●サークル『不死鳥の使徒』
とある繁華街の片隅に人生相談を無料で行っている店があった。
運営しているのは『不死鳥の使徒』と名乗るサークルらしく、カウンセリングが非常に素晴らしいと密かに噂になっているらしい。願いが叶い、献金者に贈られる金の不死鳥像に素晴らしい効果があるとか。
しかも、カウンセラーは美男美女らしい。
今日も、二人の男女が小声で会話しながら店に入ってゆく。
「ああ、あなたの恋人に別の女性がちょっかいかけて、二人でみせつけたんですか? それならその人に罰を加えてあげるのは良い考えですね。……あ、信じられないと思うけど、この不死鳥像には本当に不思議な力があってね、願望を叶えてくれます。だから心のままに生きていいんですよ、ストレスは万病の元ですし」
青年が美しく甘い声で話しかけ、頬を赤らめた女性の手をとって店に入ってゆく……。
●
「こんにちはっ。今回は宜しくお願いしますね」
明るい女子のエクスブレインが親しげな笑顔を浮かべて、はきはき挨拶した。
「今日は、ダークネスの行動を察知したので皆さんに集まってもらいました」
ぺこりと頭を下げてから、エクスブレインは早速説明を開始する。
とある繁華街の片隅に、『不死鳥の使徒』という名の店がある。
一見何の店だかわからないが、どうも悪徳カルトの類いらしい。無料で人生相談ぽいことを行って、それを糸口に資金を集めたり、信者を増やして悪徳を勧めたりしている。
「でも、実はここのトップはソロモンの悪魔から力を付与されている一般人なんです」
ソロモンの悪魔は非常に狡猾で、自身の存在を隠して一般人を操り、悪徳を行わせて結果的に勢力範囲を拡大していると思われる。現段階ではソロモンの悪魔本人は決して姿を現す事はない。
従ってこのような事例は珍しくないが、まずは感知されたものだけでも解決していくべきだろう。
●
「このサークルの中心人物はネクスと名乗る魅力的な青年です」
他に、ネクスよりも弱い力を持つ美形男女4名の『上位メンバー』がいる。
「これを見て下さい。不死鳥の使徒が配っているチラシです」
エクスブレインが示したペーパーには「不死鳥の使徒」、悩み解決と書かれていて、手作りらしいが素敵なデザインの、目を引くものだった。
「店の近辺でこのチラシを配り、脈がありそうなら個別勧誘するみたいです」
作戦決行の日、チラシを持って外に出ているのは上位メンバーの男女ひとりずつ。
「誰かこの人達にわざと勧誘されて、店に連れて行かれて下さい」
これで店に灼滅対象メンバーが全員揃うことになる。
「一網打尽のチャンスです。他の人はうまいタイミングで突入できる様待機するなり、相談者のふりして事前に潜り込むなりして下さい」
この日、外に出ていた二人が中に入った後、頃合いをみて仕掛ければ何とかなるはずと、エクスブレインは言い、てきぱきと情報を並べた。
店への出入り口は玄関と裏口の二つだけ。他に出入り可能な窓などはない。
店内は香が焚かれて妖しく豪華な雰囲気。戦うには充分な広さで邪魔な障害物はないだろう。
「まずは、入り口付近に数名いると思われる相談者の一般人をなるべく避難させて下さい。その上で皆さんが倒さねばならないのは、ネクスと上位使徒の男女4名です」
ネクスは強力な力を付与されていて、灼滅者数名と互角に戦えるし、使う力は魔法使いのそれに似ている。他の4名は通常攻撃しかできないが、ただの一般人よりは強く、それなりの力を発揮するだろう。
「ネクスは灼滅するしかありません。他の4名はKOすれば正気に戻るでしょう。もう一つ、ネクスは危ないと思ったら逃げるかもしれません。それだけ注意して下さい」
作戦の詳細は皆さんにお任せしますとエクスブレインは言った。
「この未来予測を利用して、うまく作戦を実行して下さい」
エクスブレインはもう一度、ぺこりと頭をさげた。
「みんなが無事に帰るの待ってます。どうぞ気をつけて……」
参加者 | |
---|---|
スウ・トーイ(黒禁門・d00202) |
斑目・立夏(双頭の烏・d01190) |
赤鋼・まるみ(笑顔の突撃少女・d02755) |
ニコ・ベルクシュタイン(薄氷踏みの魔術師・d03078) |
芦夜・碧(中学生殺人鬼・d04624) |
縞目野・栄華(中学生エクソシスト・d05243) |
門脇・次郎(高校生ファイアブラッド・d05942) |
志賀・政元(無事是名馬・d06121) |
●潜入
芦夜・碧(中学生殺人鬼・d04624)が繁華街の路地を入ると、『不死鳥の使徒』という店はすぐに目についた。
(「悪徳カルト、ねぇ。つけ込み系は嫌い、お仕置きの必要がありそうね」)
碧は眉毛をちと上げたが、作戦ゆえ愛想よく話しかけてきた男性からチラシをもらい、勧誘の言葉にすんなりのってあげた。実際のところ、恋に勉学に悩む乙女なのは本当なのだ。もしも本当に御利益があるのなら、ちょっとだけ試してみていいかもと、碧は義弟の顔を思い浮かべる――いやほら、もちろん演技よ。
二人が店に向かうとチラシ係はあと女性が一人。そこにスウ・トーイ(黒禁門・d00202)がいつもの自前ジャージとキャスケット帽でやってきて、チラシを受け取った。
(「新興宗教も当たれば組織。いやまったく、怖いもんだよ」)
なんて実は思っていたが、表面上はチラシを面白そうに眺め、綺麗なお姉さんに言った。
「へぇ……俺の悩みも聞いてくれるんかなぁ」
「恋愛相談ですか? もちろんですよ」
一丁上がり。
彼らは互いにそう思ったに違いない。二人は友好的な雰囲気を保って店へと消え、さりげなく玄関前に待機していた門脇・次郎(高校生ファイアブラッド・d05942)がそれを見送る。突入待機班は次郎含む4名。今や全員が突入の合図を待った。
店に入れば広いフロアに豪華な絨毯、なにやら妖しいお香のスメル。店に入るなり、スウがきょろきょろ物珍しげな様子をしても誰も怪しまなかった。この時彼がおよその人の配置を把握しておいたのは言うまでもない。
案内に従って椅子に腰掛けると、スウは真面目そのものの顔で相談した。
「恋愛とは如何なるものか教えて頂けますか?」
「はい。優しく教えて差し上げますよ?」
「……えっ?」
同じ頃、碧は目の前の美青年に打ち明けていた。
「……確かに、好きな子はいるのかなーって気になる相手がいないわけでもないですが」
「どんな人かな?」
「写メ、見る? 義弟なんだけど可愛いわよ」
「ああ、本当、可愛いね。じゃあ、貴女ってブラコン……」
店の中には、客のふりをして先行潜入していた志賀・政元(無事是名馬・d06121)と、縞目野・栄華(中学生エクソシスト・d05243)もいた。
政元は勧誘を何とか凌いで裏口に鍵をかけた。
一方、栄華は仏頂面で一般人信者に話を聞かされていた。実は栄華は宗教が大嫌いだったのだ。滔々と語る女に潜入中とはいえ嫌気がさす。
(「神様なんて何もしてくれねえ。初の依頼が宗教関連とか、何の因果かよ!」)
だがもちろん作戦はしっかりと意識していた。周囲に視線を走らせると、碧が上手い事やっていた。身を乗り出し、何だか楽しそうに携帯を手にしている。
栄華は、自分もポケットに忍ばせた携帯に手を触れ、状況を図る。フロア中央付近の、黒羽マフ黒ジャケットがきっとネクスだろう。上位使徒二人がネクスを取り巻いて、碧とスウは相談中だ。
栄華は目の前の女性含め、玄関側にいる一般人からなるべく敵を離しておきたかった。頃合いかもしれない。ボタンに指を触れながら彼は女性の話を遮る。
「悪いけど……あっち、ドアの方へ行ってよ。行って下さい」
「え?」
●突入
玄関ドアが勢いよく開いて、斑目・立夏(双頭の烏・d01190)が飛び込んできた。素早く一般人の居場所にあたりをつけるとプラチナチケットを発動する。
「ボヤが出たさかい、はよ逃げんと火ぃくるで!」
忽ち店内は騒然としたが、ニコ・ベルクシュタイン(薄氷踏みの魔術師・d03078)が冷静に一般人を誘導して、パニック防止に一役買った。
赤鋼・まるみ(笑顔の突撃少女・d02755)が騒ぎを聞きつけ、逃げ出す人達を上手く交わして飛び込んでくる。
そして、
(「絶対不敗……」)
まるみは身の丈はあろうかという無敵斬艦刀を手に、己に暗示をかけた。
政元は手近にいた敵達と一般人の間を阻む様に移動する。
「君達、何をしている! ……うっ?!」
碧の相手の男使徒は突如抜かれた白刃に一歩下がった。椅子が音を立てて倒れ、抜き放った日本刀を持つ碧が魔力の靄に包まれる。
「さて、踊りましょうか。死の舞踏を?」
スウも突然話を切り上げて立ち上がった。
「有意義な一時だったよ。……御代はツケといてくれるかい?」
彼の手の甲にWOKシールドが突然エネルギー光を放つ。と思うと、彼はいきなり飛び出してネクスにシールドバッシュを叩き込んだ。
店内は混乱し、一般人が悲鳴を上げて玄関ドアに突進する。
「不死鳥様のしもべに挑むのは何者かな?」
ネクスが放った魔法の矢がスウに炸裂し、傍にいた男女も一緒に襲いかかってくる。
「やりやがったな!」
叫ぶ栄華は制服姿、手には護符。暖かな癒しの光をスウに届ける。
「回復が追いつかなくなる程突っ込むんじゃねぇぞ!」
一方、スウの相手をしていた女は呆気に取られていたが、逃げていく人達を追いかけようとした。だが、その行く手に立夏が一般人を庇う様に立ち塞がり、パッショネイトダンスを発動する。
「金儲けええ響きや。けど堅気さんに手ぇだすのはどうかと思うで」
「何言ってるの、あなた!」
「姐さん、やるか?」
口論ついでに手が出るその陰で、ニコがごくごく冷静に全員を退避させる。次郎が最後に玄関ドアを封鎖した。
(「これで、外から人が入る心配はないよね。さて!」)
振り返れば店の中は戦闘真っ最中、大混乱だった。
眩い十字架がプリズムを放って現れる。
(「マジックミサイルの追撃は厄介だからな」)
ニコはジャマーのポジションを活かし、聖なるクロスに溢れた光線でネクスを撃った。
「猪突猛進♪ 一意専心♪ それが私のと・り・え、なの♪」
まるみが歌いながら、巨きな無敵斬艦刀を振り上げてネクスの前にいる男に突撃する。
護り手も動いていた。スウが前衛にシールドを展開し、次郎はニコに保護シールドを付与する。メディックの栄華も回復に徹した。
灼滅者達はまず、ネクスの仲間4名を倒す作戦に出た。ニコが轟雷を呼んでまるみを援護し、政元はフリージングデスを使った。皆、見切られぬ様に適度に攻撃を織り交ぜて使う事も忘れない。ネクス以外の4名が倒れるのに時間はかからなかった。
「目の付け所は悪くないけど、とだけは言っておくわ」
碧が日本刀の露を払い、倒れた男に告げる。
「とにかく、目ぇ覚ませよ!」
立夏は光る拳をふるって女使徒との口論と勝負にケリをつけた。
「ごめんなさいですけど、これで終わりです!」
まるみがぶんと武器をひと降りし、更に一人をノックアウトする。
(「そろそろだよね」)
次郎も攻めに転じ、レーヴァテインの焔を纏ってWOKシールドが紅く輝いた。そのまま次郎は4人目に突撃し、政元はネクスの逃亡を警戒して裏口前に移動する。
間もなく最後の一人が倒れると、ネクスは舌打ちした。
「貴方はどんな声で啼くのかしら? ソロモンの悪魔」
碧が斬り込んで来る。放つ技は黒死斬……ネクスの足を止めたかった。
「人違いですね」
「どっちでも構わないわ、貴方に未来は無いのだから。せめても、誇り高く灼滅されてね」
「……」
突如、碧は凄まじい冷気に包まれた。
●不死鳥
ネクスの冷凍魔法がクラッシャーとディフェンダーの4人を襲うが、栄華が清めの風を呼んで癒し、同時に味方に取り憑いた魔氷の多くを祓う。
その癒しの優しさとは裏腹に、彼は護符を握りしめてネクスに向かって吠えるのだ。
「神に縋る奴らも癪だがテメェらみたいな奴らが一番ムカつくんだよ! テメェらの企み、ぶっ潰してやる!」
「ふふ、それは困りますね」
ソロモンの悪魔は戦闘好きというよりも策略好き、堕落させる事が好きなのだろう。その手下も同じと見えて、逃亡の隙をうかがうネクスの挙動にニコは気づいた。
スウが飛び出し、WOKシールドを叩きつける。立夏と栄華が玄関を塞ぐ位置に移動した。これで表に二人、裏に一人。ネクスは手薄な方へ駆けだした。
裏口をふさぐ様に立った政元が日本刀の柄に手をかけた。
(「……末端ですが、放っておくのもよろしくない」)
ネクスが小型のマテリアルロッドを構えるのが見えた。逃がす気はない政元は裏口を背に動かない。
(「多少の傷は覚悟の上……」)
魔法の矢が噴出し、二人が交差した瞬間、政元の白刃が閃いた。
ネクスの渾身の一撃は、運良く思ったほどの威力がなかった。政元は傷を押さえたまま、まだドアの前に立っていた。
「しっかりしろよ!」
味方が次々にネクスに迫る中、栄華が護符揃えを握りなおして政元に回復をとばす。
まるみが劫火を纏う巨大武器を振り下ろすと、さすがにネクスの背がしなった。まるみはそのまま移動して裏口側へ加わった。
(「ネクスを逃がさない様にするのが一番大事なんだよね」)
「逃がさへんねんで!」
立夏がたたみかけると、ネクスの気取った態度は消えた。
「てめぇらどこの灼滅者じゃ?」
思い通りにならない怒りと多分恐怖で敵の顔が歪む。
――ゴウ。
答えの代わりに灼熱の焔がネクスを焙る。
次郎の手のひらから炎が噴出していた。この時、彼女は思いついてネクスと共に像を破壊してみた。
(「あの不死鳥像、何かネクス達にとって重要な意味を持つ物なら……」)
派手な音を立てて彫像の一つが壊れる。
「何さらす!」
ネクスは驚愕し、血相を変えて怒った。
だがその怒りももう長くは続かない。
「塵一つ残さずに、死ね」
ニコの冷徹な言葉に送られて、ほどなくネクスは砕け散り、消滅したのだ。
●本日はこれにて
店内が静かになると街の騒音が忍び込んでくる。終わってみれば、絨毯に4人の人間が横たわっていた。
「う~ん。KOした人達ってどうしようか? このまま放置で大丈夫なのかな……?」
まるみが困った顔で首を傾げた。普段は「ドッカーンっていって、バッギャーンっていけばたいてーのことは大丈夫」と思っているまるみだが、これはドッカーンやバッギャーンの範疇にはない問題だった。でも気になるし。
ニコは愛用のウィザードハットを被り直していたが、あっさりとまるみに回答した。
「KOした上位使徒が正気に戻るのを見届けるまでが仕事と心得る」
「なるほどー」
豪華だった店内もすっかり散らかってしまったが、仕方ない。政元ができる範囲で後始末を始め、そのうちニコがテーブルにあった紙を拾い上げた。
「………チラシとは、これか」
しげしげとそれに目を通しながら、彼が呟く。
「(フェニックスもいいが、俺は猫の方が好きだ。絶対猫の方が信者集まるって……)」
「えっ? ニコさんは猫好きなのかな……なんですか?」
たまたま小耳に挟んだ次郎が聞いた。丁寧語を心がけているけど、やっぱりたまに地がでちゃう。
「え? ああ、何でもない」
ニコが誤魔化していると、うう、と呻く声がした。倒れた4人が身動きを始めている。一体どうなっているんだ、とか呟いているあたり、正気に戻ったらしい。
あとは放っておいて大丈夫だろう。
スウが自分が貰ったチラシを取り出して、びりびりと破いた。それを花吹雪のように散らして彼は言う。
「さ、帰ろうぜ?」
誰も異論はなかった。
「まあ、こんなものでしょうか」
政元が『元・不死鳥の使徒』のドアをぱたんと閉めた。
作者:水上ケイ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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