美術室の亡霊

    作者:御剣鋼

    ●放課後の美術室にて
    「あら? この絵、誰のでしょうか?」
     部活を終えた美術部部員達は、他愛ない雑談を交わしながら画材を片付けていて。
     そんな中、部長らしき女子生徒が、埃をかぶった棚の前で、首を傾げた。
    「え、どれどれ!」
     不思議そうな部長の声に、興味津々な部員達の視線が集まる。
     部長が埃を被った棚から取り出したのは、B3サイズ程の油絵のキャンバスだった。
    「この絵、描きかけだよねぇー、引退した先輩達の誰かが忘れたのかなぁー」
    「あ、そういえばさ、この学校に美術室にまつわる七不思議、知ってるか?」
     ――描きかけの絵画を真夜中の美術室に立てておくと、日に日に加筆されるという。
     その話に興味を引かれたのだろう、部員達は笑いながら怪談を付け加えていく。
    「それって確か『死んだ美術部の生徒が、毎晩絵に加筆している』だったよねぇ?」
    「この油絵も『死んだ美術部の生徒が、残した絵』っていうヤツか!」
    「私は『描いているところを見たら、呪い殺される』って聞きましたが……」
     一瞬、沈黙が降りる。
     部員達はほぼ同時に唾を飲み込むと、壁に掛かった古いアナログ時計を見やる。
     時間は19時前。突如、異様な寒気に襲われた部員達は、急ぎ足に片付けを済ませた。
    「し、消灯時間はとっくに過ぎてます、早く帰りましょう!」
    「そうだねぇ、なんか見てたら怖くなってきたよぉ……」
    「あーヤダヤダ、冬に怪談って時期じゃねーし寒いし、早く行こうぜ」
     最後に描きかけの油絵を棚の奥にしまいこみ、電気を消して、鍵をかける。
     時計の針が19時16分を差した瞬間、静寂に満ちた美術室に、ぼうっと影が浮かんだ。
     
    ●美術室の亡霊
    「天生目・ナツメ(大和撫子のなり損ない・d23288)様と、千布里・采(夜藍空・d00110)様から、九州の学校で都市伝説による事件が、連続で発生しているという報告がありましたことは、既に存知の方も多いと思われます」
     里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)がバインダーから取り出したのは、九州にある熊本県の地図。集まった灼滅者を見回すと、熊本県のある中学校に、学校の怪談を元にした都市伝説が現れたことを告げた。
    「場所が九州に特定されている事から『HKT六六六』及び『うずめ様』の関与が疑われておりますが、確証はございません」
     どちらにせよ、このままでは多くの学生が被害にあってしまうので、速やかな対策が必要だと、執事エクスブレインは説明を続ける。
    「皆様に討伐をお願いしたい都市伝説は『美術室の亡霊』でございます」
     作者不明の描きかけの絵画。真夜中の美術室。そんな話から生まれた都市伝説だ。
     その姿を見たら最後、一般人なら瞬時に殺されてしまうだろう……。
    「都市伝説は19時16分以降に現れます。ですので19時に美術室に潜入、描きかけの絵画を立てかけて置き、近くで身を潜めて下さいませ。亡霊は時間が来ましたら、絵画の前に現れます」
     19時前には、中学校の生徒は皆下校してしまうので、人払いの必要はない。
     美術室は一般的な広さで、机と椅子、イーゼル類は隅の方に片付けられているという。
     電気もきちんと付くので、戦いに支障が出るものは無いようだ……。
    「描きかけの絵画は美術室に置いてあるものでも、趣味のものを持参しても構いません。あ、隠れる時は電気を消しておくと、趣が……いえ、身を潜めやすくなるかと存じます」
     この執事、何処まで本気で言っているのかは、さておき……。
     現れる都市伝説は1体のみ、亡霊は美術部の女子生徒風の容貌をしているという。
    「近くの相手には漆黒のオーラを絵筆に宿してトラウマを与え、遠くに対しては赤いオーラを宿した絵筆でブレイクを狙い、疲労が濃くなりますと恨みを込めた叫びで、体力を奪う攻撃を織り交ぜてきます」
     敵は1体なので、今の灼滅者達ならば、苦戦を強いられる相手ではないだろう。
     執事エクスブレインは「最後に1つだけ」と、一拍置いて、再び言葉を紡いだ。
    「ここでも何者かの気配を感じます。襲ってくることはなさそうですが……」
     事件解決後は、安全のため、すぐに帰還するように。
     そう口元を結んだ執事エクスブレインは微笑み、深く頭を下げた。
    「いってらっしゃいませ、灼滅者様」


    参加者
    長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)
    丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)
    淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)
    斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)
    樹宮・鈴(奏哭・d06617)
    桐淵・荒蓮(殺闇鬼・d10261)
    日輪・瑠璃(汝は人狼なりや・d27489)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)

    ■リプレイ

    ●19時16分前
     美術室に足を踏み入れた灼滅者達は、周囲を警戒しながら、窓際へ近付いていく。
    「襲うつもりがない、か」
     単に自信過剰なだけなのか、それとも――。
     何れにしろ、目的が誰かを害するなら、全力で止めるだけだと長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)は、カーテンを閉めていく。
     その上から桐淵・荒蓮(殺闇鬼・d10261)達が、光が漏れないように暗幕を張った。
    「それ、落書――」
    「へのへのもへじも、立派な絵画ですよ?」
     日輪・瑠璃(汝は人狼なりや・d27489)が持参したスケッチブックに描かれたモノに、丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)は即座にツッコミを返す。
     まさかの『へのへのもへじ』に、思わず虚空を見上げてしまった蓮二の絵図、完成。
    「夜の学校ってだけでも若干クるものがあるのに、何でわざわざオバケっぽくなるの……」
     イーゼルを壁際に立てかけた樹宮・鈴(奏哭・d06617)は、何処か挙動不審。
     噂話や未知への恐怖心から来ていると分かっていても、心は既にお通夜モードである。
    「学校の怪談って場所ごとに個性があって、聞いてて楽しいですよね」
     ――そういえば、前に通っていた学校でもあった。
     そう、何処かノリノリで話し始めたのは、若桜・和弥(山桜花・d31076)だった。
    「夜中に二宮金治郎像が歩き回るっていうのがあったけど、金治郎像の首がもげた事件の方が、怪談よりも印象に残って……」
    「若桜やめろや丹生もこっち見るなや別にビビってないわ!!」
    「……大丈夫、相手はただのサイキックエナジーの塊、それだけだ」
    「そうよね都市伝説だものね――っわ!!」
     鈴の視界に飛び込んだのは目元に穴を開けた覆いを被って、ポーズをとっていた荒蓮。
     一見すると、オバケに見えなくも、ない。
    「すまん、全身タイプの石膏(せっこう)モデルに偽装したつもりだが」
    「……つ、強く生きるよ……泣かない強い心……」
     荒蓮のフォローに気が休む間もなく、鈴の心はいろんな意味でグロッキーです。
    「都市伝説だからだいじょーぶだわよ、びっくりさせんなって一発決めちゃおう!」
     それにしても、学校ってなんでこう、七不思議とか好きなのだろう。
     怪談の類は全く怖くないタイプの斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)は、電灯のスイッチから離れた壁際に絵画を置くように、声を掛けることも忘れない。
    「私は狼の姿で物陰に潜んでおきますね」
     イーゼルにスケッチブックを立てかけた瑠璃は、素早く狼に姿を変える。
     そして、何処か弾むような足取りで、一カ所に纏められていた机の下に身を潜ませた。
    「ぇと……ぅん、苦手な人はファイトなんだよっ♪」
     白のウェーブヘアを靡かせながら隠れる場所を探していた淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)は、一番大きな絵画に視線を留めると、その裏に回って身を隠す。
     麗羽も腰に吊るしたライトの灯りを消すと、物陰にそっと身を潜めた。
    「時間だね、俺達も隠れよう」
     蓮二の携帯端末から鳴ったアラームが、都市伝説出現の1分前を告げる。
     暗幕の陰に隠れた蓮二が、さらに目元に穴を開けた暗幕で身を隠そうとした時だった。
    「怖い訳じゃないです恐れてないです」
     そっと彼の隣に隠れた鈴の語尾が、フェードアウトしていくのは何故だろう?
    「都市伝説は大丈夫でも、後の気配の方は……なんて」
     カーテンから光が漏れていないことを確認した和弥も、隅の方で石膏像に紛れていて。
     白い服を着て、静かに『考える人』のポーズをとる和弥は、まるで哲学者のよう……。
     余談だが、あくまで暇つぶしであって、怯えさせるつもりはないですよというのは、彼女の弁であーる。
    「ま、やらなきゃなんない事とっとと片付けちゃおう」
     どちらかというと、生きてる人間の方がまだ怖いと、キリカは思う。
     全員が準備を終えて身を隠したことを確認したキリカは、電灯のスイッチを落とす。
     そして、彫刻に扮するようなポーズをとると、静かにその時を待った。
     ――1秒。
     ――10秒。
     ――20秒、経過。
     美術室の壁時計の長針が、カチリと音を立てた時だった。
     周りの空気が重くなり、壁際に立て掛けていたスケッチブックの前に、影が落ちた。

    ●美術室の亡霊
    「でたっ!」
     都市伝説に最初に気付いたのは、絵画の裏に隠れていた紗雪だった。
     金の瞳をキランと煌めかせると鈴の音と共に、元気良く絵画の裏から飛び出した。
    「姿見せやがれこんちくしょー!」
     スイッチの傍で待機していたキリカも艶やかな黒髪を靡かせ、すぐに灯りをつける。
    「早速ですがご退場願いましょう!」
    「――鳴神抜刀流、霧淵荒蓮、参るぞ!」
     灯りを合図に、机の下で気配を殺していた瑠璃が飛び出し、狼から人の姿に変えて。
     荒蓮も被っていた覆いを勢い良く取り払って、高らかと名乗り上げた時だった。
    「こ、これは!」
     視界が開けた灼滅者達の眼前に飛び込んできたのは、加筆されたスケッチブック。
     そこには、ちょんまげと眼鏡と顎髭が加筆された、ダンディなへのへのもへじがッ!
    「加筆というよりも改変かと 」
    「趣味、かな」
     柔和な表情でズバっと言ってくれた和弥に、麗羽が同意するように小さく頷く。
     和洋色々混ぜればいいってモノじゃありませんッ! ……っと、同時刻同現場では。
    「オバケだぞーがおー」
    「!!!」
     暗幕からフラリと姿を見せた蓮二に、鈴は脊髄反射で自分の口を押さえ込んでいて。
     霊犬のつん様は冷めた眼で主人()をみてます、そんな時。
    『ミーターナーア!!』
     コミカルな雰囲気を読まず、都市伝説の瞳は殺意で爛々と輝いていて。
     壁役に集中するように盾を構え直した麗羽が、KYな都市伝説を勢い良く殴りつけた!

    ●黒イ絵筆
    「ボクもくーき読んでいくよっ!」
     出来るだけ多くの仲間を庇おうと前列に立った紗雪は、左拳に雷を纏わせる。
     都市伝説が繰り出した黒い軌跡を身を低めてかわすと、そのまま距離を詰めた。
    「くっらえぇーっ!」
     勢いを乗せて飛び上がった紗雪は、繊細な体格から見合わぬ、強烈なジャンピングアッパーを、都市伝説の鳩尾に見舞う。
    「悪いが何処へも、動かさない!」
     戦闘の邪魔にならないよう、覆い等を隅の方に放り投げた荒蓮の手には、交通標識。
     通行止めを示す赤色の標識の一撃を都市伝説は辛うじて避けてみせるけれど、跳躍した先に瑠璃色を帯びた光が爆ぜた。
    「蒼穹を穿ち抜け!」
     瑠璃が凝縮した魔力が、一筋の光矢となって放たれ、都市伝説の右肩を撃ち砕く。
     その隙を逃さず、一気に距離を狭めていたキリカが、勢い良く縛霊手を振う。
    「イヴァン、行くよー!」
     ――先手必勝!
     キリカが殴りつけると同時に、網状の霊力が放射されて動きを阻害する。
     影のように寄り添う、ビハインドのイヴァンが霊撃を撃ち出すけれど、僅かに逸れた。
    「敵も味方もビックリさせやがってバカヤロウ!!」
     周囲を傷付けたり破壊しないように気を付けながら、鈴は殺界形成を解き放つ。
     刀の鯉口を切ると同時に、暗幕を脱ぎ捨てた蓮二がエアシューズを加速させていく。
    「都市伝説を逆にビビらせるのも面白いかもね」
     流星の力を宿した蓮二の蹴りが機動力を奪い取るや否や、最前列へ駆け出していたつん様が味方の壁にならんと、紗雪の横に並ぶ。
    「まずは当てなきゃ話になりませんね」
     術式の攻撃に挟むように、素早く死角に回り込んだ和弥が、ナイフを横に構える。
     白珊瑚のブレスレットが煌めき、防御ごと破壊する一閃に、都市伝説がよろめいた。
    「今すぐあの世に還……違った都市伝説だった、とにかく覚悟せぇ!」
     その隙を逃す灼滅者では、ない!
     納刀状態から一瞬にして抜刀した鈴が、鬱憤と共に距離を狭めていて。
     横薙ぎに振り抜いた斬撃の衝撃が刃を通し、確かな手応えを指先にも伝えてくる。
    「斬れる相手は怖くない!」
     戦いの流れと勢いに乗った鈴は次の一手を狙わんと、更に一歩踏み込んだ。

    ●紅イ絵筆
     だが、全てが順調だったと言う訳ではない。
    「させないっ、てばっ!」
     紗雪は仲間を庇いながらも、敵の攻撃手段を観察しながら少しづつ耐性を高めていて。
     仲間の攻撃に繋げるように、強烈な斬撃を元気一杯に繰り出した紗雪に続けて、瑠璃も氷の弾丸を撃ち出す、が……!
    「塗りつぶすことしかできないんですね。つまらないです」
     瑠璃がついた悪態に、都市伝説の絵筆が黒から血のような真紅で染まる。
     刹那。前列に赤い軌跡が奔り、紗雪が蓄積していた耐性も、打ち消してしまう……!
     前衛が6人以上で発動が半減されるとしても、無用な挑発は命取りと言えるだろう。
    「エンチャント積むより、状態異常を撒く方が効率良さそうな感じでしょうか」
     相手はバランス型の上に、キャスターだ。
     得意不得意がない分、弱点らしいモノを持たない敵に対し、和弥は攻撃に専念する。
    「ジャマーが2人いれば良かったな」
     荒蓮を含めて状態異常付与を意識していた者は多かったけれど、状態異常漬けを狙うにしては、少々物足りないように感じられて。
     幸い敵は1体、味方の火力は十分。この戦いでは特に気に留める事はなさそうだが……。
    「回復は大丈夫か?」
     敵の足を鈍らせようと死角を狙っていた荒蓮が、ふと後方に視線を移した時だった。
    「あたしがちゃーんと受け持つよ! だから――」
     即座に自由奔放な声が最後列から上がり、同時に癒しの風が前列に届けられる。
     蒼く染め上げられたアオザイを風に靡かせながら、癒しを施したのは、キリカだ。
    「ガンガン攻撃しちゃっていーよ!」
     キリカの声援と癒しに荒蓮は短く礼を述べ、前に出ると同時に刀の鯉口を切る。
     回復を最優先に動いていた麗羽も、トラウマを引き出す影を繰り出した。
    「あんまり無茶するのも何だしね」
     楽しそうに戦っていた蓮二も冷静に戦況を判断しようと、暫し観察に注視する。
     気配の事は気になるけれど、目的はあくまで都市伝説。更なる弱体化を狙わんと敵の死角に回り込む蓮二を支援しようと、鈴も神秘的な歌声を織り重ねた。
    「あ、灯りさえあれば、オバケなんて只のドッキリだ」
     但し、主張付きで♪
     息告ぐ間もない猛攻と催眠に誘う歌声を受け、都市伝説の動きは鈍くなっている。
    「ダメージ系の状態異常は、私に任せて下さいね」
     敵の火力は決して低くないものの、メディックのキリカの回復が追い付く範囲だ。
     和弥のポニーテールが靡くと同時に、ジクザクに変えた刃が都市伝説に深く食い込む。
     その時だった。黒と赤の絵筆で応戦していた都市伝説が、甲高い叫び声を上げたのはッ!

    ●怨嗟ノ叫ビ
    「やるな。だが、状態異常漬けで何時まで持つか?」
     叫びを受けながらも荒蓮は和弥の攻撃に重ねるように、即座に神秘の歌声を響かせる。
     麗羽も見切り防止を兼ねて、怒りを付与する気魄の打撃を織り交ぜていく。
    「イヴァン、積極的に庇いに行ってー!」
     終始仲間を庇い続けていた紗雪の負担を減らそうと、キリカも声を張り上げていて。
     その声に黒尽くめの影も仲間の壁にならんと奔走し、味方の猛攻を支えてくれた。
    「氷雪よ吹雪け!」
     瑠璃が槍の穂先を振うと冷気のつららに変換した妖気が、弾丸となって飛び交う。
     氷の弾に態勢を崩した都市伝説は、再び空気を斬り裂くような叫び声を上げる、が。
    「もー少し、だねっ!」
     頻繁に叫び始めた都市伝説に紗雪は油断せず、淡く白いWOKシールドを展開する。
     白銀色の手甲が織り成す盾の加護で味方の守りを固めると、考えるより先に体が動いたキリカも指先に集めた癒しを、疲労を濃くした麗羽に撃ち出した。
    「ゴリゴリ削っていこうー」
     回復をつん様に託した蓮二も、場の雰囲気を楽しむように火力重視に切り替えていて。
     至近距離から勢い良くバベルブレイカーを打ち振うと、鈴が再び刀の鯉口を切った。
    「皆の安全と私の心の平穏の為に四散して下さい!!」
     渾身の居合が都市伝説を深く斬りつけ、2人と入れ替わるように和弥が半歩踏み込む。
    「光が漏れないように、カーテンにも気を付けた方が良いかもです」
     備品を傷付けないように、和弥は最後まで立ち位置と振る舞いに気を配っていて。
     標識をスタイルチェンジさせると、最低限の動きで強烈なフルスイングを見舞った。
    「これでおわりなんだよっ!」
     一瞬の隙を見出した紗雪が猫の如く駆け抜けると同時に、獲物を非物質化させる。
     すれ違い様に放たれた横薙ぎの一閃は、都市伝説の胴を軽く撫でたように見えて……。
     一拍置いて、都市伝説の体は二つに別れ、闇夜に溶けるように消えていった。

    ●怪談が終わって
    「よしっ、おわりっ♪」
     都市伝説が消滅したのを見届けた紗雪は即撤退を促すと同時に、殿につく。
     気配の行動が掴めない今、異変等があればすぐに皆を逃がすつもりでいたからだ。
    「あ、安全第一! 帰るまでが灼滅ってね」
    「メンドーくさいのとコンバンハする前に、とっとと引き上げよっか」
     素早く懐中電灯を付けた鈴は、窓際の暗幕を取り払っていく。
     仲間に労いの言葉を掛け終えたキリカも、即撤退に同意するように頷いた。
    「……しかし、なんでこう学校で怪談があるのは、美術室やら音楽室やらに集中してるんだろうなあ」
     荒蓮が洩らした呟きに、イーゼルを片付けていた瑠璃が感覚を研ぎ澄ませる、が。
    「何も感じませんね」
    「うーん、俺も気になるような気配は感じないかな」
     気配の元を探ろうとしても、全くといっていいほど感じられなくて。
     気配の雰囲気と感覚を覚えるつもりでいた蓮二も、不思議そうに首を傾げていた。
    「興味が無い訳ではないけど、危険そうな印象がありますね」
     学園に来て日が浅い和弥は、少しだけ寂しそうに気配を探る2人を見つめる。
     痕跡を残さないように気を付けながら片付けを終えると、すぐに撤退の準備に入った。
    「それでも、オレは一人でも残りたいな」
     唯一、麗羽だけが気配の主と会ってみたいと、残留を希望していて。
     聞きたいのは一つだけだからと皆に告げるけれど、すぐに蓮二が首を横に振った。
    「一人で何とか出来る相手じゃないと思うー、引っ張ってでも連れて帰るよ」
     残留を希望したのは麗羽だけなのもあり、仲間の声に麗羽は素直に頷く。
    (「夜が更ける前に帰って寝たいです。お肌に悪いですし」)
     ……せめて、大きなお世話を置き土産に。
     スケッチブックを抱えた瑠璃は、もう一度だけ注意深く周囲を見回してみる。
     しかし、自分達以外の気配は感じられなかったらしく、そっと踵を返した。
    「あ、待って待って皆ひとりにしないで!」
     消灯された美術室に心許ないものがあるのだろう、鈴は慌てて仲間を追い掛ける。
    「早く帰ろ帰ろ、も、もう夜の学校なんてゴメンだよ……!」
     静寂が戻った美術室は、清涼な空気と画材の匂いで、満たされていたという。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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