製菓用のチョコレートを抱え、空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が歩いてきた。
「もうすぐバレンタインだねー! 今年はどんなチョコを贈るか決めた? 私は今年も手作りチョコを作ってみようかなーって思ってるんだよねー」
そうして、家庭科室を指差す。
「そうだ、あなたも一緒に作ってみない? 家庭科室を借りて、どうかな? 出来たチョコを試食したりするのもいいかも」
家庭科室には調理道具も揃っているし、みんなで一緒に作る事ができる。
どんなチョコが出来たか食べてみるのも楽しそうだ。
そんなわけで、一緒にチョコを作りませんか。
●
家庭科室から甘い匂いが漂ってくる。
すでに集まった生徒達がチョコレート作りを始めているようだ。
刻みチョコを鍋に入れ、蜂蜜を加えて風味を上げる。そして、余熱でチョコを溶かす。
パティシエ志望の竜胆が手際良くチョコレートを作り上げていた。
「おー」
恋人のそんな様子に重蔵は感心の声を上げる。撹拌作業を手伝いながらも、竜胆の動きを見て感心しきりだ。
「完成が楽しみだな。味もそうだけど、竜胆からもらえるのが嬉しい」
照れながらもそう伝えると、竜胆の顔が真っ赤に染まった。
「よ……喜んでくれるなら、嬉しいぜ」
今作っているのは、まさに恋人用、つまりは重蔵のためのチョコなのだから。
照れ隠しのように竜胆がきょろきょろと辺りを窺った。
「ほ……他の奴、どんなの作ってんだ?」
「家庭科室、うまそうな匂いで充満してるなー」
重蔵も周囲を見る。確かに、家庭科室内では様々なチョコレートが調理されているようだ。
真那と冬華は、互いに贈り合うチョコレートを作っている。
「ふんふーん……♪ 初恋はほろ苦い味なのよー……♪」
コーヒー味のヌガーをチョコで包みハート型にする冬華。
「……ってことは、真那とわたしってほろにがいかんけい?」
小首をかしげるも、ナッツを乗せれば完成だ。
「あまいあまーい……」
ホワイトチョコとイチゴジャムを合わせてハート型にしているのは真那。
「初恋はあまくもあるよー……」
その上に可愛く刻んだドライストロベリーを乗せれば完成だ。
作業に夢中になっている真那の頬にチョコが付いていることに冬華が気付いた。
「あっ……動かないで?」
言いながら、指で掬い取りぺろりとなめる。
「……ふふっ。チョコ、ついてたよ」
「気が付かなかった……冬華、ありがとう」
やっぱりチョコは、あまいあまーい味がしたのでした。
さて、室内の片隅で黙々と作業する二人の姿がある。
昴と黒斗だ。
家庭科室の入り口で、昴は紺子にこんな風に話していた。
「去年みたいにばら撒くのかって? いや、今年は特別な一人にあげる予定だ」
傍目にも上機嫌でチョコ制作を続けている。
最初に出会ったのは二年前。たった二年の間に、黒斗の色々な面を見た気がする。不器用な所、格好良い所、たまに見せる可愛い所、優しい所も少し危なっかしい所も、普通の女の子みたいに甘いものが好きな所も。
頼りになる相棒としてだけでなく、異性として、彼女のことが好きだと思う。
隣では、黒斗が丁寧に作業を続けていた。
「今年も昴と一緒にチョコ作りをするぜ。でも、今回は作るものは内緒だ」
と、彼女は言う。
二年前のクリスマスで互いに相棒と認め合って、それから本当にいろいろ有って、何時の間にか前とは少し違う想いで、昴を見るようになった。
一人の異性として、人として、昴が好きだ。大好きだと、強く思う。
この、言葉にするのももどかしい想いを沢山込めて、チョコレートを作っていく。
二人は互いに贈るチョコレートに、それぞれ大きな想いを込めてそれぞれチョコレートを完成させるのだった。
●
上皿天秤、デジタル温度計など化学実験材料をテーブルに並べ、真琴は真剣な表情でレシピ本を見つめていた。今年は、トリュフチョコに再挑戦しようというのだ。
その様子を向日葵とセカイが温かく見守っている。
作業開始からしばらくして、真琴の口から悲鳴が漏れた。
「はっ! ひっ?!」
見ると、生クリームがぐつぐつと煮立っている。レシピでは沸騰直前となっていたはずだ。慌てる真琴にセカイがにこやかに声をかける。
「大丈夫ですよ。まず火を止めましょうか」
「そうそう! ぶわわって吹き零れてないよー! だいじょうぶだよー♪」
向日葵も明るく励ます。
二人に見守られながら何とか真琴はトリュフチョコを完成させた。
見た目は少し不恰好だが、手作りの一生懸命さが伝わってくる温かい仕上がりだ。
「良く頑張りましたね」
セカイが味見にと差し出された一つを口に運ぶ。
「あ、文太食べちゃだめだからね! これは文太にはどくだからねー!」
ペットのリスに忠告しながら向日葵も一つ摘んだ。
「はい、とても美味しいですよ」
「うん。あまーい♪」
二人から言葉をかけられ、真琴がほっと胸をなでおろす。
「お二人とも、今日はありがとうございました」
極力手を貸さず、温かく見守ってくれていた二人のおかげだと頭を下げた。
目の前にはいくつかのトリュフチョコ。手のひらにチョコレートを丸めた感触がまだ残っていた。
「紺子ちゃんには、今年もお世話になります」
「今日は紺子さん、今回もお邪魔いたしますね」
昭子に観月、一緒に柴くんち御一行様がやってきた。
「あっ。あの心霊しゃ……ん。んん。こんにちはー♪ 今年もよろしくねー」
紺子が挨拶をしながら手を振る。
彼らは今年、どんなチョコを作り上げるのだろう。
それは、観月から言及があった。
「今回は宇宙チョコレートを作ろうかなと」
とのこと。
「……まるかったら……惑星に、見える……でしょうか……」
さっそくエイダがトリュフを丸め始めた。
土台担当の真珠はブラウニーを作っている。
昭子は宇宙人を作成中だ。
そして、観月は惑星チョコレートを作っている。赤、青、黄色に水色、緑、そして……紫など。色とりどりの惑星ができていく。
和気藹々と話をしながらの作業だった。
「……何だか……観月さんの、チョコ……不思議な色……」
その色合いに、エイダが最初に気付いた。
「み、水色……? むらさき……あ、鮮やかですね。……華やかだしいい、のかな。うん」
紫のチョコレートとは、いったいどういう味付けなのだろう?
真珠も控えめにコメントを搾り出した。
ところが、味の件について誰かが話す前に、観月がふっと目をそらす。
「観月くんの合わない目が気になります」
昭子が小首を傾げるも、観月は斜め上を見やるばかりだ。一体どういう味なんだろう……? しかしながら、メンバーのいささかの不安と疑問が解消されることは無かった。
それはともかく、出来上がったのはやはり超大作だった。
いくつものブラウニーを合わせて並べた土台。ちりばめられた惑星に、遊ぶ宇宙人。端のほうにちらりと雪だるまがのぞいている。こっそりこっそりエイダが仕込んだものだ。
「雪だるま不思議と馴染んでる」
真珠が言うと、みんなも頷いた。
ひとしきり拍手で迎えた後、写真を撮って試食タイムだ。
「崩してしまうのが勿体ないですねえ」
「うん、勿体ないね……でも」
昭子と真珠が顔を見合わせる。
写真を撮ったらいただきます。
今年は凄い宇宙ができました。
●
九音と京も並んで作業していた。恋人がいる人はきっと趣向を凝らしたものにするのだろう。京が作っているのは友チョコだけれども。
「九音はそういう人はいるの?」
ふと、隣の九音に聞いてみる。
「好きな人、ね……ヒミツだよ」
九音が作っているのはチョコスナックだ。
「上手く、進んでる……?」
「こっちは大丈夫! ちゃんとできてるよ」
京は色々な味の動物型チョコレートを。
二人とも、楽しく会話しながら手慣れた様子で作業を進める。
室内ではどこもかしこも作るチョコレートの話題で盛り上がっているようだ。
「やほ、紺子ちゃん♪」
「やっほー♪」
家庭科室で作っている話を聞きつけて要がやってきた。毎年家族に手作りしているらしい。
「今年はサン・セバスチャンにしようと思うんだよねー」
「へー。なんだろ? それ?」
それは、切ると市松模様になるケーキだと言う。それは凄いと瞳を輝かせる紺子と雑談をしながら要は着々と作業を進めた。二色のスポンジケーキを焼き、繰りぬいて組み立て飾り付けまでして完成だ。
「完成♪ 2つ作ったから、こっちは紺子ちゃんにね♪」
「ふぉぉぉ。凄い! 貰っていいの? ありがとう!」
綺麗にラッピングされたケーキを受け取り、紺子はうっとりと手の中のケーキを眺めた。きっと切れば市松模様で、想像するだけで楽しい。
ミュリリは今年も手の込んだ一品を作っているようだ。
凍らせた生クリームの器に様々な材料を混ぜ合わせたクリームを流し込む。そして、凍った生クリームの板で蓋をして、苺のチョコでコーティング。飾りつけも可愛らしくできたら完成だ。
「紺子ちゃん! これはどうかな?」
出来上がったケーキにナイフを入れる。
「う、わぁ。中からクリームが! おいしそうー!!」
とろりあふれたクリームに、紺子も大興奮だ。
そこに、夜々がやってきた。
「誘うぐらいだからあげたい奴がいたりするのか?」
紺子に話をふりながらビターとホワイトチョコをテーブルに並べる。
「んー。特に決まった相手はいないけど、あ、あげるって言うか、みんなとたくさんチョコを食べたいなー♪ そういう雲無さんは?」
「俺はいない、余ってしまったら適当に押し付ける」
パッツン前髪同士、なるほどと頷きあう。
夜々がチョコの作り方を教えて欲しいと言うと、数人の生徒が集まってきた。
「オーソドックスに湯煎して型に流してはいかがでしょう?」
生チョコを黙々と作っていた菫がいくつか鍋を見繕って差し出す。
「パンダ型を目指すとなぜ分かった?!」
夜々はそう言いながらも鍋を受け取りチョコを刻み始めた。
「穂都伽はあげたい奴がいたりとか?」
「まあその……」
問われて、菫は語尾を濁した。RB団を粛清したり、RB団に激辛チョコをあげたりと、まともなチョコを他人にあげたことが無いことに気付いてしまったのだ。ストップRB時空。今回こそ、ちゃんとしたチョコを作ろうと、こうして家庭科室までやってきた。
なお、あげる相手は特に決めていない。
「あの、大きくかき混ぜるとまんべんなく熱が通りますよ」
ゆまも控えめにかき混ぜ方を教えてくれた。
見ると、彼女の手元にはつぶらな瞳のいのししチョコケーキが鎮座している。
「うわぁ、可愛いケーキだねぇ!」
「ありがとうございます。ふむ……ちょと材料が余っちゃったからミニパフェでもつくろうかな?」
スポンジの切れ端やフルーツ、クリームを使えば、きっと美味しいパフェが出来上がるだろう。
いのししケーキを覗き込んでいた紺子が真っ先に顔を上げ、瞳を輝かせた。
その隣では、サキが『試食のチョコ歓迎』と書かれたプレートをテーブルに置き、そわそわとみんなの様子を眺めている。
どこでどのような伝達が行われたのかは分からないのだが、どうやら試食の名目で沢山チョコが食べられると思っているようだ。
「すごく興味深いプレートなんだけど、それはどうしたの?」
「……試食のチョコ、色々、食べられるって……違うの?」
紺子からの問いには、きょとんとして小首を傾げた。
「ううん。だいじょうぶだよー♪ 試食は大切だよねー!」
何度も頷きながら、ちゃっかり隣に座り込み紺子も期待の眼差しで周囲を見た。
「お嬢様の仰せのままに」
そして、狙っていたかのように自然に差し出されるチョコレートの乗った小皿。
アンカーが二人の前に自作のチョコを運んできたのだ。
「おおー。早速ありがとう。これは……、チョコレートだ!」
「……、チョコ、食べていい?」
見ると、そこにはチョコを溶かして固めました、と言わんばかりのチョコレートの塊が小皿に乗っているのだ。
紺子とサキは同時にいただきますをしてチョコを口に運んだ。
「最近は料理が出来る男がモテるらしいからね。紺子君はどうかね?」
ひらりとエプロンを靡かせ、アンカーが紺子に問いかける。
「ふんふん。私はねー、どうかなー。美味しいものがあったら今はいいかなー♪ 美味しいもの食べると幸せだよねー」
「甘い」
色々都合のいいことを語る紺子の隣で、サキは用意していた札を上げ……若干次を期待するように皆を見ていた。
お裾分け用のチョコを持っている生徒達が、サキのプレートに気付き集まってきた。
●
西久保中3Hの仲間もチョコレート作りにいそしんでいた。
「完成品のビジョンは特にないけど……まぁ、なんとかなるかなってね」
そう言いながら、シズヤは手にした試験管からチョコレートへ何やら液体を投入した。
「し、シズヤくん……? お菓子を作るのに、試験管はあんまり必要ないんじゃない、かな……?」
「し、シズヤくん……大丈夫なんでしょうか。それは」
たまきと雹が驚いたように手を止める。
そこに、落ち着き払った悠が声をかけた。
「その試験管はどんな隠し味なんだろう? 僕でよければ教えようか?」
「ん……隠し味ではないんだけど。昨日調合した、栄養剤みたいなものさ」
味は、少し甘いから大丈夫とのことだが……。
それはともかく、気を取り直してそれぞれチョコを作り始めた。
「こうやって、湯せんでチョコを溶かして、それを型に流し込んで……いい匂いだねぇ……」
つまみ食いの誘惑と戦いながら、たまきは小さなチョコを沢山作る。
「型抜きのコツとかは……うん、教えてもらおうかな」
コツを教わり、シズヤも作業を続けた。
「皆さんと一緒に作るというのは、なかなか楽しげなものですね」
雹は星形やハート型、動物の型を使って小さなチョコを作っている。
「うん……悪くないかな」
考えてみれば、こんな風に誰かと一緒にお菓子作りなど久しぶりのことだ。
悠は出来上がった可愛いチョコレートを丁寧にラッピングして仕上げて見せた。
「えへへ、みんなで作ると美味しい、ね……♪」
たまきの言葉は、皆が感じていることだった。
その日遅くまで、家庭科室からは甘い匂いが漂い、楽しい会話の声が絶え間なく聞こえてきていた。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年2月13日
難度:簡単
参加:26人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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