旧校舎の首狩り武者

    作者:波多野志郎

     ――それは、その中学校に伝わる七不思議のひとつである。
     かつて、旧校舎にはとある武者鎧が置かれていた。どこの誰が使っていたのか? 出自は不明だったが、とある旧家の蔵にあった武者鎧がその中学校に寄付されたのだという。
     しかし、その武者鎧は突如として姿を消した。強盗の類によるものではないか? そう警察では判断されたが、結果として犯人は見つかることなく時は流れた。今では、木造の旧校舎は捨て置かれ新校舎になっているが、七不思議のひとつとしてこう語り継がれている。
    『実はあの武者鎧には落ち武者の霊が取り憑いて、今も旧校舎をさ迷いながら首を狩ろうとしているのではないか?』
     そんな七不思議が、静かに生徒達の間に囁かれ浸透していった……。

    「天生目・ナツメ(大和撫子のなり損ない・d23288)さんと、千布里・采(夜藍空・d00110)さんから、九州の学校で多数の都市伝説が実体化して事件を起こしているという報告があったんすけどね?」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、そう真剣な表情で語り始めた。
    「場所が九州に特定されている事から、HKT六六六及び、うずめ様の関与が疑われてるんすけど、今のところ確証はない状況っす。何にせよ、多くの学生達が被害にあう前に、急いで解決して欲しいんすよ」
     問題の都市伝説が出現するのは、鹿児島県のとある中学校、その旧校舎だ。
    「木造の旧校舎っすけど、今では保存の意味もあって時々使われてるんすよ。だから、こんな物騒な都市伝説に出歩かれてると困るんすよね」
     夜、その旧校舎に侵入して欲しい。念のためにESPによる人払いを行ない、光源を用意して挑む必要がある。
    「旧校舎を徘徊しているのは、武者鎧一体っす。探すまでもなく、向こうもこちらへと襲い掛かってくるっす」
     実力はダークネスほどではないが、油断すれば痛い目を見る事になるだろう。ましてや、今回は何者かの気配を感じるのだ、と翠織は厳しい表情を見せた。
    「まぁ、襲ってくる事はなさそうっすけどね。ただ、事件を解決したら安全のためにすぐに帰還するようにお願いするっす」
     何よりも重要なのは、都市伝説を倒し被害を防ぐ事だ。翠織はそう、締めくくった。


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    祀火・大輔(迦具土神・d02337)
    嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)
    ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    姫川・小麦(夢の中のコンフェクショナリー・d23102)
    風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)
    園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835)

    ■リプレイ


     ギシリ、と足元の廊下がなる。その足場の感触を確かめながら、祀火・大輔(迦具土神・d02337)は夜の木造校舎を眺めながらぼやいた。
    「やれやれ、鶴見岳のイフリート事件を発端にして、何かとトラブルが絶えない魔境と化してきましたねぇ、俺の故郷は……」
     九州出身の大輔は、そう苦笑する。
    「もしHKT六六六や、刺青羅刹のうずめが関与してたとしても、俺はもう何も驚く事はないと思うっすよ……」
    「何にせよ、都市伝説も放置できませんしね」
     椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)の言葉に、姫川・小麦(夢の中のコンフェクショナリー・d23102)もコクリとうなずいた。
    「よるのがっこうってこわいけど、としでんせつもそのままにはできないの」
    「七不思議か……うちの学園は七どころかその10倍でも効かなそうだよな」
     そう嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)はしみじみとこぼす。
    「そう言えば武蔵坂学園の七不思議というのは聞いたことありませんが、どうなのでしょう。不思議が多すぎるのか、それとも、不思議がサイキックで説明できてしまうからないのか……」
     松庵の疑問に園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835)はため息を一つ、それとなく周囲に視線を走らせた。
    「今回は鎧武者も怖いですが、得体のしれない存在に見られているこの感じ……落ち着きませんね」
    「鎧武者か……実体があるぶん、亡霊だのよりは戦いやすそうだが」
     風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)の呟きと同時、仲間達も振り返る。
     廊下の奥、それはいた。朱塗りの武者鎧が、そこに立っていた。ガシャン、と滑らかに動いた武者鎧は、引き抜いた太刀を切っ先を天へと向けるような上段に構えた。下段に構えた武者鎧に、ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)は笑みを浮かべる。
    「ワォ、サムラーイ! 手合せネガオー!」
    「随分と物騒な都市伝説だことで……。ちゃちゃっと始末して帰りましょうか」
     その殺気を真正面から受け止め、気だるげに牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)は言い捨てた。
    「どれ……手合わせ願おうか」
    『――ッ』
     松庵が杖を手に取った瞬間、武者鎧が床を蹴る。一歩で、グンと勢いに乗る――その動きに対応して、小次郎はスレイヤーカードを手に唱えた。
    「機甲着装!」
     灼滅者達が戦闘体勢を整えたそこへ、武者鎧は横一閃の薙ぎ払いを繰り出した。


     ギギギギギギギギギギギギギギギン! と、無数の火花が散る。振り抜いた勢いで、武者鎧は大きく跳躍。後方へと大きく跳んだ。
    (「タイ捨流!?」)
     その動きに、大輔は思わず目を見張る。その引き際の歩法は、確かにタイ捨流のそれと酷似していた。だからこそ、大輔は笑みをこぼす。
    「都市伝説とはいえ、鎧武者。こうして武士と剣を見えられる事に何よりも感謝を述べたいっすねぇ……。 俺の首が飛ぶのが先か、アンタの首が飛ぶのが先か」
     薩摩刀『布都御魂』を高く掲げ、大輔は吼えた。
    「薩摩が守人 示現流 祀火・大輔。 いざ、尋常に……勝負ッ!!」
     大輔が強い踏み込みと共に、大上段からの斬撃が振り下ろされる。十文字焔薙――そう名づけた烈火の太刀に、武者鎧の表面が斬り口を押し広げるように十字に焔が吹き出した。しかし、武者鎧はガチャリと下げていた太刀の刃を返す。それに、大輔はすかさず引いた。
     直後、大輔のいた空間を下段からの大上段の振り上げが通り過ぎる。再び返される太刀――素早い持ち手の切り返しに、松庵は目を細めた。
    「基本以上を、こなしてくれるな」
     あの太刀捌きは厄介だ、そうこぼしながらも松庵は踏み込む。大上段から武者鎧が太刀を振り下ろしたよりも速く、松庵の仕込杖による居合いが武者鎧の胴を捉えた。ギギン! と武者鎧の胴がズレ、切っ先が肩先を通り過ぎる。松庵は、鞘でそれを受け流した。
    「容赦はせん……!」
     松庵が動かなかった理由がこれだ、その背後の死角から小次郎が低い体勢で滑り込み、武者鎧の足をブレードオンハートで切り裂いた。だが、それは足一本だ。素早く振り上げていた武者鎧の足が、小次郎へと振り下ろされる。
    「温い」
     ガガガガガガガガガ、と小次郎はその足を檻金の装甲で弾きながら、駆け抜けていった。その鎧を、十全と活かした防御だ。
    「参ります」
     そこへ、宙へと跳んだ琥珀が迫った。その鋭い跳び蹴り、スターゲイザーが武者鎧の胸部を捉える。ズン……! という重圧に踏ん張った武者鎧に、琥珀は蹴り足で後方へと大きく跳んだ。
    「ここです」
     ダンッ、と大きく右足を踏み出し、なつみはシールドに包まれた右拳を真っ直ぐに繰り出す。直突き、そう呼ばれる一打は跳んだ琥珀の後、まったく同じ場所を強打した。
     武者鎧が、宙を舞う。手応えは、確か似合った。しかし、吹き飛ばすまではなかったはずだ。その答えは、跳んだ空中で武者鎧がヒュオン! と太刀を薙ぎ払った事で理解出来た。
    「自分で跳んだ、ですか」
     そして、追撃を許さないために太刀を薙ぎ払ったのだ。ガシャンと武者鎧が着地、そこに一気に駆け込んだのはローゼマリーとビハインドのベルトーシカだ。
    「トッテモ、面白いデスネー! サムラーイ!」
     ローゼマリーとベルトーシカのダブルの裏拳が、武者鎧を殴打する。そこへ重ねるように、麻耶の螺穿槍が放たれた。だが、槍の穂先を武者鎧は太刀で受け流し、鎧の表面を削るに留まった。
    「面倒な奴っスね」
     ギギギギギン! と二合、三合と打ち合いながら麻耶は後退する。太刀でありながら、取り回しに遅れをとらない。その全ての基点が、あの柄捌きだ。順手、逆手、振るう時に握り方を問わない、タイ捨流の方でもよく見られる動きだ――そう、大輔は笑みを濃いものにする。
    「まさか、都市伝説とはいえタイ捨流とやり合えるなんて……!」
    「おにいちゃんおねえちゃんたち、きをつけてね」
     小麦はリボンと同じ色のひもで背負ったピンク色のうさぎのぬいぐるみ、その長い耳を揺らしながら防護符で己の守りを固める。
    「すぐ、くるよ」
     小麦の言葉の通り、武者鎧はヒュオンと逆手で太刀を振るうと鞘へと収めた。その動きに、同じ技を使うからこそ松庵が補足した。
    「居合いだ」
     直後、なつみめがけて武者鎧は居合いの一閃を放つ。なつみはそれを咄嗟にWOKシールドで受け止めるが、止め切れない――そう判断して内側に反対の腕を割り込ませ、クロスアームガードで耐え切った。
    「漫画って、役に立ちますよね」
    「灼滅者ぐらいっスよ、それ」
     しみじみと呟いたなつみの台詞に、麻耶はツッコミを入れる。何にせよ、自分の全部を叩き付けなくてはいけない相手なのだ――太刀を構える武者鎧へと、果敢に灼滅者達は挑みかかった。


     夜の木造校舎、その廊下を無数の光源が照らす。その中でもっとも大きく、多くの影を生み出しているのは武者鎧だ。その武者鎧へと、ローゼマリーは突っ込んだ。
    『――――』
     武者鎧は、それを下段に構えて対応しようとする。しかし、ベルトーシカの霊障波がそれを許さなかった。
    「隙有り、デス!」
     衝撃を受けてよろけた武者鎧へ、ローゼマリーは低く滑り込むと低空ミサイルキックを叩き込む! よろけた武者鎧へ、大輔は居合いと共にゴォ! と神薙刃の風の刃を飛ばした。
    「今っす!」
    「了解っス」
     続き、死角から滑り込んだ麻耶の槍が薙ぎ払われ武者鎧の足を切り裂く。ガシャン! と片膝をついた武者鎧、そこへなつみは大急ぎで駆け込んだ。
    「今、この時しかできません!」
     片膝をついた武者鎧の立てた膝を足場に、なつみは加速。繰り出された膝打ちが武者鎧の顎を強打してのけぞらせる!
    「おお、シャイニング・ウィザード! お見事デス!」
    「片膝立ちしてないとできないですからね」
     なつみとローゼマリーが、思わず手を打ち合わせた。そこへ、武者鎧は立ち上がると渾身の横一閃を薙ぎ払いを叩き込む!
    「がんばって!」
     小麦の応援からの清めの風が、優しく廊下を吹き抜けていった。それに背を押されたように、赤いマフラーをなびかせて小次郎が駆ける。
    「この身に加護を!」
     ブレードオンハートを破邪の白光によって輝かせ薙ぎ払った小次郎に、武者鎧は太刀の斬撃を重ねた。ギ、ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギン!! と火花を散らして両者が交差する――そこへ、琥珀が滑り込み螺旋の軌道を描いて槍を突き出した。
    「っと」
     脇腹に突き刺さった、しかし、槍の柄に強引に太刀の柄頭を当てて武者鎧は引こうとする。琥珀は体勢を崩しかけた、そこに武者鎧は拳を叩き込もうとするが――。
    「かかりましたね?」
     舞踏のような滑らかな動きで、琥珀はその拳を掻い潜った。そして、その間隙を松庵は見逃さない。
    「拳が引き戻せなかれば、太刀も引き戻せないだろう?」
     オーラを集中させた両の拳の連打、松庵の閃光百裂拳が、武者鎧を殴打した。ダダダダダダダダダダダダダダダダダダン! と、光源の中で無数の打撃痕が軌跡を残す。武者鎧の動きを間近で観察しながら、松庵はすかさず駆け抜けた。
    (「おかしい場所は何もない、ただの都市伝説と言ったところか」)
     この戦いを監視している者がいる――確信を抱くほどのものはない。杞憂なのか、それともこちらの知覚に入らない距離で監視をしているのか、答えは出ない。ただ、時折視線らしきものは感じるのだ。
    (「こわいひと、なのかな?」)
     小麦は、ぎゅっと背負った大好きなおねえちゃんの人形の手を握った。もしもの時は、その強い覚悟が小麦にはある。他の仲間にも、そういう決意をしている者もいた。
     だが、何にせよまずするべきはこの武者鎧の灼滅だ――灼滅者達は、決してその順番を間違えなかった。
    『――――』
     武者鎧が、踏み込む。それを迎え撃ったのは松庵だ。放たれる武者鎧の斬撃、それを松庵は引き抜いた仕込み杖の刃で受け止めた。ギギギギギギギギギギ! と鍔ぜり合いが繰り広げられる。武者鎧は大きく後方へ退こうとする、だが――。
    「その動きは、読めている」
     跳ね上げられた鞘、松庵の杖が武者鎧の胴を薙ぐ! ゴォ! と衝撃に打ち抜かれれ浮いた武者鎧へなつみが駆け込んだ。
    「ここです!」
     水平チョップ、手刀にオーラをまとわせての一閃が武者鎧を吹き飛ばす。ダ、ダダダン! と足をもつれらせながら武者鎧は着地する――その動きの鈍りを、麻耶は見逃さない。投げはなった麻耶の符に、武者鎧がのけぞった。
    「畳み掛けるっス」
    「はい」
     ス、と音もない摺り足で琥珀が踏み込んだ直後、ヒュオン! と槍が踊る。鎧の隙間隙間、着実に急所を狙った槍撃が武者鎧を切り裂いていった。
    「火攻めといくか……」
     印を組んだ小次郎が跳躍、壁を蹴ったその足が炎に包まれ回し蹴りが武者鎧を焼き切る。そこへベルトーシカのラリアットと共に、ローゼマリーが続いた。
    「モウひとつ、デス!」
     その武者鎧の顔面に、ローゼマリーの燃える前蹴りがめり込んだ。ドォ! と吹き飛ばされて武者鎧が廊下を転がっていく。起き上がった武者鎧へ、小麦が右手をかざした。
    「小麦もいくよ」
     ドン! と放たれたオーラの砲弾が、鈍い爆音を轟かせる。踏ん張りながら立ち上がった武者鎧に、大輔が薩摩刀『天之尾羽張』を構えた。
    「コイツで終わりっすよ。アンタと死合えた事、誇りに思うっす」
     牙穿――オーラを刀身へと宿して、全身のバネを使って打ち出す平突きが、文字通り武者鎧を撃ち抜いた。バキン! と鈍い破砕音――胴部を完全に砕かれた武者鎧は、まるで砂細工が風に吹かれたかのように、掻き消えていった……。


     戦いが終わった――しかし、誰一人として油断している者はいなかった。
    「死人にクチナーシ! 帰りマショー!」
     ローゼマリーの言葉にコクリとうなずき、小麦は置いていたライトを回収する。この戦いが、誰かに監視されていたかもしれない。そして、その誰かが襲って来ないとも限らないのだ。
    (「録音機材やカメラ等が無いっスね」)
     誰かが、そんな物を仕掛けていないか? そう麻耶は考えていたが、すくなくとも目に見える場所には、そういう仕掛けは一切ない。
    「離脱しましょう」
    「そうっすね」
     告げた琥珀に、大輔がうなずいた。その手は、未だにいつでも刀の柄へと伸びる用意が出来ている。松庵も周囲に視線を走らせ、特に視線がない事を確認するとうなずいた。
     灼滅者達は、こうして素早く撤退した。少なくとも第三者による妨害は受けなかった――もっとも重要視すべき、都市伝説の灼滅に成功した、灼滅者達は果たすべき仕事を果たしたのだった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ