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あるところに、大きなサーカステント群が放置されている。
だがここにサーカスなどいない。
謎の事件によって一団まるごと消えたという噂がまことしやかに囁かれていた。
そして事実として……テントの中には闇の眷属『むさぼり蜘蛛』が巨大な巣を作っていた。
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ある山奥のサーカステント。
そこにはぐれ眷属が住み着いている。
これをやっつけるのが、今回我々に課せられた役割である。
ここでいう『眷属』とはダークネスが生き物をベースに作り出したモンスターのことで、主人の不在や灼滅によって行き場を喪ったものをはぐれ眷属と言う。
『むさぼり蜘蛛』も代表的なはぐれ眷属の一種で、糸と吐く攻撃や腹についている牙による噛みつき、爪による攻撃や単純な突撃など多彩な攻撃方法をもつ蜘蛛型眷属だ。
「テント群は一番大きなテントを中心に小テントに囲まれています。まずは小テントに巣くう蜘蛛を倒し、最後にここのボスであるところの大型むさぼり蜘蛛がいる大テントを攻略しましょう。難しい任務ではありませんので、練習にもいいですね。では、お気をつけて!」
参加者 | |
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石弓・矧(狂刃・d00299) |
苑田・歌菜(人生芸無・d02293) |
藤堂・焔弥(赤い狂星・d04979) |
綺堂・妖(大神狐金色五尾・d15424) |
十・七(コールドハート・d22973) |
縹・三義(残夜・d24952) |
午傍・猛(黄の破壊者・d25499) |
平・和守(用意周到動脈硬化・d31867) |
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市松模様の羽織に赤い鞘の刀を携えて、石弓・矧(狂刃・d00299)は木々の間を進んでいた。深い茂みを抜けると、小高い崖に行き当たる。目下には大小のサーカステントが見えていた。
「舗装された道がまるで無い。はぐれ眷属にはもってこいの場所ですね」
「人里近くにあるよりはずっとよい。しかし、あのテントがまともに機能しておった頃はどうなっておったんじゃろうか」
額に手を翳し、テント群を見下ろす綺堂・妖(大神狐金色五尾・d15424)。
同じように身を乗り出して、苑田・歌菜(人生芸無・d02293)もまたテント群を見下ろした。
「今もサーカステントのままでいてくれれば楽なんだけど、出てくるのが蜘蛛の化け物だもの。ちょっとしたホラーよね」
どこから攻めたものかと相談し合う仲間を横目に、縹・三義(残夜・d24952)はこきりと首を慣らした。
足下で霊犬ひとつが舌を出して尻尾を振っている。
「……なんか楽しそうだね、ひとつ」
「ヒャン」
最終的に崖を駆け下りて襲撃するという源氏アタックに行きついたらしく、十・七(コールドハート・d22973)は軽く高さを目測していた。出歩いているむさぼり蜘蛛がテントの影にちらちらと見える。
「ほんと、どこにでもわくのね」
「無人のサーカステントなんてものは格好の住処だろうしな」
後ろから声をかけてくる藤堂・焔弥(赤い狂星・d04979)に、七は無言で返した。
「元々無人だったのか、それともやつらの餌になったか。まあどっちでもいいがな」
「そういうな。人の命だ」
平・和守(用意周到動脈硬化・d31867)は小銃にマガジンを装填し斜め下に構えた。
「一般市民の安全のため、全力をつくそう」
「っしゃ、かちこむぞ!」
軽く屈伸運動をする午傍・猛(黄の破壊者・d25499)。
「一丁、害虫退治と行こうじゃねえか!」
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隣を歩いていたむさぼり蜘蛛が真っ二つに切断された。
そんな突然の出来事に、小テントの蜘蛛は混乱した。
次々にテントを飛び出し、敵の気配を探る。前後左右。どこにもいない。
はたと自分を覆う影に気づいた時には、既に――。
「遅い!」
羽織りを靡かせ、矧が蜘蛛を踏み砕いた。
崖の上からそのままダイブしてきたのだ。周りを囲む蜘蛛たちに視線を走らせ、眼鏡を中指で押し上げる。
「反応速度は大して早くない。と言うことは……」
四方からばらばらに放たれた糸を転がりによって回避。刀を抜くまでも無く、鞘を停止信号の型で構える。そして包囲の薄い所を狙って鞘を叩き付けた。
思い切りはじき飛ばされる蜘蛛。
そんな彼のすぐ後ろ。包囲の真っ只中に猛と焔弥がそれぞれ着地した。
折角包囲を解いたのにという顔で振り返る矧。
「そんな顔すんな。こっちの方が早いだろうが」
「なにせ、餌が向こうから来るんだからな。まともに戦った所でたいしたデータもとれそうにない」
「っつーわけで、着装!」
非対称なポーズでカードを翳す二人。
腕にそれぞれスライドさせると、特殊な装甲服が発生。彼らにコンマ零一秒で装着された。
同時に出現したハンマーを担ぎ上げる猛。
「起きろニオブ、狩りの時間だ」
腕からデモノイド組織を放出し、斧を形成する焔弥。
次々と飛びかかる蜘蛛の群れに、二人はそれぞれ斧とハンマーを叩き付けた。
「虫を潰すにゃ過ぎたシロモンだが、跡形もなくす仕事なんでな!」
吹き飛ぶ蜘蛛。猛は矧たちとは逆方向に駆け出し別の蜘蛛たちを次々に殴りつけ始めた。
一方で直立不動のまま斧を振り回す焔弥。生き物のように伸びた斧が飛びかかろうとした蜘蛛や逃げようとした蜘蛛を片っ端から食いちぎり、周辺に破片をまき散らしていく。
そんな彼らを完全な外敵と見なした蜘蛛たちが、他のテントからもわき出た仲間と一緒になって飛びかかっていった。
たかが蜘蛛、されど眷属。焔弥の猛攻を押しつぶさんばかりの物量で一気に飛びつき、巨大な山のようになった。
一瞬動きを止める蜘蛛たち。
つぎの瞬間、蜘蛛は一斉に吹き飛んでいった。
焔弥によって、だけではない。
彼の後ろで、縛霊手から携帯祭壇を展開した三義によるものである。
片眉を上げて笑う三義。
「この分だと、そんなに歩き回らなくても済みそうだね」
「……かもな」
斧に蜘蛛の死体を咀嚼させながら呟く焔弥。
三義は周囲を見回して、そしてふと気づいた。
「あれ、ひとつは?」
派手に暴れる猛たちに刺激され、そこらじゅうの蜘蛛が気持ちの悪い機動で集まっている。
そんな中、進行中の蜘蛛が突如氷の槍に貫かれて爆発した。
木箱の影から顔を覗かせる七。
咄嗟に糸を飛ばしてくる蜘蛛をよけ、木箱の裏へ隠れる。テントを逆向きに回り込み、反対側から飛び出しつつ槍を構えた。
「死ぬまで当たれ」
妖冷弾を乱射。蜘蛛の集団に次々と突き刺さり、次々と爆発を繰り返す。
だが蜘蛛とて黙って殺されてばかりではない。仲間の屍を越え、七めがけて飛びかかってきた。
妖冷弾で迎撃をはかるが、数匹のうち最後の一匹だけ取り逃した。
「ッつ――!」
手首を刺し貫かれ、地面に押し倒された。
仰向け姿勢のまま蜘蛛に平手を当てエネルギーを注入。内部から破裂した蜘蛛の残骸を浴びながら、七は上体を起こした。
貫かれた手首は、と思って見てみると、手首の傷を犬が舐めていた。
霊犬ひとつ。三義のサーヴァントである。浄霊眼が籠もっていたようで、傷口が最初からなかったかのようにふさがった。
「…………」
ひとつの頭上に手を翳す七。
その時、蜘蛛の屍の中からまだ息のある蜘蛛がのそりと起き上がった。
反射的に構える七――よりも早く、明後日の方向から小銃による連射が蜘蛛へと浴びせられた。
脚がもげ、身体がはじけ、砂像のように崩壊する蜘蛛。
振り向くと、小銃を構えた和守が安定したペースで駆け寄ってきた。ほぼ全力疾走のはずなのに上体が全く動いていない。訓練された動きだ。彼に突きそう形でライドキャリバー・ヒトマルも走ってくる。
「無事か、十(ヨコタテ)!」
「…………無事よ」
手首を隠して立ち上がる七。
「綺堂、苑田さん、こっちだ!」
「はいはい、こっちね。このテントで最後かしら?」
「小テントはな。残存兵力が隠れてないか警戒しておく。ヒトマル!」
和守が呼びかけると、ヒトマルと彼は完全なシンメトリー方向に構え、出入り口を守った。
彼らの間を抜けるように駆け込む歌菜。
すると、テントの奥で身を固めていた蜘蛛たちがじりじりとわき出てきた。
「虫は苦手じゃないけど、こうもうぞうぞしてると嫌になるわね。普通の人ならどうにかなっちゃいそう」
肩をすくめる歌菜に、時間差で飛びかかる蜘蛛。
最初に飛んできた蜘蛛に氷のフレッシェット弾を投擲。途中で大量にばらまかれた氷の釘が蜘蛛を穴だらけにし、次に飛びかかろうとした蜘蛛と衝突した。
そこへ赤く変色したダイダロスベルトが布槍の要領で叩き付けられた。テントを突き破りまとめて吹き飛んでいく蜘蛛。
「連携ガバガバよ、隙だらけ。……っていうか、妖は一緒に来たんじゃ無かったの?」
「おるぞ、ずっと」
自分の真後ろから返事が聞こえて、歌菜は苦々しい顔をした。
「私の虚を突いてどうすんのよ」
「ここなら暫く休んでいられると思ったんじゃがのう」
「働きなさいよ、ほら」
前後を入れ替える歌菜。妖はため息をついて平手を翳した。
残りの蜘蛛が一気に突撃してくる。
「先刻からそればかりじゃなお前さんらは。何か一つくらい芸をみせんか」
翳した手を右から左へスライドさせると、妖力の塊が和矢となって次々と放たれる。
大雑把に放った筈の矢はまるで自ら意志を持っているかのようにくねり、すべての蜘蛛の額に突き刺さった。
ずずんと音を立ててその場に力尽きる蜘蛛たち。
「……む? 終わりか? 参ったのう、まだ小手調べしかしておらんのじゃが」
ゆるく腕を組み、矢を消失させる妖。
「ということは、次はあやつか」
と言って、中央大テントを振り返った。
●
『○○サーカス』とペイントされた看板が傾いている。
肝心の部分はかすれて読めないが、これが唯一この場所をサーカステントと言わしめる物体だと思うと、妙なもの悲しさがあった。
看板を倒し、テントの中に入っていく矧。
戦後に流行った個人興行隊の名残なのだろうか。中央のステージをパイプ椅子が囲むばかりの、それは寂しいテントだった。
が。
「ん? 親玉がいねえな」
左右を見回す猛。
彼がステージ中央に立ったその時、はるか頭上にわたされた『綱渡り用ロープ』がつよくしなった。
そう、大型むさぼり蜘蛛は彼らの到来を察してロープの上に潜んでいたのだ。
全ての足を槍のように構え、急降下してくる巨大蜘蛛。
が、そんな巨大蜘蛛を市松模様の布が薙ぎ払った。
「まあ、そんなところだろうと思いましたよ」
袖をはらって呟く矧。
巨大蜘蛛はバランスを失ってパイプ椅子の列へと突っ込んでいった。
「あっぶねえ、助かった!」
「先制は貰いました。仕掛けますよ」
「了解! ヒトマル、突撃!」
ライドキャリバー・ヒトマルと共に扇状に広がりながら射撃を浴びせる和守。
巨大蜘蛛は降りかかる弾丸を硬い皮膚で弾きながら、全ての足を地面に叩き付けた。
凄まじい振動によって転倒するヒトマル。
巨大蜘蛛はすかさずヒトマルを踏みつけにかかった。
「この――格闘は苦手なんだが、仕方ない!」
横から割り込むようにミリタリーショベルで脚部を殴りつける和守。
が、すぐに危険を察して飛び退いた。
巨大蜘蛛が全身から大量の糸を噴出させたのだ。
途端に大テント内は糸だらけになり、巨大蜘蛛は縦横無尽にテント内を飛び交い始める。
ヒトマルや彼のフォローにかかった霊犬ひとつの射撃をひょいひょいと交わし、追加で吐いた糸がひとつたちをたちまち拘束してしまった。
「まったく、あんまりじゃれつくから」
三義は肩をすくめ、縛霊手を大きく薙ぐように振った。
途端に凄まじい風が吹き、周囲の糸がぶちぶちと千切られていく。
開放されたひとつがぴょこぴょこと駆け寄ってきて、三義は小さく笑った。
一方の巨大蜘蛛は足場を失い、テント中央の頑丈そうな柱にしがみつく……が。
「悪あがきはやめときな!」
猛が強烈なパワーでもって中央の柱をハンマーで粉砕。
だるま落としもさながらに柱をめちゃくちゃにへし折り続け、落ちてきた巨大蜘蛛にとっておきの一撃を叩き込んだ。
「おらぁ!」
あまりの衝撃にテントの幕を引きちぎって飛び出す巨大蜘蛛。
このままではかなわないと察したのか、逆方向に向きを変え脱兎の如く逃げだ――そうとした途端、真正面の小テントが吹き飛んだ。
中から現われる歌菜と七。
「残念でした」
「逃がすわけないでしょ」
二人が連射した妖冷弾が次々と巨大蜘蛛に突き刺さる。
そんな巨大蜘蛛の後ろから、手についた糸を振り払いながら妖が歩いてきた。
「このしれものが! 丁寧に手入れした髪が台無しじゃ! 大人しくすれば百鬼夜行に加えてやったものを」
妖は手のひらを先刻のように翳すと、妖力で和矢を作り、それらを大量に束ねて槍に変え、それを急速に膨らませて攻城杭に変えた。
「お前さんにはこれじゃ」
杭がひとりでに飛び、巨大蜘蛛に突き刺さる。よくよく見ればそれは杭ではなく氷柱だった。
が、どのみち致命傷である。
地面に縫い付けられ、じたばたと暴れる巨大蜘蛛。
そんな彼に、焔弥はゆっくりと歩み寄る。
「大型種か。恐らくダークネスによって特殊改造されたものだろう……興味深い。ニオブ、サンプリングだ」
斧を突き出すと、先端が巨大な非物質のバケモノに変化した。
暴れる巨大蜘蛛に組み付き霊体だけをむさぼり食う。
最後は満腹そうに息を吐き、もとの斧に戻った。
後に残ったのは、巨大な蜘蛛の残骸だけである。
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しっぽをふる霊犬ひとつ。
ひとつを抱き上げ、頭を撫でてやる三義。そんな彼を、七は横目で見ていた。
「終わったわね」
「うん? んん、そうね」
歌菜に話しかけられ、前髪をつまむ七。
「あっ、なんだよ! ンなとここつまむな!」
「動くな。糸がとれん」
横では装着状態のままの猛から焔弥が巨大蜘蛛の糸を採取していた。
そこへ矧がやってくる。
「皆さん、怪我は残っていませんか。手当しますよ」
「ああ、頼むじゃあ……」
一方。
和守はどこかに蜘蛛がまだ潜んでいないか慎重に調べながら、テントを畳む作業に入っていた。
「ヒトマル、しっかり調べろ。また住処にされてもたまらないからな」
と、そうやってテントをひとつひとつ回っていると。
「なにをしてるんだ、妖」
「ふむ? なに、調べ物じゃ」
そう言って木箱を一つ一つ開いていた。
中に入っていたのはなんでもないものばかりだったが、その中に一つ、小さな看板を見つけた。
一緒に看板を覗き込む妖と和守。
「ふむ……これは」
「もしやとは思ったが、まさか……な」
看板にはこうある。
『嫌われものの闇サーカス』
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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