「あーもーうるっせーなモモンガ!」
「私フェレットおおおおおおおお!」
大混乱の咲良。
そんな光景を、割と無視しつつ。
叶は優雅にお茶を飲んでいた。
「さて、そろそろかしらね」
イチが集めてくれたまあるい餅を包むように、こしあんを包むように縫っていく。
おはぎを作っているつもりなわけだが、実のところこれは『あんころ餅』。
多分だが、この世に存在する食物の中で上から順に数えていいんじゃないかなってくらい美味しい食べ物である。
それを桜模様のお皿に並べつつ、叶はゆっくりあんころ餅を作っていった。
さて。お餅の確保も大体済んだころ。
アシュが早くもお餅のアイデアレシピ的なものをやり始めていた。
ガスコンロにオリーブオイルを割と多めにひいてある。それも、ちょっぴり煙がでかけているくらいの加熱状態である。
そこにハンバーグをもう少し平たくしたようなやつを滑り込ませていけば、途端にパチパチと油が跳ね始める。
この時点でこんがりお餅ができあがるし、これをぎゅっと鉄板で挟んでやればお餅のワッフルこと『もっふる』ができるのだが、アシュはそこでは止まらない。
溶いた卵をぶっかけ、更に千切りにしたキャベツを盛り、蓋してがーっと焼いてやる。
あたりに卵やキャベツを焼いたときの心地よい香りが漂っているのだが、いい感じに焼き上がったこいつにアシュはなんと中濃ソースとマヨネーズをかけ始めた。
そう。
「餅のお好み焼きだよ!」
「すげえ、いきなり主食オブ主食じゃねーか。いや、おかずか? お餅をおかずにお餅を食うのか?」
『ほむらーんカルタ、い 犬も歩けば棒に当たるがほむらーんは歩かなくても当たる』のシャツを着た瑠音が、七輪焼きのお餅片手に襲いかかった。
「ツナマヨ……うま……」
よくコンビニにあるようなツナマヨおにぎりをお餅で再現したやつを食べつつ、イチはちょっぴり夢心地だった。
きなこ餅や蜂蜜餅、スタンダードな醤油餅。大根おろし……はないが、おもしろいのが沢山ある。これがイチにとっては楽しかった。納豆が無いのもポイント。
「交換、しようか」
「ん……交換、なの」
横でお汁粉作っていた穂乃佳が、イチのお餅と交換した。
よくある缶汁粉のイメージでいたイチは、穂乃佳がガチで小豆から煮まくっていたお汁粉に軽くショックを受けた。
具体的にどうなったかというと。
口当たりに『重み』を感じるのだ。
その割には小豆のかけらのようなものが見当たらない。あったとしても皮だけだ。長時間煮詰めた結果小豆が完全に溶け込んだのだろう。
ここまでくると汁粉というよりポタージュに食感が近い。
そのくせ豆の安心感と砂糖の甘み、それらがしっかり絡んだ小ぶりなお餅。
冬の野外で呑んでいるのもあって、身体の隅々まで染み渡るようだった。
「これもおいしいのです。お餅ひとつで色々できるのですね」
「だねー」
イシュタリアとイオが、あんころ餅とハニーシナモン餅をかわりばんこにぱくついていた。
このお菓子感。説明するのが非常に難しいが、丸いもちもちしたヤツに蜂蜜味でシナモンの香りがする粉がついているお菓子……を想像してほしい。それが一番近い。ちなみにこの食べ方が最強に合うのはわらび餅だが。餅米のお餅もなかなかイケるものである。
「私に限界なんてないはず。主食とおかずと甘い物は別腹のはず……」
お好み焼きとプレーン餅とお汁粉とあんころ餅とシナモン餅をそれぞれ食べつつ、自分に言い聞かせる叶。
よく考えたらフルコース餅だ。
「もう毎日こういう都市伝説ならいいのに」
「毎日これだったら世界大変だな」
「……そうねえ」
「毛がああああああああああああああ!」
ほんのり食べてる叶や瑠音の横で、咲良がもんどりうっていた。
「どうしたモモンガ」
「フェレット! 毛皮がすごいことになってるの! 醤油とシナモンで焦げ付いてるの!」
「まあまあ、シャツかしてやるから」
そう言って、瑠音は『ほむらーんカルタ、う。ウェイ! ウェーイウェーイ! ヴェーイ! ウェ……あっこれ関係ねえ!』と書かれたシャツを差し出した。ノーサンキューの顔をする咲良。
「しかたねーな」
瑠音は七輪で焼いた餅に醤油をたらし、ちびちび食べ始める。
その横ではアシュがカリカリに焼いた餅お好み焼きを食べていた。
「卵をまるっと使ってるからかな、何個も食べてると『これ大丈夫かな?』って気持ちになってくるね」
「コレステロールか。深いな」
「でも海苔と醤油のお餅を食べるとリセットされる気がするね」
「深いな……」
つきたてお餅のようなほんわかもにゅもにゅした空気の中、アシュたちは空を見上げた。
あれだけ沢山あったお餅は既に無く。白い雲だけがあった。
「お餅、やっぱり美味しいね」
「あー」
それから皆は、お腹いっぱい美味しいお餅を食べ、幸せな気持ちで帰って行きましたとさ。
あとフェレットは最後までお餅まみれでしたとさ。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年1月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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