バレンタインデー2015~ふわふわの贈り物

    作者:雪月花

     まだまだ北風が寒いキャンパスを、何かの紙袋を抱えた矢車・輝(スターサファイア・dn0126)が鼻歌でも歌い出しそうな様子で歩いてきた。
    「何か良いことでもあったのか?」
     丁度校門辺りにやって来た土津・剛(大学生エクスブレイン・dn0094)が声を掛けた。
    「あ、剛さん。丁度良いところに」
     と歩み寄った輝は、ごそごそと袋から何かを取り出した。
     それは、掌に乗るくらいの可愛らしい子犬のマスコットだ。
    「これね、羊毛フェルトっていうので作ったんだ。可愛いでしょ」
    「お前が? 器用だな……」
     目を瞬かせた剛に、輝は頷いた。
    「最近流行ってるから、聞いたことあるかもね。うちの学園でも、ハンドクラフト好きな人がバレンタイン用に作ろうって計画立ててるんだよ」
     マスコットを剛に渡して、輝はにっこり笑う。
    「みんなも誘おうと思ってるんだけど、よかったら一緒に作りに行かない?」
    「俺もか」
    「可愛い動物だけじゃなくて、格好良いのを作ってる人もいるよ。初心者で不安でも、今は色んなキット売ってるからね」

     基本は針金などの芯材に羊毛フェルトを巻いて、ニードルで刺して固めていくだけ。
     初心者は指貫を使うと、間違って指を刺さなくていいらしい。
     ちょっとした小物から、本格的な動物や架空の生き物に似せたものまで、作り手の発想で色々なものが作れるという。

     慣れれば簡単だからと輝は続ける。
    「剛さん、将来先生になるなら、学年によっては工作とかあるじゃない? こういうの作った経験も活かせると思うから」
    「なるほど」
     一理あるな、と頷いた剛は、この集まりに参加することにした。
     輝は別の生徒達の姿を見付けると、そちらへ向かっていく。
    「良かったら、一緒に作りに行かない? チョコに添えても可愛いよね」


    ■リプレイ

    ●フェルトも教室もあたたかく
     放課後、校舎の一室に集まった生徒達は、早速羊毛フェルトや材料を取り出した。
     クラフトのお供にとお菓子を持ち寄り、お茶を楽しむ者もいる。
     柔らかな香りと穏やかな空気が、その部屋には満ちていた。
    「あれ? 土津君もこういうの興味あるんだ」
    「ああ、輝に誘われてな」
    「兄さんから話し掛けるなんて珍しいな……」
     颯が同じ学部の剛に声を掛けたのを、透は意外そうに眺める。
    「兄妹で参加か、仲がいいんだな」
    「お互い、良いものが作れると良いね」
     剛に笑んで、これも縁とエールを送った颯は席に着く。
     材料を机に揃え、一緒に猫を作り始める透だったが、その手は覚束ない。
    「兄さん、器用だよなァ」
    「どうしたの? 全然進んでないみたいだけど」
     器用に仔猫の方を作っていた颯は、呟く透の様子を窺った。
    「ン、やっぱオレにはこういうの向かないなァと思ってさ」
     颯はそんな彼女を励まし、頭を撫でて手伝い始める。

    「んー。なに作ろ?? うさぎさん? くまさん? うーん……」
     ミルクティー片手に、羊毛フェルトの本を捲る瑠音の横で、ナノナノのすふれが気侭に漂っている。
    「……あっ! ナノナノ!」
     ぴこーん!
     閃いた彼女は早速指貫を嵌めて、マスコットを作り始めた。
    「可愛くなーれっ♪ ステキになーれっ♪」
    「ナノー♪」
     次第にそっくりになっていくふわふわに、すふれも嬉しそうだ。
    「ふふ、可愛いね。空さんは何にしたの?」
    「ボクは、部長さんをイメージしてライオンのマスコットを作るのです!」
     輝に聞かれた空は、張り切った声を上げた。
    「こうやって刺し固めていくと出来るのですね! 不思議ですけど、楽しいのです♪ そ~れそ~れそ~れ~♪」
     楽しそうかと思えば、ぷすっとね。
    「にゃああああああ!?」
    「だ、大丈夫?」
     悲鳴を聞いた輝は、主催の生徒に応急道具を借りに行った。
    「芯材も目分量……アバウトだな」
     普段のきっちりしたクラフトとはまた違う、ふわっとした小物作りにアンカーは思わず真顔になる。
     そんな彼女が作り始めたのは、なんとスレイヤーカードに収めている自分の武装姿の人形だった。
    「凄いな……」
     繊細なあしらいに、剛や周囲の生徒は呆気に取られていた。
    「えと、丸い基礎を作って……後は、この針で刺していけばいいんだよね?」
    「うん、刺しているうちに毛が纏まってくるからね」
     輝の答えに緋織はありがとうと笑んで、作業に集中する。
    「鳥かな?」
    「そう、ひよこさん」
     形になっていくものを眺めた輝に、彼女は頷いた。
     初めてだからちょっと不格好だけれど、それでも可愛いひよこになっていく。
    「わ、すっごくかわいい羊さんなのです……!」
     作り掛けの羊を見て、朋恵は輝に声を掛けた。
    「よかったら、うまくできるこつとか教えてもらいたいのです」
     うんいいよ、と輝は隣の席を勧める。
    「朋恵ちゃんは何を作るの?」
    「猫とか作ってみたいのです、でもむずかしくて……」
    「そうだねぇ……慣れると大分違うと思うから、まず簡単な形を何個か作ってみよう」
     新しい芯材を出して、彼は朋恵に手許を寄せた。

    「指、怪我しないようにしてくださいね?」
    「もう、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
     心配性な彩歌に、殊は少々強がって見せる。
     二人がまず作ったのは、干支に因んだ羊のマスコット。
    「う、上手く形が作れない……」
     四苦八苦した殊の羊は、どうも狐みたいな耳。
    「ぁー、うー、丸め具合で結構不恰好になっちゃうのか、でも感覚はわかった気がします」
     彩歌の羊も微妙な形で、お互い恥ずかしげに笑い合う。
     思っていたより難しいけど、他にも挑戦してみたい。
    「ね、殊。一緒にアレ、作りません?」
    「……アレ。うん、作ろうか。お土産にもぴったりだし?」
     アレとは、彼女達の迷物でヒーローなアルパカ!
     きっと羊より上手く作れると、いそいそ取り掛かった。

    「羊毛フェルトって、ずっと触ってたくなるよねぇ……♪ って、どうしたの?」
     ふわもこを堪能していたたまきは、白い羊毛を手にじっと見詰めてくる昭子に気付く。
    「お気になさらず、下準備です」
     ああでもないこうでもないと話しながら作っていくのも、また楽しい。
     リボンの花を耳元に飾った雪うさぎ風の兎と、同じく耳元に鈴と蕾の枝を着けた、オレンジの猫が並ぶ。
     愛らしい、『たまうさぎ』と『あきこねこ』。
    「えへへ」
     笑むたまきに、昭子も目を細めて口を開く。
    「これからもどうぞよろしく、です」
    「うん、これからもよろしく……ね」

    ●みんなでクラフト♪
     紫鳥持参の初心者用の解説本をお手本に、【八幡町中学3-F】は席を囲む。
     服の修繕である程度慣れている針仕事、これならなんとかなりそうとアルコは笑んだ。
    (「……皆何作ってんだろ?」)
     ちらり視線を向けると。
     エイダは柴犬のぬいぐるみと睨めっこしながら、手を動かしている。
    「ん、と……っ、にゅ……」
     指先を針で突いてしまったり、非常に危なっかしい。
     紫鳥はといえば、掌大のお手玉のような猫を沢山作っていた。
     雁之助は白い虎と白い梟のようだ。
    「虎は僕のイメージで、シロフクロウは義娘なんだ」
     と言いつつ、こういうセンスは女の子には敵わないか、と見回して目に入ったのは。
    「え? これは……羊、だけど。未年だから……」
     べこべこで固そうな何かを手に、一途は不安げに皆の手許を見る。
    「……うー……誰か……教えて、ください」
     しょんぼり、ぬいぐるみと歪なマスコットを差し出すエイダに、仲間達はそれぞれ手を差し伸べた。
     一途も手伝って貰って、ちょっと直すことにした。
     完成した雁之助の白虎は赤いマフラーが巻かれ、ちょこんと梟が乗っている。
    「なかなかいい感じだ」
    「ちょこーんと座ってる姿が……もうっもうっ」
     アルコが可愛く出来た羊に身悶えていると、紫鳥が周囲に小さな猫を並べていった。
    「沢山並べると達成感ありますね……」
     一途の羊も、なんとか可愛らしく完成した。
    「かわいい……うん、楽しくなってきた」
     もっと作ろうと、彼女は新しい袋を開ける。

    「何作ろうかな~。きょん、何にするのー?」
    「あたしはね、灰色と白のフェルトを使って小さな猫さんを作ろうって思うのっ」
     ミカエラと杏子の話に、クラブ【糸括】の面々も乗る。
    「悩んだけどライオンにしようかな」
     という輝乃にマキシミンは兎を作りますよ、と返す。
    「マキシさん兎作んの? 俺どっしよかなぁ」
     明莉は入門書と睨めっこして鳥っぽいものを選び、ミカエラはウサ耳を作ることにした。
     マキシミンが杏子にお手本を見せたり、明莉が指に針を刺したり、色々ありつつ可愛いマスコット達が完成。
     それを囲むティータイムは、明莉の梅ゼリーを添えて。
     ミカエラはもこもこのウサ耳を被ってみた。
    「かわいいですね」
    「ふわふわ!」
    「大作だね」
    「うみゅう~!」
     マキシミンと杏子、輝乃の声に本人も嬉しそう。
     そんなマキシミン作の赤目の灰色兎には、皆感心しきりだ。
    「執事服なんて凝ってるね」
    「凄い!」
    「……鳥?」
     ちょんちょんと目と嘴らしきが付いた明莉の白い球体に、杏子は目を瞬かせる。
     彼女の猫はちょっと歪だけど、可愛く仕上がった。
    「うわあ、影獅子だね! てるのちゃん、さわっていい?」
    「勿論」
     自分の武器をイメージしたという、輝乃のモノクロライオン。
     そのたてがみを、杏子はもふもふする。
     マキシミンはそんな微笑ましい様子と皆の作品を、カメラに収めていった。

    ●ふわふわな幸せを
     霊犬の豆助と知和々がおすまししている姿を前に、針を進める日和と宗佑。
     嬉しいひと時に、可愛くなーれと想いを込めて、日和は綿飴のようなボディに円らな瞳を付ける。
     隣を覗き見れば、指の隙から見える黒豆柴のフォルムに心が弾んだ。
    「完成しましたー! どうですかこの丸み!」
    「うわすごい!丸い!! こ、これは見紛う事無きまめ……やりますね日和さん……!」
    「わぁぁ、こっちのちび知和々ちゃんも可愛い……っ! 激似ですよ!」
     お互いの出来栄えに感動している主人に、霊犬達も嬉しそうに尾を振る。
    「俺もちゃんと用意してるから、後でチョコレートと一緒に交換しよう」
     と耳打ちされたら、愛犬にピースしていた日和のお腹がぐぅと鳴った。

    「リビングに置けるようなマスコットが作りたいんだけど……拓馬くんは猫を作るの?」
    「白いマンチカンにしようと思ってる」
     彼が可愛いお嫁さんの問いにそう答えると、樹もひとつ頷いた。
    「それなら、わたしは紫色のアメリカンショートヘアにするわ」
     薄い紫のベースに、濃い紫で淡い陰影を描いて。
    「ふふ、猫になった時の樹に似てるかな?」
     形になりつつある白い猫を見せ、拓馬は樹と笑い合った。

    「苑果はどんなの作るんだ?」
     材料を手に、亮が苑果の手を覗くとそこには黄色い球が二つ。
    「わたしは……簡単なものからチャレンジしてみようと思って。亮先輩は、何を作るんですか?」
    「うーん、俺はそうだなぁ……あ」
     少女の顔を見て思い浮かんだ動物を、彼は作ることにした。
    「幸せ者だな~」
     傍にある存在にしみじみしていると。
    「こちらこそ……!」
     亮の手先にこっそり見惚れていた苑果は思わず返してしまう。
     笑みが零れ、彼は照れ隠しに頭を撫でる。
     幸せなひと時に生まれた、二羽くっ付いた仲良し小鳥のストラップ。
     これからもこんな感じで仲良くいような、と亮は笑んで自分の作品を渡す。
     彼女を想像して作ったのは、円らな瞳にちょこんとした耳の、愛らしい動物だった。

     芥汰は大切な人と一緒に、愛猫シラタマを作ることにした。
    「愛の共同作業! 夫婦的ネ?」
     と瞳をキラキラさせる夜深に、指貫を嵌めてあげる。
    「最初は俺と一緒にやろっか」
     そう言って重ねられた手にドキドキしながら、一針一針進めてみる。
    「どう、上手くやれそう?」
    「う、うン! 我、大丈夫ヨ! 単独作業、可能!!」
     真ん丸頭を彼女が、細かい部分は芥汰が。
    「……ぴゃっ!? あくたん。刺しチャた、の……」
     べそをかく夜深に目尻を下げて、球をなす赤を舐め取った。
     真っ赤になってしまった少女に絆創膏、そしてまたゆっくりと作業を進めていく。
     出来上がりはちょっと、頭でっかちかも知れないけれど。
     それも可愛い、思い出の品になる。

     カピバラやカワウソ等小動物を作ったライズは、おにーさんが作ったものと交換。
    「別に今日が特別な日って言われても実感ないけどさ。こうやって二人で何かするのは、嫌いじゃないかな……」
     ありふれた出会いを振り返りながら、来年も二人で一緒に何かしたいな、と微笑んだ。

     瑠璃が用意していた桜柄の指貫に、蒼妃は物珍しそう。
    「もしお手伝いが必要なら……仰ってね、蒼妃さん」
    「ちょっと不安だけど、頑張ってみるよ」
     優しい言葉に照れ笑い、慣れない手つきで少しずつ形作るのはくまさん。
     瑠璃も一針一針気持ちを込め、桜の髪飾りに、本を持つ可愛いウサギさんを作っていく。
    「瑠璃が作ったウサギさん……完成したら、受け取って下さる?」
     尋ねると彼は嬉しいなぁ、と笑った。
     自分のは不格好だからまた今度、と呟くと。
    「あら、瑠璃は……蒼妃さんが作った物なら、何でも嬉しいのよ? でも『また』があるのも……幸せ」
     目尻を下げた少女は、そっと次のお誘いを。
     本物のもふもふの後はお茶をしようねと、蒼妃は約束を交わすのだった。

    (「こっちは……尻尾の先を少し赤くしましょう。お顔はキリッと……や、ちょっとツンとしてる方が『らしい』ですかね?」)
     猫になった恋人の姿を形にして、遥香はふふっと笑みを零す。
     もう一方の猫は尻尾の先まで真っ黒で、耳の横にリボン付きの十字架アクセサリーを。
     後は二匹をくっ付けて、というところで彼女は固まった。
    「む、や……な、なんか恥ずかしいですね、これ?」
     頬の暑さを感じつつ、思い切って!
     民子が作ったのは、持参のストラップがモデルのオカメインコ。
     形よりも色遣いが得意なのか、羽の色合いが美しい。
     ふわっとした頭の羽毛に、小首を傾げた可愛いポーズ。
    「あざとい~」
     針金に羊毛を巻いた足、ビーズの円らな瞳。
     後はストラップの紐を、と思ってふと。
    「うん! でかい!」
     掌サイズってなんだっけ。
     提げるには、ちょっと大きすぎたと思うのだった。
    「釣鐘が高校の制服を着た時も、随分大人びたと思ったものだけどな」
     差し入れのぷちマカロンを摘み、剛は閃きを形にするまりをしみじみ眺める。
     これからもっと、素敵な女性になっていくんだろうな、と。
     リクエストを聞かれ、去年のケーキの時のような機会があればまた呼ばれたいなと目を細めた。
    「……結構楽しいですねこれ」
    「真夜さん上手いね。手芸とか得意なの?」
    「祖母から鍛えられてますからねー」
     感心げな輝を前に、真夜は結構サクサクと、ペットの兎・クリームのマスコットを検索したポーズをお手本に作っていた。
     可愛いたれ耳に、小さな人参を持たせて。
    「えへへ、割とよく出来たと思います。わ、輝のもかわいいですねー」
     と褒められて、輝もちょっと照れる。
    「……出来ました!」
     矢車草の花を冠した紺の帽子を作って、まりは輝の羊の頭に乗せた。
    「わぁ、これ凄いね……まりさんもこういうの得意なんだ」
    「いつもは小さなお菓子の小物を、作ってるんです」
     輝は礼を言いながら、いそいそ帽子を固定した。
    「……うん」
     目の前に鎮座した子犬らしき物体を眺め、剛は何か悩んでいる。
    「味があっていいですね。かわいいです」
    「初めてにしては、個性が出ていて良いんじゃないか?」
     と真夜とアンカーがフォローした。

     可愛いの、ちょっと歪なの、細かな意匠が入った力作。
     手許の羊毛フェルトの作品達に笑顔を綻ばせながら、生徒達は明日を楽しみにのんびりとしたひと時を過ごしていた。

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月13日
    難度:簡単
    参加:37人
    結果:成功!
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