●シフォンケーキ怪人シフォンケークグラビティ
シフォンケーキ。
フワフワした軽い食感が特徴的な、アメリカ生まれの洋菓子。
愛しすぎたが故だろう。日本にシフォンケーキを広めた者の会社がある地、愛知県にて活動を開始した者が一体。
「フォーフォフォフォフォフォ! シフォンケーキこそ至高、シフォンケーキこそ究極……他のケーキなど必要ありませんケー! ですのでどうか、そのように行動なされるよう……ケー。何、簡単な事ですよ、メニューを全て書き換えてしまえば……」
名を、シフォンケーキ怪人シフォンケークグラビティ!
シフォンケーキの頭とシフォンケーキ色のマントを持つご当地怪人は、愛知県内の喫茶店などに突撃してはメニューを確認。シフォンケーキ以外のデザート類を全てシフォンケーキに書き換えさせる……といった活動を行っていた。
逆らおうとした者に対しては暴力を振るうこともあった。
それこそがシフォンケーキのシェアを広げ、魅力を伝えると。ゆくゆくは世界征服につながるのだと信じて……。
「ずいぶんと迷惑な怪人だね……」
食堂にて、フェイ・ユン(侠華・d29900)はシフォンケーキ怪人と記されているメモを眺め小さく肩を落とす。
しばらく考えた後、顔を上げた立ち上がった。
「知らせてみよう! 本当なら困るし……」
エクスブレインへと伝えるため。真実ならば解決策を導かなくてはならないのだから……。
●夕暮れ時の教室にて
「それじゃ葉月ちゃん! 後はよろしく!」
「はい、フェイさんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)はフェイに頭を下げた後、灼滅者たちへと向き直った。
「愛知県でご当地怪人、シフォンケーキ怪人シフォンケークグラビティが活動している事が判明しました」
本来、ダークネスにはバベルの鎖による予知能力があるため、接触は困難。しかし、エクスブレインの導きに従えば、その予知を掻い潜り迫ることができるのだ。
「とは言え、ダークネスは強敵。色々とあるご当地怪人といえど、です。ですのでどうか、確実な行動をお願いします」
続いて、地図を広げ愛知県内の商店街、その中にある喫茶店を示していく。
「皆さんが赴く当日のお昼過ぎ、シフォンケークグラビティはこの喫茶店と交渉という名の恫喝を行っているでしょう」
目的は、喫茶店のメニューを確認しデザートを全てシフォンケーキに書き換えるため。
デザートをシフォンケーキ一択にする事、それこそがシェアを広げ魅力を伝える、ゆくゆくは世界征服につながると信じているのだ。
「それだけでも問題ですが、拒否した場合は暴力を振るうこともあるようで……」
故に、まずは喫茶店とシフォンケークグラビティの間に割り込み仲裁する必要がある。その後、最低限店の外へとおびき出して戦いを挑む……と言った流れとなるだろう。
敵戦力はシフォンケークグラビティの他、パティシエの服を着ている配下が四名。
シフォンケークグラビティの姿はシフォンケーキの頭とシフォンケーキ色のマントを持つ怪人。力量は配下がいる状態ならば八人を相手取れる程度で、妨害・強化を得意としている。
技は、巨大なシフォンケーキ状のオーラをふらせて一定範囲内を押しつぶし麻痺させるシフォンケーキプレス、敵陣の防具を吸い込み防御力を削ぐシフォンケーキブラックホール、凄まじい勢いで敵陣の加護を砕く風を放つシフォンケーキホワイトホール。そして、自分か配下たちの傷を癒やし攻撃力を高めさせるスペシャルシフォンケーキ。
一方、配下は攻撃役。シフォンケーキを食べて治療を行いながら、殴る蹴るといった連撃を仕掛けてくる。
「以上で説明を終了します」
地図などを手渡し、葉月は締め括る。
「シフォンケーキ。確かに魅力あるケーキだとは思います。私も好きです。ですが、無理矢理は行けません、美味しくありませんし嫌いになってしまう場合もあります。ですのでどうか、全力での行動を。何よりも無事に帰って来てくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
一條・華丸(琴富伎屋・d02101) |
柾・菊乃(鬼薊姫命・d12039) |
エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852) |
堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126) |
アリエス・オデュッセイア(アルゴノーツ・d29761) |
フェイ・ユン(侠華・d29900) |
八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363) |
畑梛木・歩(高校生ご当地ヒーロー・d32496) |
●シフォンケーキを護るため
寒風吹きすさぶ冬の日の、落ち着いた時間が流れていくお昼過ぎ。シフォンケーキ怪人シフォンケークグラビティが襲撃するという喫茶店に向かう中、一條・華丸(琴富伎屋・d02101)は語りだす。
「シフォンケーキって意識して食ったコトねぇけど、なんだか食ってみたくなる依頼だな」
様々な返答がなされる中、カッと瞳を見開いた。
「……これが怪人の作戦!? だとしたらまんまと嵌ってるな」
気を取り直すように肩をすくめ、更なる歩を進めていく。
無理矢理な営業活動は客の心を引き離すだけ……と会話を咲かせてからしばしの後、喫茶店へと到達。ざわついている空気を感じながら店内へと突入した。
「フォーフォフォフォフォフォ! シフォンケーキこそ至高、シフォンケーキこそ究極……他のケーキなど必要ありませんケー! ですのでどうか、そのように行動なされるよう……ケー。何、簡単な事ですよ、メニューを全て書き換えてしまえば……」
話に聞いていた通り、店内ではシフォンケーキの頭とシフォンケーキ色のマントを持つ怪人、シフォンケークグラビティが、店長と思しき男性に向かって詰め寄っている姿を発見。
華丸は颯爽と歩み寄り、間に割り込んでいく。
「待て待て、お前の大事なケーキを広めてくれる大事な店だろ? 壊してどうする」
「……何奴ケー?」
小首を傾げ、視線を送ってくるシフォンケークグラビティ。
さなかには残る仲間たちも次々と間に割り込んで店長を……そして客や従業員を守れる位置に立っていく。
堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)はしっかりと退路を確保した上で、元気な声音で言い放った。
「シフォンケーキってバームクーヘンの劣化版だよね!」
「ケー!?」
「シフォンケーキって、他のケーキと比べて、ちょっと味気ないよね」
続いて、フェイ・ユン(侠華・d29900)も軽い調子でうそぶいて、シフォンケークグラビティの意識を己等に向けさせていく。
睨みつけるような視線を受け止めた上で、アリエス・オデュッセイア(アルゴノーツ・d29761)もまた口を開いた。
「最近コンビニとかにもあるし、高級感ないのよねー。それからえーと、あと、ほら、シフォンって……胸が小さそうな名前よね! いや違う、そうじゃなくて……ほら、簡単に潰れてぺたーんって平らになっちゃって貧相っていうか……!」
どことなく迷いがあるのは、シフォンという名の人物を知っているからだろうか?
もっとも、シフォンケークグラビティは気づいていない。
絶句したまま、灼滅者たちを見据えていた。
後もう一言二言重ねればおびき寄せることができるだろうと、畑梛木・歩(高校生ご当地ヒーロー・d32496)もまた静かな調子で告げていく。
「シフォンケーキよりも、自分が管理する神社で販売している白甲饅頭や岩鬼塚煎餅のほうが、シフォンケーキよりずっと美味しいかと」
「……」
二言目を担うはずの柾・菊乃(鬼薊姫命・d12039)は一人、胸に手を当て俯いた。
ふわふわのシフォンケーキは大好物。だから、作戦とはいえ馬鹿にするのは心が痛む。
けれど……。
「そのぉ…ところで、向こうにしふぉんけーきを弾圧してれあちーずけーきを広めんとする団体が陣取っているのですが、そちらも見に行った方がよろしいのでは? よろしければ案内させて頂きますよ?」
これも灼滅のためと割りきって、精一杯の言葉で挑発……もとい誘導の言葉を投げかけた。
エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)がそんな彼女の肩に手を載せて、店の外を示していく。
「さ、向こうの美味しいレアチーズケーキの店に行こうか」
促されるまま、灼滅者たちは菊乃を先頭に喫茶店の中から退出する。
最後尾を務める八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)は振り返り、まずはシフォンケークグラビティへと一礼した。
「御機嫌よう、怪人様。無理矢理布教なさるのは雅ではありませんわね」
静かな調子で告げながら、シフォンケークグラビティが握っているメニューへと視線を送っていく。
「申し訳ございません、私甘い物が得意ではなくて……怪人様ならシフォンケーキへの愛を熱く私に囁いて下さるかと思ったのですが……その程度ですのね、残念ですわ」
更には店内へと向き直り、折り目正しく頭を下げた。
「店内の皆様はどうぞそのまま。もう、お暇させて頂きます故」
言葉を終えると共に振り返り、仲間たちの後を追っていく。
「け、け、ケー……」
背後から、ようやく絞り出したかのような声が聞こえてきた。
走り始めたような足音も聞こえてきた。
灼滅者たちは店の外で陣を敷き、迎え討つ構えを取っていく……。
●シフォンケーキ軍団の猛攻
「境を繋ぐ堺の守護ヒーロー、ここに参上!」
定められたワードを唱え、丁は武装。黒いマントをはためかせながら交通標識をケーキ注意と言うの警告に塗り替え、掲げていく。
「さ、出てきたら仕掛けよう!」
主に命じられるまま、ライドキャリバーもエンジン音をうならせる。
店からシフォンケークグラビティが顔を出し、その後を追う形で配下と思しき四名のパティシエが姿を表した時、ギアを入れて走りだした。
「ケー!?」
不意を打たれる形となったシフォンケークグラビティが慄き、先頭に位置する配下が鋼のボディをぶちかまされた時、エリスフィールもまた警告を意味するサインボードを掲げていく。
「シフォンケーキの名誉を護る為、お前を倒す!」
倒すために重ねられた悪しき力に抗うための加護を感じながら、フェイは白きエアシューズに覆われし脚に炎を纏わせた。
「やり方間違えちゃっているよね。気持ちはわかるけど、これ以上は迷惑だし、ここで倒しちゃうよ」
軽快な足取りで歩み寄り、鋼のボディをぶちかまされよろめく配下に炎のスライディングをかましていく。
配下が転び、炎上していく中、ようやく……と言った調子でシフォンケークグラビティが口を開く。
「け、ケー! 何をおっしゃいますケー。この方法が間違っているなどありえない、この方法こそがシフォンケーキを広めてくれるのですケー!」
拳を握りガッツポーズを取るなど堪えた様子もないシフォンケークグラビティ。
フェイは肩をすくめながら視線を外し、再び脚に炎を……先ほどとは質の違う炎を走らせた。
間断なく攻撃が加えられている先頭の配下の懐へと再び踏み込んで、蹴りあげる!
配下は壁へと叩きつけられ、炎が消えゆく中で昏倒する。
「一人目……ですね」
フェイはすぐさま敵陣から距離を取り、ビハインドの无名と立ち位置を入れ替えた。
ようやく状況を理解したのだろう。配下たちが无名を中心とする前衛陣に向かい殴りかかっていく。
シフォンケークグラビティもまた表情を引き締め、語りだした。
「ふ……フォーフォフォフォフォフォ! このシフォンケークグラビティ、不覚にも策に嵌ってしまうところでしたケー。よろしい、あなた方がそのつもりならお相手いたしましょケー! このシフォンケークグラビティ様が、シフォンケーキの魅力を伝えて差し上げますケー! シフォンケーキホワイトホール!」
語り終えるとともにシフォンケーキのホールを一つ取り出し、真ん中の穴から力の奔流を吐き出し始めていく。
雪崩れ込むがままに一人を倒した勢いは衰えぬと、灼滅者たちは奔流に抗い更なる攻撃を仕掛けていく……。
シフォンケークグラビティ操るシフォンケーキによってもたらされる様々な力を癒やしながら、灼滅者たちは配下たちを攻め立てていた。
治療役であるアリエスの歌声を中心に上手く回復しあう事ができていたからだろう。特に立ち止まる事もなく、二体目の配下を撃破することにも成功した。
シフォンケークグラビティが怯む様子はない。
「ケー、まだまだここからですケー! 行きます、シフォンケーキプレス!」
巨大なシフォンケーキ状のオーラが空へと浮かび、前衛陣を押しつぶさんと降り注ぐ。
「っと」
華丸はバックステップを踏むと共に盾を掲げ、受け流す。
着地と共に配下たちの周囲に張り巡らせていた結界を起動し、移動を制限した。
更にはビハインドの住之江が顔を晒し、配下たちに少なからぬ衝撃を与えていく。
避けきれぬ者たちを癒やすため、アリエスはさらなる歌声を響かせた。
「配下を倒せばらくになるはずだから……頑張って!」
呼応し、歩は風を纏わせし日本刀で虚空を付く。
発生した風刃を追いかけるように大地を蹴り、刀を鞘へと収めながら懐へと入り込んだ。
「神梛木一刀流……魂迎鳥」
着地と共に腰を落とし、立ち上がらんとする勢いも乗せて居合一閃。
小気味の良い音を立てながら、また一体、配下を昏倒させる事に成功した。
「残りは一人……」
鈴の音を鳴らしながら刀を鞘へを収め、最後の配下へと向き直る。
視線の先、梅子の放った氷が最後の配下の胸元を凍てつかせていた。
「さ、後はあなた御一人……覚悟して下さいませ」
「ケー……まだです、まだまだここからですケー!」
梅子の言葉を否定するかのように、シフォンケークグラビティは声を荒らげながらシフォンケーキのホールを取り出した。
「ささ、食べて元気を出すケー」
配下へと手渡し、食べさせ、動きの精度を上げさせていく。
問題ないと、灼滅者たちは迎え討つ。
そして……。
●美味しいふわふわシフォンケーキ
……程なくして、最後の配下を叩きのめす事に成功した。
残るはシフォンケークグラビティただ一人。攻め手となる手駒を失った以上大きな脅威とはならないと、灼滅者たちは勢いを弱める事なく攻め立てる。
攻め続ける事ができるように、アリエスは歌い続けた朗々と。
ブラックホールによって弱められら守りを補うことができるよう、プレスによって鈍った体に精彩を与える事ができるように。
歌声によって与えられた力を糧に、住之江は得物を突き出した。
避けることなど許さぬと、華丸が遥かな空より流星の如き蹴りを放っていく!
「無理やりな営業活動は客の心を引き離すだけだぜ! そんなんじゃ御贔屓さんはつかねぇよ」
「ケー……」
双方の攻撃を腕で胸で受け、シフォンケークグラビティはよろめいた。
よろめきながらもシフォンケーキのホールを取り出し、周囲のものを吸い込み始めていく。
「まだまだこの程度で負けませんケー! シフォンケーキブラックホール!」
「もらった!」
吸い込まれる勢いに抗うことなく、寧ろ活かす形で、丁は跳躍。交通標識を悪に斜線を引いたものへと描き変え、シフォンケークグラビティに向かって振り下ろす。
フェイも丁の後を追い、脚を炎熱させながら跳躍。
「丁ちゃん、続くよ!」
頷き退く丁と入れ替わる形で、炎のキックをシフォンケークグラビティの土手っ腹へと突き刺した。
「ケー……」
炎に包まれ、燃えゆくシフォンケークグラビティ。
よろめいた隙を見逃さず、无名は得物を叩き込む。
梅子も魔力の矢を放ち。その体を抑えつけた。
「ようやくおしまいですわね。私、塩味お醤油味のお煎餅とほうじ茶が恋しいですの」
「け、け、ケー……」
変劇の気配はない。
アリエスはメロディだけを残し、駆け出した。
「よくも私にファンの悪口を言わせたわね……!」
シフォン、の名に関係する言葉への想いを語りながら、ギターを思いっきり叩きつけた。
理不尽ながらも反論する余裕もないシフォンケークグラビティに、歩が刀を振り下ろす。
肩へと食い込ませたまま、力任せに抑えこむ。
「終わらせましょう」
「ああ、まずは下準備と参ろうか」
歩の鳴らす鈴の音に誘われ、エリスフィールがシフォンケークグラビティに帯を巻き付ける。
負けじと、シフォンケークグラビティはシフォンケーキのホールを取り出した。
「ケー、まだまだ……」
「シルヴァリア、通すな!」
すかさずエリスフィールはビハインドのシルヴァリアに命を出す。
命ぜられるままに得物を振るったシルヴァリアがシフォンケーキホールを叩き落としていく中、エルフィールは菊乃へと視線を送った。
「菊乃嬢、仕上げだ!」
「はいっ!」
返事を受け取り、エリスフィールはシフォンケークグラビティの周囲に結界を張り巡らせ初めて行く。
菊乃は輝く鞭剣を携えながら、結界の中心めがけて駆け出した。
「け、け、ケー!!」
迎え打たんとしたシフォンケークグラビティを、エリスフィールの結界が拘束。
刹那、菊乃が横を駆け抜けた。
「……」
鞭剣を鞘へと収めた時、シフォンケークグラビティは膝をつく。
切り裂かれた脚をかばいながら立ち上がり、空を仰いだ。
「ケー……無念です……このようなところで……夢、破れるとは……ケー……」
言葉を途切れさせると共に倒れ、地面に激突するとともに爆散。
後には何も残さず、この世界から消滅した。
傷を癒やし、配下たちを解放した灼滅者たちは、各々の道に向かって歩き出した。
ある者は早々なる帰還を、ある者はカフェでの休息を。またある者はシフォンケーキを広めた者が務めている会社が経営している店へと趣き、各々の時間を過ごし始めていく。
シフォンケーキ、ふわふわした食感が魅力的な美味しいケーキ。その魅力を、存分に堪能していくために……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年2月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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