オカメインコ。名前にインコと付いているがオウム目オウム科の立派なオウムである。安価で繁殖力も高く、飼いやすいためペットとして人気の鳥だ。名前のとおり、頬が赤いオカメフェイスが特徴である。
それはいい。というかインコ(いやオウム)自体はどうでもいい。問題はその名前だ。
オカメインコ。
じっと見ていると、何か別の単語に見えてこないだろうか。例えば『メカインコ』とか『カメオインコ』とか。そんな感じで読み間違えたり聞き間違えたりして、いろんなインコが誕生してしまった。
その究極進化系が『オメガインコ』である。
大分県のある中学校を、夜な夜なオメガインコが飛びまわっているという。
「いや、ありえないでしょ」
「でも、本当だったらどうしよう……」
呆れ否定しつつも、生徒たちの間に噂が広まりつつあった。
というわけで、口日・目(中学生エクスブレイン・dn0077)は
「オメガインコが現れるわ」
と灼滅者達に告げたのである。
曰く、オカメインコから伝言ゲーム式に単語が変化していくうちに、なんか強そうになってしまったらしい。なってしまったんだから仕方ない。
天生目・ナツメ(大和撫子のなり損ない・d23288)と、千布里・采(夜藍空・d00110)から、九州の学校で多数の都市伝説が実体化して事件を起こしているという報告があったが、今回もそのひとつらしい。
「オメガインコは、機械でできた頑健な体を持ってるわ。火器も大量に内蔵してる」
特徴は可愛いオカメフェイスと銀色のボディ。常に空を舞い、体中に内蔵した火器で爆撃をしてくる。言うまでもないが、とてもペットには向かない。また、オウムならでは音波攻撃を持ち、これには高い攻撃力と精神を高ぶらせる能力がある。
オメガインコは一体だけだが、その戦力は単体の灼滅者を遥かに凌ぐ。そのつもりで戦いに臨むべきだろう。都市伝説の出現は深夜。場所は中学校の屋上で、周囲には人気はない。
「今はまだ被害は出てないけど、今後どうなるかは分からないわ。早々に対処して」
目は有無を言わせない真剣な表情でそう言い切った。私に突っ込まれても困る、とか思っているに違いない。
「あと、現場に何者かの気配を感じるわ。襲ってくる気配はないけど、念のため、倒した後はすぐに帰ってきて」
今のところ何かが出てきたということもないが、早く帰還した方がいいだろう。説明が終わるとほぼ同時、灼滅者達は教室を後にした。
参加者 | |
---|---|
千布里・采(夜藍空・d00110) |
天祢・皐(大学生ダンピール・d00808) |
巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647) |
ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729) |
カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918) |
椌木通・竜士郎(パーティクルリアクタ・d26638) |
葉真上・日々音(人狼の狭間に揺れる陽炎・d27687) |
四辻・乃々葉(よくいる残念な子・d28154) |
●夜の学校
中学校を訪れた灼滅者達は、戦闘前に校舎を探索することにした。一連の事件の黒幕が判明しつつあるとはいえ、新しい情報が得られないかと考えたからだ。
見付からないよう身を小さくするため、蛇変身した四辻・乃々葉(よくいる残念な子・d28154)と猫変身したカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)が並んで歩く。正確には片方は歩いてはいないけれど。
(「何もないですね」)
(「そうですね」)
喋れないので、首を振ったり、前足を振ったりして合図する。伝わっているかは定かではないが。何も知らない者からすれば、猫と蛇がじゃれているように見えるかもしれない。
「なんか見付かった?」
と傍らを歩く犬(霊犬ではない方)に話しかける千布里・采(夜藍空・d00110)采黒毛の大型犬、というかルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)が振り返って首を振る。多分、
(「いえ何も」)
という感じだろう。どことなく楽しそうなのは気のせいだろうか。
二人ひと班、三班が同時に校舎周辺の探索をしている。身を隠す工夫ではあるが、動物変身がこの状況で役に立つかというと微妙な感じである。校内を動物が闊歩するシュールさも心象に影響しているかもしれない。
(「犬ちゃうで、狼やで! いや今は犬やけど!」)
小型犬に変身した葉真上・日々音(人狼の狭間に揺れる陽炎・d27687)は尻尾をフリフリ。おそらくこんなことを言っているのだろう。
「お、おう……」
でも、そんなこと言われた(と考えた)って巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)は反応に困ってしまう。犬と狼が非常に近い種類の動物であることは周知の事実であるし、狼に似た犬種も多い。なんと返事したものか考えていると、そんな戸惑いが伝わったのか、尻尾をしょぼーんと下げる。キューティクルが足りひんとか思ってるに違いない。
ところで、探索に参加していない二人は屋上へと続く階段に待機していた。これ以上進めばオメガインコが現れるだろうという手前で仲間を待つ。
「言葉遊びというか、空耳というか。驚くべき進化ですね」
「……そもそも七不思議なのかあれは」
白い息を吐きながら天祢・皐(大学生ダンピール・d00808)が言うと、窓から星の光を見ていた椌木通・竜士郎(パーティクルリアクタ・d26638)もそれに頷く。学校の七不思議といえば、トイレの花子さんなど学校が舞台のはずだが、オカメインコとこの学校にどんな因縁があるのだろうか。まさか校長がオカメインコに似ているとかか。
ともかく出現してしまったものは仕方ない。ダークネスの悪だくみを討ち砕き、七不思議使いの救出につなげるためにも、都市伝説を撃破せねば。
やがて一通り探索を終えた仲間も合流。それらしいものは見付からなかったが、仕方あるまい。万が一、二人で敵と遭遇してしまえば対処する術はないだろうし、無事だっただけ幸運と考えることもできる。
ともあれ、今は都市伝説に集中すべきだ。屋上へのドアを開ける。
『QQQQQQQQQQQQ!!!』
大音量の鳴き声を上げる銀色のプリティーちゃんが、そこにいた。
●コードΩ
自動車ほどの大きさのシルバーボディ。頭はゴールドのゴージャス使用。実は赤いほっぺは高感度のセンサーだ(実際のオカメインコも耳羽になっているぞ!)。オメガインコは灼滅者達の姿を確認すると、ジェットで高く飛翔する。
「スゲーカッコいいじゃないですかこのインコ。口日くんもこれに目を付けるなんてお目が高いですね、オメガだけに。……すいません今の無かったことにしてください」
小さくなっていくインコを見上げ、ルコは不敵に笑う。ついでにいうと、目だけに。でも一瞬あとには小さく肩を落とす。思ったよりうまくなかった。大丈夫、明日があるさ。
竜士郎は左手を高く掲げ、光でモールス信号を試みる。インコとモールス信号に関連性があるらしい。放つメッセージは、われらむさしざ……と、そんなことしてる場合ではなかった。
「おっと」
真上から落ちてくる爆弾を寸前で回避。オメガインコは目に映るもの全てを敵とみなすらしく、容赦がない。
「ヴァレン、お願いしますです!」
カリルのスレイヤーカードから飛び出したのは、霊犬のヴァレンだ。主を守る、忠実なる守護者。鋭い眼光を放ち、頭上の敵機をにらみつける。
「っ……」
武装を開放した冬崖は一瞬、苦しげな表情で眉間を抑えた。頭痛はますます酷くなる。胸もうずき始めた。戦闘のストレス? いや、自身に刻まれた何かがそうさせるのだろう。しかしそれでも、仲間を守る盾となって前に出る。
『PPPPPPPPPPPPPPP!!!』
けたたましい騒音とともに、オメガインコが急降下してくる。けれど、次の一瞬には加速して音より早く飛んで見せた。超音速の衝撃波が前衛を襲う。
「けったいな都市伝説やな」
くふり、と采の口元に淡い笑みが浮かぶ。同時、足元の影が変化し、バラバラの動物の爪や牙と化す。死そのものの手足となって、空飛ぶ銀翼へと突き刺さる。
オメガインコは空中にいるため、接近戦は通じない。となると必然、遠距離のサイキックを使うことになる。
「あ、可愛くないインコさんは、当然ボッコボコやでー。百発百中! 日々音ラピッド!」
逆に可愛かったら攻撃しにくいしなぁ、と日々音。ガトリングの引き金を絞る。それに起こったのか、オメガインコもすかさず反撃。
『ボッコボコやでーー!!!』
今までの鳴き声よりも二回りほどは大きい音波。サイキックとなって日々音を吹き飛ばした。途端、日々音の眼の色が変わった。
「降りてこいや! どついたるー!」
目を三角にして、湯気が出そうなほど怒る。でもあんまり怖くはない。
「葉真上さん、落ち着いて!」
乃々葉の掲げた標識が、黄色へとスタイルチェンジ。『騒音注意』を示し、仲間の対抗力を高める。ちょっと遅かったかもしれないが、それほど問題はないだろう。それにしても標識を武器にするのは未だに慣れない。
「一家に一匹……いや、一台でしょうか?」
と冗談めかして言う皐。しかし、これだけ物騒だと、たとえ全自動掃除機能や炊事機能があっても誰も必要としないだろう。というか、そんな機能もない。白い帯剣が闇を切り裂き、銀のボディを貫く。
『QPPPPPPPP!!!』
灼滅者の猛攻が、次第に銀のボディの傷を増やしていく。それでもオメガインコは悠然と空を舞い、騒音をまき散らし続ける。
●銀翼よ輝け
『日々音バレットォ!!!』
よほどおちょくりやすそうに見えるのか、ずっと日々音は音波攻撃の標的にされていた。関西人としてはおいしいが、灼滅者としてはおいしくない。
「危ない!」
乃々葉が代わりに攻撃を受けた。怒りで赤い瞳が鋭さを増す。
「墜ちろー!」
怒りで我を忘れ、逆十字を放つ乃々葉。インコが起こす風でマフラーがなびき、どこかダークヒーローっぽいシルエットになっていた。
「あああああああああああ!!」
仲間を庇い、すでに怒りを付与された冬崖も、獣じみた唸り声を上げて悪魔を模したハンマーを振り回す。巨体もあって、その迫力は凄まじい。自分への反動もお構いなしに、全力全開で衝撃波をオメガインコに見舞う。
「なんや騒がしくなってきたなぁ」
元より騒々しい敵だったが、にわかにこちら側も賑やかになってきた。霊犬もぐるると鳴いているが、あえて言うまい。そもそも相手がオメガインコ一体なので、怒りは抱えたままでも支障はない。采の指輪から魔弾が放たれ、敵の動きをしばし止める。
「長引くと、傷が増えそうですね」
肉体的にも、精神的にも。皐の足元から、影の猟犬が放たれた。影は夜闇よりなお濃い黒。虚空を駆けあがり、爪と牙で銀翼を切り裂いた。
「犬ちゃうっていっとるやろー! 必中、日々音スラスト!」
誰もそんなこと言ってないのに、喚き散らす日々音。伸ばした武帯でばすばす突く。そろそろオメガインコの飛行もぐらついてきたか。
「さぁ、氷漬け……いえ火あぶりがいいですか?」
片方には妖槍、もう片方にはガトリング。槍と見せかけガトリング、と思いきややっぱり槍で氷の弾丸を放つ。オメガインコの鳥頭をからかうように、くるくると武器をもてあそぶ。ルコは道化みたいにけらけら笑みを浮かべた。
どどど、と揺らめく翼から爆弾が落ちてくる。狙いは後衛。ヴァレンはその身を挺して主を庇う。それこそ使命だと、言葉はなくとも背が語っていた
「ありがとうです!」
カリルは全力の攻撃でそれに応える。身の丈ほどもあるガトリングガンを抱え、オメガインコめがけてぶっ放した。黒煙がボディから漏れる。
「花火にでもならないかね」
回復ももう不要と判断し、竜士郎も攻撃に転ずる。思い描くのは、眩い光。夜を朝に変え、闇を振り払う黎明。左手をかざし、光を放つ。今度は、友を癒し、敵を焼き滅ぼす裁きの光を。
『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX!!!』
断末魔とでもいうのだろうか。光に貫かれたオメガインコは、一際やかましい鳴き声を上げ、爆破四散した。
●Ωの残響
オメガインコを倒したことで、灼滅者達は怒りから解き放たれる。
「私は何を……」
乃々葉は頭を軽く振るい、記憶を呼び起こす……と思ったけれど、忘れた方がいい気がしてきた。マフラーを少し上に広げて、赤くなった顔を隠す。
「くそ」
と呟く冬崖。頭痛がますます酷くなってきた。間違いなく、オメガインコのせいだった。二重の意味で頭が痛い。
「狼って言ってるやろ、がおー!」
「戦闘、終わりましたよ」
「え!?」
戦闘の興奮さめやらぬ様子の日々音だったが、皐に話しかけられ、やっと正気に戻った。ちょっと音波喰らいすぎたかもしれない。
「ヴァレン、お疲れさまでしたよ」
相棒の頭を撫でるカリル。自身が無事なのは、攻撃から身を守ってくれたヴァレンのおかげだ。
「さて、と。口日さんも言っていましたし、早く戻りましょうか。」
全員の無事を確認し、ルコが言った。何がいるかも分からない以上、長居は無用だろう。
「せやな。そうでなくても、風邪ひきそうや」
采も頷いて言った。九州が本州より暖かいといっても、冬の夜は冷える。戦闘で披露しているため、早く帰って身体を休めるのがいいだろう。
(「キレイだったな……」)
帰路に着く竜士郎の脳裏によみがえるのは、爆発の刹那の光。名残惜しそうに一度だけ振り返る。けれど、そこには学校のやはり屋上しかないはずで。
(「あれ?」)
視界の端を、黄色い光がかすめたような気がした。けれど、やはりの気のせいだったのかそこには何もない。
やがて灼滅者が去ると、さきほどまでの喧騒がウソのように中学校に静けさが戻った。闇が支配する空間にもう一度、黄色い炎がちらりと燃え、しかしそこには何もなかった。
作者:灰紫黄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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