猫が護るスポーツマンシップ

    作者:朝比奈万理

     小さい頃から運動は何でもできた。
     団体競技から個人競技、球技や陸上、水泳、武術も難なくこなすことが出来て。
     人に教えることも、大好きだった。
     できなかった人ができるようになる瞬間はとても嬉しかったし、ありがとうの言葉を貰うことや、出来たときの笑顔を見ると幸せな気持ちになった。
     それは、中学で始めたバスケットボールでも続いた。
     難なくこなせる自分を頼りにしてくれる仲間達。
     でも、上手くなりたいという線を越えた彼等は、常に試合に勝ちたいと願うようになった。
     仲間達の願いを全部を叶えたいと思うこの気持ちと、彼等の要求は合致した。
     そして、考え付いた方法は、実にシンプルなものだった。
    「簡単だよ。相手の道具に細工をしてやるとか。もしくは……」
     拳を握って殴る、足を上げて地面を踏みつけて、さらに踏みにじるジェスチャーを取ってみせる。
     ラフプレーだ。
     仲間の顔が曇る。
    「審判団に見つからなくっちゃ問題ないっしょ?」
     平気でこう言ってのける。その言葉に若干動揺する仲間達。
    「みんなこの試合に勝ちたいんでしょ? だったら、やるしかないよ」
     そう言いながらジャージのポケットから取り出したのは、カッターナイフ。
     これで相手のバッシューでもユニフォームでも、相手の身体でも切り刻んでくるといい。
    「にゃーにゃーにゃー!!」
     ふと足元を見ると、猫がけたたましく鳴いている。時に翼をぱたぱたと羽ばたかせてふわりと浮き、手足をばたばたと動かしてなにかを阻止しようとしている。
     そして、手に握られたカッターナイフを頻りに猫パンチしている。
     けれどそれを無視して、こう続ける。
    「大丈夫、俺が言うんだから絶対だよ」
     仲間にカッターナイフを渡しながら、ニヤリと笑んだ。
     猫はいまだ、けたたましく鳴いている。

    「スポーツって言うのは、勝ち負けじゃないとは思うんだけどなぁ。ルールを守って楽しくとか、試合相手を尊重するとか、そういう気持ちがないとねぇ」
     顎に手を当てて、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は溜め息をつき、前を見た。
    「一般人がソロモンの悪魔に闇堕ちして、部活の仲間にスポーツマンシップに反した行動をさせようとしている事件が予知出来たよ」
     そう告げるとまりんは、手帳を開く。
    「彼の名は、夕星・昴琉(ゆうずつ・すばる)。中学二年生」
     バスケ部に所属していて部長を任されている彼は、頼られるのが好きな少年。
     もちろん周りも、彼を頼らない理由などなかった。
     そんな彼が、常に試合に勝ちたいと強く願う部員の願いを叶えたいと思ううちに、闇に心を傾けて、仲間達にスポーツマンシップに反する行動をとるようにと勧めているという。
    「いま昴琉くんの人間としての意識の全ては、この猫のサーヴァントの姿になっているよ」
     と言うことは、昴琉自身は完全なソロモンの悪魔。昴琉の心のに直接語りかけての説得も出来なさそうだという。
    「それで、猫のサーヴァントは彼の行いを止めようとしてるんだけど、サーヴァントにダークネスを止めることは出来ないみたい。そして、この猫のサーヴァントが昴琉君を止めるのを諦めちゃったら、彼は完全にソロモンの悪魔になっちゃうの」
     その前に昴琉を撃破して、救出してほしい。とまりんは付け加え、
    「もし猫のサーヴァントが消えてしまった場合は、これ以上彼が悪事を重ねる前に灼滅してほしいの」
     と告げた。
    「接触のタイミングは、他校との練習試合前。体育館裏でミーティングと称してラフプレーや細工の作戦会議をしているから、そこを狙ってほしいの」
     彼を闇堕ちから救うには従来の闇堕ち救出のように、戦闘の後にKOする必要がある。
     が、今回の場合は猫のサーヴァントが残っている状態でのKOが必須となる。
    「猫のサーヴァントは、みんなが昴琉くんを救ってくれるって理解できれば、戦闘には参加しないでみんなを応援してくれるよ」
     笑顔のまりん。
     だけど。と付け加えると、その表情は曇る。
    「みんなが昴琉くんを殺そうとしてるって誤解しちゃった場合、彼と一緒にみんなを攻撃するの」
     猫サーヴァントと戦闘になっても説得は可能だが、相手方の戦力が増えるので難易度が上がるだろう。 
    「この猫のサーヴァントは、昴琉くんの面倒見のよさや『スポーツマンシップ』なのかも知れないね。だからどうか、みんなの力で昴琉くんを、そして猫のサーヴァントを助けてあげて」
     お願いね。とまりんは教室を見渡した。


    参加者
    獅堂・凛月(真っ黒魔法使い・d00938)
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    陽瀬・すずめ(雀躍・d01665)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417)
    蔵守・華乃(レッドアイ・d22909)
    蒼羽・シアン(デイドリームレディラック・d23346)
    レティシア・ホワイトローズ(白薔薇の君・d29874)

    ■リプレイ


    「にゃーにゃーにゃー!!」
     都内にある公立中学校。
     遠くに聞こえていた猫の鳴き声は次第に近くなり、灼滅者達が体育館の裏に着いた時。
    「みんなこの試合に勝ちたいんでしょ? だったら、やるしかないよ」
     夕星・昴琉はジャージのポケットからカッターナイフを取り出していた。
     元は爽やかな印象の少年なのだろう。だが、まだあどけない顔つきは冷たい印象を受ける。
     一方、カッターナイフを差し出された部員達はこちらに背中を向けてはいたが、動揺の色を隠せないとばかりに仲間達を伺っている。
    「にゃーっ!!」
     昴琉の足元からふんわりと浮かび上がったのは、翼を生やした猫。尻尾にはリングを備えており、必死で昴琉が持つカッターナイフを叩き落そうと猫パンチを繰り出している。
     昴琉はうっとおしそうに猫を一瞥し、部員にカッターナイフを受け取るよう、念押しのように差し出した。
     ここで受け取らせてしまったら、何が起こるかわからない。
    「何してるの、全部聞こえてたわよ!」
     威勢よく進み出たのは、風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)。
    「試合は正々堂々やりなさい!」
     昴琉と部員の間に割って入ると、
    「ラフプレーだなんて、流石に見逃せない事態ですねぇ」
     進み出ながらもゆるりと言葉を発するのは、プラチナチケットでこの学校の風紀委員を装う船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)。強化一般人になっていないチームメイトは、亜綾のその言葉に身体をこわばらせた。
     昴琉から具体的なラフプレーを提示され、その談合を見られた部員の心の動揺は相当なものだ。
     それに追い討ちをかけたのは、パニックテレパスを発動させたレティシア・ホワイトローズ(白薔薇の君・d29874)のこの発言。
    「大事にしたくなければ、ここで立ち去れ」
    「彼、きっと緊張してるだけよ。宥めておくから先に行って試合準備しててくれる?」
    「そうそう、安心して?」 
     クラレットが部員達に優しく言うと、陽瀬・すずめ(雀躍・d01665)もそれに合わせた。
    「私達が夕星を説得しておく」
     天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417)の言葉も合間って、部員達は顔を見合わせて足早にその場を後にする。
     蔵守・華乃(レッドアイ・d22909)もさりげなく逃げ道を示し、
    「大丈夫、昴琉くんを戻して見せるわ」
     去る彼等の背にそう声をかけて、蒼羽・シアン(デイドリームレディラック・d23346)も昴琉の前に姿を現すと、雛菊が殺界形成を、すずめがサウンドシャッターを展開させた。
     昴琉は突然現れた邪魔者を冷たい目で見渡し、猫は驚いたようにたくさん瞬きをして見せた。
     獅堂・凛月(真っ黒魔法使い・d00938)は、昴琉の前に進み出る。
    「君の仲間が求めていたのは、スポーツマンシップを裏切ってまでの勝利なのかい?」
     頼られ続けたプレッシャーは如何程だろうか。だけど、反則してまで勝ちたいと思うのは、何のために勝利を得るのか忘れかけている。
     真っ直ぐ視線を送る凛月の問いに、昴琉は冷たい視線で返す。
    「さぁ。でもみんながどうしても試合に勝ちたいって言うようになったのは事実。俺はどうしても勝ちたいみんなが、一番簡単に勝てる方法を提示しただけ」
     面倒くさそうにカッターナイフをジャージのポケットにしまう。
    「それって仲間を信じてない、頼ってないってことじゃない!」
     クラレットは昴琉の言い分に声を荒げる。
    「君が教えた仲間達の力を、君が頼らなくて誰が頼るのよ! この馬鹿っ!」
     人に教えるのは楽しい。そして喜んでもらえれば自分も認められた気持ちになる。
     だけど、卑怯な手段で結果だけを得るなんて……。
    「昴琉さんの勝ち方は、本当の勝利ではないのですぅ」
     亜綾は「ね?」と霊犬の烈光さんに同意を得ると、烈光さんも小さく鳴く。
    「勝負事で勝ちたいって気持ちは当然だけど、それよりも昴琉くんもお友達も、始めた時は皆で一緒に勝ちたいって思ったんでしょ? ラフプレーでの勝ちなんて仲間の誰も望んでないじゃない」
     シアンは昴琉の言い分をすっぱりと切る。
    「勝つのは大切よ? だけどそれより大事なのは『誰とどうやって勝つか』。今の昴琉くんの勝ち方は、大事な物が見えないわ」
    「それに、仲間と一緒に試合に勝つなら、まずは君の心がこいつに勝つのが先よ」
     クラレットが指差したのは、昴琉の胸の真ん中。
     心。
    「どうか、闇の心に負けないでくださいぃ」
     亜綾も言葉を重ねる。
     昴琉はわずかに顔を歪ませる。
     それは灼滅者の言葉が響いている証拠。
     だけど、それを振り切ってしまうのは、彼自身がソロモンの悪魔に堕ちている証拠でもあった
     昴琉は口の端をあげて笑う。
    「スポーツマンシップ? 何ソレ。薄ら寒くね? 勝てれば文句ないでしょ? なにダサいこと言ってんの?」
    「にゃ……」
     その言葉に、今まで昴琉に寄り添って灼滅者の言葉を聞いていた猫が少しだけ項垂れた。
     その言葉は、昴琉に自分の存在を真っ向否定されたも同じ意味。
    「にゃぁー……」
     キラキラした目に涙を溜める。
    「大丈夫、君のスポーツマンシップは死んでないよ!」
    「にゃ……っ」
     その言葉にふっと猫が顔を上げる。
     すずめだ。
     その目をしっかり見つめて言葉をつむぐ。
    「まだ――達成感が、仲間と心から喜べる勝利が欲しいって頑張ってる」
     だから猫は今も消えずに、昴琉の隣に寄り添っている。
    「君の気の迷い、私達が確り正すよ。荒治療に見えるかもだけど、私達を信じて?」
     それは昴琉にかけられている言葉かもしれない。けれどその目は真っ直ぐ猫を捕らえて。
    「君の気持ちはちゃんと通じてるよ、猫君」
    「責任感は一人で背負わないで仲間にも分けてあげなさいな、チームなんでしょ? 格好付けは男の子の性かも知れないけど、甘えてくれないのって寂しいのよ?」
     シアンも昴琉の言葉に負けずに言葉を重ねた。
     きっと昴琉はその責任感の強さから闇に押しつぶされてしまったのだ。だけど、自分の良心を猫に変えても頑張っている。
     それに、猫は諦めてはいないから。
     彼の言葉に傷ついて涙を溜めて悲しんでも、彼の傍らから離れようとはしないから。
     雛菊は昴琉をしっかり見つめる。
    「君を助けに来た」
     悪しき心に身を委ねてしまった昴琉を。
     悪しき心に負けず、その身に寄り添い、必死で護ってきた猫を。
    「私達は彼を止めに参りました」
     華乃は猫にそう告げる。
    「だけど貴方だけでも、私達だけでも、彼を本当の意味で助けることは出来ませんわ。全員の力を合わせて、初めて助ける目が見えますの」
    「どうか、力を貸してもらえませんか?」
    「君たちを助けたい、私達に任せてくれないかな」
     凛月も猫に声をかける。
     猫は不安そうに灼滅者たちを見渡す。
    「猫ちゃんも頑張ったわね。だからちょっとあたし達にも手伝わせて、ね?」
     シアンが明るく笑むと、不安に震える猫にレティシアもふっと笑む。
    「案ずるな。……貴様の体、余たちが取り戻してやる」
     告げる先は昴琉。
     その表情は余裕に満ち溢れ。
    「私たちを信じて、託してくれる?」
     クラレットは猫の前にそっと手を差し出すと、猫は目を閉じてその手に自分の頬を摺り寄せた。
     溜まっていた涙が落ちる。
     信頼関係は結ばれた。
    「その小さき身でよく抗ってきた。後は余たちに任せて休んでいるが良い」
     レティシアは王の風格を思わせる笑みで、自分の後ろに回った猫に声をかけた。
    「今までよく頑張ったな。後は任せてくれ」
     猫の頭をもふもふっと撫でた雛菊。
    「必ず彼を元に戻す」
     

    「助ける……? 止める……? 取り戻す……? 元に戻す……? できるモンならやってみろよ!!」
     猫の信用は勝ち得た。けど、昴琉の心は未だ闇の中。
     敵意をむき出して叫びながら、自分の近くに氷点下の領域を作り出して、攻撃手と護り手の体温を急激に奪っていく。
    「にゃ、にゃー!」
     それを見た猫が、ふるふるっと尻尾のリングを光らせると、灼滅者の受けた傷が癒える。
     亜綾は自信の回復を行いながらも、自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させると、烈光さんも傷が一番深い華乃に清らかな視線を向けて傷を回復する。
    「やってやるわよ!」
     自分達を信頼してくれて、回復まで担ってくれた猫のために。
     クラレットが昴琉を指差して繰り出すのは高純度に詠唱圧縮された魔法の矢。矢は真っ直ぐ昴琉を射抜く。
     続くは雛菊。昴琉の死角に飛び込んで絶ち切るのは、バスケット選手の生命線の脚。鮮血が飛び、昴琉の顔が歪む。
    「勝利への気概は買いますが、ルールを逸脱しては試合ではありませんものね」
     華乃は胴に纏わせていた帯を射出して昴琉を貫かんとするが、寸でのところで避けられる。
    「貫け!」
     着地点を計算していたかのように、華乃と同じ攻撃を繰り出す凛月。
     流石に避けきれずに、昴琉の脇腹が裂けてカッターナイフがばらばらと地面に落ちた。
    「にゃ……」
     昴琉が受ける攻撃は、やはり心配なのだろう。猫が小さく鳴く。
    「黙ってみているが良い。王の名のもとに悪いようにはせん」
     安心させるように猫に告げるレティシアは、ヴァンパイアの魔力を宿した霧を展開して攻撃手と護り手の癒えきらない傷を癒すと、ビハインドのレギオンは昴琉に霊撃を飛ばす。
    「私も種目は違うけど、スポーツやるから分かるよ。勝ちたいよね。勝たせたいよね」
     すずめは巨大な腕型の祭壇に緋色のオーラを宿して昴琉を殴りつける。
    「でもそんな事して勝っても君が、チームメイトが望む勝利も、達成感も、喜びも手に入らないよ!」
     それは同じスポーツマンシップを胸に抱くすずめにしかかけられない言葉。
    「……っ」
     言葉が響いたのかキッと前を見据える昴琉。だが、その視界を塞いだのは、シアンが操る鎧の如く味方を守る帯だった。


     足りない部分は補い合いながら、勝利を目指す。
     一人で倒せないのなら、仲間を信じて。
     これはバスケットボールでも、ダークネスとの戦いでも同じ。
     声には出さないが、言葉にはしないが、昴琉の心は揺れている。
     すずめは昴琉の懐に入って、鳩尾に連打を打ち込みながら。
    「ちょっと気持ちが空回っちゃっただけだよね? そこにちょっと付け込まれちゃっただけだよね?大丈夫、私達がまた正面を見て、勝利を目指せる様にしてあげる。だから信じてね、大丈夫」
     攻撃を受けるも、
    「うるさいうるさいうるさいっ!!」
     昴琉は自身の周りに滞空する光輪を無差別に飛ばす。
     その輪は真っ直ぐにシアンを目指すが、
    「余が居る限り、容易に後ろには通さぬわ!!」
     王たる者、仲間に傷は付けさせない。
     レティシアはその光輪を一手に引き受けた。
    「にゃー!」
     すかさず猫が、先ほどと同じように尻尾のリングを光らせてその傷を癒した。
    「さて、……いい加減、その体を持ち主に返してもらおうか!」
     紅蓮のオーラは剣に宿り、昴琉の懐に飛び込んで斬りつける。
    「王の前に……、跪け」
     主に続くレギオンも、霊障波を飛ばして昴琉の体を毒で汚染する。
     その後ろから、バスターライフルで魔法光線を発射するのは亜綾。同時に烈光さんは浄霊眼でレティシアの傷を癒し。
    「真っ向からのぶつかり合いはよいですわね! これを乗り越えるからこそ、勝利と敗北に意味があるのですわ!」
     強気に笑みながらの華乃の超弩級の一撃は、昴琉の体に大きな傷をつける。
     よろけた昴琉の体を横薙ぎの斬撃が襲う。『星椿』に影を宿しての雛菊の攻撃だ。
     軌跡から生まれ出でるのは漆黒蝶の残滓。羽煌めかせながらふんわりと消えていく。
    「危ない武器は叩き落すに限る。ってね」
     上段の構えから凛月は、まっすぐに早く重い斬撃を昴琉に振り下ろすと、続いたのはクラレット。
     『クラレットロッド』に力を宿して叩きつけると、シアンも 『シュウテン蒼星鳥』をぎゅっと構えて、その腹に打撃を打ち込んだ。
    「昴琉くん、ここからが勝負所よ!」
     昴琉と己の闇との戦い。
     昴琉が勝つか、昴琉の闇が勝つか。
     地面に倒れこむ昴琉に、
    「にゃーっ」
     猫は鳴きながら彼の元に駆け寄ると、その体を抱きしめるように労うようにすがった。
     そして、くるっと振り返って一声。
    「にゃー♪」
     灼滅者が聞いた中で一番嬉しそうな声を残して、ふんわりと昴琉の中へと消えていった。


    「あ、あれ……? 俺……」
     起き上がり、自分の周りに数本のカッターナイフが落ちているのを見て、昴琉は自分が仲間に強いようとしていたことを思い出す。
     同時に自分の心に戻ってきたナニカに、昴琉はボロボロのジャージの胸元を掴んで想いを馳せた。
    「見事な意思だった」
     雛菊が指差したのは昴琉の心に戻った、猫。
     猫が消えずに居たら、もふりたかった灼滅者は少しだけ残念そうにして見せたが。
     地面に座り込んでいる昴琉と目線を合わせるように、姿勢に気を使いながらクラレットと亜綾は、武蔵坂学園という組織と、そこに属する灼滅者という存在を昴琉に伝える。
     そして、昴琉にもその力が宿っていることを伝えると。
    「ねぇ昴琉くん、困ってる人、一緒に助けてみない?」
    「ね、一緒に学校行ってまたスポーツしよ? 正々堂々とっ」
     クラレットとすずめの誘いに昴琉は目を丸くしていたが。
    「……俺が持ってる力で誰かの助けになれるんだったら、頑張ってみたいな」
     未だあどけない笑顔をみせる。
    「と、その前に、試合」
     昴琉はそう言うと立ち上がって、汚れたジャージの砂埃を払うと、灼滅者一人ひとりを見渡した。
    「試合、信頼する仲間と正々堂々頑張るから、観戦してくれると嬉しいな」
     からっと笑う昴琉。
     そこには仲間を悪の道に誘う悪魔の姿はなかった。
     正義感が強く面倒見の良い少年は再び取り戻したスポーツマンシップを胸に、バスケットコートに立つのだろう。
     そして今度は自分が、闇を払う存在になるのだろう。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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